「アメリカンドリーム」が「終わった」ことを知らない文科省と研究者

アメリカ理解(20171115) OECDの成人力調査、「英語読みのアメリカ知らず」、『アメリカンドリームの終わり』、「富と権力を集中させる10の原理」

OECDの成人力調査
OECD成人力検査(16~24歳(亡びるとき 12047

知人が主宰するメーリングリスト「EH研究会」を通じて下記のようなメールが先日(といっても、もう半月ほど前になりますが)、私のところに舞い込んで来ました。送付人をみると、愛知教育大学の**教授からでした。

皆様へ
このMLリストを使用することをお許し下さい。愛知教育大学からのお知らせです。「第29回アメリカ教育学会」が下記のように開催されます。ご興味のおありの先生方は奮ってご参加下さいますよう宜しくお願いいたします。
なお、ご質問などは、学会の実行委員長であられ、大学院研究科長の倉本哲男教授(kuramoto@auecc.aichi-edu.ac.jp)にお願いいたします。
日時:
10月28日(土)14:00~16:40(@愛知教育大学・未来館3F)愛教大・県教育委・名古屋市教育委/後援。事前申し込み不要・無料です。
内容:
教師教育の先進国アメリカの動向を3人が発表し(EdDを含む)、それを文科省の教員養成室(大学改組の中枢)が総括をするシンポジウムです。
登壇者:
1)アメリカにおける校長のリーダーシップ論からの示唆:露口健司(愛媛大学)
2)アメリカにおける博士課程(Ed.D.)カリキュラム・指導方法論からの示唆:倉本哲男(愛知教育大学)
3)校長・教育長免許養成政策の新たな展開―日本への示唆:八尾坂修(九州大学名誉教授)
4)学び続ける教員像(総括・コメンテーター):福島哉史(文部科学省・教員養成企画室室長補佐)


 以上の企画内容を見るかぎり、「教師教育の先進国アメリカの動向を3人が発表し、それを文科省の教員養成室が総括をする」とありますから、アメリカの教育は世界の先端を走っていて、愛知教育大も文科省も、そこから大いに学ぶべきだと考えていることが分かります。
 しかし新著『アメリカンドリームの終わり』で「チョムスキーは、「富と権力を集中させる10の原理」をあげ、その「原理2、若者を教化洗脳する」で、自国アメリカの教育を次のように述べているのです。

 最近の公教育は、教育を技術訓練におとしめることに力を注いでいます。こうして、子どもたちの創造性や独立心を奪うわけです。これはたんに生徒・学生だけではなく、教師の創造性や独立心さえも奪います。それが「テストのための教育」です。
 具体的には、ブッシュ大統領の「落ちこぼれゼロ法案」、オバマ大統領の「トップを目指して競争せよ法案」です。わたしの考えでは、これらの政策はすべて教化・洗脳と支配・統制のための手段と見なされるべきでしょう。
 ・・・チャータースクールという最近流行(はや)りの制度も、表向きの看板とは裏腹に、じつは公教育を破壊しようとする全く見え透いた政策であることは、ちょっと調べればすぐわかることです。
 チャータースクールは、国民の税金を民間企業に流し込もうとするひとつの政策であり、それは従来の公立学校制度という体制を土台から破壊するものです。かれらはチャータースクールの利点をさまざまに並べ立てていますが、そのことを証拠立てるものは何ひとつありません。ところが、今やアメリカ全土でチャータースクールが広がっているのです。これは公的教育機関の破壊に他なりません。
(55-56頁)


 チョムスキーは上で「チャータースクール」がアメリカ全土で広がり公教育を破壊していると述べていますが、日本でもさまざまな手段で同じことをしようとする動きが出始めています。
 たとえば、「英語教育を改善するため」と称して大学入試の英語をの民間企業(英検やTOEFLなど)に売り渡そうとする動きが急速に進んでいます。こんなことをすれば学校現場は、ますます受験対策のための予備校・専門学校と化していくことでしょう。
 チョムスキーは上で「テストのための教育」は「たんに生徒・学生だけではなく教師の創造性や独立心さえも奪います」「最近の公教育は、教育を技術訓練におとしめることに力を注いでいます。こうして、子どもたちの創造性や独立心を奪うわけです」と述べていますが、まさに同じことが日本で進行しつつあるわけです。
 ところが冒頭で紹介した愛知教育大学「第29回アメリカ教育学会」は、このようなアメリカの実態を全く知らないのか、「教師教育の先進国アメリカから学ぶ」という触れ込みで、3人のアメリカ研究者が発表しそれを文科省の教員養成室が総括をするシンポジウムを開くというのですから、恐れ入ります。
 私の言う「英語読みのアメリカ知らず」の典型例ではないでしょうか。その証拠に、チョムスキーは前掲書の「原理5、連帯と団結への攻撃」で、アメリカの教育荒廃について次のようにも述べています。

 たとえば、ヨーロッパ、日本、中国に旅行してご覧なさい。そしてアメリカ合州国に戻ってきたとき、わたしたちの目に真っ先に飛び込んでくるのは、この国が崩壊してバラバラになりつつあるということです。
 まるで発展途上国に戻ってきたかのような感じに襲われます。
 道路や橋や港などの社会的基盤は崩壊しています。完全に破産状態です。教育制度も裁断機によって切り刻まれた紙くずのようになっています。何も機能していないのです。これは信じがたいほどの人的資源の無駄遣(むだづか)いです。
 しかし経営者の観点から見れば、このような恐ろしい現実を座視させることは、「財政赤字」を宣伝するという意味で、非常に効果をもっているわけです。それがいまアメリカに起きていることなのです。(139-140頁、下線は寺島)


 私は拙著『英語で大学が亡びるとき』(明石書店2015)第3章第2節「アメリカの大学は留学に値するのか」で、アメリカ教育の荒廃ぶりを詳説しました。このことを誰の目にも端的かつ歴然と示したものが「OECDの成人力調査」でした。

OECD成人力検査(16~65歳)亡びるとき 1046

 ブログの冒頭では、この「16~24歳までの成人力(読解力、数学力)調査」のみを示しましたが、実はOECDの調査は「成人力」なのですから、16~65歳の調査も発表しているのです。これを見ればアメリカ成人の学力荒廃ぶりがいっそう際だって目に映るでしょう。
OECD成人力検査(16~24歳(亡びるとき 12047

 ご覧のとおり、「アメリカの学生の学力は最底辺、日本は最上位」なのです(第2節「アメリカの大学は留学に値するのか」の第1項。上記のグラフは、261頁、254頁にあります)。
 つまり、ノーベル賞受賞者の続出を誇るアメリカですが、「小中高はもちろんのこと大学ですら高校レベルのことしか教えていない」と、世界的に著名な平和学者ガルトゥングが述べているとおりなのです。
 詳しくは『亡びるとき』を読んでいただきたいのですが、ガルトゥングは「見るべきものがあるとすれば大学院博士課程のみ」と述べているのです。
 しかし、その博士課程すら本当に機能しているのはトップエリート校(いわゆるアイビーリーグ)のみで、あとは劣化しつつあるというのが実態です。
 このことも『亡びるとき』第3章第2節第7項「アメリカを蝕む大学ランキング競争―なぜアメリカの大学教育は劣化しつつあるのか」で詳説しました。
 しかも、18~65歳の成人力調査は、日本では高年齢者の方が今の若者よりも学力が高いこと、それが日本をトップの地位に押し上げていることをも示しています。
 そのことの詳しい分析も、第5項「なぜ世界一の学力をもつ教育制度を破壊しなければならないのか」で展開してあります。時間と興味のある方はぜひ参照していただければ幸いです。
 要するに、非常に哀しいことですが、日本の最近50年間は、文科省による「教育改革」という名の、「教育破壊」の歴史だったのです。


<註> ここまで書いてきて、とつぜん思い出したことがあります。それは私がまだ岐阜大学に在職していたころ毎年のようにアメリカから教育視察団が岐阜大学教育学部を訪れていたという事実です。彼らが口をそろえて言うのは、「なぜ日本は、かくも教育レベルが高く、かつ高校中退率も極めて低いのか」という質問でした。これはアメリカの教育がいかに深刻かを示す、もうひとつの事例ではないでしょうか

  
関連記事
スポンサーサイト
検索フォーム
プロフィール

狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

Author:狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

リンク
最新記事
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カテゴリ
月別アーカイブ
最新コメント
RSSリンクの表示
QRコード
QR