戦争が先、口実は後――元ユーゴスラビア大統領ミロシェヴィッチへの無罪判決は何を語っているか(続)

国際教育(2016/08/28)、ノースウッズ作戦、ユーゴスラビアの爆撃・解体、コソボ解放軍(KLA)、イスラム原理主義集団、トルコとブラジルにおけるクーデター

サンパウロ、ブラジル
クーデターで辞職に追い込まれた元大統領の復帰を要求する子ども連れの母親たち

ブラジルのクーデターに抗議 元大統領ルセフ
https://www.rt.com/in-motion/358991-brazil-anti-temer-protest/  元ブラジル大統領ルセフ


 前回のブログでは、NATO軍によるユーゴ爆撃・解体、その歴史的経過、それにかかわってアメリカが裏でどのような役割を果たしたかを充分に紹介できませんでした。
 それが少し心残りだったので、櫻井ジャーナルその他から仕入れた知識を以下に紹介して、今後の国際情勢を読み解くための資料を提供したいと考えました。
 というのは、いまヨーロッパでは中東の戦乱から逃れてくるイスラム教徒をどう受け入れるかで大騒ぎになっているからです。フランスでは肌を露出しない水着を着て海水浴をする女性を遊泳禁止にする自治体まで現れました。
 かつては「肌を露出する絵画」でさえ描くことが困難だったヨーロッパで、今は「肌を露出しない」という理由で、イスラム教の女性が遊泳を禁止されるという漫画のような光景がヨーロッパで展開されつつあるのです。
 しかしイスラム教徒の移民問題はアメリカが主導するNATO軍が、アフガニスタン、イラク、リビア、シリアなどの政権転覆をはかり、それが何十万という死者を出し、何百万もの難民をうみだしたことが、根本原因になっています。
 そのさい常に政権転覆の口実になってきたのが「民衆を独裁者から救う」という人道主義的介入でした。そのような嘘と欺瞞に満ちた口実で中東諸国を廃墟と瓦礫に変え、混乱の局地に陥れたのが、アメリカNATO軍に先導・扇動されたEU諸国でした。
 ですからヨーロッパ諸国がイスラム教徒の移民を望んでいないのであれば、アメリカに荷担して中東の政権転覆工作をやめさえすればよいのです。ところがシリア情勢を見れば分かるように、いまだにドイツ、イギリス、フランスなどのNATO諸国は特殊部隊を派遣して裏でISISを支援する政策をやめようとしていません。
 そして、このような政権転覆工作の先導的モデルとなったのが、前回のブログでも紹介したように、コソボ紛争すなわちアメリカNATO軍によるユーゴスラビアの爆撃と解体でした。ですから、この経過をきちんとおさえておくことは、民衆が政府の嘘を信じるという同じ過ちを繰りかえさないために必要不可欠な作業ではないかと思うのです。
 前置きが長くなりましたが、櫻井ジャーナル(2014.08.30)はコソボ紛争について次のように述べていました。ユーゴスラビアに関する部分を四角い枠で囲んでおきました。



米英は世界を制覇するためにNATOを使っているが、その首脳会議を前に「ロシア軍の侵略」を宣伝
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201408300000/(櫻井ジャーナル2014/08/30)

 ウクライナ制圧はズビグネフ・ブレジンスキーの戦略に基づいているわけだが、現在、その戦略を実現するための暴力装置として機能しているのがNATOだ。そのNATOが9月4日から5日にかけてウェールズで首脳会議を開く。米英としては、ロシアと対決するということでNATOの意思を統一したいだろう。そうした中、「ロシア軍のウクライナ侵攻」なる話が叫ばれ始めた。

ブレジンスキーの戦略はソ連消滅後の1990年代に入ってまとめられ、1997年に『グランド・チェスボード』(日本語版は『ブレジンスキーの世界はこう動く』、後に『地政学で世界を読む』へ改題)というタイトルの本を出している。
 この本(原書)が出版された2年後、NATOはユーゴスラビアに対して全面攻撃を加えた。コソボのアルバニア系住民をユーゴスラビアから分離し、アルバニアと合体させようという西側のプランを実現するためだった。

 この攻撃ではスロボダン・ミロシェヴィッチ大統領の自宅が破壊されただけでなく、中国大使館も爆撃されている。この方法をロシアが採用したなら、ウクライナの東部や南部を分離、キエフを空爆してアメリカ大使館を破壊しても構わないということになる。
 中国大使館を爆撃したのはB2ステルス爆撃機で、目標を設定したのはCIA。ミサイルが3方向から大使館の主要部分に命中していることから、「誤爆」とは考えにくく、計画的な攻撃だった可能性が高い。
 当時、ドイツ外務省はミロシェビッチ政権がアルバニア人を追い出そうとしていると主張、秘密裏に「蹄鉄作戦」を計画しているとしていたが、証拠は示されていない。
 後にドイツ軍のハインツ・ロクアイ准将が語ったところによると、ブルガリアの情報機関が作成した報告を元にでっち上げた計画だったという。ブルガリアの情報機関はセルビアがKLAを撃破しようとしているという話だった。(David N. Gibbs, “First Do No Harm”, Vanderbilt University Press, 2009)
 ユーゴスラビアを攻撃する前、ウィリアム・ウォーカー元エル・サルバドル駐在大使はコソボの警察署で45名が虐殺されたという話を流している。ミロシェビッチ政権の残虐さを印象づけようとしたのだが、これは嘘だった。死者が出たのは警察側と西側を後ろ盾とするKLA(コソボ解放軍、UCKとも表記)との戦闘の結果で、その様子はAPの取材班が撮影していた。

 ユーゴスラビアを「悪魔化」する宣伝は1992年から始まっている。ボスニアで16歳の女性が3名のセルビア兵にレイプされたと報道されたのだ。
 記事を書いたのはニューズデーのロイ・ガットマンだが、本人はボン支局長で、バルカンの状況に詳しいわけではなく、クロアチアの与党、HDZ(クロアチア民主団)の副党首、ヤドランカ・シゲリを情報源にしていた。
 この人物はクロアチアの亡命者が創設したプロパガンダ組織CIC(クロアチア情報センター)のザグレブ事務所の責任者でもあった。
 シゲリは人権問題のヒロインとなり、1996年には人権擁護団体HRWが彼女を主役にしたドキュメント映画を発表。
 他方、レイプ報道で脚光を浴びたガットマンは1993年にセルビア人による残虐行為を報道してピューリッツァー賞を贈られている。ちなみにICRC(赤十字国際委員会)はセルビア人による組織的なレイプが行われた証拠はないとしている。


 その後、アメリカは偽情報を掲げながら他国を侵略していく。
 大きな節目になったのが2001年9月11日のニューヨークの世界貿易センターやワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)への攻撃だった。当時のジョージ・W・ブッシュ政権は即座にアル・カイダの反抗だと断定、オサマ・ビン・ラディンがいたとされるアフガニスタンを相手の交渉姿勢を無視して攻撃した。
 さらに、アル・カイダを弾圧していたイラク(存在しない大量破壊兵器)を先制攻撃、リビア(民主化運動弾圧という嘘)とシリア(民主化運動弾圧という嘘)を破壊するためにアル・カイダを使っている。そして、ウクライナはネオ・ナチを使ってクーデターを実行、東部や南部で民族浄化中だ。(以下、略)


 上記の櫻井ジャーナルの記事で二つのことに注目してほしいと思います。ひとつは何の関係もないはずの中国大使館を爆撃していることです。もう一つは、ユーゴスラビアを解体・再編するという計画がすでに1992年から始まっていることです。
 私の下記ブログで紹介したのは、アメリカがキューバのカストロ政権を転覆させるために立てた計画「ノースウッズ作戦」で「民間機の撃墜」「米国を目指す亡命キューバ人を乗せた船の沈没」など、民間人も平気で殺す作戦がたてられていた、ということでした。
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-268.html
 ですから、アメリカNOTO軍が中国大使館を爆撃しても何の痛みも感じていないだろうと想像されます。アメリカにとって最大の仮想敵国は中国とロシアなのですから、このさい思い切りたたいておきたかったのでしょう。
 民間人の殺傷については、前回のブログで紹介したピルジャー記者の報告では次のような記述もありました。

 アメリカが自慢する「正確に誘導された」ミサイルは、ほんの幾つかを除けば、あとはすべて兵士や軍事施設ではなく市民や民間施設が、その攻撃対象になっていた。その中にはセルビアの首都ベルグラードにあるラジオ・テレビ放送局の新しいスタジオ群まで含まれていた。16人が殺され、その中にはカメラマン、プロデューサー、メーキャップ・アーチストなども含まれていた。イギリスのブレア首相は、その施設をセルビアの「司令部」だからと言って、死者を冒涜した。
https://www.rt.com/op-edge/356846-provoking-nuclear-war-media/


 アメリカのブッシュ大統領と一緒になって大嘘をつきながらイラクに侵略し、大量の死者を出し膨大な数の難民を生み出しても全く平気なブレア首相のことですから、ユーゴスラビア連邦共和国のひとつを構成していたセルビア共和国や国民など、眼中になかったのかも知れません。
 アメリカNATO軍による「人道的介入」と言っても、その「人道」のなかみは、この程度のものだったことを、私たちは肝に銘じておかねばならないでしょう。

 櫻井ジャーナルの上の記述で、もうひとつ注目していただきたかったのは、「ユーゴスラビアを解体・再編するという計画がすでに1992年から始まっていた」という事実です。それを櫻井ジャーナルは次のように書いていました。

ユーゴスラビアを「悪魔化」する宣伝は1992年から始まっている。ボスニアで16歳の女性が3名のセルビア兵にレイプされたと報道されたのだ。記事を書いたのはニューズデーのロイ・ガットマンだが(中略)クロアチアの与党、HDZ(クロアチア民主団)の副党首、ヤドランカ・シゲリを情報源にしていた。この人物はクロアチアの亡命者が創設したプロパガンダ組織CIC(クロアチア情報センター)のザグレブ事務所の責任者でもあった。ちなみにICRC(赤十字国際委員会)はセルビア人による組織的なレイプが行われた証拠はないとしている。


 つまりユーゴ連邦共和国のひとつボスニアで、セルビア人による組織的なレイプが行われた証拠はなかったにもかかわらず、もうひとつの共和国クロアチアのプロパガンダ組織の責任者でもあったシゲリ女史が嘘をばらまいたのでした。
 アメリカはバルカン半島に「新自由主義体制」をつくりあげるため、以前からユーゴスラビアの解体を望んでいました。あとは、どんな口実をつくりあげるかだけだったのです。1992年のレイプ報道は、その序の口に過ぎませんでした。
 本格的な爆撃は、イスラム原理主義集団=コソボ解放軍(KLA)なるものをつくりあげる時間が必要でしたから、「アルバニア人の虐殺」を口実にした1999年の爆撃まで待たなければならなかったのです。
 これは、2001年の「911事件」のあと、ブッシュ大統領はすぐにでもイラクを攻撃したかったのですが口実が見つからず、結局2003年まで待たざるを得なかったのに似ています。それでも最初の口実「サダム・フセインはビン・ラディンとつながっている」という嘘がすぐにバレてしまったので、次の口実「サダム・フセインは大量破壊兵器をもっている」という口実をつくりあげました。
 しかし、この嘘もバレてしまったので、最後は「フセイン大統領は独裁者だから、政権を転覆させてイラク民衆に民主主義をプレゼントする」というのが、最後の口実になりました。その結果は、どうだったのでしょうか。今やイラクどころか中東全体が内乱状態になり、死者と難民はうなぎ登りです(それが、いま欧州では「イスラム女性の水着を認めるかどうか」という喜劇につながっていることは冒頭で述べたとおりです)。
 つまり最初に「イラク政権の転覆」という目標があり、あとは「いかにそれを正当化するか」という口実探しが残っているだけなのです。言い換えれば民衆が信じ込みやすい「偽旗作戦」をいかにつくりあげることができるかに全力が注がれています。ユーゴスラビアの爆撃は、この偽旗作戦がまんまと成功した典型例でした。だからこそアメリカは、ピルジャー記者が言うように、これをモデルにして、次々と新たな侵略戦争に乗りだしていったのでした。

 しかし、いま極めて興味ある現象が生まれています。というのは2001年の「911事件」が「内部工作」だった可能性をヨーロッパの科学者が、このたび初めて論文にしているからです。
「形勢は変わりつつある: 公式説明こそ、今や陰謀論」
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2016/09/post-8d57.html
 また、この事件にサウジアラビアも関わっていたことや、ヒラリー女史が「クリントン財団」を受け皿として巨額の選挙資金をサウジアラビアから得ていることも、ウィキリークスで暴露されているからです。
 もうひとつ興味深いことは、アメリカの傀儡国家としてシリア転覆工作に荷担してきたトルコが、7月15日のクーデター未遂事件をきっかけとして、「これはアメリカが仕組んだものだ」として、オバマ政権がおこなってきた政権転覆工作のやりくちを暴露し始めたからです。
「グラハム・E・フラーよ、7月15日の晩、あなたはどこにいた?」
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2016/09/e715-5af2.html
 ブラジルでも、「清廉潔白な現職大統領が、汚職まみれの副大統領や議員によって辞職に追い込まれる」、という前代未聞のクーデターが起き、ブラジル全土が混乱状態ですが、これもアメリカが裏で仕組んだ工作だったことは、暗黙の了解事項でしたが、アメリカの操り人形だと思われていたトルコのエルドアン大統領が、「アメリカによるクーデター」を大声で叫び始めたのですから、実に興味ある展開と言うべきでしょう。

 それはともかく、アメリカは戦争を起こすためには手段を選びません。ですから中国との戦争についても、「どのような口実を用意するか」「どのような偽旗事件を捏造するか」を、私たちは注意深く見守らねばならないでしょう。それが「元ユーゴスラビア大統領ミロシェヴィッチへの無罪判決」から私たちが学ばなければならないことだと思うのです。


<註> トルコのーデター未遂事件は、エルドアン大統領がアメリカの言いつけもあってロシアの戦闘機を撃墜したりしながら、イスラム原理主義集団ISISを裏で支援してきたのですが、それが行き詰まってきてロシアに急接近し始めたことが背景になっていると言われています。いま安倍政権も、アメリカの言いつけにしたがって中国との戦争準備にいそしむ一方で、最近はロシアにも急接近し始めています。トルコの例を見ると、安倍首相もエルドアン大統領と同じ軌跡をたどらないとは、誰も保証できないでしょう。


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Author:狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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