偽旗報道(Fake News)を考える、その3――ドナルド・トランプの宣戦布告

アメリカ理解(2017/02/04)、裏国家DeepState、カラー革命ColorRevolution、 軍産複合体 Military-Industry Complex、 軍事安保複合体 Military-Security Complex、投機家・億万長者ジョージ・ソロス George Soros

PCR(ポール・クレイグ・ロバーツ)氏、     スメドレー・バトラー将軍
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 いまアメリカでは、トランプ新政権が誕生した後も、反トランプの嵐が吹き荒れています。大手メディアも、その論調を見るかぎり、これを応援しています。しかし、これは実に奇妙な現象です。
 というのは、ヒラリー女史とトランプ氏が、大統領選の公開討論会で、司会者から「選挙の結果が出たら、それを受け入れるか」と尋ねられて、ヒラリー女史は即座に「受け入れる。しかしトランプ氏は受け入れないだろう。トランプ支持者も受け入れを拒否して街頭にくりだすだろう」と答えていたからです。
 これに反して、トランプ氏は「結果次第だ。選挙に不正がなかったことが分かれば受け入れる」と答えていました。
 ところが選挙でトランプ勝利が分かったとたん、街頭に繰り出したのはヒラリー陣営の側でした。選挙でトランプ側に何か不正行為があったことが明らかになったのであれば、このような抗議行動が起きても不思議はないのですが、そのような不正行為はなかったにもかかわらず、「結果は受け入れる」としていたヒラリー陣営が抗議行動を始めたのですから、まったく理解に苦しみます。
 選挙で負けたら次の選挙で取り返す、それが民主主義の原則のはずです。にもかかわらず、敗北が分かったとたん、民主主義を標榜していたはずのクリントン陣営が、「あれはロシアによる選挙干渉の結果であり、トランプを正当な大統領として認められない」と言い出したのですから、これでは「いったい何のための選挙だったのか」「トランプに投票した有権者の意思を何だと考えているのか」と憤るひとが出てきても不思議はありません。

 実は、トランプ氏が就任式を迎える以前から、反トランプのデモや集会が開かれていました。民主党の黒人下院議員ジョン・ルイスも、ロシアがサイバー攻撃で大統領選に干渉したとして「トランプ氏を正当な大統領とみなさない」と発言し、20日の就任式欠席を表明していました。
 ジョン・ルイスは、キング牧師が1960年8月28日に首都ワシントンDCで黒人の公民権を要求して世界的に有名になった演説「I Have A Dream」をしたとき、彼もSNICC(学生非暴力調整委員会)の指導者として演説をし、一躍その名を全米に知らしめることになりました。
 その演説は拙訳『肉声でつづる民衆のアメリカ史』(下巻107-111頁、明石書店)に載せてありますが、そこで得た名声を土台にして、今は民主党下院議員という地位についています。)
 しかし、その彼でさえ、民主党の予備選挙では、金融街によるアメリカ支配を攻撃していたサンダース氏ではなく、金融街から支援され、あくまでシリアの政権転覆を主張しロシアとの戦いも辞さない好戦的なヒラリー女史を支持していたのですから、ロシアとの融和を主張するトランプ氏に異を唱えるのも、当然かも知れません。
 それにしても、ジョン・ルイスが下院議員になっても、バラク・オバマが初の黒人大統領になっても、初の黒人司法長官エリック・ホルダー(後任は初の黒人女性司法長官ロレッタ・リンチ)が誕生しても、アメリカ黒人の生活は良くなるどころか失業者は相変わらず多く、警察による黒人射殺事件が相継ぎ、刑務所の人口比率は圧倒的に黒人が多い現実は、何一つ変わりませんでした。
 つまり、黒人の富裕層や知識層は今や特権階級の一員となり、自らの利益を保持することにしか目を向けなくなってきているということです。アメリカの社会は、すでに人種闘争の時代ではなく、階級闘争の時代に入ったと言うべきでしょう。その象徴的事件が、司法長官を辞めたホルダー氏が金融街に戻った人事でした。これほど見事な「回転ドア」人事はないでしょう。
* 元司法長官エリック・ホルダー、ウォール街と政界との「回転ドア」人事
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-223.html
 私は上記のブログ(2015/07/09、アメリカ理解)で次のように書きました。

 共同通信(7月6日)によれば、このたび司法長官を辞任したエリック・ホルダー氏は、司法省長官となる前の8年間に勤務していた法律事務所(コビントン&バーリングCovington & Burling)に復帰します。
 コビントン法律事務所の顧客リストには、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ、シティグループなど、金融危機における役割に対しホルダーが司法長官として訴追を怠った大手銀行の多くが含まれています。
 つまり、あれだけ世界を大混乱におとしれた金融危機の張本人は、誰一人として牢屋に入っていません。それどころか政府から手厚い資金援助を受け、経営者は倒産どころか巨額のボーナスを手にしています。
 いま世界中の話題になっているギリシャの金融危機も、もとをただせばアメリカの巨大金融会社ゴールドマンサックスが当時のギリシャ政府に不正な会計帳簿のしかたを伝授してギリシャ国債を食いものにしたことに端を発しています。ギリシャ国民は、そのつけをいま払わされているわけです。
 ちなみに、コビントン法律事務所に勤務中のホルダーの顧客は、超富裕層への脱税指南で有名になったスイスの巨大銀行UBS、バナナなどの果物産業で有名なチキータ(元のユナイテッド・フルーツ)を含んでいます。このチキータはCIAと手を組んで中米のクーデターを画策したことでも有名です。


 だからこそ、私が前回のブログで紹介した元政府高官PCR(ポール・グレイグ・ロバーツ)は、氏のブログ「トランプの宣戦布告」(2017/01/20)で次のように書いたのでしょう。

 トランプは、就任演説で、全てのアメリカ人、すなわち黒人、黄色人種、白人のために戦うことを明らかにしたのだ。    
 疑うべくもなく、彼の「Inclusiveness国民の一体化」という宣言は、左翼の憎悪者によって無視されるだろう。彼ら左翼はトランプを人種差別主義者と呼び続けている。時給50ドルで雇われて抗議行動に参加している連中も、まったく同じことを叫びつづけている。私がこれを書いている間にも。
 実際、例えば黒人指導者たちは「黒人=被害者」という役割を演じることに慣れきっているのだ。彼らがそこから脱出することは困難だろう。一体どうやってそういう人々をまとめればいいのだろうか。彼らは、白人は人種差別主義者であり、自分たちは人種差別主義者の犠牲者だと、生まれてからずっと教え込まれてきたのだから。
 それは実現可能だろうか? いま私はPress TVという番組に短時間、出演してきたばかりだ。私たちは、トランプ就任演説を論評することになっていた。もう一人の論評者はワシントンD.C.在住の黒人だった。「国民の共生・一体化」を呼びかけるトランプの演説は、彼に全く感銘を与えていなかった。そして番組の司会者も、金で雇われた抗議行動の参加者をテレビに映すことに興味があっただけだった。アメリカの評判を傷つけるひとつの方法として。
 少なからぬ人間が、「犠牲者=黒人」の代表して話すことに経済的利益をもっている。だから「トランプの『国民の共生・一体化』は、雇用も福祉も奪う」と演説するのだ。
*Trump’s Declaration of War
Paul Craig Roberts,、January 20, 2017
http://www.paulcraigroberts.org/2017/01/20/


 私がPCRのこの文言を読んですぐ思い浮かべたのは、日本における部落解放運動のありかたでした。部落解放同盟が「被差別部落」を売り物にして補助金などの不正受給をしているという事実です。ウィキペディアでは「部落解放同盟」という項目で次のように書かれています。

部落解放同盟は、同和行政執行に関わる不法行為に明らかになった事例だけでも多数関与している。補助金の不正受給などの犯罪行為を行っているとの指摘があったが、2006年あたりから一気にその実態が暴かれるようになっている。同和立法の期限が切れた後、以前より指摘されていた関係者の不祥事が相次いで発覚(たとえば2006年には奈良市役所および京都市役所での不祥事が発覚している)。


 部落解放同盟といえば、被差別部落を中心として、あらゆる差別の撤廃を目指して活動している団体だったはずなのに、非常に残念な事態です。黒人社会の腐敗・階級分裂と似ているのではないかと思ったゆえんです。

 上記で引用したPCRの文言に「彼ら左翼はトランプを人種差別主義者と呼び続けている。時給50ドルで雇われて抗議行動に参加している連中も、まったく同じことを叫びつづけている。私がこれを書いている間にも」というくだりがあります。これについても少し解説しないと、PCRの意図していることが正しく伝わらないのではないかと思われました。
 アメリカでも日本でも、一般的には、「アメリカ民主党=左翼またはリベラル=進歩派、共和党=右翼または金融街=保守派」という図式ができあがっているように思います。しかし、ヒラリー女史やオバマ大統領は民主党でありながら、財界・金融界が裏で押しているTPPの強力な推進者でした。
 それに異を唱えたのが民主党から出馬したサンダースでした。サンダースはTPP=グローバル化を激しく非難し、それが民主党の若者や勤労者の共感を呼び、一時は予備選でのヒラリー勝利も危ぶまれるほどでした。ヒラリーが勝利できたのは大手メディアが偽旗報道(Fake News)を流しながら彼女を支え続けてきたからです。
 それに反してトランプは初めから、雇用を奪い貧富の格差を拡大するTPPに、強い反対を叫んでいましたから、民主党=進歩派、共和党=保守派という図式が、ここで既に崩れてしまっています。
 実は、雇用を奪い貧富の格差を拡大してきたのは、TPPではなく、NAFTA(北米自由貿易協定)でした。このNAFTAを批准・署名したがビル・クリントン大統領だったのですが、その結果、大企業が安い労働力を求めて次々と国外に出て行きました。それにさらなる毒を盛ろうとするのがTPPでした。
 このようにアメリカ国内の空洞化をくい止めるためにはNAFTA、その拡大版であるTPP(環太平洋経済連携協定)を取りやめ、同時に外国の政権転覆に狂奔してきた外交政策もやめると主張してきたのがトランプ氏でした。国外で無駄なお金を使うのではなく、荒廃しつつある国内の立て直しに精力と金力を使うべきだとするのが、トランプ氏の基本的主張でした。
 この「アメリカ第一」という主張が、黒人どころか白人すら貧困層に転落しつつある多くの中間層の心をとらえたからこそ、トランプ氏の逆転的大勝利があったというべきでしょう。
 (ニューヨークタイムズは投票日直前に、ヒラリーの勝率は98%と報じていました。これこそ、まさに偽旗報道Fake Newsというべきであり、トランプに投票しようとしている有権者をあきらめさせるための、最悪の世論操作と言うべきでしょう。私が過去のブログでも書いたように、トランプが勝利する確率も充分にあったのですから。)
*ヒラリー・クリントンとは誰か(上) ―アメリカ大統領選挙を目前にして (11/06)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-275.html
*ヒラリー・クリントンとは誰か(下) ―アメリカ大統領選挙を目前にして (11/07)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-276.html

 それはともかく、国外における無駄な戦費を減らすためには、中東の破壊と殺戮を広げ難民の激増を招いているイスラム過激派ISISを一刻も早く一掃しなければならないし、ロシアとの協力なしにはISIS一掃は困難と主張してきたトランプ氏でしたが、皮肉にも、このような進歩的政策に異を唱えたのが、ヒラリー女史であり、いわゆる「左翼・文化人」と言われる人たちでした。
 そして今、このような「左翼・文化人」が、「トランプは我々の大統領ではない」と演説する集会やデモに参加し、そこには驚いたことに、映画監督のマイケル・ムーアやマドンナといった有名歌手までいました。彼女は、女性の権利を訴える「ウイメンズ・マーチ」の集会で「そう、私は怒っている。ホワイトハウスを吹き飛ばしたいって、心の底から思ってる」とまで言っていました。
 過激派のテロが世界中で荒れ狂っているとき、たとえ冗談にしろ、テロを助長しかねない発言は、大きな問題を含んでいると言うべきでしょう。ところがCNNは、ホワイトハウスを吹き飛ばすどころか、トランプ暗殺をほのめかすシナリオすら、作成・放映したのです。「Sputnik日本」(2017/10/20)によれば、そのシナリオは次のようなものでした。

CNN、「トランプ氏が就任式で殺害されたら後釜は誰?」のシナリオを放映
https://jp.sputniknews.com/us/201701203258126/
 ジャーナリストのブライアン・トッド氏が検討したシナリオでは、暗殺される対象は新大統領だけではない。副大統領も議会のトップも皆殺される。
CNNの指摘では大統領も副大統領も職務執行不可能状態に陥るか、または死亡した場合、大統領を代行するのはまず米議会下院議長で、それが不可能な場合の代行ナンバー2は、上院議長。トッド氏の説明ではその次の代行ナンバー3は、閣僚でその筆頭は米国務長官だという。
CNNはトランプ氏が2017年1月20日の大統領就任式で不慮の死を遂げた場合のシナリオも別途検討した。
 現段階ではレックス・ティラーソン氏は、まだ米国務長官候補として承認を受けていない。他方、トランプ氏が大統領に就任しようとする瞬間、退任一歩手前のケリー長官の方はすでに全権を返すことになる。
 このため、1月20日正午の時点で国務長官臨時代行はオバマ・チームの一員の国務次官政治問題担当のトム・シャノン氏ということになる。
https://youtu.be/qxIG4dduqy0【CNN動画3分半】


 要するに、これは「こうすれば民主党に政権がもどってくる」というシナリオなのです。トランプ嫌いの狂信者が大統領の就任式に現れ、雛壇に並んでいる閣僚を軒並みに大量殺戮した場合、大統領代行ナンバー3は、米国務長官となり、国務長官が空席の場合、そのポストは、オバマ・チームの一員で国務次官政治問題担当のトム・シャノン氏になるというわけです。
 大手メディアがトランプ氏に対するあくどい人格攻撃を繰り広げているわけですから、このような世論の流れで、いつ誰がトランプ氏やその閣僚を銃による乱射で殺戮するか分かりません。事実、アメリカ全土で銃の乱射事件が絶えないのですから、その可能性は充分にあると言うべきでしょう。
 スナイパーを雇えば、トランプ氏だけを殺すというシナリオもあります。そうすれば、必ずしもトランプ氏の政策に全面的な賛同を寄せているわけはない副大統領に、次のポストがまわってきます。これはCIAやウォール街にとっては悪くないシナリオです。
 CNNは、他の大手メディアと同じく「トランプは、プーチン大統領の傀儡」という攻撃を続けてきたのですが、このようなテロ幇助罪にあたるような番組もつくっているのです。記者会見の席上でトランプ氏から「You are Fake News」と言われても、仕方がないレベルの報道機関ではないでしょうか。

 話がかなり横にそれてきたので元に戻します。先に紹介したブログで、PCR(ポール・グレイグ・ロバーツ)は次のように書いていました。

「左翼はトランプを人種差別主義者と呼び続けている。時給50ドルで雇われて抗議行動に参加している連中も、まったく同じことを叫びつづけている」「そして番組の司会者も、金で雇われた抗議行動の参加者をテレビに映すことに興味があっただけだった」


 上記では「金で雇われた抗議運動参加者」という言葉が出てきています。これはどういうことでしょうか。そう思って調べていたら「Sputnik日本」(2017/01/18)に次のような記事が出ていたのです。

NOトランプ! 抗議の参加手当て額をマスコミがすっぱ抜き
https://jp.sputniknews.com/us/201701183249603/
トランプ次期米大統領に反対する抗議行動への参加者には毎月2500ドル(およそ28万4千円)の手当てが支給されている。
 ワシントン・タイムズ紙がこの情報をすっぱ抜いた。
トランプ氏に反対する抗議キャンペーン「抗議要求(Demand Protest)」は参加者に対して月額2500ドルを提供。
 このほかイベントに参加する度に時給50ドルが追加支給される。こうした支給を受けるには年間最低でも6回は抗議行動に足を運ばねばならない。
トランプ氏の大統領就任式は1月20日、ワシントンで行なわれる


 では誰がこのようなお金を出しているのでしょうか。そこで疑われているのが、億万長者ジョージ・ソロスです。というのは、旧東欧では「カラー革命」と呼ばれるクーデターが頻発し、その背後にジョージ・ソロスの「ソロス基金」「オープン・ソサエティ基金」が動いてきたことは今では周知の事実だからです。
 櫻井ジャーナル(2017/01/18)は、このジョージ・ソロスとカラー革命について、次のように述べています。

 政治闘争がアメリカ支配層の内部で続き、ワシントンでドナルド・トランプの大統領就任を阻止するための「マイダン」、つまりウクライナで実行されたようなクーデターがあるかもしれないとウラジミル・プーチン露大統領は語ったという。
 2013年11月、ウクライナではオレグ・ツァロフ議員が議会で同国を内戦状態にするプロジェクトについて演説している。プロジェクトの中心はジェオフリー・パイアット米大使で、計画は11月14日と15日に話し合われ、NGOがその手先として動くことになっていたという。
 ソーシャル・ネットワーキングを使って世論を誘導し、組織的な政権打倒運動を展開しようと目論んでいると同議員は主張していた。ツァロフ議員が議会で演説した翌日にユーロマイダン(ユーロ広場、元の独立広場)で抗議活動は始まる。
 (中略)ネオ・ナチが暴力をエスカレートする中、EUとビクトル・ヤヌコビッチ大統領は話し合いでの解決を模索、2016年2月21日に平和協定の調印にこぎ着けたが、ネオ・ナチを主力とする勢力は2月22日に大統領の排除に成功する。
 ヤヌコビッチ大統領が[警察や軍隊を使って]最後まで戦わなかったことを非難する人もいるが、アメリカ側はイラクのサダム・フセイン、あるいはリビアのムアンマル・アル・カダフィと同じような目に遭わせるつもりだったのではないかと推測する人もいる。ともかく、そうした展開にはならなかった [ヤヌコビッチはロシアに亡命し、だから殺されなかった]。
 西側支配層の手でヤヌコビッチが大統領の座から引きずり下ろされたのは、これで2度目である。最初は2004年から05年にかけての「オレンジ革命」だ。その前年、2003年にはジョージア(グルジア)で同じような政権転覆プロジェクトが実行され、「バラ革命」と呼ばれている。
 こうしたプロジェクトは「カラー革命」と呼ばれ、その背後では投機家のジョージ・ソロスが蠢いていた。そのソロスが推していた大統領候補がヒラリー・クリントン。国防長官時代にヒラリーがソロスの指示で動いていたことは本ブログでも紹介した。そして、新たなカラー革命がアメリカで仕掛けられている。「パープル革命」だ。
 昨年11月、大統領選挙でトランプの勝利が決まった直後、民主党の候補者だったヒラリー・クリントンは夫のビルと紫をあしらった衣装で集会に登場、民主党の青と共和党の赤を混ぜた色だと説明した。ソロスが目論む「パープル革命」を宣伝することが目的だったのだろう。


 このカラー革命については、かつてNHKが「BSドキュメンタリー」という番組で紹介していたので知ってはいたのですが、その当時は「東欧でも民衆運動が発展しているのか」と単に驚きの目で見ていたのですが、今にして思えば、この裏で資金を出し扇動していたのはソロスだったのです。私はなんという無知だったのでしょう。
<註> このカラー革命についてはカナダのオタワ大学教授ミシェル・チョスドフスキーも、Global Researchというサイトで「ドナルド・トランプにたいする『カラー革命』」という長大な論文を掲載しているのを発見しました。時間と余裕のある方はぜひ読んでみてください。
*“Color Revolution” against Donald Trump
http://www.globalresearch.ca/color-revolution-against-donald-trump/5569300
By Prof Michel Chossudovsky、Global Research, January 18, 2017

 しかし旧東欧でカラー革命が成功したことは、共産圏=自由のない社会というイメージがありますから納得できるのですが、自由と民主主義を標榜するアメリカでカラー革命を画策しなければならない事態になっているということは、それほどアメリカの支配層・特権階級が追い詰められている証拠ではないでしょうか。
 その証拠に、民主党ではサンダースが財界・金融界を激しく攻撃し、予備選でヒラリー女史を追い落としかねない勢いでしたし、共和党では同じく全くの泡沫候補だと思われていたトランプ氏が、大手メディアの集団砲撃をものともせず、ついに予備選を勝ち抜いてしまったからです。
 しかもトランプ氏は、国内政策では「TPPやNAFTAを取りやめる」「基盤整備に力を入れ、疲弊しつつある国民に仕事と活力を取り戻す」と述べ、国外政策では「これまでのような海外における政権転覆活動をやめる」「NATOは冷戦の産物で時代遅れ」「ロシアと協力してイスラム原理主義勢力ISISを一掃する」といった政策を次々と打ち出したのです。
 社会主義者を自称するサンダース氏でさえ、このような大胆な政策的提起をおこないませんでした。彼は国際政策では金融街を攻撃しTPP反対を訴えましたが、NAFTAを廃止し、国外に移転している企業を国内に取り戻すといった大胆な主張をしていませんでした。まして「NATOは冷戦の産物で時代遅れ」「ロシアと協力してイスラム原理主義勢力を一掃する」というようなことは一言も言いませんでした。
 サンダース氏が国外政策で言ったのは、「シリアのアサド大統領を放逐するのはISISを放逐してからだ」ということだけでした。つまり、サンダース氏は「アメリカが海外でこれまでやってきたようなクーデター=政権転覆活動をやめる」とは言わずに、「アサド追放」と「ISIS一掃」の順序を問題にしただけでした。戦争をすることによって潤ってきたアメリカの経済界・金融街にとってはたいして大きな脅威にはならなかったでしょう。
 また、だからこそサンダース氏は途中で選挙戦を放棄し、「ヒラリー女史こそ民主党で最良の候補者だ」と支援演説をすることができたのでしょう。しかし、これはそれまでサンダース氏を支持し精力的に運動を展開してきた若者や勤労者を大きく失望させ、その支持票の少なからぬ部分はトランプ氏に流れることになりました。
 このことを考えると、トランプ氏が言ってきたことは、共和党の支配層・特権階級にとっても我慢ならない点が極めて多く、どうすれば、彼の政策を押しとどめることができるかということになります。とりわけトランプ氏が主張してきた「ロシアとの融和」という政策は、アメリカの真の支配者である軍事/安保複合体にとっては、絶対に許せないことでした。
 これについては、プリンストン大学名誉教授のステファン・コーエン氏は、すでに2016年11月の時点で、「アメリカの特権階級はトランプ氏がロシアとの融和に動き出すことを絶対に許さないだろう」と、RTのSophieCo というインタビュー番組で述べていましたが、今まさに事態はそのように動いているのです。
*If Trump moves to heal ties with Russia, establishment will oppose him fiercely
https://www.rt.com/shows/sophieco/366442-trump-promises-foreign-policy/
Stephen Cohen、RT, SophieCo, 11 Nov 2016
 そこで登場するのがジョージ・ソロスの「カラー革命」や「裏国家Deep State」ということになります。この間の事情をPCR氏は先に紹介したブログ「トランプの宣戦布告」の冒頭を次のように始めています。

 トランプ大統領の短い就任演説はアメリカの支配者層全体に対する宣戦布告だった。支配者層の全員に宣戦布告したのだ。
 トランプは呵責ないまでに明確にした。アメリカ人の敵がまさにここ国内にいることを。すなわちグローバル主義者、新自由主義経済学者、ネオコン(新保守主義者)や他の単独行動主義者だ。彼らはアメリカを世界に押しつけ、果てしのない金のかかる戦争に我々を引き込むことに慣れきっていている。
 さらなる国内の敵は次のような政治家たちだ。アメリカ国民よりはむしろ既存支配層に仕える政治家だ。実際、彼らは私的な既得権益の全体集団に仕える政治家だ。彼らはアメリカという車を乗りつぶすまで走らせ、その過程で金を儲けてきた。
 真実を語ることが許されるなら、トランプ大統領は宣戦を布告したのだ。彼自身にとって、はるかに危険な宣戦布告を。それはロシアや中国に対して宣戦を布告するよりも、はるかに危険な宣戦布告だ。


 では、この就任演説は、なぜロシアや中国に対して宣戦を布告するよりも、はるかに危険な宣戦布告だったのでしょうか。それをPCR氏は、ブログを次のように締めくくることによって明確にしています。

 トランプが自らを暗殺の標的にしたのは確実だ。CIAは諦めることはないし、立ち去ることもないだろう。
 なぜ70歳にもなるひとりの人物が、「アメリカの偉大な復活」に挑戦するのだろうか。そんなことをせずに、残る人生をたっぷり楽しんで全うすることができるのに。にもかかわらず、トランプはそれを宣言したのだ。
 だから理由が何であれ、我々はこれを有り難く思うべきなのだ、そしてもし彼が本気なら、我々は彼を支持すべきなのだ。
 もし彼が暗殺されたなら、我々は武器を取って、CIA本部があるラングレーを丸焼けにし、彼ら全員を殺害する必要がある。もし彼が成功するなら、彼は「Tramp The Great!」という称号に値する。
 CIAの攻撃対象リストに上がっているロシア、中国、イラン、ベネズエラ、エクアドル、ボリビアや他のあらゆる国々は、理解すべきだ。トランプが大統領になっても、十分な保護にならないことを。
 CIAは世界的組織だ。CIAの儲かる事業がアメリカ国家予算から自立できる収入をもたらしている。この組織は大統領からあるいはCIA長官自身からさえ独立して作戦を遂行することが可能だ。CIAは約70年かけて自らを強固してきた。CIAは立ち去ってはいないのだ。


 私たちは、就任演説が終わって仕事始めの日にトランプ氏が真っ先に訪れたのがCIA本部だったことを思い出す必要があります。CIAを敵に回したケネディ大統領がたどった道を、彼も選びたくなかったからでしょう。
 いまトランプ氏は、アメリカ国内を二分する「第二の南北戦争」を戦いつつあるように私には見えます。だとすればリンカーンがたどった運命を彼も選びたくなかったのかもしれません。
 南北戦争は、後の歴史家が解明しているように、奴隷解放の戦いではありませんでした。北部の工業資本家と南部の産業資本家との戦いでした。「奴隷解放宣言」は北部の戦いを有利にするための戦略に過ぎませんでした。にもかかわらずリンカーンは暗殺されました。
 金融街を取り締まろうとしたFDR(ルーズベルト大統領)も暗殺の対象になったりクーデターの対象になりました。そして最後は大統領執務室で[不思議な]急死を遂げました。だとすればトランプ氏も、社会主義革命をめざしていなくても、暗殺されたりクーデターを仕組まれたりする可能性があります。
 しかし、現在のトランプ氏が取りつつある政策を見ていると、暗殺はかなり遠のいたようにも見えます。というのは、次のRTに載った論文にあるとおり、トランプ氏は「裏国家DeepState」「国家の中の国家」からの圧力や脅迫に屈して(そしておまけに「リベラル左翼」からも攻撃を受けて)、就任演説で宣言したことから大きく後退し始めているからです。
*'Deep State' wins… Trump is being tamed to toe the line
「『裏国家』は勝利した―トランプは飼育され家畜化されつつある」
https://www.rt.com/op-edge/373493-trump-deep-state-russia-tillerson/
Finian Cunningham、12 Jan, 2017
 このような撤退は、トランプ氏を死から救うことになっても地球を死から救うことにつながりません。というのは、オバマ氏が大統領職を辞する直前までNATO軍をロシア国境に増強し、今はロシアと一触即発の状況になっているからです。他方でオバマ氏は中国との緊張も高めつつ、ホワイトハウスを去りました。こうしてトランプ大統領はオバマ氏の悪しき遺産を背負い込んでの船出となったわけです。
 トランプ氏がCIAや軍部/安保複合体というDeepState「裏国家」の指示どおり動けば確かに暗殺やクーデターから逃れることはできます。しかしロシアや中国との戦争は確実に核戦争になり第3次世界大戦につながります。これは地球の死を意味しますし、その戦争で真っ先にアメリカ軍の先兵(Canon Fodder砲弾の餌食)として使われるのは自衛隊であり、真っ先に破壊されるのは日本という国土でしょう。

<註1> 戦争がいかに儲かる商売であるかをみごとに暴露したのは、スメドレー・バトラー将軍です。彼は経済界・金融界の用心棒として3大陸を股にかけて荒らし回った経験をまとめた本『戦争はペテンだ』を退職後に刊行しました。その一部は、拙訳『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻(442-448頁、明石書店)に収められています。

<註2> ローズベルト大統領への暗殺計画、およびクーデターの試みは、櫻井ジャーナル(2012.12.07)では、次のように説明されています。

 アメリカの場合、JPモルガンをはじめとする金融界がヒトラーを支援していた。1932年の大統領選挙でハーバート・フーバー大統領が再選されていたなら、ナチスとアメリカ金融界の蜜月は続き、アメリカもファシズム化していた可能性が高い。強者総取りの経済を推進すれば、庶民の反発を力で抑え込むしかないからだ。
 このシナリオを狂わせたのがフランクリン・ルーズベルトの大統領就任だった。金融界にとってルーズベルトの掲げる政策が脅威だったようで、ルーズベルトは就任式の前に銃撃され、1933年になるとJPモルガンを中心とする勢力がファシズム体制の樹立を目指すクーデターを計画している。
 この反ルーズベルト・クーデターの計画はスメドリー・バトラー少将の議会での証言で明らかにされて失敗に終わるのだが、大戦の末期、ドイツが降伏する前の月にルーズベルトが急死すると親ファシスト派は復活し、ナチス残党の逃亡を助け、保護し、雇い入れている。日本で民主化が止まり、「右旋回」が起こった背景はここにある。
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201212070000/

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偽旗報道(Fake News)を考える、その2――「リーク Leak」と「ハッキング Hacking」はどこが違うのか

アメリカ理解(2016/02/01)、健全さを求める元情報機関の専門家集団VIPS(Veteran Intelligence Professionals for Sanity)、国家安全保障局NSA(National Security Agency、)、中央情報局CIA(Central Intelligence Agency)


元CIA高官レイ・マクガバン、          元NSA高官ウィリアム・ビニー
レイ・マクガバン ウィリアム・ビニー


 前回のブログでは、OurPlanet-TVという独立メディアが発行している「メールマガジン」の編集後記(2017年1月13日)を紹介し、それと併せてフランスから届いたFさんの便りに私の簡単な解説・注釈を付けて、最後を次のように結びました。

 このような解説・注釈を書いていると切りがなくなるので、ここで打ち止めにしますが、いずれにしてもFさんのFake Newsに関する論評は、冒頭でも述べたとおり鋭く的確で、ただ感服するのみでした。
 そこで次回のブログでは、これに付け加えるかたちで、「今度の大統領選挙で本当は何が争われたのか」「大手メディア、とりわけCNNは何を報道してきたのか」「Fake Newsの筆頭として声高に批判されたRT(Russa Today)とは何か」などについて書く予定です。
 それにしても、アメリカの大手メディアが報道していることを、OurPlanet-TVのような日本の独立メディアまでが、そのまま鵜呑みして報道していることは、非常に深刻な事態というべきでしょう。


 ところが、この前回のブログを載せたその日に、またフランスのFさんから次のような便りが届き、驚愕してしまいました。

寺島先生、
 今日、更新されたブログを読ませていただきました。私の拙文をまたご紹介くださり、ありがとうございます。
 OurPlanet だけでなく、NY在の映画作家、想田和弘さんや私の友人の多くもすっかり大メディアに「洗脳」されています。
 トランプ=人種・性差別主義者。オバマ=平和を愛する良い人、人格者。ビル・クリントン=女好きで困ったちゃんだが憎めない。ヒラリー=才媛でしっかり政治をやりそう。こういうイメージ、レッテルだけで判断する人がいかに多いことか。
 そんな人たちは「核兵器なき世界を目指す」オバマ政権下で核兵器関連予算が増えたこと、言論の自由を謳うオバマ政権下で内部告発者の摘発数が増えたことなど、ご存知なのでしょうか。
 ロシアのハッキングに関して、たいへん興味深い手紙を見つけましたので、1月18日、またFBに書いてみました。その一部をご紹介いたします。


 これを読むと、アメリカ在住の多くの日本人、しかもその大多数の知識人・文化人も、日本の独立メディアOurPlanet-TVの編集者と同じ認識であることが分かります。しかし考えてみれば、それも当然の話でしょう。
 というのは、ニューヨークタイムズを初めとするアメリカの大手メディアは、「トランプ=悪人、ヒラリー=善人」「トランプはプーチ大統領選の操り人形だ」「ロシアは民主党選挙本部をハッカー攻撃し、それに助けられてトランプは大統領に当選した」という報道に終始したからです。
 この傾向は、ヒラリーがサンダース候補を打ち破り、トランプと大統領選挙を闘うようになってからいっそう強まりました。
 予備選ではヒラリーとサンダースの政策をめぐる論争も紹介していたのですが、ヒラリーがトランプと対決するようになってからは、政策論争はほとんどなくなり、大手メディアの論調は「ロシアによるハッカー攻撃」や「トランプの人格・攻撃的言動」だけに焦点があてられるようになりました。
 ロシアによるハッカー攻撃は本当なのかという検証はもちろんのこと、肝心の「暴露されたメールの内容」は全く問題にされず、トランプが「ロシアと手をつないでイスラム教原理主義者をシリアから掃討する」「TPPやNAFTAがアメリカ国内の失業と貧困を拡大してきたから即刻これを停止する」と言っていたことも、きちんと議論されませんでした。
 ウィキリークスが暴露したメールによれば、民主党選挙本部は最初から民主党の本命はヒラリーであり、どうすればサンダースの進撃をくい止めるかの対策をたて、その作戦を裏でヒラリーに指示していたのですから、民主党には「民意に従う」という意思は初めからなかったのです。
 これはブラッドリー・マニング上等兵がイラクにおけるアメリカ軍の戦争犯罪(=民間人の殺戮)を暴露したのに、そのことはほとんど問題にされず、この内部告発がアメリカ軍の作戦に影響があったかどうかだけを問題にしてきたのとよく似ています。だからこそ、戦争犯罪を犯したものは罰せられず、内部告発したブラッドリー・マニングだけが「スパイ防止法」によって重罪人とされ刑務所に送られたのでした。
 (ちなみに、マニングは判決を受けた日に、男性から女性に変わることを宣言し、子供のころから自分は女性だと感じてきたと述べて、今はチェルシー・マニングと名乗っていますが、刑務所内では、そのことでも看守や同僚囚人からひどい迫害を受けたと言われています。)
 他方、ヒラリーはどうだったでしょうか。彼女は国務長官として公的メールを使うことが義務づけられているにもかかわらず、私的メールを多用し、そのことがリビアにおけるアメリカ大使や勤務員の殺害につながった可能性もあるのに、このような重罪はオバマ大統領はもちろんのこと、大手メディアからもほとんど問題にされず、大統領選挙のなかで彼女は平気でトランプの悪口を言いまくる自由を与えられてきました。
 彼女は一貫して「リビアの政権転覆、アサド大統領の追放」を主張してきましたし、オバマ大統領と一緒になって「クリミアはロシアによって強奪された」という口実のもとに、旧東ヨーロッパ諸国の尻をたたきながら、NATO軍をロシア国境近くに大量動員して緊張を高めることに全力を注いできました。ですからヒラリーが大統領になっていれば、確実に核戦争、第3次世界大戦になっていたことでしょう。
 これらのことは、前回のブログでFさんが言及していた経済学者PCR(Paul Craig Roberts)や、元CIA高官レイ・マクガバン、プリンストン大学名誉教授ステファン・コーエンなど、多くの心ある識者が述べていることです。
 (アメリカがネオナチを使って裏で画策したウクライナのクーデターおよびクリミアにおける国民投票については、私のブログで詳しい解説を何度も書きましたから、ここでは割愛させていただきます。)

 フランス在住のFさんから届いた第2の便りを紹介するつもりだったのに、Facebookに彼女が書いた肝心のなかみに移る前に、私の前置きが長くなりすぎました。以下が、彼女の論考です。


 ウィキリークスのリンクで、大メディアが報道しないオバマ大統領宛の手紙を読んだ。差出人は、アメリカの20人の元インタリジェンス関係者が作った「健全さを求める元インタリジェンス・プロフェショナル」VIPSだ。名前と元の役職を全て明記しており、CIAやNSAで高い地位に就いていた人も多いことがわかる。
 手紙の内容は、「ロシアが米大統領選に介入したという明確な証拠を示してほしい、さもなければ、明確な証拠はない、と認めるべきだ」というもの。
 彼らは、核心を欠くナショナル・インタリジェンス文書を疑っており(ナショナル・インタリジェンスのトップ、クラッパーは議会で偽証したことでも知られる)、この文書に基づいてアメリカの大新聞が「ロシアのハッキング」とこぞって報道したことにショックを受け、この手紙をオバマ大統領に提出した。
 過去において、ケネディやレーガンがトップシークレットに属する明確な証拠をインタリジェンスから提出されたのち初めて軍事行動に出た例をあげ、ロシアのハッキングが真実であれば、それは戦争行為であり、トランプは国家反逆者となるから、オバマ大統領は残りわずかな任期中にハードエビデンスを提出して、はっきりした対応をすべきだ、というわけだ。
 オバマ大統領は記者会見で、ハッキングされた情報はヒラリー対ポデスタのメールだと述べている。それなら、ロシアがウィキリークスに情報を流したことになり、VIPS会員であるNSAの元テクニカルディレクター、ウィリアム・ビニーによると、NSAは両者の電子通信を漏れなくカバーするシステムを持っているから(やはりそうなんだ!)、ハッキングが真実ならハードエビデンスを出せるはずだ、という。リークは跡を残さずにできるが、ハッキングは必ず跡を残すものだそうだ。
 トランプ初記者会見の直前に流れたトンデモ情報は笑止千万の内容だった。このスキャンダルをロシアに握られているから、トランプはロシアの言うことを聞くしかない、従ってトランプはロシアの傀儡大統領なのだ、という筋書きのために作られたものだ。前述のクラッパーですら、この話には根拠がない、と否定している。
 初記者会見はロシアハッキングについての記者の大合唱の中ではじまった。トランプが言ったのは、「私はロシアだと思うが、こんなこと、どこもやっている、自分だってやられている、まあ、ロシアでないかもしれないが」という、いい加減なもの。
 ロシアのハッキング云々にはもううんざり、適当にあしらってやれ、という印象を私は受けたが、「CIAやナショナル・インタリジェンスに疑義を挟むと危険だ」「CIAを解体しようとしたJFKの身に起きたことを考えろ」という忠告もあるという。
 驚いたのは翌日の日本の大新聞の大見出しだ。「トランプ、ロシアの関与を認める」「トランプ、ロシアがハッキングした、と」。
 記者さんは、あの会見をちゃんと聞いたのだろうか? ニューヨークタイムズですら、こんなトンマな大見出しはつけなかった。
 1月17日、軍の機密情報をウィキリークスにリークした元軍人(元男性で今は女性)チェルシー・マニングに対して、オバマ大統領は35年から7年への減刑を与えた。7年間、刑に服したので、この5月に釈放される予定だ。
 オバマさん、最後に良いことをして引退か、と思いたいが、彼女が減刑されれば自分がアメリカで裁判を受けても良い、と言っていたアサンジと引き換えにマニングを減刑した可能性もある。イギリスは、アメリカからロンドンのエクアドル大使館に匿われているアサンジの引き渡し要請を受けたかどうか、答えることを拒否している。
 正しい情報を持つことは、民主主義の根幹だ。大衆にニセ情報を植え付ければ、民主主義の皮を被ってどんなことでもできてしまう。
 ネット時代以前は私たちみんな、新聞やテレビの情報を信じて生きてきた。その中には多くの不確かな情報や誘導があったにちがいない(そうした誘導に乗っていた経験が自分にもある)。今回のトランプ騒動で改めて、メディアを牛耳るのは誰か、と考えさせられた。


 この彼女のFB(Facebook)における書き込みは、前回のブログと同じく、このままでは一般人には分かりにくい箇所があるので、やはり少し解説が必要ではないかと思われました。しかし、それにしても、FBは閉じられた空間ですから、このような内容を書き込んでもすぐに理解してもらえるような知的レベルの高いグループに、彼女が属していることが分かります。
 しかし、にもかかわらずFさんは、前回のブログで紹介したように、「私はFacebookをあまり信用していないので、これまで何も書いていませんが、最近、英語の情報に触れて知ったことを少しはシェアした方がいいのではないか、と思い始めました」「オバマ大統領が始めた「ニセ情報」大宣伝を信じている人が少なからずいることが分かったためです」と書いているのです。
 というよりも、知的レベルの高い人たちだからこそ、ニューヨークタイムズのような大手メディアに騙されているといった方が正しいのかも知れません。
 というのは、アメリカ合州国の巨大な中央部は壮大なる田舎で地方紙・地元紙しか存在せず、大手メディアの購読者は東海岸や西海岸しかいませんから、ロサンゼルスタイムズやニューヨークタイムズなどを読むのは、アメリカの両岸に集中している大学の大学生やその周辺に居住する知識人しかいないからです。CNNやABCを視聴するひとたちも、これらと重なっています。
 フランスに居住するFさんには、ニューヨークなどに在住する知的レベルの高い友人が多いことを、いただいたメールから窺い知ることができます。その彼らが大手メディアの偽情報を鵜呑みにしてトランプを嫌悪し、ヒラリー賛美に大きく傾いていることに我慢できなくなってFBへの書き込みを始めたのだと、彼女は前回のメールで語っていました。
 そこでFさんは、今回のメールでは、まずアメリカの元情報機関員らが署名したオバマ宛の手紙から話を始めています。それには冒頭で紹介したように、次のように書かれていました。

ウィキリークスのリンクで、大メディアが報道しないオバマ大統領宛の手紙を読んだ。差出人は、アメリカの20人の元インタリジェンス関係者が作った「健全さを求める元インタリジェンス・プロフェショナル」VIPSだ。
 名前と元の役職を全て明記しており、CIAやNSAで高い地位に就いていた人も多いことがわかる。
 手紙の内容は、「ロシアが米大統領選に介入したという明確な証拠を示してほしい、さもなければ、明確な証拠はない、と認めるべきだ」というもの。
 彼らVIPSは、核心を欠くナショナル・インタリジェンスの文書を疑っている。ナショナル・インタリジェンスのトップ、国家情報長官クラッパーは議会で偽証したことでも知られる。
 この文書に基づいてアメリカの大新聞が「ロシアのハッキング」とこぞって報道したことにショックを受け、VIPSは、この手紙をオバマ大統領に提出した。


 ここに出てくるVIPSという団体は、その正式名称は「Veteran Intelligence Professionals for Sanity」と言いますが、和訳すれば、Fさんが紹介しているように「健全さを求める元インタリジェンス・プロフェショナル」とでも言うべきでしょうか。
 Fさんは、このVIPSによる公開書簡に署名しているひとたちについて「名前と元の役職を全て明記しており、CIAやNSAで高い地位に就いていた人も多いことがわかる」と書いています。
 さらに署名者のひとりである「NSAの元テクニカルディレクター」、ウィリアム・ビニーについて、Fさんは上記で次のように書いていました。

オバマ大統領は記者会見で、ハッキングされた情報はヒラリー対ポデスタのメールだと述べている。それなら、ロシアがウィキリークスに情報を流したことになり、VIPS会員であるNSAの元テクニカルディレクター、ウィリアム・ビニーによると、NSAは両者の電子通信を漏れなくカバーするシステムを持っているから(やはりそうなんだ!)、ハッキングが真実ならハード・エビデンスを出せるはずだ、という。リークは跡を残さずにできるが、ハッキングは必ず跡を残すものだそうだ。


 NSAと言えば、CIAをはるかに凌駕するアメリカ最大の情報機関です。そこの「テクニカルディレクター」だったということは、ウィリアム・ビニーがNSAの最高幹部のひとりだったことを示しています。そのような人物が、次のように主張しているのです。

「リーク」と「ハッキング」は明確に違う。したがってオバマ大統領は記者会見で、ハッキングされた情報はヒラリー対ポデスタのメールだと述べているが、「ロシアによるハッキング」なら、NSAはアメリカの国法を破ってアメリカ全土の情報を盗聴し記録しているのだから、その証拠はいつでも出せるはずだ。確固たる証拠(ハード・エビデンス)が出せないというのは、「リーク」すなわち「内部告発者による情報提供」だ。


 ちなみに、ここで問題になっている「ヒラリー対ポデスタのメール」というのは、民主党の候補者ヒラリーとヒラリーの選挙対策責任者を務めたジョン・ポデスタとの間でやりとりされたメールを指します。
 そしてオバマ大統領もヒラリー女史も、漏洩した情報はロシア=プーチン大統領によってハッキングされたものだと主張しているのですが、アメリカ最高の頭脳集団であるはずの情報機関、その元高官たちが、これは「リーク」「内部告発」と言っているわけです。
 前回のブログでは、「その内部告発者が、不審な死を遂げたセス・リッチ(27歳)ではなかったのか」という強い疑いが出されていることを紹介しました。
 というのは、民主党全国委員会に勤務していた彼は、民主党の幹部が初めからヒラリーを党の候補者にするために、サンダースを追い落とす工作を画策していることに強い怒りを持っていたことが分かっているからです。
 実を言うと、VIPSについては私のブログでも次の記事で紹介しているのですが、いわゆる「ロシアによるハッカー攻撃」についても公開書簡を発表していることを、今回のFさんからのメールで、初めて知ることができました。

*ミシェル・チョスドフスキー「誰がマレーシア航空機MH17便を撃墜したのか」
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-196.html (2014-09-04 平和研究)
*ウクライナ情勢の読み方(番外編)―元CIA高官は語る
「IAEA(国際原子力機関)事務局長・天野之弥はアメリカの傀儡(かいらい)だ」

http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-182.html(2014-05-21 平和研究 )


 この上記の記事「元CIA高官は語る」のなかで私は、署名者のひとりであるレイ・マクガバンについて次のように紹介しています。

 マクガバン氏は、元CIA 上級分析官で、ブッシュ(シニア)大統領への日例指示 [PDB:President's daily briefing] の作成、国家情報評価 [NIE: National Intelligence Estimates] の主任を務めたほどの高官でした。
 また27年間の勤務の最初の10年はロシアの外交政策を担当しました。現在は、アメリカの情報機関を辞職または退職したひとたちが結成した「諜報活動の乱用を批判する団体」(VIPS:Veteran Intelligence Professionals for Sanity)の運営委員を務めています。


 安倍政権は「日本でもCIAのような組織をつくりたい」と言っているようですが、そのような組織をつくれば日本はアメリカのような監視国家になっていくでしょう。ウィリアム・ビニーがNSAに辞表をたたきつけたのも、アメリカ憲法を破って、小説『一九八四年』も顔負けの強力な監視国家になっていくことに我慢がならなかったからでした。
 元情報機関職員が集っているVIPSは、このような思いの人たちでつくられています。しかし、このような集団でさえ、オバマ大統領やヒラリー国務長官の暴走、中東における破壊と殺戮をくい止めるることができませんでした。だとすれば、そのような集団が存在しない日本で、CIAのような組織がつくられ、「共謀罪」法が制定されたら、どんな国になっていくでしょうか。


<註> フランス在住のFさんに教えていただいた「VIPSによるオバマ大統領あての手紙」は、ConsortiumNewsというサイトにVIPS Memoというコーナーがあり、そこに 「ロシアが『ハッキング』したという確かな証拠を要求する」と題する非常に長い書簡が載っていることが分かりました。以下が、その関連情報です。
*ConsortiumNews
https://consortiumnews.com/
*VIPS Memo
https://consortiumnews.com/vips-memos/
*A Demand for Russian "Hacking" Proof
「ロシアが『ハッキング』したという確かな証拠を要求する」
https://consortiumnews.com/2017/01/17/a-demand-for-russian-hacking-proof/
*US Intel Vets Dispute Russia Hacking Claims
「アメリカ情報機関の退職者集団が、ロシアによるハッカー攻撃という主張に反論」

https://consortiumnews.com/2016/12/12/us-intel-vets-dispute-russia-hacking-claims/


 
 ここまで書いてきたら疲れがどっと出てきて力尽きましたので、この続きは次号に回したいと思います。というのは、トランプ大統領の就任式が終わったあとも反トランプの嵐は収まりそうにないからです。
 しかし、このような状況の裏に何があるのか。街頭に繰り出しているひとたちを裏で動かしているのは誰か。それを説明するためには、「カラー革命Color Revolution」と「闇の政府Deep State」、そして億万長者ジョージ・ソロスという人物について説明しなければならなくなります。
 となると、今まで書いてきたことと同じくらい(あるいはそれ以上)の分量と時間が必要です。それを考えると気が遠くなってきました。そこで一旦ここで筆をおいて休息し、気力と体力が回復したら再開します。どうかお許しください。
 ただし、CNNもトランプ暗殺をそそのかすような報道をしていましたし、Fさんが私淑している経済学者PCR(Paul Craig Roberts)も、氏のブログで「トランプはケネディ大統領と同じように暗殺される危険もある」と述べていますので、なるべく早く再開するつもりです。
*Trump’s Declaration of War 「トランプの宣戦布告」
http://www.paulcraigroberts.org/2017/01/20/trumps-declaration-war/

 そのときに、今回のブログで充分に説明できなかった論点―「今度の大統領選挙で本当は何が争われたのか」「大手メディア、とりわけCNNは何を報道してきたのか」「Fake Newsの筆頭として声高に批判されたRT(Russa Today)とは何か」―などについても書く予定です。
 ただし、ここで改めて断っておきたいのは、私がこのブログを書いているのはトランプ氏の言動をすべて擁護するためではないということです。トランプ氏はキューバのカストロを独裁者だと言ったりするなど問題のある発言も少なくありません。しかし「幹」と「枝葉」を区別し、「幹」の部分で正しいものがあれば、それを擁護するということに尽きます。

<註>トランプ氏は暗殺されなくても罷免・追放される可能性もあります。ウクライナやホンジュラスと同様にブラジルでも、、「民衆運動」「議会の議決」というかたちのクーデターがおこなわれ、選挙で選ばれた大統領が放逐されました。同じ舞台が、世界各地でクーデターを画策した本家本元のアメリカで、展開されるかも知れません。
*ブラジルでクーデターが起きている
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/post-4f03.html
*ありそうなトランプ大統領追放シナリオ
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/post-4115.html



偽旗報道(Fake News)を考える、その1――トランプ大統領の就任式にあたって

アメリカ理解(2017/01/23)、偽旗報道FakeNews、セス・リッチ、マイケル・フリン、国家安全保障局NSA(National Security Agency)、国防情報局DIA(Defense Intelligence Agency)


不審な死を遂げた民主党職員セス・リッチ(左)。彼がウィキリークスの創始者アサンジ(右)に情報を?
Seth-Rich.jpg
http://yournewswire.com/wikileaks-seth-rich-leaked-clinton-emails/


 トランプ大統領の就任式をめぐって世論が沸騰しているようです。私が配信登録をしているOurPlanet-TVという独立メディアでも、その「メールマガジン」(2017年1月13日)の編集後記に次のようなコメントが載っていました。
 

何かとお騒がせなトランプ次期米大統領。11日に開かれた当選後初の記者会見で、CNNのリポーターからの質問を拒否。CNNを“Fake News”とまでこき下ろし、自身に都合悪い報道をするメディアに対する敵対心をあらわにしています。1月20日に控えている大統領就任式、オバマ大統領の就任式ではアレサ・フランクリンや、ビヨンセが登場し盛り上がりましたが、今回の就任式はミュージシャンにことごとく断わられて困っているようです…。さみし~い就任式になるのでしょうか。またトンデモ発言で自ら盛り上げそうですが。
 一方、退任間近のオバマ大統領は12日、ジョー・バイデン副大統領に米国で最高の栄誉「大統領自由勲章」をサプライズで授与。何も知らされていなかったバイデン氏が、涙を流して感激する映像からは、これまで築いてきたふたりの絆を感じ、じ~んとしてしまいました。ホワイトハウスのオバマ&バイデンの“Bromance=ブロマンス”(男同士の厚い友情を表す言葉)はネットでも度々話題になりましたが、もう見られないと思うと、寂しい!(高木)
http://melma.com/backnumber_122815_6473265/、発行日:1/13


 上記の編集後記を読むかぎり、執筆者の高木さんは、CNNという大手メデイアが今まで“Fake News”(偽旗報道)をしてこなかったという認識のようです。
 しかしCNNは他の大手メディアと同じく、「トランプはロシア大統領プーチンの操り人形だ」という根拠のない報道を繰りかえしてきたのですから、トランプ氏が "You are Fake News."と言って質問を拒否したのは、ある意味で当然のことでした。
 それとも高木さんは、CNNなど大手メディアが今回の大統領選では不偏不党の仮面をかなぐり捨てて「ヒラリー支持一色」「トランプ叩きに終始」してきた事実を知らないのでしょうか。これでは権力に媚びないことを表看板にして活動してきたOurPlanetという「独立メディア」の名に傷がつきはしないでしょうか。
 これは、高木さんの次のようなコメントにもよく現れています。
 「ホワイトハウスのオバマ&バイデンの“Bromance=ブロマンス”(男同士の厚い友情を表す言葉)はネットでも度々話題になりましたが、もう見られないと思うと、寂しい!」
 オバマ大統領がジョー・バイデン副大統領に米国で最高の栄誉「大統領自由勲章」をサプライズで授与したからといって、それを次のように述べるに至っては、「権力に媚びないはずの批判精神はどこに消えてしまったのか」と唖然としてしまいました。
 「何も知らされていなかったバイデン氏が、涙を流して感激する映像からは、これまで築いてきたふたりの絆を感じ、じ~んとしてしまいました。」 
 自民党の安倍首相が副総理の麻生太郎に、何かの栄誉賞をとつぜん授与したからといって、それを「男同士の厚い友情」を示したもの感激するというのは、たぶん自民党の支持者でさえ、単なるテレビ映りを意識した見世物としてしか受け止めないのではないでしょうか。
 まして「テロと戦い自由と民主主義を回復する」という名の下に、パキスタンやアフガニスタンで無人機よる殺人行為をくりかえし、殺された人の大半が無実の一般市民だったことにたまりかねて、ノーベル平和賞を受賞された少女マララから、「無人機よる殺人行為はやめてください」と強く抗議された人物が、それに積極的協力を惜しまなかったバイデン氏に「自由勲章」をおくるなどというのは、偽善以外の何ものでもありません。
 日本では左派=民主的陣営と見なされているはずのOurPlanet-TVでさえ、このような認識なのですから、普通の日本人がオバマ礼賛になっても仕方がないでしょう。日本の大手メディアはアメリカ追随の報道しかしないのですから、これも仕方がないとも言えますが、何度も言うように、権力に媚びず批判精神を貫くものとして設立されたはずの独立メディアがこのような状態では、日本の未来はどうなることかと気が遠くなってしまいます。

 私は、ブログを書いていても、時々このような絶望感に襲われることがあるのですが、それでも私が書いていることに何らかの反響があると元気が出てきて、72歳の老軀にむち打って何とか書き続けようという気になります。
 そのような反響のひとつが、既にこのブログで紹介した「フランス在住のFさん(女性)から届いた便り」でした。
*「ヒラリー・クリントンとは誰か」その後、読者からの反響(2)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-278.html
 このFさんからの便りにたいして、私が次のブログ=「ヒラリー・クリントンとは誰か」その後、読者からの反響(3)を書いたところ、再びFさんから昨年末に次のような便りをいただきました。

> 拝復、ご不幸がおありだったのですね。そんな中、お時間をとって返信してくださり、ありがとうございます。
> 私はFacebookをあまり信用していないので、これまで何も書いていませんが、最近、英語の情報に触れて知ったことを少しはシェアした方がいいのではないか、と思い始めました。
 ブログというのも面倒なので、今まで署名などのシェアしかしていないFacebookに思いきって書いてみました。オバマ大統領が始めた「ニセ情報」大宣伝を信じている人が少なからずいることが分かったためです。
 Facebookは確か、友人しか見られないと思いますので、以下、少し加筆したものを記載いたします。先生のご意見をお伺いできれば幸いです。
 先生は私より少しお年上であられるので、くれぐれもお体ご自愛くださり、良い年をお迎えくださいますように。


 この便りにたいして私は次のような返事を差し上げました。しかし新年になってもFさんに返事のブログを書く肉体的精神的ゆとりが生まれず、今に至ってしまいました。

 オバマ大統領が始めた「ニセ情報」大宣伝についての鋭い御意見、まったく賛同かつ感服しながら読ませていただきました。私も時間ができたらぜひ書いてみたいと思っていたテーマでした。
 今は長周新聞元旦号の原稿締切に追われていますので、これが終わったら是非とり組みたいと思っています。Fさんの意見を紹介しながら私見を展開できればと考えています。それまでお待ちいただければ有り難いと思います。
 今日は取りいそぎ御礼のみにて失礼します。


 しかし、トランプ大統領の就任式をめぐって、アメリカでは相変わらずFakeNewsが垂れ流され混乱が続いていますので、「OurPlanet-TVのメルマガと関わらせてFさんの意見を紹介しつつ私見を述べなくては」という強い思いが湧いてきました。
 そこで今回のブログではFさんが「Facebookに思いきって書いてみました」という記事をまず紹介し、それにたいする私の意見・コメントは次回に書くことにしました。
 私の意見は書き出すと長くなりそうですし、Fさんの意見は、私のコメントなしでも、それ単独で紹介する値打ちが充分にあるものと考えたからです。以下が、そのFさんの意見です。


 このところ、オバマ大統領は有終の美を飾るどころか、大変な醜態を見せている。今回の大統領選で、⑴ ロシアが情報をハッキングしてトランプを当選させた、⑵ 多くのニセ情報サイトが投票を左右した、という「言いがかり」が、オバマ大統領の仕事納めになろうとは。
 2008年秋、パリ民主党支持者会が催したオバマ・パーティーに参加し、徹夜で選挙結果を見守り歓喜したものとして、非常に残念に思う(ちなみに今年、フランス民主党支持者会はクリントン候補に決まった後、いっさい活動しなかった。サイトは更新されず、通常なら、トランプを落とそう、とキャンペーンするはずのサイトなのに)。
 面白いことに、オバマ大統領はロシアのハッカーの仕業にすることで、少なくともウィキリークスが流した情報は偽でなく本当であった、ということを認めている。また、アメリカ人がアホな差別主義者だからトランプに投票したわけではない、クリントンが敗北を喫したのは、多くの投票者がインターネットで、大メディアが流さない(クリントンに都合の悪い)「ニセ」情報を読んだためだ、と正しく分析しているのだ。
 正しい情報を流す幾多のサイト、独立メディアを、「ニセ情報」として何の根拠も示さずに糾弾するのは、根拠なく「イラクに大量破壊兵器がある」と言い募ってそれを「世界の常識」にしてしまい、戦争を開始したジョージ・ブッシュJrのやり方によく似ている。
 ワシントンポスト紙が中心になって作ったニセ情報サイト・リストを見た。いい加減なサイトも入っているのだろうが、私が信頼する経済学者PCRのブログ、ゴールドマンサックスの不正を暴いて有名になった反ウォールストリート的なブログ(筆者はウォールストリート内部の人たち)、欧米の大手新聞のほとんど(日本の新聞は入っていない)がサポーターとして資金援助しているウィキリークスまで入っているので驚いた。大統領選終盤になって、悪魔祓いや子供生贄などというあまりにも荒唐無稽な反クリントン・サイトが登場した時、これはインターネット情報全般の信頼性を傷つけるために意図的に作られたものではないか、という疑いを持ったが、オバマ大統領が「ニセ情報サイト」を声高に叫んで世論誘導し始めた今、私のカンは当たっていたのではないかと思う。
 クリントンの「不都合な真実」を暴露したのは、ロシアによるハッキングではなく、アメリカのインタリジェンスや内情を知る人たちだったと私は思っている。ウィキリークスのアサンジも「(ヒラリーと選対委員長ポデスタのeメールは)ロシアからではない、内部からのものだ」と答えている。民主党の投票担当セス・リッチがこの8月、背後から数弾撃ちこまれて殺された時、犯人につながる情報に対して2万ドルの賞金を出す、とウィキリークスが即座に発表したのは興味ふかい。
 警察は、何も盗られていないのに強盗殺人として単純に処理した。ウィキリークスのアサンジのインタビューを見たが、「リッチが情報源だったのか」と聞かれた時、「それには答えられない...が、情報源は身の危険にさらされている。それを守らなければならない」と苦し紛れに答えて、リッチが情報源だったと暗に認めた様子である。
 リッチはサンダース支持者だったので、民主党の候補者選出時に行われた不正に義憤を感じて情報を流し、生かしておけばもっともっと不都合な情報が流される、ということで殺されたのだろうか。
 インタリジェンスと一口に言っても、アメリカにはCIAのほか、軍の防衛インタリジェンス(DIA)、スノードンで知られるようになったNSAなど16組織もある。CIAは情報収集にとどまらず、隠密作戦を許され、アメリカの言いなりにならない他国政府の転覆などにも従事できるし盛大にやってきたが、DIAは、アメリカに対する軍事的な脅威を知るための情報収集を行う、どちらかというとストレートな情報機関だ。いち早くヒラリー支持を表明したCIAは、ロシアという敵がいてこそ存在意義がある機関だから、ロシアと戦いたいヒラリーを推すのは当然だった。
 一方のDIAは、イスラム国打倒よりアサド政権打倒を優先するオバマ大統領と衝突して、フリン長官が退任したように、シリア問題を解決するにはロシアと協力しあわなければならない、と考えるインタリジェンス関係者が他にもいたようだ。DIAかNSAのどちらかは忘れたが、実名、顔を出して元エージェントがビデオ・インタビューでこうした見解を述べるのを見たことがある。こういった人達からクリントンにまつわる「不都合な真実」が意図的に流された可能性はおおいにある。
 私がここで言いたいのは、根拠なしの「世論誘導」にはよくよく注意をはらわなければならない、ということだ。まずは疑ってかかろう。

 先に紹介したFさんからのメールには「私はFacebookをあまり信用していないので、これまで何も書いていませんが、最近、英語の情報に触れて知ったことを少しはシェアした方がいいのではないか、と思い始めました」とありました。
 これを読むと、「フランス在住でありながら英語の情報も読み解くことのできる素晴らしい女性」というイメージが浮かんできます。
 私は、フランス語どころか英語すらも自由に会話や読み書きできず、拙著『英語教育原論』(明石書店)でも書いたように、学生には「英語ができたら英語教師などしていない。英語が得意なら大学時代の友人・知人のように商社・外交官・新聞社などに就職している」と言い続けてきました。
 ですからFさんがFacebookで書かれたことはかなり高度で、「経済学者PCR」とか「インタリジェンス(情報機関)のDIA、NSA」など、用いられている用語については少し解説が必要だと感じました。そこで以下では、幾つかの用語の注釈のみに止めて、このFさんの意見にたいするコメントは、先述したように次回にしたいと思います。

<註1> 経済学者PCR
 Paul Craig Robertsは、元アメリカ政府高官(経済政策担当の財務次官補)。ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリプス・ハワード・ニュー ズ・サービス、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えたこともあり、氏のブログは下記で読むことができます。
http://www.paulcraigroberts.org/
<註2> ワシントンポスト紙が中心になって作った「ニセ情報」サイトのリスト
 アメリカで発行部数第5位の新聞であるワシントン・ポストは、「偽ニュースを拡散させるロシアのプロパガンダサイト」として、200以上のウェブサイトの名を連ねたブラックリストについて報じました。このリストを作成したサイトPropOrNotについて、ワシントン・ポストは、「外交政策、軍事的、技術的背景を持つ無党派の研究者集団」によって開設されたものと説明していますが、どこの団体に所属する何という研究者グループであるかは伏せられていること、リストにウェブサイトを掲載する基準が不明瞭であることで、Glenn Greewaildなど著名な独立ジャーナリストから、「ワシントン・ポストの記事は恥ずべきものである」として批判されています。200のリストは下記で見ることができます。http://www.propornot.com/p/the-list.html
<註3> アメリカの情報機関NSA, DIA
 アメリカの情報機関として最も有名なのは悪評高いCIAですが、NSA(アメリカ国家安全保障局National Security Agency)は、通信傍受・盗聴・暗号解読などの「信号情報」活動を担当する国防総省の情報機関で、CIAよりはるかに巨大な組織です。ロシアに亡命しているスノーデン氏が、この機関がアメリカのみならず世界中の個人・組織を違法に盗聴していることを暴露して、その存在を知られることになりました。他方、DIA(アメリカ国防情報局Defense Intelligence Agency)も、国防総省の諜報機関ですが、軍事情報を専門に収集・調整する機関です。このたび、トランプ大統領によって国家安全保障を担当する大統領補佐官に指名されたマイケル・フリンは、元国防情報局長官でした。櫻井ジャーナルによれば、フリンは、「シリアのイスラム過激派を敗北させるよりもアサド政権の打倒を優先している」とオバマ大統領を批判し、解任されていました。http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/20170109/

 このような解説・注釈を書いていると切りがなくなるので、ここで打ち止めにしますが、いずれにしてもFさんのFake Newsに関する論評は、冒頭でも述べたとおり鋭く的確で、ただ感服するのみでした。
 そこで次回のブログでは、これに付け加えるかたちで、「今度の大統領選挙で本当は何が争われたのか」「大手メディア、とりわけCNNは何を報道してきたのか」「Fake Newsの筆頭として声高に批判されたRT(Russa Today)とは何か」などについて書く予定です。
 それにしても、アメリカの大手メディアが報道していることを、OurPlanet-TVのような日本の独立メディアまでが、そのまま鵜呑みして報道していることは、非常に深刻な事態というべきでしょう。


 

「ヒラリー・クリントンとは誰か」その後、読者からの反響(3)

アメリカ理解(2016/11/21)、元ホンジュラス大統領ゼラヤ、ホンジュラス先住民活動家カセレス、リビアのカダフィ大佐、アフリカ統一通貨、世界最大の灌漑事業

2009年6月28日の軍によるクーデターで
国外追放されたホンジュラス大統領マヌエル・ゼラヤ(左)

ゼラヤ大統領2 ホンジュラス、ベルタ・カセレス2
2016年3月3日に自宅で銃殺された、
ホンジュラスの先住民・環境保護運動家ベルタ・カセレス(右)


 以下では、前回のブログで紹介したFさんからいただいたメールに、簡単なコメントだけを付記させていただきます。

(1)「先生は2009年ホンジュラスのクーデタに触れておられますが、ヒラリーの関わりを告発していた人権活動家Berta Caceresも今年3月、ホンジュラスの自宅で殺されています。ご存知かもしれませんが、Clinton Body Count というサイトを見ますと、ビルの州知事時代、ビルの大統領選挙前後、 ヒラリーの大統領選挙前に死者が集中しています。」


 上記の「Clinton Body Count というサイト」は、いただいたメールで初めて知りました。衝撃的でした。リビアの体制転覆から11か月後の2012年9月11日、アメリカの領事館と「別館」が攻撃され、クリストファー・スティーブンス大使を含むアメリカ人4名が殺されました。でも私は、そのようなサイトの存在を知りませんでした。
 ヒラリー国務長官による黙認の下で、ホンジュラスでもゼラヤ大統領がクーデタで国外追放されたあと、新しい政権は抗議し抵抗するひとたちを大量に殺害しています。Fさんの指摘されている先住民の女性活動家ベルタ・カセレスもそのひとりでした。
Before Her Assassination, Berta Cáceres Singled Out Hillary Clinton for Backing Honduran Coup 「暗殺される前に、ベルタ・カセレスは、ホンジュラスのクーデターを理由に、ヒラリーを指弾」
https://www.democracynow.org/2016/3/11/before_her_assassination_berta_caceres_singled
 このように中南米では暴力・殺害が荒れ狂っていますが、しかしクリントン夫妻で、さらに問題なのはハイチの扱いです。これについてもふれたいことは多々あるのですが、どんどん伸びていきそうですので、断念します。以下を御覧ください。
Haiti: How Bill and Hillary Clinton Wrecked an Entire Country
「クリントン夫妻はどのようにしてハイチを破壊したか」

http://www.globalresearch.ca/haiti-how-bill-and-hillary-clinton-wrecked-an-entire-country/5556817

(2)「空港や街角には、カダフィの巨大な肖像画しか掲げられておらず、独裁者であることは疑いの余地がありませんが、町の人の表情に、思ったことを言えない恐怖感はなく、リビア人ガイドはよくカダフィをからかう冗談を言っていました。」「また、イスラム原理主義を危険視したカダフィは、原理主義者を山に追い詰め、一網打尽に殺戮した、とガイドが説明してくれました。絨毯爆撃された山は数十年経っても禿山のままでした。」


 最近ますます明らかになっていることは、アメリカやNATO軍はイスラム原理主義者を傭兵として使い、カダイフィ大佐を惨殺したことです。そして、その原理主義者が今ではシリアで破壊と殺戮を繰りかえしているのですが、アメリカもフランスもNATO軍も、表ではISISと戦うと言いながら、実態は密かに支援しているという事実です。
 カダフィ大佐はイスラム原理主義者を放置すると、こういう事態になることをじゅうぶん承知していたから徹底的に殲滅しようとしたのですが、アメリカとNATO軍が設定する「飛行禁止区域」のため、目的をはたすことが出来ませんでした。
 ですから、リビア国内でFさんを案内してくれたリビア人ガイドが「町の人の表情に、思ったことを言えない恐怖感はなく」「よくカダフィをからかう冗談を言っていました」の姿からは、カダフィ=独裁者というイメージは想像しがたいものがあります。
 いまEU諸国では「プーチン=独裁者=ヒトラーの再来」というイメージがばらまかれているようです。また今度のアメリカ大統領選挙でも、「トランプ=独裁者プーチンの回し者」というイメージが、ヒラリー女史や大手メディアによって大宣伝されましたが、カダフィ=独裁者というイメージも、似たり寄ったりだったのではないかと思います。
 ですから、「イスラム原理主義を危険視したカダフィは原理主義者を山に追い詰め、一網打尽に殺戮した」と説明してくれたガイドも、カダフィがイスラム原理主義者を殲滅してくれたことを自慢したくて、「数十年経っても禿山のまま」になっている「絨毯爆撃された山」を案内したのではないかと推測しました。
 (これもあくまで推測ですが、ガイドが案内時に使ったのは、「殺戮」ということばではなく、恐らく「殲滅」といったことばだったのではないでしょうか。)
 さもなければ、「公開で鞭打ちの刑や斬首の刑を実行して恥じない」サウジアラビアなど王制独裁国家のように、リビアもずっと以前にイスラム原理主義の国になっていたでしょうし、現に、現在のリビアは混乱の極致です。

(3)「水パイプラインはまだ部分的でしたが、あちこちにパイプが置かれ、工事が進んでいました。砂漠のガソリンスタンドでも水洗トイレがあり、水が出ました。水パイプライン網がカダフィのライフワークだった、なんて、西側メディアが取り上げたことがあるでしょうか。今、遺跡や水パイプライン、あれだけ豊かに暮らしていた人々はどんな状態になっているのか、考えると胸が痛みます。」


 私は外国旅行をするとき、その国の民度・生活水準の高さを、公園などにある公共のトイレで測ることにしています。
 一般的に民度・生活水準の低い国は、水洗ではなく、しかも悪臭が立ちこめていました。このような汚いトイレであるにもかかわらず入り口では番人がいてお金を取るのです。
 私は5~6年前にギリシャのアテネとトルコのイスタンブールを訪れましたが、国会議事堂の目の前にある有名なシンタグマ広場のトイレは、やはり水洗ではなく、しかも悪臭が立ちこめていて、入り口では番人がいてお金を取っていました。このような状態はイスタンブールでも同じでした。
 世界的な観光都市であるアテネやイスタンブールでさえ、このような状態だったのに、Fさんが訪れたリビアでは、「砂漠のガソリンスタンドでも水洗トイレがあり水が出た」というのですから、いかにリビアが進んだ国だったがよくわかるはずです。
 このブログの最後尾に「カダフィ大佐が遂行しつつあった世界最大の灌漑事業」の地図を載せてありますが、このような壮大な事業が進展しつつあったのに、それをアメリカとNATO軍は無残にも破壊してしまったのです。
 次のサイトを見ていただければ、灌漑地図だけでなく、カダフィ大佐の著書『緑の書』の説明もあります。カダフィの目指した人権や民主主義がどのようなものだったかの片鱗を知ることができるように思います。
Ten Things You Didn't Know About Libya Under Gaddafi's So-called Dictatorship
「みんなに知ってほしくない、いわゆる『独裁者』カダフィとリビアの、10の事実」

https://urbantimes.co/2014/05/libya-under-gaddafi/
 また上記のサイトには、カダフィ打倒の隠された真の理由「金本位制を土台としたアフリカ統一通貨」についても詳しい説明があります。これを許せば、ドルを基軸とした世界支配が揺らいでしまいますから、これはアメリカとしてはどうしても許せない事態だったのでしょう。
 一般的には進歩的と目されていたフランス社会党のオランド政権も、リビアを猛爆する先頭に立っていたことは本当に悲しいことでした。もっともイギリスの労働党政権も、ブレア首相がアメリカと一緒になってイラク侵略の先頭に立っていたのですから、「いずこも同じ秋の風」と言うべきかも知れません。それにしてもイラク戦争に反対していたフランスはどこへ行ったのでしょうか。当時のフランスは保守政権だったはずなのに、アメリカの言いなりになりませんでした。

 簡単なコメントで終わるつもりだったのに書き出したら止まらなくなってしまいました。まだまだ書きたいことが残っているのですが、12月2日に和歌山で予定されている講演準備も、そろそろ始めなければならないので、Fさんには申し訳ないのですが、ここで一端、筆をおかせていただきたいと思います。


リビアのカダフィ大佐が遂行した世界最大の灌漑事業
https://urbantimes.co/2014/05/libya-under-gaddafi/
リビア、カダフィ、灌漑計画



「ヒラリー・クリントンとは誰か」その後、読者からの反響(2)

 前回のブログで、2回にわたって長周新聞に載せられた拙論「ヒラリー・クリントンとは誰か」にたいする新聞読者からの反響を、紙面と共に紹介しました。
 先にも述べたように、アメリカ大統領選の投票日(11月8日)が目前でしたし、山田昇司(編)『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』(明石書店)の監修者として、その最終校正に追われている最中でしたから、文章の推敲が足りず荒削りのまま残されてしまい、かなり読みにくいものになってしまいました。
 それで新聞読者だけでなくブログ読者のかたに申し訳なく思っていたのですが、先日、フランス在住(Fさん)の方から「ブログを読ませていただきました」とのメールがあり、驚愕してしまいました。まさか海外在住で私のブログを読んでおられる方がみえるということは、私の想像を超えていたからです。
 そこで、さっそく連絡をとり、いただいたメールを紹介させていただく許可を得ました。Clinton Body Count というサイトの存在が私には衝撃だったからです。そこで以下では、Fさんのメールと長周新聞の拙稿(下)を紹介することにします。次回は、このFさんのメールについて簡単なコメントを書く予定です。

寺島先生、
 「ヒラリー・クリントンとは誰か」上下を興味ふかく読ませていただきました。私が話すより遥かに説得力がありますので、友人にもリンクを送りました。
 この夏、NYに滞在していた間に、クリントンに関わる人がバタバタと不審な死を遂げたり、殺されたりしているのを知り、戦慄を覚えました。先生は2009年ホンジュラスのクーデタに触れておられますが、ヒラリーの関わりを告発していた人権活動家Berta Caceresも今年3月、ホンジュラスの自宅で殺されています。
 ご存知かもしれませんが、Clinton Body Count というサイトを見ますと、ビルの州知事時代、ビルの大統領選挙前後、 ヒラリーの大統領選挙前に死者が集中しています。州知事時代の死者の大多数は、アーカンソーの空港を拠点にしたメデジンカルテルによる麻薬密輸関係なので、必ずしもビル・クリントンがらみとは言えないでしょうが、これほど大掛かりで長期的な麻薬密輸が、知事の黙認あるいは援助なしにできるはずがない、という考えから、サイト主はこのボディカウントに含めたのだと思います。
 私は2004年、ギリシャ、ローマ遺跡を見るため、リビアに行きました。そこで、私たちがいかに真実を知らされていなかったか、を思い知らされました。空港や街角には、カダフィの巨大な肖像画しか掲げられておらず、独裁者であることは疑いの余地がありませんが、町の人の表情に、思ったことを言えない恐怖感はなく、リビア人ガイドはよくカダフィをからかう冗談を言っていました。美術館ではスカーフなど被っていない女子大生が英語で話しかけてきて、女性の教育水準が高いように思われました。ギリシャ、ローマ遺跡には小学生がたくさん遠足に来ていて、自らの歴史遺産として学校教育でも大切にしていることが分かりました。
 ショックだったのは、カダフィがいると思われた場所が米軍に爆撃され、多くの村人がが殺されたこと、それを西側メディアは報道しなかったため、私は何も知らなかったことでした。また、イスラム原理主義を危険視したカダフィは、原理主義者を山に追い詰め、一網打尽に殺戮した、とガイドが説明してくれました。絨毯爆撃された山は数十年経っても禿山のままでした。
 水パイプラインはまだ部分的でしたが、あちこちにパイプが置かれ、工事が進んでいました。砂漠のガソリンスタンドでも水洗トイレがあり、水が出ました。水パイプライン網がカダフィのライフワークだった、なんて、西側メデイアが取り上げたことがあるでしょうか。今、遺跡や水パイプライン、あれだけ豊かに暮らしていた人々はどんな状態になっているのか、考えると胸が痛みます。
 友人にはよく、私が見たことや感じたことを話していたのですが、とんでもないテロリスト独裁者、というカダフィに関する固定観念はなかなか拭えませんでした。私たちみんな、大メディアに「洗脳」されているのですね。
 私はフランスに住んでいますが、サルコジが大統領になった最初の国賓がカダフィでした。変だな、と思いました。かなりの額の選挙資金がカダフィから流れたのではないか、と思います。土管に隠れていたカダフィにトドメを刺したのはフランス兵だと言われていますが、それならつじつまが合います。
 それにしても、今回の選挙結果は、アメリカ民主党DNCの失策ではないでしょうか。サンダースなら絶対、トランプに勝てたでしょう。多くの人は、トランプを選んだのでなく、ヒラリーを選びたくなかったのです。本当に残念です。
 これからも先生の鋭い分析を読ませていただきます。ありがとうございます。


<註> 前回と同じく、長周新聞「ヒラリー・クリントンとは誰か」(下)の第2面の紹介については割愛させていただきます。また写真や私の主張の典拠を示すURLを除いた、テキストだけのものは下記で読むことが出来ます。
http://www.h5.dion.ne.jp/~chosyu/hirarikurintontohadarekage.html(上)
http://www.h5.dion.ne.jp/~chosyu/hirarikurintontohadarekage.html(下)



長周新聞20161104 ヒラリー・クリントンとは誰か(下-1)_convert_20161121004737長周新聞20161104 ヒラリー・クリントンとは誰か(下-2)_convert_20161121010056


「ヒラリー・クリントンとは誰か」その後、読者からの反響(1)

 拙論「ヒラリー・クリントンとは誰か」は、実は10月下旬に、長周新聞から電話で突然の執筆依頼があり、時間的ゆとりがないまま執筆したものでした。
 新聞掲載は11月2日(水)と11月4日(金)でした。連載の両方とも、1面のすべてだけでなく、2面の半ばまで紙面を占領していて、こちらのほうが驚かされました。
 まだまだ書きたいことがあったのですが、投票日が目前でしたから断念しました。その関係で文章の推敲が足りず荒削りのまま残されてしまい、かなり読みにくいものになってしまい読者のかたに申し訳なく思っています。
 それでも、新聞編集者のかたから下記のような反響があったと聞き、なかば徹夜状態で書きつづけた甲斐があったと胸をなで下ろしています。
 トランプ当選をどのように見るかについては後日あらためて私見を述べたいと思いますが、今回と次回は長周新聞の紙面と読者からの反響を紹介するにとどめます。

<註> 長周新聞2面の紹介については割愛させていただきます。また写真や私の主張の典拠URLを除いたテキストだけのものは下記で読むことが出来ます。
http://www.h5.dion.ne.jp/~chosyu/hirarikurintontohadarekage.html


On 2016/11/08 23:32:
 寺島先生、「ヒラリー・クリントンとは誰か」の反響の一部です。
 下関市豊北町のはぐるま座公演実行委員会の開始前に、本紙が配布されたところ、参加者がいっせいに紙面を広げ、記事を食いるようにみつめ、「格差がひどくなっているのが問題だ。日本も他人ごとではない」などと、論議が発展しました。
 **大学でも、数学の先生が、「クリントンは悪いやつですね。トランプを勝たせたくなった。カダフィについても、ああいう人だとは知らなかった。アメリカは自分の目的のためには ムチャクチャな宣伝をして誘導していく」j怒りをあらわにしています。
 フランス語の先生も、「アメリカの産軍官複合体は、戦争で消費するしかもうけ口がなくなっていることがよくわかる」とこたえています。
 また、ドイツ語の先生が、「寺島先生にあそこまで、書いてもらってうれしくなる。このような知識人が日本にもいることをもっと宣伝する必要がある」と感激して訴えてきました。
 今から選挙結果をめぐって、さらに先生の記事の反響が広がり発展する趨勢にあります。追ってお伝えするつもりです。よろしくお願いいたします。


On 2016/11/09 21:09:
寺島先生
 トランプ勝利の結果を受けて、「ヒラリー・クリントンとは誰か」に熱を帯びた反響が返っています。
 下関の50代女性がつぎのように語っています。
 「寺島先生の論文はクリントンのシリアでの飛行禁止区域を主張するなど、自分の知らないことを詳しく書かれていて、大統領選がどのような背景でやられてきたのかがよくわかった。トランプがなぜこれほどの支持を得て勝ったのか、寺島先生の記事を読んでなかったら、わからないままでいただろう」
 下関市内の中学校の職員室で、トランプ勝利をどう見るのかをめぐって論議になっているところに、 「ヒラリーとは誰か」を持ち込んだら、 「しっかり読ませていただきます」と歓迎されました。
 マスコミによる「トランプ=過激派、女性蔑視、排外主義者」の宣伝の影響もあり、「怖い人」「嫌らしい人」「日本は大変なことになる」と拒絶反応も出されます。
 その一方で、なぜ「アウトサイダー」とされたトランプが勝ったのかについて理性化したいとの思いも強いことから、 「ヒラリーとは誰か」が染みいるように受け入れられているように思われます。


On 2016/11/14 0:48,
寺島先生
  「ヒラリー・クリントンとは誰か」のその後の反響の一部です。大統領選の結果を受けて、「オバマとは誰か」への反響を思い起こすような熱っぽさを感じます。
 広島の被爆者が、子どもたちに体験を語った後、「自分はトランプ勝利の結果に驚かなかった。寺島先生の記事を読んでいたから」と、本紙記者に話しかけてきました。
 とくに「マスコミは本当のことを書かないから、あわてている。安倍さんは、アメリカにすり寄っていこうとしているが、国民にとっては、日本がアメリカから離れて独自の方向をとるきっかけになると思う」と語っています。
 読者に共通しているのは、「トランプはひどい人だと思っていたが、クリントンの方ががあんなに悪い人だということについては知らなかった。選挙でなぜクリントンが負けたのかが、あの記事を読んでよくわかった」(下関・中学校女性教師)と、感謝の気持ちをこめた意見に代表されます。
 トランプに幻想も持たず、有利な状況を利用して、さまざまな運動を発展させようという機運が高まりつつあります。あらためて、時宜に適った企画にこたえていただいたことにお礼申し上げます。


長周新聞20161102 ヒラリー・クリントンとは誰か(上-1)_convert_20161119173058長周新聞20161102 ヒラリー・クリントンとは誰か(上-2)_convert_20161119173155




ヒラリー・クリントンとは誰か(下) ―アメリカ大統領選挙を目前にして

アメリカ理解(2016/11/07) 戦争省(Department of War)=和訳「陸軍省」、国務省(Department of State)、バトラー将軍『戦争はペテンだ』、リビア、カダフィ大佐、ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』

写真ヒラリー「来た、見亜、死んだ」
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201504130000/
 

私は前回の論考「ヒラリー・クリントンとは誰か」(一一月二日号)を次のように結びました。
「このように、今まさに世界はアメリカ大統領選挙を前にして『伸るか反るか』の曲がり角に来ているのです。にもかかわらず、アメリカや日本の、リベラルを自称する知識人も大手メディアも、『アメリカ史上、初の女性大統領』という殺し文句に惑わされて、現在の深刻な事態が見えなくなっているように思われます。
 しかし現在の事態の深刻さを理解してもらうためには、ヒラリー女史が国務長官だったときだけでなく、それ以前に外交政策で彼女が何を主張し、どのような行動をとってきたかを、もっと詳しく説明する必要があります。とはいえ、すでに長くなりすぎていますので、これについては、次回の論考に譲りたいと思います。」
 そこで今回は、ヒラリー・クリントンなる人物が、アメリカの国務長官として何をしてきたかを、まず調べてみることにします。

 さて「国務長官」というと、まるでアメリカの国内行政における最高責任者のように聞こえてきますが、実は日本の「外務大臣」にあたる外交政策の責任者です。
 アメリカの「防衛省」は、今は「防衛総省」(別名ペンタゴン)と言っていますが、かつては「戦争省」と言っていました。
 日本では「陸軍省」と誤訳(意図的?)されていますが、第二次大戦が終わる前までの正式名称は、「United States Department of War」すなわち「アメリカ戦争省」でした。
 まるで外国にたいして侵略戦争をし続けてきたアメリカの歴史を象徴するような名称ですが、アメリカにとって軍事力による外交=戦争は、内政よりも重要な「国務」であったからこそ、「外務省」を「国務省」(United States Department of State)と名付けたのかも知れません。
 アメリカ軍人として伝説的な英雄スメドレー・バトラー将軍は、退職したあと自分が軍人として果たしてきた役割を振り返って『戦争はペテンだ』という著書を著し、そのなかで、右のような事情を、次のように述べています。

 私は、大企業、ウォール街、銀行、お偉方の用心棒として時を過ごした。要するに私は資本主義に奉仕する恐喝者でありギャングの一員だった」「私はウォール街の利益のために中米の六つの共和国の略奪を手伝った。恐喝の記録は長い」「ギャングの親玉アル・カポネがやれたのは、せいぜい三つの地区のボロ儲けの口を操っただけのことだ。私なんか三大陸を操ったんだ(『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻四四二頁)


 このスメドレー将軍のことばは、アメリカ外交の本質を赤裸々に暴露しているのではないでしょうか。
それはともかく、ブッシュ氏が大統領になったとき、「九・一一事件」を口実にアフガニスタンを爆撃し、それをイラクへの侵略戦争に拡大したのですが、それでもアメリカによる戦争は中東の小さな範囲にとどまっていました。ところがオバマ大統領とヒラリー国務長官のもとで、戦火は一気に地中海沿岸の北アフリカ(リビアの内戦)や東ヨーロッパ近辺(ウクライナやシリアの内戦)にまで拡大しました。
 それどころか、今まではブッシュ大統領が表立って手出しをしなかった中南米にまで手を出してクーデター工作をおこなうようになりました。このような戦争やクーデターの拡大に深く関わってきたのが、ヒラリー国務長官でした。
 いま深刻な人道危機をもたらしているシリアの内戦について、ヒラリー女史が「リビアと同じような飛行禁止区域をもうけるべき」だと強く主張していることは、前回の拙稿で紹介したとおりです。
 アサド政権の要請でロシアが本格的にイスラム原理主義集団の掃討作戦に乗りだし、彼らの拠点を空爆し始めてからは、ダーイッシュ(今まではISISとかイスラム国と呼ばれていた)などのイスラム原理主義集団諸派は、負け戦です。
 サウジを中心とする湾岸諸国が資金と人員を供給し、アメリカやNATO諸国が(さらにイスラエルも)裏で武器や特殊部隊を派遣して軍事訓練をしてきたにもかかわらず、この状態なのです。
 アメリカの基本戦略は、あくまでアサド政権の転覆です。そのためにはロシア軍の空爆をやめさせる必要があります。ロシア軍の空爆はアサド政権の正式な要請によるものですから、国際法に則った行為ですが、イスラエルやNATO諸国(トルコも含む)のシリア領内における空爆は、領空侵犯になりますから、どうしてもリビアの時と同じような「飛行禁止区域」の設定が必要になります。
 これを強く主張しているのが、先述のとおり、ヒラリー女史です。
 しかし、ロシアは安全保障理事国ですから、今のままでは国連の許可を得ることができません。残された道は、偽の人道危機をつくりだして、「ロシア軍やアサド軍は民間人を無差別に殺傷している」とか、「彼らは化学兵器を使っている」とかの口実で、世論を喚起して彼らを押さえ込む以外にありません。
 他方、ロシアの主張は次のとおりです。
 「リビアでは『独裁者カダフィが自国の民衆を無差別に爆撃して大量の死傷者を出している。だから非行禁止区域を』という口実で、カダフィはイスラム原理主義集団と戦う手段を奪われてしまった。その結果、何が生まれたか。国土の荒廃と大量の難民だった。同じことをシリアでも繰りかえすつもりか」

 シリアになだれ込んでいるイスラム原理主義集団は、サウジを中心とした湾岸諸国からだけでなく、ロシアのチェチェンや中国の新疆ウイグル地区といったイスラム教徒が多い地域からも流入してきています。彼らはロシアや中国を不安定化させる勢力としてCIAが以前から訓練してきた勢力だと言われています。
 ですから、シリアが内戦で崩壊した場合、そこで勝利したイスラム原理主義集団は、次の攻撃目標として、ロシアや中国に還流し、ロシアや中国を不安定化させることに最大の精力を注ぎ込むことになるでしょう。
 今やEUとアメリカに対抗する勢力として経済的にも軍事的にも対抗する大国になりつつある動きを、アメリカとしては何としても阻止しなければなりません。
 BRICSという興隆しつつある経済共同体の中心がロシアと中国だから、これはなおさら、アメリカにとっては放置できない事態です。
 だからこそ、ロシアと中国を不安定化させることが必要なのです。
 かつて中東一円からイスラム原理主義集団(ビンラディンもその中の一人でした)をかき集めてソ連をアフガニスタンに引きずり込み不安定化し崩壊させた方法を、シリアでもやろうというわけでしょう。

しかし、これはロシアや中国にとっても座視できない重大事です。
 ロシアと違って、中国は表立ってシリアに味方しては来ませんでしたが、最近、中国も、アサド政権を支えるために、裏で大きく動きはじめていると言われるのも、このような情勢から見ると当然のこととも言えます。
 ですから、ヒラリー女史が「シリアに飛行禁止区域を!」と大声で叫び、「ロシアやシリアが言うことをきかないのであれば軍事力の行使もいとわない」と主張することは、世界大戦になることを意味します。
 この戦いは、NATO諸国やサウジなどの湾岸諸国と一緒になって、アメリカが、ロシア=シリア=イラン=中国といった勢力と、軍事力で戦うことになるからです。
 前回の論考で述べたことですが、イギリスの高級紙インデペンデントだけでなく、ヒラリー女史の自叙伝を書いたディアナ・ジョンストンなどが、イタリアの新聞イタビューで「クリントン氏の大統領選の勝利は、第三次世界大戦の勃発も含め予想外の結果をもたらす可能性がある」と語っているのも、このような背景をふまえてのことだと、私は理解しています。

 ここで、もうひとつ考えておかねばならないことは、ロシアの軍事力はシリアにおける原理主義集団との戦いで明らかになったように、通常兵器ではアメリカ軍をはるかに凌駕しているということです。
 ですから、アメリカ軍がロシア軍や中国軍と戦って本気で勝つつもりならば、残されている手段は核兵器による先制攻撃しかありません。
 しかも集団的自衛権でアメリカに縛られることになった日本も、否応なしに、この核戦争に巻き込まれるかも知れません。
 しかし、いったん核戦争が起きれば、生き残れる国はほとんどないでしょう。今は、それほど深刻な事態なのです。

 話が少し横道にそれたので、クリントン女史に話を戻します。
 ロシアはヒラリーの主張する「飛行禁止区域の設定」について、「シリアをリビアのように破壊して、再び大量の死傷者を出し、EU全土を更なる難民であふれさせようとするのか」と怒っているわけですが、このリビア内戦にヒラリーは、どのようにかかわっていたのでしょうか。
 二〇一六年一〇月二〇日は、リビアの元首だったカダフィ大佐が、アルカイダの一派に惨殺されて五周年になる日でした。
 カダイフィが殺されたとき、ヒラリー女史は国務長官として、NATO軍のリビア攻撃を指揮・監督する立場にいたのですが、カダフィ惨殺の報が届いたとき、CBSのインタビューの中で「来た・見た・死んだ」"We came, We saw, He died" と、身振り手振りをまじえて、嬉しげに言っています。
 この言葉は、共和制ローマの将軍カエサル(日本ではシーザーとして知られている)が言ったとされることば「来た・見た・勝った」をもじったものですが、その嬉しげに語っている映像がユーチューブに流れ、ヒラリー女史の冷酷さ・好戦性を浮き彫りにするものとなりました。

 では、リビアとはどのような国で、カダフィとはどのような人物だったのでしょうか。
 元財務省省高官(財務次官補)で、かつウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者だったポール・グレイグ・ロバーツ氏は、このカダフィ惨殺五周年の日に、自分のブログで、それを次のように書いています。

ムアマル・カダフィは、世界で最も進歩的な指導者だった。カダフィはリビアの石油の富をリビア国民のために使っていた。
 彼は宮殿ではなく、立派なテントではあるが、テントで暮らしており、アメリカ政府の中東同盟国であるサウジアラビアや産油首長国支配者一族につきものの、ヨーロッパ高級車や他のあらゆる身の回り品のコレクションを持っていなかった。
 リビアでは、教育・医療・電力は無料だった。ガソリンは事実上無料で、一リットル一四セントで売られていた。子どもを産んだ女性は現金の助成金を貰い、カップルが結婚すると現金の助成金が貰えた。リビアの国営銀行は無利子で融資し、農民には無償で開業資金を供与した。
*Hillary's War Crime「ヒラリーの戦争犯罪」October 20, 2016
http://www.paulcraigroberts.org/2016/10/20/hillarys-war-crime-paul-craig-roberts/


 ロバーツ氏は、これらの事実を、グローバル・リサーチという独立メディアに載せられた「リビア:知られては困る、カダフィに関する一〇の事実」という小論に依拠しながら書いているのですが、日本では全く紹介されていない事実ばかりです。
 このロバーツ氏が依拠した小論には、カダフィが計画していた世界最大の灌漑施設の地図も載せられていて、驚かされました。カダフィの言う「緑の革命」は単なる夢想ではなかったのです。
 しかし日本で紹介されているカダフィ像は、アメリカ政府から流れてきた情報にもとづいた「自分の国民を冷酷に支配する独裁者」という悪魔化されたものばかりでした。
* 「リビア。知られては困るカダフィ一〇の事実」
"Ten Things You Didn’t Know About Libya Under Gaddafi’s So-called Dictatorship":

 では、上記のような理想国家をつくろうとしていたカダフィ政権を、なぜアメリカとNATOは倒そうとしたのでしょうか。それをロバーツ氏は、先の引用に続けて次のように書いています。

 カダフィがアメリカ政府から自立していたことが彼の没落をもたらしたのだ。若い頃のカダフィの目標は、アラブを欧米の略奪に抵抗できる一つの連合に組織することだった。
 それが思うように進展しないことにいらだった彼は、汎アフリカ主義に向かい、アメリカのアフリカ軍に参加するのを拒否した。また彼は、ドルではなく金をもとにしたアフリカ統一通貨を導入ようとした。そうすればアフリカをアメリカの金融覇権から解放できるからだ。
 カダフィは、中国のエネルギー企業にリビアのエネルギー資源を開発させた。以前から地中海におけるロシアの存在に腹を立てていたアメリカ政府は、今や中国の存在にも向き合わねばならなくなった。だからアメリカ政府は結論を出した。カダフィは悪い連中と付き合っているので退陣させるべきだと。


 私は今まで、アメリカとNATO軍によるカダフィの追放は、リビアの石油が目当てだとばかり思ってきたのですが、実はもっと深い理由があったのです。「ドルによる世界支配」を維持し、「中国のアフリカ進出」を阻止することが、カダフィ追放の真の理由だったのです。
 では、何を口実に、どのような手段で、カダフィを追放するか。それがアメリカにとって次の問題になります。米軍が直接、アフリカに乗りだしてリビアを破壊するのでは、世界の世論はもちろんのこと、アフガン戦争やイラク戦争に嫌悪感が強くなっているアメリカの世論も賛成しないでしょう。ではどうするか。それをロバーツ氏は先のブログで次のように説明しています。

 アメリカ政府はイスラム原理主義者を使って傭兵を編成し、シリアでと同様、連中を『反政府派』と名付け、リビア政府にけしかけた。
 カダフィ軍が勝っていることが明らかになると、アメリカ政府は、初心(うぶ)で騙(だま)されやすいロシアと中国の政府を罠(わな)にかけ、国連でリビア領空に飛行禁止空域を設定することを認めさせた。それを実行するのはNATO軍だ。
 飛行禁止空域の口実は、カダフィによる民間人攻撃を防ぐためということだった。しかしそれは嘘だった。本当の理由は、主権国家のリビアが自分の領空を使えないようにして、傭兵と戦っている地上軍をリビア空軍が支援できないようにするためだった。
ロシアと中国がこれに騙されて、安全保障理事会の議決で拒否権を行使しそこねると、今度はアメリカとNATO自身が、決議に違反してNATOの空軍力を用いてカダフィ軍を攻撃した。こうして戦局はCIAが組織した傭兵に有利になった。
カダフィは捕らわれ惨殺された。それ以来、かつて繁栄し成功していた国家リビアは混乱・混沌の極みだ。それは、オバマ政権が望んでいたものだ。


 ところが今やイギリスでは議会による調査報告書が、「カダフィが欧米の覇権にとっての障害と見なされていたがゆえにリビアは破壊された」と明白に結論づけているのです。だからこそ、ロバーツ氏は上記のブログを次のように締めくくっているのでしょう。

 注目すべきなのは、ニュルンベルク裁判をもとにした国際法では、彼女が有罪であることは明らかなのに、この戦争犯罪について、この「殺人婆(ばばあ)」(killer bitch)に質問したマスコミは皆無だということだ。
 なぜなら、この戦争はヒラリーが国務長官の職に就いているときに、彼女の監督下で準備されたものだからだ。
 もうひとつ注目すべきなのは、この「殺人婆」を所有している巨大な政治力を持ったひと握りの集団オリガーキーと、連中の手先である「売(ばい)女(た)マスコミ」(presstitute=press+prostitute)は、この戦犯を次期アメリカ大統領にするつもりだということだ。


 この「殺人婆(ばばあ)」や「売女(ばいた)マスコミ」という言葉づかいのなかに、元アメリカ財務省高官だったロバーツ氏の憤りが伝わってくるような気がします。
 ヒラリー女史にたいする怒りもさることながら、ロバーツ氏の大きな怒りは、トランプ叩きに終始しているアメリカの大手マスコミにも向けられているのです。
 それにしても、実名で公けにしているブログなのに、よくぞここまで大胆に言い切れるものだと、その勇気に感心・感動しました。日本の元政府高官に、このようなひとはいるのでしょうか。私は寡聞にして知りません。  *
 以上で「シリアに飛行禁止区域を!」と主張するヒラリー女史の冷酷さ・好戦性が少しは分かっていただけたかと思いますが、これだけでは、リビア空爆の残酷さや戦犯性が今少し伝わりにくいように思いますので、そのようすを物理化学者・藤永茂氏のブログ「私の闇の奥」から引用して紹介したいと思います。
 このブログの日付は「二〇一一年八月三一日」となっています。カダフィが惨殺されたのは一〇月二〇日ですから、そのことを念頭において読んでいただければと思います。
 

 いま、リビアについての我々の関心は(好奇心は)、カダフィが何処でどのようにして捕まり、どのように処分されるかに釘付けにされているようですが、我々の本当の関心は、今回のリビア内戦でNATOが何をしたか、何をしているかに集中されるべきだと私は考えます。
 カダフィの政府軍による大虐殺からリビア国民を守るという名目の下に開始されたNATOによるリビア空爆は、想像を絶する物凄さで行なわれました。八月二三日のNATOの公式発表によると、過去五ヶ月間にNATO空軍機の出撃回数は二万回を超えました。一日あたり一三〇回の物凄さです。
 対地攻撃を行なった戦闘爆撃機が一機に複数の爆弾や誘導ミサイルを搭載しているとすると、正確激烈な破壊力を持った数万の爆弾やミサイルがリビアの人々の上に降り注いだことになります。
 リビアの人口約六五〇万人、人口的には福岡県と佐賀県を合わせた位の小国です。ミサイルの標的が戦車であれ、輸送車両、船舶であれ、カダフィの住宅であれ、放送局、大学であれ、無人ではない場合が普通でしょうから、多数の人間が殺傷されたに違いありません。八月上旬に、NATO空爆による死者二万という報道がちらりと流れたことがありましたが、あり得ない数字ではありません。
 しかも、NATOの反政府軍支援は空爆に限られたわけではありません。大型ヘリコプターなどによる兵器、弾薬、物資の補給も行なわれ、地上でも多数のNATOやCIAの要員が間接的に参戦した模様です。しかし、こうしたNATOの活動の具体的報道は殆ど完全な管制下にあります。
 これだけの規模の軍事暴力が、国際法的には全く合法性のないままで(UNの決議内容をはるかに超えて)、人口数百万の小独立国に襲いかかったのです。まことに言語道断の恐るべき前例が確立されました。カダフィと息子たちの今後の命運など、この暴虐行為の歴史的意義に較べれば、三面記事の値打ちしかありません。


 これを読んでいただければ、ロバーツ氏が先に、「注目すべきなのは、ニュルンベルク裁判をもとにした国際法では彼女が有罪であることは明らかなのに、この戦争犯罪について殺人婆(killer bitch)に質問したマスコミは皆無だということだ」と言っていたことの意味が、改めてよく理解できるのではないでしょうか。
 そして、満面に笑みを浮かべて「来た・見た・死んだ」と言ったヒラリー女史にたいして、ロバーツ氏が悪罵を投げつけたくなった理由も。

 それにしても、藤永氏は一九二六年生まれですから、二〇一六年一一月の現在で、氏は九〇歳前後のはずです。
 九州大学やカナダのアルバータ大学で教鞭を執っていた一流の物理化学者でありながら、老体にむち打ちつつ、NHKや朝日新聞などの大手メディアが目をつむって通り過ぎている事実を掘り起こし、上記ブログを通じてそれを私たちに伝える仕事を続けておられます。
 唯々(ただただ)、頭が下がります。

 ところでリビアの事態は、単にカダフィの惨殺に終わったわけではありませんでした。
 前述のとおり、この戦争は全土を瓦礫に変え、「リビアの民主化」どころか大量の死者と難民をうみだしただけでした。そしてリビアはいまだに混沌の極致にあります。
 そのうえ今度は、このような惨劇をシリアに輸出しようとしているのがヒラリー女史なのです。
 それは単に彼女が「シリアにも飛行禁止区域を!」と叫んでいるからだけではありません。リビアで使ったイスラム原理主義集団を、実際にシリアに輸出しようとしてきたのが、ヒラリー女史を外交政策の責任者とするアメリカだったからです。
 この間の事情を櫻井ジャーナル(二〇一六年八月二〇日)は次のように伝えています。

  カダフィ体制が倒された直後、リビアのベンガジでは裁判所の建物にアル・カイダの旗が掲げられ、その映像がユーチューブにアップロードされた。その事実をイギリスのデイリー・メイル紙でさえ、伝えている。リビアを侵略した軍隊は空がNATO軍、地上はアル・カイダ系のLIFG(リビア・イスラム戦闘団)だった。
リビアを破壊した後、侵略軍はリビア軍の倉庫から武器/兵器を持ち出してトルコへ運んでいる。勿論、戦闘員も同じように移動した。調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュによると、輸送の拠点になったのはベンガジにあるCIAの施設。輸送にはマークを消したNATOの輸送機が使われたとも伝えられている。
運び出された武器/兵器の中に化学兵器も含まれ、これをシリアで使い、政府軍に責任をなすりつけてNATO軍が直接、シリアへ軍事介入する口実にしようとしたと言われている。
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/20160820/


 これを読むと、リビアから傭兵集団が兵器もろともトルコを経由してシリアに輸送されていることが分かります。
 しかも輸送の拠点になったのはベンガジにあるCIAの施設で、輸送にはマークを消したNATOの輸送機が使われたというのですから、二重の驚きです。というよりも二重の犯罪と言うべきかも知れません。
 それはともかく、櫻井ジャーナルの説明は次のように続いています。

 そうした武器や戦闘員の輸送をアメリカ国務省は黙認した。二〇〇九年一月から一三年二月まで国務長官を務めたヒラリー・クリントンもこの工作を知っていたはず。
 しかも、クリントンの部下にあたるクリストファー・スティーブンス大使は二〇一二年九月一〇日、CIAの武器輸送担当者と会談、その翌日には武器を輸送する海運会社の人間と会っている。勿論、武器はトルコ経由でシリアの侵略軍へ渡される手はずになっていた。
 その九月一一日にベンガジのアメリカ領事館が襲撃されてスティーブンス大使が殺されている。リビア議会が首相を指名する前日だ。その二カ月後にCIA長官を辞めたデイビッド・ペトレイアスはヒラリーと緊密な関係にあることで知られ、このルートからもシリアでの工作を知らされていたはずだ。


 これを読むと、アメリカ大使館や領事館はCIAの拠点になっていることがよく分かります。日本のアメリカ大使館や領事館も同じ機能を果たしているのでしょうか。
 しかし、ここでもっと重大なのは、その領事館が襲撃されてスティーブンス大使が殺されていることです。ヒラリー国務長官が公的なメールサーバーを使わずハッカー攻撃に弱い私的メールを使ったことが、大使殺害につながったかもしれないのです。
 あるいは、うがった見方をすれば、このような極秘事項を手配した人物だけに、それを外部に知られては困るから、密かにテロリスト=傭兵集団に頼んで大使を消してもらったのでしょうか。
 櫻井ジャーナルは、これについては何も述べていないのですが、この私の仮説が正しければ、これほど身の毛のよだつ話はないでしょう。櫻井氏は、これに続けて次のように述べているだけです。

 クリントンは戦争犯罪人と言われても仕方のないようなことをしてきたわけだが、欧米の支配層はクリントンを支持してきた。投機家で体制転覆に多額の資金を提供してきたジョージ・ソロスも支援者のひとり。
この支配層は軍事的に世界制覇を進めるだけでなく、巨大資本が国や国際機関を支配する仕組みを作り上げようとしている。それがTPP(環太平洋連携協定)、TPIP(環大西洋貿易投資協定)、そしてTiSA(新サービス貿易協定)の三点セットだ。


ヒラリー女史の好戦性、あるいはヒラリー女史が大統領になると、なぜ第三次世界大戦になる危険性があるかは、以上の説明で、かなり分かっていただけたのではないかと思います。
 しかし彼女の好戦的履歴は、このリビア爆撃にとどまるものではありません。
 とはいえ、本稿もすでにかなり長くなってきていますので、以下ではその略歴だけを紹介して、この論考を閉じたいと思います。以下の引用は先の櫻井ジャーナル(同日付け)からのものです。

 ウィキリークスによる電子メールのハッキング情報が続いている。今回は投機家で体制転覆に多額の資金を提供してきたジョージ・ソロスだ。
 彼がターゲット国の体制を転覆させるために使っているオープン・ソサエティ基金もハッキングされたという。そうした電子メールの中には、ソロスがヒラリー・クリントンに対してユーゴスラビア=アルバニア情勢に対する対処の仕方をアドバイスするものがある。そのメールが書かれたのは二〇一一年一月二四日で、国務長官だったクリントンはソロスのアドバイスに従って動いたようだ。
ヒラリー・クリントンは夫が大統領だった一九九〇年代、マデリーン・オルブライト(国連大使から国務長官)やビクトリア・ヌランド(国務副長官の首席補佐官)と連携して政権をユーゴスラビアに対する先制攻撃へと導いているが、その背後にソロスがいたということだろう。国務長官に就任したオルブライトが主導する形で一九九九年三月にNATO軍は偽情報で環境作りをしながらユーゴスラビアを先制攻撃、ひとつの国を破壊した。


 上記に登場するマデリーン・オルブライトとビクトリア・ヌランドという二人の女性は好戦的人物として有名ですが、この二人を、戦争にあまり乗り気ではなかった夫のビル・クリントンに紹介し強引に新しい国務長官や国務副長官の首席補佐官に据え付けたのも、ファーストレディだったヒラリー女史だったと言われています。
 オルブライト国務長官は、ビル・クリントンに焚きつけて、ユーゴスラビアを爆撃・解体した張本人ですし、湾岸戦争のあとのイラクにたいする経済制裁で五〇万人の子どもたちを死に追いやった(しかもインタビューで「その価値はあった」と答えた)人物としても有名です。
 またヌーランドは国次官補になってあと、最近のウクライナにおけるクーデターを裏で指揮し、内紛を平和的に解決しようとしたEUを「FU*K、EU」と罵ったことでもよく知られた人物です。新しい内閣も彼女が指名した人物が首相になっています。
 ですから、ヒラリー女史のタカ派ぶりは、ここでみごとに発揮されていると言えます。
 櫻井ジャーナルの叙述は、さらに次のように続いています。

 二〇〇三年一一月にはジョージア(グルジア)で「バラ革命」、〇四年から〇五年にかけてはウクライナで「オレンジ革命」があり、新自由主義体制になった。当然、一部のグループが不正な手段で国民の財産を奪って莫大な富を築き、その後ろ盾になっていた西側の巨大資本も利益や利権を手にした。こうした「革命」でもソロスはスポンサーとしての役割を果たしていた。
言うまでもなく両国の庶民は貧困化、そうした状況への怒りからソロスたち西側の富豪や巨大資本にとって好ましくない方向へ動いた。そこで仕掛けられたのがウクライナ首都キエフのクーデター。二〇一四年二月二二日、ネオ・ナチ(ステファン・バンデラ派)を主力とするグループがビクトル・ヤヌコビッチ大統領を暴力的に排除している。そのクーデターを現場で指揮していたのがヌランド国務次官補だった。クリントンは二〇一三年二月に国務長官を辞めているが、ヌランドは彼女の同志だ。


 私は「バラ革命」や「オレンジ革命」のニュースを聞いたとき、旧ソ連圏の東ヨーロッパで、新しい民衆運動が起きているものと信じていました。
 しかし今から考えると、実に巧妙に仕組まれた「偽の民衆革命」だったのです。これは一種のクーデターでした。
 しかも、このクーデターは東欧だけにとどまりませんでした。ヒラリー国務長官のもとで、クーデターは中米にまで飛び火していました。あの悪名高いブッシュ大統領ですら、やらなかったことです。以下の櫻井氏による説明は次のようになっています。

 クリントンが長官に就任したのはバラク・オバマが大統領に就任した二〇〇九年一月のことだが、その年の六月にホンジュラスで実行されたクーデターでクリントンは黒幕的な役割を果たしたと言われている。約一〇〇名の兵士が大統領官邸を襲い、マヌエル・セラヤ大統領を拉致し、コスタ・リカへ連れ去っている。
現地のアメリカ大使館は国務省に対し、クーデターは軍、最高裁、そして国会が仕組んだ陰謀であり、違法で憲法にも違反していると報告している。つまり、クーデター政権には正当性がないと明言した。
 このクーデター政権は翌二〇一〇年、最初の半年だけで約三〇〇〇名を殺害したとも報告されている。そのクーデターの背後にクリントン長官がいたということだ。


 以上で櫻井ジャーナルからの引用を終えます。まだまだヒラリー女史の好戦性・冷酷さを示す事例に事欠かないのですが、長くなりすぎていますので、ひとまずここで筆をおきます。今のアメリカ情勢を理解する一助にしていただければ幸いです。
 ただ一つだけ付け加えておきたいことがあります。それはアメリカの民衆が、知れば知るほどヒラリー女史に嫌気がさしているのに、他方の大手メディアがトランプ叩きに終始しているという事実です。
 これでは、アメリカ民衆は「どちらがワルとして我慢できるか」という選択肢しか残されていないことになります。これはアメリカ史上。最悪の大統領選挙と言えるでしょう。
 ただ私たち日本人に一つだけメリットがあるとすれば、今までアメリカは理想の国、民主主義のモデル国だと思われていたのに、それは虚像に過ぎなかったことが、この選挙戦を通じて見えてきたことではないでしょうか。

<註1> ヒラリー女史が「来た・見た・死んだ」と嬉しげに言っている映像は、次のURLで見ることが出来ます。
https://www.youtube.com/watch?v=Fgcd1ghag5Y
<註2> 物理化学者・藤永茂氏の著書には、『分子軌道法』(岩波書店)などといった専門書の他に、『アメリカ・インディアン悲史』(朝日選書)、『アメリカン・ドリームという悪夢、建国神話の偽善と二つの原罪』(三交社)やジョゼフ・コンラッド『闇の奥』(藤永・訳、三交社)といった専門外の本も少なくありません。
 私が藤永氏を初めて知ったのは、二〇年近くも前に、『アメリカ・インディアン悲史』を読んだときでした。なぜ物理化学者がアメリカ先住民の歴史を書くのか、そのときは理解できませんでしたが、これを書かざるを得なかった氏の気持ちがヒシヒシと伝わってくる名著でした。
 それ以来、インディアン研究者の専門書を機会があれば目を通すのですが、藤永氏の本を超えるものに出会ったことがありません。
<註3> ポール・グレイグ・ロバーツのブログについては、「マスコミに載らない海外記事」に載っていた翻訳を参考にさせていただきました。しかし、原文をもとに私が大幅に手を加えてあります。



ヒラリー・クリントンとは誰か(上) ―アメリカ大統領選挙を目前にして

アメリカ理解(2016/11/06)、ヒラリー・クリントンの講演料、ドナルド・トランプ、シリア内戦、飛行禁止区域、マイケル・ムーアのスピーチ

ハリウッド、トランプ、WalkOfFame
ハリウッドの有名な大通りに刻まれたトランプ氏の名前を、破壊から守ろうとしてヒラリー支持者からカートごと倒されたホームレスの老齢黒人女性
https://www.rt.com/usa/364631-crowd-attacks-homeless-trump/

 アメリカの選挙情勢は一一月八日の投票日を目前にしながら混沌としています。
 というのは、オバマ大統領や民主党幹部・特権階級だけでなく金融街や大手メディアからも圧倒的な支援を得ながらも、世論調査ではヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏の支持率は拮抗しているからです。
 トランプ氏は共和党幹部からもアメリカの財界・支配層からも支持や援助を得ていないにもかかわらず、そして大手メディアから袋叩きにあいながらも、拮抗状態なのです。
 たとえば、民主党のヒラリー女史は、一九日に行われた最後のテレビ討論に出演しましたが、直後におこなわれたCNNテレビおよび世論調査機関ORCの調べでは、クリントン女史が勝ったと答えた回答者は五二%、反対にトランプ氏が上まわったと答えたのは三九%に留まっていました。
https://jp.sputniknews.com/us/201610202923228/
 ところがワシントン・タイムズ紙は、最後のテレビ討論に関する緊急調査で、同討論会で共和党の大統領候補ドナルド・トランプ氏がライバルのヒラリー・クリントン氏に圧勝したと報じているのです。
 同紙はサイト上で討論後に「最後の討論会、勝ったのはどっち?」という質問をおこなったのですが、討論の終了直後、トランプ氏には七七%または一万八二九〇票だったのに反し、ヒラリー女史には四一〇〇票または一七%しか集まりませんでした。
 その後しばらく経つと状況はさらに変わり、一〇月二〇日の日本時間一四時三五分にはトランプ氏三万二〇〇〇票(七四%)クリントン氏九〇〇〇票(二一%)となりました。
 ワシントン・タイムズは米国で最も著名かつ保守的な編集方針で知られていますから、新聞社のバイアスがかかっているのかも知れませんが、それにしても、トランプ氏は圧倒的な支持を得ているのです。
https://jp.sputniknews.com/us/201610202923228/
 さらに、米国大統領選挙まであと一六日という時点(一〇月二三日)でのロサンゼルス・タイムズの世論調査では、トランプ支持四四・四%、ヒラリーン支持四四・一%」という結果でした。
https://jp.sputniknews.com/us/201610242935467/
 ご覧のとおり、共和党トランプ氏と民主党ヒラリー女史の支持率は、ほぼ拮抗しているのです。


 さらに、もうひとつ面白い情報があります。「Sputnik日本」(一〇月二八日)は、イギリス高級紙インデペンデントからの情報として次のような記事を載せているのです。

 ニューヨーク大学のヘルムト・ノーポース教授は、自分の作った米大統領選結果予測モデルによると勝利するのは共和党のドナルド・トランプ候補であることを明らかにした。インディペンデント紙が報じている。
 ノーポース教授の開発した選挙結果予測モデルは一九九二年から今までの米大統領選挙の予測を二〇〇〇年の一度を除いて全て当てている。モデルは二〇〇〇年は民主党の勝利を予測したが、実際はフロリダ州の浮遊票を集め、共和党のジョージ・ブッシュ氏が当選した。
 さて今回だが、このモデルの予測ではプライマリーでより見事な演説を行なった候補者が勝利する。ノースポース氏の見解では、プライマリー(予備選)で勝利を収めたのはトランプ氏で、このことから選挙で勝利する確率は高い。
https://jp.sputniknews.com/us/201610282953757/


 トランプ氏は共和党幹部からもアメリカの財界・支配層からも支持や援助を得ていません。にもかかわらず、そして大手メディアから袋叩きにあいながらも、なぜこのように選挙で勝利する確率が高くなっているのでしょうか。
 それはヒラリー女史とトランプ氏の論争が進めば進むほど、ヒラリー女史の本性が民衆に分かり始めてきたことです。
 すでに民主党内の予備選でさえ、社会主義者を自称するバーニー・サンダース氏に追い上げられて、一時はサンダース氏が勝利するかも知れないと言われていたことすらあったのですが、民主党幹部の裏工作、大手メディアの加勢で何とか乗り切ることができました。この間の事情を櫻井ジャーナル(二〇一六年六月一七日)は次のように書いています。

 ところで、民主党幹部たちが昨年五月二六日の時点でヒラリー・クリントンを候補者にすると決めていたことを示唆する電子メールが公表されている。本ブログでは何度か取り上げたように、昨年六月一一日から一四日にかけてオーストリアで開かれたビルダーバーグ・グループの会合にヒラリーの旧友であるジム・メッシナが参加、欧米の支配層は彼女を大統領にする方向で動き出したと言われていたわけで、この電子メールの内容は驚きでない。
この内定を揺るがしたのがサンダース。急速に人気を集め、支持率はヒラリーと拮抗するまでになった。ただ、そうした動きが現れる前に選挙人登録は終わっていたため、支持率が投票に反映されたとは言い難い。例えば、四月に投票があったニューヨーク州の場合は昨年一〇月九日までに民主党と共和党のどちらを支持しているかを登録しておかないと予備選で投票できず、投票できなかった人が少なくない。
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/20160617/ 


 このニューヨーク州の事態については長周新聞二〇一六年五月四日で、私は「続・世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」と題して既に拙論を載せてあったのですが、サンダース氏の進出を阻止する動きがもっと露骨になったのはカリフォルニア州の予備選でした。
 それを櫻井ジャーナルは上記に続けて次のように書いています。

 支持政党を登録していなくても投票できるカリフォルニアで予備選が行われる直前の世論調査ではサンダースがクリントンをリード、幹部たちを慌てさせたようだ。民主党支持者ではサンダースが五七%、クリントンが四〇%、無所属の人ではそれぞれ六八%と二六%だとされている。
 そうした状況の中、予備選の前夜にAP通信は「クリントン勝利」を宣告した。「スーパー代議員(上位代議員、あるいは特別代議員と訳されている)」の投票予測でクリントンが圧倒し、勝利は確定しているというのだ。この「報道」がカリフォルニアにおける予備選でサンダースへの投票を減らしたことは間違いないだろう。
 カリフォルニア州の場合、本ブログではすでに紹介したように、投票妨害とも言えそうなことが行われていたという。政党の登録をしなかった人びとはサンダースを支持する人が多く、民主党の登録をしている人はヒラリー支持者が多いが、登録しているかしていないかで投票用紙が違う。
 投票所によっては投票用紙を受け取ろうとすると、政党無登録の人には予備選に投票できない用紙を自動的に渡す投票所があったという。投票するためには民主党支持変更用紙を要求しなければならない。予備選に投票するにはどうすべきかと尋ねられた係員は、政党無登録の人には民主党用の用紙は渡せないと答え、民主党支持変更用紙のことには触れないよう指示されていたケースもあったようだ。
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/20160617/


 こうした動きのなかで、突如、サンダース氏は選挙戦から降りると宣言し、勢いを増しつつあった支持者の運動や願いを裏切り、あろうことか「ヒラリー女史こそ大統領としてベストの候補者だ」という演説までもするようになりました。
 ではサンダース氏が今まで言ってきたこと、「ヒラリー女史はウォール街と一心同体であり富裕層の代弁者だ」という言はどこへ行ったのかと、支持者たちはやりきれない思いをしたに違いありません。
 ヒラリー女史および民主党幹部とサンダース氏の間に、裏でどんな取引があったのか分かりませんが、とにかくヒラリー女史はこうして無事に予備選をくぐり抜け、本選に挑むことができるようになりました。
 しかし相手は共和党のなかでさえ評判の悪いトランプ氏ですから、ヒラリー女史は本選では楽勝となり、「アメリカ史で初めての女性大統領」という栄冠を難なく手にすることができると思われていました。
 ところがウィキリークスがヒラリー女史や民主党幹部の裏舞台を暴露し始めた頃から雲行きが怪しくなってきました。
 元共和党政権の経済政策担当の財務次官補のポール・グレイグ・ロバーツは自分のブログ(二〇一六年一〇月五日)で、それを次のように書いています。

・・・。彼女は、ウオール街・巨大銀行・軍-安保複合体の巨大な政治力を有するひと握りの連中、および外国利益の集団によって買収されている。その証拠は、クリントンの12,000万ドルという個人資産と、二人の財団の160,000万ドルだ。ゴールドマン・サックスは、講演で語られた智恵に対して、ヒラリーの三回の20分講演に、675,000ドルを払ったわけではあるまい。・・・
*Washington Leads The World To War「世界を戦争へと導くワシントン」
http://www.paulcraigroberts.org/2016/10/05/washington-leads-the-world-to-war-paul-craig-roberts/


 上記で登場するゴールドマン・サックスは、二〇〇八年の世界金融危機の震源地のひとつとなった世界最大級の投資銀行です。そのように世界経済を破壊した機関で講演すること自体が問題ですが、その謝礼も私たち凡人の想像を絶する金額です。
 かつて私が大学教授として六〇~九〇分の講演をしても、その謝礼は三~五万円でしたから(ときには全く無料のものもあります)。ところがヒラリー女史は、そこで二〇分の講演を三回しただけで、六七万五〇〇〇ドル(約七〇〇〇万円)の謝礼です。つまり、一回二〇分で約二三〇〇万円もの大金がもらえるのですから、いかに破格の謝礼であるかがよくわかるはずです。
 だからこそ、世界金融危機につながった住宅ローン担保証券の不正販売を巡る事件は、ゴールドマン・サックスから誰一人として刑務所に送られたものはなく、二〇一六年一月に制裁金等三三億ドルと借り手救済金一八億ドルの和解金で決着してしまったのでしょう。世界最大級の投資銀行としては、おそらく、全くの端金(はしたがね)だったに違いありません。
 かつて民主党の支持基盤のひとつは労働組合だったのに、夫のビル・クリントンが大統領だったときにNAFTA(米国、カナダ・メキシコ三カ国による域内貿易自由化取り決め)によって、大企業がメキシコなどの国外へと移転して、労働者の多くは仕事を失いました。その結果、多くの労働組合が縮小・解体され、民主党は新しい財政基盤を必要とするようになりました。
 民主党が、労働者や一般民衆ではなく、財界や金融街に頼らざるを得なくなった物質的基盤は、このようなところにあります。自ら墓穴を掘ったと言うべきかも知れません。
 NAFTAを通じてビル・クリントンが追求した新自由主義政策は、貧富の格差を広げましたから、勤労者や貧困者から見れば、民主党というのは共和党と何も変わらない政党になったわけです。(日本の民進党と自民党も、全く同じ流れです。)


 このような貧困化しつつあるアメリカ民衆の不満を代弁したかたちで登場したのが、民主党ではバーニー・サンダース氏であり、共和党ではドナルド・トランプ氏でした。しかし先述のとおり、サンダース氏は支持者を裏切るかたちで選挙戦から身を引きました。しかしトランプ氏の場合、共和党の幹部・特権階級からの妨害をものともせず進撃しつつあります。
 そして、かつては黒人票は民主党のものと思われていたのに、トランプ氏は着実に黒人票をも獲得しつつあるようです。とくに貧困層の黒人は、ヒラリー女史に見切りをつけ、トランプ氏に流れているようです。最近それを象徴する事件がありました。
 映画産業で有名なハリウッドの大通りには、有名スターの名前が入った星形メダルが埋め込まれた街路「ウォーク・オブ・フェイム」があるのですが、そのひとつにトランプ氏の名前が刻み込まれています。
 ところがヒラリー女史の支持者が、この刻み込まれたトランプ氏の名前をツルハシで破壊する事件が起きました。それにたいして今度は、この刻み込まれたトランプ氏の名前を守ろうとして座り込む女性が現れました。
 しかし、ここにもうひとつの事件が起きます。この座り込んでいた一人の黒人女性(しかもホームレスの老いた黒人女性だった)にたいして、なんとヒラリー女史支持者たちが罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせかけ、彼女の衣類などが入っていたカートを彼女もろとも引っくり返して足蹴にする事件が起きたのです。
 そのうえ、なぜトランプを支持するかを書いた彼女のビラやポスターをずたずたに引き裂くようすがユーチューブに載せられたのでした。
 RT(二〇一六年一〇月二九日)の記事によれば、そのポスターのひとつには「オバマはクリントン一家に恩義を感じて我々黒人どもをバスの下に投げ込んでいる」といった文句が書かれていたそうです。
*Violent crowd attacks, insults homeless woman guarding Trump's Hollywood star
*「暴力的群衆が、ハリウッド大通りに刻まれたトランプ氏の名前を守る女性を、襲ったり辱めたりした」
https://www.rt.com/usa/364631-crowd-attacks-homeless-trump/


 ロサンゼルス・タイムズは、今やカリフォルニア州立大学[全部で二三校から成るが全体でひとつの大学機構]の学生の、一〇人に一人がホームレスだと報じ(二〇一六年六月二十日)驚かされましたが、このような事態を生み出した民主党の特権階級にたいする怒りが、ホームレスの老いた黒人女性を上記のような行動に駆り立てたのではないでしょうか。
*1 in 10 Cal State students is homeless, study finds
「カリフォルニア州立大学の10人に1人がホームレス」

http://www.latimes.com/local/lanow/la-me-cal-state-homelessness-20160620-snap-story.html
 オバマという、「アメリカ史上、初の黒人大統領」と持てはやされる人物を頭(かしら)にいだく民主党政権が、貧富の差を拡大させ、黒人どころか白人のホームレスまでもアメリカ全土に広がりつつあるのですから、実に皮肉と言えば皮肉です。


 このような事態を考えると、社会主義者を自称するサンダース氏が選挙戦から落馬した現在、共和党から出馬したトランプ氏がアメリカ民衆の怒りを一身に背負うことになってきたことは、ある意味で当然のこととも言えます。
 これを裏書きするような象徴的な爆弾が、映画監督マイケル・ムーアによって投げつけられました。ムーアと言えば、映画『華氏九一一』やアメリカ医療を鋭く告発した映画『シッコ』などで有名ですが、そのムーア監督が、今度はトランプ氏を題材とした映画『トランプ・ランド』をつくりました。その映画上演会のため訪れたオハイオで彼は次のようなスピーチをして聴衆を驚かせました。

 「トランプ氏に投票する人たちは、必ずしもそんなに彼が好きなわけではありませんし、必ずしも彼の意見に同意しているというわけでもありません。彼らは必ずしも人種差別主義者ではありませんし、白人の肉体労働者でもありません。じっさい彼らはかなり礼儀正しい人たちです」
 「ドナルド・トランプ氏はデトロイト経済同友会にやって来て、フォード社の経営陣の前に立ってこう言ったのです。『あなた方がデトロイトでやろうと計画しているように、これらの工場を閉鎖してメキシコで建て直すつもりなら、そしてそこで生産した車をアメリカに送り返すなら、私はそれらの車に三五パーセントの関税率をつけるつもりだ。そうすれば誰もそれらを買わないだろう』」
 「それは、驚くべきことでした。政治家の誰も、共和党員であれ民主党員であれ、これまでに誰もそんなことを、これらの経営陣に言ったものはいません。それは、ミシガン州、オハイオ州、ペンシルバニア州、ウィスコンシン州の民衆の耳には実に心地よい調べだったでしょう。Brexitの諸州、つまりアメリカから脱出しようとする大企業の存在する州では、民衆は同じ思いで聴くでしょう」
 「トランプ氏の言っていることが本気かどうかは、ここではあまり関係がありません。なぜなら、それは傷ついている人々が聴きたいと思っていたことだからです。だからこそ、あらゆる打ちのめされて役立たずになり忘れさられた一般労働者、いわゆる中流階級の一部を成す人々のすべてが、トランプ氏を好きになるのです」
 「トランプ氏は、そのような人たちの待ち望んでいた人間火焔瓶・人間手榴弾なのです。彼らは、自分たちから生活を盗み奪った組織や機構に、それを投げ込むことができるからです」
 「そして一一月八日は選挙の投票日です。民衆・勤労者は仕事を失い、銀行によって家を差し押さえされ、次にやってきたのが離婚。今や妻と子供は去って自分のところにはいない。そして車も回収・没収。彼らは何年ものあいだ本当の休暇をとったことがない。くそにもならないオバマケア(医療保険改革法)ブロンズプランは、お先真っ暗。この保険では解熱剤すら手に入らない。要するに彼らは持てるもの全てを失ったのです。民衆の手に残されたものがひとつだけあります。それをもつには一セントのお金すら必要ありません。それは合州国憲法によって所有が保証されているからです。それが投票権です」
*Michael Moore just gave the most convincing speech for Trump
*「マイケル・ムーアが、今までのなかで最も説得力のある演説を、トランプ氏のためにおこなった」

http://redalertpolitics.com/2016/10/26/michael-moore-just-gave-convincing-speech-trump-video/#dJRVoxe3kmvHf6MJ.99


 ムーア監督のスピーチは、まだ続いているのですが長くなるので、翻訳はここで止めます。今までサンダースを支援していたムーア監督が、ことここに至って、このようなスピーチをせざるを得なくなった悔しさがにじみ出ているようなスピーチではありませんか。
 ゼネラルモーターズの生産拠点の一つであったミシガン州フリントで生まれたムーア監督が、故郷フリントの自動車工場が閉鎖され失業者が増大したことを題材にしたドキュメンタリーの名作『ロジャー&ミー』をつくっているだけに、この無念さはひとしおだったことでしょう。


 さて、このようなトランプ氏の動きに対してヒラリー女史はどのように対応したでしょうか。
 最初は財界寄りの政策でしたがサンダースの打ち出す政策が民主党の若者や貧困層の支持を得て自分が劣勢になりそうなのに気づいて、TPPなど民衆の生活を破壊する政策に反対を表明するように変わってきました。
 しかし最近のウィキリークスが暴露したところによると、「政治家は表の顔と裏の顔があるのは当然だ」とする意見を彼女は身内のものに漏らしています。さらに予備選では「左寄りの政策を掲げても本選では右に戻せばよい」とも語っています。
 もっと恐ろしいことには、RT(二〇一六年一〇月二九日)の記事によれば、彼女は『Jewish Press』というユダヤ人のための週刊紙のインタビューで、「パレスチナの選挙に裏工作をしてファタハを勝たせるべきだった、そうすればハマスの一派が勝利することはなかった」とすら述べています。
*Clinton bemoans US not rigging 2006 Palestinian election in newly-released tape
*「クリントンは、新しく公開されたテープ録音のなかで、二〇〇六年のパレスチナにおける選挙で不正操作しなかったことを、悔いている」

https://www.rt.com/usa/364628-clinton-rigging-palestine-tape/


 このようにヒラリー女史は、他国の選挙に干渉して傀儡(かいらい)政権をつくることを何ら悪いことだと思っていないのです。
 二〇一四年年のウクライナ政変では、彼女の盟友であるヌーランド国務次官補が、米国ウクライナ大使と一緒になって反政府デモに加わり、デモ参加者にお菓子を配って歩いている光景が堂々とテレビ画面に登場していますが、これほど露骨な内政干渉はないでしょう。
 (ロシアの外務省高官や在米大使館員が、ニューヨークその他のデモや集会、座り込みテントに参加して、差し入れなどすれば、アメリカがどんな態度をとるか。想像してみればすぐ分かることです。)
 ところがトランプ氏との論争になると、ヒラリー女史は、政策をめぐる論争はほとんどやめてしまい、「トランプ氏はプーチンの操り人形だ」とか「ウィキリークスによるヒラリー関係のメール暴露は、プーチンがアメリカのコンピュータに侵入してウィキリークスに渡したものだ」といった主張を繰りかえすだけになってしまいました。政策論争ではトランプ氏と争っても勝ち目がないということを自ら認めたに等しいでしょう。
 それどころか、自分が国務長官として公的なメールサーバーを使うべきだったのに、私的サーバーを使って外部から侵入しやすくなったことにたいする反省もありませんし、その漏れた国家的重要機密情報が、リビアのアメリカ大使館に勤務する大使その他の職員を死に至らしめる結果になったかも知れないのに、そのことにたいする反省もありません。
 もっと奇妙なのは、このように私的サーバーを使って最高機密情報を漏らした当人は、FBIから訴追されることもなく堂々と選挙に出馬できているという事態です。イラクにおける米軍の悪事を暴いたマニング上等兵が牢獄につながれ元情報機関職員だったスノーデンが亡命に追い込まれたのとは、天と地の違いです。「悪いやつほどよく眠る」の典型例と言うべきかも知れません。


 ここまでは、ドナルド・トランプ氏と比較しながらながら、アメリカの国内政策を中心にして「ヒラリー・クリントンとは誰か」を論じてきたのですが、以下では外交政策をとりあげてヒラリー女史の問題点を探ってみたいと思います。
 しかし、これを論じていると長大なものになる予感がするので、今回は幹の部分だけを紹介して詳しくは次回に譲りたいと思います。
 それはともかく、ヒラリー女史とトランプ氏の外交政策における最大の違いは、ロシアとどう対峙するかという問題です。いまアメリカはシリアにおける内戦をどう解決するかという点で、ロシアと鋭く対立しているからです。
 いまヒラリー女史がシリア情勢で強く主張しているのは「リビア内戦時と同じようにシリアにおいても飛行禁止区域をもうけるべきだ」ということです。その理由としてあげられているのが、「ロシア軍とシリア政府軍がシリア第二の大都市アレッポを無差別に爆撃し一般市民からたくさんの犠牲者が出ているから」という口実です。
 これにたいしてトランプ氏は次のように主張しています。
 「アメリカは他国に内政干渉したり政権転覆に手を出すべきではない。国内には問題が山積していて他国に手を出す余裕などないはずだ」
 「今はロシアと手をつないで、『アルカイダ』『イスラム国』といったテロリスト=イスラム原理主義者集団をシリアから追い出すべきだ」
 これに関してロシアもシリア政府も、「リビア内戦時と同じようにシリアにおいても飛行禁止区域をもうけるべきだという主張は、シリアをリビアと同じような混乱に陥れ、シリアを破壊・解体して、さらに死傷者と難民を激増させるだけだ。休戦地帯をもうけろと言う主張は、テロと戦うという名目でアサド政権をつぶそうとする隠れ蓑にすぎない」と反論しています。
 この飛行禁止区域の設定については、ロシアもシリア政府も次のように主張し、アメリカの要求をきっぱりと退ける姿勢を示しています。
 「アレッポの東部地区を占拠して一般市民を『人間の盾』としながら休戦協定を無視してアレッポの西部地区の一般市民を無差別に攻撃しているのは、むしろ反政府勢力のほうだ。しかも彼らはアメリカの主張する『穏健派』どころか、『アルカイダ』『イスラム国』の一派であり、シリアには『穏健派』など存在しない」


 ですから、このまま緊張状態が続けば、アメリカ軍とロシア軍との直接的な戦闘になり、いつ世界大戦になるか、いつ核戦争になるか分からない情勢です。トランプ氏は『アルカイダ』『イスラム国』といった過激なイスラム原理集団をつくり出したのは、アメリカなのだから、そのような政策から手を引くべきだ」と言っているのですから、今までの感覚でアメリカを見ていたひとたちは頭が混乱するかも知れません。
 というのは、従来の図式からすれば、民主党=リベラル=ハト派であり、共和党=保守派=タカ派なのに、ヒラリー女史の方がトランプ氏よりはるかに好戦的だからです。 トランプ氏は、ロイター通信(二〇一六年一〇月二五日)によれば、「ヒラリー氏が大統領になれば第三次世界大戦になりかねない」とすら主張しているのです。
 これはトランプ氏の単なる選挙戦術のようにもみえますが、同じ警告はあちこちから聞こえてきます。
 すでに前半で紹介したように、元共和党政権の経済政策担当の財務次官補だったポール・グレイグ・ロバーツは自分のブログ(二〇一六年一〇月五日)で、下記のような「戦争に導くワシントン」という記事を書いてています。
*Washington Leads The World To War「世界を戦争へと導くワシントン」
http://www.paulcraigroberts.org/2016/10/05/washington-leads-the-world-to-war-paul-craig-roberts/
 またイギリスの保守的高級紙と言われるインデペンデント紙(二〇一六年一〇月二五日)も次のような論文を載せています。
*Could Hillary Clinton start a world war? Sure as hell she could ? and here's how
*「ヒラリー・クリントンは世界大戦を始める可能性があるか?確かにそうだ。それはこうして始まる」

http://www.independent.co.uk/voices/could-hillary-start-a-world-war-sure-as-hell-she-could-and-here-s-how-a7379051.html
 どちらかというと今まではトランプに批判的だったインデペンデント紙がこのような論説を載せるようになったこと自体が、現在の情勢がいかに緊迫しているかをしめすものではないでしょうか


 もっと驚いたことには、調べてみると既に四月の時点で、クリントン氏の自叙伝の著者ディアナ・ジョンストン氏は、イタリアのイオ・ジョルナーレ紙のインタビューで、「クリントン氏の大統領選の勝利は、第三次世界大戦の勃発も含め予想外の結果をもたらす可能性がある」と語っているのです。
 RTの記事(二〇一六年四月二九日)によると、ジョンストン氏は次のように語っています。

クリントン氏がまだ国務長官に在任していた頃、押しの強い外交政策を掲げていた。クリントン氏はアメリカのイラク侵攻及びリビアでの戦争参加を支持し、そして現在はシリアのバッシャール・アサド大統領に反対する姿勢を支持している。これに加え、クリントン氏は反ロシア的見解に固執している。世界は不安を呼び起こすような選挙公約を掲げるクリントン氏の「積極的な活動」に対して用心するべきだ。クリントン氏は外交の代わりに軍事力を用い、あらゆる事件が第三次世界大戦を引き起こしかねないほどにNATOを強化するつもりである。
https://jp.sputniknews.com/us/201604292050173/


 このように、今まさに世界はアメリカ大統領選挙を前にして「伸るか反るか」の曲がり角に来ているのです。にもかかわらず、アメリカや日本の、リベラルを自称する知識人も大手メディアも、「アメリカ史上、初の女性大統領」という殺し文句に惑わされて、現在の深刻な事態が見えなくなっているように思われます。
 しかし現在の事態の深刻さを理解してもらうためには、ヒラリー女史が国務長官だったときだけでなく、それ以前に外交政策で彼女が何を主張し、どのような行動をとってきたかを、もっと詳しく説明する必要があります。
 とはいえ、すでに長くなりすぎていますので、これについては、次回の論考に譲りたいと思います。



アメリカ大統領選挙と、英語教材『ヒラリー・クリントンの就任(!?)演説』

アメリカ理解(2016/10/22)、予備選挙(primary)、党員集会(caucus)、選挙人登録制度、特別代議員制度(superdelegates)、有権者ID法(Voter ID Law)

英光社2017 「女性大統領ヒラリー演説」


 先日、英語教育の教材を販売する出版社6社から、共同で、2017年用の教材宣伝パンフを入れた封筒が届きました。なかを開いてみて驚きました。
 というのは英光社のパンフの冒頭に、「新刊」「全冊CD付き」「グローバル英語総合教材」と銘打って、ホワイトハウスの写真と次のような大きな文字の宣伝文句が、見開き2頁を飾っていたからです。

ヒラリー・クリントン大統領就任演説
Inaugural Address by Hillary Clinton


 まだ大統領選挙が終わってもいないのに、もうヒラリーが「アメリカ初の女性大統領」として紹介されているのです。上記の写真を御覧いただければお分かりのように、宣伝文句には次のような解説が付いています。

ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)は、中西部のイリノイ州生まれ。第42代アメリカ大統領Bill Clinton(在任1993~2001)の妻。女性として初めてのアメリカ大統領ですし、また夫婦とも就任するのも初めてです。娘にチエルシーさん。旧姓はHillary Rodhamです。日本でも人気が高く、親日家であり、来日した折に東京大学でタウンミーティングをしました。


 この教材をつくった英光社としては、結果を見るまでもなくアメリ大統領の選挙戦はヒラリーが当選するに決まっていると考えたのでしょう。一刻も早く他社を出し抜いて、この冊子を大学用教材として採用してもらおうと企画したに違いありません。
 アメリカの大手メディアを見ていると、ほとんどすべてがヒラリー支持で一致し、トランプ叩きに終始していますから(そして日本の大手メディアも、それと同じ報道をしていますから)、そう考えても当然とも言えます。
 しかし、少しでも注意深くアメリカの選挙情勢を見ていれば、ヒラリー優勢という報道がまったく捏造されたものであることは、民主党の対抗馬であったサンダース候補の主張がアメリカ国民の心を捉え、破竹の勢いでヒラリー女史を追い上げていたことでも明らかでした。
 しかもアメリカ各地で不正選挙がおこなわれ、それがサンダース候補の進路を阻んでいたことは、私のブログでも指摘したとおりです。
 ですから大手メディアがサンダース候補の主張を正しく伝え、民主党幹部による選挙の不正を大胆に暴いていれば、今の選挙戦はまったく違ったもの(サンダース対トランプという構図)になっていたでしょう。
 しかしサンダースの主張や民主党幹部による選挙の不正は、弱小の代替メディアによってしか伝えられてきませんでしたから(そして最終的にはサンダース候補が勢いを増しつつあった支持者を裏切るかたちで選挙戦を途中で降りてしまいましたから)、アメリカ国民には、最悪の選択肢しか残されなくなりました。
 つまり「ヒラリー対トランプ」「より悪いのはどちらか」という選択肢しか残されなくなったのです。
 日本人にとって一般的なイメージは、「民主党=リベラル、進歩的」「共和党=右翼、保守的」ですから、その進歩的陣営の代表であるヒラリー・クリントンのどこが問題かと思われるかも知れません。
 残念なことに、NHKを初めとする日本の大手メディアもそのような報道をしていますから、私の知っているかぎり、進歩的知識人と言われる大学教師もほとんど同じ認識です。この英光社の教材を編集した人物(鈴木邦成)も、調べてみると「物流エコノミスト、日本大学教授」という肩書きが付いていました。
 ヒラリー女史のどこか問題なのか、その詳しい説明をしていると長くなりますので、それについては次回のブログにゆずりますが、「ヒラリー・クリントンという人物は、大統領になったときには、世界平和にとって、ドナルド・トランプよりもはるかに危険な人物になるだろう」ということだけをここでは指摘しておきたいと思います。


ところで、この英光社の教材には、「ヒラリー・クリントン大統領就任演説」だけでなく、「オバマ大統領の広島での演説全文」まで収録されています。そして上記写真の最後に宣伝文句として、「またオバマの広島での歴史的なスピ―チ(2016.5.27)も貴重です」と書かれています。
 しかし、このオバマ大統領の広島演説はノーベル平和賞の受賞演説にまさるとも劣らぬ偽善的なものでした。それを私は物理化学者・藤永茂氏の言を引用しつつ、ブログで次のように書きました。
 

・・・・・藤永氏は上記の引用に続けて、「ノーベル平和賞を受賞することになったプラハ講演で、核廃絶を悲願としてきた日本人の心をメロメロにしてしまったバラク・オバマという人物が、政治家として「稀代の大嘘つき」「稀代のコン・マン」(コンフィデンス・マン=詐欺師)であることを、これほど冷徹な筆致で断定した文章は、ざらには見当たらないでしょう」と述べています。
 あの温厚な藤永氏が、オバマ氏のことを「稀代の大嘘つき」「稀代のコン・マン」と述べていて驚かされましたが、それほど藤永氏の怒りが大きかったことを、この言葉遣いが示しているように思います。
 ところが、日本の大手メディアは、このような怒りをオバマ氏にたいして示すことは、ほとんどありませんでした。むしろ、その逆だったのです。「広島を訪問するアメリカ史上初の大統領」というわけです。
*オバマとは誰か―「アメリカ大統領による史上初の広島訪問」を考える
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-261.html (2016/05/21)


 ところが、英光社の編集部は、大手メディアの宣伝どおりに、オバマ大統領の広島演説を「歴史に残る名演説」として教材化し、間違った観念を学生の頭にすり込もうとしているのです。
 もちろん編集部は意図的にそうしているわけではないでしょうが、結果的に果たす役割は同じことです。むしろ「名演説を通じて英語を学ばせる最良の教材」という善意でやっているからこそ、逆に罪が深いとも言えるでしょう。
 というのは、意図的についた嘘というのは、「大量破壊兵器を口実としたイラク侵略」をみれば分かるように、意外と簡単にボロが出るものですが、本気で信じた嘘というものは、その本人からはボロが出にくいからです。
 これは、この本の編集者である鈴木邦成氏についても、同じことが言えるでしょう。たぶん鈴木氏も意図的に嘘をつこうと思ってこの教材を編集したわけではないでしょう。
 しかし、拙著『英語教育が亡びるとき――「英語で授業」のイデオロギー』で、私はしばしば「英語読みのアメリカ知らず」について言及しました。
 また有名な英文学者・中野好夫氏は、「英語大好き人間を『英語バカ』にする不思議な魔力」を英語という言語はもっている――という趣旨の発言をされたことがあります。
 上記のような教材を編集されるからには、鈴木邦成氏は英語がよくおできになるかただと思うのですが、私にはたぶん鈴木氏も同じ過ちに陥っているような気がします。
 というのは、英語関係の出版社としては老舗(しにせ)である研究社でさえ、やはり2017年度の教材として、下記のようなCD付きの教材を売り出しているからです。


研究社2017 「アメリカの名演説」


 ご覧のとおり、これにも、「俳優・政治家らの名演説を読んで聴いて、読解力・聴解力向上をはかろう!」という謳(うた)い文句で、ヒラリー・クリントンやバラク・オバマといった人物の演説が、みごとに収録されています。
 研究社という出版社は、もっと見識ある出版社だと思っていただけに、これは本当に残念なことです。
 このような状態が続くかぎり、日本は永遠にアメリカの属国状態から抜け出ることはできないでしょう。英語学習に打ち込めば打ち込むほど間違ったアメリカ観が刷り込まれていくのですから。


 とは言っても、「ヒラリー・クリントンとは誰か」「ヒラリーとはどんな過去を背負ってきた人物か」を説明しないかぎり、これまで私が述べてきたことは充分に納得してもらえないでしょう。
 そこで次回のブログでは、私の気力・体力が許すかぎり、この点について詳述したいと思います。一回では終わることができず連載になるかも知れません。


<註1> 下記のブログ「オバマとは誰か」については、その続編を9日後(2016/06/30)に書いています。併せて読んでいただければ、私の言っていることの趣旨をもっと理解していただけるのではないかと思います。
*オバマとは誰か―「アメリカ大統領による史上初の広島訪問」を考える
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-261.html (2016/05/21)
*オバマ大統領の広島訪問、物理化学者・藤永茂氏いわく「稀代のコン・マン=詐欺師」
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-265.html (2016/06/30)

<註2> 日本が敗戦したあとに占領軍として乗り込んできたアメリカは、「留学と英語教育」を武器として、京都大学をひとつの拠点としながら、日本人の洗脳工作に取り組みました。その経過を私は下記の拙著『英語で大学が亡びるとき』第2章第3節で詳細に紹介しました。
    「対日文化工作」としての英語教育―京都大学の「国際化」路線を、歴史的視点で再考する
 時間がある方は、上記の文献も参照していただければ有り難いと思います。そうすれば、今の日本が「英語で授業」という新指導要領に縛られたり、文科省の言う「国際化」という口実で、旧制帝国大学だけでなく、少なからぬ国立大学や私立大学が、専門科目や大学院どころか教養科目までも英語漬けにされている実状(その危険性)を理解していただけるものと思っています。




続・混沌を極めるアメリカの大統領選挙

アメリカ理解(2016/05/27)、「選挙人登録制度」、「特別代議員制度」、「世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」、


 トランプ支持の白人貧困層
トランプの支持者たち 5746d00dc461881c488b45a8_convert_20160528161334
https://www.rt.com/op-edge/344469-trump-protests-anaheim-albuquerque/


 昨日のブログで、いま混沌を極めているアメリカの大統領選挙について簡単に紹介し、同時に長周新聞に載った拙論「続・世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」のPDF版も載せました。
 すると、「どうせ載せるのであれば続編だけではなく正編も載せておいた方が読者には助かる」との便りがありました。
 そこで今回は、いま混沌を極めているアメリカの大統領選挙について若干の補足を加えたうえで、最後に拙論「世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」のPDF版を掲載しておくことにします。
 さて、私は前回のブログで次のように書きました。

クリントン女史が表向き優勢なのは、特権層の利益を維持するための「選挙人登録制度」や「特別代議員制度」など、不公正なアメリカの選挙制度によるところが非常に大きいからです。


 はした金で買えるような安物を万引きしたという理由で黒人貧困層は刑務所送りになっています。
 他方、摩訶不思議な金融証券をつくり上げて販売し、庶民を路頭に迷わせた張本人は、「大きすぎて潰せない」という理由で安楽に暮らせるどころか大金のボーナスをもらって、民主党政権の一員になっています。
 それを手助けする役割をはたしてきたのがクリントン女史です。おかげで彼女は金融界で講演すると莫大な講演料をもらっています。
 ですから、民主党の幹部のみならず財界・金融界にとってはクリントン女史は何としても大統領になってほしい人物です。その一方、財界から出てきたはずのトランプ氏は、貧困な白人層を支持基盤にしているだけに、財界・金融界が必ずしも自由に操れる人物ではなさそうだからです。
 こうした状況で、共和党の幹部や財界・金融界のなかですら、クリントン女史が民主党の候補者になったときには、「トランプではなくクリントンを推す」と公言するものさえ出てくるようになっていました。
 しかし共和党の特権階級にとって、ただひとつ困ったことがあります。クリント女史のメール問題です。彼女が国務省長官だったとき長官として許されている公的メールを使わずに、私的メールを使って多くのひとと闇のメールでやりとりをしてきたことが暴露されたからです。
 公的なメールサーバーは盗聴されたりハッカーに侵入されたりするようなことがないよう厳重な壁が築かれていますが、私的なメールサーバーにはそのような補償は何もありません。ですから公的な職務に就いているひとが自分の公的職務を果たすときは私的メールを使用することは堅く禁止されています。これを自ら破っていたのがクリントン女史でした。
 アメリカがNATO軍と一緒になってリビアの政権転覆をはかりカダフィ大佐を惨殺した後で、リビアのベンガジにあったアメリカ領事館で大使をふくむアメリカ人4名が殺されるという事件がありました。この一因として最近、問題になり始めたのが、クリントン女史が国務長官のときに使っていた私的メールです。このメールからベンガジ領事館の情報が漏れて、大使殺害につながっていったのではないかという疑いが出てきたからです。
 国務長官が公的なメールサーバーを使わずに私的メールで外交問題のやりとりをしていたことそのものが重大な法律違反ですが、その行為がアメリカ人の命を危険にさらすどころか死に追いやったとすれば、これは明らかな重罪であり、即刻にも刑務所送りになるべきでしょう。それはマニング上等兵が米兵による民間人殺害を内部告発しただけで刑務所送りになったことをみれば明らかです。
 マニング上等兵が暴露した情報は、米兵の戦争犯罪を内部告発しただけであり、その行為がアメリカ人を死に追いやるどころか米兵の命を危険にさらす恐れもないものだったことは裁判の過程でも明らかにされたにもかかわらず、マニング上等兵は35年にも及ぶ禁固刑を受けることになってしまいました。それに比べてクリントン女史の行為の危険性は誰の目にも明らかです。

"Significant Security Risks": State Department Says Clinton Broke Rules Using Private Email Server
http://www.democracynow.org/2016/5/26/significant_security_risks_state_department_says (May 26, 2016)


 このような人物が堂々と大統領選挙に立候補できることが驚きです。このクリントン女史のEメール問題は、FBIが捜査中だそうですが、オバマ大統領がFBIに圧力をかけて彼女を守りきれば別ですが、さもなければ、捜査の進み具合によっては立候補を取り下げざるを得なくなる事態も出てきます。
 また、たとえオバマ大統領がクリントン女史を守ろうとしても、トランプ氏が彼女のEメール問題を取り上げて攻撃を始めれば、大使を含む4人のアメリカ人が殺されているだけに、彼女を守りきれるかどうか分かりません。
 「元CIA長官のデイヴィッド・ペトレイアスでさえ、同じEメール問題で辞任せざるを得なくなったのだから、クリントン女史の場合も、事態は予断を許さない段階に来ている」と、元CIA高官のマクガバン氏も述べています。

Ray MacGovern:
Hillary Clinton’s Damning Emails
https://zcomm.org/znetarticle/hillary-clintons-damning-emails/ (May 3, 2016)


 ですから「アメリカ初の女性大統領」という宣伝で、大統領選挙の先頭を走り、共和党の中からすらもクリントン女史を推そうとする動きが出ている一方で、Eメール問題でトランプ氏がクリントン女史を攻撃し始めたら彼女が勝つ見込みがなくなるかもしれない、という動揺が共和党の内部から出始めています。共和党はいま大きなジレンマに追い込まれています。
 他方、民主党の側はどうでしょうか。財界・金融界はもちろん民主党の特権階級はクリントン女史を支持していますが、ここでも「Eメール問題でサンダース氏がクリントン女史を攻撃し始めたら彼女が勝つ見込みがなくなるかもしれない」という不安・動揺が民主党の内部から出始めています。
 しかも選挙運動が進めばすすむほどサンダース氏への支持は広がる一方です。貧困層に転落することが目に見えている若者層や貧困な有色人種は圧倒的にサンダース氏を支持しているからです。「選挙人登録制度」「特別代議員制度」などといったアメリカの不公正な選挙制度がなければ、サンダース氏がクリントン女史を追い抜いてすでに民主党の候補者になっていただろう、ということは段々と皆の目に見え始めているからです。

Ralph Nader: 
Sanders Should Stay in Democratic Race, Is Only Losing Due to Anti-Democratic System
http://www.democracynow.org/2016/5/10/ralph_nader_sanders_should_stay_in (May 10, 2016)


 かといって、民主党の幹部・特権階級は、今さらサンダース氏へと鞍替えするわけにもいきません。というのは、サンダース氏の政策は、「金持ち階級への増税」など、財界・金融界はもちろんのこと、民主党の特権階級にとっても受け入れることのできないものが多いからです。
 こうして、サンダース氏を民主党の候補者として推し、トランプ氏と論戦させれば、トランプ氏を倒して民主党が勝つ可能性は極めて大きくなりつつあるのですが、それができないので民主党もまた、いま大きなジレンマに追い込まれています。
 アメリカの大統領選挙を見ていると、いまアメリカは末期的段階に来ていると思わざるを得ません。


<註> 長周新聞(2016年4月2日号)の一面に載った「世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」の写真版が読みにくい方は、そのPDF版が下記にありますので、そちらを御覧ください。
http://www42.tok2.com/home/ieas/ShamefulAmericanVotingSystem.pdf



長周新聞20160401+「世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」上_convert_20160527104308
長周新聞20160401+「世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」下_convert_20160527104424



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Author:狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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