世界はいま「大転換」のとき、3 ― 世界で孤立する「神によって選ばれた国」「神によって選ばれた民」その2

国際教育(2018/06/24) 国際教育(2018/06/24) 金正恩(キム・ジョンウン)、ムン・ジェイン(文在寅)、習近平(シー・ジンピン)、文鮮明(ムン・ソンミョン)、富豪イゴール・コロモイスキー、国務次官補ビクトリア・ヌーランド女史、高高度防衛ミサイル(THAAD)、地上配備型弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」、統一教会、国際勝共連合、EEF(東方経済フォーラム)、一帯一路(海のシルクロードと陸のシルクロード)、イラン「アメリカ大使館」人質事件


北朝鮮「外国特派員を招待して核実験場の爆破を公開」
北朝鮮「核実験場の爆破」
Punggye-ri Nuclear Test Site being blown up during the dismantlement process on May 24, 2018 / Reuters
https://www.rt.com/news/429565-trump-nuclear-north-korea/

 前回のブログを書いてから、次の出版物『魔法の英会話――不思議なくらいに英語が話せる練習帖』『寺島メソッド「日本語教室」――英語教師のための作文技術』の編集に追われているうちに、あっという間に1か月が経ってしまいました。
 このブログは、1か月の空白をおくと宣伝のページが入り込んできて、不愉快で、かつ非常に読みにくい画面になってしまいます。そこで恥ずかしながら、慌ててこのブログを書いる始末です。読者の皆さんには本当に申し訳なく思っています。

 それはともかく前回のブログでは、連載「世界はいま『大転換』のとき②」として、「世界で孤立する『神によって選ばれた国』『神によって選ばれた民』」という題名で、イスラエルとアメリカを取りあげました。そしてブログの最後を次のように結びました。

 トランプ氏は大統領選挙戦で、「国内の立て直しに専念する。そのため海外に手を出すことはやめ、ロシアと協力しながらイスラム原理主義勢力を一掃し、海外の米軍を撤退させ、軍事費を国家再建にまわす」ことを公約したのですが、今はオバマ前大統領も顔負けするほどの軍拡に走り出してしまいました。
 その後の言動は先述のとおり、アメリカの威信を回復させるどころかますます世界から孤立させるものでした。
 しかし考えようによっては、トランプ氏はいまアメリカ大統領として世界に巨大な貢献をなしつつあるとも言えます。
 というのは、アメリカが振りかざしている「アメリカ例外主義」「神から与えられた明白な使命(マニフェスト・デスティニー)」が、このようにはっきりと目に見えるかたちで世界に提示されたことは、かつてなかったからです。
 これはトランプ氏の登場なしにはあり得なかったでしょう。オバマ氏の偽善的な姿勢が、アメリカの真の姿を覆い隠してきたからです。
 まだまだ核戦争の危機が完全に消えたとはとは言えませんが、絶対的帝国として世界に君臨していたアメリカが、これを機会に、その流れを多極主義へと転換することになるとすれば、世界の平和にとってこんなよいことはありません。
 トランプ大統領が登場して、「マニフェスト・デスティニー」を露骨なかたちで世界に顕示し、自らを孤立化に追い込んだこと――これを第2の「大転換」として私があげるゆえんです。


 私がこのように、世界における「神にのよって選ばれた国」アメリカの孤立化を紹介して間もなく、さらに「神によって選ばれた民」「神によって選ばれた国」の孤立化を歴然と示す二つの出来事がありました。
 ひとつは、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とトランプ大統領との直接対話が、2018年6月12日に、シンガポールで実現したことであり、もうひとつは、国連人権理事会からの脱退を、6月19日に、アメリカが表明したことです。
 キム委員長とトランプ大統領の直接対話が実現したことは世界の平和にとって非常に好ましいことでした。これは、核戦争を回避しようと努力してきたひとたちに大きな希望を与えるものでした。しかし、同時にこれは軍事帝国アメリカの一層の衰退と孤立化を象徴するできごとでした。
 というのは、これまでトランプ氏は、個人的にはキム氏との直接対話を望むと言いながらも、他方では、DeepStateの意向に沿って「朝鮮が完全な非核化を約束し実行しないかぎりキム委員長とは会わないし韓国との共同軍事演習もやめない」と言明し続けていたからです。
 にもかかわらずトランプ氏が一転して前言を翻し、直接対話に乗りだしたのは、韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領が先導して北朝鮮との直接対話の気運を作りだし、北朝鮮も、それに応えて、2018年5月25日に、米英韓中露5カ国の外国記者団まで招いて、核実験場の爆破を公開したからです。
 このような北朝鮮による核廃絶の意思表明は、韓国はもちろんのこと平和を望む多くの人々の支持を得ましたから、この高まる大きな世論を無視して、経済制裁や武力による恫喝のみを繰りかえしていては、ますますアメリカの傍若無人さが際立って、孤立が進行してしまいます。
 というよりも、世界中の世論によるアメリカの孤立化が、シンガポールでの直接対話となって実現したと言うべきでしょう。
 ではキム委員長に核実験場の廃棄・爆破を決断させた要因は何だったのでしょうか。これについて櫻井ジャーナル(2016/06/17)は次のような興味ある説明をしています。

 (ソ連崩壊後)ミハイル・ゴルバチョフに見捨てられてから生き残りに必死だったであろう朝鮮は、統一教会やイスラエルと手を組み、東アジアの軍事的な緊張を高めたいアメリカにとって好都合なこと、例えば核兵器の開発やミサイルの発射事件を行ってきた。
 こうしたことは中国やロシアから止めるよう説得されていたが、無視してきた。
 ロシアの前身であるソ連に裏切られたという思い、アメリカ軍の強さに対する恐れが朝鮮を動かしてきたのだろうが、昨年4月の攻撃でロシアや中国への信頼が戻った可能性がある。(下線は寺島)
 しかも、韓国がロシアや中国と連携している。ロシアの防空システムがあれば、アメリカ軍をそれまでのように恐れる必要はないと考えても不思議ではない。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201806160001/

 
 北朝鮮がミサイル実験をするたびに、それを口実に韓国や日本に巨額の武器を買わせ、THAAD(高高度防衛ミサイル)や地上配備型弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」を韓国や日本に配備して中国包囲網を強化してきました。
 と同時に、モリカケ問題などで安倍政権が国会で追い詰められているときに、具合のよいことに、いつも北朝鮮がミサイル騒ぎを起こしてくれて、NHKを初めとする大手メディアは、世論の批判が安倍政権に向かわず北朝鮮非難へと集中する役割を果たしてきました。
 私はいつもこのことを不思議に思ってきました。そもそも貧困に喘いでいるはずの北朝鮮が、核実験やミサイル開発に向ける技術やお金はどこから手に入れたのだろうか。中国とロシアの関係は悪化していたのだから、どこが裏で支援していたのだろうか。これが私にとって最大の謎でした。
 この疑問を解いてくれたように思われたのが、上記の櫻井ジャーナルで指摘されている二つの事実、すなわち「生き残りに必死だったであろう朝鮮は、統一教会やイスラエルと手を組み・・・」、および「昨年4月の攻撃でロシアや中国への信頼が戻った可能性がある」という説明でした。
 まず後者の「昨年4月の攻撃」ですが、これについて櫻井ジャーナルは、「昨年4月の攻撃が中国や朝鮮の考え方に変化を与えた可能性はあるが、それはトランプ大統領の主張とは逆だろう」として、次のように説明しています。

 ドナルド・トランプ米大統領は、シンガポールで朝鮮の金正恩労働党委員長との会談を行った6月12日、​FOXニュースのシーン・ハニティのインタビューを受けたが、その最後の部分で、昨年(2017年)4月6日にシリアで実行した攻撃について語っている。
 その攻撃とは、地中海にいたアメリカ海軍の2駆逐艦(ポーターとロス)が巡航ミサイル(トマホーク)59機をシリアのシャイラット空軍基地に向けて発射したもの。
 シリア政府軍が自国民に対して化学兵器を使ったという口実だったが、証拠はなく、それが事実でなかった可能性は極めて高い。
(中略)
 トランプ大統領は昨年4月6日のシリア攻撃で発射されたミサイル全てが目標にヒットしたと主張しているのだが、被害が事実上、なかったことが判明している。
 しかも、ロシア国防省によると、目標に到達したのは23機だけ。いくつかは地上に落下しているが、残りは不明。海中に落下した可能性が高い。
 トランプ大統領の主張とは違い、アメリカのミサイルはロシアの防空システムを突破できていないと言える。


 つまり、アメリカは59機ものミサイルを発射したのですが、目標に到達したのは23機だけで、その6割は打ち落とされているのです。しかも目標に到達した23機も、事実上は何も被害を与えていないのです。
 もうひとつ北朝鮮の姿勢を変えさせる事件がありました。それを櫻井ジャーナルは先の解説(2018.06.17)に続けて、次のように伝えています。

 そして今年(2018)4月、アメリカ軍は再び偽情報を宣伝しながらシリアをミサイル攻撃した。アメリカ国防総省の発表によると、攻撃のターゲットはバルザー化学兵器研究開発センター(76機)、ヒム・シンシャー化学兵器貯蔵施設(22機)、ヒム・シンシャー化学兵器(7機)で、全て命中したとしている。
 が、「攻撃目標」と「使用されたミサイルの数」が不自然で、現地の様子とも符合しない。
 それに対し、ロシア国防省の説明によると、この攻撃で米英仏の3カ国は103機の巡航ミサイルを発射、そのうち71機をシリア軍が撃墜したという。
 今年は短距離用の防空システム、パーンツィリ-S1が配備されていたが、これが効果的だったようだ。アメリカはリベンジを狙って返り討ちに遭った。
 ロシア国防省は攻撃された場所として、ダマスカス国際空港(4機。全て撃墜)、アル・ドゥマイル軍用空港(12機。全て撃墜)、バリー軍用空港(18機。全て撃墜)、サヤラト軍用空港(12機。全て撃墜)、メゼー軍用空港(9機。うち5機を撃墜)、ホムス軍用空港(16機。うち13機を撃墜)、バザーやジャラマニの地域(30機。うち7機を撃墜)を挙げている。


 つまり、発射されたミサイルのうち7割は撃墜されているのです。前回の撃墜率は6割でしたから、大きな前進と言うべきでしょう。しかも狙ったのは化学兵器施設だったとするアメリカの出張が全く嘘だったということも暴露されてしまいました。
 そもそもシリアの化学兵器は国際団体監視の下で全て廃棄されているのですから、このような嘘は初めから意味のないことでした。
 だとすれば、北朝鮮が「ロシアの防空システムがあれば、アメリカ軍をそれまでのように恐れる必要はない」と考えて自分もロシアや中国に接近したいと思ったとしても不思議ではないわけです。まして韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領がロシアや中国に接近し両国と連携し始めているのですから、なおさらのことです。
 こうしてキム委員長は急速に中国に接近し、習近平(シー・ジンピン)国家主席との会談に至ったのでした。

別れを惜しむ、ムン・ジェイン(文在寅)大統領と金正恩(キム・ジョンウン)委員長
Moon Kim
South Korean President Moon Jae-in bids farewell to North Korean leader Kim Jong Un. / Reuters
https://www.rt.com/news/427852-north-korea-moon-jae/

 では第2の事実「生き残りに必死だったであろう朝鮮は、統一教会やイスラエルと手を組み・・・」については、どうでしょうか。
 反共団体として名高い「統一教会」が、共産主義国家として悪罵を受けている北朝鮮と手を組んでいるという事実を、私は、初めは信じられなかったのですが、Yahoo!ニュースが次のような事実を報道している(2015/8/30)ことを知り、やっと納得することが出来ました。

北朝鮮の国営メディアである朝鮮中央通信は8月30日、金正恩第一書記が、韓国発祥の宗教団体・世界基督教(きりすときょう)統一心霊協会(統一教会)の教祖である文鮮明(ムン・ソンミョン)氏の3周忌に際し、遺族らに弔電を送ったことを伝えた。
 日本では霊感商法や有名芸能人の「合同結婚式」などで社会問題化した統一教会だが、教祖の文氏は、もともと北朝鮮・平安北道(ピョンアンブクト)出身だ。
 社会主義体制の北朝鮮とは、反共団体である国際勝共連合の活動などを通じて長年対立していたが、1991年に電撃的に訪朝。当時の金日成主席と和解して以降、密接な関係を築いてきた。
 金正恩氏は文鮮明氏の死亡時と1周忌に際しても弔電を送っている。


 この記事は、もうひとつ衝撃的事実を報じていました。何と安倍晋三氏や自民党タカ派勢力は、これまで統一教会(および北朝鮮?)と親密な関係を築いてきていたのです。Yahoo!ニュースは上記の報道に続けて、次のような解説を載せていました。

それだけではない、文氏は安倍晋三ファミリーとも親密な関係を築いていた。
 統一教会は観光や自動車生産で北朝鮮を支援してきたほか、北朝鮮が旧ソ連製の弾道ミサイル潜水艦を「スクラップ」として輸入する際にも、同教団系の企業が関与していた。
 また、統一教会は、日本の弁護士グループから「信者らが違法な物品販売等で再三刑事摘発されている反社会的団体」と指弾されている一方、自民党政治家と親密な関係を築いてきたことで知られる。
 中でも、安倍晋三首相の祖父である岸信介元首相は文氏ととくに親密で、最近では、山谷えり子国家公安委員長と国際勝共連合の関係がメディアで取り沙汰された。
 石原慎太郎元都知事も同組織から選挙支援を受け、熱烈な感謝のメッセージを送っている。


 要するに、表では「力で屈服させろ」と北朝鮮を声高に非難しつつ、裏では統一教会を通じて北朝鮮を支援し、アジアの緊張関係を高め、それを口実に日本の軍拡と改憲(=壊憲)を一気に進めるという、高度な戦術を安倍政権は取ってきたわけです。
 (ちなみに、山谷えり子国家公安委員長が関係していたとされる「国際勝共連合」は、統一教会の外郭団体です。)
 これはアメリカも全く同じで、「冷酷な独裁政権」と北朝鮮を声高に非難しつつ、「金正恩の斬首作戦」などの軍事演習を繰りかえしてアジアの緊張関係を高め、それを口実に韓国や日本に巨額の兵器を買わせてきました。
 と同時にアメリカは、北朝鮮との緊張関係を口実に、THAADやイージスアショアなどの超巨額かつ超攻撃的な武器を韓国や日本に配備して中国包囲網を強化する、という高等戦術を駆使してきたのです。そして安倍政権は「東のプードル犬」として、このようなアメリカの戦略に積極的に協力してきました。
 ですから、このような高等戦術のなかで、北朝鮮は踊らせられてきたとも言えるわけです。もっとうがった見方をすれば、キム委員長とトランプ大統領は、「お互いに悪罵を投げつけ合いながら中国包囲網を強化するという猿芝居を演じてきたのではないか」という疑いすら浮かんで来ます。
 北朝鮮にしてみれば、このようなかたちで敵対しつつあった中国に恨みを晴らすつもりだったのかも知れませんが、シリアにおけるロシア軍とロシア兵器の目を見張るような働きが、キム委員長の姿勢を大逆転させたのではないか――これが櫻井ジャーナルの意見であるように私は思われました。
 こうしてアメリカの孤立(そして安倍政権の孤立)は、世界が注視する中でいっそう歴然としてきたのでした。

 では櫻井ジャーナルが「生き残りに必死だったであろう朝鮮は、統一教会やイスラエルと手を組み・・・」と指摘している「イスラエルとの関係」については、どうでしょうか。これについても櫻井ジャーナル(2017/11/15)は次のように述べています。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/20171115/

 中国には一帯一路(海のシルクロードと陸のシルクロード)というプロジェクトがある。かつて、輸送は海路の方が早く、運搬能力も高かったのだが、技術の進歩によって高速鉄道が発達、パイプラインによるエネルギー源の輸送も可能になった。海の優位さが失われている。
 しかも中国は南シナ海からインド洋、ケニアのナイロビを経由して紅海に入り、そこからヨーロッパへ向かう海路も計画している。この海路を潰すため、東の出発点である南シナ海をアメリカは支配しようと考え、日本はアメリカに従ったということだ。
 ところが、2016年6月に大統領となったロドリゴ・ドゥテルテはアメリカに従属する道を選ばない。ベトナムなどもアメリカの好戦的なプランから離れていく。ロシアと中国は東アジアでの経済的な交流を活発化させて軍事的な緊張を緩和しようとする。
 例えば、今年(2017年)9月4日から5日に中国の厦門でBRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の会議が開催され、9月6日から7日にかけてロシアのウラジオストックで同国主催のEEF(東方経済フォーラム)が開かれた。
 このイベントに朝鮮も韓国や日本と同様、代表団を送り込んでいる。韓国がロシアや中国との関係を強化しようとしていることは明白だ。
 こうした中、核兵器の爆発実験や弾道ミサイル(ロケット)の発射実験を繰り返し、アメリカの軍事的な緊張を高める口実を提供してきたのが朝鮮にほかならない。BRICSの会議やEEF(東方経済フォーラム)が開かれた直後、9月15日にもIRBM(中距離弾道ミサイル)を発射している。


 上記の説明にあるように、今までアメリカによる中国包囲網に加わっていたベトナムやフィリピンも、アメリカ離れを始めているのです。ここでもアメリカの孤立化が進行していることは明らかです。これに唯ひとり従っているのが日本政府・安倍政権です。
 北朝鮮も、この路線を裏から支えてきたことは上記の説明でも明らかでしょう。それが中国の北朝鮮にたいする姿勢を一層硬化させてきたことも疑いのないところですが、これについて櫻井ジャーナルは、さらに詳しく、次のように重要な事実を暴露しています。

このところ朝鮮の爆発実験やミサイルの発射は成功しているようだが、少し前までは四苦八苦していた。
 ところが、短期間の間にICBMを開発し、水爆の爆破実験を成功させた可能性があるという。そこで、外国から技術、あるいは部品が持ち込まれたと推測する人もいる。
 ミサイルのエンジンについて、イギリスを拠点にするシンクタンク、IISS(国際戦略研究所)のマイケル・エルマンは、朝鮮がICBMに使ったエンジンはソ連で開発されたRD-250がベースになっていると分析、朝鮮が使用したものと同じバージョンのエンジンを西側の専門家がウクライナの工場で見たとする目撃談を紹介している。
 また、ジャーナリストのロバート・パリーによると、​エンジンの出所だと疑われている工場の所在地は、イゴール・コロモイスキーという富豪(オリガルヒ)が知事をしていたドニプロペトロウシク市(ウクライナのドニプロペトロウシク州、現在はドニプロ市と呼ばれている)にある。


 北朝鮮が核実験やミサイル発射をするたびに、私は、「そのような技術やお金はどこから出ているのだろうか」という疑問をもち続けてきたことは最初に述べたとおりですが、この叙述で、私の疑問はかなり解消された気がしました。
 しかし、ウクライナとイスラエルの関係はどうなっているのでしょうか。北朝鮮とイスラエルは、どのような関わりでつながっているのでしょうか。この疑問について櫻井ジャーナルは、さらに次のような説明を加えています。

 富豪コロモイスキーは、ウクライナ、キプロス、イスラエルの国籍を持つ人物で、2014年2月のクーデターを成功させたネオ・ナチのスポンサーとしても知られている。2014年7月17日にマレーシア航空17便を撃墜した黒幕だとも噂されている人物だ。
 国籍を見てもわかるようにコロモイスキーはイスラエルに近い人物だが、朝鮮はイスラエルと武器の取り引きをした過去がある。
 1980年のアメリカ大統領選挙で共和党はイランの革命政権に人質解放を遅らせるように要求、その代償としてロナルド・レーガン政権はイランへ武器を密輸したのだが、その際、イランは大量のカチューシャロケット弾をアメリカ側へ発注。
 アメリカはイスラエルに調達を依頼し、イスラエルは朝鮮から購入してイランへ売っているのだ。この関係は切れていないと考えるのが自然だろう。
 その後も朝鮮とイスラエルとの関係は続き、イスラエルには朝鮮のエージェントがいるようだ。そのエージェントがエンジンの件でも重要な役割を果たしたという情報も流れている。


 アメリカもEU諸国も、ウクライナの政変をアメリカが裏で支援したネオナチによるクーデターだったということを、いまだに認めていません。
 しかし、これが長年にわたって大金を注ぎ込んでアメリカの仕組んだクーデターだったことは、オバマ政権時の国務次官補ビクトリア・ヌーランド女史が公開の場で堂々と述べたとおりです。
 ウィキペディアによれば、彼女は、2013年12月13日にワシントンで開かれた「ウクライナを巡る会議」において、「米国は、ソ連崩壊時からウクライナの民主主義支援のため50億ドルを投資した」と語っています。
 またヌーランド女史は、2014年4月、テレビ局CNNのインタビューでも、米国は「より強い民主主義的な政府を目指すウクライナ国民の欲求をサポートするために」50億ドルを拠出した、と述べているのです。
https://jp.sputniknews.com/us/201701263276021/
 (ただし、ヌーランド女史は、「ウクライナの政変は民衆革命だ」と主張しネオナチの暗躍についても認めていませんが、ネオナチの存在は今では公然化しています。いまだに日本の大手メディアは、このことを報じていません。)
 しかし、いずれにしても、北朝鮮がウクライナを経由してイスラエルとつながってきたことだけは確かなようです。
 もし、これが事実だとすれば、アメリカが統一教会やイスラエルと協力しつつ裏で仕組んだ猿芝居に、金正恩委員長はまんまとのせられ、中国封じ込め政策に利用されてきたのではないか、という疑いすら出てきます。そして私たち日本人も、この猿芝居に騙され、日本中に鳴り響いた「Jアラート」に翻弄されたことになります。
 とはいえ、いま北朝鮮はアメリカと正面から対峙し、中国やロシアとの関係改善へと、新しい方向に歩み出そうとしていることだけは確かなようですから、その意味でも、アジアにおけるアメリカの孤立化は、ますます鮮明になってきたように見えます。そこで慌てふためいているのが安倍政権です。

 以上で、私が今回のブログで論じようとしてきた、「アメリカとイスラエルの孤立化を示す、さらなる二つの出来事」のうちの前者についての説明を終えたいと思います。まだ論じ残したもうひとつの出来事、すなわち「国連人権理事会からの脱退」が残されているのですが、もう長くなりすぎていますので、今回はこれで打ち止めにして、次回に譲りたいと思います。


<註1> このブログを書くに当たって、いろいろ調べているうちに、次のような衝撃的記述を見つけたので、ここに紹介させていただきます。

イラク戦争に失敗してネオコンは退潮した。それでもネオコンは生きていてオバマ政権にも入り込んだ。ネオコンとして今も生き残っているのがビクトリア・ヌーランド国務省国務次官補(ヨーロッパ・ユーラシア担当)である。彼女の夫のロバート・ケーガンがネオコン第 3世代の代表だ。・・・ビクトリア・ヌーランド女史は、明らかにムーニー(統一教会員)である。そしてヒラリー派だ。(『トランプ大統領とアメリカの真実 』178頁)


 統一教会の旧名称は「世界基督教統一神霊協会」(今は「世界平和統一家庭連合」と名乗を変更)で、アメリカにも支部があることは知っていたのですが、まさかヌーランド女史までが統一教会の一員であったことに驚愕させられました。
 これが事実だとすれば、統一教会とイスラエルは、北朝鮮だけでなくウクライナでも暗躍してきたことになります。
 ちなみに、ウィキペディアによれば、統一教会は「開祖・文鮮明の姓ムンから、俗にMoonies(ムーニーズ)の名で知られていて」、アメリカでの活動は次のように説明されています。

1954年5月に韓国ソウルで世界基督教統一神霊協会が創設され、1965年に文鮮明一家と幹部たちは宗教・政治的情宣活動の拠点をアメリカに移し、世界宣教・経済活動を拡大し、巨大な統一運動傘下組織を作った。韓国の多くの少数派宗教団体と異なり、朝鮮半島を超えて世界中に普及したという特異性を持つ。世界193か国に支部がある。・・・文鮮明は戦闘的な反共産主義者であり、共産主義は神の摂理に基づく民主主義に対抗する悪魔によるものとされた。


<註2> 私は、櫻井ジャーナル(2017/11/15)から下記のような引用をしつつ、北朝鮮がイスラエルから援助を受けながら核実験やミサイル開発をしてきたのではないかと、述べました。
 「1980年のアメリカ大統領選挙で共和党はイランの革命政権に人質解放を遅らせるように要求、その代償としてロナルド・レーガン政権はイランへ武器を密輸したのだが、その際、イランは大量のカチューシャロケット弾をアメリカ側へ発注。アメリカはイスラエルに調達を依頼し、イスラエルは朝鮮から購入してイランへ売っているのだ。この関係は切れていないと考えるのが自然だろう。」
 しかし、上記の引用で「1980年のアメリカ大統領選挙で共和党はイランの革命政権に人質解放を遅らせるように要求、その代償としてロナルド・レーガン政権はイランへ武器を密輸した」という件(くだり)については、もう少し説明を付け加えないと理解しにくいのではないかと思うようになり、慌ててこの註を書き始めています。
 この「共和党とイラン革命政権との裏取引」について時系列に沿って略述すると次のようになります。

 1980年の大統領選挙では、現職ジミー・カーター大統領(民主党)とロナルド・レーガン候補(共和党)の間で接戦が繰り広げられていた。
 その当時、カーター政権は、イラン革命(1979)でテヘランのアメリカ大使館が占拠され、大使館員52人が人質にとられるという試練を抱えていた。
 1980年4月、特殊部隊デルタ・フォースによる人質救出作戦に失敗し、2期続投を目指すカーター政権への大きな打撃となった。
 このため、カーター政権の外交姿勢を「弱腰」と批判する共和党を勢いづかせる結果となった。
 1980年10月18、19日、共和党の大統領指名を争う予備選に出馬し、レーガン政権の副大統領へ転身を企むジョージ・H・W・ブッシュ(元CIA長官)とレーガンの選挙チーム責任者ウイリアム・ケイシー(後のCIA長官)は、パリで密かにイラン政府関係者と会談した。
 共和党は、イランの最高責任者ホメイニ師ほかイラン政府関係者に賄賂と武器供給を約束し、人質解放時期をレーガン大統領就任時まで延長するように交渉した。
 これは、「レーガンが大統領に当選した暁にはお望みの武器を供給するから、それまでは人質解放をしてくれるな」という交渉だった。
 カーターの在任中に人質事件を解決させないことで彼の人気を落とし、接戦を繰り広げていた大統領選挙で、レーガンを当選させるという隠密作戦だった。
 その結果、この選挙でカーターは敗北し、1981年1月20日、レーガンが第40代大統領に就任した。
 同日、人質となっていたテヘランのアメリカ大使館員らも無事解放され、生還した。人質解放がレーガン大統領の誕生で実現し、共和党は「強いレーガン大統領」を演出することに成功した。


 まさに「事実は小説よりも奇なり」です。イラン革命は「アメリカを後ろ盾とする王制独裁国家に対する革命」でしたから、本来ならイラン政府とは敵対関係のはずです。
 にもかかわらず共和党は、自分たちの利益を最優先にして、イランと取引したのです。しかも何と!敵に武器(大量のカチューシャロケット弾)を売るというのですから、信じがたい光景です。
 そしてレーガン政権は「イスラエルに調達を依頼し、イスラエルは朝鮮から購入してイランへ売っている」のですから、何度も言いますが、まさに「事実は小説よりも奇なり」です。
 ですから、今度の核実験やミサイル開発でも、北朝鮮とアメリカとの間でどのような裏取引があったか、凡人にはとても推し量ることは出来ません。レーガン大統領は、この後も有名な「イラン・コントラ事件」で全く同じ手口を使っています。
 だとすれば、私には櫻井ジャーナルの説明は信じるに値する分析ではないかと考えています。それにしても私たちは何と恐ろしい世界に生きているのでしょう。よほど腹を据えてかからなければ、まんまと権力者がばらまく嘘に騙されてしまいます。
 北朝鮮もトランプ大統領を無邪気に信じて行動すれば、まさにリビアの二の舞になるでしょう。これまでの言動を見れば分かるように、アメリカ政府の政策は猫の目のように変わるのですから、いつ前言を翻して攻撃に移るか予想だにできません。
 ましてトランプ大統領は今や DeepState の傀儡と化しているのですから尚更のことです。しばしば「今日の約束」は「明日の反故」となるのです。



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世界はいま「大転換」のとき、2 ― 世界で孤立する「神によって選ばれた国」「神によって選ばれた民」

国際教育(2018/05/20) 国際管理地区エルサレム、アルアクサ・モスクと「岩のドーム」、ナクバ(大惨事)70周年、アメリカ軍事学校(School of the Americas)、エコノミック・ヒットマン、キリスト教シオニズム、ユダヤ教シオニズム、終末キリスト教福音派、神意主義者(プロヴィデンシャリスト)

エルサレムにあるイスラム教最大の聖地、ムハンマドがこの「岩のドーム」の地から昇天したとされる  temple_mount_aerial_view_2007_01.jpg

この「岩のドーム」を消した偽造写真を贈られて喜ぶ在イスラエルのアメリカ大使 Dd0oJ9AV0AAZ6dq.jpg
https://on.rt.com/95ux


 前回のブログでは、データ・マックス社の経済情報誌『IB: Information Bank』から再び取材依頼があったこと、しかも今度は九州本部の社長から直々のリクエストで、そのテーマが「大転換」だったことを紹介しました。
 そこで早速その意向にしたがって「大転換」を考えてみたのですが、『I.B新春特別号』のインタビューで私は次のように結んでいます。

私のメッセージは3つあります。1つ目は「アメリカの現実を知ろう」、2つ目は「世界の流れを知ろう」、3つ目は「日本の良さを知ろう」です。

  
 そいうわけで、前回のブログでは「大転換」の一つ目として、トランプ大統領が誕生したおかげでアメリカ国内におけるDeepState(裏国家、闇の政府)の存在が今や誰の眼にも明らかになったことを紹介しました。
 アメリカの大統領選挙なるものは、「DeepStateの選んだ人物を国民に認知させる壮大なお祭り騒ぎにすぎなかったこと」を、トランプ大統領の誕生が世界に見せつけてくれたというわけです。
 さて、そこで二つ目の「大転換」です。大国アメリカの「例外主義」とその孤立がこれほど明らかになったことはかつてなかったのではないか、これもトランプ氏の大きな「功績」ではないか――と私は思うようになりました。

 アメリカが世界の超大国・覇権国家となったのは、第2次世界大戦が終わって、イギリスが大英帝国の地位から転落したときからでした。こうして大戦後、アメリカは経済的にも軍事的にも世界の帝国となりました。
 しかしチョムスキー『アメリカンドリームの終わり』によれば、これは同時に、大戦直後に世界の頂点に立ったアメリカの衰退の始まりでもありました。
 とりわけアメリカの経済的衰退ぶりが顕著になったのは、アメリカが金本位制を止めた1970年代からでした。これはアメリカの通貨である「ドルの弱体化」を示すものでもありました。
 この「ドルの弱体化」は、アメリカが投資銀行と商業銀行の垣根を取り払い、国内産業の構造が製造業から金融業へと大きく変化していくのと同時進行でした。製造業の多くは安い労働力を求めて海外移転し、国内産業は大きく疲弊したからです。代わって登場したのが金融資本が乱舞する世界でした。
 では衰退する経済力をくい止める手段としてアメリカが選んだのはどんな方法だったのでしょうか。それは産業の動力源である石油を支配することを通じて、世界を支配すること、アメリカの覇権を脅かす国が現れればそれを軍事力で叩き潰すことでした。
 世界の産業は石油で動いているのですから、これをストップしさえすれば、刃向かう国を屈服させることができます。アメリカが、「民主主義の理念」に反して、イスラム王制独裁国家のサウジアラビを軍事力で支えているのも、OPECの盟主であるサウジを通じて世界の石油の流れをコントロールできるからです。
 サウジ王室を軍事力で支えることは同時にアメリカ通貨のドルが弱体化するのを食い止める手段でもありました。というのは、サウジ王室を目下(めした)の家来として使い、石油貿易の決済をドルを使っておこなわせることにより、ドルの弱体化を防ぐことができるからです。
 その代わりアメリカは、独裁王制の下で抑圧されているサウジ民衆が王室転覆に決起したとき、それを鎮圧する仕事を引きうけました。警察力・軍事力を強化する武器を王室に購入させ、王室が鎮圧に失敗したときアメリカ軍が出動して王室を支えるという約束をしたわけです。これは同時に高額の武器をサウジに輸出する絶好の口実ともなりました。

 アメリカの覇権を脅かす国が現れればアメリカがそれを軍事力で叩き潰してきたことは歴史が数多くの事実を提供してくれます。
 その実例として前回のブログではブルム『アメリカの国家犯罪全書』(作品社)を紹介しましたが、それを読めばアメリカが犯してきた戦争犯罪、「拉致」「テロ」「暗殺」「拷問」「毒ガス」「クーデター」などの数々を知ることができます。
 もちろんアメリカの覇権を脅かす国が現れても、その為政者を賄賂・買収その他で籠絡できれば、わざわざ「拉致」「テロ」「暗殺」などの手段を使う必要はありませし、ましてや軍隊を派遣して侵略する必要などありません。
 その具体的な手口は、ジョン・パーキンス『エコノミック・ヒットマン、途上国を食い物にするアメリカ』(東洋経済新報社 2007)に詳しく述べられています。

 この著者パーキンスは、表の顔は一流コンサルティング会社のチーフエコノミストですが、裏の顔・本当の姿は対象国を経済的に収奪するアメリカの工作員でした。
 この本は良心の痛みに耐えかねたエコノミック・ヒットマンの内部告発書です。彼は「買収工作が成功しないときは本当のヒットマン(暗殺者)の出番になる」と述べています。飛行機事故に見せかけて国家元首を殺すこともあったと言います、
 この本を読むと、アメリカ政府が多国籍企業と一体になっおこなってきた「買収」→「恫喝」→「暗殺」→「戦争」という流れがよくわかります。常に脅しをかけて言うことを聞かせたり、莫大な利益を約束して懐柔したりします。そして言うことを聞けば国家元首としての地位を与えるというわけです。
 第2次大戦後の日本政府の場合、戦犯で刑務所に入れられていた人物を為政者に仕立て上げ、国際法廷で戦犯として裁かれる人物を新たな「象徴」として全国巡幸させることによって、みごとな従属国をつくりあげました。

『肉声でつづる民衆のアメリカ史』 エコノミック・ヒットマン

 この日本をモデルにしてイラクに乗り込んでいったのがブッシュ氏でした。「大量破壊兵器」を口実に侵略し、「イラクを第2の日本にする」と豪語していました。
 しかし、イラクには岸信介や昭和天皇に当たる人物を見つけることができず、この作戦は見事に失敗しました。残されたのは破壊された国土と大量の死者と難民でした。
 中南米では、アメリカ軍が経営する軍事学校「School of the Americas」で訓練された軍人が準軍事組織をつくり、クーデターで政権を取った後、腐敗する為政者に抵抗する民衆や活動家を虐殺していきました(チョムスキー『アメリカが本当に望んでいること』現代企画室)。
 しかし軍事独政権による民衆の抑圧ぶりがあまりにも残虐・凄惨で、評判が悪かったので、オバマ氏は、ウクライナでも、リビアでも、シリアでも、「民衆蜂起」というかたちで政権転覆をはかることにしました。
 ウクライナの政権転覆(2014年2月)は、極右勢力や旧ナチスの残党勢力を傭兵として使ったクーデターであったことは、今となっては歴然としてきています。この間の裏事情を櫻井ジャーナル(2017.01.19 )は次のように述べています。

ソ連が崩壊しロシアを自分の属国だと認識していた時期にもアメリカの好戦派は支配システムを築く努力はしていた。ビクトリア・ヌランド国務次官補は、2013年12月に、米国ウクライナ基金の大会で、「ウクライナの政権転覆を支援するために1991年から50億ドルを投資した」と、発言している。システムの構築にはNGOを利用した。http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201508110000/


 リビアの政権転覆(2011年10月)の場合も、アメリカは、カダフィ大佐が「民衆蜂起」を弾圧しているという口実で、フランスを初めとするNATO軍を使って国土を破壊しカダフィ大佐を惨殺しました。
 このときはイスラム原理主義勢力を傭兵として使いましたが、その詳細は、物理化学者である藤永茂氏が下記のブログで生々しく描写しています。 
*リビア挽歌(1)- 私の闇の奥(2011/08/24)
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/af790e16376731460b2a7f5f493b758c
リビア挽歌(2)- 私の闇の奥(2011/08/31)
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/9cd61d906c0c02b82a34d5b70da709f5

 シリアの場合も基本的には同じでした。「民衆蜂起」という体裁をとらせながら、サウジなどの王制独裁国家から送り込まれたイスラム原理主義勢力を傭兵として使いました。
 アル・カイダ系武装集団やダーイッシュをアメリカやその同盟国が支援してきたことも、次々と明らかになっています。
 例えば、2014年9月に米軍のトーマス・マッキナニー中将はアメリカがダーイッシュを作る手助けをしたとテレビで発言し、マーティン・デンプシー統合参謀本部議長(当時)もアラブの主要同盟国がダーイッシュに資金を提供していると議会で発言しています。
 また同年10月にはジョー・バイデン米副大統領がハーバーバード大学で中東におけるアメリカの主要な同盟国がダーイッシュの背後にいると語り、2015年にはウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官もアメリカの友好国と同盟国がダーイッシュを作り上げたと述べています。http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201701190000/ 櫻井ジャーナル2017.01.19 )
 
 このようにアメリカがウクライナで政変を企て、リビアを破壊し、またもやシリアで政変転覆を企ててきたことは、今では世界中の心あるひとにとっては自明のことになっているのですが、大手メディアはそれを報道しませんから、アメリカ国民のほとんどは(そして日本国民も)このような事実を知りません。
 それをよいことに「シリアのアサド政権は化学兵器を使って自国民を殺害している」という宣伝を、壊れたレコード盤のように繰りかえしてきたのがオバマ政権でした。
 この「アサド政権の化学兵器」という嘘は、そのつどロシア政府や独立ジャーナリストなどによって、嘘であることが暴露されてきています。最近でも「ホワイトヘルメット」を使った同じたぐいの宣伝がなされ、すぐにその嘘がばれてしまいました。
*ピンクフロイドのメンバー、コンサートで「ホワイト・ヘルメット」を批判
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-41.html
 有名なイソップ寓話に、「オオカミが来る」と何度も村人をだましてきた少年が、最後には村人から相手にされなくなるという話が出てきますが、この寓話は、そのままアメリカ政府に当てはまりそうです。
 今では、アメリカの言動をまともに信じる国は、EU諸国を除けば、世界でも圧倒的少数になりつつあるからです。これは世界の流れを大きく変える「大転換」です。

 ところがアメリカを支持するEU諸国でさえ、いまアメリから離れようとする動きをし始めています。というのは、イランとの間に交わした核兵器協定から一方的に離脱しイランと経済交流する国には経済制裁を課すとトランプ氏が宣言をしたからです。
 この協定を10年近くもかけてまとめたドイツ、フランスからは強い抗議の声が起き、イギリスもこれに同調せざるを得なくなってきています。
 こうして「化学兵器」「大量破壊兵器」などという口実で中東に内紛をつくりだし、「オオカミ少年」として世界から孤立しつつあったアメリカは、このイランをめぐる問題で、さらにEU諸国の信頼さえも失いかねない危機に立たされています。


 このアメリカの孤立を、もう一歩さらに強めることになったのが、「エルサレムにアメリカ大使館を移す」というトランプ氏のもうひとつの宣言でした。
 これにたいしてもEU諸国は強い抗議の声を上げました。というのは、「エルサレムは国際管理とする」というのが1980年の国連決議だったからです。アメリカの同盟国であるEU諸国でさえ、受け入れることができなかったわけです。
 こうしてトランプ氏を大統領にいただくアメリカは、イスラエルと共にますます世界から孤立する道を選んでいるように見えます。

 アメリカが大使館をテルアビブからエルサレムに移転させた2018年5月14日は、イスラエルの建国記念日だった一方、15日はパレスチナ人にとっての「ナクバ(大惨事)の日」でした。
 「ナクバ」とはアラビア語で「大惨事」を意味することばです。ユダヤ人が1948年5月14日、パレスチナにイスラエルを建国した際、70万人ものパレスチナ人が故郷を追われ難民となりました。
 トランプ大統領は、よりによって、このような日を大使館移転の日に選んだのですから、火に油を注ぐようなものです。
 予想どおりパレスチナ人の怒りは頂点に達し、6週間に及ぶ抗議行動の間、イスラエルによる銃撃で100人以上の抗議参加者が死亡し、数千人の負傷者が出ています。14日と15日の二日間だけでも「衝突の死者は62人に達した。催涙ガスの吸引により死亡した生後8カ月の女児も含まれる」そうです(毎日新聞2018年5月15日)。
 これでは、シリアのアサド政権を転覆することに協力していたサウジなどの王制独裁国家も、同じアラブ人イスラム教徒として、さすがに、このようなアメリカやイスラエルの蛮行に目をつむるわけにはいかないでしょうから、アメリカとイスラエル)の孤立ぶりは一層、際立つことになるでしょう。

 考えてみれば、アメリカは「先住民を大虐殺し、その土地を奪いながら建国された国」ですから、パレスチナ人を追放・戮殺し、その土地を奪いながら建国されたイスラエルと波長が合うのも当然かも知れません。
 もうひとつアメリカとイスラエルの波長が合う理由があります。
 アメリカは先住民を虐殺しながら西海岸まで領土を拡大し、それを「明白なる運命」「神から与えられた明白な使命」と考えてきました(ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』256頁)。
 これが、「アメリカは特別な国であり何をしてもかまわない。国際法を踏みにじろうが、それは神から許された行為だから」という、「アメリカ例外主義」の根底を流れる考え方です。
 このような考えを土台にして、その後も太平洋を越えてハワイを併合しフィリピンまでも領有するようになりました。
 他方、イスラエルも「ユダヤ人は神によって選ばれた民族であり、エルサレムどころか聖書に書かれているとおりの領土を所有する権利がある」と考えているのですから、アメリカと波長が合うのも当然だったわけです。
 この間の事情をチョムスキーは次のように書いています。今後の資料としても重要だと思いますので、長くなりますが敢えて引用させていただきます。
 

英国や米国の「キリスト教シオニズム」は、「ユダヤ教シオニズム」よりも古い歴史を持つ。
 ちなみに、「キリスト教シオニズム」は神がアブラハムと結んだ契約に基づき、エルサレムがアブラハムの子孫に永久に与えられたとする教理であり、「ユダヤ教シオニズム」はユダヤ人国家を建設しようとする一九世紀末以来の運動だ。
 「キリスト教シオニズム」は英米のエリート層では重大な意義があり、明確な政策も持っていた。ユダヤ民族のパレスチナ帰還を支持するバルフォア宣言もその一つだ。
 第一次世界大戦中に英国のエドモンド・アレンビー将軍がエルサレムを征服した。このとき、アレンビー将軍は米国の報道機関からリチャード獅子心王の再来だと大喝采を受けた。なぜなら、十字軍を率いて聖なる地から異教徒たちを追い出したのは、リチャード獅子心王だったからだ。
 そこで次なるステップは、選ばれた民たちを、神によって約束された土地に返すことになる。
 当時のエリートたちの典型的な見方は、フランクリン・ルーズベルト大統領の内務長官ハロルド・イッキーズの言葉によく示されている。彼はユダヤ人によるパレスチナ植民地化を讃え、「人類の歴史においてこれほどの業績はほかにない」と述べた。
 このような態度は、神意主義者(プロヴィデンシャリスト)の教義を信じる人々の間では、ごく普通のことだ。
 その教義は「神が世界に計画を持っており、神がすべてを計画済みである」とするもので、米国は聖なる指示に従って前進していると信じている。この教義は米国が建国されたときから大衆とエリートの文化の中で強い力を持っている。
(『誰が世界を支配しているのか』137-138頁、寺島が改訳)


 チョムスキーは上記でアメリカにおける「キリスト教シオニズム」「ユダヤ教シオニズム」および「神意主義者(プロヴィデンシャリスト)」について説明しているのですが、アメリカとイスラエルの関係について、ここでもうひとつ重要な指摘をしています。それは「キリスト教福音派」および「終末キリスト教福音派」についてです。

 「キリスト教福音派」は米国では主流派だ。さらに極端な教義を持つ「終末キリスト教福音派」も米国では大人気で国民に浸透している。
 彼らは一九四八年のイスラエル建国で元気づけられ、一九六七年にパレスチナを征服すると、さらに活気づいた。これらすべては終末の時とキリストの再臨が近づいている予徴だと、彼らは見ているからだ。
 これらの宗派の勢力はレーガン時代から強くなりはじめた。(中略)彼らは大きな恐れと憎しみを抱える外人嫌いの国粋主義者で、宗教面でも国際的な基準からみると過激だが、米国内では普通の範曙に入る。
 その結果、アメリカで強くなったのは聖書の予言に対する敬意だ。この新しい政治勢力はイスラエルを支持するだけでなく、征服と拡大を喜び、情熱的にイスラエルを愛している。 


この叙述を読むと、なぜ蛮行を重ねるイスラエルを共和党はもちろんのこと民主党すら、支持して止まないのかがよく分かります。これではイスラエルと共にアメリカも世界から孤立していくのは時間の問題とすら思えてきます。
 今まで述べてきたように、アメリカの「孤立」「停滞」「凋落」を加速させているのがトランプ大統領の最近の言動でした。
 チョムスキーは、冒頭でも紹介したように、『アメリカンドリームの終わり』で大略、次のように述べています。
 「アメリカは第2次大戦で世界の頂点に立ったが、その衰退は終戦直後から始まっている。しかし急激な経済的停滞と凋落は1970年代から顕著となった。それでも軍事的優位は揺るがず、それが覇者としてのアメリカを支えてきたし世界的通貨としてのドルを支えてきた。」(下線は寺島)
 アメリカのこのような「停滞と凋落」を回復すると称してトランプ氏は大統領選に立候補し、当選しました。しかし彼の主張する「アメリカ・ファースト」は、大統領に就任した早々から DeepState の巻き返しに会い、政策は180度、逆転することになってしまいました。
 トランプ氏は選挙戦で、「国内の立て直しに専念する。そのため海外に手を出すことはやめ、ロシアと協力しながらイスラム原理主義勢力を一掃し、海外の米軍を撤退させ、軍事費を国家再建にまわす」ことを公約したのですが、今はオバマ前大統領も顔負けするほどの軍拡に走り出してしまいました。
 その後の言動は先述のとおり、アメリカの威信を回復させるどころかますます世界から孤立させるものでした。
 しかし考えようによっては、トランプ氏はいまアメリカ大統領として世界に巨大な貢献をなしつつあるとも言えます。
 というのは、アメリカが振りかざしている「アメリカ例外主義」「神から与えられた明白な使命(マニフェスト・デスティニー)」が、このようにはっきりと目に見えるかたちで世界に提示されたことは、かつてなかったからです。
 これはトランプ氏の登場なしにはあり得なかったでしょう。オバマ氏の偽善的な姿勢が、アメリカの真の姿を覆い隠してきたからです。
 まだまだ核戦争の危機が完全に消えたとはとは言えませんが、絶対的帝国として世界に君臨していたアメリカが、これを機会に、その流れを多極主義へと転換することになるとすれば、世界の平和にとってこんなよいことはありません。
 トランプ大統領が登場して、「マニフェスト・デスティニー」を露骨なかたちで世界に顕示し、自らを孤立化に追い込んだこと――これを第2の「大転換」として私があげるゆえんです。


<註1> 
 そもそも、1947年11月29日の国連総会で、エルサレムは国際管理地区ということになっていました。しかし1967年6月の第三次中東戦争でイスラエルがエルサレム全域を押さえた以降は、イスラエルが実効支配し、そのうえ1980年には、イスラエル議会がエルサレムはイスラエルの首都と決議しました。これにたいして、143対1でその決定の無効を決議したのが、1980年の国連総会でした。これをアメリカもイスラエルも踏みにじったのが、今回のアメリカ大使館エルサレム移転です。
<註2> 
 シリアを初めとする現在の中東問題が理解しにくい理由のひとつは、アメリカが裏でイスラム原理主義勢力を育てながら表向きはそれを叩き攻撃するという高等戦術をとっているからです。
 ソ連軍がアフガニスタンに侵攻してきたときは、同じイスラム原理主義勢力を「自由の戦士」と称して裏で軍事訓練をし、武器を供給しながら彼らを支援しました。共産党・共産主義=悪という通年が、アメリカのみならず西側の世界では一般的でしたから、これは非常にわかりやすい構図でした。
 ましてソ連軍がアフガニスタンに「侵略」したとなれば、それをたたく絶好の口実になります。しかし、この戦略を考案したブレジンスキーは、後に「実はイスラム勢力を使ってソ連軍をアフガニスタンにおびき出したのは私だ」とインタビューで自慢しているのです。ビンラディンも、このような中で育てられた人物でした。
*ジョン・ピルジャー「タリバンを育てたアメリカ」その1~3
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-271.html
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-272.html
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-273.html
 しかしソ連が崩壊した現在、アメリカの軍産複合体を維持するためには新しい敵が必要になります。それで先ず標的なったのがイラクのサダム・フセインでありリビアのカダフィ大佐でした。いずれも「自国民を殺害する残虐な独裁者」というふれこみで、人道主義をふりかざしてイラクやリビアに乗りだし、独裁者を倒すという構図です。
 ところが、これらは全て嘘だったことが後で明らかになってきました。イラクやリビアはサウジなどのイスラム原理主義の王制独裁国家と世俗主義の国家であり、選挙もありましたし女性でも大学に行けました。現在、攻撃されているシリアも同じです。シリアが化学兵器を使っているというのも、すぐ嘘だということが暴露されてしまいます。
 だとするとシリアを攻撃する口実がなくなります。そこで考え出されたのが、シリアで残虐な行為を繰りかえしているイスラム原理主義勢力を「テロリスト」だとして、これを成敗するという口実でシリア侵略に乗りだすという方法です。昨日の「自由の戦士」が現在は「残虐なテロリスト」として宣伝され、そのためのビデオも施策されました。
 このようにアメリカは、自分の侵略を正当化するために新しい高等戦術を次々と編み出してきますから、大手メディアだけを見ていると余りにも理解し難いことが多く、頭が混乱してきます。今では人権NGOという一見すると中立的な団体までつくって敵を悪魔化しますから、ますます混乱させられます。
 いま私たちは容易ならざる時代に突入しているのだと言えるでしょう。よほど腹をすえてかからないかぎり真実は見えてこないからです。


世界はいま「大転換」のとき、1 ― 裏国家(DeepState)の存在が今や誰の眼にも明らかに!

国際教育(2018/05/10) DeepState(裏国家、闇の政府)、マイケル・フリン。デニス・クシニッチ、ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』

元DIA長官マイケル・フリン     元下院議員デニス・クシニッチ
マイケル・フリン Michael_T_Flynn デニス・クシニッチDenniskucinich1 『アメリカの国家犯罪国書』

 昨年末に、九州を本拠地にして活動しているデータ・マックス社の経済情報誌『IB: Information Bank』から、「先生の訳書『アメリカンドリームの終わり』を拝読し、ぜひ本著を弊誌読者に紹介したい」と思うようになったとの取材依頼があり、そのインタビューの記録を、このブログ (2018/02/01)で紹介しました。
*「今日のアメリカは、明日の日本である」2018新春特別号
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-312.html

 ところが先日、再び上記の経済情報誌『IB』の記者から次のようなメールが飛び込んできて驚喜させられました。というのは、下記の文面をご覧いただければお分かりのように、今度は「九州本部の社長から、新春号に続いて『I.B夏季特集号』でも、ぜひ先生のお話をというリクエスト」だというのですから、私にとっては驚愕の極みでした。

寺島隆吉 先生
 ご無沙汰致しております。先生、嬉しいお知らせです。あまり例がないことなのですが、九州本部の社長から、新春号に続いて『I.B夏季特集号』でも、ぜひ先生のお話をというリクエストを頂きました。
 夏季特集号の大きなテーマは「大転換」です。政治・経済・社会・文化の分野での大転換を探ります。取材は5月に完了したいと考えております。これは、第一報ですが、今現在の先生の5月のご都合をお教え頂ければ幸いです。
 詳細は任されています。今回は先生のご専門に戻って、『国際理解の歩き方』(あすなろ社、2000)の大転換など面白いのではないかと思っております。この本が書かれたのは約20年前なので大きく変わったと思うからです。前回拾い切れなった『アメリカンドリームの終わり』で大転換に関する部分にも触れたいと思います。
 さらに、最新のチョムスキーのお話で大転換に関するものがあれば言及して頂きたいと思います。また「大転換」のキーワードに相応しければ、先生がご興味があって、資料等も十分にあるものであれば、歓迎致します。
 当方も、また先生にお会いして、色々とお話をお聞きできますこと、とても楽しみにしております。



 そこで早速、データーマックス社の社長さんの意向にしたがって「大転換」を考えてみたのですが、私の頭にすぐ浮かんでくるのは次の三つでした。それを私は『I.B新春特別号』のインタビューで次のように結んでいます。

 私のメッセージは3つあります。1つ目は「アメリカの現実を知ろう」、2つ目は「世界の流れを知ろう」、3つ目は「日本の良さを知ろう」です。
 日本の知識人は、ともすると「日本はだめだけどアメリカはすごい」と言ったりしますが、アメリカ国内の崩壊ぶりは、チョムスキーが本書で述べているとおりです。他方、国外でもシリア情勢を見れば分かるとおり、アメリカの失敗と孤立化は世界的に露呈しつつあります。
 その一方、日本は劣化しつつあるとはいえ、今でも世界で稀に見る長寿国であり高学力の国なのです。その証拠に、拙著『英語で大学が亡びるとき』(明石書店)でも詳述しましたが、OECD学力調査では、日本はトップクラスで、アメリカは最底辺です。
 いたずらにアメリカの後を追うのではなく、日本の現実をふまえ、しっかり地に足をついた考えを持って欲しいと思います。かろうじて残っている日本の「平等社会」、世界でもうらやましがられている清潔で安全な社会を、維持・発展させなければならないからです。



 では、私が「アメリカの現実を知ろう」としてあげた1つ目の「大転換」とは何でしょうか。それは、「大統領という存在は、アメリカ国民の意志に従って選挙され、その国民の意向に沿って政治をおこなうものであり、その理想像がアメリカである」という神話が、今や完全に崩壊しつつあるということです。
 このことを最もよく示してくれたのがトランプ大統領の誕生でした。選挙の下馬評ではヒラリー・クリントン女史が「アメリカ初の女性大統領」として当選が確実視されていました。
 ところがヒラリー女史と同じ民主党から自称「社会主義者」のバーニー・サンダース氏が「ヒラリー候補はウォール街と結びついている」と批判し、彼女を裏で支援しているのが共和党と同じ在韓・特権階級であることを暴露してから、流れは大きく変わり、彼女に代わってサンダース氏が民主党の大統領候補になる可能性が出てきました。
 この頃から大手メディアの攻撃はサンダース氏に集中し、終盤のカリフォルニアの予備選挙では投票が始まる前から「ヒラリー女史が圧倒的優勢、当選確定」という報道が流されるまでになりました。
 このような風圧の中で、サンダース氏はついに膝を屈し、共和党候補として勢いを増しつつあったトランプ氏を勝たせないという理由で「ヒラリー女史こそアメリカで最良の候補者だ」という声明すら出すまでに変質してしまいました。
 一握りの富裕層・特権階級に富と権力が集中している現状に不満を感じて、サンダース氏の選挙運動に精力を注ぎ始めていた没落中産階級の人々や若者は、このようなサンダース氏の裏切りに失望し、その多くの票がトランプ氏に流れたと言われています。サンダース氏が民主党の候補者になっていたら、富豪として有名だったトランプ氏と互角に闘うことができ、大統領に当選していたかも知れないと言われているのも、このためです。
 ところが民主党の幹部はヒラリー女史を「アメリカ初の女性大統領」として売り出し、彼女を共和党の候補者と対決させることを、予備選が始める以前から、裏で密かに決めてしまっていました。サンダース氏が各州で予備選を確実に勝ち抜いていくのを何とか阻止しようと、民主党の幹部が様々な工作をしたことも、今ではウィキリークスなどで暴露されています。

 しかし何と驚いたことに、ヒラリー女史は「ウィキリークスはプーチンの手先だ。トランプもプーチンの傀儡だ」と言って、いまだに大統領として公約を果たそうとするトランプ氏の手足を縛ることに全力を注いでいます。
 トランプ氏が共和党の予備選に勝利した背景には、1%(チョムスキーによれば実際は0.1%)の富裕層特権階級を基盤にしている共和党のなかで、富豪であるにもかかわらず氏が主として白人の没落中産階級に「昔の豊かなアメリカを取り戻そう」と呼びかけたことにありました。
 裏切られたと感じたサンダース支持者の少なからぬ人たちが、トランプ支持者に変わった要因も、「アメリカは外国に余計な手出しをして、戦争や政権転覆などにお金を使いすぎている。だからロシアと手をつないでシリアの戦争を一刻も早く終わらせるべきだ。軍隊をシリアから撤退させ、戦争に無駄遣いしている巨額なお金を国内産業の復興に回そう」というトランプ氏の呼びかけにありました。
 不思議なことに、自称「社会主義者」を名乗り、アメリカ国内の富裕層・特権階級を攻撃していたサンダース氏でさえ、このような呼びかけを予備選でおこなっていないのです。外交政策では「シリアのアサド大統領は早く去るべきだ」という軍産安保複合体の要求、政権転覆の政策をそのまま掲げていたのでした。
 ですから、トランプ氏が大統領になったときにおこなわれたことは、「トランプはプーチンの傀儡だ。ロシアが裏で密かに選挙介入したからこそトランプは大統領になれたのだ」という、トランプ氏への強力な攻撃でした。さらに。それに大手メディアも大々的に悪乗りすることになりました。
 アメリカが外国の選挙に介入したりクーデターや要人暗殺を企ててきた長い歴史をもっていることは、ウィリアム・ブルム『アメリカの国家犯罪国書』(作品社2003)に詳しいのですが、それを全く棚に上げて、ヒラリー女史の選挙敗北をロシアのせいにするというのは、まったく「天に唾する行為」と言うべきでしょう。「亀は自分の甲羅に似せて穴を掘る」と言い換えてもよいかもしれません。
 ところがトランプ氏は大統領になった途端に選挙時の公約をくつがえし、国家安全保障問題担当大統領補佐官として自らが任命したマイケル・フリン(元陸軍中将、元国防情報局DIA長官)を解任して、タカ派の人物と入れ替えてしまいました。フリン氏は、「ロシアと協調し、アサド政権と闘っているイスラム原理主義を一層すべきだ」と主張してきた人物ですから、このような人物を解任することは、トランプ大統領が裏からの圧力に屈したことを示す典型的事件でした。
 こうしてフリン解任を皮切りに、トランプ大統領は次々と自分の任命した補佐官や閣僚を解任し、シリア紛争を終結させるどころか、シリア政府の援助要請を受けてシリア内部で闘っているロシア軍やシリア政府軍をミサイル攻撃するまでに、姿勢を逆転させてしまいました。
 トランプ氏の公約だった「アメリカ第一主義」を逆転させて、元大統領オバマ氏がとっていたのと同じ政策=「外国への干渉・侵略」に乗りださせた裏の勢力は、「裏国家」「闇の政府」と呼ばれていますが、このような「裏の勢力」が存在すること、それがDeep Stateという名称で、公の場で論議されるようになったことは、アメリカの歴史上かつてないことでした。
 今までも大統領の候補者が「裏の勢力」によって秘密裏に決定され、それがお祭り騒ぎの大選挙戦で、「アメリカ史上初の黒人大統領」などといったかたちで「売り出されてきた」ことは、公然の秘密だったわけですが、それが最も露骨なかたちで暴露されたのは、クリントン女史が「アメリカ史上初の女性大統領」というかたちで売り出され、大手メディアが、こぞってヒラリー支持の報道を繰り広げたときでした。
 というのは、選挙戦が始まる以前から民主党幹部が大統領はヒラリー女史だと決めていたこと、予備選でもサンダースにたいする露骨な選挙妨害を裏で工作していたことが、ウィキリークスその他で暴露されたからです。しかも、トランプ氏が民主党だけでなく大手メディアからも総攻撃を受けたにもかかわらず大統領に当選したあとも、トランプ氏を大統領の座から引きずり下ろそうとする動きは止むことがありませんでした。
 もちろんトランプ氏の言動に問題がなかったわけではありません。それどころか大言壮語で、かつ矛盾する言動、間違った意見も少なくありませんでした。しかし「アメリカはこれまで外国に干渉しすぎてきた。これからは政権転覆などに手を出すのではなく国内再建に精力を集中する」という、氏の「アメリカ第一主義」という主張は、大筋では正しいものでした。ところが、それを許せない勢力がアメリカ国内に存在するのです。それがいわゆるDeerpState「裏国家」「闇の政府」です。
 しかし、このようなDeerpState「裏国家」「闇の政府」という名称と存在は、すでに述べたように、公の場で明らかにされ議論されることはありませんでした。ところは今では民主党の元下院議員であり元大統領候補として20004年の予備選でも善戦したデニス・クシニッチでさえ、DeepStateという言葉を使って今のアメリカの政治を鋭く批判するようになっています。
* 'Deep state' elements pushing for Syrian conflict – Dennis Kucinich tells Larry King
「闇の政府 'Deep state' がシリアの紛争を求めて、これを推進している」
https://on.rt.com/94a9
 クシニッチはラリー・キングのインタビューに応えて「イラク紛争をわざと長引かせているのは、ペンタゴン、CIA、国務省の連中だ。彼らは自分たちの考え方にしたがってトランプ大統領を動かしている。しかし彼らは国民によって選挙で選ばれたのではない。これは実に憂慮すべき事態ではないか」と語っています。
 クシニッチ氏は、ここで「DeepState」を「CIA、ペンタゴン、国務省の連中」として、彼らを名指しで非難しているのですが、「CIA、ペンタゴン、国務省の連中」を裏で動かしている真の勢力は「軍産複合体」「0.01%の超富裕層」ですから、もっと鋭く「DeepState」のなかみを分析し追求すべきでした。
 しかし、いずれにしても、この大統領選挙の過程とその後の進展で明らかになったことは、アメリカの大統領は民衆が選挙で選ぶものではなく裏で密かに誰を次期大統領にするかが決められていること、裏の勢力の意向に沿わない人物が選ばれた場合、その人物はDeep Stateの言いなりになるか、さもなければ「消される」運命にあるということです。消されるか。
 このことがアメリカ国民だけではなく世界中の心あるひとたちの目に、はっきりと見える形になったことは、アメリカ史上かつてなかったことでした。これは、トランプ氏が大統領選に立候補したことによってもたらされたもので、氏が勝利しなければ、アメリカの裏舞台がこれほど劇的に暴露されることは、たぶんなかったでしょう。これは実にトランプ氏の「大きな功績」であり、世界の「大転換」として私がこれを第一に挙げたいと思う所以です。


<註1> 元国防情報局長官マイケル・フリンについて櫻井ジャーナルは,2016年11月19日の時点で次のように書いていました。
「ドナルド・トランプはマイケル・フリン元DIA局長に対し、安全保障担当補佐官への就任を要請したとAPが伝えている。
 トランプはロシアとの関係修復を訴え、シリアではバシャール・アル・アサド体制の打倒ではなくアル・カイダ系武装集団やそこから派生したダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)と戦うべきだと主張しているが、そうした判断はフリンのアドバイスに基づいている可能性が高い。
 そのフリンを重用できるなら、軍事的な緊張は緩和される可能性が高い。
 マイケル・フリン中将は退役後にアル・ジャジーラ[中東カタールの放送局]の番組へ出演、自分たちの任務は提出される情報の正確さをできるだけ高めることにあり、そうした情報に基づく政策の決定はバラク・オバマ大統領の役割だとしている。
 何度も書いていることだが、DIAは2012年8月に作成した文書の中でシリアにおける反乱の主力はサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてAQI(アル・カイダ系武装集団)だと指摘、バラク・オバマ政権が支援している「穏健派」は存在していないとしていた。
 つまり、「穏健派」の支援とはサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてAQI(アル・カイダ系武装集団)にほかならないということだ。
アル・カイダ系武装集団の主力はサラフ主義者(ワッハーブ派)やムスリム同胞団であり、アメリカ政府はアル・カイダ系武装集団を支援しているということになる。
DIAの報告書ではシリア東部にサラフ主義者の国ができる可能性も警告していたが、これはダーイッシュという形で現実になった。
 [フリン中将は、この報告をオバマ大統領に提出後しばらくして退役した。自分の警告が受け入れられなかったから自ら辞職したのか、余計な報告書をつくるなという理由で解任されたのかは不明]
トランプ政権へ入るとも噂されているルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長は選挙期間中、「ヒラリー・クリントンはISISを創設したメンバーだと考えることができる」と口にしていた。オバマ同様、確かにクリントンもダーイッシュを操る勢力に属していると言えるだろう。」

<註2> オバマ氏は「アメリカ史上初の黒人大統領」という宣伝文句で売り出されたのですが、この選挙戦についてチョムスキーは『アメリカンドリームの終わり』で次のように述べています。
「大統領選挙の直後に、オバマ大統領は広告産業からひとつの賞を獲得しました。二〇〇八年の市場広告最優秀賞というものでした。つまり、二〇〇八年の大統領選挙でもっとも良い宣伝活動を展開したというのです。
 そのことはこのアメリカでは報道されませんでしたが、国際的な商業紙では、経営幹部は幸福感に満ちて次のように言っていました。「われわれはこれまでずっと大統領候補者を売り出してきた。レーガン政権からずっと(練り歯磨きを売り出すのと同じように)大統領選挙という市場で、候補者を売り出してきた。オバマはそのなかでも最高の成果だった」
 普通わたしは、共和党の大統領候補であったサラ・ペイリンの意見に同調はしないのだけれど、彼女がオバマを、「ホープ(希望)とチェンジ(変化)という謳(うた)い文句だけを振りまく男」と呼んで揶揄(やゆ)したとき、彼女は正しかったのです。そもそもオバマは選挙で具体的なものをなにひとつ約束しませんでした。かれが振りまいたのは、ほとんどすべてが幻想で、具体的な提案に欠けるものだったからです。
 オバマが選挙運動の際に振りまいた言い回しをよく見てみれば、そのことがよくわかるはずです。かれの選挙演説のなかには、具体的な政策をめぐる論争はほとんど何もありませんでした。それには十分な理由がありました。政策にかんする一般民衆の世論は、二大政党の指導者や金融界の指導者の望んでいるものとは鋭く対立し、大きな溝があったからです。選挙運動が進めば進むほど、オバマの政策は選挙運動に資金を提供してくれる民間企業の利益に焦点を当てるものになっていました。そして民衆の要求はますます周辺部に追いやられてしまいました。」
 つまりオバマという人物は、最初からDeepStateによって選ばれ、「アメリカ史上初の黒人大統領」として選挙市場に売り出された人物だったのです。それにしてもオバマ氏の母親は白人なのですから、彼を「黒人」呼ぶのはいかにも変な話です。オバマ氏の血の半分は白人のものなのですから、氏をなぜ「白人」と呼んではいけないのでしょうか。ナチスがユダヤ人を扱ったときと同じように、黒人の血が一滴でも混じっていれば「黒人」であるというのは、偏見の極みです。この一般化されている偏見を逆用して選挙市場に売り出そうと工作した「裏国家」の手腕は実に見事よいうしかありません。

<註3> 今からちょうど50年前に(1968年4月4日)キング牧師が公権力によって暗殺されたこと、それがキング師の遺族によって民事裁判で明確に結論づけられたことを前回のブログ(2018/04/14) で紹介しました。
 キング師は、「黒人解放運動の指導者」という地位にとどまっていればおそらく殺されることはなかったでしょう。彼がDeep Stateの怒りにふれたのは、アメリカの外交政策に公然と反旗をひるがえし始めたからでした。その立場を明確に宣言したのが、暗殺のきっかり1年前、1967年4月4日にニューヨークのリバーサイド教会でおこなった演説「ベトナムを超えて」でした。
 この演説は、ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』下巻156-164頁に載っています。ふつうキング師の演説と言えば誰でも思い浮かべるのが、1963年8月28日にワシントンDCで25万人近くの集会参加者を前におこなった有名な演説「I HAVE A DREAM」ですが、内容的にはるかに重要なのは、この「ベトナムを超えて」という演説でした。
 キング師がアメリカの内政批判「公民権運動」にとどまっているかぎりは、DeepStateにとっては、まだ我慢が出来る存在でした。というのは「戦争は国家の健康法である」と信じ、戦争で国家を維持し財力を貯えてきたDeepState人たちにとっては、「アメリカの外交=戦争政策に口出しをする人物は許すべからざる人物であり生かしておけない」のです。このことは上記のキング一家がおこした裁判でも明確に確認されたことでした。
 トランプ氏も「アメリカ第一主義」を掲げ、「国家の再興」という内政問題に関わっているかぎりでは、あれほどひどい攻撃を受けることはなかったでしょう。しかしトランプ氏が踏み外したのは、アメリカの外交・戦争政策と痛烈に批判し、それを内政=国家の再興と結びつけたことでした。
 トランプ氏が選挙戦で、オバマ政権やヒラリー女史の戦争政策「シリアの政権転覆」を痛烈に批判し、ロシアとの協力・協調を訴えたことは、DeepStateの逆鱗に触れるものでした。これは、中国とロシアを包囲するという方針に真っ向から対立するものだからです。これは時の政府が窮地に陥ったときの恒例かつ最後の手段、すなわち「戦争は国家の健康法である」という方針に鎖をかけるような政策だからです。
 ちなみに、夭折の天才ランドルフ・ボーンによる「戦争は国家の健康法である」という論文も、『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻、532-539頁に訳出されています。また本ブログでも過去3回にわたって、この論文をとりあげました。

*2017/05/30:国際教育:「戦争は国家の健康法である」その1
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-294.html
*2017/06/06:国際教育:「戦争は国家の健康法である」その2
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-295.html
*2017/06/14:国際教育:「戦争は国家の健康法である」その3
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-296.html



二重スパイだったスクリパリ大佐の毒殺事件によせて ― 安倍首相と文(ムン)大統領の知性を比較する

国際教育(2018/03/01 CIA長官ジーナ・ハスペル、元ロシア軍大佐セルゲイ・スクリパリ、BBC記者アンドリュー・ギリガン、イギリス国防省生物化学兵器担当官デイビッド・ケリー博士、ニュルンベルク裁判「侵略の罪」「人道の罪」、戦争犯罪人(ブレアとブッシュ)


初の女性CIA長官 ジーナ・ハスペル                英国科学者ケリー博士(59歳)
Gina Haspel k-1058539477.jpg
https://www.rt.com/usa/421168-haspel-cia-director-profile/
http://oriharu.net/gabana_n/Sizen/Zizi/hibi0307/hibi-niisi0307-19.htm



 前回のブログからまたもや1か月が経とうとしています。相変わらず書きたいことが山積しているのですが体が動きません。書きたいことがありすぎて、どれから手をつけようかと思っているうちに時間が過ぎていきます。
 他方、森下敬一博士が運営する「お茶の水クリニック」を訪れ、薬を処方してもらったにもかかわらず、やっと40キロを越えていた体重が、どういうわけか減り続けて、今は37.5キロまで落ちてしまいました(いわゆる「好転反応」?)。
 そのためか気力体力がいまいち充実せず、ついついブログが遅れ、ついには「百々峰だよりを楽しみにしています」というメールが届くまでになりました。本当に申し訳なく思っています。


 それはともかく、欧米の動きを見ると、ますます核戦争への動きが強くなっているように感じられてなりません。
 ロシアとイギリスの二重スパイだった人物が、毒ガスによって殺されそうになったことを理由に、イギリス政府はロシア外交官60人を追放し、他方でトランプ大統領の側近が次々と好戦派の人物にすげ替えられているからです。
 ロシアの大統領選挙が間近に迫っているなかで、元GRU(ロシア軍参謀本部情報総局)大佐セルゲイ・スクリパリと娘のユリアをロシアが毒物で殺すことは、再選を目指しているプーチン大統領にとって有害無益であることは歴然としています。
 にもかかわらず、何の証拠も示さず、イギリスのメイ首相は外交官追放に乗りだし、ロシアとの緊張関係を一挙に強めました。
 イギリスにおけるテレサ・メイ政権の人気は落下する一方で、このまま放置すると次の選挙で労働党のコルビー政権が誕生する可能性が極めて強くなってきていますから、それをどうしても阻止しなければなりません。そこで裏でCIAと手を組んで偽旗事件をつくりあげたのではないかと疑われています。
 あるいはCIAが仕組んだ芝居をメイ政権が最大限に利用したのかも知れませんが、いずれにしても、ロシア政府が証拠の提出を求めても英国政府はこれを拒否していますし、ロシア政府による共同調査の提案も拒否しています。よほどロシアとの緊張関係を高めたいのだとしか感じられません。
 「疑わしきは罰せず」というのは、刑法の常識だったはずですが、なんと驚いたことに、メイ女史は逆に、プーチン大統領にたいして「この暗殺事件にたいして無実である証拠を提出せよ」と要求したのですから、開いた口がふさがりません。
 イギリスの大手メディアも、これにたいして異を唱えませんでしたから、イギリスの知性とはこの程度のものだったのでしょうか。
 他方、トランプ政権も、「証拠はないがイギリス政府の言うことを信じている」と述べ、イギリスとそれに追随するNATO諸国の動きを支持しました。ロシアの脅威を口実に旧東欧諸国に高額の武器を売りつけたいアメリカにとっては、こんなに都合のよい事件はありません。
 このような動きと、トランプ大統領による「初の女性CIA長官」の任命とは、全く無縁であるとは考えられません。なにしろジーナ・ハスペル女史は、CIAがタイに有する秘密の収容所を管轄していた人物で、拷問を指揮監督していたことで有名になっていたのですから。
*「スノーデン氏:次期CIA長官はEUを訪問すると逮捕される危険性」
https://jp.sputniknews.com/world/201803144667785/
*Torture master? Who is Gina Haspel, 1st woman to head CIA
「拷問の達人?ジーナ・ハスペルとは誰か、初の女性CIA長官」

https://www.rt.com/usa/421168-haspel-cia-director-profile/

 こんな拷問支持者を新CIA長官に任命しただけでなく、トランプ大統領は、超タカ派として有名だったジョン・ボルトンを、新たな米大統領補佐官(国家安全保障担当)に指名しました。ですから、トランプ大統領は今や完全に Deep State 「裏国家・闇の政府」の軍門に下ったとしか考えられません。
 トランプ内閣の報道官は、記者会見でイギリス政府の行動を支持する根拠は何かと質問されて、「証拠はないがメイ政権がそう言っているのだから信じる以外にない」と返答しています。
 しかし、アメリカが「大量破壊兵器」を口実にイラク侵略へ踏み切るとき、当時のブレア政権による報告書(いわゆる「9月文書」2002年9月)が決め手になった、とパウエル国務長官は述べています。
 ところが、情報機関の反対を押し切って「破滅から45分のイギリス人」という嘘を無理矢理に報告書にねじ込んだのは、ブレア首相の首席補佐官だったアラステアー・キャンベルだということが今では分かっています。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201607140001/
 つまりイギリス政府の言うことを信じて行動した結果がイラク戦争と中東の破壊・殺戮の始まりだったのに、またもや同じ失敗を、トランプ政権は繰りかえそうとしているわけです。
 米国トランプ政権の知性と英国メイ政権の知性、その双方が「知性の低さ」を競い合っているようにすら見えます。
 このイラク戦争はニュルンベルク裁判で言う「侵略の罪」「人道の罪」に当たりますから、当時のブッシュ大統領もブレア首相も、「戦争犯罪人」として、国外から一歩でも外へ出ると、市民によって逮捕される可能性があります。


 ところで、イラクへの先制攻撃を正当化するために嘘を発信したとされる「9月文書」について、BBCの記者だったアンドリュー・ギリガンが2003年5月に、この文書ではイラクの大量破壊兵器の話が誇張されていると番組で伝えました。
 「英政府は脅威を誇張するため、45分以内にイラクが大量破壊兵器を実戦配備できるという情報を、報告書に盛り込ませた」というのです。
 (サンデー・オン・メール紙はキャンベル首席補佐官が情報機関の反対を押し切って「45分話」を挿入したと伝えています。)
 しかも、ギリガン記者が「45分話」をBBCで語って間もなく、彼の情報源が国防省で生物兵器を担当しているデイビッド・ケリー博士(59歳)だということがリークされました。そしてケリー博士は7月15日に外務特別委員会へ呼び出され、17日に変死しています。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201607140001/(櫻井ジャーナル20160714)
 これは当局によって「自殺」と片付けられましたが、外務特別委員会で真実を証言する前に、ケリーが詰め腹を切らされたか、あるいは暗殺されたかのどちらかだ、というのが大方の推測でした。
 ちなみに、情報源のデイビッド・ケリーが変死、ブレア首相はこの事件を調べるためにジェームズ・ハットン(ハットン卿)を委員長とする「独立」調査委員会(実は「お手盛り」の調査委員会)を設置しています。
 そして、2004年1月にハットン委員会はBBCを批判する内容の報告書を発表、グレッグ・ダイクBBC会長やギリガンBBC記者は放送局から追放されました。この後のBBCは、アメリカの侵略戦争を正当化するための単なる宣伝機関になり、偽情報を公然と伝えるようになりました(現在のNHKを見るような気がします)。


 いま日本でも同じような事件が起きています。毎日新聞(2018年3月9日)ではそれを次のように伝えています。
https://mainichi.jp/articles/20180310/k00/00m/040/100000c

 財務省近畿財務局の男性職員が神戸市内の自宅で自殺していたことが9日分かった。複数の関係者によると、男性は、近畿財務局で学校法人「森友学園」への国有地売却を担当する部署に所属していたという。遺書のような書き置きが見つかっている。
捜査関係者などによると、今月7日、神戸市灘区の自宅マンションの室内で自殺していたのが見つかった。兵庫県警は事実関係を明らかにしておらず、自殺した理由も分かっていない。
 森友学園へは2016年6月に鑑定評価額から約8億円を引いた1億3400万円で大阪府豊中市の国有地が売却された。男性の役職は16年当時、近畿財務局の上席国有財産管理官。学園側との交渉にあたっていた統括国有財産管理官の部下で同じ職場だった。関係者によると、昨年秋以降、病気を理由に休んでいたという。
 土地売却を巡っては大阪地検が背任容疑などの告発を受理して捜査を進めているほか、今月に入り、売却に関する近畿財務局の決裁文書が書き換えられたとする疑惑が浮上していた。

 つまり、普通に推測すると、イギリス国防省生物兵器担当官デイビッド・ケリーと同じ展開だったのではないかと疑われるのです。
 というのは、この自殺した男性は、近畿財務局の上席国有財産管理官で、学園側との交渉にあたっていた統括国有財産管理官の部下だったからです。
 ですから、売却に関する近畿財務局の決裁文書が書き換えられたとする疑惑が浮上した時点で、国会に呼び出されたり、検察からの捜査対象となって留置される可能性があったわけです。
 このように部下を死に追いやっても、その事件の当事者であり最高責任者である安倍首相は術策を尽くして、平然と逃げ切りを謀っています。
 この安倍政権の知性は、米国トランプ政権の知性と英国メイ政権の知性と比べると、どこに位置するのでしょうか。
 朝鮮半島の平和と統一を目指し、アメリカの反対を押し切って、北朝鮮と独自外交を展開している韓国の大統領ムン・ジェイン(文在寅)の知性と比べると、安倍首相の知性はどこに位置しているのでしょうか。
 そして前大統領パク・クネ(朴 槿恵)の不正疑惑を追及し、ついに彼女を牢獄に追いやった韓国人民衆の知性と比べると、韓国人を常に軽蔑の対象としてきた多くの日本人民衆の知性は、どこに位置するのでしょうか。


<註1> 
 偶然に次のような記事が目にとまりましたので紹介しておきます。
*「鳩山元首相、スクリパリ事件について見解示す」
https://jp.sputniknews.com/politics/201803314733321/
<註2> 
 プリンストン大学およびニューヨーク大学の名誉教授であるステファン・コーエンが、アメリカで孤立無援の闘いをしながら、下記のような論文を発表しています。
*Unproven allegations against Trump and Putin are risking nuclear war - Stephen Cohen
「トランプとプーチンにたいする根拠なき告発は核戦争への危険」
https://www.rt.com/op-ed/422673-russiagate-skripal-cold-war/
<註3> 
 ブレア首相の「9月文書」の嘘を暴露して死に追いやられたケリー博士について、もう少し詳しい説明を下記に見つけました。
*「情報源」の英科学者、遺体で発見 イラク脅威「誇張報告」疑惑
http://oriharu.net/gabana_n/Sizen/Zizi/hibi0307/hibi-niisi0307-19.htm
<註4> 
 以下の記事を読むと、官僚も政治家に翻弄される犠牲者であることが分かります。とくに棒グラフに注目ください。
*官僚のメンタル休職者は民間の3倍。国会対応、政治家の理不尽に翻弄される
https://www.businessinsider.jp/post-163990

 しかし自殺するくらいなら内部告発者になってほしかったと思います。公務員は「公僕」なのですから、「国民に奉仕する存在」ではなく「安倍氏だけに奉仕する存在」なら、存在する価値があるのか―そういう気持ちをもつ国民も少なくないのではないでしょうか



「戦争は国家の健康法である」余話 ― 東京都議選、北朝鮮ミサイル避難訓練、そして「準戦時体制」下にある日本

国際教育(2017/07/05)、クリール委員会、ランドルフ・ボーン、エドワード・バーネイズ、広報会社の聖書となった『プロパガンダ』、安倍昭恵と巨大広報会社「電通」

プロパガンダ教本 プロパガンダ


 先日やっと、チョムスキーの新著『アメリカン・ドリームの鎮魂歌:富と権力を一極集中させる10の原則』(Requiem for the American Dream:The 10 Principles of Concentration of Wealth & Power)の最終稿=訳注を出版社に送付しました。
 それで、いよいよこれで一息つけるかと思っていたら、左の肘から手首まで異常な湿疹が出てきて、全体が赤く膨れあがり腕が棒のようになっただけでなく、痛いやら痒いやらで仕事になりませんでした。
 そいうわけで前回のブログを書いてから早くも2週間が経ってしまったにもかかわらず、今に至ってしまいました。書きたいことは下記のように山積しているのに体が言うことをききません。
<今後の課題>
1 なぜ今、RT(RussiaToday)の視聴が必要なのか
2 鈴木孝夫・平田オリザ『下山の時代を生きる』(平凡社、2017)の書評
3 拙著『英語で大学が亡びるとき』(明石書店、2015)の書評にたいする感想
4 文科省「高校生のための学びの基礎診断(仮称)」にたいする意見・批判
5 ワークショップ2017『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』の案内
 このような症状が出たのは、翻訳の疲れで免疫力が低下していたところへ湿疹の引き金になるようなものに手を出した(たとえば庭の雑草取りで毒虫にふれた)せいかもしれないと思っています。
 それはともかく、今日やっと少し元気が出てきたので、ブログに取りかかろうとしていたところ、東京都議選で安倍自民党が惨敗したというニュースが入ってきました。
 そこで、当初は江利川春雄先生(和歌山大学)から拙著『英語で大学が亡びるとき』にたいする書評(『新英語教育』6月号)をいただいていたので、御礼を兼ねて、その書評にたいする私のコメントを書くつもりでいたのですが、急に予定を変更して、前回のブログ「戦争は国家の健康法である」(その3)の続編を書きたいと思うようになりました。
 というのは、1ヶ月以上も前のことですが、私が主宰する国際教育総合文化研究所の研究員(高校教師)から、「北朝鮮のミサイルにたいする避難訓練について職員会議で校長から説明があった」との便りがあり、それにたいするコメントを、私は研究所掲示板「研究仲間」で次のように書いていたからです。
 

**さん、会費納入ありがとうございました。同封の手紙に次のような文面がありましたので皆さんにも紹介させていただくことにしました。
 <北朝鮮も、かなり心配な状況ですね。茨城県だけではないかと思いますが、県内全校に、「弾道ミサイルが飛んで来たら」の文章がでて、職員会議で説明がありました。といっても、窓から離れろくらいなのですが。>
 北朝鮮が日本を攻撃する場合は、日本国内の米軍基地か、さもなくば日本の国内にくまなく散在している原発基地でしょう。安倍政権がアメリカの言いなりになって北朝鮮への挑発を続けていれば、キム・ジョンウンの堪忍袋の緒が切れて、原発への攻撃ということになるかもしれません。
 しかし米軍基地あるいは原発基地のいずれが攻撃されても、学校での避難訓練はほとんど意味を成しません。ですから政府がこのような通達を教育委員会を通じて全国の学校に配布しているとすれば、北朝鮮を口実に改憲(=壊憲)および日本の軍備を強化する世論づくりに使っているとしか考えられません。
 皆さんの学校でも職員会議でこのような通達・文書が紹介されて話題になっているのでしょうか。研究員・準研究員の皆さんからの情報を、ぜひ寺島または「研究仲間」に送ってほしいと思うようになりました。どうかよろしく御願いします。
<追伸> 
 以前に紹介したブログ(2017/05/14)のタイトルは下記のようになっていますが、実は北朝鮮問題を論じたものです。併せてご覧いただければ幸いです。
* ボブ・ディラン「戦争の親玉」、パティ・スミス「民衆には力がある」:ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』からみた世界
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-293.html


 私は上記で、安倍内閣が文科省を使って、教育委員会経由で、北朝鮮のミサイルにたいする避難訓練の通達を全国の学校に出している理由を次のように書きました。
 「ですから政府がこのような通達を教育委員会を通じて全国の学校に配布しているとすれば、北朝鮮を口実に改憲(=壊憲)および日本の軍備を強化する世論づくりに使っているとしか考えられません。」
 しかし今から思うと、文科省がこのような通達を出したのは、もうひとつの理由があって、それは森友学園や加計学園などの問題で窮地に追い込まれている安倍内閣が、国民の怒りや不満を国外の「仮想敵」へとそらすための戦略として、北朝鮮ミサイルの避難訓練を使っているということです。
 以前のブログでもふれたことですが、アメリカで「911事件」が起きたとき、当時のブッシュ大統領の支持率は史上空前の低さで低迷していました。ところが「911事件」が起きてブッシュ大統領が報復を声高に叫び始めた途端、支持率は急上昇しました。
 同じことは安倍内閣についても言えるように思います。隣の韓国では朴大統領の不正疑惑にたいして韓国民衆の怒りが沸騰して、ついに朴辞任・新大統領誕生に至っています。
 安倍氏の学園問題をめぐる不正疑惑は朴女史の不正疑惑に勝るとも劣らない大きなものですから、韓国の例から考えれば、いまだに安倍内閣が存続していること自体が、本当は奇怪というべきでしょう。
 にもかかわらず安倍内閣が存続してきたのは北朝鮮のおかげであり、ミサイル発射を利用して「準戦時体制」をつくりあげて世論を誘導してきたからだと私は思っています。野党も、まんまとその誘導に載せられ、効果的な反撃ができていませんでした。
 この間の事情をランドルフ・ボーンは(前回のブログでも紹介したように)次のように述べていました。

・・・国家の主要な行事が戦争であるとするなら、防衛と侵略という純粋に不毛な目的のために、国家は、国民から活力の大部分を吸いとらねばならない。国家は、国民の活力をできるだけ多く浪費すること、あるいは消失させることに熱中する。・・・
 戦争は「国家の健康法」である。国家が戦時下にあるときにのみ、近代社会は意見の統一を見る。戦時下でのみ、国家は、単純で無批判な愛国主義的献身と協力的奉仕を得ることができ、うまく機能するのだ。それこそ国家を愛する者がつねづね理想とするものだ。
要するに、国家は、一つの社会集団内部の独裁的・恣意的・強制的・好戦的な暴力のすべてを代表する。近代的で自由な創造的精神つまり生命・自由・幸福の追求を求める気持にとって、それは不快きわまりないすべての複合体である。(『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻538頁)


 ランドルフ・ボーンは上で、「国家が戦時下にあるときにのみ、近代社会は意見の統一を見る。戦時下でのみ、国家は、単純で無批判な愛国主義的献身と協力的奉仕を得ることができ、うまく機能するのだ。それこそ国家を愛する者がつねづね理想とするものだ。」と述べていますが、この「戦時下」こそ、いま安倍内閣が北朝鮮を利用してつくりあげようとしている「準戦時体制」なのです。避難訓練はその格好の道具です。
 私は研究所の掲示板「研究仲間」で、「北朝鮮が日本を攻撃する場合は、日本国内の米軍基地か、さもなくば日本の国内にくまなく散在している原発基地でしょう。・・・しかし米軍基地あるいは原発基地のいずれが攻撃されても、学校での避難訓練はほとんど意味を成しません」と書きました。
 ところが同じことを、最近、長周新聞(2017年6月21日)は、もっと詳細に紹介しました。つまり私の予想どおり、避難訓練は都会地や原発地帯を避け、ミサイルなどで狙われるはずもない片田舎だけでおこなわれていたのでした。

・・・こうして緊張状態がつくり出されるなかで、国内では3月に秋田県が男鹿市で「X国」(北朝鮮)の弾道ミサイル着弾を想定した訓練を実施したのを皮切りに、避難訓練がたけなわとなってきた。4月に内閣官房が都道府県の防災危機管理担当者を集めて訓練を実施するよう号令をかけたのを受けて、5~6月にかけて青森県、山口県、山形県、広島県、新潟県などが実施した。今後、静岡県や長崎県も計画している。
 しかし、実施した自治体を見ると、青森県はむつ市大秦浜町、山形県は酒田市西荒瀬地区、広島県は福山市、新潟県は燕市、福岡県は吉富町と大野城市などで、北朝鮮が「標的にする」といっている在日米軍基地を抱える自治体や原発立地自治体での開催は皆無である。農漁業を基幹産業としている山口県の阿武町にいたっては、北朝鮮なり「X国」が狙うような施設もなければ住民もおらず、まともに考えると攻撃側にとってはミサイルの浪費にしかならない。むしろ戦争になれば都会人の疎開先に選ばれるであろう地域といえる。ところが、現実的な視点や意見が憚られるような勢いで、小さな田舎町において「国民の生命を守るため」の訓練が実施され、物いえぬ雰囲気で住民を動員していく。
 山口県の場合、北朝鮮が名指ししており、もっとも標的になる可能性が高いのは米軍基地のある岩国市だ。朝鮮半島情勢がもっとも緊迫した時期には、岩国市内の行政関係者のなかにも緊張が走っていた。しかし、今月27日に予定されている岩国市での訓練は、午後3時に市全域を対象に防災行政無線で情報伝達訓練をおこなうだけで、住民を動員した避難訓練は予定していない。(後略)


 このように安倍内閣は、「原発や米軍基地があるから標的にされる」という世論が広がることを避けつつ、行政主導で国民を戦時体制に組み込むために、「X国のミサイルが落下した」と想定した住民避難訓練を、田舎の自治体を中心に実施させてきたのです。
 ところが、これに飽き足りない安倍内閣は、なんと驚いたことに、最近は、3億6000万円もの税金をつぎ込んで、全国の民放43局、全国の新聞70紙までも総動員した「準戦時体制」づくり、大がかりな世論工作をおこなうまでになっています。
 この間の事情を長周新聞(2017/06/28)は、「政府のミサイル対応CM」と題したコラム記事「時評」で次のように伝えています。

 内閣官房と消防庁が23日から、全国の民放43局で「弾道ミサイル落下時の行動」の政府公報CMを開始し視聴者を驚かせている。新聞でも70紙の朝刊ヘー斉に「Jアラートで緊急情報が流れたら、慌てずに行動を」と題する四段ぶち抜き広告を掲載した。
 CMも新聞広告も赤や黄色で派手に目立たせ、「国民保護サイレン」が鳴ると「頑丈な建物や地下に避難する」「物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守る」「口と鼻をハンカチで覆う」などと大まじめに呼びかけている。
 そもそもミサイルが着弾すれば、頭を抱えて伏せても身は守れないことはだれでもわかる。しかもどこから飛んできてどこへ着弾するかもわからないため、どこが物陰かも判断のしようがない。いくら「慌てずに行動を」と呼びかけても「国民の生命」が守られる保証はまったく無い。
 ミサイル問題でいえば、内閣官房主導で「X国のミサイルが落下した」と想定した住民避難訓練を田舎の自治体を中心に実施させている。
 これは「原発や米軍基地があるから標的にされる」という世論が広がることを避けつつ、行政主導で国民を戦時体制に組み込むためだった。今回のCMや広告も、メディアあげて「仮想敵国」の脅威を煽り、国民のなかで戦時動員の機運を醸成することが狙いである。
 さらにこのCMや広告に安倍政府は3億6000万円もの税金をつぎ込んだ。内訳はCM制作費と放映費で1億4000万円、新聞広告で1億4000万円、ウェブ広告で8000万円。ばく大な税金を投じメディアを手なずけていく仕掛けも露呈している。


 先に3回にわたって連載したブログ「戦争は国家の健康法である」(1~3)でも紹介したように、アメリカでは戦争を忌避する国民を第一次世界大戦に参加させるため、政府は「クリール委員会」をつくって世論工作をおこないました。
 ところが安倍内閣では、内閣官房と消防庁が合同で一種の「クリール委員会」をつくって世論工作をおこないました。
 また、この裏では巨大広告会社・電通が「影のクリール委員会」を形成していたのではないかと私は邪推しています。なにしろ安倍氏の妻・昭恵氏(父は森永製菓社長松崎昭雄)は、結婚するまでは電通の新聞雑誌局に勤務し、結婚も上司の紹介だったそうですから、この「プロパガンダ」プロ集団を安倍内閣が利用しないはずがないからです。
 アメリカ国民を第一次世界大戦に動員するにあたって、のちに有名な著書『プロパガンダ』を書いたエドワード・バーネイズは、ウッドロウ・ウィルソン大統領のもとで「クリール委員会」に参加し世論工作で大きな成果を上げることに貢献しました。その功績を認められたバーネイズは、1919年に開かれたパリ講和会議にも参加しています。
 そして国内外においていかに多くの大衆が、政府の掲げる「民主主義」というスローガンによって、いとも簡単に揺さぶられたかを自分の目で見たバーネイズは、プロパガンダモデルは平時においても利用できると考えるようになりました。それを理論化したのが著書『プロパガンダ』だったのですが、これは当然、大手広告代理店・電通のバイブルにもなっているはずです。
 それはともかく、北朝鮮のミサイル問題を利用して、安倍内閣が日本を「準戦時体制」にもちこみ、改憲と軍備強化の世論づくりに利用しているだけでなく、加計学園などの問題で窮地に追い込まれている内閣の延命策としても、避難訓練が利用されてきたことだけは確かでしょう。こうすれば国民の怒りや不満を国外の「仮想敵」へとそらすことができるからです。
 しかし都議選を見るかぎり、この安倍内閣の戦略は必ずしも成功しなかったようです。東京都民も隣の韓国民衆の闘いから学んで、安倍内閣に鉄槌を加えることを選んだのでしょうか。もしそうだとすれば、絶望しかけていた日本にも、まだ救いはありそうです。
 私が、3回連載のブログ「戦争は国家の健康法である」の続編(余話)を書きたいと思った所以(ゆえん)です。


<註1> 都議選の結果は、小池百合子氏のプロパガンダ「都民ファースト」に東京都民が騙(だま)された可能性も大いに残されています。というのは「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ氏の、大統領当選後の言動は、選挙運動で掲げていた政策やPCR氏が絶賛した就任演説の内容を、次々と裏切るものになっているからです。

<註2> ランドルフ・ボーンの研究者は日本にいないのかと思っていたのですが、検索してみると次の二人の論文が見つかりました。
*大西哲2010「ランドルフ・ボーンとその時代」流通経済大学『社会学部論叢』20-2::3-20
http://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20170705041510.pdf?id=ART0010568022
*前川玲子2010「戦争と知識人」(ランドルフ・ボーン: 翻訳と解題)『英文学評論』82: 59-91
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/135364/1/ebk00082_059.pdf
*前川玲子2015「偶像の黄昏」(ランドルフ・ボーン: 翻訳と解題)『英文学評論』87: 99-128
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/198495/1/ebk00087_99.pdf


「戦争は国家の健康法である」その3

国際教育(2017/06/13)、ランドルフ・ボーン、クリール委員会、「戦争は国家の行事であって国民の行事ではない」「国家の主要な行事が戦争であるなら・・・」

フィリピン大統領ドゥテルテ「アメリカに援助を求めた覚えはない」
ドゥテルテ大統領


 前回のブログを書いてからあっという間に1週間が経ってしまいました。こうしているうちに世界情勢も刻々と変化しています。
 昨日は出版社Dsicover21の社長である干場弓子さんが拙宅を訪れ、チョムスキーの新著『アメリカン・ドリームの死を悼む:富と権力を一極集中させる10の原則』(Requiem for the American Dream:The 10 Principles of Concentration of Wealth & Power)の翻訳・出版を今後どうするかの相談をしました。
 現在のアメリカ、その素顔を(とくに日本の若者に)知らせるためにも、何とか8月中に出版したいとの意向が、社長さんからひしひしと伝わってきました。
 ところが今のアメリカを見ていると、トランプ大統領の迷走ぶりは相変わらずで、大統領というのは財界・金融界やCIAやペンタゴンといった「闇の政府」の傀儡(かいらい=操り人形)ということがよくわかります。
 というのは、ヒラリー女史を次の大統領にするということは「闇の世界」では既定の事実だったのですが、その作戦が失敗すると、次はトランプ大統領をどうすれば意のままに操れるか、操ることが難しいのであれば大統領罷免工作をどう推進するかにエネルギーが注がれているように見えるからです。その一番分かりやすい例がサウジアラビアとカタールへの対応ではないでしょうか。
 トランプ氏は、大統領に当選する前は「湾岸のイスラム王制独裁国家がISISなどのテロ集団に資金援助をしているとして、その筆頭にサウジアラビアをあげていたのですが、今は手のひらを返したように態度を豹変させて、サウジとは巨額の武器場売契約を結びつつ、他方で、カタールという小さな王制独裁国家だけにテロ国家の罪を着せようとしているからです。
 これを見ていると、トランプ氏が今のところ、自分の首をつなぎ止めるため、「闇の国家」の指示どおりに動いていることが、よく分かります。
 カタールという国も、アメリカ(やイスラエル)の指示に従って、ISISを支援していたことは事実だったとしても、同じイスラム王制独裁国家のなかでは全くの小国ですし、アメリカ「911事件」の実行犯の大半がサウジアラビア人であったこと、資金源でも人員面でも、ISISの最大の支援国家が大国サウジであったことは、今では世界中で知れ渡っている事実です。
 ですから、シリアなど中東における殺戮の罪をカタールという小国だけにおっかぶせようとする試みは、アメリカ政府やそれに同調する大手メディの知的レベルと世界中にさらけ出したという意味では、記念碑的なできごとでした。
 このような動きのなかで、ブログ「戦争は国家の健康法である、その1」を読んだ読者から次のようなメールが届きました。

寺島先生
 ブログの更新ありがとうございます。ボーンの論文は原文でも味わいたいです。次の更新も期待しています。
 トランプの180度の転換は、本当に怖いです。まだ、ヒラリーがそのまま大統領になったほうがましだったかもと思えてきます。
 Deep Stateは、自分たちが望んでいる戦争への空気作りを、「トランプの人間性のせい」に巧妙にすり替えている気がしてなりません。
 ただ、私がまだよくわからないのは、先日のロシアにイスラム国の情報をばらしたことなど、なぜ、いまだにトランプたたきが止まらないかです。
 まだ、トランプの転向具合は彼らにとっては合格点ではないのでしょうか?よくわかりません。
 それとサウジアラビアの動きも不穏です。アジア各国訪問と、フィリピンやアフガニスタンの不穏な動きが関連しているようで、怖いです。


 いただいたメールには、「ボーンの論文は原文でも味わいたいです。次の更新も期待しています」という文言があり、私に対する最高の「お褒めの言葉」として受けとめさせていただきました。
 それはともかく、上記では、「私がまだよくわからないのは、先日のロシアにイスラム国の情報をばらしたことなど、なぜ、いまだにトランプたたきが止まらないかです」という質問が書かれています。
 ロシアと協力して「イスラム国」というテロ集団を放逐することは、トランプ氏の選挙公約のひとつだったのですから、大統領に当選したらロシア当局とテロ集団について情報交換することは当然のことであって、何の問題もないことです。
 これを何か問題があるかのように騒ぎ立てている勢力(&大手メディア)は、どうしても大統領罷免にまでもっていきたいのでしょう。この間の事情を詳しく解説しているのがプリンストン大学名誉教授のステファン・コーエン氏(Stephen Cohen)です。
* Dems crippling Trump's plans to cooperate with Russia out of own ambitions
「トランプがロシアと協力する計画を挫折させようとする民主党の野望」

https://www.rt.com/shows/sophieco/388910-trump-scandal-russia-us/(19 May, 2017)

 このインタビューは全文が文字起こしされていますので、聞き取りが苦手な人でも、読むちからさえあれば、その趣旨が理解できます。会話力ではなく読解力がいかに大切か、この一事だけでも分かるのではないでしょうか。
 ところで、上記のブログ読者のもうひとつの疑問は「それとサウジアラビアの動きも不穏です。アジア各国訪問と、フィリピンやアフガニスタンの不穏な動きが関連しているようで、怖いです」というものでした。
 いまISISが、ミンダナオ島マラウイ市を占拠してフィリピンを第2のシリアにしようとする動きに出ていることは(そして裏でサウジを使いながらそれを支援しているのが、アメリカだということも)、この事件が起きたのが、ドゥテルテ大統領がロシアを訪問し、プーチン大統領会談している最中だったことでも分かります。
 ドゥテルテ大統領が、アメリカによる中国封じ込め政策に従わないで、急速にロシアに近づきつつあるのを、どうしても阻止しなければなりません。そのための最上の政策がフィリピンを不安定化させることです。その片棒を担いでいるのが相変わらずサウジアラビアです。この間の事情については下記の論考を御覧ください。

* Path to Hell: Daesh in the Philippines is a US Project
「地獄への道: フィリピン国内のダーイシュはアメリカのプロジェクト」

http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/post-0557.html(邦訳)
https://www.strategic-culture.org/news/2017/06/08/path-hell-daesh-philippines-us-project.html(原文2017/06/08)

 アメリカにとっては、中国やロシアに近づきつつあるフィリピンを不安定化させることは、中国封じ込めにとっても好都合ですし、フィリピンの内乱が続けば武器の販路がますます広がるわけですから、まさに一石二鳥です。
 ところがここでアメリカはさらなる高等戦術に出ました。フィリピン政府を援助しISISと闘うためと称して特殊部隊をマラウイ市に送り込んだのです。しかしドゥテルテ大統領は「アメリカに助けを求めた覚えはない」と述べています。

* Duterte claims ‘never approached’ US for help in battle against Islamist militants
「ドゥテルテ大統領いわく、イスラム戦士に対する戦いで『アメリカに助けを求めた』覚えはない」

https://www.rt.com/news/391843-duterte-us-special-forces-marawi/ (11 Jun, 2017)

 シリアでは「ISISと戦うため」、アフガニスタンでは「タリバンと戦うため」と称して、アメリカは軍隊をシリアに侵攻させ、アフガンでは15年以上も駐留する戦略に出ています。同じことをフィリピンでも狙っているのでしょう。
 このようなアメリカのやり方を見ていると、勝手に他人のコンピュータに入り込んで頼みもしないのに「Windows10」に変えてしまったマイクロソフトを思い出してしまいました。おかげでWindows7を使っていた私は、大変な被害を蒙りました。
 自分の利益のためには手段を選ばないアメリカ流の戦略・戦術は、どこの分野でも共通なのではないかと思わされた次第です。

<註> フィリピン大統領ドゥテルテ氏の関連発言には次のようなものがあります。
* ‘West is just double talk, I want more ties with Russia & China’
「西側の言動はまさに二枚舌だ。だからロシアや中国と手をつなぐ方がよい」

https://www.rt.com/news/389105-duterte-west-russia-visit/(21 May, 2017)
* ‘US, EU meddle in other countries & kill people under guise of human rights concerns’
「米国もEUも、人権を口実に他国に干渉して、人殺しをしている」

https://www.rt.com/shows/rt-interview/389163-philippines-duterte-interview/(22 May, 2017)


 このようなやりかたで、現在の世界情勢・アジア情勢にかんする私の見方・考え方を説明していると、いつまでたっても肝心のランドルフ・ボーンの論文「戦争は国家の健康法である」の最終回に行き着かなくなってしまいます。
 そこで、まだまだ語りたいこと説明したいことが残っているのですが、今はそれを断念して、『肉声でつづる民衆のアメリカ史』(明石書店、2012)に載せられているボーン論文の下記紹介をもって、取りあえず今回のシリーズを終わりにしたいと思います。



戦争は国家の健康法である(下)
ランドルフ・ボーン


 戦争は国家の行事であって国民の行事ではない。じっさい、戦争は国家の主要な行事である。このことは、どれだけ強調しても、しすぎることはない。戦争はきわめて人為的なものである。集団の喧嘩好きというものが、素朴かつ自然発生的に暴発したものではない。 戦争は伝統的宗教と同じほど原始的である。
 戦争は軍事体制なしには存在しえないし、軍事体制は国家組織なしには存在しえない。戦争には太古からの伝統と遺伝形質があるが、それは国家に長い伝統と遺伝形質があるからにすぎない。しかしこの二つは、分かちがたく機能的に結合している。
 戦争に反対する運動をおこなえば、国家に反対する運動にならざるをえない。また伝統的形態における国家の息の根をとめることなく、戦争の息の根を止めることはできない。そんなことは期待できないし、保証もできない。
 国家は国民ではない。だから国家は、国民を傷つけることなく修正できるし、廃止さえできる。それどころか国家の支配が終われば、国民が本来もっている生活向上力が解き放たれる。
 国家の主要な行事が戦争であるとするなら、防衛と侵略という純粋に不毛な目的のために、国家は、国民から活力の大部分を吸いとらねばならない。国家は、国民の活力をできるだけ多く浪費すること、あるいは消失させることに熱中する。
 戦争とは、命を奪い、命を失わせる諸力の巨大な複合体であること、これを否定するものは誰もいないだろう。国家の主要な行事が戦争であるなら、破壊をうみだす能力と技術を結合・開発することに主要な関心をもつのは当然だ。
 これは、実際的にも潜在的にも、敵を殺害するだけでなく、国民を殺害することを意味する。というのは、諸国家の集合組織のなかに一つの国家が存在することは、それ自体、国民をつねに戦争と侵略の危険の下におくことを意味する。だから、国民の活力を軍事的追求へと分散させることは、豊かで創造的な国民生活の向上を自らの手で打ち壊すことになるのだ。……

 要するに、国家は、一つの社会集団内部の独裁的・恣意的・強制的・好戦的な暴力のすべてを代表する。近代的で自由な創造的精神つまり生命・自由・幸福の追求を求める気持にとって、それは不快きわまりないすべての複合体である。
 戦争は「国家の健康法」である。国家が戦時下にあるときにのみ、近代社会は意見の統一を見る。戦時下でのみ、国家は、単純で無批判な愛国主義的献身と協力的奉仕を得ることができ、うまく機能するのだ。それこそ国家を愛する者がつねづね理想とするものだ。
 しかしながら、近代の共和国は、民主的理念という隠れ蓑なしには戦争に突入できない。独裁制と致死的好戦性という古い概念だけでは、国民を戦争に動員できないのだ。
 とすれば、戦争意図を達成するために国家の理想の復興が必要になるわけだが、そうであれば民主的形態に戻るしかない。すなわち外交政策の民主的な統制、戦争にたいする民主的な渇望、とくに民主主義と国家の同一視など、このような過去の確信の下に戻ることである。
 しかし昔の確信に戻ったとしても、国家がいかに悔い改めていないかは、治安維持法や旧態依然の外交政策によく示されている。連合国の民主主義の中で、先見性ある民主主義者たちが第一に要求したのは、秘密外交の廃止ということだった。
 というのは、戦争を可能とさせたものは、国家間のさまざまな秘密協定によるものだったからだ。すなわち民衆の支持がほとんどない同盟、民衆の全く知らないうちにつくられた同盟、あるいは民衆が半分も理解していないのに秘密のうちに条約や協定の段階に達していた約束などである。
 戦争になってはじめて拘束力のある約束だったことが明らかになったものが少なくない。だからこそ、民主的思想家たちは次のように主張してきたのだ。
 「このような有害な秘密外交の裏舞台が破壊されないかぎり、戦争はほとんど避けようがない。このような裏舞台のせいで、国家の主権や財産や成年男子が、白地小切手というかたちで相手の同盟国に譲渡されてしまう。そして戦争が起きたとき、その小切手は現金に換えられる。だから、国民すべての命にかかわる協定は、政府ではなく国民のあいだで結ばれねばならない。少なくとも国民の代表によって、国民の全面的な監視のなかで結ばれねばならないのだ。」
(下線は寺島。『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻524ー526頁)


<註1> この最終回を読むと、わずか32歳で夭折したランドルフ・ボーンの才気をますます感じざるを得ません。私は「戦争は国家の健康法である」という言い回しに初めて接したとき、その切れ味の鋭さに思わずタジタジとした記憶が残っています。この最終回でも、その鋭さは増すことはあっても鈍ることはありませんでした。たとえば、今回の冒頭に出てくる「戦争は国家の行事であって国民の行事ではない。じっさい、戦争は国家の主要な行事である」という言い回しも、アメリカという国の本質を見事に言い当てていて、思わずうなってしまいました。

<註2> 第一次世界大戦当時のアメリカでは、「クリール委員会」のような組織を使って、大学までも巻き込む国家総動員体制が求められました。ボーンが学んだ名門コロンビア大学でさえ、この総動員体制に協力させられました。
 コロンビア大学のバトラー総長は「自らのために、国のために、コロンビア大学のために、戦争への奉仕にいそしむ」ことを皆に勧めましたし、コロンビア大学では学生の軍事訓練も行われました。ボーンの友人だった英文科の教員ヘンリー・W. L. デイナは反戦集会に参加して解雇されるという事件も起きました。
 安倍政権は現在、莫大な防衛研究費を餌にして、大学でも軍事研究に協力するよう執拗に迫っています。日本学術会議の会長でさえ、これに同調する動きを見せていますから、非常に深刻な事態だと言えます。


「戦争は国家の健康法である」その2

国際教育(2017/06/05)、ランドルフ・ボーン、ジョージ・クリール、クリール委員会(アメリカ広報委員会)、プロパガンダ、パブリック・リレーションズ(PR)

クリール委員会委員長ジョージ・クリール、          ドイツ兵の残虐性を宣伝するのポスター
Creel.jpg クリール委員会ポスター

 安倍内閣の推進する「共謀罪」が衆議院で強行採決され、日本がアメリカ軍の指揮の下で戦争できる体制がますます強固になってきました。
 アメリカのDeep State「闇国家」は、トランプ大統領を目下の家来として使いながら、北朝鮮や中国を口実とした戦争を着々と準備しているように、私には見えます。
 G7やEUの会議で露呈されてしまいましたが、いまアメリカは世界で孤立しつつあります。このような状況を一挙に解決してくれるのが戦争です。
 アメリカの、911事件を口実としたアフガニスタンへの爆撃と、大量破壊兵器を口実としたイラク侵略も、ブッシュ大統領の支持率が最底辺に落ち込んだときに始まりました。そしてアメリカ国民も大手メディアもこれを熱狂的に支持し、それに反対する人たちは「国賊」扱いされました。
 実はアメリカの第1次世界大戦にたいする参加も、同じような戦術が駆使されました。国民の大多数は欧州大陸で始まった第1次世界大戦にアメリカが参戦することに反対でした。そこで国内の世論を誘導すべく立ち上げられたのが、ウィルソン大統領が設立した政府広報機関クリール委員会でした。
 これはアメリカ政府として初の専門職・知識人による広報集団・宣伝扇動機関で、ジャーナリストのジョージ・クリール (George Creel)を委員長としていたため「クリール委員会」とも呼ばれています。この委員会にはアメリカを代表する有名知識人も総動員され、当時のアメリカを代表する哲学者・民主的教育者として名高かったジョン・デューイまでも、この委員会にからめ取られていきました。
 コロンビア大学で学びデューイを師として尊敬していたランドルフ・ボーンが、苦渋の決断の結果、勇気をもってデューイを批判し恩師と袂(たもと)を分かつ道を選んだことは、前回のブログで紹介したとおりです。30代の若いボーンが、デューイを批判した論拠は、論文「国家-戦争は国家の健康法である」に鋭く かつ完膚なきまでに展開されていて、ボーンの才能に驚嘆せざるをえません。ボーンの夭折は本当に残念極まりないものでした。
 とりわけ今号で紹介する次の部分を読んでいただければ、いま正念場を迎えている「共謀罪」の本質がみごとに展開されていて、皆さんも驚かれるのではないでしょうか。

 このように、戦争が始まると、国家の内部で衝突がおこる。戦争は追う者と追われる者のあいだのスポーツになる。心理的魅力という点では、国外で敵を攻撃するよりも、国内で敵を追及するほうが重要になる。国家は凄まじいほど全力で異端者を抑圧する方向へすすむ。
 国家は異端者狩りで沸き立ち、それは確実に持続する。平和主義者、社会主義者、敵性外国人に、国家の手で激しいテロリズムが実行される。そして敵と関係があるとされる人物や運動には、表には出ないが持続的な迫害が加えられる、「国家の健康」であるべき戦争は、すべての有産階級と一般民衆を一体化し、そこからはみ出した人々を法律の保護外におく。





戦争は国家の健康法である(中)

ランドルフ・ボーン

 戦争、少なくとも強力な敵にたいして民主主義国が遂行する現代の戦争は、その国に必要なほとんどすべてを達成してくれるように思われる。それは燃えたぎる理想をかかげる政治家なら、誰でも手に入れたいと望んでいるものだ。
 ほとんどの市民は、もはや政府に無関心ではいられない。それどころか政治的な体の各細胞は生命と活動に満ちあふれる。我々はついに、あの(理想として心に描いてきた)集団主義的共同社会を完全に実現させることになるのだ。そこにはともかくも「一人がみんなのために」という価値観がある。
 戦時体制の国では、あらゆる市民が自分を全体に一体化・同一化し、それを認識することによって限りなく強くなったと感じる。集団主義的共同社会の目的と願望は、戦争の大義に全身全霊を捧げる個人のなかに息づき、社会と個人のあいだを妨げる区別はほとんど消し去られる。
 戦争中、個人は社会とほとんど同一になる。個人は飛び抜けた自信、つまり自分の理念と感情がすべて正しいという直観をいだく。その結果、個人は反対者や異端者の弾圧にさいして無敵の強さを発揮する。集団主義的共同社会の力を背後に感じるからだ。社会的存在としての個人が、戦時にその典型を達成したかにみえる。
 アメリカ国民が、このような集団的な献身、このような犠牲と労働を、たとえ世界に示すことができたとしても、それは宗教的衝動からではない。アメリカ国民が、自分の財産と生命を注ぎこんだり、国民のお金と人員を徴集するといった、国民の反感を買う強制的措置まで承諾したとしても、それは普通教育のような世俗的善や自然の征服のためでもない。
 そうではなく、それは自衛の戦争という攻撃をするためなのだ。それなしには、「民主主義」という困難な大義をアメリカ国民が支持することもないし、これまでにない最高水準の集団活動に達することもないだろう。
 労働者階級の人々は、少なくとも自分は「知識人」「重要階級」に属しているとは思っていない。むしろ、そのような階級を見習って上昇に努めているのだが、国家という象徴的なものに振り回されないので、「知識人」「重要階級」からは悪評が高い。言い換えれば、労働者階級は「知識人」「重要階級」ほど愛国的ではないのだ。彼らにとっては権力も栄光も無縁だからだ。
 戦時の国家は彼らに退歩の機会を与えない。彼らは社会的に大人として扱われたことがなかったから、大人として扱われる機会を失い、子どもに戻ることはないからだ。
 労働者は、一九世紀の産業体制のときと同じように、徒弟奉公で鍛えられ従順にしつけられていれば、喜んで御国(おくに)のために出征して戦ったかもしれないが、彼らは国家にたいしてそのような「親にたいする子としての感覚」は全く持っていない。普通なら「年長者」を前に非常に強力に作用する、「愚者」対「知者」の感覚さえももたない。
 労働者は、産業的農奴制のなかで毎日を暮らしているので、名目上は自由だが、実際には機械生産体制に束縛された階級だ。資本家体制は自分の所有物ではないから、自分の生産物の分配にわずかな発言権すらもない。ときにはストライキなどの公的に認められていない脅迫手段を用いて雀の涙ほどの分け前をもらえるだけだ。徴兵制度はこのような農奴制とさして変わりはない。
 労働者階級は軍事的企てに参加はするが、「知識人」「重要階級」のような熱狂に煽られて赴おもむくのではない。「知識人」「重要階級」の本能が戦争を強力に煽(あお)っているだけだ。それどころか労働者は、嫌悪感をもって戦地に赴(おもむ)くのだ。それは、彼らが企業に入り働きつづけるときにもつ嫌悪感(けんおかん)と全く同じ嫌悪感だ。
……
 このように、戦争が始まると、国家の内部で衝突がおこる。戦争は追う者と追われる者のあいだのスポーツになる。心理的魅力という点では、国外で敵を攻撃するよりも、国内で敵を追及するほうが重要になる。国家は凄まじいほど全力で異端者を抑圧する方向へすすむ。
 国家は異端者狩りで沸き立ち、それは確実に持続する。平和主義者、社会主義者、敵性外国人に、国家の手で激しいテロリズムが実行される。そして敵と関係があるとされる人物や運動には、表には出ないが持続的な迫害が加えられる、「国家の健康」であるべき戦争は、すべての有産階級と一般民衆を一体化し、そこからはみ出した人々を法律の保護外におく。
 勤労市民・労働者階級は、このような「一体化」につよく抵抗し、すでに見たように、心理的にも、このような流れに距離をおく。だからこそ世界産業労働者組合(IWW)のような団体は容赦(ようしゃ)なく追求され弾圧されるのだ。しかしIWWの抵抗は、国内の団結を乱す原因なのではなく、政府の弾圧政策の結果にすぎない。迫害は労働者の反抗心を増大させ、摩擦を減らすどころか増強するだけだからだ。……
(下線は寺島。以下、次号に続く。『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻521ー524頁)


<註1> クリール委員会は、アメリカ国外の敵国を悪魔化するために国民にたいして徹底的な「プロパガンダ」「宣伝洗脳工作」がおこないました。
 たとえば、アメリカ国民のドイツに対する敵意を増幅させるため、ドイツ兵を「野蛮なフン族のアッティラ(注:フン族の王)」として描き出し、漫画や新聞報道でもドイツ兵の残虐性をことさら強調するものが氾濫していました。
 この手法は「イラク戦争」まで引き継がれていて、現在のシリアや北朝鮮にたいする攻撃も、「アサド大統領=独裁者」「北朝鮮=気の狂った国」という描き方であり、基本的には何も変わっていません。

<註2> クリール委員会の正式名称は、アメリカ政府・広報委員会(CPI:Committee on Public Information)ですが、この委員会に参加して、有名になった人物にエドワード・バーネイズがいます。彼は第2次世界大戦後、「プロパガンダという技術をプロパガンダする」目的で、『プロパガンダ』という本を出版しました。
 これは今では、W・リップマン『世論』と並び、広告関係者必読のバイブル的な存在となっていますが、嘘をついてアメリカ国民を第一次世界大戦へと引きずり込んだ悪いイメージが「プロパガンダ propaganda」という用語に定着してしまったため、リップマンは後に「プロパガンダ」の代わりに「パブリック・リレーションズ」(PR:Public Relations)という用語を使うようになりました。



「戦争は国家の健康法である」その1

国際教育(2017/05/30)、サウジアラビア、イスラム王制独裁国家、死の商人、軍事安保複合体、「闇の国家DeepState」、鈴木孝夫、ランドルフ・ボーン

33歳で夭折したランドルフ・ボーン(Randolph Bourne)
ランドルフ・ボーン 仮題『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上


 トランプ政権は相変わらず迷走し続けています。トランプ大統領がDeep State「闇の国家」の言いなりになって、外国旅行の最初に選んだ国がサウジアラビアとイスラエルだったにもかかわらず、国内では「ロシア・ゲイト」を口実にしたトランプ叩きが弱まる気配が一向に見えないからです。
 トランプ大統領がG7に参加する途上で外国旅行の最初に選んだ国サウジアラビアは、隣国イエメンを爆撃し莫大な難民と大量の死者を生み出しているだけでなく、シリアで蛮行を重ねているイスラ原理主義テロ集団ISISの裏の支援者として、知る人ぞ知る有名なテロ国家・王制独裁国家です。
 ところがトランプ氏は、今回のサウジ訪問で、このサウジアラビアと今後十年間で $350 billion(10億ドル✕350=3500億ドル)の武器売買の契約を結びました。しかも、そのうちの $110 billion(10億ドル✕110=1100億ドル)は初年度の支払いで、Deep State「闇の国家」(=金融街・軍事産業、軍事安保CIAペンタゴン複合体)のふところに入ってくることになっているそうです。
 この金額は前大統領オバマ氏が二期八年で達成した「約 $115 billionにものぼるサウジへの武器売買」を一気に超えてしまう金額です。しかも、このオバマ氏が達成した成果は、過去にも例のないほどの巨額な武器取引だったというのですから、トランプ氏が「死の商人」として達成した成果が、いかに巨大なものだったかが分かります。
*Trump’s Art of the Deal in the Middle East: Selling wars and terrorism
「武器とテロを売りまくる、中東におけるトランプ氏の商売技術」
https://www.rt.com/op-edge/389462-trump-israel-palestine-saudi-war/

 トランプ氏は大統領に当選する前は、ヒラリー・クリントンの選挙戦で「サウジこそが中東における殺戮の元凶である」として、サウジアラビアやイスラエルを支持するヒラリー女史を、口を極めて非難してきたはずですが、今ではその姿勢を一八〇度転換させて「闇の国家」の指示に従うようになりました。
 これはCIAによる暗殺またはクーデターから逃れるための、やむを得ない方向転換だったのかも知れませんが、冒頭にも述べたとおり、それにも関わらず、トランプ叩き・トランプ追放の勢い・矛先は、止みそうにありません。中東その他における武器売買と戦争の継続は、それほど金融街と軍事産業、軍事安保複合体にとって、美味しい商売なのでしょう。
 ところが日本の安倍政権も憲法九条を投げ捨て、原発や武器を輸出することで経済界に奉仕しようと懸命です。国民は貧困化するばかりで購買力がないのですから、「原発や武器の輸出によって他国のひとが死のうが、国民の税金で支援された原発産業や兵器産業が儲かりさえすればよい」というように、大きく方針転換を図っていると考えた方がよいのかも知れません。かつて朝鮮戦争で日本が景気回復したように、第二の朝鮮戦争を期待して、共謀罪の準備をしているとも考えられます。


 ところで前回のブログでは、「しんぶん赤旗」が拙訳『肉声でつづる民衆のアメリカ史』に載っている、ボブ・ディランの歌「戦争の親玉」、パティ・スミスの「民衆には力がある」を利用しながらで、素晴らしいコラム記事を書いていることを紹介しましたが、丁度そのころ、私が尊敬している鈴木孝夫先生から『下山の時代を生きる』(平凡社、2017)が届きました。
 封筒を開けてみると平田オリザ氏との共著の新書が入っていて、しかも鈴木先生の自筆による署名で「謹呈」と書いてあり、そのうえ同封してあった便箋には次のような文面がしたためられてあったので、なおさら感激しました。大先生から直接に謹呈本が届くだけでも感激してしまうのに、そのうえ便箋に次のようなお褒めの言葉が眼に飛び込んできたのですから、感激の二乗・三乗でした。

「前略、このたび同封いたしました対談本を出しました。今年で九十歳になりましたが色々な考えが浮かんでくるので中々死ぬヒマがありません。
 先生方の訳された『肉声でつづる民衆のアメリカ史』を少しずつ読んでいますが、大学のアメリカ文学研究者たちは、このような本を読んでいるのかなと思います。
 先生方の御健闘を心から期待いたしております。早々
平成二十九年五月一〇日、鈴木孝夫
寺島隆吉、美紀子様」


 鈴木先生の名著『言葉と文化』(岩波新書、1973)を読んで以来、私にとって鈴木先生は雲の上の人物として尊敬するだけの存在でした。
 そのような大先生から直接に謹呈本をいただくだけでなく、拙訳『肉声でつづる民衆のアメリカ史』を読んでいただいていると知っただけでも本当に光栄なことです
 その鈴木先生から、「先生方の訳された『肉声でつづる民衆のアメリカ史』を少しずつ読んでいますが、大学のアメリカ文学研究者たちは、このような本を読んでいるのかなと思います」という感想をいただき非常に誇らしい気持ちになりました。
 と同時に、複雑な思いも浮かんで来ました。というのは鈴木先生のことばから、「大学のアメリカ文学研究者たちは、この訳書に載せられているような事実を、ほとんど知らずに文学をやっているひとが少なくないのではないか」という声が聞こえてくるような気がしたからです。
 拙著『英語教育が亡びるとき:「英語で授業」のイデオロギー』(明石書店、2009)、『英語で大学が亡びるとき:「英語力=グローバル人材」というイデオロギー』(明石書店、2015)を出したとき、私は「英語読みのアメリカ知らず」ということも書きましたが、鈴木先生のことばから、ふとそのことを思い出してしまったからです。
 そういう意味で、今回のブログでは、『肉声でつづる民衆のアメリカ史』(上下2巻)のなかでも、上巻第14章に載っているランドルフ・ボーンの論文「国家」を、特に紹介したくなりました。
 というのは、トランプ大統領のサウジ訪問と巨額の武器売買、さらには平和憲法を放棄して原発や武器を外国に売りつけようとする安倍政権の姿勢のなかに、民衆の死を踏み台にして戦争で大もうけとをしようとする「死の商人」の臭いが強く漂ってくるように思ったからです。
 ランドルフ・ボーンは、友人チャールズ・ビアード[歴史家・政治学者]やジョン・デューイ[哲学者・思想家]が第一次世界大戦を支持したという理由で二人と交際を断ち、一九一八年に若くして他界した天才的作家で社会評論家なのですが、彼が他界したときに発見された未刊行の論文が「国家」でした。
 私は、この論文を読んだとき、その論文の各所に「戦争は国家の健康法である」というフレーズが散りばめられていて、その用語・文句を眼にしたとき、雷に打たれたような衝撃を受けたことを、今でもありありと憶えています。政府・国家を支配している金権・特権階級がなぜ戦争をしたくなるのか、その謎がみごとに解明されているような気がしたからです。
 為政者にとっては、自分たちの失策で景気が低迷し庶民が貧困にあえいでいるとき、そして庶民が政府・特権階級に不満をつのらせているとき、そのような暗い雰囲気や庶民の不満・憤りを一掃する最良の手段が、戦争だったのです。まさに為政者にとって「戦争は国家の健康法」なのでした。
 ボーンは、デューイを代表者とする当時の「進歩的知識人」と袂を分かったとしても、また学会や知識人の世界から追放されることになろうとも、自身の主張を貫こうとしたのでした。以下では、少し長いので、このボーンの論文を数回に分けて紹介したいと思います。味読していただければ幸いです(ただし下線は寺島による)。



戦争は国家の健康法である(上)

ランドルフ・ボーン


 宣戦布告がなされた瞬間……国民大衆は、ある種の精神的錬金術にかけられてしまい、宣戦布告は自分の意志で自分がおこなったのだと確信する。そして、少数の反抗者を除き、自ら進んで体制に同調し、強制され、生活環境すべてにおいて錯乱に追いこまれることをよしとするようになる。その結果、政府が何かを計画したとき、それに同意しないものは誰であれ破壊するという工場へと自ら変身する。市民は政府への軽蔑の念と無関心をすて、政府目的に自らを一体化し、自分が軍隊にいたときの記憶や象徴をすべて蘇らせる。人々の想像力をとおして国家はふたたび威厳ある存在をとりもどす。愛国主義が支配的感情となると、本来あるべき人間関係に、ただちに強烈で絶望的な混乱をうみだす。それは、人間社会で現に存在し、あるいは将来もつべき人間関係を破壊するのだ。……

 戦時には、国家の理想が明確な救済にまで高められ、奥に潜んでいた態度や性向を露わにする。軍国主義化していない共和国では、平時には国家の意味はうすらぐ。戦争は本質的に国家の健康法だからである。戦時に国家は蘇るのだ。国家の理想とは、権力と影響力が領土内のすみずみにまで及ぶことである。教会が人間の精神的救済の媒体であるように、国家は人間の政治的救済の媒体とみなされる。その理想とするところは、政体構成員の全員に豊かな血液が行きわたることである。また団結の緊急性が最高度にたかまり、同一化の必要性が全く疑問の余地ないものと見なされるのは、まさに戦時においてである。国家とは、攻撃的であれ防衛的であれ、組織された他の民衆にたいして、同じように組織され行動に追い込まれる民衆の組織なのだ。その際、防衛にいたる事件が恐ろしいものであればあるほど、組織はますます団結を固め、集団構成員におよぼす力はますます高圧的・強制的になる。戦争は、目的と活動の波を、集団の最下層や最末端にまで徹底していく。戦争は、軍事的攻撃あるいは軍事的防衛という中心目標にむかって、社会の全活動を迅速に結びつけ、平時にはどんなに努力しても到達できなかった存在へと国家を変貌させる。このとき国家は、人々の仕事や態度や意見の、容赦ない調停者と決定者になる。不況は吹っ飛び、相互の反目は消え、不格好であろうともゆっくりと、しかし今までにない加速度と一体感をもって、大きな目的にむかって進んでいく。J・P・ジャックスの忘れ難いことばで言えば、まさに「戦時下の穏やかさ」へむかって進んでいくのだ。……

 戦争は国家の健康法である。戦争は、抑えがたい勢力を統一性へと動員する。集団意識を欠く少数の集団や個人をむりやり服従させ、政府への熱烈な協力者に変身させるのだ。その際、政府の諸組織は厳罰をさだめて執行する。少数派は脅迫されて沈黙に追いこまれるか、巧妙な説得の過程をとおして、ゆっくりと思想を変更させられる。ときには実際に転向させられているとは気づかない場合すらある。しかし、完全な忠誠、完全な統一という理想は、実際には決して達成されない。というのは、強制という素人仕事をさせられる階級[知識階級]は、それを飽きずに熱心におこなうが、往々にして彼らの熱意は、転向の代りに反抗を強めるだけの働きをするばあいが多いからだ。少数者は口をきかなくなり、その意見は厳しさや皮肉を強めるだけだ。とはいえ一般に言えば、戦時中の国家は、感情の統一を獲得し、国家的価値観という点でも、理想的な頂点に達することは疑いない。これは、戦時以外のいかなるものさえ産みだしえないものだ。こうして、忠誠という「国家への不可解な献身」は、心が生み出す重要な人間的価値となる。それ以外の、芸術的創造、知識や理性、美や生活向上といった価値は、ほとんど異議なく、ただちに犠牲にされる。国のために「素人転向工作員」という役を自ら買ってでた重要な階級・知識人は、そのような馬鹿げたことのために上記の価値を自分で犠牲にするだけでなく、ほかのすべてのひとにまで同じ犠牲を強制することになる。
(次号に続く、『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻519ー521頁)


<註1> 鈴木孝夫・平田オリザ『下山の時代を生きる』については、いずれゆっくり書評を書きたいと思っています。とりわけ平田オリザ氏の意見が鈴木先生と微妙な食い違いを見せている点が、私にはとりわけ興味深く感じられました。

<註2> 大統領が部下であるべきCIA(「闇の国家」)によって暗殺される可能性があることは、元政府高官PCR氏(Paul Craig Roberts)による下記の簡潔な論説で知ることができます。
*JFK at 100 — Paul Craig Roberts、「JFK生誕百周年」 
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2017/05/jfk-a27a.html(邦訳)
http://www.paulcraigroberts.org/2017/05/24/jfk-100-paul-craig-roberts/(英語原文、2017/05/27)

<註3> PCR氏は、「ワシントンとイスラエルは平和に対する脅威だ」「ワシントンは世界覇権を求めており、イスラエルは中東での覇権を求めている」と述べ、下記でその理由を詳しく述べています。
*Truth Has Become Un-American 「真実は反米と化した」
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2017/05/post-b8f1.html (邦訳)
http://www.paulcraigroberts.org/2017/05/23/truth-has-become-un-american/(英語原文、2017/05/23)



ボブ・ディラン「戦争の親玉」、パティ・スミス「民衆には力がある」

国際教育(2017/05/14) 狂人理論、マケイン上院議員、韓国大統領ムン・ジェイン(文在寅)、ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』

仮題『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上  仮題『肉声でつづる民衆のアメリカ史』下


前回のブログで「私の休筆宣言」を書いてから(2017/04/07)1ヶ月半になります。

昨日やっとチョムスキーの新著『アメリカン・ドリームの死を悼む:富と権力を一極集中させる10の原則』(Requiem for the American Dream:The 10 Principles of Concentration of Wealth & Power)の翻訳を終わりました。

まだ訳文を推敲しなければならない仕事が残っているのですが、FC2のブログは更新をしばらく怠ると、さまざまな宣伝がトップ頁に出てきて、読者に迷惑をかけてしまうことが分かりました。

そこで当初は翻訳の完成原稿ができあがるまで「休筆」することを宣言したのですが、そうも言っていられなくなりました。今も左腕の肘が痛風で膨れあがり痛みがあるのですが、何とか頑張って、この原稿を書いています。

さて世界情勢ですが、フランス大統領選挙ではオランド大統領(フランス社会党)の直系であり財界とのつながりも強いマクロン氏が、「中道」のふりをして、しかもEUの特権階級と大手メディアの全面的な支持を得て、当選しました。

大手メディアは、ル・ペン候補がプーチンから支援を得ているとか極右であるとかの大宣伝をしましたから、構図としてはアメリカ大統領選挙のときと同じなので、あのようなどんでん返しがフランスでも起きるのではないかと期待するひともいたのですが、フランスとEUの支配層は同じ失敗を繰りかえすまいと大奮闘した成果がマクロン当選となりました。

しかしトランプ大統領が「闇の政府」Deep Stateに抗しきれず迷走を続けていますから、ロシアとEU、ロシアと米軍・NATO軍は一触即発の状況にあり、いつ核戦争・第三次世界大戦になるか分からないという状況では、ロシアとの友好関係を重視するル・ペン候補の当選が世界平和にとって望ましいことは理の当然であるようにみえます。その意味では、フランスの左翼・リベラルも、アメリカと同様、完全に死んだと言えるでしょう。

しかし、ただひとつ救われたことは、韓国の大統領選挙で「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏が新大統領に選出されたことです。これまでの韓国はアメリカの言いなりになって北朝鮮にたいする軍事演習をくりかえしてきただけでなくTHAADミサイルという超強力な攻撃兵器が配備され、ここでも一気に核戦争・第三次世界大戦への危機が高まりました。

この危機に関しては、アメリカでは、「ロシアとの核戦争も辞さない」「核戦争で脅かせばプーチン大統領もシリアに対する姿勢を変えるだろう」と息巻いて、超タカ派で知られているマケイン上院議員でさえ、「このまま北朝鮮を追い詰めると『窮鼠(きゅうそ)猫をかむ』のことばどおり、本当にキム・ジョンウンは核兵器を使うかも知れないと恐れたのでしょう、トランプ大統領に「外交交渉を優先せよ」と進言したというのですから、事態がいかに深刻だったかが分かります。

「アメリカは狂人のように暴力的な国だからいつ何時どのような攻撃を加えてくるか分からない」という、いわゆる「狂人理論」を武器にして、これまでアメリカは常に、あちこちの国を脅迫し服従させてきました。その「狂人理論」のお株をキム・ジョンウンに奪われて慌てふためいているのが、それを最も声高に叫んできたマケインなのですから、まるで漫画のような話です。しかし逆に言えば、それほど核戦争が目前に迫っていたとも言えます。

マケイン上院議員の発言について詳しくは下記のRTニュースを御覧ください。
‘Very last option’: McCain skeptical about preemptive strike on N.Korea
「北朝鮮を先制攻撃するのは最後の最後の選択:マケインは先制攻撃に懐疑的」

https://www.rt.com/usa/386683-mccain-preemptive-strike-korea-trump/

先述のとおり、幸いにも韓国では北朝鮮との融和的関係を重視する文在寅(ムン・ジェイン)氏が新大統領に選出されました。これでやっと東側の緊張関係は緩和され、核戦争・第三次世界大戦への危機は一時的に遠のきました。これはまさに平和を望む韓国民衆の勝利と言うべきでしょう。

ところで先日、知人から添付のような記事が届きました。「しんぶん赤旗に興味深いコラム」を見つけたからというのです。そこでは拙訳『肉声でつづる民衆のアメリカ史』(明石書店)を素材にした見事な論が展開されていて、感銘しました。

このような短い記事を書くのに、上下2巻にわたる高価な大冊を購入され、それを読破されたうえで素晴らしいエッセイを書かれた記者の筆力と情熱に、何か感動すら覚えました。そこで以下にそれを写真版(Jpeg)で紹介したくなりました。

しかも北朝鮮やシリア中東その他で、アメリカ・NATO諸国、そして湾岸王制独裁国家による戦乱と殺戮が続いているときだけに、このエッセイは、単にボブ・ディランのノーベル賞受賞という話題を大きく超えた、視野の広がりと鋭さを感じさせられました。

この記事の最期は次のように結ばれています。。

同書に載るディラン氏の曲は、軍需産業を皮肉った「戦争の親玉」です。スミス氏の曲は「民衆には力がある」。夢を実現するのは結束だ、私たちは世界を変革できる、と励ます歌詞です。不屈の民衆の運動に根ざすとき、文化は偉大な力を発揮し、歴史をつくる営みとなります。


まるで韓国の大統領選挙を思い起こさせるような結びではないでしょうか。それに比べて日本政府のアメリカ追随ぶりには本当に胸が痛みます。



赤旗20170408「こちら経済部―「パンクの女王」の励まし」『肉声でつづる民衆のアメリカ史」



<註1> ボブ・ディラン「戦争の親玉」、パティ・スミス「民衆には力がある」は下記で視聴できます。
Bob Dylan - Masters of War - lyrics
https://www.youtube.com/watch?v=exm7FN-t3PY (動画3分)
Patti Smith - People Have The Power
https://www.youtube.com/watch?v=pPR-HyGj2d0 (動画5分)

<註2> フランスでは「極右」として特権階級および大手メディアから総攻撃を受けているルペン候補について、アメリカの元政府高官PCR(ポール・グレイグ・ロバーツ)氏の見解を下記で読むことができます。
* Only Marine Le Pen Represents France
「フランスを代表しているのはマリーヌ・ルペンのみ」
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2017/05/post-aa00.html(和訳)
http://www.paulcraigroberts.org/2017/04/26/marine-le-pen-represents-france/(原文)

 またマクロン候補について、もっと詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
* 5月7日の選挙でフランスの時期大統領はオランドの後継者で巨大資本の奉仕者であるマクロンに
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201705090000/




迎春2017―- 激動・激変する世界、混乱・混迷を深めるアメリカ

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 昨年は、正月早々から義母が救急車で緊急入院することから始まり、それ以来、入退院を繰りかえしながら、ついに6月11日に他界しました。
 入院するたびに悪くなっていくので、安保徹氏の言う「医療が病いをつくる」を実感する日々でもありました。ディサービスに復帰できるまでに回復していた時期もありましたから、なおさら、その思いが募りました。
 他方、これと並行して『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』の出版をすすめていたので、編集会議、原稿集め、加筆修正の要請、初校・再校・三交・念校などが切れ目なく続き、その合間に入院している義母への見舞いを兼ねた毎日の看護も重なって、本当に疲労困憊した1年でもありました。
 最終的に『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』が出版されたのが11月20日で、その直前まで「再念校」をせざるを得ず、それが終わった後は、12月2日に予定されていた和歌山講演(「高英研」和歌山市支部)への準備に追われました。
 実はその前に思いもかけず「しんぶん赤旗」から『英語の帝国』(平田雅博、講談社)の書評依頼があり、11月30日の締切を講演後の12月5日まで延ばしてもらえるようお願いせざるを得ないという突発的な出来事もありました。
 もうひとつの突発的な出来事は、長周新聞から「先生の『ヒラリー・クリントンとは誰か』上・下(11月2日・4日)の反響が大きかったので、2017年新年号の記事もぜひお願いしたい、締切は12月13日ではどうでしょうか」という依頼があったことでした。
 もうすでに疲労が極致に達していたので断ろうかと思ったのですが、編集部からの強い要請に屈して、「締切を12月末日にしてもらえるなら」という条件で引き受けることになってしまいました。「NOといえない日本人」の典型です。
 こうして昨年は、最後の最後まで仕事に追われることになり、ついに喪中の葉書すら書く余裕がなくなってしまいました。
 そういうわけで、「謹賀新年2017」ではなく「迎春2017」という題名のハガキをつくり、せめて元旦当日に届いた年賀ハガキに応えることにしました。これが本日のブログで紹介する新年の挨拶状ということになります。
 前回のブログを載せた日付を確かめると、2016年12月15日になっていましたから、もう1か月近くにもなっています。私のブログを待っておられた方には本当に申し訳なく思っています。
 しかし、元旦当日は届いた年賀状の返礼をつくるのに追われ、翌日はその宛名書きに追われ、さらに昨日は長周新聞新年号の原稿校正に追われていましたので、私の窮状に免じて、何とかお許しをいただければ有り難いと思います。
 いずれにしても良いお年をお迎えください。



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狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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