W教研を終えて思ったこと反省したこと(中)

前回は、W県高等学校教職員組合主催の教育研究講座「英語部会」に招かれて講演した反省記録の前半部をお伝えしました。

心臓手術の痛みがまだ完治しないのと愛犬が癌の末期を迎えていて介護に疲れているのが重なり、続きがなかなか書けませんでした。

やっと少し元気が出てきたので、上記反省の後半部を以下に記すことにします(ちなみに上記の愛犬は『魔法の英語』あすなろ社/三友社出版の表紙を飾っている柴犬雑種です)。


上記「講演会」の午後は「理論学習とワークショップ」となりました。具体的には「読みの指導と文章の構造」「構造読みのワークショップ」の三つを取りあげました。

最初の「リズム読み・通し読み・表現読み」は理論学習を兼ねて私が在職していたときに担当していた「英語科教育法Ⅰ」で書いた学生の最終レポートを輪読してもらいました。

というのは、理論学習として拙著『英語にとって音声とは何か』あすなろ社/三友社出版を取りあげても良かったのですが、むしろこれを教科書にしながら「学生たちが英語音声にどのように挑戦していったのか」「そして学生たちが英語音声に対してどのように自信を回復していったのか」を、彼らの生の声で知ってもらった方が良いと考えたからです。

この資料は退職記念講演会で資料として配付してあるものですが、これに対する感想が余り聞こえてこず少し残念に思っていたので(詳しい説明抜きの配りっぱなしでは仕方のないことでしょうが)この講座で取りあげることにしたのでした。幸いにも少しは反響があったようで、K先生の報告には次のように書かれていました。

<先生の教え子2人のレポートを参加者で輪読しました。学生たちがMichael Moor's Closing Speechをリズム読み,表現読みをすることにより「英語らしい」発音を獲得していく過程に,英音法の幹はリズム読みにあると再確認しました。初めて参加した人にはBlowin' In the Windのリズム読みをやっていただきたかったのですが,時間の都合でできなかったのが残念でした。>

なお配布した資料は下記に再録されていますので興味がある方は是非ご覧ください。
学生レポート「リズムよみ・通しよみ・表現よみ」
http://www42.tok2.com/home/ieas/finalreport.dramaticreading.pdf

午後の本番は「構造よみのワークショップ」にありましたので、その前段の理論学習として、「読みの指導と文章の構造」という論文を取りあげて、やはり輪読してもらいつつ解説を加えました。

「読みの指導と文章の構造」(『英語にとって学力とは何か』三友社出版1986:42-49)
http://www42.tok2.com/home/ieas/reaing%20structure.pdf

<註:この「読みの指導と文章の構造」という論文は、説明的文章と文学作品の構造を統一的に捉えるものとして、「寺島モデル」を、1984年の中部地区英語教育学会で本邦初に提起したものです。
 この「寺島モデル」は、自分では素粒子論における「坂田モデル」に匹敵するものではないかと密かに思っているのですが、私の主催する記号研の会員でさえ余りその価値をあまり理解してもらえていないようなので、ちょっと残念に思っています。
 ちなみに、名古屋大学の坂田昌一氏が提起した「坂田モデル」は後にノーベル物理学賞を受賞することになった益川理論の土台になったものです。>

さて理論学習を終えて、いよいよ「構造読みのワークショップ」のワークショップに入るわけですが、その様子を先述のK先生は次のように報告しています(本当は「輪読」の意義についても述べたいのですが別の機会にさせていただきます)。

<文章の構造について,資料を輪読しながら,先生の説明を受けました。その後,ワークショップ形式で英文と格闘することになります。8つのパラグラから成る文章を,前文,序論,本論,結論,後文に分けていく作業ですが,その前段階の記号づけに悪戦苦闘している私たちがいました。
 読み終えた人からホワイトボードに自分なりの解答を書いて,ディスカッションです。5,6の異なる意見を先生にうまくまとめていただいて全員が納得できる答にたどり着くことができました。これまでの自分の「読み」の浅さに気づかされました。>

上記の「構造よみ」についてK先生は、「8つのパラグラから成る文章を,前文,序論,本論,結論,後文に分けていく作業ですが,その前段階の『記号づけ』に悪戦苦闘している私たちがいました」と書いています。

この「前段階の記号づけ」は英文に三つの記号を書き込みながら直読直解して行く作業ですが、後で振り返ってみると、私はこの段階で「構造読みワークショップ」の組立てに完全に失敗していたのでした。それについては(疲れが出てきたので)次号で述べることにしたいと思います。

<註:この「記号づけ」による直読直解についても説明している長くなるので、ここでは割愛させていただきます。詳しくは拙著『英語にとって学力とは何か』『英語にとって文法とは何か』および寺島美紀子『英語直読直解への挑戦』などを御覧ください。>

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W教研を終えて思ったこと反省したこと(上)

8月8日(日)W県高等学校教職員組合主催の教育研究講座「英語部会」に招かれて講演しました。講演といっても「教育実践相談」や「ワークショップ」が中心なので、「講演」とは言いがたいものですが、相手が聞きたくもない話を一方的に聞かせるというのは私の性分に合わないので、毎年このようなかたちをとらせてもらっています。

今年で6回目になるこの「講演」は、毎年、朝9時から午後4時までの長時間にわたるものです。しかし、これ位たっぷり時間があると、語りたいことや伝えたいことを自由に組み立てることが出来るので、私としては有り難い時間構成です。
(ただし今年は6月7日(月)に心臓のバイパス手術をしたばかりで肉体的には少し辛いものがあったので、昼食後に1時間弱の休憩をもらい、和室で横になる時間もつくっていただきました。)

この「講演会」全体の構成は概略つぎのようなものでした。
1 午前:参加者の教育実践相談
2 午後:理論学習とワークショップ

以下は、その「講演会」を終えて思ったこと反省したことを、私の主催する英語教育の研究会「記号研」の「掲示版」に載せたものです。(ただし再掲するにあたって若干の加筆修正を加えました。また以下で「K先生」とあるのは、記号研「掲示版」で当日の様子を報告していただいた講座責任者の先生です。)

────────────────────────────────────────
今回の講座については色々と反省するところが多く、次回への準備の意味も込めて、少し思うところを以下に箇条書きにしてみたいと思います。というのは、K先生は報告の中で次のように書いておられるからです。

<アメリカが自国の経済のために食料戦略を仕掛けている。日本を含めた世界50カ国がそのターゲットになってきた。映像を交えながらそんな話をしていただく予定でしたが,残念なことに時間切れでした。「えー見たい。」と女子高生のような声を上げた先生が数名いらっしゃいました。是非またの機会にお願いしたいと思います。>

午前中は昨年と同じく「自己紹介」を兼ねて参加者の「教育実践相談」のかたちをとったのですが、参加者が20人を越えると、一人10分でも合計200分以上になってしまいます。しかし午前の部は9時から12時までの3時間(180分)しかありません。

ですから、なるべく質問したいことがなければ簡単に5分以内にしてもらうことにしたわけですが、それでも結果としては結局のところ時間不足になり、参加者全員の悩みに十分応えられるものにならなかったのではないかと恐れています。

しかも私としては、ぜひ見てもらいたい映像資料として「洗脳洗舌される経済」を持って行っているので、本当はこれを午前中にやりたかったのですが、全くお互いの自己紹介抜きで講座を始めるのも気が引けて、結局は昨年どおりのやり方になってしまったのでした。

<註:最近ハイチで大地震があり、多くの人が亡くなっただけでなく、生き残った人たちも食料や住み家も十分に届かないので瀕死の状態に追い込まれています。しかしハイチは元々、自給自足が出来る国でした。それをアメリカの食料に頼らざるを得なくなったのは、アメリカの貿易・農業政策によるものでした。その詳しい説明については下記を御覧ください。>
翻訳: 西側支配がハイチの復興力を奪った Democracy Now!2010年1月20日
http://www42.tok2.com/home/ieas/Haiti-DemocracyNow100201.pdf

しかし今にして思えば、毎年この講座に参加している常連も少なくなく、しかも前日土曜にには独自のレポート発表による教研もやっているわけですから、氏名・勤務校を知らないのは講師の私だけということになります。ですから氏名・勤務校を紹介してもらうのは、前日の教研に参加しなかったひとだけでも良かったわけです。「実践相談」よりも「映像資料」を見たかったという声が多かったのであれば尚更のことでした。

K先生の報告では「えー見たい!と女子高生のような声を上げた先生が数名いらっしゃいました」という声があったようですし、私も拙著『英語教育が亡びるとき』で「アメリカの光と影を知るために英語を学ぶ」「日本を第2のアメリカにしないために英語を学ぶ」ことを強く主張してきましたので、そのことを傍証するための資料として「洗脳洗舌される経済」はぜひ観て欲しいし聞いて欲しい内容でした。

<註:日本の食糧自給率も現在、危機的状況に追い込まれていますが、ハイチに対するものと基本的には同じ政策によるものです。しかし恥ずかしいことに最近まで私はこのことを知りませんでした。それに気づいて慌てて作成したのが映像資料「洗脳洗舌される経済」であり、頼まれてM大学の集中講義をするときも、この資料を使いました。>

以上のような理由で講座当日も頭の中では「洗脳洗舌される経済」を「教育実践相談」よりも優先したいという欲求が強かったのですが、私の一方的な要求よりも参加者の悩みや願いを聞く方を優先すべきではないかという迷いがあり、そのままズルズルと「教育実践相談」にのめり込んでしまったのでした。

しかし何度も言うように,今にして思えば、映像資料つきの講演「洗脳洗舌される経済」を優先すべきだったと後悔しています。

というのは、漠然とした「教育実践相談」よりも、講演「洗脳洗舌される経済」を見てもらい私の話を聞いてもらった方が、生徒と立ち向かう教師の姿勢に全くの違いが出てきたのではないかと思うからです。映像資料を見てもらい、「何のために英語を教えるのか」「自分はどういう状況におかれながら英語を教えているのか」を自覚してもらった上で教壇に立ってもらった方が、現場の細かな教育技術よりも、当面は大切だとも考えられるからです。

同じことは教師が教壇に立つときにも生じてきます。受験用の、覚えてもすぐ忘れる「知識」よりも、「学び方」こそ生徒に教えるべきでしょうし、生徒の「何のために英語を学ぶのですか」という疑問に答える方が後の学習意欲に大きな違いを生むとも考えられるからです。つまり、生徒の「役立つ知識を教えてくれ」という要求に答えるより、教師が一方的に「何のために学ぶか」を語り「学び方」を教えることも、時には必要ではないかと思うのです。それが今回の大きな反省点の一つでした。


<註:拙著『英語教育が亡びるとき』の出版記念を兼ねた退職記念講演会でも、私は、内橋克人・宇沢弘文『始まっている未来』(岩波書店、2009)という本の1節を資料として配布し、日本がいかに「米国の経済戦略の一環として」戦後復興をさせられてきたかを紹介しましたが(中国やソ連をにらんだ軍事戦略の一環でもあった)、それは以上のことを念頭においてのことでしたが、今回の講演「洗脳洗舌される経済」は、それを更に補完することを目指したものでした。

前掲『始まっている未来:新しい経済学は可能か』を著した宇沢弘文氏はノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツをシカゴ大学時代に指導したことでも有名ですが、日本の大手メディアでは全く登場しません。しかし、日本学士院会員・米国科学アカデミー客員会員でもある宇沢氏が、「日本の植民地化」「植民地としての日本」ということばを使っていることに衝撃を受けました。

宇沢氏は青年時代の1958年、ワトキンス調査団の一因として戦後日本の復興計画に参加したこと、小泉政権下で猛威をふるった市場原理主義、その理論家フリードマンがいたシカゴ大学で宇沢氏も教鞭を執っていたこと、さらに、フリードマン理論に従って日本破壊の旗振り役を務めた御用学者・竹中平蔵氏が、盗作論文の経歴を持つことも上記の書を読むまでは全く知りませんでした。

なお上記の配布資料「日本の植民地化と構造協議」「植民地としての日本とパックス・アメリカーナ」については、前掲書または下記の寺島研究室HPを御覧ください。>
http://www42.tok2.com/home/ieas/uzawa2009.pdf

以下、次号に続く。

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議員定数削減、チョムスキー講演、そしてマイケル・ムーア(補遺2)

先日のブログ「議員定数削減、チョムスキー講演、そしてマイケル・ムーア」(上・中・下、そして補遺)では、米国では「金持ちと大企業に対する減税」が徹底しているので、国家財政どころか瀕死状態の州がすくなくないことを述べつつ、それが「議員定数削減」「議員報酬削減」さらには「議員パートタイム制」にまで至っていることを紹介しました。

そこでは更に次のような解説も付け加えました。
 <議員は、法案一つ提案するにしても、綿密な調査と研究なくしては実効ある政策や法案をつくることはできません。秘書がついたり旅費がついたりするのも、このような理由に依ります。しかし月収で20万円では調査研究どころか妻子さえ養っていくことはできません。
 これでは,きちんとした定職を持ち、なおかつ議会活動もできる暇な人しか議員になれないことになります。つまり議員活動は一種のボランティア活動であり、毎日必死に働いていてボランティア活動などをするゆとりのない人は決して議員になることはできません。つまり民衆の利益を代表するひとは、おいそれと議員になることはできないことになります。>

しかし、ここで大切なことを書き忘れたことがあることに気づきました。というのは自民党や民主党は「官僚制の打破」「議員定数削減」を声高に叫んでいますが、「議員定数削減」は、少数者が多数派になる道をふさぎ民主主義の根幹を掘り崩すだけでなく、「大政党から公認され、政党助成金や財界からのお金だけで当選する」無能な議員ばかりが増えることになります(いわゆる「タレント議員」がその典型)。

綿密な調査と研究と立法の能力を持たない議員がいくら「官僚制の打破!」を声高に叫んでも、相手が高学力の官僚で実務経験も豊富となれば、その彼らと論争して官僚制の打破など出来るはずがないのです(いわゆる「タレント議員」が何をできるか考えてみれば、これは容易に納得できるのではないでしょうか)。

つまり自民党や民主党が「官僚制の打破」を叫んでいるのは、賃金を切り下げられたり首切りにあったりしている貧しい市民の怒りを官僚に向け、自分たちの票稼ぎに利用しているだけとも考えられるわけです。そして,その怒りは「議員定数削減」「議員報酬削減」という間違った方向に簡単に誘導されていきます。

この記事「議員定数削減、チョムスキー講演、そしてマイケル・ムーア」(補遺)を書いた直後にDemocracy Now!のヘッドラインニュースで、またもや興味深い記事を見つけました。というのは、減税政策を推し進めて国家財政赤字の原因をつくった連邦準備制度理事会(FRB=米国中央銀行)の元議長のグリーンスパンが、下記のように自らの失政を認める発言をしていたからです。

Greenspan Opposes Keeping Bush's Tax Cuts on Wealthy
http://www.democracynow.org/2010/8/2/headlines

Former Federal Reserve chair Alan Greenspan has come out in favor of letting the Bush administration tax cuts for the wealthiest Americans expire. Appearing on Meet the Press, Greenspan said the tax revenue is needed to reduce the federal budget deficit.

Alan Greenspan: "I'm very much in favor of tax cuts, but not with borrowed money. And the problem that we've gotten into in recent years is spending programs with borrowed money, tax cuts with borrowed money. And, at the end of the day, that proves disastrous. And my view is I don't think we can play subtle policy here."

つまり「私はレーガンおよびブッシュ政権下で金持ち減税に賛成してきたが、借金しながら国家財政をやりくりしていると結局は大惨事になる。この際、金持ち減税を廃止することに賛成する」と述べているのです。

国家財政が危機だからという理由で教育や福祉を切り詰めて、住宅ローンも払えずに路上に放り出される人が激増する現状をつくり出しておいて何を今更!という庶民の怒りが聞こえてくるようです。

ところで、これに関連して非常に興味深いのが、月刊『楽しい授業』2008年10月号の裏表紙に載った「日本の税金の変遷:グラフで見る世界244」という記事です。本文の詳しい解説を読む限り、消費税増税があたかも当然の流れのように書かれています。というのは最後に「消費税がこれからの税の中心になるのではないでしょうか」と結ばれているからです。

そこで慌てて手紙=反論を書き、可能ならば月刊誌に掲載してくださいと『楽しい授業』編集部宛に送付しました。この雑誌は私の敬愛する板倉聖宣先生(しかも先生は東大教養学部「科学史)の第1期生という意味でも私の大先輩)が編集代表をしている極めてユニークな月刊誌ですから、ひょっとして載せていただけるのではないかと考えたからです。

この手紙は、言語学者としてだけでなく米国外交政策の厳しい批判者としても世界的に有名なチョムスキーが、米国の税制や福祉について述べていることを、氏の著書『IMPERIAL AMBITIONS』(邦訳『すばらしきアメリカ帝国』集英社、2008)を引用しつつ、月刊『楽しい授業』の記事に具体的な反論を加えたものでした。

また米国だけでなく日本でも、累進課税がいかに破壊されてきたか、それがグリーンスパンのいう「金持減税」=「財政赤字」にいかに結びついていったか、を具体的な図表で示しただけでなく、株の配当で儲けている人たちへの課税がほとんどないことが財政難のもう一つの原因になっていることも紹介しました。

(森永卓郎氏によれば、株の配当で「世帯あたり1500万円を超える部分に、現在の税率を1%だけ増やす、これだけで30兆円もの増収になる」そうです。)

しかし残念ながら私の原稿は何の返事もなく「なしのつぶて」状態になってしまいました。
そこで、せっかくの論考(月刊『楽しい授業』編集部あての手紙)がこのまま闇に消えていくのは余りに勿体ないと考え、寺島研究室HPに載せることにしたのでした。

これは既に以前のブログでも紹介したものですが、説明抜きのタイトルだけでは余り読んでいただけないのではないかと思い、改めて以下に紹介させていただく次第です。

月刊『楽しい授業』編集部への手紙
「税金制度の変遷、消費税の増税は必要か」
http://www42.tok2.com/home/ieas/selftalk.html

時間のある方はぜひ読んでみてください。必ずや何か発見があるものと信じていますので。

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議員定数削減、チョムスキー講演、そしてマイケル・ムーア(補遺)

前回のブログ「議員定数削減チョムスキー講演、そしてマイケル・ムーア」(上・中・下)では、米国では「金持ちと大企業に対する減税」が徹底しているので、国家財政どころか瀕死状態の州が少なくないことを述べつつ、それが「議員定数削減」「議員報酬削減」さらには「議員パートタイム制」にまで至っていることを紹介しました。

そこでは更に次のような解説も付け加えました。
 <議員は、法案一つ提案するにしても、綿密な調査と研究なくしては実効ある政策や法案をつくることはできません。秘書がついたり旅費がついたりするのも、このような理由に依ります。しかし月収で20万円では調査研究どころか妻子さえ養っていくことはできません。
 これでは,きちんとした定職を持ち、なおかつ議会活動もできる暇な人しか議員になれないことになります。つまり議員活動は一種のボランティア活動であり、毎日必死に働いていてボランティア活動などをするゆとりのない人は決して議員になることはできません。つまり民衆の利益を代表するひとは、おいそれと議員になることはできないことになります。>

しかし、ここで大切なことを書き忘れたことがあることに気づきました。というのは民主党や自民党は「議員定数削減」を声高に叫んでいますが、それらの政党が日頃から主張している「官僚制の打破」に逆行しかねないということです。

というのは、「議員定数削減」「議員報酬削減」は少数者が多数派になる道をふさぎ民主主義の根幹を掘り崩すだけでなく、前回でも述べたように、能力がなくても「大政党から公認され、政党助成金や財界からのお金だけで当選する」議員ばかりが増えることになりかねません(いわゆる「タレント議員」がその典型)。

綿密な調査と研究と立法の能力を持たない議員が、いくら「官僚制の打破!」を声高に叫んでも、相手が高学力の官僚で実務経験も豊富となれば、その彼らと論争して官僚制の打破など出来るはずがないのです(いわゆる「タレント議員」に何ができるか考えてみれば、これは容易に納得できるのではないでしょうか)。

つまり民主党や自民党が「官僚制の打破」を叫んでいるのは、賃金を切り下げられたり首切りにあったりしている貧しい市民の怒りを官僚に向け、自分たちの票稼ぎに利用しているだけとも考えられるわけです。そして,その怒りは「議員定数削減」「議員報酬削減」という俗受けする方向に簡単に誘導されていきます。

前回のブログを書いた直後にDemocracy Now!のヘッドラインニュースで、またもや興味深い記事を見つけました。というのは、金持ち減税政策を推し進めて国家財政赤字の原因をつくった連邦準備制度理事会(FRB=米国中央銀行)の元議長グリーンスパンが、下記のように自らの失政を認める発言をしていたからです。

Greenspan Opposes Keeping Bush's Tax Cuts on Wealthy
http://www.democracynow.org/2010/8/2/headlines

Former Federal Reserve chair Alan Greenspan has come out in favor of letting the Bush administration tax cuts for the wealthiest Americans expire. Appearing on Meet the Press, Greenspan said the tax revenue is needed to reduce the federal budget deficit.

Alan Greenspan: "I'm very much in favor of tax cuts, but not with borrowed money. And the problem that we've gotten into in recent years is spending programs with borrowed money, tax cuts with borrowed money. And, at the end of the day, that proves disastrous. And my view is I don't think we can play subtle policy here."

つまりグリーンスパンは、「レーガンおよびブッシュ政権下で金持ち減税政策に賛成してきたが、(国債などの形で他国から)借金しながら国家財政をやりくりしていると結局は大惨事になる。この際、廃止することに賛成する」と述べているのです。

このニュースを視聴していると、「国家財政が危機だからという理由で教育や福祉を切り捨て、住宅ローンも払えずに路上に放り出される人が激増する現状をつくりだした、その張本人が何を今更!」という庶民の怒りが聞こえてくるようです。


<註>
このDemocracy Now!の良いところは、ニュースのスクリプトが必ず付いているので、視聴しただけでは分からなかったところを文字で確認できるところです。とは言っても読解力を身につけておかないと何の役にも立ちませんが・・・。私が日頃から「EFL環境では会話力よりも聴解力や読解力が重要になる」と主張している所以です。
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議員定数削減、チョムスキー講演、そしてマイケル・ムーア(下)

しかし、赤字を口実に議員定数を削減するのであれば、「政党助成金」を先ずやめるべきでしょう。これは議席数に応じて公的補助金を支給する制度ですから、「小選挙区制」とも連動して、大政党にとって極めて有利な制度です。

その反面、選挙資金を公的に補助する制度は、弱小政党にとっては(弱小であるが故に)配分額も少なく、また「小選挙区制」という選挙制度の故に、ますます弱小に追い込まれるという極めて非民主的な制度です。

しかも弱小政党はテレビ討論でもほとんど登場させてもらえません(しかも欧米では当然の「戸別訪問」も日本では禁止されています)から、国民に自分たちの政策を知ってもらういう点でも極めて困難な状況にあります。

(民主主義の本質は、弱小政党でも政策次第に多数になる道が保障されていることにあるはずです。「言論の自由」「思想信条の自由」という原則も、このことに由来しています。)

マイケル・ムーアは先述の番組ではカナダなどが多党制であることを羨ましく思っています。ですから、米国よりも日本の方が現状ではまだマシとも言えるのですが、民主党の政策「議員定数削減」では、その利点すらなくなってしまいます。

したがって、議会という観点で赤字削減を考えるのであれば、まず第一に考えなければならないのは「政党助成金」の廃止であって「議員定数削減」ではないでしょう。「政党助成金」を廃止すれば莫大な財源が生まれます。

(また「政党助成金」の配分を武器に政党幹部が下部党員を支配統制するという弊害も防げます。)

と同時に、「多様な民衆の意見を代表する議会運営」という民主主義の理念を実現するために緊急に求められているのが、「小選挙区制」を廃止することです。そして「比例代表制」にするか、元の「中選挙区」に戻すことです。また「一票の格差」をなくすことも民主主義の理念を実現するためには不可欠でしょう。

また政治の腐敗という点で言えば、それを防止する一番簡単な方法は(小沢一郎氏すら言っているように)「企業献金の廃止」です。共産党のような弱小政党が「企業献金」も「政党助成金」も受けずに政党活動を維持しているわけですから、それより大きな政党にできないはずがないのです。

最後に、もう一つだけ書いておきたいことがあります。それは米軍基地の問題です。以前のブログにも書いたことですが、赤字削減を掲げて「事業仕分け」に奔走した民主党でしたが、「聖域」として決して手をつけようとしなかったのが米軍基地にかかる費用の問題でした。

この米軍の軍事行動に関して先述の番組でマイケル・ムーアは次のような言葉で自分の語りを締めくくっています。

And when you have a billion people on this planet that tonight cannot drink a cup of clean water, two billion who don't have clean sanitation, what if we used our money to do that? I read this crazy statistic—and I have not fact-checked this, I'll just throw this out there—but it was something like, for $15 billion or something like that, we could dig so many—x number of wells in the third world that would greatly reduce that number of how many people don't have clean water. And I'm thinking, $15 billion is what we've been spending almost most every month on Iraq and Afghanistan. So, one month of the killing machine could give clean water to virtually all the people that don't have it?(ゴシックおよびイタリックは寺島)

ムーアは上記で「この地上に20億(two billion)もの子どもたちがきれいな水を飲めないで苦しんでいるのに、米国は毎月150億円($15 billion every month)ものお金をイラクやアフガニスタンに注ぎ込んで人殺しをしている。そんなお金があれば世界中にどれだけの井戸を掘ることができるか、どれだけの子どもたちを救えるか」と憤っています。

しかし、イラクやアフガニスタンに出撃する米兵を支えているのは日本の米軍基地です。したがって日本から米軍基地を引き払って貰うことは、イラクやアフガニスタンでおこなわれている殺人を少しでもくい止めることに大きく貢献できるでしょう。

(これは日本の米軍基地を拠点に莫大な民間人の死傷者、そして未だに生まれ続けている奇形児を出したベトナム戦争を考えれば容易に想像できることです。

したがって米軍基地に対する「思いやり予算」を削るだけで莫大な財源が生まれるだけでなく、中東における死傷者を大幅に減らすことができます。

(チョムスキーの著書『9・11―アメリカに報復する資格はない!』 (文春文庫)は、アフガニスタンに対する攻撃は全くの戦争犯罪行為であると述べています。)

要するに、何度も言いますが、米国の現状を知れば知るほど、赤字を口実にした「議員定数削減」は全く意味のない行為であること、それどころか民主主義に逆行する行為であることが、明瞭になってくるのではないでしょうか。


<追記1>また以前のブログにも書きましたが、金持ち減税に貢献した累進課税の「改悪」を元に戻すだけでも、更に大きな財源が生まれます。これについては下記の拙論をお読みください。
論文「税金の変遷ー消費税の増税は必要か」 
http://www42.tok2.com/home/ieas/article090205shohizei.pdf

<追記2>れも以前のブログにも書いたことですが、「抑止力」としての米軍基地、「北朝鮮問題」と米軍基地については、下記HPにチャルマーズ・ジョンソンやノーム・チョムスキーの翻訳論文があります。
http://www42.tok2.com/home/ieas/translation_index.html

<追記3>また拙著『英語教育が亡びるとき』で、「真の米国を知るために英語を学ぶ」「日本を第二の米国にしないために英語を学ぶ」「そのために第一に求められるのは会話力ではなく読解力だ」と繰り返し述べてきましたが、今回の記事を通じて、そのことを改めて確認していただければ有り難いと思います。

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議員定数削減、チョムスキー講演、そしてマイケル・ムーア(中)

しかし、この「議員定数削減」政策は、実は二大政党にとっては「赤字削減」を口実にして自分たちの地位を安泰に保つことができるという、全く別の、大きなメリットがあります。というのは「小選挙区制」は「一つの選挙区に当選者は一人だけ」ですから、弱小政党は放逐され、当選できるのは財界から選挙資金が与えられた大政党の公認候補だけだけに限られるからです(しかも大政党には政党助成金も豊富です)。

米国の現状は上記の状態を絵に描いたようなものです。民衆の支持で当選したかのように言われているオバマ氏も、実は彼の最大の資金源が金融界だったことは先に紹介したチョムスキー講演でも明確に述べられているとおりです。

ですから民主党やオバマ大統領に裏切られたと感じた民衆が(米国では二大政党以外に選択肢がないわけですから絶望して)Tea Party Movement に走ったり、ジョー・スタックのように国税庁に自家用飛行機で自爆攻撃をかけるということにもなるわけです。

(オバマ大統領と金融界の結びつきについては、選挙直後の下記チョムスキー講演も参考になるはずです。)
ノーム・チョムスキー「これからどうなる?選挙、経済、世界」
http://www.democracynow.org/2008/11/24/noam_chomsky_what_next_the_elections
http://democracynow.jp/submov/20081124-2(上記講演に日本語の字幕を付けたもの)


ところでマイケル・ムーアは次々と国際的な映画賞を受賞した映画監督として有名ですが(国民皆保険を持たない米国民衆の惨劇を描いた映画『SICKO』も、2007年のカンヌ国際映画祭では特別招待上映された)、その彼も、二大政党しか選択肢を持てない米国の現状を次のように嘆いています。

MICHAEL MOORE: Well, the cynical answer that the Democrats, the Democratic Party and Obama would give you is that they know we have nowhere else to go, and so therefore they don't have to listen to us, and they can play it in the center, or even to the right, and where are we going to go?

これはムーアが、DemocracyNow!という番組で自分の人生を1時間近くにわたって語ったもの(Michael Moore on His Life, His Films and His Activism)の一部ですが、このなかで彼は、司会者ゴンザレスの質問に答えて、「皮肉にも民主党やオバマの現状が民衆にどこにも行き場のない閉塞感を与えている」と嘆いています。(the cynical answer that the Democrats, the Democratic Party and Obama would give you is that they know we have nowhere else to go)

Michael Moore on His Life, His Films and His Activism
DemocracyNow!,July 05, 2010
http://www.democracynow.org/2010/7/5/michael_moore_on_his_life_his

そして聴衆のひとりが「緑の党という選択肢もあるよ」(AUDIENCE MEMBER: Green Party. )と言ったのに答えて、さらに次のように続けています。

MICHAEL MOORE: Yeah, you know, Patti [Smith] and I, you know, were very vocal and worked for Ralph [Nader] back in 2000. You know, the way our system is rigged, it's not like other democracies where you have four, five, six political parties. You know, you watch the Canadian elections. All five political parties are at the debates. They all get an equal amount of air time. You know, it's a fairer system. Britain's going through it right now, and their election season will last four weeks. So, it's rigged against a third party.

かつて2000年の米国大統領選挙に、消費者運動で名声を馳せたラルフ・ネーダーが「緑の党」から出馬したこと、それをマイケル・ムーアやロック歌手パティ・スミスが応援していたことは、日本では全く知られていません。

しかも米国ではメディアが彼らを全く無視しましたから、票はほとんど集まりませんでした(日本の社民党や共産党のようなものです。ドイツでは緑の党が大きな力を持っているのと大違いです)。つまり米国では二大政党以外は無視するようメディア・コントロールが貫徹しているわけです。

それに反して「カナダでは多党制であり、すべての政党がメディアに登場して論争することができ、時間も平等に与えられている」とムーアは上記の番組で嘆いています。と同時に、民主主義という観点から見ると米国の選挙制度が「不正に操作されている」(is rigged)と、ムーアは怒っているわけです。

(ノーム・チョムスキーも先に紹介した下記講演で、先住民の大統領を誕生させたボリビアを典型例として、南米諸国の方が米国よりもはるかに民主的だと述べています。)
ノーム・チョムスキー「これからどうなる?選挙、経済、世界」
http://www.democracynow.org/2008/11/24/noam_chomsky_what_next_the_elections

以上のことからも分かるように、民主党・自民党にとっては米国流の二大政党制が理想でしょうし、赤字削減を口実に「消費税増税(民衆の増税)=大富豪・大企業の減税」を求める財界にとっても大歓迎でしょう。


以下、(下)に続く

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議員定数削減、チョムスキー講演、そしてマイケル・ムーア(上)

NHKニュース(8月1日)によれば、国会議員の定数削減をめぐって、菅総理大臣は、民主党の参議院選挙の公約に盛り込んだ「衆議院の比例代表の180の定数を80削減することと、参議院の242の定数を40程度削減する方針」に基づき、ことし12月までに与野党の合意を目指すよう、枝野幹事長らに指示したそうです。

これを聞いてすぐ思い出したのは、チョムスキーの講演と米国アリゾナ州の惨状でした。これについては既にDemocracyNowで下記の報道があったことを前回のブログで紹介しました。

アリゾナ州の惨状とチョムスキー講演、そして日本
http://pub.ne.jp/tacktaka/?entry_id=3065751
ソノラのティー・パーティー: アリゾナ州は共和党右翼急進派政策の実験場
http://www.democracynow.org/2010/7/15/tea_party_in_sonora_ken_silverstein

前回のブログでは、上記DemocracyNowのインタビュー記事を引用しつつ、アリゾナ州惨状の紹介したわけですが、今回の話しにつなげるため、それを下記に再録させていただきます。

<アリゾナ州では右翼的民衆運動Tea Party のスローガンが『税金で金融界を救済する政府を拒否し、納税拒否または減税要求をすること』を基本としているため、アリゾナ州が財政難に陥り、公教育や年金など様々な社会保障の削減に乗り出していること、それどころか州議会の建物を初めとして、州庁舎を次々と売り払い、その建物を売却相手から賃借りして議会を開いているなど、信じがたい惨状が展開されています。>

しかしアリゾナ州は(州議会の建物を初めとして)州庁舎を次々と売り払っているどころか、議員を「パートタイム」の職務にまで貶めてしまっています。それは、Democracy Now の司会者 Juan Gonzalezが、上記の記事を書いたKen Silverstein に次のような問いを投げかけていることからも分かります。

JUAN GONZALEZ: And Ken, also, the legislature is a part-time legislature. They only make about $24,000 a year. So they're doing all of this in their spare time, in essence, as they run other businesses or have other occupations. One of the things that struck me was that you said that they sold the capitol building in Arizona and are leasing it back from the person they sold it to?

前回のブログで紹介した英文は、このJuan Gonzalezの問いに対してKen Silversteinが答えた、アリゾナ州惨状の一部でした。しかし実はアリゾナ州では、議員定数を削減するどころか、財政難のため議員を「パートタイム」の職務にまで貶めてしまっていたのです。その年収はなんと、たった240万円( $24,000 )、月収で20万円でした。

議員は、法案一つ提案するにしても、綿密な調査と研究なくしては実効ある政策や法案をつくることはできません。秘書がついたり旅費がついたりするのも、このような理由に依ります。しかし月収で20万円では調査研究どころか妻子さえ養っていくことはできません。

これでは,きちんとした定職を持ち、なおかつ議会活動もできる暇な人しか議員になれないことになります。つまり議員活動は一種のボランティア活動であり、毎日必死に働いていてボランティア活動などをするゆとりのない人は決して議員になることはできません。つまり民衆の利益を代表するひとは、おいそれと議員になることはできないことになります。

 (これは、日本で近ごろ流行の「学校評議員制度」をみればよく分かります。私の知っている限り、「学校評議員」になっているひとは、会社役員や大学教授やPTA会長など、特別な階層以外にほとんどいません。
 つまり「学校評議員制度」は「民衆の視点で教育を民主化する」と言われていますが、これは単なる謳い文句であり、下手をすると町の有力者の視点が貫徹しかねないのが「学校評議員制度」ということになります。)

ところが現実には「小選挙区制」のおかげで、大政党の公認が得られたり財界から選挙資金が与えられれば、無能な人でも議員になることはできます。このようなひとは綿密な調査と研究をしたうえで議会で質問したり法案を作ったり能力がありませんから、議会では政党幹部が指示するとおりに行動するだけで、結局は議会で最終決議をするときの単なる投票マシーンになってしまいます。

そして、このような「無能議員」の存在が国や地方自治体の財政難とも相まって「だから定数削減を!」「だから議員報酬の削減を!」という俗受けする公約に結びついていきます。これが究極の形をとったのが、アリゾナ州の議員パートタイム制でした。

だから、赤字を口実に民主党(および自民党)の「議員定数削減」政策を推し進めている限り、日本もアリゾナ州にならない保障はありません。


<註>
実は、「赤字だから定数削減を!」「赤字だから議員報酬の削減を!」という動きは、アリゾナ州だけでなく米国全土に広まりつつあります。日本でも既に名古屋市や鹿児島県阿久根市の市長に同じ言動が見られます。)


以下、(中)に続く
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