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議員定数削減、チョムスキー講演、そしてマイケル・ムーア(下)

しかし、赤字を口実に議員定数を削減するのであれば、「政党助成金」を先ずやめるべきでしょう。これは議席数に応じて公的補助金を支給する制度ですから、「小選挙区制」とも連動して、大政党にとって極めて有利な制度です。

その反面、選挙資金を公的に補助する制度は、弱小政党にとっては(弱小であるが故に)配分額も少なく、また「小選挙区制」という選挙制度の故に、ますます弱小に追い込まれるという極めて非民主的な制度です。

しかも弱小政党はテレビ討論でもほとんど登場させてもらえません(しかも欧米では当然の「戸別訪問」も日本では禁止されています)から、国民に自分たちの政策を知ってもらういう点でも極めて困難な状況にあります。

(民主主義の本質は、弱小政党でも政策次第に多数になる道が保障されていることにあるはずです。「言論の自由」「思想信条の自由」という原則も、このことに由来しています。)

マイケル・ムーアは先述の番組ではカナダなどが多党制であることを羨ましく思っています。ですから、米国よりも日本の方が現状ではまだマシとも言えるのですが、民主党の政策「議員定数削減」では、その利点すらなくなってしまいます。

したがって、議会という観点で赤字削減を考えるのであれば、まず第一に考えなければならないのは「政党助成金」の廃止であって「議員定数削減」ではないでしょう。「政党助成金」を廃止すれば莫大な財源が生まれます。

(また「政党助成金」の配分を武器に政党幹部が下部党員を支配統制するという弊害も防げます。)

と同時に、「多様な民衆の意見を代表する議会運営」という民主主義の理念を実現するために緊急に求められているのが、「小選挙区制」を廃止することです。そして「比例代表制」にするか、元の「中選挙区」に戻すことです。また「一票の格差」をなくすことも民主主義の理念を実現するためには不可欠でしょう。

また政治の腐敗という点で言えば、それを防止する一番簡単な方法は(小沢一郎氏すら言っているように)「企業献金の廃止」です。共産党のような弱小政党が「企業献金」も「政党助成金」も受けずに政党活動を維持しているわけですから、それより大きな政党にできないはずがないのです。

最後に、もう一つだけ書いておきたいことがあります。それは米軍基地の問題です。以前のブログにも書いたことですが、赤字削減を掲げて「事業仕分け」に奔走した民主党でしたが、「聖域」として決して手をつけようとしなかったのが米軍基地にかかる費用の問題でした。

この米軍の軍事行動に関して先述の番組でマイケル・ムーアは次のような言葉で自分の語りを締めくくっています。

And when you have a billion people on this planet that tonight cannot drink a cup of clean water, two billion who don't have clean sanitation, what if we used our money to do that? I read this crazy statistic—and I have not fact-checked this, I'll just throw this out there—but it was something like, for $15 billion or something like that, we could dig so many—x number of wells in the third world that would greatly reduce that number of how many people don't have clean water. And I'm thinking, $15 billion is what we've been spending almost most every month on Iraq and Afghanistan. So, one month of the killing machine could give clean water to virtually all the people that don't have it?(ゴシックおよびイタリックは寺島)

ムーアは上記で「この地上に20億(two billion)もの子どもたちがきれいな水を飲めないで苦しんでいるのに、米国は毎月150億円($15 billion every month)ものお金をイラクやアフガニスタンに注ぎ込んで人殺しをしている。そんなお金があれば世界中にどれだけの井戸を掘ることができるか、どれだけの子どもたちを救えるか」と憤っています。

しかし、イラクやアフガニスタンに出撃する米兵を支えているのは日本の米軍基地です。したがって日本から米軍基地を引き払って貰うことは、イラクやアフガニスタンでおこなわれている殺人を少しでもくい止めることに大きく貢献できるでしょう。

(これは日本の米軍基地を拠点に莫大な民間人の死傷者、そして未だに生まれ続けている奇形児を出したベトナム戦争を考えれば容易に想像できることです。

したがって米軍基地に対する「思いやり予算」を削るだけで莫大な財源が生まれるだけでなく、中東における死傷者を大幅に減らすことができます。

(チョムスキーの著書『9・11―アメリカに報復する資格はない!』 (文春文庫)は、アフガニスタンに対する攻撃は全くの戦争犯罪行為であると述べています。)

要するに、何度も言いますが、米国の現状を知れば知るほど、赤字を口実にした「議員定数削減」は全く意味のない行為であること、それどころか民主主義に逆行する行為であることが、明瞭になってくるのではないでしょうか。


<追記1>また以前のブログにも書きましたが、金持ち減税に貢献した累進課税の「改悪」を元に戻すだけでも、更に大きな財源が生まれます。これについては下記の拙論をお読みください。
論文「税金の変遷ー消費税の増税は必要か」 
http://www42.tok2.com/home/ieas/article090205shohizei.pdf

<追記2>れも以前のブログにも書いたことですが、「抑止力」としての米軍基地、「北朝鮮問題」と米軍基地については、下記HPにチャルマーズ・ジョンソンやノーム・チョムスキーの翻訳論文があります。
http://www42.tok2.com/home/ieas/translation_index.html

<追記3>また拙著『英語教育が亡びるとき』で、「真の米国を知るために英語を学ぶ」「日本を第二の米国にしないために英語を学ぶ」「そのために第一に求められるのは会話力ではなく読解力だ」と繰り返し述べてきましたが、今回の記事を通じて、そのことを改めて確認していただければ有り難いと思います。

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議員定数削減、チョムスキー講演、そしてマイケル・ムーア(中)

しかし、この「議員定数削減」政策は、実は二大政党にとっては「赤字削減」を口実にして自分たちの地位を安泰に保つことができるという、全く別の、大きなメリットがあります。というのは「小選挙区制」は「一つの選挙区に当選者は一人だけ」ですから、弱小政党は放逐され、当選できるのは財界から選挙資金が与えられた大政党の公認候補だけだけに限られるからです(しかも大政党には政党助成金も豊富です)。

米国の現状は上記の状態を絵に描いたようなものです。民衆の支持で当選したかのように言われているオバマ氏も、実は彼の最大の資金源が金融界だったことは先に紹介したチョムスキー講演でも明確に述べられているとおりです。

ですから民主党やオバマ大統領に裏切られたと感じた民衆が(米国では二大政党以外に選択肢がないわけですから絶望して)Tea Party Movement に走ったり、ジョー・スタックのように国税庁に自家用飛行機で自爆攻撃をかけるということにもなるわけです。

(オバマ大統領と金融界の結びつきについては、選挙直後の下記チョムスキー講演も参考になるはずです。)
ノーム・チョムスキー「これからどうなる?選挙、経済、世界」
http://www.democracynow.org/2008/11/24/noam_chomsky_what_next_the_elections
http://democracynow.jp/submov/20081124-2(上記講演に日本語の字幕を付けたもの)


ところでマイケル・ムーアは次々と国際的な映画賞を受賞した映画監督として有名ですが(国民皆保険を持たない米国民衆の惨劇を描いた映画『SICKO』も、2007年のカンヌ国際映画祭では特別招待上映された)、その彼も、二大政党しか選択肢を持てない米国の現状を次のように嘆いています。

MICHAEL MOORE: Well, the cynical answer that the Democrats, the Democratic Party and Obama would give you is that they know we have nowhere else to go, and so therefore they don't have to listen to us, and they can play it in the center, or even to the right, and where are we going to go?

これはムーアが、DemocracyNow!という番組で自分の人生を1時間近くにわたって語ったもの(Michael Moore on His Life, His Films and His Activism)の一部ですが、このなかで彼は、司会者ゴンザレスの質問に答えて、「皮肉にも民主党やオバマの現状が民衆にどこにも行き場のない閉塞感を与えている」と嘆いています。(the cynical answer that the Democrats, the Democratic Party and Obama would give you is that they know we have nowhere else to go)

Michael Moore on His Life, His Films and His Activism
DemocracyNow!,July 05, 2010
http://www.democracynow.org/2010/7/5/michael_moore_on_his_life_his

そして聴衆のひとりが「緑の党という選択肢もあるよ」(AUDIENCE MEMBER: Green Party. )と言ったのに答えて、さらに次のように続けています。

MICHAEL MOORE: Yeah, you know, Patti [Smith] and I, you know, were very vocal and worked for Ralph [Nader] back in 2000. You know, the way our system is rigged, it's not like other democracies where you have four, five, six political parties. You know, you watch the Canadian elections. All five political parties are at the debates. They all get an equal amount of air time. You know, it's a fairer system. Britain's going through it right now, and their election season will last four weeks. So, it's rigged against a third party.

かつて2000年の米国大統領選挙に、消費者運動で名声を馳せたラルフ・ネーダーが「緑の党」から出馬したこと、それをマイケル・ムーアやロック歌手パティ・スミスが応援していたことは、日本では全く知られていません。

しかも米国ではメディアが彼らを全く無視しましたから、票はほとんど集まりませんでした(日本の社民党や共産党のようなものです。ドイツでは緑の党が大きな力を持っているのと大違いです)。つまり米国では二大政党以外は無視するようメディア・コントロールが貫徹しているわけです。

それに反して「カナダでは多党制であり、すべての政党がメディアに登場して論争することができ、時間も平等に与えられている」とムーアは上記の番組で嘆いています。と同時に、民主主義という観点から見ると米国の選挙制度が「不正に操作されている」(is rigged)と、ムーアは怒っているわけです。

(ノーム・チョムスキーも先に紹介した下記講演で、先住民の大統領を誕生させたボリビアを典型例として、南米諸国の方が米国よりもはるかに民主的だと述べています。)
ノーム・チョムスキー「これからどうなる?選挙、経済、世界」
http://www.democracynow.org/2008/11/24/noam_chomsky_what_next_the_elections

以上のことからも分かるように、民主党・自民党にとっては米国流の二大政党制が理想でしょうし、赤字削減を口実に「消費税増税(民衆の増税)=大富豪・大企業の減税」を求める財界にとっても大歓迎でしょう。


以下、(下)に続く

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議員定数削減、チョムスキー講演、そしてマイケル・ムーア(上)

NHKニュース(8月1日)によれば、国会議員の定数削減をめぐって、菅総理大臣は、民主党の参議院選挙の公約に盛り込んだ「衆議院の比例代表の180の定数を80削減することと、参議院の242の定数を40程度削減する方針」に基づき、ことし12月までに与野党の合意を目指すよう、枝野幹事長らに指示したそうです。

これを聞いてすぐ思い出したのは、チョムスキーの講演と米国アリゾナ州の惨状でした。これについては既にDemocracyNowで下記の報道があったことを前回のブログで紹介しました。

アリゾナ州の惨状とチョムスキー講演、そして日本
http://pub.ne.jp/tacktaka/?entry_id=3065751
ソノラのティー・パーティー: アリゾナ州は共和党右翼急進派政策の実験場
http://www.democracynow.org/2010/7/15/tea_party_in_sonora_ken_silverstein

前回のブログでは、上記DemocracyNowのインタビュー記事を引用しつつ、アリゾナ州惨状の紹介したわけですが、今回の話しにつなげるため、それを下記に再録させていただきます。

<アリゾナ州では右翼的民衆運動Tea Party のスローガンが『税金で金融界を救済する政府を拒否し、納税拒否または減税要求をすること』を基本としているため、アリゾナ州が財政難に陥り、公教育や年金など様々な社会保障の削減に乗り出していること、それどころか州議会の建物を初めとして、州庁舎を次々と売り払い、その建物を売却相手から賃借りして議会を開いているなど、信じがたい惨状が展開されています。>

しかしアリゾナ州は(州議会の建物を初めとして)州庁舎を次々と売り払っているどころか、議員を「パートタイム」の職務にまで貶めてしまっています。それは、Democracy Now の司会者 Juan Gonzalezが、上記の記事を書いたKen Silverstein に次のような問いを投げかけていることからも分かります。

JUAN GONZALEZ: And Ken, also, the legislature is a part-time legislature. They only make about $24,000 a year. So they're doing all of this in their spare time, in essence, as they run other businesses or have other occupations. One of the things that struck me was that you said that they sold the capitol building in Arizona and are leasing it back from the person they sold it to?

前回のブログで紹介した英文は、このJuan Gonzalezの問いに対してKen Silversteinが答えた、アリゾナ州惨状の一部でした。しかし実はアリゾナ州では、議員定数を削減するどころか、財政難のため議員を「パートタイム」の職務にまで貶めてしまっていたのです。その年収はなんと、たった240万円( $24,000 )、月収で20万円でした。

議員は、法案一つ提案するにしても、綿密な調査と研究なくしては実効ある政策や法案をつくることはできません。秘書がついたり旅費がついたりするのも、このような理由に依ります。しかし月収で20万円では調査研究どころか妻子さえ養っていくことはできません。

これでは,きちんとした定職を持ち、なおかつ議会活動もできる暇な人しか議員になれないことになります。つまり議員活動は一種のボランティア活動であり、毎日必死に働いていてボランティア活動などをするゆとりのない人は決して議員になることはできません。つまり民衆の利益を代表するひとは、おいそれと議員になることはできないことになります。

 (これは、日本で近ごろ流行の「学校評議員制度」をみればよく分かります。私の知っている限り、「学校評議員」になっているひとは、会社役員や大学教授やPTA会長など、特別な階層以外にほとんどいません。
 つまり「学校評議員制度」は「民衆の視点で教育を民主化する」と言われていますが、これは単なる謳い文句であり、下手をすると町の有力者の視点が貫徹しかねないのが「学校評議員制度」ということになります。)

ところが現実には「小選挙区制」のおかげで、大政党の公認が得られたり財界から選挙資金が与えられれば、無能な人でも議員になることはできます。このようなひとは綿密な調査と研究をしたうえで議会で質問したり法案を作ったり能力がありませんから、議会では政党幹部が指示するとおりに行動するだけで、結局は議会で最終決議をするときの単なる投票マシーンになってしまいます。

そして、このような「無能議員」の存在が国や地方自治体の財政難とも相まって「だから定数削減を!」「だから議員報酬の削減を!」という俗受けする公約に結びついていきます。これが究極の形をとったのが、アリゾナ州の議員パートタイム制でした。

だから、赤字を口実に民主党(および自民党)の「議員定数削減」政策を推し進めている限り、日本もアリゾナ州にならない保障はありません。


<註>
実は、「赤字だから定数削減を!」「赤字だから議員報酬の削減を!」という動きは、アリゾナ州だけでなく米国全土に広まりつつあります。日本でも既に名古屋市や鹿児島県阿久根市の市長に同じ言動が見られます。)


以下、(中)に続く
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