福島原発事故(3)ー海外から日本を見ると、どのように見えるか
いま(3月29日)これを香港からの機上で書いています。震災の復興状況が気がかりで中国にいても全く落ち着かない日々を過ごしていました。前回もエジプト民衆蜂起があったときに上海にいましたが、今回は香港です。
なぜ中国に行くのかについては、機会を改めて詳しく述べたいと思いますが、中国にいる間も、イギリス・アメリカ・フランスはリビアを爆撃しています。その理由はイラクを侵攻するときと同じで「独裁政権を倒す」という触れ込みです。
しかし「独裁政権を倒す」というのであれば、バーレーンやイエメンでも独裁政権を倒すために民衆蜂起が起きていて、それに対する逮捕・拷問・殺害も絶えないわけですから、リビアだけが制裁の対象になるというのは実に奇妙な話です。
ましてリビアの場合は「内戦」ですが、バーレーンの場合はサウジアラビアやアラブ首長国連邦という「ほとんど選挙をしたことのない王制国家」が、バーレーンの民衆蜂起に対して軍隊を出動させているのですから、明らかに「侵略」に当たるわけですが、これに対しては英・米・仏の三国は何の抗議もしていません。
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そんなわけで「中東」情勢も気になって仕方がないのですが、それよりも遙かに深刻なのが東北関東大震災と福島原発事故のゆくえです。深圳(中国)の状況を見に行っている間も被災者がどうなっているのか放射能被害の広がりがどうなっていくのかが気になって仕方がありませんでした。
とりわけ福島原発事故が、スリーマイル島事故のレベルを超えてチェルノブイリ事故に近づいているという情報が、Democracy Now!やホテルの英字新聞で、連日、報じられているのに、ホテルのテレビで見るNHKニュースでは、外国のメディアの心配を「風評被害」ということばで切り捨てているのも大いに気になりました。
しかも、NHKニュースでは流れたことのない写真や映像を、Democracy Now!やホテルの英字新聞で見せつけられると、かつてアジア太平洋戦争の最中に日本の大手メディアが「勝った、勝った、ニッポン勝った」と言い続けた姿を思い浮かべてしまったのですが、これは本当に「風評被害」であり「杞憂に過ぎない」のでしょうか。
たとえば、全身防護マスクで完全防備した警察官や自衛隊員が復興作業している中に、消防服のハッピ姿の地元の人たちが点在している写真は、私には異様そのものです。なぜ地元の人たちにも防護服が配られないのでしょうか。地元民は被爆しても当然だと考えられているのでしょうか。そんなに全身を防護服で完全防備しなければならないほど危険な地帯なら、なぜ政府は避難指示を出さないのでしょうか。
私には全身を防護服で固めた人たちが、遠くから手を伸ばして、みっともないほどの及び腰で、全く無防備な子ども達にガイガー計数管を突きつけている写真も醜悪そのものに見えました。
しかしNHKで私が目にする映像は、ボランティアの人たちがたくさん駆けつけて、復興が進んでいる姿ばかりでした。これでは、かつてアジア太平洋戦争の最中に日本の大手メディアが「勝った、勝った、ニッポン勝った」と言い続けた報道ぶりと、どこが違うのでしょうか。

言い方を変えれば、原爆投下直後の日本では、GHQの命令で、広島・長崎の写真や映像は、決して新聞などに掲載を許されませんでした。今の状況は(少なくとも私には)何かそれと似た雰囲気が感じられます。これは私の思い過ごしなのでしょうか。
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いま政府がしなければならないのは、被災者のひとたちに「意味のない安心感」を与えることではなく、包み隠すことのない情報を住民に与え、今後どうすれば生活を立て直すことができるのかの見通しを与えることではないでしょうか。
ホテルの朝食時に手に入れた朝日新聞で宮崎駿氏が「原発事故で国土の一部を失いつつある国で自分たちはアニメを作っているという自覚を持っている」と語っていましたが、「国土の一部を失いつつある国」という一見「さりげない」ことばが、現在の事態の深刻さをグサリと突いているように私には思えました。
つまり宮崎駿氏は、東北地方の一部が確実に住めない「死の地帯」に変貌してしまうだろうと認識しているのです(原発の「メルトダウン」が「部分的」ではなく「全面的」なものになれば、それでは済まないかも知れません)。
放射能汚染で住めなくなる地域があるとすれば、まず政府がすべきことは、住民に真実を告げて、集団移住をも視野に入れた仮設住宅の建設するなど、一刻も早い対策を立てることでしょう。それはあくまで政府や自治体の政策であるべきで、決してアメリカのハリケーン・カトリーナの時のような「自主退避」であってはならないのです。
ハリケーン・カトリーナがニューオーリンズを襲ったとき、米国政府も州や市の自治体もいっさい援助をしませんでした。そのときのドキュメンタリーを見て驚いたのは「アメリカは社会主義国ではないのだから国も自治体も援助する必要はない」と述べ、スクールバス一台も出そうとしない政府や自治体の姿でした。
こうして米国では、自家用車を持たない貧困者の多く(そのほとんどが黒人だった)が逃げ遅れて水に飲まれていきました。日本はこれほど冷酷な国ではないと思いますが、政府が「自主待避」を言うのであれば、結局、水や電気や食料などが十分にない中で取り残されるのは、老人や障害者などの弱者や貧困者ばかりになっていくでしょう。
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ここからは3月30日です。自宅に戻ってから書いています。昨日中に書き終えたいと思っていたのですが、旅の疲れが残っていて、書き終えることができませんでした。
ところで、この原発事故が起きてから慌てて原発について勉強し直しました。すると少しは知っていたつもりだったのに、まだまだ知らないことが余りにも多いことに驚かされています。下記の小出裕章氏の講演で、チェルノブイリ原発事故が如何に広大な地域を人の住めない死の地帯に変えてしまったのかを実感しました。
【大切な人に伝えてください】小出裕章さん『隠される原子力』
http://www.youtube.com/watch?v=4gFxKiOGSDk
上記の講演は、「チェルノブイリ原発事故によって死の地帯に変えられた場所が、現場地域だけではなく、死の灰が風によって大量に飛散し落下した遠方の広大な地域にまで及んでいること」を、地図・図表・写真を通して、まざまざと教えてくれました。
また小出氏の講演から、原子力発電所の電気料金が、電力会社が儲かるように勝手に決められていることも知り、仰天してしまいました。
その他にも、この講演では、驚くべき事実が多く提示されています。全部を見ようとすると疲れますので、後半の質疑応答部分は省いて前半の講演(約1時間)だけでも視聴していただければ思います。
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<註> 小出裕章氏の講演で、もう一つ驚いたのは、氏がいまだに京都大学原子炉実験所の「助教」だということでした。調べてみると1949 年生まれですから、「教授」になっていてもおかしくない年齢です。それが「助教」(昔の「助手」)のままなのですから、お上の流れに逆らうと、数々のノーベル賞受賞者を出している最高学府の京都大学においてさえこのような目にあうのか?!!と思わず言葉を失いました。
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ところで原子力発電所の電気料金で思い出したのが、Democracy Now!で報道された記事です。「アメリカのウオール街では誰も原子力発電に投資するものはいない。それは儲からないからだ」という事実でした。
つまり原子力発電という事業は「金食い虫」「危険なだけで金にはならないもの」というのが財界・投資家の一般認識だというのです。ただし「国家が危険と儲けの面倒を見てくれるのであれば話は別だが・・・」というわけで、オバマ氏が大統領になってからは、原子力産業が復活したというのでした。
オバマ氏は、既に2010年10月の時点で、約30年ぶりの原子炉建設に必要な債務保証として83億ドルを約束しました。この動きは、大統領の予算において原子力債務保証を3倍にすることと並んで、原子力発電部門を推す米連邦政府の新たな姿勢を如実に表しています。
"A Bad Day for America": Anti-Nuclear Activist Harvey Wasserman Criticizes Obama Plan to Fund Nuclear Reactors
http://www.democracynow.org/2010/2/18/nukes
オバマ氏は、ブッシュ大統領ですらやらなかったことをやり始めたのでした。これではオバマ氏が「社会主義者」、つまり「企業社会主義」と言われても仕方がないのではないでしょうか。オバマ氏が2011年2月に打ち出した予算教書も、「損失・危険」は国が持ち、「儲け・利潤」は企業のものだったからです。
軍事費・原子力発電所増大と社会福祉プログラムの大幅削減を求めるオバマの3.7兆ドルの予算教書
http://www.democracynow.org/2011/2/15/obamas_37_trillion_budget_calls_for
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オバマ氏と核兵器・原子力産業で、もう一つ思い出すのは、オバマ氏がインドに核技術を売りに行ったときのことです。インドはIAEA(国際原子力機関)に加盟しないまま核兵器を所有している国ですが、そのインドに、ノーベル平和賞を受賞したオバマ氏が出かけ、原子力発電を含めた核技術を提供する商談に乗りだしたのでした。
オバマ大統領がインドに売りにいったもの
http://democracynow.jp/video/20101108-1
十日間にわたるアジア4カ国歴訪の皮切りとなったインド訪問には、ゼネラル・エレクトリックやボーイングなど軍事産業の企業幹部が250人ばかりも同行しました。このとき原子力発電所についても商談が成立し、インド政府も合意したのですが、インド議会では大問題になりました。
というのは原子力発電で事故が起きたときに、インドに進出したアメリカ企業が責任を取ることに、アメリカ側が同意しようとしなかったからです。インドでは既に1984年に、米国の化学産業ダウ・ケミカルがボパールでの大事故を起こし、1万5000人~2万5000人の死者を出したにもかかわらず、いまだに責任を取っていないからです。
このような事例を見るにつけても、今回の原発事故に対する被害者への補償は誰がおこなうのかということが重要な問題になってきます。菅内閣は政府が補償するようなことを漏らしたことがありますが、こうなると日本も「儲けは企業に」「損失は国民の税金で」という典型的な「企業社会主義」国家ということになります。
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<註> 国家が面倒を見てくれるという点で、もう一つ思い出されるのは、ウオール街が引き起こした金融危機です。ゴールドマン・サックスなどが引き起こした住宅金融危機は多くのアメリカ人を路上に放り出しましたが、政府は税金でウオール街だけを救い、そのおかげで立ち直った金融界が手にする給料やボーナスは、今や(庶民の私たちからすると)天文学的な数字です。彼らにしてみれば笑いが止まらないでしょう。
また、巨大石油会社BPはメキシコ湾で石油掘削の爆発事故を起こし、ルイジアナ州・アラバマ州・ミシシッピ州・フロリダ州などの漁業や自然を壊滅状態に陥れましたが、オバマ政権は周囲の反対を押し切って、ブッシュ政権でさえ躊躇していたアメリカ近海の石油掘削に大量のゴーサインを出しました。そのせいか、事故責任者を牢屋に入れるつもりはなさそうです。
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中国に行っている間に溜まっていたメールや留守電に答えていると、3月30日もあまりブログに割ける時間が無く、ここまで書いてきたら、3月31日になってしまいました。
滞っていた翻訳に早く復帰しなければなりませんので、以下は、中国に行ってから調べて得た情報を簡単に紹介するだけに止めさせていただきます。
まず紹介したいのは原子力資料情報室の緊急記者会見です。
原子力資料情報室 緊急記者会見[2011.03.26]『福島原発事故の真相を解く』
田中三彦(サイエンスライター)、後藤政志(元原子炉格納容器設計技師)
http://www.ustream.tv/recorded/13590008
上記の映像では、最初に田中三彦氏(元・福島4号炉の設計技術者、サイエンスライター)から1号炉の事故「冷却材消失事故」について報告がありました。これは原発事故の中で最も恐れられている事故だそうです。東京電力、原子力安全保安院、原子力安全委員会が、これを隠し続けてきたのではないか、そう考える理由を氏は明快に説明しています。
原子炉の中身が大写しでスクリーンに映し出されて、説明も後藤政志氏のものと比べて極めて分かりやすくこれを視聴すれば原子炉の仕組みが素人でも理解できるのではないかと思いました。ですから、このインタビューは、後半の後藤氏のものは見る必要がなく、最初から60分の田中氏による説明だけを視聴すればよいと考えます。
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<註> このインタビューを視聴していて、通訳者の女性の通訳ぶりが非常に素晴らしく、このような難しい内容をよくスムーズに英語に直すものだと感心させられました。更に感心したのは田中三彦氏が、その通訳の中身をよく理解していて、ときどき通訳が困りそうな専門語を英語でも言い換えながら事故の説明していることでした。それに反して後藤政志氏は通訳の英語が分からないので、まだ通訳の説明が終わっていないのに、自分の説明を始めようとして、ときどき通訳と説明者との間で混線が起きるのでした。
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次に紹介したいのは、「DemocracyNow!Japan」による下記の字幕つき映像です。英語版については、「福島原発事故ー『チェルノブイリ』を避けるために(1)」で既にURLを紹介済みですが、これは「字幕付き」なので非常に理解しやすいものになっています。
日本の原発危機「メルトダウン(原子炉・炉心完全溶融)の深刻な危機」
http://democracynow.jp/video/20110317-1
元の英語版は3月17日(木)に放映されたものですから事故の情報に関しては新しいものを与えてくれるわけではありません、福島原発が基本的には米国のジェネラル・エレクトリック社の設計によるマーク1型であり、この旧式の原子炉は1970年代から欠陥が指摘されてきたものであることを,この映像からはっきりと知ることができます。
また、米国の原子力規制委員会が、上院のエネルギー環境小委員会で公式答弁したところによれば、1985年の時点で、米国にある約100基の原発で炉心溶融を伴う大事故が20年以内に起こる可能性は、なんと50%とされていたこと(そして日本の東電・原子力安全委員会・原子力保安院は、それを知りながら隠していたであろうこと)も、この映像から知ることができます。
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<註> NHKニュースを見ていて、最近とても不思議なことが一つあります。それはニュース報道でもニュース解説でも、ほとんど絶対に「メルトダウン」という用語を使わずに「溶融」という難しい用語を使っていることです。
最近のNHKは、「コンプライアンス」などで代表されるように、英語教師でも意味の不明なカタカナ語を頻発していて、NHKに抗議しても一向に改める気配がありませんでした。ところが不思議なことに今回だけは「メルトダウン」というカタカナ語を使わないのです。
これは「溶融」という用語よりも事故の内容を庶民がすぐ理解してしまうことを恐れているからではないか、というのが私の「仮説」ですが、皆さんの力で検証していただければ有り難いと思います。
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最後に紹介したいのは、武田邦彦氏の次のインタビューです。氏は原発賛成論者だそうですが、その氏が下記のようなことを言いたい放題に語っていることが、私には面白く思われました。「関東エリア未放送」というのも意味深長です。
中部大学教授・武田邦彦「原子力保安院の大ウソ暴露!」(関東エリア未放送)20分
http://www.youtube.com/watch?v=gW8pfbLzbas
NHKのニュースで「原子力保安院」なるものが記者会見で何かを発表する度に、この人の話は本当に信用がおけるのかと、常々、不安に思いながらテレビを見ていました。そして上記の武田氏のインタビューで、やはり私の不安は杞憂でなかったことを知りました。
武田氏の話のなかに中部電力の浜岡原子力発電所(静岡県)のことも出てきますが、元原子力安全委員会の委員だったという武田氏の話を聞けば聞くほど、(生まれ故郷の志賀原発も勿論のことですが)、いま住んでいる百々峰に近い方の、浜岡原発を一刻も早く止めなくては、という思いに駆られます。
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<註> 下記の東京新聞(3月29日)によれば、東京電力は「日当40万円出すから」という餌を提示しながら、原発作業員の確保に躍起だそうです。東北で職を失ったひとたちを下請け・孫請けの「派遣社員」として雇うつもりなのでしょう
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011032990065850.html#print
しかし、チェルノブイリの経験によれば、「日当40万円」の先に見えているものは明らかです。その一方で正社員の姿はほとんど現場で見かけませんし、社長は一度も謝罪会見をしないまま入院しました。何とも胸のつぶれるような光景ではないでしょうか。
http://www.sanspo.com/shakai/news/110331/sha1103310506011-n1.htm
なぜ中国に行くのかについては、機会を改めて詳しく述べたいと思いますが、中国にいる間も、イギリス・アメリカ・フランスはリビアを爆撃しています。その理由はイラクを侵攻するときと同じで「独裁政権を倒す」という触れ込みです。
しかし「独裁政権を倒す」というのであれば、バーレーンやイエメンでも独裁政権を倒すために民衆蜂起が起きていて、それに対する逮捕・拷問・殺害も絶えないわけですから、リビアだけが制裁の対象になるというのは実に奇妙な話です。
ましてリビアの場合は「内戦」ですが、バーレーンの場合はサウジアラビアやアラブ首長国連邦という「ほとんど選挙をしたことのない王制国家」が、バーレーンの民衆蜂起に対して軍隊を出動させているのですから、明らかに「侵略」に当たるわけですが、これに対しては英・米・仏の三国は何の抗議もしていません。
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そんなわけで「中東」情勢も気になって仕方がないのですが、それよりも遙かに深刻なのが東北関東大震災と福島原発事故のゆくえです。深圳(中国)の状況を見に行っている間も被災者がどうなっているのか放射能被害の広がりがどうなっていくのかが気になって仕方がありませんでした。
とりわけ福島原発事故が、スリーマイル島事故のレベルを超えてチェルノブイリ事故に近づいているという情報が、Democracy Now!やホテルの英字新聞で、連日、報じられているのに、ホテルのテレビで見るNHKニュースでは、外国のメディアの心配を「風評被害」ということばで切り捨てているのも大いに気になりました。
しかも、NHKニュースでは流れたことのない写真や映像を、Democracy Now!やホテルの英字新聞で見せつけられると、かつてアジア太平洋戦争の最中に日本の大手メディアが「勝った、勝った、ニッポン勝った」と言い続けた姿を思い浮かべてしまったのですが、これは本当に「風評被害」であり「杞憂に過ぎない」のでしょうか。
たとえば、全身防護マスクで完全防備した警察官や自衛隊員が復興作業している中に、消防服のハッピ姿の地元の人たちが点在している写真は、私には異様そのものです。なぜ地元の人たちにも防護服が配られないのでしょうか。地元民は被爆しても当然だと考えられているのでしょうか。そんなに全身を防護服で完全防備しなければならないほど危険な地帯なら、なぜ政府は避難指示を出さないのでしょうか。
私には全身を防護服で固めた人たちが、遠くから手を伸ばして、みっともないほどの及び腰で、全く無防備な子ども達にガイガー計数管を突きつけている写真も醜悪そのものに見えました。
しかしNHKで私が目にする映像は、ボランティアの人たちがたくさん駆けつけて、復興が進んでいる姿ばかりでした。これでは、かつてアジア太平洋戦争の最中に日本の大手メディアが「勝った、勝った、ニッポン勝った」と言い続けた報道ぶりと、どこが違うのでしょうか。

言い方を変えれば、原爆投下直後の日本では、GHQの命令で、広島・長崎の写真や映像は、決して新聞などに掲載を許されませんでした。今の状況は(少なくとも私には)何かそれと似た雰囲気が感じられます。これは私の思い過ごしなのでしょうか。
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いま政府がしなければならないのは、被災者のひとたちに「意味のない安心感」を与えることではなく、包み隠すことのない情報を住民に与え、今後どうすれば生活を立て直すことができるのかの見通しを与えることではないでしょうか。
ホテルの朝食時に手に入れた朝日新聞で宮崎駿氏が「原発事故で国土の一部を失いつつある国で自分たちはアニメを作っているという自覚を持っている」と語っていましたが、「国土の一部を失いつつある国」という一見「さりげない」ことばが、現在の事態の深刻さをグサリと突いているように私には思えました。
つまり宮崎駿氏は、東北地方の一部が確実に住めない「死の地帯」に変貌してしまうだろうと認識しているのです(原発の「メルトダウン」が「部分的」ではなく「全面的」なものになれば、それでは済まないかも知れません)。
放射能汚染で住めなくなる地域があるとすれば、まず政府がすべきことは、住民に真実を告げて、集団移住をも視野に入れた仮設住宅の建設するなど、一刻も早い対策を立てることでしょう。それはあくまで政府や自治体の政策であるべきで、決してアメリカのハリケーン・カトリーナの時のような「自主退避」であってはならないのです。
ハリケーン・カトリーナがニューオーリンズを襲ったとき、米国政府も州や市の自治体もいっさい援助をしませんでした。そのときのドキュメンタリーを見て驚いたのは「アメリカは社会主義国ではないのだから国も自治体も援助する必要はない」と述べ、スクールバス一台も出そうとしない政府や自治体の姿でした。
こうして米国では、自家用車を持たない貧困者の多く(そのほとんどが黒人だった)が逃げ遅れて水に飲まれていきました。日本はこれほど冷酷な国ではないと思いますが、政府が「自主待避」を言うのであれば、結局、水や電気や食料などが十分にない中で取り残されるのは、老人や障害者などの弱者や貧困者ばかりになっていくでしょう。
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ここからは3月30日です。自宅に戻ってから書いています。昨日中に書き終えたいと思っていたのですが、旅の疲れが残っていて、書き終えることができませんでした。
ところで、この原発事故が起きてから慌てて原発について勉強し直しました。すると少しは知っていたつもりだったのに、まだまだ知らないことが余りにも多いことに驚かされています。下記の小出裕章氏の講演で、チェルノブイリ原発事故が如何に広大な地域を人の住めない死の地帯に変えてしまったのかを実感しました。
【大切な人に伝えてください】小出裕章さん『隠される原子力』
http://www.youtube.com/watch?v=4gFxKiOGSDk
上記の講演は、「チェルノブイリ原発事故によって死の地帯に変えられた場所が、現場地域だけではなく、死の灰が風によって大量に飛散し落下した遠方の広大な地域にまで及んでいること」を、地図・図表・写真を通して、まざまざと教えてくれました。
また小出氏の講演から、原子力発電所の電気料金が、電力会社が儲かるように勝手に決められていることも知り、仰天してしまいました。
その他にも、この講演では、驚くべき事実が多く提示されています。全部を見ようとすると疲れますので、後半の質疑応答部分は省いて前半の講演(約1時間)だけでも視聴していただければ思います。
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<註> 小出裕章氏の講演で、もう一つ驚いたのは、氏がいまだに京都大学原子炉実験所の「助教」だということでした。調べてみると1949 年生まれですから、「教授」になっていてもおかしくない年齢です。それが「助教」(昔の「助手」)のままなのですから、お上の流れに逆らうと、数々のノーベル賞受賞者を出している最高学府の京都大学においてさえこのような目にあうのか?!!と思わず言葉を失いました。
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ところで原子力発電所の電気料金で思い出したのが、Democracy Now!で報道された記事です。「アメリカのウオール街では誰も原子力発電に投資するものはいない。それは儲からないからだ」という事実でした。
つまり原子力発電という事業は「金食い虫」「危険なだけで金にはならないもの」というのが財界・投資家の一般認識だというのです。ただし「国家が危険と儲けの面倒を見てくれるのであれば話は別だが・・・」というわけで、オバマ氏が大統領になってからは、原子力産業が復活したというのでした。
オバマ氏は、既に2010年10月の時点で、約30年ぶりの原子炉建設に必要な債務保証として83億ドルを約束しました。この動きは、大統領の予算において原子力債務保証を3倍にすることと並んで、原子力発電部門を推す米連邦政府の新たな姿勢を如実に表しています。
"A Bad Day for America": Anti-Nuclear Activist Harvey Wasserman Criticizes Obama Plan to Fund Nuclear Reactors
http://www.democracynow.org/2010/2/18/nukes
オバマ氏は、ブッシュ大統領ですらやらなかったことをやり始めたのでした。これではオバマ氏が「社会主義者」、つまり「企業社会主義」と言われても仕方がないのではないでしょうか。オバマ氏が2011年2月に打ち出した予算教書も、「損失・危険」は国が持ち、「儲け・利潤」は企業のものだったからです。
軍事費・原子力発電所増大と社会福祉プログラムの大幅削減を求めるオバマの3.7兆ドルの予算教書
http://www.democracynow.org/2011/2/15/obamas_37_trillion_budget_calls_for
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オバマ氏と核兵器・原子力産業で、もう一つ思い出すのは、オバマ氏がインドに核技術を売りに行ったときのことです。インドはIAEA(国際原子力機関)に加盟しないまま核兵器を所有している国ですが、そのインドに、ノーベル平和賞を受賞したオバマ氏が出かけ、原子力発電を含めた核技術を提供する商談に乗りだしたのでした。
オバマ大統領がインドに売りにいったもの
http://democracynow.jp/video/20101108-1
十日間にわたるアジア4カ国歴訪の皮切りとなったインド訪問には、ゼネラル・エレクトリックやボーイングなど軍事産業の企業幹部が250人ばかりも同行しました。このとき原子力発電所についても商談が成立し、インド政府も合意したのですが、インド議会では大問題になりました。
というのは原子力発電で事故が起きたときに、インドに進出したアメリカ企業が責任を取ることに、アメリカ側が同意しようとしなかったからです。インドでは既に1984年に、米国の化学産業ダウ・ケミカルがボパールでの大事故を起こし、1万5000人~2万5000人の死者を出したにもかかわらず、いまだに責任を取っていないからです。
このような事例を見るにつけても、今回の原発事故に対する被害者への補償は誰がおこなうのかということが重要な問題になってきます。菅内閣は政府が補償するようなことを漏らしたことがありますが、こうなると日本も「儲けは企業に」「損失は国民の税金で」という典型的な「企業社会主義」国家ということになります。
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<註> 国家が面倒を見てくれるという点で、もう一つ思い出されるのは、ウオール街が引き起こした金融危機です。ゴールドマン・サックスなどが引き起こした住宅金融危機は多くのアメリカ人を路上に放り出しましたが、政府は税金でウオール街だけを救い、そのおかげで立ち直った金融界が手にする給料やボーナスは、今や(庶民の私たちからすると)天文学的な数字です。彼らにしてみれば笑いが止まらないでしょう。
また、巨大石油会社BPはメキシコ湾で石油掘削の爆発事故を起こし、ルイジアナ州・アラバマ州・ミシシッピ州・フロリダ州などの漁業や自然を壊滅状態に陥れましたが、オバマ政権は周囲の反対を押し切って、ブッシュ政権でさえ躊躇していたアメリカ近海の石油掘削に大量のゴーサインを出しました。そのせいか、事故責任者を牢屋に入れるつもりはなさそうです。
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中国に行っている間に溜まっていたメールや留守電に答えていると、3月30日もあまりブログに割ける時間が無く、ここまで書いてきたら、3月31日になってしまいました。
滞っていた翻訳に早く復帰しなければなりませんので、以下は、中国に行ってから調べて得た情報を簡単に紹介するだけに止めさせていただきます。
まず紹介したいのは原子力資料情報室の緊急記者会見です。
原子力資料情報室 緊急記者会見[2011.03.26]『福島原発事故の真相を解く』
田中三彦(サイエンスライター)、後藤政志(元原子炉格納容器設計技師)
http://www.ustream.tv/recorded/13590008
上記の映像では、最初に田中三彦氏(元・福島4号炉の設計技術者、サイエンスライター)から1号炉の事故「冷却材消失事故」について報告がありました。これは原発事故の中で最も恐れられている事故だそうです。東京電力、原子力安全保安院、原子力安全委員会が、これを隠し続けてきたのではないか、そう考える理由を氏は明快に説明しています。
原子炉の中身が大写しでスクリーンに映し出されて、説明も後藤政志氏のものと比べて極めて分かりやすくこれを視聴すれば原子炉の仕組みが素人でも理解できるのではないかと思いました。ですから、このインタビューは、後半の後藤氏のものは見る必要がなく、最初から60分の田中氏による説明だけを視聴すればよいと考えます。
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<註> このインタビューを視聴していて、通訳者の女性の通訳ぶりが非常に素晴らしく、このような難しい内容をよくスムーズに英語に直すものだと感心させられました。更に感心したのは田中三彦氏が、その通訳の中身をよく理解していて、ときどき通訳が困りそうな専門語を英語でも言い換えながら事故の説明していることでした。それに反して後藤政志氏は通訳の英語が分からないので、まだ通訳の説明が終わっていないのに、自分の説明を始めようとして、ときどき通訳と説明者との間で混線が起きるのでした。
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次に紹介したいのは、「DemocracyNow!Japan」による下記の字幕つき映像です。英語版については、「福島原発事故ー『チェルノブイリ』を避けるために(1)」で既にURLを紹介済みですが、これは「字幕付き」なので非常に理解しやすいものになっています。
日本の原発危機「メルトダウン(原子炉・炉心完全溶融)の深刻な危機」
http://democracynow.jp/video/20110317-1
元の英語版は3月17日(木)に放映されたものですから事故の情報に関しては新しいものを与えてくれるわけではありません、福島原発が基本的には米国のジェネラル・エレクトリック社の設計によるマーク1型であり、この旧式の原子炉は1970年代から欠陥が指摘されてきたものであることを,この映像からはっきりと知ることができます。
また、米国の原子力規制委員会が、上院のエネルギー環境小委員会で公式答弁したところによれば、1985年の時点で、米国にある約100基の原発で炉心溶融を伴う大事故が20年以内に起こる可能性は、なんと50%とされていたこと(そして日本の東電・原子力安全委員会・原子力保安院は、それを知りながら隠していたであろうこと)も、この映像から知ることができます。
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<註> NHKニュースを見ていて、最近とても不思議なことが一つあります。それはニュース報道でもニュース解説でも、ほとんど絶対に「メルトダウン」という用語を使わずに「溶融」という難しい用語を使っていることです。
最近のNHKは、「コンプライアンス」などで代表されるように、英語教師でも意味の不明なカタカナ語を頻発していて、NHKに抗議しても一向に改める気配がありませんでした。ところが不思議なことに今回だけは「メルトダウン」というカタカナ語を使わないのです。
これは「溶融」という用語よりも事故の内容を庶民がすぐ理解してしまうことを恐れているからではないか、というのが私の「仮説」ですが、皆さんの力で検証していただければ有り難いと思います。
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最後に紹介したいのは、武田邦彦氏の次のインタビューです。氏は原発賛成論者だそうですが、その氏が下記のようなことを言いたい放題に語っていることが、私には面白く思われました。「関東エリア未放送」というのも意味深長です。
中部大学教授・武田邦彦「原子力保安院の大ウソ暴露!」(関東エリア未放送)20分
http://www.youtube.com/watch?v=gW8pfbLzbas
NHKのニュースで「原子力保安院」なるものが記者会見で何かを発表する度に、この人の話は本当に信用がおけるのかと、常々、不安に思いながらテレビを見ていました。そして上記の武田氏のインタビューで、やはり私の不安は杞憂でなかったことを知りました。
武田氏の話のなかに中部電力の浜岡原子力発電所(静岡県)のことも出てきますが、元原子力安全委員会の委員だったという武田氏の話を聞けば聞くほど、(生まれ故郷の志賀原発も勿論のことですが)、いま住んでいる百々峰に近い方の、浜岡原発を一刻も早く止めなくては、という思いに駆られます。
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<註> 下記の東京新聞(3月29日)によれば、東京電力は「日当40万円出すから」という餌を提示しながら、原発作業員の確保に躍起だそうです。東北で職を失ったひとたちを下請け・孫請けの「派遣社員」として雇うつもりなのでしょう
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011032990065850.html#print
しかし、チェルノブイリの経験によれば、「日当40万円」の先に見えているものは明らかです。その一方で正社員の姿はほとんど現場で見かけませんし、社長は一度も謝罪会見をしないまま入院しました。何とも胸のつぶれるような光景ではないでしょうか。
http://www.sanspo.com/shakai/news/110331/sha1103310506011-n1.htm
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