今は亡きハワード・ジンから私たちは何をどう受けつぐべきか――8月24日の(生きていれば)90歳の誕生日を迎えて。

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「リーディング・シアター・ムーブメント」(劇場朗読運動)、ちょっと休憩でマリサ・トメイと談笑

  

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いま世界は揺れ動いています。大手メディアによって嘘で固められたシリア内戦は、いつイラン攻撃へと拡大するかも知れません。これは悪くすると第3次世界大戦になる可能性があります。

Fisk: Syrian War of Lies and Hypocrisy
http://www.zcommunications.org/syrian-war-of-lies-and-hypocrisy-by-robert-fisk

他方でイギリス政府は、在英エクアドル大使館に政治亡命したジュリアン・アサンジ(ウィキリークス創始者)を逮捕するためにエクアドル大使館に踏み込むことを宣言し、この国際法を踏みにじる言動で、世界中に衝撃波が走りました。

Tariq Ali, Ex-U.K. Ambassador Craig Murray Praise Ecuador for Granting Asylum to Julian Assange
http://www.democracynow.org/2012/8/20/tariq_ali_ex_uk_ambassador_craig

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国内でも民主党野田政権は、原発再稼働・消費税増税・TPP推進・米軍基地へのオスプレイ配備といった「目白押しの悪政」を、自民党や公明党と一体になって強行する姿勢を崩していません。

そのような中で、「金曜デモ」を初めとする日本全国の民衆運動は相変わらず健在ですし、日本の「占拠運動」の象徴とも言うべき「経産省前のテント村」も、8/24(金)で349日目を迎えました。
http://tentohiroba.tumblr.com/

とりわけ画期的だったのは、8月22日(水)に開かれた反原発首都圏連合のメンバーと野田首相との面会でした。民衆運動の代表が官邸4階の会議室で首相と面談したのですから、これは60年代「安保闘争」以来の画期的出来事ではなかったか、と思います。

代表者のひとりによる次の発言が、強く私の印象に残っています。
http://www.youtube.com/watch?v=zg0HhEG4imY&feature=player_embedded

「野田首相の再稼働宣言と、それに続く再稼働で、この国の人びとの心に突刺さっていた制御棒を引き抜かれ、眠りこけていたデモクラシーが再稼働した。それはいつ止まるかわからない」

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ところで私は前回のブログで、拙著『英語教育が亡びるとき』の読者から、"ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』と、訳者「あとがき」、そして私” という長い題名の、嬉しい便りをいただいたことを紹介しました。

この46歳の英語教員だというNさんからの便りは、「私は今頃になって、こんな歳になってから、はじめて街頭の "反原発" "再稼働反対" なるデモに参列したのでした。最近、私は少し変わりました」と文章で終わっていました。

『肉声でつづる民衆のアメリカ史』の「あとがき」で私は次のように書いていましたから、これは本当に嬉しい便りでした。
 今の日本はアメリカから新しい経済制度が導入され、派遣社員という制度にみられるように、就職難に加えて簡単に首切りができる、ますます生き辛い社会になってきています。
 ですから、そのような中で毎日を苦闘しながら生きている若い皆さんに、まず第一に、本書を読んでほしいと思ったのです。
 私たちができるだけ多くの漢字に仮名をふったのも、そのような思いからでした。というのは大学で教えていても、今の若者は英語どころか漢字すら読めなくなってきているからです。英会話ブームやそれに影響を受けたカタカナ語の氾濫が日本語力の弱化に拍車をかけているからです。
 さらに今の日本では、東日本大震災と福島原発事故で、政府から見捨てられ、自力で生き抜くことを強いられている多くの被災者がいます。戦時中におこなわれた「集団疎開」する権利さえ認められていません。そのような皆さんにも、本書をぜひ読んでほしい、そして「生きる力」「闘うエネルギー」をそこから得てほしいと切に願っています。
 これは沖縄の皆さんについても言えることではないでしょうか。昔も今も、アジア太平洋戦争中だけでなく戦後のいまも、戦争の矛盾・軍事基地の矛盾を一手に引き受けさせられているのが、沖縄のひとたちではないかと思うからです。そのひとたちにとっても本書の「肉声」は必ずちからと勇気を与えてくれると信じています。

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上では、「今の日本では、東日本大震災と福島原発事故で政府から見捨てられ、自力で生き抜くことを強いられている多くの被災者がいます」「そのような皆さんにも、本書をぜひ読んでほしい、そして『生きる力』『闘うエネルギー』をそこから得てほしいと切に願っています」と書きました。

しかし、「生きる力」「闘うエネルギー」が必要なのは、既に被曝したひとたちだけでなく、これから被曝する恐れのひとたちも同様です。なぜなら地震大国の日本が原発で稼働させることは、時限爆弾を腹に巻きながら毎日を生きているに等しいからです。

ですから、上記のN先生が『肉声史』(&「あとがき」)を読んで「私は今頃になって、こんな歳になってから、はじめて街頭の "反原発" "再稼働反対" なるデモに参列したのでした。最近、私は少し変わりました」と書き送ってくれたことは、何とも言えない感慨を私に与えてくれました。

今は亡きハワード・ジンも、このN先生のことばを聞いて、「そうか俺が『肉声史』に込めた願いは、日本の地でも確実に芽をだし花をひらきつつあるんだ!」と草葉の陰で大喜びしているに違いありません。

(ハワード・ジンは 1922年8月24日に生まれ、2010年1月27日に他界しました。ですから生きていれば、つい先日90歳の誕生日を迎えていたことになります。ですから本当は、この8月24日に、ハワード・ジン追悼のブログを書きたかったのですが、残念ながら私の体が動きませんでした。)

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世界的に著名な言語学者であり、ベトナム反戦運動以来のジンの「戦友」でもあったノーム・チョムスキーは、2011年10月22日にボストンのデューイ広場でおこなわれたハワード・ジン追悼講演「未来を占拠せよ」で、次のように述べています。

 ハワード・ジンを語ろうとすると、無念さ・残念さ・ほろ苦さを拭(ぬぐ)いきれません。なぜなら、彼がここにいて、この運動に参加し、みなさんに声援を送ることができないからです。
 このような運動こそ彼の夢であり、彼が人生をかけて実現したいと願っていたものでした。実際、いま展開されている運動の、ほとんどの土台を築いたのは彼だったのですから。
 いまの「占拠運動」で築かれつつある、この注目すべき絆(きずな)や連帯が――勝利はすぐにはやって来ませんから――この先の長くて苦しい期間も維持されつづけるならば、この「占拠運動」はアメリカ史における重大な転換点となるでしょう。
 この「占拠運動」のような例は、米国でも、世界のどこでも、その規模と性格において、これまで見たことはありません。この「占拠運動」が前代未聞の運動だと述べても言いすぎにはならないでしょう。
 なぜなら、アメリカは1970年代から新自由主義経済へと大きく転換し、今は空前の暗い時代を迎えているからです。この大恐慌以来の不況と人類を滅亡させかねない不吉な動きに、一条の光をさし示してくれたのが、若者たちが創りあげつつある「水平的連帯」の運動でした。

上記の冒頭でチョムスキーは「ハワード・ジンを語ろうとすると、無念さ・残念さ・ほろ苦さを拭いきれない。彼がここにいて、この運動に参加し、みなさんに声援を送ることができないからだ」と述べています。

しかしこのことばは、本書をジンが生きているうちに送り届けることができなかった私たち訳者のものでもあります。この「あとがき」をジンの死後に書くことになってしまったことが本当に無念でなりません。せめて「占拠運動」がウォール街で花開くまで生きていてほしかったという思いを今でも捨て去ることができません。

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<註> ハワード・ジンの生涯については『肉声史』の「あとがき」にかなり詳しい紹介を書きましたので、ここでは割愛させていただきます。興味のある方は下記を御覧ください。
http://www42.tok2.com/home/ieas/voices-postscript.pdf

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ところで、DemocracyNow!は先日の8月24日に、ハワード・ジンの誕生日を記念して短い番組を放映しました。それは、デモクラシー・ナウ!での2009年5月のジンのインタビューの一部と、亡くなる2カ月前の講演抜粋でした。
http://www.democracynow.org/2012/8/24/be_honest_about_the_history_of

この2009年11月の講演は、ハワード・ジンの最後の講演となりました。以下は、その最後の講演の「締めくくり」部分です。

 しかし覚えておいてください。民衆の上に立つ権力者たちは、その下にいる私たち民衆の服従を土台にして権力を行使しているということを。
 私たち民衆が服従をやめれば、彼らはもう権力をふるえなくなります。労働者がストライキを継続すれば、巨大企業といえども権力を維持できません。消費者が悪徳企業や悪徳商品をボイコットすれば、巨大企業で甘い汁を吸っている連中も降参せざるをえません。
 兵士が闘うことを拒否すれば――それはベトナムで多くの兵士がやったことです、多くの兵士が脱走しました、多くの兵士が上官を手投げ弾で殺傷しました、下級兵士の上官にたいする暴力行為が頻発しました、B-52の飛行士も爆撃飛行をもうやらないと拒否しました――そうすれば戦争は継続できません。無視できない数の兵士が戦争を拒否すれば、政府は「戦争継続は不可能」との決断をせざるをえないのです。
 そうです。私たち民衆には力があるのです。ですから、民衆が力を結集し組織し始めれば、そして抗議し十分に力強い運動を創り上げさえすれば、かならず状況は変わるのです。
 私の言いたかったことは、これに尽きます。ご清聴ありがとうございました。(長く大きな拍手)

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<註> 上記の講演原文は下記のとおりです。ただし改行を大幅に増やしてあります。
http://www.democracynow.org/blog/2010/1/8/howard_zinn_three_holy_wars

  But remember, this power of the people on top depends on the obedience of the people below.
  When people stop obeying, they have no power.
  When workers go on strike, huge corporations lose their power.
  When consumers boycott, huge business establishments have to give in.
  When soldiers refuse to fight, as so many soldiers did in Vietnam, so many deserters, so many fraggings, acts of violence by enlisted men against officers in Vietnam, B-52 pilots refusing to fly bombing missions anymore, war can't go on.
  When enough soldiers refuse, the government has to decide we can't continue.
  So, yes, people have the power.
  If they begin to organize, if they protest, if they create a strong enough movement, they can change things.
That's all I want to say. Thank you.

  パティ・スミス「俺たち民衆には力がある」動画5分
  
画面が小さすぎて動画が動かない場合は、すぐYouTubeのアイコンをクリックしてそちらに移行してください。

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ハワード・ジンは上記で紹介した「最後の講演」で次のように述べました。そして、これがいま世界中で起きていることです。

"So, yes, people have the power. If they begin to organize, if they protest, if they create a strong enough movement, they can change things."

アメリカでもスペインでもギリシャでも、政府が金持ちを減税し大企業を救う一方で、民衆に増税して教育や福祉を大胆に切り捨てる「決断の政治」をおこなっていることに対して、民衆は広場を占拠し街頭を埋め尽くす行進で反撃を開始しています。

そしていま同じことが日本でも起きています。先日、野田首相と会見した代表者のひとりは、「これまで眠っていた民衆のちからを再稼働させたのはあなただ」と言いましたが、今や私たちは "People have the power." ということを自覚し行動し始めているのです。

これこそがハワード・ジンが上記講演で言いたかったことの全てであり、彼はそれを生涯かけて実践してきた人物でもありました。

彼は亡くなる直前まで『肉声史』を武器にアメリカ全土で草の根の民衆運動「リーディング・シアター・ムーブメント」(劇場朗読・朗読劇運動)を展開し、その途上のロサンゼルス近郊で心臓発作におそわれ、ついに帰らぬひととなりました。

あとに残された私たちは彼から何を受け継ぐべきか――8月24日(金)はそれを再考すべき日だったのだと思います。

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脱原発の夏〜お盆でも熱い永田町と霞ヶ関、読者からの嬉しい便り "ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』と、訳者「あとがき」、そして私”

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「再稼働反対」官邸前行動〜9歳の少年が堂々と野田批判(8月10日)

http://www.youtube.com/watch?v=i-rRd37i2qM&feature=youtu.be
(動画3分強)
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お盆で故郷に行っていました。このお盆の最中でも官邸前の「金曜行動」が続くのだろうかと心配していましたが、OurPlanetTVは「脱原発の夏〜お盆でも熱い永田町と霞ヶ関」と報じていましたし、「レイバーネット日本」も次のように報じていてホッとしました。

<お盆休みの終盤でとりわけ暑さが厳しかった8月17日(金)。この日も官邸前・国会前・経産省前・環境省前など霞ヶ関一帯で、多くの人たちが手製のプラカードを持参し「原発再稼動反対」「規制委員会人事案撤回」の声を上げた。いつもより人数は少なめだったが、参加者の怒りと真剣度はまったく変化なく、金曜デモが確実に定着したことを示していた。>
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1424
http://www.labornetjp.org/news/2012/0817

この一週間前の8月10日の金曜行動では9歳の少年がマイクを握って、脱原発を訴えただけでなく、「消費税反対」「野田内閣批判」までおこない、参加者を驚嘆させました(聴衆に大きなどよめきが起きました)。

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私は以前から「官邸前の金曜行動」に賛同しつつも、主催者による「抗議行動のありかた」や「フリースピーチのありかた」にひとつの大きな疑問を感じてきました。

それは主催者が「脱原発」以外の発言を許さなかったり、参加者がもっている脱原発を訴える旗や幟(のぼり)にグループ名や組合名を示すことを許さない、厳しい規制をかけていたからです。

アメリカのニューヨークを拠点として広がった「占拠」運動は若者を中心とした個人やグループの運動として全国に広がって行きましたが、その運動に労働組合が参加してくることを大歓迎していました。

というのは労働組合は初め、この「占拠」運動を冷ややかな眼で見ていたからです。しかし、「我々99%は、1%によって支配され搾取されている」という訴えは、組合に組織されている労働者の胸にも響き、ついに組合すらも「占拠」運動を支援したり行進に参加するようになりました。

また「占拠」運動のスローガンもウォール街の不正を糾弾するものから「学生の授業料値上げ阻止」「家の立ち退き・差し押さえ阻止」など多種多様で、むしろスローガンが多様であるからこそ、大手メディアもどれを批判しどれを攻撃してよいか分からず「スローガンが焦点化していない」と攻撃する始末でした。

日本の原発推進勢力は、同時に「消費税増税」「TPP推進」「沖縄米軍基地の維持、米軍機オスプレイ配備強行」を裏で支えている勢力と同じなのですから、「脱原発」の集会で上記の問題にふれて、「根っこはひとつなのだから手をたずさえて共に闘おう」と呼びかけるべきなのです。

それを「脱原発以外はスピーチの話題にしてはならない」などと規制をかけることは、この「金曜行動」の参加者に、もっと広い視野で原発問題を考えさせる機会をも奪うことになり、むしろ原発推進勢力(日本を支配している1%の勢力)を喜ばせるだけでしょう。

同時にそれは参加者の幅をせばめ、本当は3万人(あるいは30万人)の参加者があったかも知れない集会・行進を1万人(あるいは10万人)に縮小させる働きをしたかも知れないのです。

その意味で、上記で紹介した9歳の少年の発言は参加者に大きなどよめきを引きおこし、いつもは発言を規制する主催者も為す術(すべ)を知らないという雰囲気でした。ぜひ下記動画(3分強)を御覧ください。

http://www.youtube.com/watch?v=i-rRd37i2qM&feature=youtu.be

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ところで最近、拙著『英語教育が亡びるとき』(明石書店)を読んだ読者から下記のようなメールをいただきました。

<46才、元サラリーマンの英語教員です。最近になってAmazonで先生の著書「英語教育が亡びるとき」を見つけ、読み始めました。年来、自分だけで、浅学ゆえにボンヤリとしか疑っていなかったことに対して、先生が明確に語っておられるように思います。御本をありがとうございます。まずは先生の思料を十分に吸収しとうございます。>

上記のN先生に「ブログ『百々峰だより』も読んでいただければありがたいのですが」と書き送ったところ、さっそく次のような返事をいただきました。

<Blogも読みました。この国の病み様は、オスプレイも、TPPも、新指導要領も、原発問題も、すべて同根のように見えてきます。>

だとすれば、「脱原発以外の発言は慎んでください」と規制をかけることは(その理由に一理あるとしても)この運動を広げかつ深化させることにつながらないのではないでしょうか。

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ところで、上記メールをいただいたN先生から更に長文の便りが添付ファイルで届きました。先月初めに出版したばかりの拙訳『肉声でつづる民衆のアメリカ史』(明石書店)についてのものです。

脱原発や基地反対運動など、日本の民衆運動に少しでも貢献できればと願いつつ、この訳書を送り出したものとしては、本当に嬉しい便りでした。ブログに転載を御願いしたところ快諾をいただきましたので、下記に紹介させていただきます。

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ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』と訳者「あとがき」、
そして私


最近になって初めて私は街頭の"デモ"なるもの、つまり「反原発」「再稼働反対」なるデモに参列しました。最近、私は少し変わりました。

私は元来、英語・英書一般に興味を持っておりましたが、ある頃、特に自分の好きなジャンル(歴史や超短編)の英書を読み漁っていました。たいして読書通でもないのに、たいして英語がすらすらと読める訳でもないのに、実は特に訳があって英書を手当り次第に読む必要に迫られていた頃でした。2008年の12月頃でした。

そこで、いくつかの有名なチョムスキの著書にまつわって、私はハワード・ジンという人を初めて知りました。英語や言語学に興味を持っている者なら、言語学 → チョムスキ → ジン、という具合につながっていくのは自然なことでしょう。

尊敬すべきはハワード・ジン。私はそれ以来この優れた、世界に遍在する人民・草莽の優れた理解者、類稀なる教育者に惹かれ続けて、日常の些事や本職に時間を割かれながらも、片手間ながらも、その発信を、どこかで何となく気になって追い続けていたのでした。

氏の著作や活動に影響を受け、この現在世界の中でその一部を、目にも留まらぬ極小さではありましょうが、極小ながらも確実に構成している私、という存在の内奥が、以前より変わっているのがわかります。

読者に感動と勇気を与えずにおかない。それは「訳者あとがき」のいう通りでもありました。そしてそのような私に似た極小の類は世界に増殖しています。

一方、この日本では、ジンの精神が現実の動きとして具体化してゆくのは、今これからが始まりであるといえるでしょう。では、それは日本では、どのように進展して行くのでしょうか。

この日本では政治に多くの者が関心を持てずに唯々諾々としていた時間が、どうやら "3.11以降" はいったんは止んで、人々はより深くものごとを捉える考え方を身につけ始めたように思います。私にはそう思えます。

かつて見えなかったものが見え、分からなかったことが分かり、手のつけられない混沌だと例えられがちであったこの現在世界が、混沌なのではなく混沌であるかのように、一部の者たちに都合がいいように、私たちが思い込まされている世界であることが、次第に私たち自身に理解されてきているように思えるのです。

このような理解を得た、私たちのような人民・草莽が世界に何千何万人いることか、そう考えると、『肉声でつづる民衆のアメリカ史』のエピローグに掲げられているパティ・スミスの歌 “PEOPLE HAVE THE POWER” を、いま勇気を持って改めて、力強く口ずさむことが出来るのです。


     パティ・スミス「俺たち民衆には力がある」動画5分
     

ハワード・ジン亡き今、そしてそのアメリカ “合州国” ではなくこの日本で、この訳書『肉声でつづる民衆のアメリカ史』や訳者「あとがき」は、浅学でかつ英書読みに達者でもない私たちや、これから先に世直しをしてゆく次代の者たちにとって、まだ混沌の中に光明を見いだせない人々にとって、身近で手にとりやすい "勇気の源"、いつでも振り返ってみることのできる "力の泉" になることでしょう。少なくとも私にとっては大きな励ましでした。

なぜなら、「訳者あとがき」にある訳者の願いは、ハワード・ジン本人の願いに同じであるはずだからです。より多くの読者層は日本語で語られてこそ的確に、そして自然に理解が出来ます。

だから、この一連のジンの著作が斯様に世界に浸透したのだとすれば、この国に訳書が出る必然性は時間の問題でもあったのかもしれません。

しかしながら、ジンの願いは今や、特にこの日本で、冗漫に望むのではなく早期に実現する必要があります。なぜなら既成のこの国の仕組みは、多くの者たちの声を聞こうとせず、誰も何の責任もとらず、あまつさえ隙あらば “3.11以前” と同じように万事を進めていきたい、そのように指向しているからです。つまりこの国は "3.11以降" が未だに全く何も収束していないのです。

“3.11以降”の世をそれ以前の元の位置に収めようとする勢力に対して、ジンに学んだ力を発揮することが、Zinn Readers には求められます。次代に責任を果たすために、次代に侮蔑されないために、どうしても必要です。

そしてこの大著を訳了した者と、それを鋭意に読み解いた者たちは、ジンから知恵と勇気を授かっているはずなのです。そのことを訳者も「あとがき」で語っています。

ジンをひとたび理解したというならば、言行一致というものが人として信頼され得るために必要とされるものならば、もはや私たちは、次のことを胸に刻むべきだと思います。

「日常の些事にかまけている、生業にとらわれるのみで身動きが取れない、学ぼうとしない、学ぶ時間がない、象牙の塔に篭っているだけ等々――そんなふうに見られてはいけないのだ。なかんずく次代のまだこれから学んでゆく者たちからそのように指弾されては恥ずかしいのだ。」

それが、ハワード・ジン自伝の書名 “You can't be Neutral on a Moving Train ! “ に込められている意味だと考えます。まさにこの書名のとおり、「激動の時代に中立などありえない」のですから。

この大著を訳了した者と読了した者は、ハワード・ジンの心奥に迫ったはずです。

言い古されているように、私たちのひとりひとりの声も力もみな些末なものです。そして弱者は強者に脅されます。私も常にこの自分の卑小さと恐怖を感じています。私がこのたび訳者に連絡を取ったのも、この自分の心細い心証からゆえだと思います。Zinn Readersはその理解と行動をともにすることができるし、その役目が私たちにはあると思います。

私は今頃になって、こんな歳になってから、はじめて街頭の "反原発" "再稼働反対" なるデモに参列したのでした。最近、私は少し変わりました。(2012/08/08)


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<註> N先生の便りでしばしば言及されている「訳者あとがき」は下記に載せてあります。時間があるときに御覧いただければ幸いです。
http://www42.tok2.com/home/ieas/voices-postscript.pdf
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チョムスキー論文 「ヒロシマの影のなかで」 ― 原爆投下の日に原発と核兵器が世界に投げかける "暗影" について再考する

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8月6日(月)広島の平和祈念式典のあいさつで野田首相は「・・・脱原発依存の基本方針の下、中長期的に国民が安心できるエネルギーの構成の確立を目指します・・・」と述べました。

一見すると脱原発をめざしているかのように錯覚させるような言辞ですが、「中長期的に」という、時間条件句を挿入したことによって、「即時ないしは短期的には、原発エネルギーを含む」こととなります。

「中長期的」は、この場合は、30年から50年と解されるので、30年から50年は「原発を稼働させる」意味となりますし、さらに「基本方針」なので、場合によっては50年を超えても原発エネルギーの存続もありえるとの意味になります。

要するに野田総理は広島で、「脱」原発ではなく、原発「継続」を宣言したのだと私には思えます。

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私は7月18日(水)のブログ「脱原発の前に立ちはだかる三つの壁」と題して、次のように書きました。

<私の予測では、7月16日の「さようなら原発10万人集会」が目標の10万人をはるかに超える巨大な盛り上がり見せたとしても、この動きが今後も持続し加速しないかぎり、野田政権は脱原発の方向へ動き出すことは、当面ないでしょう。

というのは私の推測=仮説では、原発を裏で推進している勢力は次の三つであり、野田首相はこの裏勢力が担ぎ出した単なる御神輿(おみこし)に過ぎないからです。

第1勢力:平和憲法を改悪し(仮想敵国として中国・北朝鮮の脅威を煽り立てながら)日本を核大国=軍事大国にしたいと思っている政治家その他
第2勢力:原発を輸出することによって巨大な利益を得ようとしている巨大企業(これは同時に日本を兵器輸出ができる国にしたいと思っている勢力です)
第3勢力:「原子力ルネサンス」というスローガンを掲げながら、ブッシュ氏ですらやらなかった原子力産業に乗り出したアメリカ=オバマ政権>

野田氏の平和祈念式典での挨拶は、私の上記仮説(特に「第1勢力」)をあらためて裏付けてくれたように思います。

日本は北朝鮮をさして「原発の平和利用などと言っているが実は核兵器を生産したいのだ」
と攻撃していますが、「亀は自分の甲羅に似せて穴を掘る」という諺どおり、実は自分のことを言っていたのです。

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ところで、いま世界の大手メディアはシリアの内戦に集中しています。ところがシリアの反乱軍がアメリカやイスラエル、さらにはイギリスによって支援され、裏で武器支援する役割をサウジアラビア、カタール、トルコなどが担っていることを、日本の大手メディアは全く報道していません。

ところがここにもっと伝えられていないニュースがあります。それはシリアの体制転覆の真の狙いが「イランの体制転覆」であり、シリアへの内政干渉は、その一里塚にすぎないことです。いわばイラン攻撃のために「外堀を埋める」作業がシリアの内戦であり、「アラブの春」がシリアにまで飛び火したのではないということです(『アジア記者クラブ通信』7月号&8月号)。

しかし、もっと知られていないことは、イランにたいする戦争は既に進行していること、それは「宣戦布告なき戦争」の段階にまで至っていることなどです。私が敬愛する言語学者チョムスキーは、8月6日(月)の平和記念式典を前にして発表した論文で、そのことを次のように述べています。

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以下はその一部に過ぎません。全文は下記を御覧ください。
「ヒロシマの影のなかで」 翻訳公開120806
http://www42.tok2.com/home/ieas/Chomsky120806Hisoshima.html

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<8月6日、ヒロシマに原爆が投下された日は、深刻な反省を迫る日である。1945年の、その恐ろしい事件についてだけでなく、それが明らかにしたことについて――人間が破壊力をどこまで拡大できるかの探求に全精力を費やし、ついに極限にまでいたる手段を見つけたことについて、真剣に考え直す日である。>

<今年の原爆記念日は特別に重要な意味をもっている。というのは、・・・>

<イランにたいする戦争は既に進行していると言ってもよいくらいだ。イランの核科学者にたいする暗殺や経済制裁をみればそれは明らかだ。イラン問題の専門家シック(Gary Sick)の判断によれば、それは「宣戦布告なき戦争」の段階にまで至っている。>

<アメリカはイランにたいする高度のサイバー攻撃を誇ってさえいる。ペンタゴンはサイバー攻撃を「戦争行為」だと見なし、The Wall Street Journal誌によれば、このような攻撃にたいしては「通常の軍事力で応戦してよい」と認めてさえいるが、ひとつだけ例外がある。それはアメリカやその同盟国がその実行者である場合だ。>

<中略>

<イランにたいする「布告なき戦争」をさらに激化させることは、偶発的な大規模戦争にいたる危険性を増大させる。その危険は先月の事件で明らかになった。アメリカ軍艦(それはペルシャ湾に派遣された巨大な艦隊の一部に過ぎない)が小さな漁船に発砲し、インド人の乗組員をひとり殺し、少なくとも他の3人を負傷させた。それが大戦争の口火となるにはたいして時間はかからない。>

<そのような破局を避ける賢明な方法のひとつは「中東に大量破壊兵器や全てのミサイルの搬送・発射禁止区域を設けるという目標、化学兵器を包括的に禁止するという基本方針」を追求することである。これは1991年4月の安全保障理事会で成立した決議687の文言であるが、アメリカやイギリスは、その12年後に、この文言を隠れ蓑にしてイラク侵略に乗り出したのだった。>

<後略>

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上記チョムスキー論文にあるとおり、アメリカは既にシリアの反乱分子を秘かに支援しているだけでなく、イランの核科学者の暗殺やサイバー攻撃にすら乗り出しているのです。

ハッカーといわれる人たちが、アメリカによる「ウィキリークス支援の献金阻止」に協力した金融大企業に抗議して、彼らにサイバー攻撃をしかけたとき、これを口汚く非難したのはオバマ政権でしたが、自分がおこなうサイバー攻撃は、どういうわけか免罪されるらしいのです。

チョムスキーはイラン攻撃が次の世界大戦や核戦争になり世界を破滅させる危険を避ける方策として「国連決議687に従って中東を非核地帯に」という提案をしているのですが、アメリカもイスラエルも、頑としてこれに応じようとしていません(イランは早くからこの提案を歓迎しています)。

ところがもっと困ったことは、日本もアメリカの政策に従ってイランにたいする経済制裁に加担して、ますます世界を破局に追い込むことに貢献していることです。

むしろいま日本がなすべきことは、憲法9条をもつ国として、「中東を非核地帯にする運動」の先頭にたつだけでなく、日本が中心となって、韓国。北朝鮮、台湾、フィリピンなどの極東地域も非核地帯にする運動の先頭にたつことでしょう。

そうすれば、イランから輸入していた石油が枯渇して日本がエネルギー不足になる危険を避けることができるだけでなく、(北朝鮮は経済援助ほしさに「核カード」を使っているだけですから)北朝鮮からの脅威も消えます。

しかし、そうなると一番困るのはブログ冒頭に述べた「第1勢力」かも知れません。なぜなら、火力で電力がまかなえるのであれば原子力はいらなくなるし、北朝鮮の脅威を理由に核兵器をもつという口実も消えてしまうからです。

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いずれにしても、下記のチョムスキー論文は、ぜひ全文を読んでいただきたいと思います。アメリカだけでなく日本でも高く評価されているケネディ大統領が、実はどんな人物であったかも分かっていただけるはずです。

「ヒロシマの影のなかで」 翻訳公開120806
http://www42.tok2.com/home/ieas/Chomsky120806Hisoshima.html

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議事堂前に解放区! 「脱原発・7.29国会包囲行動」――衰えを知らない民衆の怒り、国会正門前の車道を埋めつくした人々の熱気

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出典:LaborNet
http://www.labornetjp.org/news/2012/0729shinya


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昨7月29日の「脱原発国会包囲行動」は巨大な盛り上がり(約20万人)を見せ、最初は警察の規制で歩道に閉じこめられていた参加者も、最後は堰を切った水のように車道一杯に広がって議事堂前に解放区が出現し、大成功のうちに幕を閉じました。

この詳しいようすは下記サイトで見ることができます。今後の抗議運動についても下記のような便利なサイトがありますので、ぜひそれを御活用ください。

レイバーネット日本
http://www.labornetjp.org/
OurPlanet-TV
http://www.ourplanet-tv.org/
脱原発デモ集会の開催情報
http://www47.atwiki.jp/demomatome/

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前回のブログで私は次のように書きました。

<『肉声でつづる民衆のアメリカ史』の翻訳出版の疲れが出たのか、正直なところ、私は今もあまり体調が良くありませんし、ブログも本来の目的である「英語教育や国際理解(とりわけアメリカ理解)」のほうに徐々に重点を移していきたいと思っています。>

しかし7月29日の「脱原発国会包囲行動」を上記サイトで見ていると、やはり当日のようすを少しでも本ブログの読者に知らせたくなりました。というのは、前々回のブログで私は次のようにも書いているからです。

<当日は都合で東京の集会に参加できなかったひとも少なくなかったと思います。しかし上記のサイトを家族で視聴すること、その見た感想を周りのひとに伝え合うことも一つの参加の仕方ではないでしょうか。>

今は大手のメディアが正しい報道をしていませんから、とりわけこのような参加の仕方が大切ではないかと思うのです。そこで以下では、映像を見て私が感じたことをメモ風に述べていきます。

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まず以下の映像では動画の時間が短い順に並べてあります。皆さんの忙しさの度合いに応じて、視聴すべき映像を選んでいただければと思います。

動画3分「脱原発国会包囲行動〜正門前にあふれた人波 」
http://youtu.be/qpChYsyWi7w
出典:レイバーネット

動画5分弱「Tens of Thousands Protest Nuclear Power in Tokyo」
http://www.youtube.com/watch?v=8CqHgd2SHsY&feature=relmfu

動画5分「脱原発の鎖が国会包囲〜議事堂前に解放区!」
http://www.ourplanet-tv.org/
http://www.youtube.com/watch?v=SBsCv2ldack&feature=endscreen&NR=1
出典:OurPlanet-TV

動画6分「Massive Human Chain around Japan's Parliament 」
http://www.youtube.com/watch?v=9rJAdDLe_ng

動画15分「脱原発国会大包囲空撮〜人が溢れた瞬間映像」
http://www.ourplanet-tv.org/
http://www.youtube.com/watch?v=Qd3HZHXDx3A&feature=player_embedded#at=882
出典:OurPlanet-TV


出典:LaborNet
http://www.labornetjp.org/news/2012/0729shinya


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東京の「脱原発集会」に参加するのは一日がかりの仕事です。当日は九州や四国から参加した方もいたようですから、その人たちにとっては2日かがりの大変な仕事になったことでしょう。

その人たちに比べれば、下記の空撮映像を60分または90分かけて視聴することは、考えようによっては大した仕事ではないように思います。

そう思って私は頑張って、これらの映像を、家人と一緒に、2日がかりで視聴しました。

空撮映像「脱原発の鎖が国会包囲〜議事堂前に解放区!」
第1便(午後6時〜午後6時50分、実況:山本太郎)
http://www.ourplanet-tv.org/
第2便(午後7時〜午後8時00分頃、実況:白石草)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1395
動画縮約版15分「国会前に人が溢れた瞬間映像」
http://www.ourplanet-tv.org/
出典:OurPlanet-TV

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実を言うと7月28-29日は、埼玉に住む弟の家族と一緒に、能登半島にある父母の墓参りの行く計画が以前から立てられていましたの、上記の映像は帰宅してから視聴したのです。

山本太郎氏による「空撮の実況中継」は、6月29日の官邸前抗議行動のときに視聴していて、その真摯なレポートの仕方に感心しました。今回の空撮「第1便」でも同じことを感じました。

http://www.ourplanet-tv.org/

上記の「山本氏の深い語り」にぜひ耳を傾けてください。私は彼が単なる俳優ではなく、実によく勉強したうえで行動していることに改めて感心させられました。

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ところで今回の空撮「第2便」を視聴して、白石草(しらいし はじめ)という女性レポーターの語りにも大いに感心させられました。とりわけ次のひと言が私の心に強く響きました。

「皆がオリンピックで大騒ぎしている(させられている?)ときに、しかも明日から勤務が始まる日曜日の夜であるにもかかわらず、これだけ多くのひとが国会前を埋め尽くしている。何と感動的な光景ではないでしょうか。」

http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1395

彼女が司会している インターネット放送局 『OurPlanet-TV』は、私もときどき視聴しているのですが、今回の上空から国会前のようすをレポートする彼女の語りを聞いていると、日本のAmy Goodmanが誕生しつつあるのかも知れないという思いがしました。

逆にいえば、インターネット放送局 『OurPlanet-TV』が毎日1時間の報道をするようになれば、アメリカのDemocracyNow!に匹敵するような影響力を持ち始めるでしょう。そして白石さんは、DemocracyNow!の司会者=Amy Goodman女史に匹敵する人物になるのではないかと思ったのです。

その意味で上記動画の90分版をぜひ見てほしいのですが、時間がない方はせめて縮約版の15分だけでも見ていただければと思います。歩道上に閉じこめられていた巨大な参加者が道路一杯に広がって行く瞬間の場面です。

ヨーロッパのデモでは歩道一杯に広がるデモは日常ふつうに見られる光景ですが、日本では歩道や車道一車線のみしか許されていません。これは過剰規制としかいいようがありません。
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