「原発ゼロ」つぶしのバックにアメリカ、「東京新聞」がスクープ――脱原発の前に立ちはだかる三つの壁、三つの勢力(5)


【福島】力強く生きたい~自主避難から1年
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1446 (動画15分)
* 原発によって引き裂かれていく福島のひとたちの悲しみと怒りがヒシヒシと伝わってきます。 
 
* この映像を見て長谷川克己さんの意見と行動に胸を揺さぶられる思いがしました。



スペインの首都マドリードを埋め尽くす民衆
http://rt.com/news/spain-protests-parliament-crisis-942/

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このブログは自分の現在の体調からすると10日に一回の程度の頻度しか書けないのですが、どうしても伝えておきたい新しい事件が次々と起き、本当に困っています。

本来の目的である英語教育やアメリカ理解だけに専念できる日が、一刻も早く来ることを待ち望んでいます。

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さて国外では、ギリシャやスペインで、1%だけを救い99%の教育や福祉を切り捨てようとしている政府にたいして、民衆が激しい抵抗運動を繰り広げています。

Greek Workers Hold General Strike
http://www.democracynow.org/2012/9/26/headlines#9261

Thousands Surround Spanish Parliament in Austerity Protest
http://www.democracynow.org/2012/9/26/headlines#9262

日本もTPPが導入されるとヨーロッパのような悲惨な状態に追い込まれることは間違いないでしょう。

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他方、シリア情勢がますます混迷を深めていますし、イスラエルがイラン攻撃を公言していますので、流血の惨事がいっそう拡大しそうで気が重くなります。

皮肉なことは、リビア内戦のときNATO軍が支援した武装勢力の一部が,今度はリビアのアメリカ大使館を襲ったと言われているのですから、情勢はますます複雑怪奇になってきています。 

リビアのカダフィ政権を倒すためにNATOが反政府勢力に武器を渡して支援したおかげで、ビンラディン亡きあと消滅しかけていたアルカイダが、復活の機会を与えられたというわけです。

US-Backed Terrorists Murder US Ambassador in Libya
http://www.globalresearch.ca/us-backed-terrorists-murder-us-ambassador-in-libya/

しかも、この復活した武装勢力が、今度はシリアの反政府勢力に参加しているそうですから、たとえシリアのアサド政権が倒されることがあったとしても、アメリカにとって未来は必ずしも明るいとは言えないようです。

Robert Fisk: Al-Qa'ida cashes in as the scorpion gets in among the good guys
http://www.independent.co.uk/voices/commentators/fisk/robert-fisk-alqaida-cashes-in-as-the-scorpion-gets-in-among-the-good-guys-8143267.html

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国内では、自民党の総裁選が終わり、決選投票の結果、石破茂前政調会長を押さえて安倍晋三元首相が選出されたようです。

しかし、戦前の軍国主義を反省せず中国を敵視するだけを外交政策の柱とするタカ派同士の決選投票でしたから、今後のアジア情勢にも暗雲が垂れ込めたままです。朝鮮日報は記事の中で次のような見出しを掲げていました。

安倍氏が首相になれば、北東アジアは荒波の中へ
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/09/27/2012092700525.html

原発についても自民党は廃止を明言していませんから、この点でも私たちの頭上には暗雲が垂れ込めたままです。

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ところで私は、以前からこのブログで、原発を推進する勢力には大きく分けて次の三つがあるという仮説を提示してきました。

第1勢力:平和憲法を改悪し(仮想敵国として中国・北朝鮮の脅威を煽り立てながら)日本を核大国=軍事大国にしたいと思っている政治家その他

第2勢力:原発を輸出することによって巨大な利益を得ようとしている巨大企業(これは同時に日本を兵器輸出ができる国にしたいと思っている勢力です)

第3勢力:「原子力ルネサンス」というスローガンを掲げながら、ブッシュ氏ですらやらなかった原子力産業に乗り出したアメリカ=オバマ政権


安倍氏は上記の「第1勢力」であることは氏の経歴からして明らかでしょう。ところで最近、この私の仮説「第3勢力」を裏付けるスクープ記事がありました。

それはこれまでも原発事故を誠実に報道し続けてきた東京新聞によるものです。私がこれを知ったのは「レイバーネット」による下記の記事からでした。

「原発ゼロ」つぶしのバックにアメリカ~「東京新聞」がスクープ
http://www.labornetjp.org/news/2012/0922tokyo

東京新聞は地方紙ですから、私のように田舎の地方都市に住んでいる人間には、なかなか伝わってこない情報でした。

すでにこれを読んだひとには、この記事はNewsではなくOldsかも知れませんが、私のような人間も少なくないのではないかと考え、以下で紹介することにしたいと思います。

東京新聞(2012年9月22日)は一面トップで次のように報じました。

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原発ゼロ「変更余地残せ」 閣議決定回避 米が要求
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012092290070744.html

野田内閣が「二〇三〇年代に原発稼働ゼロ」を目指す戦略の閣議決定の是非を判断する直前、米政府側が閣議決定を見送るよう要求していたことが二十一日、政府内部への取材で分かった。米高官は日本側による事前説明の場で「法律にしたり、閣議決定して政策をしばり、見直せなくなることを懸念する」と述べ、将来の内閣を含めて日本が原発稼働ゼロの戦略を変える余地を残すよう求めていた。

政府は「革新的エネルギー・環境(エネ環)戦略」の決定が大詰めを迎えた九月初め以降、在米日本大使館や、訪米した大串博志内閣府政務官、長島昭久首相補佐官らが戦略の内容説明を米側に繰り返した。

十四日の会談で、米高官の国家安全保障会議(NSC)のフロマン補佐官はエネ環戦略を閣議決定することを「懸念する」と表明。この時点では、大串氏は「エネ戦略は閣議決定したい」と説明したという。

さらに米側は「二〇三〇年代」という期限を設けた目標も問題視した。米民主党政権に強い影響力があるシンクタンク、新米国安全保障センター(CNAS)のクローニン上級顧問は十三日、「具体的な行程もなく、目標時期を示す政策は危うい」と指摘した。これに対して、長島氏は「目標の時期なしで原発を再稼働した場合、国民は政府が原発推進に突き進むと受け止めてしまう」との趣旨で、ゼロ目標を入れた内閣の立場を伝えていた。また交渉で米側は、核技術の衰退による安全保障上の懸念なども表明したという。

エネ環戦略は十四日に決めたが、野田内閣は米側の意向をくみ取り、「エネ環政策は、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する」という短い一文だけを閣議決定。「原発稼働ゼロ」を明記した戦略そのものの閣議決定は見送った。
大串、長島両氏は帰国後、官邸で野田佳彦首相に訪米内容を報告している。

政府関係者は「事前に米側に報告して『原発稼働ゼロ』決定への理解を求めようとしたが、米側は日本が原発や核燃サイクルから撤退し、安全保障上の協力関係が薄れることを恐れ、閣議決定の回避を要請したのではないか」と指摘している。


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以上が、記事の基本的内容ですが、東京新聞は次のような記事で最後を締めくくっています。

◆「判断変えてない」大串政務官:原発ゼロをめぐる米国との協議について、大串博志内閣府政務官は二十一日、本紙の取材に対し「個別のやりとりの内容は申し上げられないが、米側からはさまざまな論点、課題の指摘があった。米側からの指摘で日本政府が判断を変えたということはない」と話した。


しかし、野田内閣は米側の意向をくみ取り、「エネ環政策は、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する」という短い一文だけを閣議決定し、「原発稼働ゼロ」の明記は見送ったわけですから、「判断変えてない」とする大串政務官の言を、誰も信じないのではないでしょうか。

東京新聞は、更にこの記事の後に、次のような解説を付けくわえています。

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<解説> 骨抜き 背景に米圧力

「原発ゼロ」を求める多数の国民の声を無視し、日本政府が米国側の「原発ゼロ政策の固定化につながる閣議決定は回避せよ」との要求を受け、結果的に 圧力に屈していた実態が明らかになった。「原発ゼロ」を掲げた新戦略を事実上、骨抜きにした野田内閣の判断は、国民を巻き込んだこれまでの議論を踏みにじる行為で到底、許されるものではない。

意見交換の中で米側は、日本の主権を尊重すると説明しながらも、米側の要求の根拠として「日本の核技術の衰退は、米国の原子力産業にも悪影響を与える」「再処理施設を稼働し続けたまま原発ゼロになるなら、プルトニウムが日本国内に蓄積され、軍事転用が可能な状況を生んでしまう」などと指摘。再三、米側の「国益」に反すると強調したという。

当初は、「原発稼働ゼロ」を求める国内世論を米側に説明していた野田内閣。しかし、米側は「政策をしばることなく、選挙で選ばれた人がいつでも政策を変えられる可能性を残すように」と揺さぶりを続けた。

放射能汚染の影響により現在でも十六万人の避難民が故郷に戻れず、風評被害は農業や漁業を衰退させた。多くの国民の切実な思いを置き去りに、閣議での決定という極めて重い判断を見送った理由について、政府は説明責任を果たす義務がある。


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上の解説によれば、アメリカは「日本の核技術の衰退は米国の原子力産業にも悪影響を与える」と言ったそうですが、これは私が冒頭にかかげた仮説の第3勢力が主張する内容と全く同じものです。

<第3勢力:「原子力ルネサンス」というスローガンを掲げながら、ブッシュ氏ですらやらなかった原子力産業に乗り出したアメリカ=オバマ政権>


アメリカは、このように、日本の脱原発政策が「再三、米側の『国益』に反すると強調した」そうですが、私たちは「アメリカの国益」のために原発を稼働させたり停止させたりするわけではありません。

その意味で,この解説は、大手メディアと違って、毅然とした態度で終始一貫していて、次の締めくくり方も非常に好感が持てました。

放射能汚染の影響により現在でも十六万人の避難民が故郷に戻れず、風評被害は農業や漁業を衰退させた。多くの国民の切実な思いを置き去りに、閣議での決定という極めて重い判断[原発稼働ゼロ]を見送った理由について、政府は説明責任を果たす義務がある。


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ただ一つ残念だったのは、この締めくくりで「風評被害は農業や漁業を衰退させた」としている点です。

というのは「農業や漁業を衰退させた」のは単なる風評被害ではなく、本当に深刻な濃度の放射能が福島県およびその周辺の土地と海を汚染し続けている事実があるからです。

だからこそ福島のひとたちは「集団疎開をする権利」を求めて裁判闘争に立ち上がっているのです。

[放射能被曝]福島集団疎開裁判で分かった悲惨な現状
http://asumaken.blog41.fc2.com/blog-entry-6114.html
甲状腺の検査改善求め~市民が県立医大に要望
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1441
「移動教室」で教育を変える!~伊達市の挑戦
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1437

官邸前の「金曜デモ」などに参加する余裕や時間がとれなくても、このような動画を視聴すること、資料などを読んで知った知識を周りに広めることも、一つの参加の仕方ではないでしょうか。

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<註> 以下の動画は2時間半にわたるものなので時間のあるときに見ていただければと思います。
【緊急記者会見】ふくしま集団疎開裁判、2012/09/19
http://www.youtube.com/watch?v=Q05MfnVrL7M&feature=plcp
 
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世界の耳目を集めた「尖閣列島の問題」をきっかけに、日本の未来を考える――エマ・ゴールドマンの「愛国主義」(3)

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War/No More Trouble|
Playing for Change | Song Around The World (動画5分)
http://www.youtube.com/watch?v=fgWFxFg7-GU&feature=relmfu



*美しい旋律だけでなく、繰り返し歌われる "No more war, we don't need no more trouble." というフレーズが私たちの胸を打ちます。

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私は相変わらず体調が良くないので、このブログも10日に一度ぐらいしか書けない状態が続いています。

しかし中国と日本の関係が日増しに悪くなっていますので、前回のブログの続きとして一刻も早くこの問題を取りあげなくては、という思いに駆られて、今やむなくパソコンに向かっています。

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さて私は、2012年9月10日のブログ原稿で、森本敏防衛相が就任前の今年1月に日本の原発維持を主張し、「単にエネルギーの問題だけではない」「周りの国から見て非常に大事な抑止的機能を果たしている」と発言したことを受けて、次のように書きました。

 日本の行動が、皮肉にも、逆に中国・台湾・香港の愛国心に火を付ける結果になってしまったことは、今までは一枚岩ではなかった中国・台湾・香港の民衆が一斉に魚釣島めがけて同一行動を始めたことからも分かるはずです。
 ところが日本の大手メディアは、逆にこの事態を利用して日本の愛国心を掻き立てようとしています。「東アジア共同体」が形成されることを何が何でもくい止めたいアメリカとしては、これほど好都合な事態はないでしょう。
 (ただ一つアメリカにとって困った事態は、韓国の李大統領が国民の愛国心を利用して支持率の極端な低下をくい止めようと自ら竹島に出かけたことでしょう。これでは日本の反発を招き、中国包囲網の一角が崩れてしまうからです。)
 しかし、いずれにしても「愛国心」というものが政治的にいかに利用価値の高いものかがよく分かる例ではないでしょうか。


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また私は上記の同ブログで、エマ・ゴールドマンという女性が次のように述べていることも紹介しました。(『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻、475頁)

「それでは愛国主義とは何でしょう? 『愛国主義は悪党どもの最後の拠り所である』とサミュエル・ジョンソン博士は言っています。」

先日、届いたばかりの『Days Japan』10月号を読んでいたら、このエマ・ゴールドマンの言を改めて確証する記事を見つけて、「やっぱりそうだったのか!」という思いを強くしました。

というのは、同書37頁で斎藤美奈子という女性評論家が次のように書いていたからです。
 石原慎太郎東京都知事がワシントンで「東京都が尖閣諸島を購入する」と発表したのは4月16日だった。おかげではじまった日中台の尖閣上陸合戦。もとより中国嫌いで知られる都知事だが、しかしなぜ「いま」なのか。
 考えられるのは彼もまた人気取りに奔走しているということだろう。東京五輪の誘致に固執するのも、ロンドン五輪後の銀座パレードも、尖閣購入を急にブチあげたのも人気回復のため。「たちあがれ日本」なる新党を立ち上げてはみたものの、求心力の衰えは隠せぬ都知事。
 だから「ここらで一発逆転」をねらったのかもしれない。尖閣購入発言以降の石原がヒーロー扱いされているのを見れば、なるほど作戦大成功である。


これを読むと、石原都知事の取った行動は、国民の愛国心を利用して支持率の極端な低下をくい止めようと韓国の李大統領が自ら竹島に出かけたのと、まったく同じだったことが分かります。まさに『愛国主義は悪党どもの最後の拠り所』なのです。

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斎藤美奈子氏の記事を読んでいて、もうひとつ驚いたことがありました。それは石原都知事が「東京都が尖閣諸島を購入する」と発表したのは、都庁での定例会見ではなく、アメリカ=ワシントンだったということです。

これについて斎藤美奈子氏はさらにつぎのように書いています。
 そもそもなぜ彼は都庁での定例会見ではなく、わざわざアメリカで演説したのか。そこまで乗り込んでいったのに、なぜ都知事選での公約だった横田基地の返還を求めないのか。
 石原が演説を行ったのは「ヘリテージ財団」というネオコンの牙城みたいなシンクタンクだ。そこで彼は「占領憲法の改正」と「日本の核武装のシミュレーション」とセットで「尖閣諸島の購入」を表明したのである。
 前の2案件「占領憲法の改正」「日本の核武装のシミュレーション」も大問題で、都民の間からリコール運動が起きないのが不思議なくらいだが、ここから想像できるのは、石原は米国右派への「お土産」に尖閣問題を使ったのではないかということである。


恥ずかしいことに私は、石原知事が「横田基地の返還」を公約にしていたとは知りませんでした。

しかし、私の固定観念では、「右翼」というのは「民族派」ですから、隷属状態にある日本をアメリカから解放するため米軍基地の返還を求めるのは当然だと思うのですが、石原都知事がアメリカで取った行動は全く逆でした。

中国にたいしては「愛国主義」を掻き立てつつ、他方、アメリカにたいしては「プードル犬」よろしく、尻尾を振りつつ「属国」ぶりをアピールしたのでした。

そもそも自分が原案を作成したにもかかわらず、その「占領憲法」なるものを改正しろと強く要求し続けてきたのもアメリカでしたから、アメリカにとってこんなに都合の良い人物はいないでしょう。

やはり『愛国主義は悪党どもの最後の拠り所』であり、それを相手に応じてうまく使い分けるのが「悪党」の悪党なる所以なのでしょう。

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斎藤美奈子氏は、石原都知事の言動を上記のように批判した後で、さらに野田首相について次のように述べています。

<野田政権が石原の挑発にしぶしぶ乗って「尖閣国有化」へ動きだしたのも「弱腰外交」の批判をかわし、消費増税や原発問題から国民の目をそらす作戦だろう。>

これを見ると、国民をコントロールしたり国民の目を重要問題からそらすのに、「愛国主義」というものが、いかに便利な道具=武器になっているかがよく分かります。

その証拠に、尖閣問題で大手マスコミが大騒ぎしている間に、野田首相は国会での同意を得ることなしに、まんまと「原子力規制委員会」の人事を強行しました。

しかし、「尖閣国有化」は果たして日本の国益にかなうものでしょうか。無人島に20億5000万円ものお金を出すくらいなら、そのお金を、「毎日を被曝しながら生きている福島県民(とりわけ妊婦や子どもたち)」を疎開させるために、なぜ使わないのでしょうか。

そもそも、尖閣列島の国有化は日本の防衛、安全、経済発展に本当に役立つものなのでしょうか。そもそも尖閣列島が日本の領土であるということにどれだけの根拠があるのでしょうか。以下では、そのことについて、もう少し深く考察してみたいと思います。

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私は、冒頭で引用した9月10日付けブログの最後に、<註>として次のようなことも書いておきました。

「魚釣島および尖閣列島にたいして日本はどう対処すべきか(それにたいする中国の基本姿勢)を見事に分析した本に、孫崎享『不愉快な現実――中国の大国化、米国の戦略転換』(講談社現代新書)があります。同じ防衛大学の関係者なのに、森本敏氏とは何と大きな違いでしょうか。」

ちなみに孫崎氏は、元外務省国際情報局長・元防衛大学教授です。このような経歴をもつ人物が、上掲書で尖閣列島および日中戦争の歴史を詳細に検証しつつ次のように結論づけています。

 尖閣諸島については日中に棚上げする合意があることを見た。棚上げ方式は、日本側に実効支配を認めていること、棚上げに合意している間は中国が軍事力を使用しないことを暗に約束している。それに配慮すれば棚上げ方式は、実は、日本に有利な合意である。(232頁)
 尖閣諸島を「棚上げ」にする合意を大切にすれば、日本の実効支配は続く。しかし尖閣諸島に対し、国内法で対処する姿勢を強めるなら、残念ながら、日本は自ら尖閣諸島を失う、あるいは負けるしかない武力紛争に入る。いま、日本は将来必ず自国に不利な形で跳ね返る政策を実施しようとしている。(231頁)


この孫崎氏の上掲書が出たのは2012年3月でしたから、「尖閣列島の国有化」がまだ大きな問題になっていませんでした。しかし今まさに孫崎氏が上で述べたとおりに事態が進行しているように見えます。

上記で孫崎氏は「しかし尖閣諸島に対し、国内法で対処する姿勢を強めるなら、残念ながら、日本は自ら尖閣諸島を失う、あるいは負けるしかない武力紛争に入る」と述べています。

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孫崎氏は同書229頁で「国際司法裁判所に提訴するなど、解決に第三者をできるだけ介入させる」方法もあると言っていますが、「残念ながら日本は自ら尖閣諸島を失う」と書いていますから、たぶん国際司法裁判所に持ち込んでも敗訴するだろうと思っているのでしょう。

私も中国と日本とではお互いのもつ歴史の深さが格段に違うのですから、たぶん史料を出し合って検証した場合、日本が裁判で勝つ見込みはあまりないと思います。では武力紛争についてはどうなのでしょうか。

これについて孫崎氏は同書の第5章のすべてを費やして検証した結果、「日本には中国との紛争を軍事的解決する手段はない」と結論づけています。つまり、アメリカも日本を守るために中国と正面衝突する気はないから、日本は勝てないと言っているのです。

また、沖縄の施政が日本に返還されたとき、それに付随して尖閣列島も日本に返還されたのですが、このときアメリカは尖閣列島を日本の領土だと明言していません。「係争地については双方で解決すべし」と述べているだけです。

その後、日中国交回復のとき、周恩来首相は尖閣諸島の「棚上げ」を提唱しました。これにたいして孫崎氏は次のように述べています。

 それはまさに、周恩来がソ連との国境紛争を収拾するために提案した①現状維持、②武力不行使、③論争がある地域の調整、の原則を凝縮したものである。周恩来首相の知恵を無駄にすべきでない。(236頁)
 しかし、残念ながら、今日、日本の政治家、学者、マスコミ、国民が「棚上げ方式が日本に有利である」という論理を理解できなくなった。自国の主張だけを正しいと思い、その主張を確実なものとする手段を講じることが正しいと見なしている。(231頁)


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チョムスキーは以前から「アメリカは東アジアにEUのような共同体ができることを強く警戒している」と述べています。つまり中国・朝鮮およびロシアと日本が一体になった「東アジア経済共同体」が形成されることを、一貫して妨害しつづけてきたというのです。

孫崎氏のもう一冊の本『日米同盟の正体』(講談社現代新書)を読んでいたら、このチョムスキーが言っていることを立証するようなことが書かれてあって驚きました。それには次のように書かれていたのです。
 ジョージ・ケナンと言えば、二〇世紀の世界の外交官の中で最も著名な人物であろう。
 ソ連封じ込め政策の構築者でもあるケナンは、国務省政策企画部を拠点に冷戦後の米国政策形成の中心的役割を果たした。これを前提としてマイケル・シャラーの記述(前掲『「日米関係」とは何だったのか』)を見ていただきたい。
 「干島列島に対するソ連の主張に異議を唱えることで、米国政府は日本とソ連の対立をかきたてようとした。実際、すでに一九四七年にケナンとそのスタッフは領土問題を呼び起こすことの利点について論議している。うまくいけば、北方領土についての争いが何年間も日ソ関係を険悪なものにするかもしれないと彼らは考えた」
 シャラーはこれを裏付けるものとして一九四七年九月四日の国務省政策企画部会合記録を脚注で指摘している。(79頁、下線は引用者による)

アメリカが沖縄の施政権を返還したとき、「施政権と主権とは別個のものである」「係争地については双方で解決すべし」として尖閣列島の帰属について明言しなかったことを先に紹介しましたが、どうもこれには深いわけがあったようです。

つまり、「うまくいけば、尖閣列島についての争いが、何年間も日中関係を険悪なものにするかもしれない」と彼らは考えたわけです。

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日本と中国の関係を悪くしている要因には、他にもいろいろなものが重なっています。

そもそも尖閣列島を含む沖縄をアメリカが占領統治したのも、サンフランシスコ平和条約の時からですが、この講和条約もアメリカ主導であり、中国(中華民国)は招待されていませんし、インドは参加を拒否しています。ソ連は参加しましたが調印を拒否しました。それほどアメリカだけに都合の良い条約だったのです。

第二の要因として日本の戦後復興がアメリカだけに依存したかたちでなしとげられたという問題があります。それどころかアメリカによる朝鮮戦争やベトナム戦争を日本が後方支援することによって景気回復した側面もあるのですから、日本はアジア人の血で復興したと言ってもよいでしょう。

それにたいして同じ敗戦国であるドイツは周辺諸国と貿易するかたちでしか復興できませんでした。ですから、ドイツが犯した侵略戦争の謝罪から戦後を出発せざるを得ませんでした。ドイツが学校教育で(1年間にもわたって)侵略の歴史をきちんと教えているのは、このような理由からです。

しかし日本は上述のような理由でアジアにきちんと謝罪する必要がありませんでした。ですから、日本人の多くは戦前の軍国日本がアジアで何をしたかをきちんと学ぶ機会を失ってしまいました。それが朝鮮日報(9月20日)の下記のような記事になって現れました。

尖閣:野田首相の歴史認識の甘さが日中関係を危機に
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/09/20/2012092000621.html
 NHKは、野田首相がまるで意図したかのように「反日記念日」を選んで中国を刺激した、と報じた。尖閣の国有化方針を発表した7月7日は、日中戦争の発端となった両国軍の衝突事件、盧溝橋事件(1937年)が起こった日だ。また、国有化を正式決定した今月10日は、中国で「国恥の日」とされる柳条湖事件(1931年9月18日)が起きた日に近い。柳条湖事件は、日本が南満州鉄道の線路を爆破し、中国軍による犯行と発表した謀略事件で、満州事変の発端となった。


これでは、アジアにおける日本の孤立化は、進むことはあっても改善することはあまりないでしょう。オーストラリア国立大学名誉教授のガバン・マコーマックの著書『属国』(凱風社)の副題は「米国の抱擁とアジアでの孤立」となっていますが、まさに名言です。

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中国が日本にたいして機嫌を悪くしている理由は他にもあります。それは日本がアメリカの「プードル犬」になって、中国を包囲する作戦に忠実に従っていることです。

アメリカ国防長官のレオン・パネッタは、9月19日に中国を訪問し、「領土問題で事を荒立てないように」と言ったそうですが、その前日に日本を訪問してミサイル探知レーダーの追加配備に調印しました。これほど中国の神経を逆なでする行動はないでしょう。

China Anger as Japan Signs US Missile Defence Deal
http://tv.globalresearch.ca/2012/09/china-anger-japan-signs-us-missile-defence-deal

このミサイル探知レーダーの追加配備は北朝鮮を念頭においたものだとアメリカは弁解していますが、誰もそれを信じるものはいません。というのはロシアですら、この調印に脅威を感じて、さっそく警告を発しているからです。

さらに心配なのは、この日本の動きで日中間の経済関係がさらに悪化することです。世界第2位だった経済大国日本は、すでにその地位を中国に明け渡しました。そのうえ尖閣列島問題で日中の関係がこじれていけば、確実に日本の経済は悪化していくでしょう。

China-Japan island row could hurt 'more than 2011 earthquake'
http://rt.com/business/news/china-japan-trade-earthquake-382/print/

上記の英字記事は「魚釣島騒動が続けば、2011年の地震で傷ついた以上の経済不況が日本を襲う可能性がある」と論じています。

次のグラフは2004年度のものですが、これを見れば分かるように、中国は日本との貿易なしでも十分にやっていけるのです。今は日本への依存度がもっと減っていますから、中国民衆の日本商品にたいする不買運動が広がれば、事態はもっと深刻になるでしょう。


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さらに私が懸念するのは日本の大学で学ぶ中国人留学生のことです。今までもずいぶん居心地の悪い思いをしてきたのですが、この事件でいっそう針のむしろに座るような感じになるだろうことを考えると胸が痛みます。

また、この事件をきっかけに日本への中国人留学生が激減することも考えられます。これは同時に多数の中国人留学生をかかえる私立大学にとっても大きな痛手になるでしょう(中国からの留学生をかかえる日本語学校も同じです)。

というのは、公立高校ですら移民の子弟を入学させることによって廃校を免れているところがあるのですから、中国人留学生によって定員割れをかろうじて防いでいる大学は、この事件で大きな危機を迎えることは間違いないからです。

日本の為政者は、いったい何を考えているのだろうか。そんな思いを禁じることができません。

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<註> 日本語の「魚釣島」を、中国語では「釣魚島」と書きます。これを教材に、日本語と中国語の語順を考えさせるのも面白いかも知れません。それは同時に英語の語順を教えることにもつながります。


関連記事

リビアの都市ベンガジにおけるアメリカ大使館員の殺害事件をめぐって――エマ・ゴールドマンの「愛国主義」(2)

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Stand By Me
"Playing For Change: Peace Through Music"
http://www.youtube.com/watch?v=Us-TVg40ExM




http://playingforchange.com (出典:世界を変革し平和を希求する音楽集団)
*誰が誰の傍に寄り添うべきなのか、そんなことを自然と考えさせてくれる不思議なつくりになっています。


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 一刻も早く本来の目的である「英語教育」の話題に戻りたいと思っているのですが、一向に気力・体力が回復せずイライラしています。
 ところが,そうこうしているうちに、リビアや魚釣島などをめぐり、次々と新しい事件が起き、また「英語教育」に戻れなくなってしまいました。
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私は前回のブログで、アメリカが第一次世界大戦へと動き始めているとき(1908)、エマ・ゴールドマンという女性がサンフランシスコでおこなった有名な演説「愛国主義――自由への脅威」(『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻、475-476頁)を引用しつつ、次のように書きました。

 アメリカは「大量破壊兵器があるから」という口実でイラクを侵略しました。それが嘘であることが分かったとき、急いで「イラクに民主主義をもたらす」という口実に切り替えました。
イスラム教は遅れた野蛮な宗教であるから、イスラム教徒に民主主義を教えてやろう(できれば彼らをキリスト教徒に改宗させよう)というわけです。
さらに、イスラム教にもとづく経済ではなく「アメリカ流の進んだ経済」の手ほどきをしてやるということも目標に掲げました(それは国有化されていた企業をアメリカ資本に開放することが真の目的でしたが)。
今のリビアやイラクは、この方向で運営されていますし、できればシリアも同じ方向で破壊=復興したいのでしょう。シリアが破壊されれば次はイランの番です。
こうしてアメリカ流の「愛国主義」は、エマ・ゴールドマンの下記の定義に、みごとに合致することになりました。
 <尊大・自惚れ・自己本位が愛国主義の本質です。そして、ある特別な場所に生まれる幸運に巡りあったひとは、他の場所に住むひとより自分が優れていて、高貴で偉大で聡明である、とみなしています。だから、その選ばれた場所に住むすべてのひとの義務は、自分の優越性を他のすべてのひとに強制するために、戦い、殺し、死ぬことなのです。>


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イスラム教を冒涜(ぼうとく)した映画がYouTubeで流されたことをきっかけに、中東だけでなくアジアのイスラム国にまで抗議の嵐が吹き荒れました。このなかでリビアではアメリカ大使館員が殺害される事件すら起きました。

私は上記の引用で、アメリカは「イスラム教は『遅れた野蛮な宗教』であるからイスラム教徒に民主主義を教えてやろう(できれば彼らをキリスト教徒に改宗させよう)というわけです」と書きました。

イスラム教を「遅れた野蛮な宗教」とする、このような意識は欧米に広く浸透しています。

中東を専門とする著名な調査報道記者ロバート・フィスクは、下記の記事で、その証拠として幾つかの事例をあげつつ、これまでにもイスラム教を冒涜する事件が欧米で後を絶たなかったことを説明しています。

「挑発者は政治と宗教は別だと知っていて工作している」
The provocateurs know politics and religion don't mix

http://www.independent.co.uk/voices/comment/the-provocateurs-know-politics-and-religion-dont-mix-8131297.html

例1:デンマークの新聞が爆弾入りのターバンを巻いたムハンマド(イスラム教の預言者)の漫画を載せた。
例2:テキサス州の牧師が「コーラン(イスラム教の聖書)を公の場で焼却する催し」をおこなうと宣言した。
例3:アメリカ軍兵士がバグラム米軍基地(アフガニスタン)でコーランを引き裂いて焼却するという事件を起こしても、単なる「偶発的事件」として放置された。

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他方、ロバート・フィスクの同記事によれば、フランスのパリでは、キリストが女性と "make love" する映画を上映した映画館が焼き討ちにあい、その映画を見に行ったひとも殺されるという事件が起きました。「キリストを冒涜する映画は許せない」「それを見に行く奴も許せない」というわけでしょう。

ところがニュージーランドの新聞編集者が、「表現の自由」を理由に、上記の漫画を自分の新聞で再掲したと自慢げに語ったとき、フィスクが「では次回イスラエルがレバノンを侵略したとき頭に爆弾を載せたユダヤ教預言者の漫画を載せますか?」と尋ねると、その編集長は慌てて「それはユダヤ人差別になるからダメだ」と言ったというのです。

これが欧米人(しかも新聞編集者という知識人ですら)の一般的反応だと、上記の記事でフィスクは嘆いているのです。

幾つかのラジオ番組司会者が「リビアのベンガジとエジプトのカイロでほぼ同時に起きたアメリカ大使館員への抗議行動は、"911”と同時に起こるよう仕組まれたものだろうか」とフィスクに尋ねたそうです。

その答えとして、フィスクは自分の記事を次のような皮肉で締めくくっています。

「むしろ、 "911"と同時になるよう仕組んだのは、この映画のアラビア語版をその日に合わせてYouTubeの載せた側ではなかったのか」という疑問が、彼らの頭には決して浮かばなかったようだ。


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<註> フィスクの記事原文は下記にあります。
Robert Fisk:The provocateurs know politics and religion don't mix
http://www.independent.co.uk/voices/comment/the-provocateurs-know-politics-and-religion-dont-mix-8131297.html
・・・Several radio presenters asked me yesterday if the unrest in Cairo and Benghazi may have been timed to “coincide with 9/11.”It simply never occurred to them to ask if the video-clip provocateurs had chosen their date-for-release to coincide with 9/11.

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ところでアメリカ本土では、いま大統領選挙が激烈に闘われています(本当は緑の党からも立候補者が出ているのですが、大手メディアは全く取りあげようとしていません)。

この選挙戦で共和党のロムニー候補は、今回のリビア大使館員の殺害にたいするオバマ大統領の対応が生ぬるいとして、「今の事態に対処するには強いアメリカが必要だ」「強いアメリカとは強い軍隊のことだ」と演説しています。

さらにロムニー候補は、「何よりの強い軍隊をもたねばならない」「強い軍隊さえあれば誰もアメリカに刃向かおうなどとは思わない」とも述べています。彼の愛国主義は強大な軍事国家をつくることとイコールなのです。
http://www.democracynow.org/2012/9/14/headlines#9143

ロムニー氏には、中東やアジアのイスラム国で吹き荒れている怒りが何に由来するかを考えてみる気が全くないようです。

独裁者といわれたフセインでさえ、イラクでこれほど大量の人殺しはしませんでしたし、国土を完全に破壊し住めない土地にすることもしませんでした。それどころかイラクでは女性でも自由に大学に行くことができました。

カダフィも独裁者として攻撃されましたが、そのリビアは医療も教育も無料でした。その豊かな国を破壊し、ほとんど更地の状態にしたのは誰だったのでしょうか。<末尾の註を参照してください>

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しかし、リビアの事件にたいするオバマ大統領の対応も、ロムニー氏とそれほど大きな違いがあるわけではありませんでした。オバマ氏は遊説先のコロラド州で次のように演説しました。

「我々の同胞を殺したものを必ず裁きにかける。私は世界中の人たちに告げたい。我々に害をなさんとする者はすべて、どんなテロ行為であろうと、罰せられずに済むことはない。我々が世界のすべてにたいして誇らかに提示した価値の光を、彼らが決して曇らせることはない。どんな暴力行為であろうと、アメリカ合州国の決意を揺るがせはしない。」

Obama Vows to Bring Libyan Attackers to Justice
http://www.democracynow.org/2012/9/14/headlines#9143
President Obama: "We are going to bring those who killed our fellow Americans to justice. I want people around the world to hear me. To all those who would do us harm: No act of terror will go unpunished. They will not dim the light of the values that we proudly present to the rest of the world. No act of violence shakes the resolve of the United States of America."

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オバマ大統領は、アフガニスタン、パキスタン、さらにはイエメンで、どれだけのひとを無人爆撃機で殺そうが、まったく気にならないようです。ブッシュ氏でさえ、陰でしかやらなかった暗殺を、彼は堂々と公言して実行するようになりました。これが「世界のすべてにたいして誇らかに提示した価値」なのでしょうか。

こうしてアメリカ流の「愛国主義」は、エマ・ゴールドマンの下記の定義に、改めて、みごとに合致することになりました。

<尊大・自惚れ・自己本位が愛国主義の本質です。そして、ある特別な場所に生まれる幸運に巡りあったひとは、他の場所に住むひとより自分が優れていて、高貴で偉大で聡明である、とみなしています。だから、その選ばれた場所に住むすべてのひとの義務は、自分の優越性を他のすべてのひとに強制するために、戦い、殺し、死ぬことなのです。>


すなわち、アメリカという「選ばれた場所」に住むすべてのひとの義務は、「自分の優越性」=「世界のすべてにたいして誇らかに提示した価値」を他のすべてのひとに強制するために、戦い、殺し、死ぬことなのです。

しかしその価値は、不思議なことに、サウジアラビアやバーレーンといった王制独裁国家には適用されないようです。

そこでは蜂起した民衆が弾圧され、またその王制独裁国家からFSA(自由シリア軍、アルカイーダといわれる集団もその中にいる)に武器・弾薬・武装部隊が送り込まれているのですが、それもオバマ大統領には全く気にならないようです。

Dirty War on Syria: How the FSA Massacred Citizens of Daraya
http://tv.globalresearch.ca/2012/09/dirty-war-syria-how-fsa-massacred-citizens-daraya

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今回は、「愛国主義」と「魚釣島」をめぐる日本政府・中国政府(&アメリカ政府)の対応にもふれるつもりでしたが、ここで力尽きました。次回に回したいと思います。どうかお許しください。
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<註> リビアへの攻撃について、前回のブログで紹介した物理化学者である藤永茂氏は次のように述べています(2011年8月31日に書かれた「リビア挽歌(2)」題する記事の冒頭部分です)。
http://huzi.blog.ocn.ne.jp/darkness/2011/08/post_8437.html
 「カダフィの政府軍による大虐殺からリビア国民を守る」という名目の下に開始されたNATOによるリビア空爆は、想像を絶する物凄さで行なわれました。
 8月23日のNATOの公式発表によると、過去五ヶ月間にNATO空軍機の出撃回数(sorties)は2万回を超えました。一日あたり130回の物凄さです。
 対地攻撃を行なった戦闘爆撃機が一機に複数の爆弾や誘導ミサイルを搭載しているとすると、正確激烈な破壊力を持った数万の爆弾やミサイルがリビアの人々の上に降り注いだことになります。
 リビアの人口約650万人、人口的には福岡県と佐賀県を合わせた位の小国です。ミサイルの標的が戦車であれ、輸送車 両、船舶であれ、カダフィの住宅であれ、放送局、大学であれ、無人ではない場合が普通でしょうから、多数の人間が殺傷されたに違いありません。
 8月上旬に、NATO空爆による死者2万という報道がちらりと流れたことがありましたが、あり得ない数字ではありません。
  しかも、NATOの反政府軍支援は空爆に限られたわけではありません。大型ヘリコプターなどによる兵器,弾薬,物資の補給も行なわれ地上でも多数のNATOやCIAの要員が間接的に参戦した模様です
 しかし、こうしたNATOの活動の具体的報道は殆ど完全な管制下にあります。これだけの規模の軍事暴力が、国際法的には全然合法性のないままで (UNの決議内容をはるかに超えて)、人口数百万の小独立国に襲いかかったのです。
 まことに言語道断の恐るべき前例が確立されました。カダフィと息子たちの今後の命運など、この暴虐行為の歴史的意義に較べれば、三面記事の値打ちしかありません。


リビアについては藤永氏の下記「リビア挽歌1」ぜひ参照していただきたいと思います。そうすればリビアの「民衆蜂起」なるものが、今のシリアと同じく、いかに欺瞞に満ちていたかが分かっていただけると思います(しかし老齢の物理化学者がこれだけの分析をしているのに日本の大手メディアの記者たちは何をしているのでしょうか)。
http://huzi.blog.ocn.ne.jp/darkness/2011/08/post_8b65.html

関連記事

原発を推進する三つの勢力、愛国心を利用した原発=核兵器開発、エマ・ゴールドマンの「愛国主義――自由への脅威」

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9.9 オスプレイはいらない!沖縄に連帯して1万人が国会包囲、沖縄では10万人集会
http://www.ustream.tv/channel/ryukyushimpo



<鳥のおもい> 佐々木なずな
http://www.labornetjp.org/news/2012/0909sasaki

                           
オスプレイという大きな太った鳥が         
沖縄に住み着き日本の上空を飛ぶという
この鳥、飛ぶには飛ぶが
離着陸がとてもへた
今まで何回も失敗して
何羽も命を落とした

飼い主はアメリカ合衆国
軍隊に雇われて
戦場にも行った               
死にたくないし戦場にも行きたくない
もうこの仕事をやめたい鳥
でも国防長官は許してくれない

9月9日、耳をすますと
人間の声が聞こえてきた
「オスプレイの配備を許すな!」
鳥はおもわず声を合わせた

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前回のブログを書いてから早くも2週間が過ぎてしまいました。書きたいこと伝えたいことが日々、山積していき、苛立ちは募る一方なのですが、残念ながら体が動きません。

そのうえ金沢に住む高齢の義母が、今後のために家をリフォームしたいというので、その手伝いに行っていたため、ますます時間が取れず、やっと昨日わが家に戻ってきたところです。

この間、国外では相変わらずシリア情勢・イラン情勢が緊迫の度合いを強め、ますます死者と難民の数が増え続けています。しかし大手メディアは相変わらずシリア政府が一方的に市民を虐殺しているかのような報道を続けています。しかし、事実はそれと全く異なることを次の報道は示しています。

「ホウラ虐殺の大嘘から化学兵器まで ― シリア報道における欺瞞」 From the Houla Hoax to Chemical Weapons - Deceptions in Syria
http://www.corbettreport.com/from-the-houla-hoax-to-chemical-weapons-in-syria/

「アメリカを初めとする西側諸国はシリアという国を丸ごと破壊しようとしている」 West Seeks Destruction of Syrian Nation
http://tv.globalresearch.ca/2012/09/west-seeks-destruction-syrian-nation

(本当は上記の英文記事を詳しく解説したいという誘惑にかられるのですが、今回は書きたいことが別にあるので、又の機会にさせてください。その代わりと言っては失礼なのですが、当面は次に紹介する藤永茂さんの記事を読んでください。)

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私は今までDemocracy Now!の報道をかなり信じてきたのですが、NATO軍がリビアを爆撃する頃から Democracy Now!の報道姿勢に疑問を持ち始め、シリア報道の頃から、あの信頼していた Amy Goodman 女史すらオバマ政権に遠慮して報道を曲げることもある,ということにようやく気づき始めました。

名著『アメリカ・インディアン秘史』(朝日選書)を著した物理化学者・藤永茂さん[86歳]は、私よりはるかに早く、リビア攻撃とシリア攻撃は本質的には同じ目的でおこなわれていると論じていて、「さすが藤永さん!」と脱帽せざるを得ませんでした。

シリアとリビア(2)
http://huzi.blog.ocn.ne.jp/darkness/2012/09/post_a40c.html
シリアとリビア(1)
http://huzi.blog.ocn.ne.jp/darkness/2012/08/post_58d9.html

この『アメリカ・インディアン秘史』は以前にも読んだことがあったのですが、『肉声でつづる民衆のアメリカ史』を訳出する参考資料として、改めて読み返してみました。そしてアメリカ史を専門とするひとで、これを超える本を書いているひとはまだいないのではないかという思いがしました。アメリカ先住民にたいする思いがこれほど強く込められた本を、私はまだ読んだことがなかったからです。

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さて国内の動きですが、「経産省前テントひろば」の座りこみや首相官邸前の金曜行動を初め、全国の脱原発運動は(いつのまにか「米軍基地反対運動」「米軍機オスプレイ配備の反対運動」とも呼応し始め)相変わらず健在です。

詳しくは下記を御覧ください。9月11日(火)には「経産省前テントひろば」で「テント1周年イベント&アクション」もおこなわれるようです。

9.7 「再稼働反対」官邸前抗議〜官邸裏からドラム隊まで
http://www.labornetjp.org/
http://www.youtube.com/watch?v=D6bFPub5Nqw&feature=youtu.be
9.11 「テント村1周年イベント&アクション」経産省前テントひろば
http://tentohiroba.tumblr.com/
午後1時  プレイベントSTART
3時    「再稼働是非」で国会議員を糺す――アンケート結果記者会見
4時    記念集会>
6時15分 かんしょ踊り
7時    経産省包囲人間の鎖

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さて今回とくに取りあげたいと思ったのは、共同通信社の「原発維持の理由に国防」と題する次の記事(9月9日)です。

「周辺国へ抑止的機能」就任前に森本防衛相/平和利用の原則揺るがす 
http://www.47news.jp/47topics/e/234264.php

この記事によれば、森本敏防衛相は、就任前の今年1月、北海道電力などが関係する講演会で日本の原発維持を主張し「単にエネルギーの問題だけではない」「周りの国から見て非常に大事な抑止的機能を果たしている」と発言していたことが、9月5日に分かったそうです。

森本防衛相は要するに「原発をゼロにしてしまうと将来の核兵器開発ができなくなる。原発があれば、日本の科学力ですぐに核兵器を開発できる」と言っているのです。

この森本氏の発言は、6月に改訂された原子力基本法にいつのまにか「わが国の安全保障に資する」との文言が追記されたことと見事に符合します。

私は以前からこのブログで、原発を推進する勢力には大きく分けて次の三つがあるという仮説を提示してきました。

第1勢力:平和憲法を改悪し(仮想敵国として中国・北朝鮮の脅威を煽り立てながら)日本を核大国=軍事大国にしたいと思っている政治家その他

第2勢力:原発を輸出することによって巨大な利益を得ようとしている巨大企業(これは同時に日本を兵器輸出ができる国にしたいと思っている勢力です)

第3勢力:「原子力ルネサンス」というスローガンを掲げながら、ブッシュ氏ですらやらなかった原子力産業に乗り出したアメリカ=オバマ政権


森本氏の発言は、原発推進の「第1勢力」という私の仮説が、もはや「仮説」ではなく「事実」だということを証明してくれました。

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いずれにしても、森本氏の発言は、当然ながら平和憲法に背くものですし、非核三原則を堅持するしてきた政府方針を真っ向から踏みにじるものです。このようなひとを防衛大臣にする野田首相の見識も厳しく追及されるべきでしょう。

と同時に、このようなひとを防衛大臣にすえる日本政府は、アメリカと一緒になって北朝鮮やイランにたいして経済制裁(まして武力行使)をおこなう資格などないことになるでしょう。

というのは、北朝鮮やイランが「原子力の平和利用をしたい」と言っているのにたいして「核兵器開発につながる恐れがあるから許せない」とするのであれば、同じことばがそのまま自分に跳ね返っているからです。

ところが最近の日本は北朝鮮やイランにたいする敵視政策だけでなく、愛国心をあおりたてながら中国敵視政策をますます強めつつあります。その先頭を走っているのが石原東京都知事です。

日本の大手メディアは、まるで中国が反日感情を煽り立てているかのような報道の仕方をしていますが、実態は全く逆です。アメリカによる中国包囲政策の一貫でしょうか、黄海で日米韓の軍事演習を繰り返したり、沖縄列島の南端に自衛隊基地をつくり魚釣島などを国有化する動きは,その典型例です。

同じような行動を中国がアメリカ近海(太平洋)でおこなったらアメリカがどんな行動に出るか、想像してみるだけで、自分たちがどんな行動をしているかすぐに分かるのではないでしょうか。

────────────────────────────────────────
日本の行動が、皮肉にも、逆に中国・台湾・香港の愛国心に火を付ける結果になってしまったことは、今までは一枚岩ではなかった中国・台湾・香港の民衆が一斉に魚釣島めがけて同一行動を始めたことからも分かるはずです。

ところが日本の大手メディアは、逆にこの事態を利用して日本の愛国心を掻き立てようとしています。「東アジア共同体」が形成されることを何が何でもくい止めたいアメリカとしては、これほど好都合な事態はないでしょう。

(ただ一つアメリカにとって困った事態は、韓国の李大統領が国民の愛国心を利用して支持率の極端な低下をくい止めようと自ら竹島に出かけたことでしょう。これでは日本の反発を招き、中国包囲網の一角が崩れてしまうからです。)

しかし、いずれにしても「愛国心」というものが政治的にいかに利用価値の高いものかがよく分かる例ではないでしょうか。

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<註> 魚釣島および尖閣列島にたいして日本はどう対処すべきか(それにたいする中国の基本姿勢)を見事に分析した本に、孫崎享『不愉快な現実――中国の大国化、米国の戦略転換』(講談社現代新書)があります。同じ防衛大学の関係者なのに、森本敏氏とは何と大きな違いでしょうか。

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エマ・ゴールドマンの「愛国主義」を ドラマティック・リーディングする、サンドラ・オー 
Sandra Oh reads Emma Goldman, "Patriotism: A Menace to Liberty"
http://vimeo.com/1274878
動画4分

 

ところで「愛国主義」の本質について、極めて鋭い分析をした人物に、エマ・ゴールドマンという女性がいます。

彼女はアメリカが第一次世界大戦へと動き始めているとき(1908)、サンフランシスコで「愛国主義――自由への脅威」という有名な演説をおこないました。

以下は、その一節です(『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻、475-476頁)

それでは愛国主義とは何でしょう? 「愛国主義は悪党どもの最後の拠り所である」とサミュエル・ジョンソン博士は言っています。現代の反愛国主義者のレオ・トルストイは、愛国主義を「大規模殺人者の訓練を正当化する原理」と定義しています。あるいは「靴や衣類や家のような生活必需品を製造するより殺人訓練のための、もっと良い装備を強要する商売」「平均的労働者より高収入と大きな栄光とを保証する商売である」とも言っています。

実際、尊大・自惚れ・自己本位が愛国主義の本質です。ご説明しましょう。愛国主義は、地球は小さな場所に分かれていて鉄の門で囲まれていると考えています。そして、ある特別な場所に生まれる幸運に巡りあったひとは、他の場所に住むひとより自分が優れていて、高貴で偉大で聡明である、とみなしています。だから、その選ばれた場所に住むすべてのひとの義務は、自分の優越性を他のすべてのひとに強制するために、戦い、殺し、死ぬことなのです。


────────────────────────────────────────
韓国の李大統領は、極端に貧富の格差が広がった社会をつくりだし、その結果、支持率も極端に下がりました。そして支持率低下をくい止める「最後の拠(よ)り所」として「愛国心」に訴えました。まさに愛国主義は「悪党どもの最後の拠り所」だったのです。

他方、アメリカは「911事件」を利用して愛国心をかきたて、アフガニスタンやイラクを破壊した後、その復興事業に乗り出しました。他国を破壊するために大量の兵器を供給することによって軍事産業・兵器産業は大儲けをしました。

ところが破壊した後に復興事業として乗り込んでいったのも、同じアメリカの大企業ハリバートンやベクテルでした。地元の企業は何一つ復興事業に参加していません。そこで雇われていたのはアメリカその他の下請け企業であり、安く使える外国人労働者だったからです。

要するに破壊する過程で儲け、復興する過程でも儲けるのです。こんなに美味しい商売はないでしょう。それに貢献するのが「愛国主義」なのです。

他国を破壊するためには愛国主義を「大規模殺人者の訓練を正当化する原理」として使わねばなりません。

その結果、兵器産業は「生活必需品を製造するより殺人訓練のための、もっと良い装備を強要する商売」「平均的労働者より高収入と大きな栄光とを保証する商売」として繁盛します。

同じ企業が破壊も復興も手がけるのです。今や大企業は何でもやってのけるマルチ企業なのです。

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アメリカは「大量破壊兵器があるから」という口実でイラクを侵略しました。それが嘘であることが分かったとき、急いで「イラクに民主主義をもたらす」という口実に切り替えました。

イスラム教は遅れた野蛮な宗教であるから、イスラム教徒に民主主義を教えてやろう(できれば彼らをキリスト教徒に改宗させよう)というわけです。

さらに、イスラム教にもとづく経済ではなく「アメリカ流の進んだ経済」の手ほどきをしてやるということも目標に掲げました(それは国有化されていた企業をアメリカ資本に開放することが真の目的でしたが)。

今のリビアやイラクは、この方向で運営されていますし、できればシリアも同じ方向で破壊=復興したいのでしょう。シリアが破壊されれば次はイランの番です。

こうしてアメリカ流の「愛国主義」は、エマ・ゴールドマンの下記の定義に、みごとに合致することになりました。
 尊大・自惚れ・自己本位が愛国主義の本質です。
 そして、ある特別な場所に生まれる幸運に巡りあったひとは、他の場所に住むひとより自分が優れていて、高貴で偉大で聡明である、とみなしています。
 だから、その選ばれた場所に住むすべてのひとの義務は、自分の優越性を他のすべてのひとに強制するために、戦い、殺し、死ぬことなのです。


かつて満州国は同じような狙(ねら)いで建設されました。日本の「愛国主義」は、今後どのようなかたちで利用されていくのでしょうか。私たちは、それをしっかり監視していく必要があります。
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