電脳技術の天才Aaron Swartz の死を考える(3)――アーロンがめざした理想の図書館 "Open Library" とは? 論文の「著作権料」は本当に必要?、NHKの「録画回数の制限」は?

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Anonymous Operation Last Resort
政府「量刑委員会」ホームページに送りつけられた宣言:「"最終手段"作戦」


http://www.youtube.com/watch?v=WaPni5O2YyI
(動画9分:アーロンを死に追い込んだ政府にたいする怒りの強さが伝わってきます)
http://www.youtube.com/channel/UCmZ76YHMkwfWlyvXPHAtg6Q?feature=watch

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前回のブログ「電脳技術の天才 アーロン・スウォーツ Aaron Swartz の死を考える(1)」で私は次のように書きました。

しかし、このようなかたちで彼を死に追いやったのは [多くの識者が指摘しているように]アメリカ政府ですから、これもオバマ氏が得意とする「暗殺」の一種とも言えるでしょう。

では彼が逮捕された理由として挙げられている「MITやJSTORから文書を不当にダウンロードした」とする事件とは一体どんなものだったのでしょうか。彼は何を目的にダウンロードしたのでしょうか。それは本当に犯罪だったのでしょうか。


私は上記で「このようなかたちで彼を死に追いやったのは [多くの識者が指摘しているように]アメリカ政府ですから、これもオバマ氏が得意とする『暗殺』の一種とも言えるでしょう」と書きましたが、すでに同じような趣旨の声明が多く出されています。

その一端はRTの下記報道「アーロンは政府に殺されたのだ」にみることができますし、またRemember Aaron Swartz というサイトにも多くの声が寄せられています。。

「アーロンは政府に殺されたのだ」
http://www42.tok2.com/home/ieas/AaronSwartz.pdf
Remember Aaron Swartz
http://www.rememberaaronsw.com/

では、彼が逮捕された理由として挙げられている「マサチューセッツ工科大学(MIT)から非営利団体JSTOR(一種の「電子図書館」)の文書を不当にダウンロードした」とする事件とは一体どんなものだったのでしょうか。

彼は何を目的にダウンロードしたのでしょうか。それは本当に犯罪だったのでしょうか。

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JSTOR(Journal Storage)というのは大学や研究所などの学術雑誌を電子化して、それを有料で全国・全世界に頒布・配信している団体です。
http://en.wikipedia.org/wiki/JSTOR#cite_note-29

それをMITが購入して、大学校内で自由に閲覧できるようにしていました。アーロンはこの制度を利用して、MITからもらったID番号を使って、JSTORの文献をダウンロードしたわけです。

しかしあまりにもダウンロードの量が多すぎるのでJSTORが不信感をつのらせ、そのID番号を差し止めたのですが、別のID番号を申請して、また大量の文書をダウンロードするといったことが重なったので、今回の逮捕となったのでした。

とはいえ、今回の事件はダウンロードの量が多すぎただけで、MITの規則を破ったわけでもありませんでした。MITは「情報へのオープン・アクセス」を売り物にしていた大学だったからです。

アーロンは例え話として、連れ合いのタレンに、「借りる権利がある図書館から、本や論文をあまりにたくさん借りすぎて、告訴されたようなものだ」と語っていたようです。

"..., he likened it to arresting—charging somebody for borrowing too many books from the library, which—you know, all of the articles, he had the right to access individually."
http://www.democracynow.org/2013/1/17/exclusive_aaron_swartzs_partner_expert_witness

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連邦検察官Carmen Ortiz


ところが連邦検察官Carmen Ortiz女史は「バールを使おうがパソコンを使おうが、文書を盗もうが金を盗もうが、盗みは盗みだ "Stealing is stealing." 」「盗んだものを売ろうがタダでひとにやろうが、被害者にとっては同じことだ」と言って、はばからなかったのです。
http://www.justice.gov/usao/ma/news/2011/July/SwartzAaronPR.html

しかし既に述べたように、図書館から本を借りたのとは違って、被害者はいません。JSTORはMITからライセンス料をもらっていますから直接的な被害はありません。またダウンロードしたからといって元の文献は消えてはいませんから、それを読みたいひとがJSTORにアクセスすれば、それを読むことができます。ですから、ここでも被害者は生じていません。

おまけに、ダウンロードした文献を返却することで、JSTORとアーロンの間で和解が成立し、JSTORはアーロンにたいする告訴を取り下げているのですから、マサチューセッツ工科大学MITも連邦検察官も、これ以上、告訴を続ける意味はまったくありませんでした。
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<註> 連邦検察官Carmen M. Ortizの発言の英文は次のとおりです。

United States Attorney Carmen M. Ortiz said, "Stealing is stealing whether you use a computer command or a crowbar, and whether you take documents, data or dollars. It is equally harmful to the victim whether you sell what you have stolen or give it away."
http://www.justice.gov/usao/ma/news/2011/July/SwartzAaronPR.html

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既に述べたように、図書館から本や論文を借りていけば、その間は他の人がそれらを読めなくなりますが、電子化された文献をダウンロードしても、本体はJSTORに残っているのですから、このことによって被害・迷惑をこうむるひとは誰もいません。

それどころか、ダウンロードされた文献が無料で公開されれば、それによって利益を受けるひとは無限です。またそれがアーロンの目的でもありました。

また事実、JSTORは、アーロンが自殺する数日前に、アーロンの主張どおりほとんどの文献の無料公開を発表していました。

ただ残念なことに、その知らせがCreative Commonsの創始者レッシグ氏(ハーバード大学教授)にEmailで届いたとき、氏は別のことに忙殺されていて旅行中であり、不覚にも、それをアーロンに知らせるのが遅れてしまいました。その数日後にアーロンは自殺してしまったのです。

レッシグ氏は、DemocracyNow!のインタビューで、「もう一度アーロンに会いたかった、この知らせをアーロンと一緒に祝福したかった」「私たちにはもっとできることが何千とあったし、それをしなければならなかったのだ」と語っています。

ここまで事情を説明したとき思わず氏の目から涙がこぼれ、口から次のことばが出なくなりました。私もDemocracyNow!を視聴しながら、この場面でつい貰い泣きしてしまいました。

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<註> 上記の英語原文は次のとおりです。レッシグ氏がことばを詰まらせてしまう場面はこの放送の最初から30分くらいのところ(このセクションの終わりから5分前あたり)です。時間のある方は是非ご覧ください。

I received an email from JSTOR four days before Aaron died, from the president of JSTOR, announcing, celebrating that JSTOR was going to release all of these journal articles to anybody around the world who wanted access—exactly what Aaron was fighting for. And I didn’t have time to send it to Aaron; I was on—I was traveling. But I looked forward to seeing him again—I had just seen him the week before—and celebrating that this is what had happened. So, all of us think there are a thousand things we could have done, a thousand things we could have done, and we have to do, because Aaron Swartz is now an icon, an ideal. He is what we will be fighting for, all of us, for the rest of our lives.
http://www.democracynow.org/2013/1/14/an_incredible_soul_lawrence_lessig_remembers

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すでに前々回のブログでも書きましたが、このクリエイティブ・コモンズ(Creative Commons)という団体は、著作権をもつ作品・制作物をできるだけ公共のものにするために作られた団体です。

天才アーロンは14歳の時からCreative Commonsをインターネット上に構築するためにレッシグ氏に協力していました。アーロンが自殺する前に、JSTORは彼にたいする告訴を取り下げていたのですから、レッシグ氏の悲しみがどれだけ大きいものだったか、想像するに余りあります。

他方、マサチューセッツ工科大学MITは元々「情報へのオープン・アクセス」を売り物にしていただけに(JSTORと違って)告訴を取り下げようとしないMITへの、レッシグ氏の憤りもまた、想像するに余りあります。

それは同時に、裏でMITに強い圧力をかけてきたオバマ政権司法省=検察当局にたいする憤りでもありました。それをレッシグ氏は次のように述べています。
http://www.democracynow.org/2013/1/14/an_incredible_soul_lawrence_lessig_remembers

アーロンは「信じがたいほどの魂の持ち主」"An Incredible Soul" だ。彼は今や、我々の聖像であり理念だ。彼はわれわれ皆のために闘ったのであり、われわれの未来のために闘った人物だ。

彼は「いわば政府によるいじめ」(a kind of bullying by our government)によって崖っぷちに追い詰められたのだ。

いじめが悲劇につながったとき責任者は問い糾(ただ)される。それと同じように、この事件でも何が起きたのかを独立した調査機関が調査し、その結果を国民に説明することを強く要望する。

これが合衆国政府のありようなのか?政府とはこんなものだったのか?

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<註> 原文は次のとおりです。
"An Incredible Soul": Larry Lessig Remembers Aaron Swartz After Cyberactivist’s Suicide Before Trial
http://www.democracynow.org/2013/1/14/an_incredible_soul_lawrence_lessig_remembers
(前略)Aaron Swartz is now an icon, an ideal. He is what we will be fighting for, all of us, for the rest of our lives.(中略)This was somebody—this was somebody who was pushed to the edge by what I think of as a kind of bullying by our government. A bullying by our government. And just as we hold people responsible when their bullying leads to tragedy, I...ask somebody independent to look at what happened here and explain to America: Is this what the United States government is?

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いま学校では「いじめ」が大きな問題になっていますが、私は常々こどもの「いじめ」よりも大人社会の「いじめ」の方がはるかに深刻であり、こどもによる「いじめ」は大人社会の反映にすぎないのではないかと思ってきました。

しかし、どうもそれは日本だけでなく、アメリカではもっと深刻なようです。レッシグ教授は弔辞で次のようにも述べています。

覚えておこう。この世では、経済危機を恒常的に引き起こした張本人が、ホワイトハウスで優雅に食事をしているのだ。そこでは、たとえ「裁き」の場に引き出されようとも彼らは決して悪事を認める必要はないし、ましてや「重罪」に処せられることなど決してない。


オバマ大統領は新しい財務長官Secretary of Treasuryとしてウォール街の住人ジャック・ルー Jack Lew氏を選びましたが、巨大銀行CityグループのCEOだった彼こそ金融危機を作りだした張本人でした。

しかし、金融危機のため多くのひとが路上に放り出されたり自殺したりしましたが金融危機をつくりだしたひとたちの誰一人として牢屋に入っていません。

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<註> 弔辞の原文およびJack Lew についての典拠は次のとおりです。
Prosecutor as bully「いじめっ子としての検察官」
http://lessig.tumblr.com/post/40347463044/prosecutor-as-bully
......For remember, we live in a world where the architects of the financial crisis regularly dine at the White House — and where even those brought to “justice” never even have to admit any wrongdoing, let alone be labeled “felons.”......

Obama Nominates Chief of Staff, Ex-Citi Exec Jack Lew for Treasury
http://www.democracynow.org/2013/1/11/headlines#1119
 President Obama has nominated another former Wall Street executive to become treasury secretary, picking his own chief of staff, Jack Lew, to replace Timothy Geithner. ......Lew was an executive at Citigroup from 2006 to 2008 at the time of the financial crisis and a longtime proponent of deregulating Wall Street.
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故ハワード・ジンは、ベトナム戦争中の1970年に「市民的服従こそが問題だ」という講演をおこなっています。要するに「市民が間違った法律を遵守するから問題なのだ」と言っているのです。

ジンは、「この世は全てあべこべだ。心正しき者が牢屋に入れられ、悪徳業者や殺人者が巷(ちまた)を闊歩している」という話から、この講演をスタートさせています、そして彼は次のように話を続けています。

私が提示する仮定は、私たちがこれについて多くを語る必要がない、ということです。私たちがすべきことは、今日の世界の状態について考え、物事がみな逆さまだと認識することだけだからです。

ダニエル・ベリガン神父は、ベトナム戦争に反対するカトリック司祭で詩人ですが、[アメリカの法律を破ったとの理由で] 投獄されています。他方、FBI長官J・エドガー・フーバーは、ご存じのとおり自由の身です。

またデイビッド・デリンジャーは、司祭だったときからずっと戦争に反対し、自分のエネルギーと情熱のすべてを戦争反対のために使ってきた人物ですが、いまでも投獄の危険に晒(さら)されています。

ところが他方、ベトナムのミライ村大虐殺の張本人たちは裁判中ですらありません。(『肉声でつづる民衆のアメリカ史』下巻、274-275頁)

現在のアメリカでも同じような例はいくらでもあげることができます。その典型例が、「米軍によるイラク市民の虐殺事件」を内部告発したとして逮捕されたブラッドリー・マニング上等兵と、その内部告発をウィキリークスで発表したとしてエクアドル大使館への亡命に追い込まれたジュリアン・アサンジでしょう。

米軍がイラクで起こした事件は「ヘリコプターからロイターの記者とカメラマンを銃撃し、その援助に車で駆けつけたイラク市民を、その子どもと一緒に虐殺した事件」ですから、明らかに戦争犯罪です。

しかし、その事実を黙視することができず勇気をもって告発した人物を、オバマ大統領は告訴も裁判もせず長期間、拷問に等しい状態で、独房に閉じこめてきました。しかも理由が「スパイ防止法」に違反したからというのですから呆れてしまいます。

また、マニング上等兵から得た情報をウィキリークスで発表したとして、アサンジ氏はアメリカ政府から追われる身となっています。しかし、こんなことが許されれば、あらゆる特ダネ報道は死に瀕してしまうでしょう。

なぜなら政府の悪事を暴いた新聞記者はすべて「敵を利する行為」として逮捕されてしまうからです。最近は新聞でもオンライン版がありますが、ウィキリークスがおこなっている行為は、特ダネ専門の巨大なオンライン新聞と言ってよいからです。

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<註> その一方で、オバマ氏は無人爆撃機(Drone)を使って世界各地で爆撃=殺人行為を繰り返しています。これは戦犯(War Crime)の疑いが強いとして国連(UN)さえもその調査にのりだしていることに注目してください。

U.N. to Probe Alleged War Crimes in U.S. Drone Strikes
http://www.democracynow.org/2013/1/25/headlines#1256
  The U.N. Office of the High Commissioner for Human Rights has announced a new investigation of the civilian toll of U.S. drone strikes overseas. ......
  The U.N. probe comes as the Obama administration appears to be escalating its drone warfare abroad, launching more than a dozen attacks in Yemen and Pakistan already this year. This week, the United States launched at least five drone strikes in Yemen in as many days. According to some reports, the latest attack mistakenly killed two Yemeni children.

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Screenshot from www.ussc.gov
Anonymous Operation Last Resort

http://www.youtube.com/watch?v=WaPni5O2YyI
http://www.youtube.com/channel/UCmZ76YHMkwfWlyvXPHAtg6Q?feature=watch

ではアーロン・スウォーツのおこなった「文献のダウンロード」とは何をめざしたものだったのでしょうか。アーロンはそれを講演で次のように語っています。

(これは2010年10月にイリノイ州立大学Urbana-Champaign校でおこなったもので、多くの大学生や他の人たちが国中で利用している非営利講読サービスJSTORについて語ったものです。)

 アメリカの主流大学の学生であるというおかげで、君たちは多種多様な学術雑誌にアクセスできると思う。アメリカのほとんどすべての大きい大学は、学術雑誌へのアクセスを得るために。JSTORやThomsonやISIのような組織にこの種使用料を支払っている。

 それは世界の他の人たちがなかなか読むことのできないものだ。というのは、この料金は相当な高額だから、アメリカで研究しているのではなくインドで研究している人はこの種のアクセス権を持っていない。彼らはこうした雑誌から完全に閉め出されている。科学的な全遺産から閉め出されているのだ。それには啓蒙主義の時代にまで遡る文献すらも含まれている。

 誰かが科学論文を書くそのたびに、それはスキャンされ、デジタル化され、これらのコレクションに入れられる。それは人々が興味深い仕事をしたという歴史であり、我々にもたらされた遺産だ。それは科学者の歴史だ。それは庶民としての、民衆としての我々に属すべき遺産だ。

 ところが、それは一握りの利益追求型の企業によって閉じ込められ、オンライン上に置かれ、それら企業はそこから最大限の利益を上げようとしている。

 他方いまでは、これをオープン・アクセス運動で変革しようとする民衆がいる、良き民衆がいる。将来は、すべての学術雑誌がオープン・アクセスのかたちで公表されるよう、それらの企業・組織に働きかけている。

 そうすればインターネット上にオープンになり、すべての人がダウンロードできるし、無料でコピーすることも可能になる。出典や著者名を明記すれば、おそらく修正しながら利用もできるようになるだろう。


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<註> 上記の英語原文は下記に紹介されています。分量が少し多いので引用は割愛させていただきます。
Exclusive: Aaron Swartz’s Partner, Expert Witness Say Prosecutors Unfairly Targeted Dead Activist
http://www.democracynow.org/2013/1/17/exclusive_aaron_swartzs_partner_expert_witness
 
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以上で、アーロンが「JSTORの文献をダウンロード」した裏にどのような願いがこめられていたのかが、よく分かっていただけただろうと思います。

考えてみれば、2006年に、"Open Library"すなわち「これまでに出版された本に無料でアクセスできるウェブページ」を作るためのオンラインプロジェクト=「皆に開かれた図書館」を起ち上げたのもアーロンでした。

ですからアーロンがイリノイ州立大学で講演したことの意味が、少なくとも私には本当に納得できるのです。それどころか私がこれまで漠然と考えていたことが、若いアーロによって、明確なことばで語られていて、感銘をうけました。

私は地方の国立大学で全学図書館委員会の委員を何度か務めたことがありますが、そのときに大きな問題になっていたのが、「デジタル化された論文や雑誌」をJSTORのような企業から、大金をはたいて購入しなければならないという問題でした。

地方の弱小国立大学の予算ではとても簡単に買える値段ではなかったのです。というのはJSTORの場合は人文社会系の論文が中心でしたが、私のいた大学は医学を中心とした理系学部が中心でしたから、Elsevier(エルゼビア)などからどうやって科学論文の購入予算を工面するかが話題の中心でした。

Elsevierだけでも購入する予算を確保するのが大変なのに、Springerなど、それ以外の企業から購入すると、文系の論文が買えなくなりますし、図書館の本体であるべき書籍そのものが買えなくなることになってしまいます。結局、各学部の予算を削って図書館に回すことになりますが、こうなると各学部の負担率が紛争の種になるだけでなく、削られた分だけ個人の研究費が減らされますから、これも大きな問題でした。

東京大学や京都大学のように予算規模の大きいところであれば、まだゆとりがあるのかもしれませんが、地方の弱小大学では、とても手が出ません。こうして、電子化された文献を購入できる豊かな大規模大学だけが、世界の全分野を網羅する最先端の研究に接することができ、大学間の格差がますます深刻化していくことになります。

そして同じ事態が国家レベルでも生じますから、貧しい「発展途上国」は永遠に浮かび上がることができません。まさにアーロンが言うとおりなのです。このような事態を打ち破るために構想されたのが、アーロンの言う "Open Library" でした。

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<註> Open Libraryについては下記サイトを御覧ください。ここには無料で利用できる書籍・児童書もたくさん納められていますから、英語教育にとって「自主教材の宝庫」とも言えるでしょう。
http://openlibrary.org/
http://ja.wikipedia.org/wiki/Open_Library

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私のいた学部では、毎年1~2回の頻度で発行される研究紀要は電子化され、紙媒体の研究紀要や抜き刷りは原則として廃止になりました。その代わり電子化された紀要や論文は学部または大学図書館のホームページから無料で読むことができるようにしました。

同じことを全国の各大学で実行すればアーロンの願っていたことは簡単に実現できることになります。私立大学でさえ、国家から大きな補助金を得ながら運営されているのですから、そこでの研究成果も当然ながら公有化されるべきものでしょう。

私が『英語教育が亡びるとき:「英語で授業」のイデオロギー』を書いたときも、多くの論文や書籍のお世話になりました。そのなかにはやはり地方の国立教育大学の研究者のホームページに載せられていた貴重な論文もありました。

それをインターネット検索で発掘し読むことができたからこそ、私は『英語教育が亡びるとき』が書けたとも言えるのです。たとえば、その論文の一つは、公刊された書籍では述べられていない、フィンランドの英語教育・教師教育について論及していたからです。

ですから [JSTORのような企業によって集積され頒布・販売されていなくても] 研究成果がオンラインで公開されていさえすれば、それを無料で利用することが可能になるのです。問題は各大学や研究機関がこのような努力をしているかどうかです。

(実は、マサチューセッツ工科大学MITは「オープンキャンパス」「オープンアクセス」を売り物していたのですから、アーロンの願う方向へとその先頭を走っている大学――のはずでした。そこに、この事件の悲劇性と深刻さがあります。)

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それはともかく、国立情報学研究所がこのような研究成果を網羅する施設・組織として機能するようになれば、JSTORやELSEVIER(エルゼビア)のような企業が存在しなくても、少なくとも国内研究に関しては、お金を払う必要もなくなります。

国立情報学研究所がそのような機能をはたせないのであれば別の機関をつくるべきでしょう。アーロンが構想し創立した"Open University" はまさにそのようなものをめざしたものでした。

またJSTORもこのようなアーロンの理念が正しいと認めたからこそ、アーロンが自殺する数日前に、その多くの文献を無料で公開することを発表したのでしょう。

そして各国が "Open University" に類似したものをもつようになれば、世界はもっと公正で平等な(かつ豊かな)社会になるでしょう。

ところが今はそれと逆行する事態が進行しているのです。たとえば、NHKの制作したドキュメンタリーなどは、今までは自由に録画して学校で見せることができましたが、NHKテレビのデジタル化が進行してからは、録画の回数も制限され、しかも過去のものについてはお金を払わないと見れなかったりDVD化されたものを購入しなければならなくなりました。

NHKは営利を目的とする団体ではありませんし、その運営資金の大半は国家予算から出されています。ですから視聴料は無料にすべきですし、そこで制作された作品も無料にすべきではないでしょうか。ところがNHKは上で述べたように有料化の方向へと逆行し始めているのです。

アーロンの自殺が私たちに問いかけているのは、「このような事態をこのまま放置しておいてよいのか」ということだと私には思えてなりません。

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実は、アーロンの自殺事件は単に「知的所有権」の問題だけでなく、背後にもっと大きな問題がひそんでいたのではないかと私は思っています。

さもなければ、「オープン・キャンパス」「オープン・アクセス」を売り物し、アーロンの願う方向へとその先頭を走っている大学で、このような事件が起きるはずがなかったのです。

JSTORが告訴を取り下げ、アーロンの理念に沿った改革をすすめていたにもかかわらず、MITが告訴をとりさげなかったのは何故なのか。そこにこの事件の謎・本質を解く鍵がひそんでいる、と私は考えています。

しかし、もう十分に長くなりすぎていますので、次回に回したいと思います。そのときには、それが原発事故と英語教育にどう関わってくるのかも(気力・体力が許せば)、言及できればと思っています。
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電脳技術の天才Aaron Swartz の死を考える(2)――オバマはアーロンの何を恐れたのか?WWWの創設者は語る 「アーロンの訴追は法と正義をねじまげる全くの茶番劇だ」

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ニューヨークでの追悼集会で挨拶するタレン(アーロンのパートナー)

http://www.ktvu.com/ap/ap/technology/hundreds-honor-information-activist-swartz-in-nyc/pnPCL/


歌 "Shapeshifter" - Gallop
(まるでタレンの気持ちを代弁しているようなメロディと歌詞です)
http://www.youtube.com/watch?v=zRZ5B5uLs8Q(約5分)
http://gallop.bandcamp.com/track/shapeshifters(歌詞)
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前回のブログ「電脳技術の天才 アーロン・スウォーツ Aaron Swartz の死を考える(1)」で私は次のように書きました。

いずれにしても、仏教徒の焼身自殺による抗議がベトナム戦争の終結を早め、チュニジアやエジプトでは若者の焼身自殺が「アラブの春」をもたらしたように、アーロンの自殺がアメリカに真の自由と民主主義をもたらすことに貢献するだろう、と私は信じています。

私がこのブログをなかば徹夜状態で載せたあと、その日のDemocracyNow!を視聴してみたら「コンピューター犯罪を罰する法律を改正するための新しい法律『アーロン法』が提案された」というニュースが飛びこんできました。

"Aaron’s Law" Introduced to Alter Computer Fraud Penalties
http://www.democracynow.org/2013/1/16/headlines#11613

私が願ったとおりのことがアメリカで起き始めていることを知り、本当に嬉しくなりました。以下にそのニュースを紹介しておきます。

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「コンピューター犯罪の罰則を改正するために新しい『アーロン法』が提案された」
"Aaron’s Law" Introduced to Alter Computer Fraud Penalties
http://www.democracynow.org/2013/1/16/headlines#11613

ワシントンでは、カリフォルニア選出の民主党下院議員ゾウイー・ロフグレン(Zoe Lofgren)がスウォーツ氏をたたえるために新しい法律の導入を提案した。

このロフグレン女史の法案は別名を「アーロン法」と言い、「コンピューター不正行為防止法」(the Computer Fraud and Abuse Act)を修正し、「インターネットなどのサービス違反」の条項を削除しようとするものである。声明のなかでロフグレン女史は次のように述べた。

「死者を生き返らせることはできないのですからアーロン氏の悲劇を元にもどす道はありません。しかし私たちはアーロン氏が味わった苦難=権力の乱用を二度と繰り返させないように奮闘・努力することはできるのです」

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さらに翌日のDemocracyNow! は、大略つぎのように報じました。
http://www.democracynow.org/2013/1/17/exclusive_aaron_swartzs_partner_expert_witness

アーロンの死はアメリカ全土で政府検察官にたいする不満と怒りを噴出させた。

その不満と怒りを背景に、民主党下院議員ゾウイー・ロフマンは現行法の修正案「アーロン法」を提出した。

それだけでなく、共和党下院議員であり「下院(政府改革)監視委員会」(the House Oversight Committee)の委員長であるダレル・アイサ(Darrell Issa)は、検察当局による権力乱用がなかったのかどうかの調査を開始した。

このようにアーロンの自殺はアメリカの政治に新しい動きをもたらし始めています。
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<註> どうも政府検察官による権力乱用は日本の小沢事件だけではないようです。なお上記の記事全文は下記にあります。
Aaron Swartz’s Partner, Expert Witness Say Prosecutors Unfairly Targeted Dead Activist
http://www.democracynow.org/2013/1/17/exclusive_aaron_swartzs_partner_expert_witness

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しかし、オバマ大統領はこれに対してすばやく反撃を開始しました。というのはオバマ氏は、話題になっている銃規制法案の発表予定を急遽くり上げて、アーロンの葬儀がおこなわれた翌日におこなったからです。

こうすれば、、銃規制法案が新聞やテレビのトップ記事になり、アーロンの葬儀のようす、そこで誰がどのような発言をしたかは、まったく大手メディアから姿を消すか片隅に追いやられてしまうことは、ほぼ間違いないからです。

とはいえ民衆の側もアーロンの死を無駄にしないために新しい活動を開始し始めました。アーロンの業績を讃え、彼の「社会変革」を求める願いを引き継ぐための、さまざまな追悼集会が、いま全国各地で企画されているからです。

その皮切りが1月19日(土曜日)にニューヨークのクーパー・ユニオン(Cooper Union)で開かれ、新たな感動を呼び起こしました。そのライブ映像は下記サイトで視聴することができます。
Aaron Swartz Public Memorial Service at Cooper Union 
http://www.democracynow.org/live/democracy_now_livestream_of_aaron_swartz

この追悼集会の最後に,Taren Stinebrickner-Kauffman(アーロンの連れ合い=パートナー)がおこなった挨拶が特に感動的でした。

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しかし実はニューヨークの感動的な追悼集会よりもさらに感動的だったのは、1月16日にシカゴ郊外で開かれた葬儀集会でした。ここにはインターネットWWWの創設者であるTim Berners-Leeも駆けつけ、はるか年下のアーロンを電脳界の「長老」と呼び、弔辞で次のように語ったのでした。

「初めて出会ったとき天才少年はなんと14歳でした!」「彼ほど倫理的に潔癖な人物には出会ったことがありません」

「彼は新しい 電脳コードを書くことによって・・・世界の変革が可能だということを知っていたのです」「最後の最後まで彼は正しいことのために闘っていました」


そして葬儀が終わったあとの記者会見で、「アーロンにたいする政府の訴追は『法と正義をねじ曲げる全くの茶番劇』だ」とすら述べていました。

Berners-Lee Calls Aaron Swartz’s Prosecution ‘Travesty of Justice’
http://go.bloomberg.com/tech-blog/author/asapountzis/

しかし、直接に葬儀の模様を報じたRTの記事を読んでもらった方が、私の下手な説明よりもずっとその場の雰囲気が分かってもらえると思いますので、以下に記事の翻訳を載せておきます。

そうすれば、アーロンがマイクロソフト社のビル・ゲイツやアップル社のスティーブ・ジョブズとは違って、いかに金銭欲や出世欲とは無縁な人物であったかもお分かりいただけるのではないかと思うのです。

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http://demandprogress.org/

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アーロンは政府に殺されたのだ
アーロン・スウォーツ(Aaron Swartz)の感動的な葬儀

'Aaron was killed by the government' -
Robert Swartz on his son's death
16 January 2013
http://rt.com/usa/news/aaron-swartz-funeral-chicago-059/


IT活動家アーロン・スウォーツAaron Swartzの父親が、息子の死の責任はアメリカ検察官にあると非難している。以下は、シカゴ郊外での感動的な火曜朝の葬儀のようすを、RTのアンドリュー・ブレイクが報じたものである。

アーロン・スウォーツ(26歳)は金曜日11日、死亡しているのが発見され、自殺と報じられた。スウォーツは、インターネットを誰にでも使いやすくオープンなものにすることをめざすソフトウェアの開発に貢献し、またReddit.comとDemand Progressの両方の共同開発者でもあった。これらはウェブ上でもっとも訪問者の多いサイトであり、どちらも高く評価されている活動団体でもある。

しかし火曜日(16日)の葬儀では、スウォーツのIT技術への情熱や彼のまったくの無私無欲さを、友人、家族、愛する人たちは思い出している。その一方で、参列者たちは近年この活動家を悩ましていた恐るべき法的苦難を認めざるをえなかった。

2011年、コンピュータ不正行為防止法(Computer Fraud and Abuse Act)という名目で、数件で、連邦検察官はスウォーツを告訴した。もし有罪となれば彼を35年以上刑務所に送ることが可能になる犯罪である。政府によれば、スウォーツはマサチューセッツ工科大学の建物に侵入し、JSTORから数百万件の学術研究論文をダウンロードし、おそらくそれを無料で配信する意図であった、という。

イリノイ州ハイランドパークにあるセントラルアベニュー・ユダヤ教会堂での、火曜日の葬儀で、「アーロンは自殺したのではない、政府に殺されたのだ」と、父親ロバート・スウォーツRobert Swartzは語った。「世界をよりよき場所にした人間が政府によって死へと追いやられたのだ」

90分以上もつづいた葬儀のあいだ、「グーグル検索」「アノニマス」「ハッカー」「コンピュータ不正行為防止法」といった言葉が何の違和感もなく語られ、そういった言葉が葬儀に出てくるのは当然であるかのようだった。

スウォーツのパートナー、Taren Stinebrickner-Kauffmanタレン・スタインブリックナー=カウフマンは、泣き笑いながら語った、

最近のアーロンの懐かしい思い出のひとつは、ほんの数週間前の早朝の出来事だった。「絶対に解いてみたい高等代数学の方程式があるから1~2時間ほど僕につきあってくれ」と言ってきかなかった、というのだ。

他のひとたちも一様に語ったことだが、彼女の弔辞のなかでも取り上げられたのは、電脳技術の天才に最も近しいひとたちにとって、スウォーツは、社会変革を強く主張して止まない人物だった、ということだった。

「アーロンは私たち一般民にとって私たちが知っていると思っている誰よりも大きな存在でした」とタレン・スタインブリックナー=カウフマンは語った。ニューイングランド出身の活動家たちの、強い結束で結ばれたサークルをとおして、彼女はスウォーツと知り合った、という。

「アーロンは本当に世界を変革したいと望んでいました」と彼女は語った。富や名声を得ることはアーロンにとって二の次だった。

彼に近しいひとが一様に語ったのは、このような彼の善意にもかかわらず2011年に起訴されて以来忌まわしくもかれに襲いかかろうとしていた重罪判決の可能性のことだった。

この数週間は「彼はとても疲れ切っていました」、とタレンは思い起こす。「彼は私に言っていました、“僕はずっとこんな不快な気分で生き続けなければならないのだろうか”と」

しかしスウォーツが亡くなった今、彼が信じられないほど情熱をかたむけていた理念を推進する事業は、アーロンの同志であり仲間である私たちの肩にかかっている、と彼のパートナーは言う。

「私たちが今すぐ行動を起こし世界を変えること以外に、アーロンが望むことは何もないのです」と彼女は言った。そしてスウォーツはもうその中にいないにしても「正義のために結集しつづけてほしい」と彼もその一員であった社会に呼びかけた。

もし社会が力を結集し、彼の主張を推進させることができるなら、アーロンのような「無実の若者を、検察官が追跡しつづけることを止めさせることができるのです」と彼女は語った。

弔辞の他の部分で、タレン・スタインブリックナー=カウフマンは、スウォーツに告訴状を提出したマサチューセッツ地区担当の連邦検事[Carmen Ortiz]とマサチューセッツ工科大学[MIT]を厳しく批判した。

というのは、MITにその気さえあれば、そのハッキング事件を連邦政府が追い続けるのを止めさせることができたはずだとも言われているからだ。


http://www.netrootsnation.org/profile/taren-stinebricknerkauffman/
http://showbizdaily.net/celebrity-bio/taren-stinebrickner-kauffman-is-aaron-swartzs-girlfriend-who-found-him/

マサチューセッツ地区担当の連邦検事の事務所が音頭をとってすすめた「間違った人物描写」が、息子の死を招く大きな要因になった、とスウォーツの父親が語った。

なぜなら、マイクロソフト社のビル・ゲイツBill Gatesやアップル社のスティーブ・ジョブズSteve Jobsは世間からコンピュータ界の理想像だとして偶像視され拍手喝采を受けているが、連邦政府の観点ではなく世界を全体的観点から見ると、息子のほうが彼らよりもはるかに精錬潔白だったとロバート・スウォーツRobert Swartzは語った。

スウォーツ氏が思い起こしていたのは、かつて彼がアップルと一緒に仕事をしていたころ、ジョブズ氏と彼の共同経営者スティーブ・ウォズニアック氏Steve Wozniakが、小さな「ブルーボックス」[長距離電話料金をごまかす装置]を売ることで、「電話会社に詐欺を働いていたことがあった」という事実だった。

というのは、実をいうと電子装置は、国中の誰でもが長距離電話を無料で使うことができるものだったからだ。また、マイクロソフトのBASICをゲイツ氏が開発したといっても、それは全くの「未完製品」だった、とスウォーツ氏は語った。

「こういう人物が、我々の文化のなかでは、もてはやされ英雄視されているのです」と彼は語った。

「それにたしてアーロンがやったことはどうでしょう。法的には全く問題ではなかったのに彼はそれによって破滅させられました」と彼は参列者に問いかけた。

スウォーツ氏はまた、MITに対しても厳しい言葉を浴びせた。MITはJSTORと違って犯罪的ハッカーだとして無情にもアーロンへの訴追を取り下げなかったからだ。

「私たちはMITにたいして思いやりを示してくれと何度も何度も頼みました」が、「思いやりより組織的懸念のほうを重要視したのです」と彼は語った。

アーロンが死んだあと、ハッカー集団のアノニマスは無許可アクセスをおこなって、MITのサーバーに「アーロンへの献辞」を掲示した。それは火曜日の葬儀のあいだけ見ることができたもので、電脳文化のなかで最も尊敬されている人物たちからの賛辞も含まれていた。

World Wide Webの産みの親 Tim Berners-Lee

             Reddit.com を創設した頃のAaron Swartz(19歳)

たとえばイギリス人科学者でWWW(World Widw Web)を開発したティム・バーナーズ=リーTim Berners-Lee [現在、MIT教授]は、葬儀のあいだアーロン・スウォーツのことを電脳情報社会の「長老an elder」と呼んだ。バーナーズ=リー氏が最初にスウォーツに出会ったとき、若き天才はわずか14歳!だったという。

「彼ほど倫理的に潔癖な人物には出会ったことがありません」とバーナーズ=リーは語った。「彼は電脳コードを書くことによって・・・世界変革が可能だということを知っていたのです」

「最後の最後まで彼は正しいことのために闘っていました」とバーナーズ=リーは言う。

学者であり同時に政治活動家であるローレンス・レッシグ [Lawrence Lessig、ハーバード大学教授]は、葬儀の席上で、アーロン・スウォーツと知り合って10年以上にもなると述べ、政府がアーロンを訴追しようとするのは全く的外れで「白痴の見本」だと非難した。

またJSTORの件でアーロンの弁護士を務めるエリオット・ピーターズElliot Peters は、アーロンの友人たちは今や、「自由と公正を求める情熱」と「権力への不信」にかけては比類のない人物を失ってしまった、と語った。ピーターズ氏もまた弔辞のなかで権力への不信をくりかえし語り、そのなかでアーロンの死には連邦検察官にも責任があると強く非難した。

「悲しいことだがアーロンは彼らに事件をでっちあげる機会を与えてしまった」と彼は語った。「“してやったり!”と自慢できることを」

「彼らにはアーロンが実際どんな人物なのか、あるいは彼が何をやっていたのかなど、どうでもよかった」とピーターズ氏は語った。と同時に、アーロンに会ったとき「若くて小柄で、ああ何て素晴らしい人物!」と思ったと述べ、政府に立ち向かった彼の理念を、独立革命期の愛国者の主張に喩(たと)えた。

葬儀の終わりの挨拶で「アーロンは今でもずっと生きている、善を求める声として」と父親は語った。「息子は私心を捨て、世界をすべてのひとにより良き場所にしようとして、短い人生を捧げました」

「無私無欲の…」というのが葬儀の間ずっと多くの人の口から何度となく出てきた形容詞だった。参列者によれば、他者のことを一貫して第一に考えることがアーロンの飛び抜けた特質だったという。

シェークスピアのマクベスを引用して、ピーターズ氏は「ここに参列された皆さんの悲痛さはアーロンが成し遂げた仕事の大きさと等しいはずはありません。もしそうなら皆さんの悲しみは永遠に終わることがないことになってしまいますから」とも語った。

葬儀の締めくくりで父親のスウォーツ氏は、「絶望が深ければ深いほど(そして実際みな絶望しているのですが)私たちはみな世界の変革に参画しているのだということを心にとめておかねばなりません。バーナード・ショウが言っていたように“希望をいだいたことのない人は絶望することもない”のですから。だから私たちは決して歩みを止めません」と語った。

アーロン・スウォーツの追悼式は全米各地で開かれる予定で、今その計画が進行中である。今週末にはニューヨーク市で計画されていて、タイムズスクウェアでおこなわれる追悼式には、数百人をこえる人びとが集まるものとみなされている。

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<註1> 以上で翻訳を終わりますが、この翻訳は下記サイトに単独でも載せてあります。
http://www42.tok2.com/home/ieas/ (なお訳文は連れ合いの下訳に私が手を入れたものです。)
<註2> 日本でも「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」いわゆる「コンピュータ監視法」が、2011年3月11日に閣議決定、同年4月1日に国会に上程、5月31日衆議院本会議にて可決、6月17日に参議院本会議にて可決しました。
しかし、この法案は、アーロン・スウォーツのような優れたサイバーネット活動家が日本にいなかったため、アメリカの法律と同じような危険な条項があったにもかかわらず、原発事故のドサクサに紛れて可決成立してしまいました。
 その危険性は下記の日本弁護士会「会長声明」(2011年[平成23年]5月23日)にみられるとおりです。したがって、この法案でアーロンのような犠牲者が日本でも出ないように、厳重に監視していく必要があります。

「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」について慎重審議を求める会長声明
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2011/110523.html
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電脳技術の天才 アーロン・スウォーツ Aaron Swartz の死を考える(1)――インターネット監視法案を廃案に追い込んだ男、クリエイティブ・コモンズCriative Comonnsがめざしたもの

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Swartz at 2009 Boston Wikipedia Meetup

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前回のブログから既に10日以上がすぎていますが、書きたいことは山積しているのに、相変わらずからだが動きません。

昔は2~3日、徹夜で仕事をしても平気だったのに、今は全く機能不全状態です。まだ『肉声でつづる民衆のアメリカ史』翻訳の疲れが残っているのでしょうか。それとも70歳を目前にすると誰でもこんな状態になるのでしょうか。

しかし考えてみればチョムスキーは84歳です。なのに何という仕事ぶりでしょう!!

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ところでアメリカではオバマ氏が新しいCIA長官、国防長官、財務長官の候補者を発表しましたが、悪名高いブッシュ氏の政策をそのまま受けつぐ人物を任命するつもりのようですから、驚いてしまいます。

たとえば、無人機による爆撃・暗殺や外国への拷問下請けなどの政策を裏で強力に推進してきた人物John Brennanを、CIA長官に指名したことは、その典型例と言えます。

As Brennan Tapped for CIA, Case of Somali Detainees Highlights Obama’s Embrace of Secret Renditions
http://www.democracynow.org/2013/1/9/as_brennan_tapped_for_cia_case

大統領1期目の政策は、2期目の当選をめざすために共和党に妥協したけれども今度はあとがないのだから、もっと大胆に民衆寄りの人事をすすめるのかと思っていたのですが、それが全くの間違いであることが歴然としてきました。まさに「正体見たり!枯れオバマ」です。
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<註> 上記では「正体見たり枯れ尾花」という諺(ことわざ)をもじったつもりですが、この諺を知らなかったり意味が分からなくなっている若者も少なくないと思われます。そのようなひとは下記をごらんください。
http://www.kotowaza.avaloky.com/pv_oth12_02.html

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こんな調子で書いていると世界情勢だけで今回も終わってしまいそうなので、アメリカやシリアについては割愛することにして、英語教育に少しずつ焦点を移していきたいと思っていました。

というのは、「英語で授業」という新高等学校学習指導要領で現場の教師が日々つらい思いをしているのに、いつになったら教育問題、とりわけ英語教育について論じてくれるのかという声が聞こえてくるからです。

また拙著『英語教育が亡びるとき:「英語で授業」のイデオロギー』(明石書店、2009)が既に4刷りになっているということも、私の心を重くしています。

これは私にとっては嬉しいことですが、しかし、このような本が大手のメディアで宣伝もされず月刊『英語教育』などでもほとんど取りあげられていないにもかかわらず増刷を重ねているということは、それだけ現場が追い詰められているからではないかと思うからです。

そう思って原稿を書き終えた頃に突然パソコンに不具合が起こり、今まで書いたものが消えてしまいました。その日は悔しくて、ほとんど眠れませんでした。すべてを書き直す気力もなく、その翌日は漫然と1日を過ごしましたが、すると恐ろしいニュースが飛び込んできました。

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というのは、気を取り直してDemocracyNow!でも視聴しようかとインターネットを起ち上げたところ、著名なコンピューター・プログラマーであり同時にサイバー・アクティビストでもあるAaron Swartzが自殺したというニュースが飛び込んできたからです。

"An Incredible Soul": Larry Lessig Remembers Aaron Swartz After Cyberactivist’s Suicide Before Trial; Parents Blame Prosecutor
http://www.democracynow.org/2013/1/14/an_incredible_soul_lawrence_lessig_remembers

実を言うと私は、26歳で自殺をしたアーロン・スウォーツAaron Swartz という人物をよく知りませんでした。

しかし上記の記事を読み、慌てて他の情報も調べてみると、ウィキリークスで有名になったジュリアン・アサンジや、そのアサンジにイラク市民虐殺の映像を提供したとされる米軍情報分析官ブラッドリー・マニングに勝るとも劣らぬ[サイバーネット界の]重要人物だったことが分かってきました。

それほど重要な人物だったのに今まで私はなぜアーロン・スウォーツという人物を知らなかったのかと考えてみて気づいたことがひとつありました。それはDemocracyNow!が今まで一度もアーロンをゲストとして招いて紹介したことがなかったのではないか、ということです。

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Swartz in 2012 protesting against Stop Online Piracy Act (SOPA)


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彼が自殺したのは2013年1月11日でしたが、それ以前に、一度でも招いてインタビューしたことがあれば、私の記憶に残っていないはずがないと思ったからです。そこで念のために、DemocracyNow! のサイトでAaron Swartzを検索してみました。何と驚いたことに、検索で出てきたのは上記で紹介したものと下記の合計二つだけでした。

Freedom to Connect: Aaron Swartz (1986-2013) on Victory to Save Open Internet, Fight Online Censors
http://www.democracynow.org/2013/1/14/freedom_to_connect_aaron_swartz_1986

やはり私の記憶に間違いはなかったのです。これらの記事を読んだり他を調べて見て分かったことは、次のような事実でした。

 Aaron Swartz は、14歳でインターネットのあり方を劇的に変えた「RSS」フォーマットの開発に携わり、世界で最も人気のあるサイトの1つReddit(レディット)の共同所有者になった。

 また、彼はCreative Commons(クリエイティブ・コモンズ)の設計にも深く関わり、物議をかもした下院のインターネット検閲法案SOPA(オンライン海賊行為防止法案)」や上院のインターネット検閲法案PIPA(知的財産保護法案)に反対する草の根運動の中心役でもあった。

 彼は、SOPA反対運動を積極的に繰り広げた非営利団体Demand Progressの創設者だった。権力者にとって都合の悪いインターネット記事を検閲し削除しようとする悪法は、彼のおかげでついに廃案になった。


私のブログ「百々峰だより」の右枠にプロフィール欄があり、その欄をずっと下にたどっていくとRSS欄にたどりつきます。これを使うとブログの更新を簡単に自分のFacebookにも反映できるそうですが、私はFacebookなるものがどうしても好きになれず最近は覗いてもいません。

ですから、私はRSS(Really Simple Syndication)を生かして使っていませんが、それはともかくとして、この素晴らしいツールRSS1.0の開発にたずさわったのが何と14歳のアーロンだったのです!

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ところでDemocracyNow! のホームページの下枠に必ず下記のようなマークが付いていますが、これは「非営利」で利用するかぎり自由に使ってよいが、そのさい必ず「著作権が誰にあるかを「表示」しなければならない、また内容の「改変は禁止する」ということを意味しています。



このマークの最初にⓒではなく、丸の中にCCが書かれています。が、これがCreative Commons(クリエイティブ・コモンズ)を表す記号です。著作権者が著作物を公表するにあたって、他者がそれを条件付きで利用するのを許すという表示です。

要するに、著作権を金儲けの手段とするのではなく、なるべく皆で共有しながらもっと良い社会をつくっていこうとする国際的プロジェクト 及びその運営主体である国際的非営利団体の名称がCreative Commons(クリエイティブ・コモンズ、CC)なのです。

著作者が自分の著作物の再利用を許すといっても許可のレベル・種類は著作者が指定するわけですが、その色々なレベルを絵文字で示し、念のためにBY(著作権者)、NC(非営利)、ND(改変禁止)などという文字も添えたのが上記のマークです。

私は大学の授業でDemocracyNow!の映像を見せたり、その文字起こしをした英文を学生に配ったりしてきましたが、これは(CC)の表示があるからこそできることです。さもなければ授業で見せる場合にも毎回お金を払わなければならなくなります。

しかし恥ずかしいことに、Creative Commonsの発起人であるローレンス・レッシグ[現在はハーバード大学教授]に協力して、この(CC)の設計に深く関わったのがアーロンだったことを、この事件が起きるまで私は知りませんでした。

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Swartz in 2002 (age 15) with Lawrence Lessig at the launch party for Creative Commons


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それはともかくとして、私がここで言いたかったのは、DemocracyNow!がアーロンのことを自殺する前にもっと取りあげていれば、彼も自殺に追い込まれることはなかっただろうということです。

というのは、オバマ氏によってロンドンのエクアドル大使館へと亡命に追い込まれたジュリアン・アサンジや、狭い独房に拷問状態で閉じこめられてきたブラッドリー・マニングが希望を捨てずに闘い続けているのも、DemocracyNow!などの独立メディアが積極的に彼らを取りあげ、それが彼らにたいする世界的な支援運動へとつながっていったからだ、と私は思っているからです。

その証拠に、アーロンの自殺が報じられて数日もたたないうちに、連邦検察官Carmen Ortiz女史の解任を要求する抗議メールが2万900通もホワイトハウスへ殺到し、[2万5000を超えると何らかの意思表示をしなければいけないことになっているそうですが]、ついに政府は訴追を取り下げると発表せざるをえなくなりました。

Prosecutors Drop Charges Against Late Cyber Activist Aaron Swartz as Tributes Flood the Internet
http://www.democracynow.org/2013/1/15/headlines#11515

上記の記事では、アーロン・スウォーツの弁護士が、「今ごろ訴追を取り下げても何の価値もない。これが先週の今頃だったら歓迎されただろうが」と、ボストン・グローブ紙にメールで語ったとありましたが、DemocracyNow!のエミー・グッドマンにたいしても同じことが言えるかも知れません。

先にも述べたように、オバマ氏みずからが任命した連邦検察官Carmen Ortiz女史によってアーロン・スウォーツが不当で厳しい追及を受けていることを、エミー・グッドマンがもっと以前から報道していれば、DemocracyNow! の評判も今とは違ったものなっていただろうと思うからです。


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私は先週のブログで、最近のDemocracyNow!のリビア報道やシリア報道に疑問を持ち始め『アジア記者クラブ通信』などにも眼を通すようになったことを紹介し、次のように書きました。

・・・しかしアメリカの国内情勢の扱いはともかく、アメリカの国外事件については、DemocracyNow! の報道内容をそのまま鵜呑みにするわけにはいかないと、このときから思い始めたのです。
 それからは、DemocracyNow! だけに偏るのではなく、Russia Today(RT)などと比較してみたり、中東記者として高名なRobert Fiskの記事と読み比べるといった工夫もするようになりました。


しかし、このアーロン・スウォーツの自殺を知ってからは、「アメリカの国外事件」どころか、「アメリカの国内情勢」についても、DemocracyNow! の報道内容をそのまま鵜呑みにするわけにはいかない、とこのときから思い始めました。

「報道されたことの事実関係も大切だが、報道されない事実のほうがもっと重要だ」というチョムスキーがよく言っていたことばを思い出したからです。

そこで念のためにRussian Today(RT)で「アーロン・スウォーツAaron Swartz」を検索にかけてみました。すると驚いたことに、RTは自殺する前でも彼について何度も取りあげていたのです。それは下記のとおりです。

02 Jul 2012、'Black box' is watching you! UK 'Online spy bill' privacy threat
http://rt.com/news/uk-privacy-internet-freedom-186/
27 Apr 2012 [*]、CISPA: Patriot Act for the web’– Internet activist
http://rt.com/usa/news/cispa-patriot-web-swartz-081/
18 Jan 2012、Wikipedia blackout: 24-hour strike against SOPA, PIPA is on
http://rt.com/news/wikipedia-blackout-sopa-pipa-031/
17 Jan 2012 [*]、Not a PIPA from Wikipedia: 24-hour information blackout protests piracy bill
http://rt.com/news/sopa-pipa-protest-internet-029/
19 Dec 2011 [*]、Sense & censor ability: Congress defers SOPA vote
http://rt.com/news/sopa-congress-vote-postponed-113/
17 Dec 2011 [*]、‘SOPA tramples over the way Internet works’
http://rt.com/news/sopa-internet-freedom-speech-031/
12 May 2011 [*]、Privacy vs. security as Patriot Act renewal looms
http://rt.com/usa/news/privacy-patriot-act-renewal-looms/


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Aaron Swartz (Reuters / Noah Berger)

http://rt.com/usa/news/aaron-swartz-funeral-chicago-059/

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上記の報道で、インターネット検閲法案SOPA、PIPA、CISPAに関して彼に直接インタビューしたものを日付の隣りに [*]を付けて示しました。が、DemocracyNow!にはアーロンにたいするインタビューどころかAaron Swartzの名前すら出てこなかったのです。

しかも、このRTによるインタビューのなかで、アーロンは「オバマ大統領やクリントン国務長官は、インターネットを監視し政府に敵対するような言説や情報を阻止したり削除したりしているとして中国やイランを非難しているが、それは天に唾するものだ。恥知らずにも同じことをアメリカ政府もおこなおうとしている」と鋭く批判しています。

このような批判がオバマ氏には我慢がならなかったのでしょう。そこで他の理由を見つけてアーロンをネット界から放逐しようとしたのだと私は推測しています。それが「科学記事や学術論文を保管するJSTORとマサチューセッツ工科大学(MIT)から400万件の文書を盗んだ」としてアーロンを逮捕する事件だったのだと思うのです。

アーロンが逮捕されたのが2011年7月であり、インターネット監視法案にたいする反対運動がどんどん盛り上がりを見せているときだったことを、上記のRTニュースを時系列でたどっていけば、それがよく分かると思います(法案はSOPA、PIPA、CISPAなどと名前を変えて国民の目を誤魔化そうとしましたが、ついに廃案となりました)。

政府は逮捕後、アーロンに対する重罪の罪状数を4件から13件に増やし、有罪となった場合、最大400万ドルの罰金と35年もの禁固刑を科されることになっていました。これを苦にして彼は自殺したのだと一般紙では報じていますが、私は「抗議としての自殺」だったのではないかと疑っています。

いずれにしても、仏教徒の焼身自殺による抗議がベトナム戦争の終結を早め、チュニジアやエジプトでは若者の焼身自殺が「アラブの春」をもたらしたように、アーロンの自殺がアメリカに真の自由と民主主義をもたらすことに貢献するだろう、と私は信じています。

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しかし、このようなかたちで彼を死に追いやったのは [多くの識者が指摘しているように]アメリカ政府ですから、これもオバマ氏が得意とする「暗殺」の一種とも言えるでしょう。

では彼が逮捕された理由として挙げられている「MITやJSTORから文書を不当にダウンロードした」とする事件とは一体どんなものだったのでしょうか。彼は何を目的にダウンロードしたのでしょうか。それは本当に犯罪だったのでしょうか。

ここまで書いたら疲れてきて先に進めません。これについては次回のブログに回したいと思います。どうかお許しください。
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<註> Aaron Swartz という人名を、日本のメディアでは「アーロン・シュワルツ」(最近では「アーロン・スワーツ」)と表記しているものが多いようです。しかし私がDemocracyNow!で繰り返し視聴してみても、ネット上の英語発音辞典FORVOで聴いてみても、「スウォーツ」としか聞こえません。これはWikipedia Japanが「アーロン・シュワルツ」と誤記したのを、そのまま引き写しているのではないでしょうか。なおFORVOのサイトは下記のとおりです。便利ですから時間があったら使ってみてください。私は『肉声でつづる民衆のアメリカ史』を翻訳していて、おおいに助けられました。
http://ja.forvo.com/word/siegfried_sassoon/
関連記事

新年を迎えて、私の昨年の「三大事件」――『肉声でつづる民衆のアメリカ史』出版、「レイバーネット日本」入会と「あおぞら放送」出演、『アジア記者クラブ通信』会員購読とDemocracyNow! からの自立

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Patti Smith. 「われわれ民衆には力がある」People Have The Power
http://www.youtube.com/watch?v=pwLDNkODj0c(約5分)
*動画は賃金・年金・医療・教育の削減政策に抗議する南ヨーロッパの巨大な民衆のうねり

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「あけましておめでとうございます」と言いたいところなのですが、あまりその気分にはなれません。

というのは前回のブログでも書いたことですが、再稼働を容認する民主党に代わって再登場することになった自民党は、憲法9条を投げ捨て核武装も辞さない超タカ派を総裁にいただく政党だからです。

とはいえ、今年は4年ぶりにやっと落ち着いた気分で正月を迎えることが出来ました。というのは、今までは『肉声でつづる民衆のアメリカ史』の翻訳に追われて、正月も返上せざるを得ないくらいに追い詰められた年末年始だったからです。

それでも出版社から要請されていた2月出版という期日は大幅に遅れてしまい、結局は6月末日の出版ということになってしまいました。しかしこの『肉声でつづる民衆のアメリカ史』出版が、私にとっては昨年の最大事件でした。

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<註> この私の思いについては『肉声史』「あとがき」で詳しく書きましたが、下記HPにも転載してあります。時間がある方は覗いていただけると有り難いと思います。
http://www42.tok2.com/home/ieas/voices-postscript.pdf

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http://www.labornetjp.org/news/2012/1005shasin (出典)

私にとって昨年最大の事件が『肉声でつづる民衆のアメリカ史』の出版だったとすれば、第二の大きな事件は、「経産省前テントひろば」で毎週金曜日におこなわれている「あおぞら放送」に出演し、それをきっかけに「レイバーネット日本」の会員になったことでした。

この「経産省前テントひろば」は、アメリカのオキュパイ・ムーブメント発祥の地「ズコッティ・パーク」にあたるところだと思っていましたので、『肉声でつづる民衆のアメリカ史』を「経産省前テントひろば」に届けることは、故ハワード・ジンの遺志を「テントひろば」を支えている人たちに届けることだと思っていました。

また「レーバーネット日本」は、労働組合の全国組織「連合」が経営者とのなれ合い組織に堕落してしまった現在、それと対抗する新しい組織のひとつとして(とくに「レーバーネット日本」のHPとインターネットTVの活動に)注目していたので、その共同代表者のひとりから声をかけられたことを光栄に思い、入会することにしました。

この詳しい経過は、『レイバーネット日本Newsletter』50号(2012年11月20日)に載せられた下記「新入会員紹介」を御覧ください。(文字が小さくて読みにくい場合は、[Ctrlキー]と[+キー]を押してください。文字が拡大します)。
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<註> 私が「あおぞら放送」に出演した写真は上記Newsletterにも載っていますが、以下のサイトから実際のようすを見ることができます。時間のある方は御笑覧ください。

ユースト放送録画(最初から62分のところから70分までの8分間)
http://www.ustream.tv/recorded/25933245

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ところで、上記Newsletterで、川柳作家=鶴彬(つる・あきら)に少しふれてありますが、私の生まれ育った町からそう遠く離れていないところ[かほく市高松]で、反戦運動に命をかけ壮絶な最期を遂げた若者がいたことを、私は最近まで知りませんでした。

私が本格的に鶴彬に関心を持ち始めたのは「鶴彬-こころの軌跡-」という映画をつくる運動が石川県でおこり、その映画監督が岐阜出身の神山征二郎だということを知ってからでした。

神山監督の映画『ふるさと』(1983年)は、痴呆症の老人と少年の親交を描きながら、ダムの底に消え行く徳山村の美しい自然を表現していて、私の心の奥底にずっと深く沈殿していたからです。

鶴彬については、一叩人編『鶴彬全集』(初版:たいまつ社 1977)が作家・澤地久枝によって増補改訂・復刻版というかたちで紹介されて以来、最近ようやく研究が進み、いろいろな本が出始めました。私が読んだのは下記のとおりです。

吉橋通夫『小説 鶴彬―暁を抱いて』(新日本出版社)
深井一郎『反戦川柳作家・鶴彬』(日本機関紙出版センター)
木村哲也編『手と足をもいだ丸太にしてかえし―現代仮名遣い版・鶴彬全川柳』(邑書林)

反戦運動に命をかけ、同じように警察の拷問で壮絶な最期を遂げた作家に小林多喜二がいますが、これらを読んでみて、鶴彬は「川柳界の小林多喜二」だと思いました。

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私の心に強く残っている鶴彬の川柳は数多くあるのですが、以下ではそのうち五句だけあげておきます。

手と足をもいだ丸太にしてかへし
胎内の動きを知るころ骨(コツ)がつき
地下へもぐって春へ春への導火線
暁をいだいて闇にゐる蕾(つぼみ)
枯れ芝よ!団結して春を待つ


澤地久枝さんは鶴彬について次のように語っています。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik3/2004-09-09/12_01faq.html

「一番最後の句が『胎内の動き知るころ骨がつき』というのもすごいことです。身ごもった赤ちゃんの胎動がわかって生まれてくる日を予告しているというのに、父親は戦死しその遺骨が届く。子は父を失い母は夫を失う。戦争をみごとに突いた句です。…警察は謝れば出すのに、鶴彬は、結局志を曲げなかった。日中戦争が激しくなった38年9月14日に息を引き取った青年は、最後まで反戦の筋を通し死んでいった。ずいぶん痛ましい、しかしみごとな人生だと思います。」


アメリカはアフガニスタンに兵士を送ってから10年以上も経ちますが、同じ風景がアメリカでも展開されていることでしょう。

日本も、安倍内閣によって9条が改悪され自衛隊がアメリカの手下として海外に出かけるようになれば、ふたたび同じ風景が展開されることになるでしょう。

また「手と足をもいだ丸太にしてかえし」については、楜沢健『だから鶴彬―抵抗する17文字』 (春陽堂書店、2011)の書評として、アマゾンコムには次のような感想が寄せられていました(「現在への問いかけ」2011/6/16)。

先週、福島県相馬市の酪農家が「原発さえなければ」と自殺をした。牛舎の黒板には辞世の句が残っていたという、「原発で手足ちぎられ酪農家」。この句を聞いて、鶴彬の「手と足をもいだ丸太にしてかえし」を連想したのは私だけではないでしょう。優れた批評は、過去の作品を扱おうとも常に現在を問いかけている。

私は「手と足をもいだ丸太にしてかえし」を読んだとき、ドルトン・トランボが1939年に発表した反戦小説『ジョニーは戦場へ行った』(原題"Johnny Got His Gun")を思い出したのですが、戦争で手足をちぎられ丸太になった兵士ではなく、「原発で手足をちぎられた酪農家」を連想したひともいたのだと、深く心をゆさぶられました。
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<註> 実は、反戦小説『ジョニーは戦場へ行った』の主人公は、手足どころか眼も見えず口もきけなくなっています。この彼の訴えは『肉声でつづる民衆のアメリカ史』で上巻548-554頁に載っています。
 なお映画『鶴彬-こころの軌跡』の公式サイトは下記のとおりです。これを見ると待望されていたDVD版も完成したことが分かりますし、申し込み方法も載っています。
http://tsuruakira.jp/
また今でも映画の上映運動が続いていることも、このサイトで知ることができました。

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話がかなり横にそれてしまいましたが、昨年おきたことで私にとって三つ目の大きな出来事は「アジア記者クラブ」の会員となり、『アジア記者クラブ通信』を読み始めたことです。

これを読みたいと思ったきっかけは、この通信にチョムスキーの翻訳が載っていることをインターネット検索で知ったことでした。

私のHPでも「チョムスキー翻訳」のコーナーをつくり、時間が許すかぎり翻訳を載せてきた関係で、その詳しい内容を知りたくなったのです。
http://www42.tok2.com/home/ieas/

この『通信』を読みたいと思ったもう一つの理由は、DemocracyNow! のリビア報道でした。

アメリカやフランスなどNATO諸国は、リビアに民衆蜂起が起きたとき、これをチュニジアやエジプトと同じく独裁体制に抗議する民衆蜂起として位置づけ、カダフィ大佐の打倒をめざす反政府勢力に武器を供給し始めたのです。

それどころかNATO軍は、カダフィ政権が民衆を殺しているとして空からの爆撃も始めました。これは明らかに民衆を守るためにカダフィ政権から「制空権だけを奪う」という口実すらも投げ捨てるものでした。

ところがDemocracyNow! はこのような事実をほとんど報道しませんでした。またカダフィ政権が民衆にアフリカで最も高い生活水準を保障してきたこと、教育や医療も無料だったことも、全く報道されませんでした。

つまりDemocracyNow! の報道は、カダイフィ大佐はエジプトのムバラク大統領と全く同じ類(たぐい)の独裁者だと言わんばかりの報道ぶりでした。これはシリアのアサド政権にたいしても全く同じ調子です。

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私がこのような疑問を持ち始めた頃、『アジア記者クラブ通信』がAmy Goodmanに正面から疑問を突きつけていることを知りました。

『通信』は2012年8月号で、「戦争プロパガンダに取り込まれたデモクラシーナウ、オルタナティブメディアの変節」と題する、フィニアン・カニンハム(ジャーナリスト)の記事=翻訳を載せました。それには冒頭に次のような解説が付けられていました。

7月18日にダマスカスで発生した爆破事件で、国防相を含むシリアのアサド大統領側近3人が死亡した。米欧諸国の主流メディアは概ね次のように論評した。
 
つまり反政府勢力がシリア政権の中枢に侵入し、要人を殺害できたことは、アサド支持者に甚大な衝撃を与え、政権からの離反者を加速させることになり、シリアの体制転換までそんなに時間はかからないはずとの見通しを示した。

また米国とその同盟国による国連安保理で対シリア制裁への動きに反対するロシアを一丸となって非難した。

このように米欧諸国の反アサド体制プロパガンダに協調する西側メディアが流布してきた偽情報は幾つかのオルタナティブメディアに反論されてきた。

本通信もシリアで相次いだ大量虐殺や破壊工作の大半は西側諸国や親米アラブ諸国に支援された“反体制勢力”が企ててきたとの報道を一貫して続けてきた。 

こんな中、この記事の筆者は有力で信頼できるとされてきたオルタナティブメディア「デモクラシーナウ」までが米欧諸国の戦争プロパガンダに取り込まれてしまった今日の危機的状況を明らかにしている。(編集部)

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確かにDemocracyNow! は、ノーム・チョムスキーやハワード・ジンなどもゲストに招きながら、アメリカ政府に批判的な姿勢を取り続けてきました。司会者であるAmy Goodman も,もう一つのノーベル賞と言われる「ライト・ライブリフッド賞」を受賞しています。

しかし国内情勢の扱いはともかく国外事件については、DemocracyNow! の報道内容をそのまま鵜呑みにするわけにはいかないと、このときから思い始めたのです。

それからは、DemocracyNow! だけに偏るのではなく、Russia Today(RT)などと比較してみたり、中東記者として高名なRobert Fiskの記事と読み比べるといった工夫もするようになりました。もちろん『アジア記者クラブ通信』も重要な情報源となりました。

これは私にとっては画期的なことでした。それまではZNetに載っているチョムスキーの論考以外は、原則としてすべてDemocracyNow! の情報に依拠するというのが私の姿勢だったからです。

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以上が『アジア記者クラブ通信』と私の出会いの経過なのですが、そうこうしているうちに『通信』の編集者である森広泰平さんから『肉声でつづる民衆のアメリカ史』について次のような依頼がありました。

個人的には落ち着いて読んでみたい気はありますが、それを許さない状況なのと、この大作を読む人間が周囲にいないので、自薦という形で執筆していただけないでしょうか。1月号に掲載できないか考えたいと思います。


そこで書いたのが次の解説記事です。これを読み、興味をもっていただけたら(なにしろ大部かつ高価な本ですから)ぜひ公共の図書館等に購入依頼をして読んでいただければと思います。

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福島で原発事故が起きてから、日本の民衆運動は、「怒れる福島の女たち」「経産省前テントひろば」「官邸前金曜行動」など、安保闘争あるいはビキニ水爆実験を契機にした巨大な原水爆禁止運動に次ぐ、大きなうねりをつくり出しました。

しかし総選挙の自民党「圧勝」で一時的な後退を強いられるかも知れません。ニューヨーク「ズコッティ・パーク」のテント村が警察の暴力的な介入で破壊されたように、「経産省前テントひろば」も撤退に追い込まれる恐れもあります。

しかし、ここで改めて思い出されるのが鶴彬の次の川柳です。

地下へもぐって春へ春への導火線
暁をいだいて闇にゐる蕾(つぼみ)
枯れ芝よ!団結して春を待つ


というのは、ニューヨークのオキュパイ・ムーブメントが「ズコッティ・パーク」のテント村を破壊されても、いったん地下にもぐって「春への導火線」を引き、いまやアメリカ全土に広がって行ったと同じように、日本の民衆運動も「枯れ芝よ!団結して春を待つ」という状態を経て、必ずや再起するものと私は信じています。

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橋下市政下の大阪では、汚染瓦礫の受け入れに抗議しただけで逮捕者が出ています。いまだに拘留中のひともいます。そのひとたちの心境はまさに「暁をいだいて闇にゐる蕾(つぼみ)」ではないでしょうか。

しかし『肉声でつづる民衆のアメリカ史』に登場する人物のひとりひとりが同じような苦境を乗り越えて今のアメリカをつくってきました。

先日、本書を読んだ読者から、次のようなメールが届きました。

やっと『肉声史』の上巻を読み始めました。第15章「ジャズ・エイジと1930年代の民衆蜂起」のところから飛び飛びに読んでいますが、この時代の闘いのすさまじさには圧倒されます。

どれを読んでも命がけのたたかいのなかで、かくも情熱的に、まっすぐに、しかし賢くまわりを組織しながらたたかってゆく姿は驚きです。

若い頃読んだコールドウェルやフォークナーの小説に貧しい農民たちが描かれていて、その絶望的な暗さが忘れられませんが、1930年代のそうした背景のなか、一方でこのように道を切り開いてきた人々がいたわけですね。

このメールを読んで、本書を編集した意図がそのままずっしりと受け止められていることにハワード・ジンもさぞかし天上で喜んでいるだろう、と思いました。

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新しい年を迎えたことでもありますから、気力体力が回復する度合いに合わせて、本来の仕事である「英語教育」に、少しずつブログの重点を移していきたいと思っています。今後ともよろしく御指導御鞭撻ください。
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