エドワード・スノーデンとは誰か?――米国NSAによる世界監視網、EUでは、ドイツが監視対象ナンバーワン!!、そしてなんと!アメリカが ドイツと同じレベルの危険国家!!

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スノーデンを救え!とアメリカ領事館前で訴える香港市民

NSA leaker Snowden may leave Hong Kong for Iceland on private jet
http://rt.com/news/snowden-iceland-private-jet-071/

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前々回のブログ2013.6.11 [緊急情報]で、米国NSA(National Security Agency)がPRISMというソフトを使って世界中にハッカー攻撃を仕掛けたり(しかも中国から攻撃があったかのように見せかけるソフトも開発していた)、世界各国にスパイ工作をしていることを紹介しました。

ところが最近あらたに分かったことは、世界中の国内通話・コンピュータネットワークから吸い上げた情報を、「Boundless Informant」というデータマイニングツールを使って、データ数ごとに国をインデックスし、スパイ工作の密度に応じて色分けされた地図までつくっていたことです。

PRISMがデータ収集目的なら、Boundless Informantは収集した情報の整理・分類が目的ということになります。

この地図を見て一気に怒りが高まったのはドイツでした。というのは、EU諸国のなかでもっとも監視されていたのがドイツだということが分かったからです。「これではまるでかつて東ドイツのスパイ機関Stasiがやっていたのと同じではないか」というわけです。

Germany most-spied-on EU country by US - leaked NSA report
http://rt.com/news/germany-spied-nsa-snowden-515/
June 11, 201
Germany slams US for ‘Stasi methods’ ahead of Obama visit
http://rt.com/news/germany-obama-nsa-stasi-spying-573/
June 12, 2013

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NSA(アメリカ国家安全保障局)による極秘の世界監視網

Boundless Informant: NSA’s complex tool for classifying global intelligence
http://rt.com/news/boundless-informant-nsa-prism-423/

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この地図では最も監視度・スパイ度合いの高いところを赤色にして、赤色→橙色→黄色→黄緑→緑色というように、監視度に応じて順次その色合いを変えて図示しています。

これを見ていると幾つかおもしろいことに気づきます。それを思いつくまま次に列挙してみます。

(1)アメリカがイランを敵視しているだから赤であることは当然としても、いまアメリカと一緒になってアフガニスタンのタリバンを攻撃してるパキスタンが、なぜ赤なのか
(2)インドもアメリカから原発を輸入し中国包囲網の片棒を担がせられているはずなのに、エジプトと同じ橙色(だいだい)なのはなぜか
(3)エジプトもこれまではアメリカ強固な同盟国だったのだから、危険度はインドよりも低くてもよいはずなのに、インドと同じ橙色なのはなぜか
(4)それにしても一貫してアメリカ強固な同盟国だったサウジアラビアが、敵視されているはずの中国と同じ黄色なのはなぜか。
(5)日本と同じように多くの米軍基地をかかえているドイツが、EUのなかで最も警戒すべき国として監視されているののはなぜか
(6)中国と同じように敵視または警戒されているはずのロシアが黄緑なのに、肝心のアメリカ本国がロシアよりも警戒度・監視度の高い黄色になっているのはなぜか。
(7)第2次世界大戦で共にアメリカと戦って敗戦をむかえ、国内に米軍基地をたくさんかかえている点で、日独は同じはずだが、なぜドイツが黄色で日本は緑色なのか。

このそれぞれにたいして私なりの解答をもっているのですが、それを述べていると長くなりますので割愛して、ここでは次の(6)だけにしぼって私見を述べておきたいと思います。

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(6)中国と同じように敵視または警戒されているはずのロシアが黄緑なのに、肝心のアメリカ本国がロシアよりも警戒度・監視度の高い黄色になっているのはなぜか。

これはオバマ氏が、自分の犯している犯罪を内部告発する人物が次々と現れてきていることにたいする警戒心が、そのひとつの理由ではないかと思っています。

以前のブログ2013.2.9「内部告発者をひとりたりとも逃そうとしないオバマ政権」でも指摘したように、オバマ氏は拷問を命令したり拷問した人物を逮捕するのではなく、それを告発した人物を「スパイ罪」で逮捕する人物だからです。

それを内部告発した元CIA職員ジョン・キリアクー(John Kiriakou)も、逮捕されて牢屋に送られてしまいました。キリアクー氏は次のように述べています。
http://pub.ne.jp/tacktaka/?entry_id=4753791

 「スパイ防止法」が1917年につくられてからオバマ大統領までで、「スパイ罪」で逮捕されたのはたった3人なのに、オバマ氏は大統領になってから私を含めて7人も「スパイ罪」で逮捕している。
 おまけにブッシュ大統領の時代に「暗殺の帝王」"assassination czar")と呼ばれ、拷問や無人爆撃機による暗殺の立役者だった人物[ジョン・ブレナン]を、次のCIA長官に指名するとは信じがたいことだ。
 今やアメリカは警察国家・監視国家になりさがってしまった。

イラクで米軍が通信社ロイターの記者・カメラマンを攻撃用ヘリコプターから銃撃し、それを車で助けに来た民間人や同乗していた子どもまでも殺したことは、今では全世界に知られている事実です。

しかし、これを内部告発した情報分析官ブラッドリー・マニングも、今は軍事裁判にかけられていて、終身刑か死刑の運命が待っています(何というバカげた国か!)

そして今度またもや内部告発によって暴露されたのが、国民を監視・スパイするだけでなく全世界を監視・スパイしているNSAの存在と活動でした。

オバマ氏が恐れているのは、テロリストの活動であるよりは、むしろ自分の犯している犯罪を内部告発する人物なのです。何しろ今まで国内で起きた事件の99%はFBIの「やらせ」だったことが判明しているのですから。

「ボストン爆破事件の背景」――FBIはアメリカ国内で、いかにしてテロリストを育て、資金援助し、武装させてきたか
http://pub.ne.jp/tacktaka/?search=1&page=2&mode=word&keyword=FBI

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香港で、英紙『ガーディアン』のインタビューに答えるエドワードスノーデン

Edward Snowden: The man who exposed PRISM
http://rt.com/usa/edward-snowden-man-exposed-prism-500/

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しかし、ここでどうしても指摘しておきたいのは、このような国家による重大な国際的犯罪行為を、勇気をもって暴露した若者=エドワード・スノーデン(この6月21日で30歳になった!)のことです。
http://www.guardian.co.uk/world/2013/jun/09/nsa-whistleblower-edward-snowden-why

イラクにおける米軍の残虐行為を暴露したブラッドリー・マニング(25歳)と同じように、捕まれば彼も終身刑か死刑になるでしょう。憲法学者であったオバマ氏の醜悪さに比して、この高校中退の若者の勇気と高潔さ!それをうまく言い表すことばを私は知りません。

他方、オバマ氏は例によって、スノーデンを「スパイ罪」(Espionage Act)で告訴したようです。しかし世界中の個人と組織をスパイして回っているのが当のアメリカ政府なのですから呆れてしまいます。

先日の英紙『ガーディアン』の報道で、米国NSAと一緒になって、英国政府GCHQ(Government Communications Headquarters)もスパイ活動をやっていたことが新たに暴露されました。

たとえば、2009年のG20の会議では「インターネットカフェ」を偽装して各国首脳(とくにロシア)の言動を盗聴していたというのですから、どこで誰が何をしているのか分かったものではありません。

U.K. Spied on Foreign Diplomats at 2009 G20; U.S. Monitored Russian Leader
http://www.democracynow.org/2013/6/17/headlines#6173

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封書やメールをかってに開封したり電話やスカイプによる通話を盗聴したりすれば、国内では当然ながら犯罪行為として処罰されます。ところが国家が同じことをおこなっても、それを告発したひとが逆に処罰されるというのは、信じがたいことです。

最近、「体罰」「しごき」が問題になっていますが、部活動で「体罰」がおこなわれていることを内部告発したら、その教師は学校の恥を外部に漏らしたという罪で処分されるのでしょうか。オバマ氏がやっているのは、これと同じことです。

改めて「正体見たり枯れ尾花、書体見たり悪(ワル)オバマ」と言いたくなります。

私と同じことを感じているひとがアメリカにもいるようで、政府のインターネット誓願コーナーでは、2週間足らずで受付規定の書名数10万を超えてしまい、今も爆発的に増え続けているそうです。

NSA leaker petition hits 100,000-signature threshold in under 2 weeks
http://rt.com/usa/snowden-white-house-petition-113/

スノーデンを終身刑あるいは死刑にさせてはならないとして、ウィキリークスの創始者=ジュリアン・アサンジらが、何とかスノーデンを亡命させようと活動を始めていますが、何とか成功してほしいものです。

NSA leaker Snowden may leave Hong Kong for Iceland on private jet
http://rt.com/news/snowden-iceland-private-jet-071/

ちなみに、アサンジ氏はイギリスのエクアドル大使館に亡命しましたが、イギリス政府はオバマ氏の意向を受けて「大使館から一歩でも外へ出たら逮捕する」と言っていますので、いまだにエクアドル大使館に閉じこめられたまま、やがて1年が経とうとしています。

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<註1> なお、「スノーデンを告訴するな」の署名コーナーおよび請願状況は、下記を御覧ください。
Pardon Edward Snowden
https://petitions.whitehouse.gov/petition/pardon-edward-snowden/Dp03vGYD

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<註2> スノーデンはCIAの元職員で、かつコンサルタント会社、ブーズ・アレン・ハミルトンの元契約社員でした。
 アメリにはCIAやNSAの元職員がたちあげた(つまり天下りした)民間軍事会社や民間情報会社が山のようにあり、CIAやNSAから外注された仕事を請け負っています。
 アメリカ国民の税金を使って儲ける仕事をしているので、テロリストが活躍してくれないと儲かりません。これは「不安ビジネス」と呼ばれています。
 つまりテロリストがいなくなれば失業するのです。逆に言えば、テロリストを養成し戦争を起こせば起こすほど儲かる仕組みになっているのです。
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 「英語で授業」を考える(その4)――英語力 は 「貧困力」 その2、緊縮政策は殺人行為だ、医療・福祉への1ドルは 3ドルの経済成長をもたらす

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ギリシア国営放送局の閉鎖に抗議すると同時に、職員のストを支援するために集まったアテネ市民
http://rt.com/news/greece-strike-media-austerity-615/

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私は前回のブログ「 "英語で授業" を考える(その3)」を次のように結びました。

英語を国民の共通語としているアメリカがこの状態なのですから、英語力=経済力でないことは誰の目にも明らかだと思うのですが、ではEUの場合はどうでしょうか。
 EUの統合が広がって行くにつれて、「自分の母語以外に最低二つの外国語を身につけよう」というのが新しいEUの言語政策になりました。
 「すべての言語は対等平等である。少数者の言語も守られねばならない」とするのがEU言語政策の根本理念なのですが、新しい言語政策の「自分の母語以外に最低二つの外国語を身につけよう」の結果、広まったのは英語でした。
 では、その結果、EUは豊かになったのでしょうか。ギリシア、イタリア、スペイン、ポルトガルなどを見れば、結果は明らかでしょう。
 アメリカに端を発した金融危機が欧州全体を揺り動かしただけでなく、アメリカ流の経済運営が各国を貧困の極致に追い込みました。この南欧の各国を席巻した「緊縮財政」の大波は、庶民の医療や社会保障を根こそぎ壊滅させています。
 もともとアメリカには充実した医療政策(国民皆保険)や社会保障政策がなかったことは、マイケル・ムーアの映画『SICKO』で誰の目にも明らかになっていましたが、今やヨーロッパもアメリカ化し始めているのです。
 つまり英語の拡大は貧困の拡大でもあったのです。英語力=経済力どころか、英語力=貧困力だったのです。


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いま安倍政権は「国家成長戦略」と称して、「英語の授業は英語で!」「大学入試にTOEFLを!」などと、狂ったように英語熱をかきたてています。「日本の停滞は私たちが英語を話せないからだ」というわけです。

しかし「国民の英語力」と「国家の停滞」は基本的には何の関係もありません。

いまヨーロッパがこのような状態に追い込まれているのは言語政策の結果ではなく、間違った金融政策で国家財政を破綻させ、そのつけを「緊縮政策」というかたちで国民に尻ぬぐいさせた結果でした。

そのことを、チョムスキーは(前回のブログで紹介したように)インタビュー「ヨーロッパ福祉国家の解体」で明確に述べていました
http://www.zcommunications.org/unraveling-the-welfare-state-by-noam-chomsky

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世界の株式市場指数 MSCI によって「発展途上国」に格下げされたギリシア


Greece ousted from index of 'developed' countries
http://rt.com/business/greece-developed-downgrade-msci-578/


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ところで、経済学者デイビッド・スタックラーと医師・疫学研究者サンジェイ・バスは、同じことを、もっと生々しい具体例を示しながら説明しています。

彼らの膨大な調査・研究(共著『The Body Economic: Why Austerity Kills』)によれば、アメリカ流の経済運営でもたらされた経済危機のあと、各国政府が緊縮政策を導入し始めて以来、多くの悲劇・惨状が現出しました。

たとえば、欧州と米国で自殺者が1万人以上、うつ病患者は最大で100万人増加しました。公衆衛生費が40%削減されたギリシアでは、HIVの感染率が200%上昇し、1970年代以来初めてマラリアが発生しています。

調査・研究の結果、彼らが達した結論は次のとおりです。

「歴史上の経験といまの景気後退を通じて、別の選択肢があることが分かっています。人間とその健康を景気回復の中心に置くことは、経済をより早く回復させ、社会に持続的な利益をもたらすのに役立ちます。」

「公衆衛生プログラムに1ドルを投資することは、経済成長に3ドルを与えるのと同じであるということだ。公衆衛生への投資は景気後退のときに命を救うだけではなく、景気回復に拍車をかけることになる。」

詳しくは、ニューヨークタイムズ(2013/05/13)に掲載された[拙訳による]次の小論を読んでください。

そうすれば、「日本が停滞しているのは国民が英語を話せないからだ」「国家の成長戦略は国民を英語漬けにすることにある」という政策がいかにバカげたものか、いかに税金の無駄づかいかが、よく分かっていただけるのではないかと思います。

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緊縮政策は殺人行為だ
How Austerity Kills
By DAVID STUCKLER and SANJAY BASU
http://www.nytimes.com/2013/05/13/opinion/how-austerity-kills.html?_r=0


今月はじめ、イタリアのチビタノーバ・マルケ(Civitanova Marche)という海辺の町で3人の自殺が報じられた。アンナ・マリア・ソプランジ(Anna Maria Sopranzi、68歳)とロメオ・ディオニシ(Romeo Dionisi、62歳)という夫婦は、妻の年金、月額約500ユーロ(約650ドル)で生きのびようと奮闘しており、家賃の支払いが滞(とどこお)っていた。

イタリヤ政府の緊縮予算で退職年齢が引き上げられたため、ディオニシ氏(元建設作業員)はイタリアで言うesodatiとなった。セイフティネット(社会的安全網)のない貧困者に陥ってしまった老齢労働者のことだ。4月5日、彼と妻は隣人の車に許してくれと置き手紙を残し、家の物置で首つり自殺をした。ソプランジ夫人の兄、ギウセッペ・ソプランジ(Giuseppe Sopranzi、73歳)はこの知らせを聞いて、アドリア海で入水自殺した。

失業と自殺の相関関係は19世紀以来ずっと見られたことだった。職を探している人は職に就いている人の倍も自殺する傾向にある。

アメリカでは、自殺率は2000年以降、徐々に上昇してきていたが、2007~9年の景気後退の期間およびその後、飛躍的に上昇した。新著『いのちの経済学――緊縮政策はなぜ殺人行為なのか』“The Body Economic: Why Austerity Kills”の中で私たちが述べているように、2007年から2010年に4750人の「過剰」自殺が発生した。これまでの傾向から予測できないほどの、大量の自殺者だ。空前の失業を経験した州で、自殺率が著しく増大したのである。自殺による死は2009年には自動車事故による死を超してしまった。

もし自殺が経済的不況の避けられない結果だとすれば、これはまさに世界大不況(the Great Recession)による別の側面と言えるだろう。しかし実際はそうではない。健康保険と社会保険の予算を削減したギリシア、イタリヤ、スペインのような国は、ドイツ、アイスランド、スウェーデンのような国よりも、健康面ではるかに惨状を呈しているからだ。後者の国々は社会の安全網(セイフティネット)を維持し、緊縮政策よりも景気刺激策を選択した国だ。(ただしドイツは緊縮政策の利点を説いて回っている――他国にたいしては。)

国民医療と政治経済学の研究者として、私たちが愕然としているのは、政治家たちが負債と赤字について果てしなく議論し、自分たちの決定がどのような犠牲を生み出すかにほとんど関心が無いということだ。私たちが過去10年間、世界中から膨大な資料を収集して発見したことは、世界大恐慌からソビエト連邦終焉へ、さらにアジア金融危機へ、そして現在の世界不況へ――という経済的打撃が、私たちの健康にいかに影響をおよぼすのか、ということだった。私たちが発見したのは、経済が揺らいだからといって、人々が必ず病気になったり死んだりするわけではないということだ。分かったのは、財政政策が生死に関わっているということだ。

最悪の事例がギリシアだ。ギリシアでは国民医療が破滅の危機に瀕している。国民の健康予算が2008年以来40%も削減されたからだ。これは、いわゆるトロイカ――国際通貨基金IMF、欧州委員会EC、欧州中央銀行ECB――が設定した赤字削減目標を達成しようとした結果であり、2010年の包括的緊縮政策として実行されたものである。こうして約3万5000人の医師、看護師、その他の医療従事者は職を失った。それは病院の待ち時間を長くし医薬品の高騰をもたらし、その結果、ギリシア人は日常的に病院へ行き予防医療を受けることを避けるようになった。こうして重病になってから病院へ行くから、逆に入院費が急増した。幼児死亡率は40%上昇した。また新たにHIV感染したものは2倍以上となった。[失業者が麻薬に手を出し] 静脈注射による麻薬の使用が増えた結果であるが、それは注射針交換プログラムの予算が削減されたこととも大きく関わっていた。そのうえ、防蚊噴霧プログラムが南部ギリシアで削減されてからは、マラリアの症例が1970年代以来はじめて深刻な数が報告された。

他方、2008年に国家経済の規模と比べると空前の金融危機を経験したが、アイスランドは国民の健康危機を回避した。3大商業銀行が破綻したあと、負債総額は急上昇し、失業は9倍に増大し、通貨クローネの価値は暴落した。アイスランドは1976年以来、ヨーロッパのなかでIMFによる救済措置(ベイルアウト)を求めた最初の国となった。しかしIMFが要求するとおりに銀行をベイルアウトしたり予算削減をする代わりに、アイスランドの政治家たちは急進的な措置を講じた。すなわち、緊縮政策の諾否を国民投票にかけたのだ。2010年と2011年の2度の国民投票で、アイスランド人は、一気に完全な緊縮政策を実施するというよりは、外国の債権者に少しずつお金を返していくという方向を、圧倒的多数で選択した。ギリシアが崩壊に向かって揺れ動いている一方で、アイスランドの経済は大いに回復した。誰も医療保険を失わず、輸入医薬品の価格が上がっているときでさえ医療への道を絶たれなかった。自殺の深刻な増加もなかった。昨年、最初の国連「世界幸福度」報告はアイスランドを世界で最も幸福な国のひとつに評価した。

ギリシアとアイスランドの構造的差異を指摘して私たちの意見に疑義を唱えるひともいるだろう。ユーロ圏の一員であるというギリシアの地位が、通貨切り下げを不可能にし、IMFの緊縮政策要求を拒絶する政治的余地をほとんどもたなかったのだと。しかし、その対照的な違いこそ、経済危機は必ずしも国民の医療危機を伴うわけではない、という私たちの主張を立証するものだ。

この両極端の中間にあるのがアメリカである。当初は、2009年の包括的経済刺激策がセイフティネット(社会的安全網)を支えた。しかし、かなり高い自殺率だけでなく、国民の健康状態が悪化していることなど、危険な徴候がいくつかある。抗抑鬱剤の処方が急上昇したし、75万人(とくに失業中の若者)が大酒を飲むように変化していた。500万人のアメリカ人は景気後退の中で健康保険への道を失った。失業か、あるいはコブラ法(the Cobra law)の下で保険に手を伸ばす余裕がなくなったか、あるいはその資格を失ったためだ。こうして人々は重病になる前に医者を訪ねることが減った。その結果、救急治療室に駆け込まざるを得なくなるまで医療にかかるのを遅らせることになったのだ。(オバマ大統領の医療保険法は、補償を拡大しているが、それすら遅々としたものにすぎない。)

<訳註> コブラ法 (COBRA:The Consolidated Omnibus Budget Reconciliation Act of 1985)

2013年3月1日に始まった850億ドルの「歳出削減」 “sequester” は、年末までに概略60万人におよぶ妊婦、新生児、幼児のための栄養摂取用補助金を削減することになっている。公営住宅予算は今年20億ドル近く削減される予定だ。一方で1400件の家が差し押さえを食らってさえいる。疾病(しっぺい)管理予防センターは、昨年の真菌性髄膜炎の勃発といったような伝染病にたいする国の主要防衛機関なのだが、その予算でさえ少なくとも180億ドル削減されつつある。

緊縮政策が致命的であるという私たちの仮説を検証するために、私たちは他の地域と他の時代の資料を分析した。ソビエト連邦が1991年に解体した後、ロシア経済は崩壊した。貧困は急上昇し、生活は予想どおり落下し、とくに若年労働者ではひどかった。しかし、このことは元のソビエト領のすべてで起きたわけではなかった。ロシア、カザフスタン、バルト諸国(エストニア、ラトビア、リトアニア)――ジェフリー・D・サックス(Jeffrey D. Sachs)とローレンス・H・サマーズ(Lawrence H. Summers)のような経済学者たちに唱導された経済的「ショック療法」“shock therapy”を採用した国々――は自殺、心臓発作、飲酒に関わる死において最悪の増加を経験した。

ベラルーシ、ポーランド、スロベニアのような国々は、もっと違った、漸進主義的アプローチをとった。ジョセフ・E・スティグリッツ(Joseph E. Stiglitz)のような経済学者たちや元ソ連の指導者ミハイル・S・ゴルバチョフ(Mikhail S. Gorbachev)に唱導されたやり方だ。これらの国々は統制経済を段階的にゆるやかに民営化して、大規模な民営化と解雇を選択したような近隣諸国よりも健全な結果を見たのだ。大規模民営化と解雇は、深刻な経済的・社会的混乱をひきおこしただけだった。

ソビエト連邦の崩壊と同じく、1997年のアジア金融危機は、格好の研究事例だ。それは実質的に自然の実験室となったからだ。タイとインドネシアは、IMFに強要された厳しい緊縮計画に屈服し、大規模な飢餓と伝染病による大量の死者を生み出した。その一方、マレーシアは、IMFの忠告に抵抗し、国民の健康を維持した。2012年、IMFはアジア金融危機の取り扱いについて正式に謝罪した。IMF勧告で生じた損害は、彼らの見積もりでも、かつて推測したものの3倍だった可能性があるという。

アメリカが世界大恐慌(the Depression)を経験していることも教訓的である。というのは大恐慌のあいだも、[ニューディール政策のおかげで] アメリカの死亡率は約10%下がったからだ。自殺率が急上昇したのは、株式市場が崩壊した1929年から、フランクリン・D・ルーズベルトが大統領に選ばれた1932年までの期間だけだった。しかし、その自殺の増加すら、「疫学的前進」“epidemiological transition” (結核、肺炎、インフルエンザのような伝染病による死亡を減少させた衛生状態の改善)や、致命的交通事故の急激な減少によって相殺され、おつりが来るほどだった(ただし交通事故の減少は、アメリカ人が車を買えなくなったからだ)。アメリカの歴史的なデータを比較検証してみると、ニューディール政策で一人あたり100ドルを支出すると、肺炎で死ぬのが10万人あたり18人減少し、乳児死亡率は正常出産児1000人にあたり18人減少し、自殺率は10万人あたり4人減少する。

私たちの研究が示唆しているのは、公衆衛生プログラムに1ドルを投資することは、経済成長に3ドルを与えるのと同じであるということだ。公衆衛生への投資は景気後退のときに命を救うだけではなく、景気回復に拍車をかけることになる。この発見が示唆していることは、以下の三つの原則が経済危機にたいする対応策として有効だということである。

第1に、国民に被害を与えるな。もし緊縮政策が臨床実験における薬物治療のようにテストされていたならば、もうとっくの昔に中止されていただろうということだ。致命的な副作用があるからだ。どの国も、疫学者と経済学者を擁した無党派の独立した健康責任庁(Office of Health Responsibility)を確立すべきだ。財政金融政策の健康への効果を評価するためだ。

第2に、失業を伝染病のごとく扱え。失業は、鬱病、不安、アル中、自殺志向の主要原因である。フィンランドとスウェーデンの政治家は、「活気ある労働市場の育成事業」に投資することによって、鬱病と自殺を防止するのを助けた。この事業は、最近失業した人々に的を絞り、彼らに素早く職を見つける手助けをするというものだ。それは経済純益をもたらすことにもなった。

最後に、景気の悪いときほど、公衆衛生に投資を拡充せよ。「1オンスの予防は1ポンドの治療に匹敵する」という決まり文句は図らずも真実だ。伝染病を制圧するのは予防する以上に莫大な費用がかかる。ニューヨーク市は[予防費用を惜しんだがゆえに] 1990年代半ば、薬剤耐性結核の勃発を制圧するため10億ドルを費やすことになった。耐性結核菌は、市が低所得の肺結核患者に安価なジェネリック薬品を保証しなかったことから起因したものだった。

緊縮財政で犠牲になるのは人間の命なのだということを認識するのに、経済主義者(an economic ideologue)となる必要はない。私たちは実際そうではない。私たちは過去の貧困な政策決定を無罪放免にしているわけでもないし、万人の債務免除を要求しているわけでもない。財政政策・金融政策の正しい配分を見出すことは、アメリカとヨーロッパの政策立案者の責任なのだ。私たちが見つけ出したのは、緊縮政策――それも社会・医療支出にたいする厳格で即時・無差別な削減――は自滅的であるだけでなく、致命的だ、ということだ。

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<註> この翻訳は単独で下記にも掲載しました。
http://www42.tok2.com/home/ieas/translation_index.html
また、ディビッド・スタックラー(David Stuckler、オックスフォード大学社会学の上級研究指導員)とサンジェイ・バスー(Sanjay Basu、スタンフォード大学医学部の助教授で予防研究センターの疫学者)は『いのちの経済学――緊縮政策は殺人行為だ』の著者です。

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「英語で授業」を考える(その3)――英語の世界的広がりは貧困の世界的拡大、英語力は「経済力」ではなく「貧困力」!? [緊急情報] アメリカが国家としておこなっているハッカー攻撃、サイバー・スパイ!!

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緊縮政策に抗議して、EU中央銀行(ドイツ、フランクフルト)への通りを封鎖・占拠する何千人にもの民衆

Thousands of 'Blockupy' protesters in Frankfurt decry austerity, police brutality
http://rt.com/news/blocupy-frankfurt-police-violence-415/(June 08, 2013)

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私は前回のブログ「毎日新聞社インタビューに答えて――"英語で授業" を考える(その2)」を次のように結びました。

上記の記事は「13字X100行」という制約のなかで書かれたものですから、私が伝えたかったことの全てが盛り込まれているわけではありません。
 そもそも、『英語教育原論――英語教師「三つの仕事」「三つの危険」』 『英語教育が亡びるとき――「英語で授業」のイデオロギー』(ともに明石書店)の2冊をもってすら述べ切れなかったことを、「13字X100行」でまとめるというのは、無理難題というべきでしょう。
 そこで次回からは上記のインタビュー記事の解説、『英語教育原論』や『英語教育が亡びるとき』においてさえ述べきれなかったことを連載で書きたいと思っています。
 それにしても自民党や教育再生会議から次々と出されてくる英語教育の改革案は、現場教師がかかえている矛盾・苦労をまったく知らない空論としか言いようがありません。
 本当に英語教育を改善したいのであれば、もっと現実的な方法はいくらでもあるのですから。


そこで今回は、上記インタビューの解説を書くつもりでした。

ところが、それをほぼ書き終えたとき、「こんな解説を書くくらいなら上記インタビューのなかで "英語で授業" の賛成論を述べている松本茂氏への反論を書いた方がよいのではないか」という考えが突然、頭に浮かびました。

あるいは自民党・安倍政権が今度の参議院選挙の公約に掲げている「大学入試にTOEFLを」という英語教育政策にたいする反論を書くのが先決ではないか、という考えも浮かびました。

そこで思い切って、私のインタビューにたいする解説は取りやめにして、文科省や安倍政権の英語教育政策について、その反論の序文にあたるようなことを書いて、今回は終わりにしたいと思うようになりました。

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政府・自民党・文科省は、口を開くたびに「このままでは日本丸は沈没する」「日本が沈滞しているのは英語が話せないからだ」と言いたててきました。しかし英語力=経済力でないことはアメリカを見れば一目瞭然です。

なにしろ英語国のアメリカが財政難にあえいでいるだけでなく、国民の6人にひとり、子どもの4人にひとりが食料切符に頼らないと生活できなくなっているのですから。次の記事がそれをよく示しています。

23% of all American children live in poverty
http://rt.com/op-edge/poverty-united-child-states/(May 31, 2012)
As Lawmakers Target Food Stamp Funding, New Report Finds 1 in 6 in U.S. Are Going Hungry
http://www.democracynow.org/2013/5/30/as_lawmakers_target_food_stamp_funding(May30, 2013)

最初の記事は [May 31, 2012] のものですが、この時点で既に子どもの4人にひとりが貧困ラインに落ち込んでいること示しています。

ところが2番目の記事は最新のもの [May30, 2013]ですが、ニューヨーク大学法科大学院国際人権クリニックによる新たな調査報告書によれば、大人の6人にひとりが飢えている、と述べているのです。

この報告書によれば、全米で5000万人が飢えに苦しみ、内1700万人近くは子どもだといいます。景気停滞以来、食物を確保できない人の数が急増し、2011年には食事が満足に確保できないグループに分類された人の数は、2007年に比べ1400万人増えました。

ところが、上記DemocracyNow! の報道によれば、恐ろしいことに、共和党は数億万ドル単位で食料切符(フード・スタンプ)の財源を削減しようとしています。

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英語を国民の共通語としているアメリカがこの状態なのですから、英語力=経済力でないことは誰の目にも明らかだと思うのですが、ではEUの場合はどうでしょうか。

EUの統合が広がって行くにつれて、「自分の母語以外に最低二つの外国語を身につけよう」というのが新しいEUの言語政策になりました。

「すべての言語は対等平等である。少数者の言語も守られねばならない」とするのがEU言語政策の根本理念なのですが、新しい言語政策の「自分の母語以外に最低二つの外国語を身につけよう」の結果、広まったのは英語でした。

では、その結果、EUは豊かになったのでしょうか。ギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルなどを見れば、結果は明らかでしょう。

アメリカに端を発した金融危機が欧州全体を揺り動かしただけでなく、アメリカ流の経済運営が各国を貧困の極致に追い込みました。

Thousands of 'Blockupy' protesters in Frankfurt decry austerity, police brutality
http://rt.com/news/blocupy-frankfurt-police-violence-415/

この南欧の各国を席巻した「緊縮財政」の大波は、庶民の医療や社会保障を根こそぎ壊滅させています。

もともとアメリカには充実した医療政策(国民皆保険)や社会保障政策がなかったことは、マイケル・ムーアの映画『SICKO』で誰の目にも明らかになっていましたが、今やヨーロッパもアメリカ化し始めているのです。

つまり英語の拡大は貧困の拡大でもあったのです。英語力=経済力どころか、英語力=貧困力だったのです。

では、あれほど社会保障が充実していたはずのヨーロッパが、なぜ民衆から身ぐるみ全てを剥(は)ぎ取って路上に放り出すような政策を採り続けているのでしょうか。それをチョムスキーは次のインタビューで見事に解明しています。

Chomsky: Unraveling the Welfare State
http://www.zcommunications.org/unraveling-the-welfare-state-by-noam-chomsky

そこで以下その論文を拙訳で紹介することにしたいと思います(実は「アベノミクス」と言われている経済政策も、ヨーロッパ福祉国家を解体させつつあるものと基本的には同じものなのですが、ここでは詳述できません)。

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ヨーロッパ福祉国家の解体
Unraveling the Welfare State
ノーム・チョムスキー (December 23, 2012)
http://www.zcommunications.org/unraveling-the-welfare-state-by-noam-chomsky

    


<EUROPP編集者による前書き>、
スチュアート・A・ブラウンStuart A Brownとクリス・ギルソンChris Gilsonとの2回のインタビューの第1回目である。ノーム・チョムスキーは、ヨーロッパの専門的技能家による官僚政治(technocratic governance)がなぜユーロ圏の緊縮経済政策が危機を解決できないのか、ギリシャやフランスのような国々でなぜ極端な右派勢力が台頭するようになったのか、を論じている。


質問:ヨーロッパで専門的技能家集団が政治の分野で重用されていることは、欧州民主主義にとって何を意味するのでしょうか?

チョムスキー:その問題点は2つあります。まず第1に、少なくとも民主主義を信じるのであれば、そんなことはあってはならないことです。第2に、彼らが追い求めている政策はヨーロッパをさらにさらに深刻な問題へと追い込むことになるだけです。不景気のさなかに緊縮財政を強いるという考えは、まったく意味をなしません。とくにヨーロッパ南部の諸国では問題がいくつもありますが、とくにギリシャでは、成長を減少させるよう国に強要すれば問題が減るどころか逆効果です。なぜならGDPに比して負債が増加するだけだからです。それが彼らのやってきた政策なのです。
 スペインはまた別のケースです。スペインの財政が崩壊するまでは、政府は実際うまくやってきました。財政は黒字でした。問題は色々ありましたが、財政破綻は政府ではなく銀行が引き起こしたものです。その中にはドイツ銀行もありました。ドイツ銀行はアメリカの銀行と同じスタイル(サブプライム住宅ローンsubprime mortgages)でお金を貸していました。そこで金融制度が崩壊し、その後、緊縮財政がスペインに課されました。それは最悪の政策です。失業を増大させ、成長は減少させます。政府は銀行と投資家を救済していますが、それが中心であっては解決策にはなりません。

ヨーロッパには景気刺激が必要です――IMFさえもその立場に賛同しています――そして景気を刺激する方策はいくらでもあります。ヨーロッパは豊かなところです。ヨーロッパ中央銀行には利用可能な準備金がたくさんあります。しかしドイツ連邦銀行はその準備金を使って景気刺激策をとるのを嫌っています。投資家がそれを好まないからです。銀行はそれを嫌っていますが、それが追求すべき政策なのです。アメリカの経済新聞の書き手たちすら、それに同意しています。ヨーロッパが政策を変更しなければ、さらに深刻な不況に突入するだけです。
 EU委員会は来年の経済予測にかんする報告書を公表したばかりですが、その予測はひどい低成長と失業の増加です。これこそが主要な問題です。それは非常に重大な問題です。失業は一世代の人びとを破壊してしまいます。それは些細な問題ではありません。それはまた経済的な観点から言っても論外です。人々が失業に追い込まれたら、人間的な意味でも非常に重大ですが――個々人にとって大変な災害ですが――経済的観点から言っても極めて有害です。要するに、利用されていない資源が多く残されているのですから、それを経済の成長・発展のために活用すべきだし、それは可能なのです。

いまヨーロッパでとられている政策に何か意味があるとすれば、次のような仮定をするしかありません。つまり、彼らの目的は「福祉国家を弱体化し、あわよくば解体してしまおう」ということにあるという仮定です。しかもそのことを実際に語っているひともいるのです。ヨーロッパ中央銀行頭取マリオ・ドラギMario Draghiはウォールストリートジャーナル紙とのインタビューで言いました。「ヨーロッパの社会契約は死んだ」、と。彼はその方向を支持してそう言ったわけではありませんが、それこそ、その政策が何をもたらすかを示しています。恐らくまだ完全には「死んで」いないでしょう。誇張してそう言ったのでしょう。しかし攻撃に晒(さら)されていることだけは確かです。

質問:ギリシャやフランスのような国々における極端な右翼の台頭(たいとう)は、ユーロ危機が示す別の側面なのでしょうか?

チョムスキー:全くそのとおりです。ギリシャではそれが顕著ですが、フランスでも最近しばらく起きていることです。それは反イスラムの人種差別に基づいています。実際フランスでは、それ以上のレベルに達しています。多くのことが起きているのに(それは私にとっては驚くべきことなんですが)、全く議論もされていません。今日、フランスがユダヤ人を国から追いだし、どこかへ移動させはじめた、と考えてみてください。彼らが攻撃され抑圧され貧困に追いやられて不幸になるような場所へと追い出すのです。そんなことをすれば世界中から非難の声が湧き上がり大騒動になることは想像に難くありません。しかし、まさしくそれが今フランスのやっていることなのです。ユダヤ人に対してではなくロマ人に対してです。ロマ人は、あの当時、ユダヤ人とほとんど同じ扱いを受けました。彼らはホロコーストの犠牲者でした。その彼らがいま、ルーマニアとハンガリーへと強制的に追い出されています。彼らの行く手には惨めな将来が待っています。しかし、これについて公に語られることはほとんどないのです。それは極端な右派勢力のことではなく、フランスの世論全体がそれを良しとしているのです。驚くべき現象ではないでしょうか。

しかし、極右のひろがりはヨーロッパにとっては脅威です。ドイツも似たような現象が現れています。たとえば、ドイツにはネオナチ集団があります。彼らは自分たちのことを「ネオナチ」とは呼びませんが。それはいま組織化を進め、[第2次世界大戦時の連合国による] ドレスデンの爆撃を非難し、25万人が殺されたと主張しています。実際の数字の10倍です。確かにドレスデンの爆撃はほんとうに犯罪でした――大犯罪です――が、ネオナチ集団が言っている意味とは少し違います。
 目をもう少し東に転じて、たとえばハンガリーはどうでしょうか。ちょうど先週、極右のジョッビク党Jobbik partyの議員ゾルト・バラス Zsolt Barathが恥ずべき演説をしました。そのなかで彼はユダヤ人がハンガリーの政策を決める地位についていると非難しました。「われわれは奴らのリストを作り、奴らの人種を判別して、このガンを取り除かねばならない」等々です。ご存じのように、私は老齢ですので、1930年代に起きたことを個人的にも明確に記憶しています。しかし、それが何を意味するのかは皆が知っています。そういうことがヨーロッパの大部分で起こっているのです――たいてい最初は反イスラムの人種差別からきています――そしてそれは恐ろしい現象です。

質問:近い将来、ヨーロッパがその危機を解決するのを、見ることができるでしょうか?

チョムスキー:いま、ユーロ圏はその問題をただ先延ばしにしているだけで、いわゆる "kicking the can down the road" です。問題となる「缶」を、行く道の先に蹴っ飛ばしても、その問題(缶)は消えてなくなるわけではないからです。重大な問題はいくつもあります。ユーロ圏は概して明るい進展があったと思うのですが、その約束された未来の土台を掘り崩すような政策がおこなわれているのです。私が思うに、さらなる政治統合があるべきだということは広く合意されていると思います。しかし加盟国が自国の通貨を統制できないまま緊縮財政だけが課されるという体制は、維持が不可能です。経済危機に陥ったらどの国でもやっているような方策を実施できないときに緊縮財政だけが課されるというのは、まったく有り得ない状況ですから、何らかの対象が必要です。

 ヨーロッパが苦しんでいるのは、ある程度は相対的に人道的だったことからきていることも、認識されるべきです。ヨーロッパと北アメリカを比較してみるならば、北米自由貿易協定NAFTAが設立されたときに、統一通貨は概略のところ[ドルでおこなうこと]で合意されていましたが、それはヨーロッパとはまったく違ったかたちでなされたのです。
 ヨーロッパでは、貧困国がEUに加盟する前に、その国の生活水準を上げるための真剣な努力がなされました。その国を改革したり、補助金を与えたり、その他のいろいろな施策がなされました。その結果、貧困国が加盟しても豊かな国々の雇用や生活水準が打撃を受けることはなかったのです。それが統合に向かうにあたっての比較的人道的な方法なのです。
 アメリカで全く同じようなことを提案したのは、アメリカ労働運動でしたし、また連邦議会調査局でさえ同じ提言をしました。しかしいつのまにか、そのような方策は投げ捨てられました。ヨーロッパのような努力がなされないまま、メキシコはNAFTAによって統合されたのです。それはメキシコ人にとっては大いなる不幸をもたらすものでしたが、同時にアメリカとカナダの労働者にとっても大変な害をもたらすものでした。ヨーロッパはそれと同じこと[新自由主義的経済運営]でいま苦しんでいるのです。


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<註> この翻訳は下記HPに別掲として載せてあります。
http://www42.tok2.com/home/ieas/translation_index.html
http://www42.tok2.com/home/ieas/Chomsky20121223UnravelingWelfareState.PDF

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[緊急情報] Google, Yahoo など主要インターネットは全て監視・盗聴されている! アメリカが国家としておこなっている、ハッカー攻撃・サイバー・スパイ!!
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メリーランド州フォートミードにあるNSA本部
NSA (The National Security Agency) headquarters at Fort Meade, Maryland (AFP Photo)
http://rt.com/usa/nsa-prism-witch-hunt-426/

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私は以前のブログ(2013.5.22)「"英語で授業" を考える(その1)」で、「オバマ政権による、国内と国外の二つのスパイ事件」を取りあげました。そのとき私は次のように書きました。

その一つはAPという通信社をスパイして100人にも及ぶ記者その他の通信記録を盗み出そうとした事件です。

これは新聞社の「報道の自由」を真っ向から踏みにじるもので、他国に民主主義をお説教したり輸出したりしてきた行為が、まったく偽りのものだったことを示すものでした。

もう一つのスパイ事件は,ソ連大使館の3等書記官が実はCIAの要員で、ロシアの情報を盗み出そうとしただけでなく、ロシア諜報部員に大金を渡して内部通報者としてCIAに雇い入れようとしたことが暴露された事件です。

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ところが最近これを上回るスパイ事件が次々と発覚しています。そのひとつが前回をはるかに上回る大規模な国内のスパイ事件です。

"A Massive Surveillance State": Glenn Greenwald Exposes Covert NSA Program Collecting Calls, Emails
http://www.democracynow.org/2013/6/7/a_massive_surveillance_state_glenn_greenwald

上記DemocracyNow! の報道によると、NSA(アメリカ国家安全保障局、National Security Agency)は、暗号名PRISM(プリズム)というこの極秘プログラムを使って、Eメール、テキスト、オーディオ、ビデオ・チャット、写真、通信ログなどの、あらゆる情報を秘かに入手していたというのです。

オバマ氏は、Google, Microsoft, Apple, Yahoo, Facebook, Skype など主要インターネット企業9社の中央サーバーにアクセスして、私たちが誰かと連絡を取り合うたびに、必ずそれを監視し、保存し、いつでもその記録にアクセスできるようにしていたのです。すでにアメリカは完全な監視国家になってしまっています。

これはイギリスの作家ジョージ・オーウェルの小説『1984年』(Nineteen Eighty-Four)が、もはやフィクションではないことを示しています。ニューヨーク・タイムズ紙の総合弁護士だったジェイムズ・グッデイル氏は、現在のオバマ氏を「ニクソンよりも悪い大統領」とまで言っていますが、それを証明するような事件でした。

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もう一つが国外における世界規模のサイバー攻撃とサイバー・スパイ事件です。これもNSAによる事件でした。かつては悪役と言えばCIAでしたが、今はNSAが主役になりつつあるようです。

NSA Hacking Unit Targets Computers Worldwide
http://www.democracynow.org/2013/5/30/headlines#53011

上記DemocracyNow! は、Bloomberg BusinessWeek の報道として、NSAが"Tailored Access Operations" というサイバー・スパイ作戦を実行し、世界中から毎時210万ギガにも及ぶ情報収集していたということを、伝えています。

このNSA秘密ハッカー部隊は、自分たちのスパイ行為を "computer network exploitation"と呼び、自分がおこなったハッカー行為を外国(たとえば中国)からおこなわれたものであるかのように見せかける技術も開発していました。

まさに「正体見たり、枯れ尾花」ならぬ、「正体見たり、悪(わる)オマバ」ではないでしょうか。

なおニュースの英語原文は下記のとおりです。

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NSA Hacking Unit Targets Computers Worldwide
http://www.democracynow.org/2013/5/30/headlines#53011
  New details have emerged about a secretive unit inside the National Security Agency called Tailored Access Operations that hacks into foreign computers to conduct cyber-espionage.
  According to a Bloomberg BusinessWeek article titled "How the U.S. Government Hacks the World," the Pentagon hackers harvest nearly 2.1 million gigabytes every hour. That is the equivalent of hundreds of millions of pages of text.
  For years, the NSA did not acknowledge the unit’s existence, but a Pentagon official confirmed the unit conducts what it calls "computer network exploitation."
  The U.S. cyberspies have also developed methods to obscure their tracks or disguise themselves as something else, such as hackers from China.
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