もう一つの京都大学事件(2)― 松田武『戦後日本におけるアメリカのソフト・パワー:半永久的依存の起源』(岩波書店2008)

英語教育(2013/09/30)
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松田武 アメリカのソフトパワー
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私は前回のブログで、土屋由香『親米日本の構築―アメリカの対日情報教育政策と日本占領』(明石書店2009:264-265)に次のような叙述があることを紹介しました。

 その成功例として、「マーク・メイ・レポート」は「別紙A:具体例1」において、1953~1955年にかけての京都大学の事例を挙げている。
 レポートによれば、大学教員・学生の間に左翼思想が拡大していることに危機感を抱いたUSIS神戸と京都大学の総長・前総長が対策を協議したという。
 その結果、各学部を代表する保守派の若手教授を順次米国に派遣して親米・反共思想を学ばせ、帰国後は彼らを各学部の学部長に任命して「反左翼陣営の柱」とし、USIS との接触を保ちながら学内の左派封じ込めに成功した、と報告されている。

上記では、「大学内の反米主義・左翼思想を撲滅するための活動」の成功例として、「マーク・メイ・レポート」の「別紙A: 具体例1」しか紹介されていませんでしたが、あとで土屋氏に次のような新しい研究があることを知りました。

土屋由香(2013)「アメリカ情報諮問委員会と心理学者マーク・A・メイ」『インテリジェンス』13号:15-29)

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上記論文では、別紙A「USIS契約事業の7事例」として次のような項目が列挙され、簡単な解説が付いています。

〔事例1〕日本の国立大学における左翼教員・学生の排除
〔事例2〕外務省顧問なども務めた財界人のラジオ評論家へ支援
〔事例3〕雑誌『改造』の編集者も務めていたジャーナリストと彼が主催する研究所への資金と情報の提供
〔事例4〕日本の「再軍備」推進活動を行っている旧海軍出身の軍事評論家への情報支援、のちには研究会への資金援助も。
〔事例5〕日本国連協会が「軍縮」「ソ連」などのテーマで開催したセミナー・シリーズへの支援
〔事例6〕社会党右派の顧問を務めていた大学教授への支援
〔事例7〕有能な十数人のUSIS日本人スタッフについて、その経歴や功績


上記の〔事例1〕が前回のブログで紹介した「もう一つの京大事件」です。ただし、ここでは上記事件の他に、京都大学の次のような事例も紹介されています。

 1955年6月の創立記念日にあわせて左派学生らが企画した2つのイベント(「哲学セミナー」と原子力をテーマとした「医学セミナー」)を、上記USISプロジェクトに関わって渡米・帰国した教授らが一致団結して阻止した経緯が詳しく記されている。
 また左翼の影響カを弱めるのと同時並行的に、知識層のアメリカ理解を深めるために[京都大学を中心に]アメリカ研究プログラムが導入されていったことも述べられている。さらに日本国連協会・京都支部主催のセミナーについても、USISが企画・財政支援していたがその事実は秘匿されていたという。(25-26頁)


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本当は上記事例のすべてを紹介したい誘惑に駆られるのですが、それではいつまで経っても本論にたどりつかないので、ここでは〔事例6〕の紹介にとどめます。それは次のように説明されています。

〔事例6〕社会党右派の顧問を務めていた大学教授への支援
 この教授が英語学習のためにUSISに接触したことをきっかけに日本語を話せるUSIS職員との間に友好関係が築かれ、社会党の左右統合の際には新しい党綱領を共同で英訳した。
 この教授はUSISとイギリス大使館の計らいで英米両国に派遣され、帰国後は両国について多くの著作を発表したほか、反共主義を唱えた思想家シドニー・フックの著作を日本語に翻訳した。
 思想的な不一致を越えた人間関係が日米協力に結びついた例として「マーク・メイ報告」はこの事例を高く評価している。


以上の事例を見ると、孫崎享氏(元イラン大使、元外務省国際情報局長、元防衛大学教授)が、『戦後史の正体』(創元社、2012)のなかで次のように言っていることの意味がよく理解できます。

アメリカ専門の学者は、たくさんいるはずだ。なのになぜ今まで、「米国からの圧力」をテーマに歴史を書く学者がほとんどいなかったのか。それは偶然ではないのです。(134頁)


要するに、アメリカによる支援の下、関東では東京大学を中心にアメリカ研究プログラムが導入され、関西では京都大学が中心になりました。そして、その両者が競い合いながら、日本の「アメリカ学会」ができていったのです。

これについては、松田武『戦後日本におけるアメリカのソフト・パワー:半永久的依存の起源』(岩波書店、2008)の第7-8章に詳しい経過が述べられていますが、いずれにしても上記のような経過を考えるとアメリカ研究者がなかなか自立できないのは当然とも言えるわけです。

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ところで上記の「事例6」で次のように書かれていたことに注目してほしいと思います。

この教授が英語学習のためにUSISに接触したことをきっかけに日本語を話せるUSIS職員との間に友好関係が築かれ、社会党の左右統合の際には新しい党綱領を共同で英訳した。


この教授は社会党右派の顧問だったにもかかわらず「英語学習のためにUSISに接触したことをきっかけに日本語を話せるUSIS職員との間に友好関係が築かれ」、その結果として、「USISとイギリス大使館の計らいで英米両国に派遣され」ることになりました。

そして、ことはそれだけに終わりませんでした。というのは「帰国後は両国について多くの著作を発表したほか、反共主義を唱えた思想家シドニー・フックの著作を日本語に翻訳」することになったからです。

この事例をマーク・メイ報告は、「思想的な不一致を越えた人間関係が日米協力に結びついた例」として高く評価し.ているそうですが、英語力=洗脳力として働いた最高の事例ではないかと思います。英語力=貧困力であるだけでなく、英語力=洗脳力でもあるのです。

私は拙著『英語教育原論―英語教師、三つの仕事・三つの危険』(明石書店、2007)のなかで、英語学習が「自己家畜化」「学校の家畜化」「国家の家畜化」 をうながす危険があり、このことを英語教師は自覚している必要があると述べました。

英語は中野好夫の言うとおり学習者を「英語バカ」にする不思議な魔力をもっているのです。アメリカが好きだというひとが英語を学ぶのはある意味では当然でしょうが、英語大嫌いだった人間まで、寺島メソッドで英語に自信がついてくると「アメリカに行きたい」などと言い出すのですから。

このような英語の魔力を利用したのが、USIS(アメリカ広報文化交流局)の「人物交流プログラム」であり「英語教育プログラム」でした。これらについて、上記の松田武『戦後日本におけるアメリカのソフト・パワー』を紹介しながら、以下もう少し詳しく説明します。

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アメリカは、日本が講和条約をむすんで占領状態から抜け出しても「アメリカに半永久的に依存せざるをえないようにする」ためにどうすればよいかを綿密に研究しました。

そのためにトルーマン大統領は、講和条約(1951年9月8日)が結ばれる8か月以上も前の1月22日に、ジョン・フォスター・ダレス(ロックフェラー財団理事長)を特使とする「講和使節団」を日本に派遣しました。

この「講和使節団」は日本に約1か月滞在し、多くの要人・知識人と交わりました。このとき文化顧問として同行したロックフェラー3世は、帰国してから2か月後(1951年4月16日)、80頁も及ぶ日米文化関係の「機密」報告書を提出しました。

この報告書は、軍事・経済のようなハード・パワーではなく文化面でソフト・パワーを行使する(平時の心理戦を戦う)うえで特に力を注ぐべき対象は、次のような理由で、知識人であると述べています。

したがって、ロックフェラーは、もし日本の知識人に慎重にかつ注意深く接近すれば、彼らは親米的なリベラル派になる可能性が大いにあると読んでいた。さらにロックフェラーの観察によれば、知識人は日本に高まりつつあった共産主義の影響を受けやすい状態にあり、共産主義者の洗脳にかかる可能性も大きいということであった。そこで彼は、最悪の事態を避けるためには、手遅れにならないうちに今すぐ適切な措置が講じられるべきであると考えていた。(前掲書157頁)


さてこうした認識の下に、ロックフェラー報告書は、日本の知識人を対象にした次の五つの計画案を実施するように提言しました。

第一は、東京に文化センターを設立すること、
第二は、東京と京都に学生を対象とする国際会館を設立すること、
第三は、国の指導者および学生を対象とする人物交流計画を継続すること、
第四は、徹底した英語教育プログラムを実施すること、
第五は、資料交換プログラムを実施すること


第3の「人物交流計画」については、上記でかなり紹介したので、以下では第4の「英語教育プログラム」についてのみ詳しく説明することにします。

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さて、松田氏の前掲書は、ロックフェラーの機密報告書の「英語教育プログラム」については次のように解説しています。少し長い引用になりますが我慢して読んでいただければと思います(下線は私がつけたものです)。

 年二回ワシントンに報告されるアメリカ大使館広報・文化交流局の評価報告書は、ロックフェラーの意見に沿う形で、英語教育プログラムのもつ潜在的な可能性を強調した。この報告書によれば、英語教育プログラムは、表向きは英語教育法の改善を手助けすることであるが、実際には、健全なアメリカの理念を日本社会に浸透させる道が、このプログラムによって、約束されるというのであった。

 続けて評価報告書は、資格のある英語教育専門家が日本に滞在していれば、教科書の執筆ならびにアメリカ合衆国の選定教材を日本に紹介する際に、折ある度に彼らは影響力を行使することができ、しかも長期にわたって影響を及ぼしつづけることができる、と述べた。

 同時に、この報告書は、日本人は生活のあらゆる部分において、英語の学習を受け入れる傾向があるので、英語教育の分野には潜在的に大きな可能性が認められると指摘した。事実、英語学習のクラスが、日本人の英語教育の要望に応える形で、合衆国情報教育局の文化センターに開設された。大都市部の文化センターでは、英語学習のクラスは、公務員、教師、ビジネスマン、市民団体のリーダー、学生、それに政府の指導者などのグループに分かれて行われた。

 しかしながら、文化センターでの英語学習のクラスは、やがてはアメリカ研究を中心とする活発な討論グループに再編されることが構想されていた。そのような英語教育プログラムの成果の表れとして、五一名の日本の指導者が一九五三会計年度末に、三ヵ月間のアメリカ視察訪問のための奨学金の受給者に指名された。彼らは、日本の各地域ならびにさまざまな分野の代表者であった。

 同年、アメリカ合衆国における大学院留学のために、フルブライト=スミス=マント奨学金が七五名の学生と青年指導者に支給される一方、一五〇名の学生と青年指導者には渡航費のみの奨学金が同じ目的のために支給された。(162-163頁)


そこで、いよいよ上記で述べられているロックフェラーの機密報告書の「英語教育プログラム」が日本における現在の英語教育(とりわけ大学の英語教育)にどのような関わりをもっているのかを述べなければならないのですが、それを説明していると長くなりすぎますので、次回にします。どうかお許しください。

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<註> 松田氏の次の解説を読む限りでは、まるで日本の知識人だけが共産主義に大いなる関心を寄せていたかのように誤解される恐れがあります。
「ロックフェラーの観察によれば、知識人は日本に高まりつつあった共産主義の影響を受けやすい状態にあり、共産主義者の洗脳にかかる可能性も大きいということであった。」

 しかし、ナチスドイツのヒトラーやイタリア全体主義のムッソリーニと命を賭けて、先頭に立って闘っていたのは共産党員でしたから、戦後のヨーロッパでは共産党は非常な権威をもっていました。アメリカが第2次大戦後のイタリアやギリシャの総選挙に深く介入したのも、このような理由からでした(『CIA秘録』上巻)。
 また当のアメリカでも共産主義にたいする関心は極めて高く、学者・知識人や作家・俳優のなかにも共産主義にたいして共感を寄せるどころか党員になったひとも少なくありませんでした。
 だからこそマッカーシズム(赤狩り)という嵐がアメリカに吹き荒れ、あの喜劇王チャップリンでさえ『モダンタイムス』『殺人狂時代』が共産主義に共感を寄せる映画という理由でアメリカから追い出されることになったのでした。
 それどころか原爆開発の陣頭指揮をしたロバート・オッペンハイマーすら「赤」の疑いがかかり[ソ連との核兵器競争を防ぐため水爆に反対するようになった]、アインシュタインらを擁するプリンストン高等研究所の所長の地位を剥奪されることになりました。

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もう一つの京都大学事件(1) ― 土屋由香『親米日本の構築:アメリカの対日情報・教育政策と日本占領』(明石書店2009)

英語教育(2013/09/26)
土屋由香66069_mid
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私は前回のブログで、「今後5年間で100人規模の外国人教員を雇い(毎年20人ずつ)、全学共通科目(教養科目)の半数以上を英語で開講するという計画」が京都大学で進行していることを紹介しつつ、次のように書きました。

『チョムスキーの教育論』で述べられている「家畜化としての教育」がこれほど露骨に顕在化した例は他にないのではないかと唖然としました。こんな案を上意下達に提示されて誰も反対するひとが京大にはいなかったのか!?

そう思っていたら下記のような動きが京大にも存在していたことを知りました。

「外国人100名雇用」計画に対する反対声明
― 京都大学「国際高等教育院」構想に反対する人間・環境学研究科教員有志

http://forliberty.s501.xrea.com/archives/587

「滝川事件」で学問の自由と大学の自治を問いただした京都大学(1933)、「京大天皇事件」で象徴天皇のあり方を問いただした京都大学(1951)は今も健在と知り、少し安心しました。


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このブログを書きつつ、私の頭には実は、京都大学で起きたもう一つの事件が浮かんできていました。それは土屋由香『親米日本の構築―アメリカの対日情報教育政策と日本占領』(明石書店2009:264-265)で紹介されていた次のような事件です。

[以下の引用は、アメリカによる日本占領がサンフランシスコ平和条約(1951年)で終結したこと、国務省のUSIA(アメリカ広報文化交流庁)は世界各地に海外拠点USIS(アメリカ広報文化交流局)を設置していたこと―を念頭において読んでください。]

 USIS東京が設置された1952年4月以来の7年間、USISは、「日本にとってもっとも安全な道は、自由世界と固い同盟関係を結び、日米の相互依存関係の重要性を十分に認識することである」という信念を、日本人、とりわけ知識層の中に根づかせることを主要な任務としてきた。

 しかし、知識層の反米感情は根強く、39人の大学助教授を対象に行った聞き取り調査によれば、知識層の80%は「反米派」だという回答もあった。
 このような状況に対処するため、USISは大学内の反米主義・左翼思想を撲滅するための活動を行ってきた。

 その成功例として、「マーク・メイ・レポート」は「別紙A:具体例1」において、1953~1955年にかけての京都大学の事例を挙げている。

 レポートによれば、大学教員・学生の間に左翼思想が拡大していることに危機感を抱いたUSIS神戸と京都大学の総長・前総長が対策を協議したという。

 その結果、各学部を代表する保守派の若手教授を順次米国に派遣して親米・反共思想を学ばせ、帰国後は彼らを各学部の学部長に任命して「反左翼陣営の柱」とし、USIS との接触を保ちながら学内の左派封じ込めに成功した、と報告されている。<註78>


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上記に出てくる「マーク・メイ・レポート」とは、日本におけるUSISの活動を、イェール大学教授マーク・メイ(Mark A. May)が1959年6~7月にかけて調査してまとめた報告書です。土屋氏によればUSISの任務は次のようなものでした。

 国務省は占領が米国に対するあこがれだけではなく、安全保障問題や人種問題などに絡む反米感情をも育んだことを重く受け止めていた。

 そのような軋礫を払拭し、日本を安定的な親米国家として反共同盟にとどめておくためには、日本を独立国として尊重しているという姿勢を見せることが重要であった。

 したがって、ポスト占領期の情報・教育交流プログラム(USIE)では、日本が独立国として尊重されているということや、日本人が人種差別を受けないということが強調された。

 しかし、国務省およびUSIA(アメリカ広報文化交流庁)は対等な国の国民に対する「情報提供サーヴィス」という姿勢をとるが、実際には「再教育・再方向づけ」と同じく、日本人の対米意識や世界観を一定の方向に誘導しようとする意図が相変わらず働いていた。(同書264-265頁)


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ところで、上記引用で「USIS神戸と京都大学の総長・前総長が対策を協議して」「学内の左派封じ込めに成功した」とありましたが、この末尾に<註78>とあります。その註を見ると次のように書いてありました。

「京都大学への秘密工作については、共同通信社が2007年10月21日づけ全国配信記事でスクープした。」


そこで土屋氏に連絡をとったところ、その共同通信社の配信記事を愛媛新聞が2007年10月22日づけで大きく取りあげて紹介していることを知りました。土屋氏に送っていただいたコピーでは上記の事件が次のように詳しく報道されていました。

京大教授陣に反共工作、冷戦50年代のUSIS(米広報文化交流局)
愛媛新聞2007年10月22日

【ワシントン21日、共同=杉田弘毅】一九五〇年代に日本の左傾化を恐れた米広報文化交流局(USIS)が日本で行った世論工作を詳述した報告書が二十一日までに米国立公文書館で見つかった。左派勢力が強かった京都大学の教授陣を対象にした反共工作のほか、日本映画やラジオ番組の制作、出版物刊行をひそかに援助、米国が望む方向への世論誘導を図った実態が細かく描かれている。

米研究者が報告書発見

米広報文化交流局(USIS):米政府が対外情報宣伝機関として1953年8月に設立。①外国の国民に米国の政策を深く理解させ国益の増進を図る、②米国民と外国国民の対話・交流を深める―が任務。海外向け放送一ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」などが著名な事業。旧ソ連圏での親米世論形成が主任務だったため、冷戦終結で一定の役割を終えたとされ、99年に国務省広報局に吸収された。

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さて肝心の京都大学への裏工作ですが、驚いたことに、それは実名入りで次のように書かれていました。

極秘の世論誘導 映画など援助も

 報告書は、米政府情報顧問委員長(当時)を務めたエール大学の故マーク・メイ教授が五九年、日本に五週間滞在しまとめた。フロリダ・アトランティック大学のケネス・オズグッド助教授が発見、冷戦時代の米対外世論工作をテーマにした著書「トータル・コールドウォー」の中で明らかにしている。

 京大への工作は、五二年に左派教授陣や全日本学生自治会総連合(全学連)などの影響力拡大に危機感を抱いた服部峻治郎総長とUSIS神戸支部が協議を開始。古川幸次郎文学部教授、高坂正顕教育学部教授ら保守派とされる若手教授陣を米国に順次派遣するなどして反共派に育て、帰国後はこれら反共派がUSISと接触を続けるとともに、各学部の主導権を握り、左派封じ込めに成功したとしている。

 報告書によると、USISは、①日本を西側世界と一体化させる、②ソ連・中国の脅威を強調する、③日米関係の強化で日本の経済発展が可能になることを理解させる―などの目的で、五十の世論工作関連事業を実施。このうち二十三計画が米政府の関与を伏せる秘密事業だった。

 この中には、USISが台本を承認して援助した五本の映画やラジオ番組の制作、出版物刊行、講演会開催などがある。特に、五七年十二月に封切られた航空自衛隊の戦闘機訓練を描いた映画を、日米関係や自衛隊の宣伝に役立ったと評価している。この映画はかねて米政府の関与がうわさされた「ジェット機出動 第101航空基地」(東映、高倉健主演)とみられている。

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高校生の頃、漢文の授業で漢詩を朗々と音読する丸坊主頭の先生がいて、私はその声の響きが好きでしたが、漢詩の意味はよく分からずにいました。

しかし吉川幸次郎・三好達治『新唐詩選』(岩波新書)を読んで意味が分かっただけでなく、そこに付けられていた英訳で中国語と英語が同じSVO構造であることを知って、いっそう知的好奇心をかき立てられた記憶があります。

ところが、その愛すべき吉川幸次郎氏が反共工作に加担し、帰国後の1956年には文学部長になっていることを知って、おおいに落胆しました。1954年に国務省に招かれて渡米したとき、本人は裏工作に乗せられているとは知らなかったのかも知れませんが、実質的に果たした役割には変わりがないように思えます。

上記の愛媛新聞は「報告書を見つけたフロリダ・アトランティック大学のケネス・オズグッド助教授の話」として次のような解説を載せて、記事を締めくくっています。

日本を3番目に重要視

USISは表の顔である文化交流事業とは別に、現地マスコミの報道の基調を変えたり、知識人・一般大衆の対米感情を変える多くの事業を陰でやっていた。ただこの報告書のように秘密の活動を詳述しているのは珍しい。ソ連、中国に接し、核アレルギーや沖縄返還問題を抱える日本は米国にとって、抱きかかえておきたい国で、当時、西ドイツ、インドに続いて、三番目に大きな世論工作が行われていた。この報告書でもUSISがいかに日本を重視していたかが分かる。


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上記で引用したように、メイ報告書によると、USISは次の三つを主要目的として50の世論工作を実施、このうち23計画がアメリカ政府の関与を伏せる秘密事業でした。

①日本を西側世界と一体化させる、
②ソ連・中国の脅威を強調する、
③日米関係の強化で日本の経済発展が可能になるここを理解させる、


しかし上記の目的は「ソ連」を「ロシア」に置き換え、「北朝鮮」を付けくわえれば、現在の日本にそのまま通用するように見えます。

それは、次のオズグッド助教授の解説についても同じです。「沖縄返還問題」を「沖縄米軍基地問題」に置き換えれば、そのまま今の日本に当てはまるのではないかと思えてきます。

ソ連、中国に接し、核アレルギーや沖縄返還問題を抱える日本は、米国にとって抱きかかえておきたい国で、当時、西ドイツ、インドに続いて、三番目に大きな世論工作が行われていた。この報告書でもUSISがいかに日本を重視していたかが分かる。


この話には、さらに続きがあります。しかし、もうかなり長くなってきたので、いったんここで止めます。それが英語教育とどうかかわるかについても次回に述べることにします。

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<註> 以上で紹介した「もう一つの京大事件」は、土屋氏の膨大な研究書『親米日本の構築:アメリカの対日情報・教育政策と日本占領』の最終章の、しかも最後の1頁に書かれているひとつのエピソードにすぎません。その大部分はアメリカが占領中に映画を通じてどのように日本の世論を誘導していったかの研究にあてられています。本当はその紹介をすべきなのですが今の私にはそのゆとりがありません。別の機会にします。いずれにしても本書は戦後史を知るための貴重な一書だと思います。
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「法人化」された国立大学の未来――京都大学の「国際化断行」は何をもたらすか

英語教育(2013/09/21)
Key Words: 家畜化教育、英語で授業、英語化=国際化?、グローバル人材、国立大学「法人」、京都大学「国際高等教育院」

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前回のブログではインド在住のモハンティ三智江さんからいただいた拙訳『チョムスキーの「教育論」』(明石書店、2006)の書評を紹介しました。

三智江さんには下記のようなお礼状を書きました。

御満足いただけるかどうか自信がありませんが、下記のようなかたちで転載させていただきました。もし何かお気づきの点・ご不満な点があれば御指摘いただければ幸いです。

http://pub.ne.jp/tacktaka/?entry_id=5045124

安倍内閣の教育再生実行会議の圧力で、いま高等学校だけでなく大学も「英語で授業」という攻勢が強くなってきていますので、いただいたメールのなかで三智江さまの下記の言葉がとりわけ強くひびいてきます。

>チョムスキーについては、言語学者という通り一遍の通念しかもっていなかった私でしたが、社会活動家・思想家としても活躍されていることを今回、先生のご本で初めて知りました。自国のことをここまで洞察力鋭く見透かして、内実を包み隠さず暴露するのは大変勇気のいる仕事と思います(ハーバード大学に比べると、在籍中のMITは言論の自由を認める風潮が流れていたとのことでしたが)。そういう意味でも感服いたしました。

東京大学と違って「自由の学風」を重んじノーベル賞の受賞者を多く出してきた京都大学が、下記のような状態に追い込まれていることは、日本の未来にとって深刻な問題を投げかけているように私には思えます。

「外国人100名雇用」計画に対する反対声明 ― 京都大学「国際高等教育院」構想に反対する人間・環境学研究科教員有志
http://forliberty.s501.xrea.com/archives/587


東京大学がハーバード大学だとすれば、チョムスキーのいるMIT[マサチューセッツ工科大学]に当たるのが京都大学ではないか、と私は思っていたのです。

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私が三智江さんへの返礼で京都大学のことにふれたくなったのは、『チョムスキーの教育論』第3章が「教育にとって大学とは何か」であっただけでなく、つい先日、関西の地方紙から次のようなメールがら届いたばかりだったからです。

そのメールには次のように書かれていました。

京都大学では今後5年間で100人規模の外国人教員を雇い(毎年20人ずつ)、全学共通科目(教養科目)の半数以上を英語で開講するという計画が進んでいます。

当初は「グローバル人材育成推進事業」に落選し、一旦は頓挫したかに見えましたが、後に「国立大学改革強化推進事業」に拾われ、30億の補助金と共に強力に推進されようとしています。

(正確には後に修正され、補助金の期限となる5年後には30~40%を英語で開講となったが、他のところで2020年までにさらに150人規模 (先述の100人とは別)の外国人教職員を雇うことが言われているため、最終的には半数を超えると思われる。)

しかも外国人教員の雇用にあたっては各部局のポストを用いることになっており、各部局では専門科目を英語で開講するよう迫られることになります。(後略)


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このメールを見て驚愕しました。

というのは、「自由の学風」を重んじてきた京都大学が、安倍内閣「教育再生実行会議」の案に、ここまでからめ取られるとは予想だにしていなかったからです。

福島原発事故で露呈されたように、東京大学は政府・文科省の御用機関でした。それと違って京都大学は、「自由の学風」を重んじてきたがゆえにノーベル賞の受賞者も多く輩出してきたのではないか、と私はかねてから思ってきました。

そのような私の信頼・期待が、上記のメールで、ズタズタに引き裂かれてしまいました。「京都大学、お前もか!?」「英語にうつつを抜かすようになった大学からはノーベル賞は生まれない」そんな思いでした。

拙著『英語教育が亡びるとき』で書きましたが、英語は中野好夫氏のいう「英語バカ」を生み出す不思議な魔力を持っているからです。その対極的存在が益川敏英氏ではなかったでしょうか。

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上記のメールでは、「そればかりでなく、"会議や各種書類の英語化の推進" までも謳われている」とありました。外資系企業ならいざ知らず、いったい誰のために会議を英語でおこない、書類まで英語化しなければならないのでしょうか。

『チョムスキーの教育論』で述べられている「家畜化としての教育」がこれほど露骨に顕在化した例は他にないのではないかと唖然としました。こんな案を上意下達に提示されて誰も反対するひとが京大にはいなかったのか!?

そう思っていたら(三智江さんの返礼にも書いたことですが)下記のような動きが京大にも存在していたことを知りました。

「外国人100名雇用」計画に対する反対声明
― 京都大学「国際高等教育院」構想に反対する人間・環境学研究科教員有志

http://forliberty.s501.xrea.com/archives/587

「滝川事件」で学問の自由と大学の自治を問いただした京都大学(1933)、「京大天皇事件」で象徴天皇のあり方を問いただした京都大学(1951)は今も健在と知り、少し安心しました。

上記の反対声明は下記の文言で終わっています。

6)案のなかには、今後「会議や各種書類の英語化の推進」を図るという内容まで含まれているが、なぜ日本にいながら、全体の割合のなかでは少数派の外国人に合わせおもねって、日本人があえて議論の劣勢となるような、あたかも植民地政策を思わせるような状況作りを強制しなければならないのか。あまりにも露骨に英語を崇拝して屈従しようとする総長の態度は、愚の骨頂である。


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ところで、国立大学「法人化」が正式に決定されたのは2003年の国会でした。その時点で大学「家畜化」のレールは敷かれていたと見るべきではないでしょうか。

私は議論が始まった当時の教授会で、「すべてを市場原理主義の観点でしか政策を考えないサッチャー政権でさえ国立大学の民営化・法人化を考えていない。にもかかわらず、なぜ日本が率先して国立大学を法人化しなければならないのか」と問いただしました。

しかし残念ながら、その私の意見は荒唐無稽な物言いであるかのように冷笑され、無視されました。そして現在の事態に至っています。。

モハンティ三智江さんの『チョムスキーの教育論』の書評のなかに次のような文言があります。

企業が[明文化された法律によってではなく判例の積み重ねで]いつのまにか「法人」という「死なない個人」「並外れた富と力を持ったパーソン」にのし上がったとの説にも納得し、重い真理を見ました。

肝心の教育論については、門外漢ゆえ稚拙な感想しか申し上げられないのですが、アメリカの教育制度は、自由を重んじ、ディベートなども盛んに行われていると錯覚していたので、飼いならされている生徒の実態が日本とあまり変わらないように思えて、意外でした。

最初、「教育の家畜化」とはなんのことかと疑問を感じながら読み進めていき、納得した次第でした。

中米情報の詳細も、アメリカとの絡みで大変読み応えがありました。ニカラグア、キューバ、メキシコ、ホンジュラス諸国が市場原理主義のいけにえになっている実態や、残忍な拷問が行われながら『ニューヨークタイムズ』などの大手メディアが実態を報道してこなかった情報操作の罪も初めて知りました。


「法人」「教育の家畜化」という言葉が今ほど深刻で切実な重みをもって響いてくるときはないのではないでしょうか。

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先に紹介したメールは、「英語力=貧困力など、英語教育をめぐる問題について広く論じておられる先生の意見を、ぜひおうかがいしたい」と結んでありました。

下記の拙論は、京都大学国際シンポジウム「大学のグローバル化と複言語主義」で問題提起したものに手を加えたものです。時間のある方は御一読いただければ幸いです。

「大学における英語教育を再考する ― はたして英語力=研究力、英語力=経済力、英語力=国際力なのか?」
http://www42.tok2.com/home/ieas/kyotoUniversitySymposium2010.pdf
(日本フランス語教育学会『紀要』Vol.6, No.2, 2011:166-72)

それにしても、この国際シンポジウムで議論された「複言語主義」はどこへ消えてしまったのでしょうか。

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<註> 実を言うと、入試のとき私の第一志望は京都大学理学部物理学科でした。湯川秀樹『旅人』、武谷三男『物理学入門』などを読んで京都大学に行きたくなったのです。しかし見事に蹴落とされ、翌年は東大を受験しました。自分に理論物理学の才能がないものと諦めて「教養学部基礎科学科」に行こうと思ったのです。結果的には「教養学部教養学科」で科学史科学哲学を専攻することになりましたが、いま考えてみると、これも武谷三男『物理学入門』の影響を受けています。ちなみに武谷三男は、京都大学では、益川敏英氏を育てた坂田昌一と共に、湯川秀樹の高弟であり共同研究者でもありました。

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書評『チョムスキーの「教育論」』(明石書店、2006)

家畜化教育、チョムスキー教育学、市場民主主義の生贄(いけにえ)、「法人」という死なない個人(2013/09/16)
「チョムスキーの『教育論』」

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 「EH研究会」という英語教育のメーリングリストを通じて、インド在住の作家モハンティ三智江さんと知り合いになりました。
 そして「インドの英語事情」など色々やりとりしているうちに拙訳『チョムスキーの「教育論」』について鋭くかつ暖かい書評をいただきました。
 いま安倍内閣の「教育再生実行会議」による教育破壊(そして生活破壊)が強力に進行しつつあるときだけに、この書評を本ブログで紹介したくなり、許可をお願いしたところ快諾をいただきました。そこで以下に転載させていただくことにしました。
 なお『チョムスキーの「教育論」』の目次は下記のようになっています。
序 章 チョムスキー教育学(ドナルド・マセード)
第1章 「家畜化教育」を超えて——マセードとの対話
第2章 教育にとって「家畜化」とは何か
第3章 教育にとって大学とは何か
終 章 教育にとって市場経済とは何か
補 章 チョムスキー教育学・補遺
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<註> モハンティ三智江さんの公式ブログをインターネットで調べてみたら次のような自己紹介が載っていました。
作家・エッセイスト。 1987年インド・オリッサ州の聖地プリーに移住、現地男性と結婚後ホテルオープン、文筆業の傍ら宿経営に携わる。著書には「お気をつけてよい旅を!」、「車の荒木鬼」などがある。文芸思潮「アジア文化社)主宰の2010年度・銀華文学賞奨励賞
http://michiemohanty.japan-site.net/
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寺島先生
 先生と奥様のご共訳であるご高著「チョムスキーの『教育論』」、デリーまでの二泊三日の夜行列車内で一気に読ませていただきました。翻訳が適切でわかりやすく、大変読み応えがありました。
 チョムスキーについては、言語学者という通り一遍の通念しかもっていなかった私でしたが、社会活動家・思想家としても活躍されていることを今回、先生のご本で初めて知りました。
 自国のことをここまで洞察力鋭く見透かして、内実を包み隠さず暴露するのは大変勇気のいる仕事と思います(ハーバード大学に比べると、在籍中のMITは言論の自由を認める風潮が流れていたとのことでしたが)。そういう意味でも感服いたしました。
 ベトナム戦争時、米軍機を北に見せかけ、南ベトナムを爆撃していた事実や、広島の原子爆弾の現場撮影フィルムが戦後アメリカで娯楽映画としてかかっていたというくだりには、びっくりさせられるとともに、おぞましさを覚えました。
 インドも社会的にはいろいろ問題を抱える国で、昨今のレイプ事件など、かなりあくどく残忍な国民性があらわになっていますが、アメリカの二枚舌は表面的には隠されているだけに、よりやっかいかもしれません。
 聖と魔が渾然一体となったインドの悪は、より剥き出しの原始的なもので、アメリカのそれは仕組まれた文明悪という気がいたしました。
 企業が[法人という]死なない個人、並外れた富と力を持ったパーソンにのし上がったとの説にも納得し、重い真理を見ました。
 肝心の教育論については、門外漢ゆえ稚拙な感想しか申し上げられないのですが、アメリカの教育制度は、自由を重んじ、ディベートなども盛んに行われていると錯覚していたので、飼いならされている生徒の実態が日本とあまり変わらないように思えて、意外でした。最初、「教育の家畜化」とはなんのことかと疑問を感じながら読み進めていき、納得した次第でした。
 中米情報の詳細も、アメリカとの絡みで大変読み応えがありました。ニカラグア、キューバ、メキシコ、ホンジュラス諸国が市場民主主義のいけにえになっている実態や、残忍な拷問が行われながらニューヨークタイムズなどの大手メディアが実態を報道してこなかった情報操作の罪も初めて知りました。
 当初の予定より、一年遅れて刊行された旨が後記(あとがき)に書かれてありましたが、出版を延期してでも、補章として中米政変を詳細にお調べになって付け足されたことは、同書の価値をさらに高めております。
 知人といわれるチョムスキーの書を見事に意訳された寺島先生のご労力にはまこと頭の下がる思いがいたしました。プロジェクトにご協力なさった現場の英語教師の方々、奥様のご支援、チームワークが生きているお仕事ですね。
 はるばる当地プリーをお訪ねいただき同書をご贈呈いただいたT先生にも、改めて御礼を申し述べたいと思います。お気遣い、本当にありがとうございました。
 久々に良書を読ませていただいたとの満悦感があり、読後感はずしりと重いものがありました。重ねて、深謝申し上げます。
 まずはお二方への御礼かたがたつたない感想まで。

モハンティ三智江


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"Big Brother" の面目躍如たるオバマ大統領(番外編)――スノーデン氏がノーベル賞候補に!そのうえドイツで「内部告発賞」を受賞!!

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「スノーデンは裏切り者ではなく、英雄だ」という看板を掲げてオバマに抗議するボストン市民

http://rt.com/usa/g20-russia-snowden-us-673/

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オバマ氏がシリア爆撃を一時見合わせるようです。

世界の世論が大きく反戦に傾いているだけでなく、アメリカ国内の世論も爆撃反対にますます傾いているからです。それどころか議会でも賛成を得られそうにないことが明らかになってきています。

国連憲章は国連の承認なしに他国を武力で攻撃することを許していません。安全保障理事会を開くゆとりがないほど危機が迫っているときは、例外として自己防衛のための武力使用を認めていますが、シリアがアメリカを攻撃することは今の情勢では考えられません。

ですからアメリカのシリア爆撃が国際法違反であることは誰の目にも明らかでした。

そのうえ、シリア政府が本当に化学兵器を使ったのかを国連が調査しているときに、そしてまだその結果が出ていないときに、一方的に爆撃を急ぐことは、アメリカに何か隠したいこと、世界の目をシリアに集中させたいことがあるからだと思われても仕方がないでしょう。

だからこそ、アメリカがこのような行動をとる一つの大きな理由として、「アメリカの情報機関NSAが、国家・企業・個人を問わず、世界中いたるところでスパイ行為をしていることが暴露され窮地に立たされている」ことにあるのではないかと、推測されるのです。

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<註> そもそもアメリカが他国の化学兵器を「人道上の観点から放置しておけない重大事」と言うのであれば、自分がこれまでおこなってきた数々の戦争犯罪を自己批判してから始めるべきでしょう。ベトナム戦争における枯れ葉剤、イラク戦争における白燐弾や劣化ウラン弾などなど(サダム・フセインによる「クルド人への毒ガス使用」を裏で支援してきたのもアメリカでした)。下記映像をぜひ見てください。
http://www.youtube.com/watch?v=ZwWaQ0_c8wI(約5分)


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このような推測を裏づけるかのように、ブラジルやメキシコの大統領官邸の盗聴など、さらに新しい事実が次々と暴露されています。それを思いつくままに列挙すると次のようになります。

「NSAがブラジルの国営石油企業をスパイ」
NSA Spying Extends to Brazilian State-Oil Firm
http://www.democracynow.org/2013/9/9/headlines#998(September 09, 2013)
「NSAがあらゆる種類のスマートホンに侵入」
Report: NSA Can Hack into All Smartphones
http://www.democracynow.org/2013/9/9/headlines#9910(September 09, 2013)
「NSAが2011年だけでも231回のサイバー攻撃、それを『積極的防御』として賞賛」
Snowden leaks: NSA conducted 231 offensive cyber-ops in 2011, hailed as 'active defense'
http://rt.com/usa/nsa-cyber-operations-classified-247/(August 31, 2013)
「アメリカ情報機関の『闇予算』"black budge" が526億ドル」
Snowden reveals US intelligence's black budget: $52.6 billion on secret programs
http://rt.com/usa/snowden-leak-black-budget-176/(August 29, 2013)

破産都市デトロイトに象徴されるように、いまアメリカ全土で財政赤字を理由に次々と緊縮財政に追い込まれる都市が続出し、大量の学校閉鎖と教員の大量首切りは深刻な問題になっています。

その一方で、オバマ氏が無人殺人機を中心にした秘密戦争を世界中に拡大し、その戦争遂行のために情報機関(民間に下請けさせている大量の情報機関をふくむ)の秘密予算を野放図に拡大しているのです。

このようなことが知られれば、国民の怒り・世界の世論をかき立てずにはおきません。今やそれが周知の事実になろうとしています。だからこそ、このような国民の怒り・世界の世論を別の方向に向けるために、どうしてもシリア爆撃は必要でした。

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<註> アメリカをシリア爆撃に駆り立てているもう一つの要因に、イスラエルがアメリカによる黙認のもとで、毎日のようにパレスチナの地を「植民」という名で略奪しつつあるという現実があります。これにたいする世界的世論も日々きびしくなりつつありますから、このような世論を別の方向に向けるためにもシリア爆撃は必要だったでしょう。

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兵士のなかで蔓延しつつある厭戦気分と政府不信
http://rt.com/op-edge/us-military-sick-syria-war-352/

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しかし、このようなオバマ氏の努力にもかかわらず、国民の怒り・世界の世論が変わる気配はありませんでした。むしろオバマ不信が強まりました。私は、これもスノーデン氏のおかげだと思っています。

というのは、スノーデン氏が断固として「国民の知る権利」を行使したおかげで、オバマ氏の偽善と氏による国家犯罪が暴露され、アメリカの世界的権威は失墜しつつあるからです。こうして今や兵士のなかでも厭戦気分と政府不信が蔓延しています。

「チョムスキー:凋落しつつある帝国の権力」
Noam Chomsky: Imperial Power on the Decline
http://www.zcommunications.org/america-s-imperial-power-is-on-the-decline-by-noam-chomsky(Aug 03, 2013)
「兵士のなかで蔓延しつつある厭戦気分と政府不信」
US military sick and tired of war, have no faith in government
http://rt.com/op-edge/us-military-sick-syria-war-352/(September 03, 2013)

このような流れのなかで嬉しい知らせがありました。それは、「スウェーデンの学者がスノーデン氏をノーベル平和賞の候補に推薦した」というニュースです。それをDemocracyNow! は次のように報じています。

NSAの内部告発者エドワード・スノーデン氏がノーベル平和賞に推薦された。

平和賞選考委員会への手紙の中で、スウェーデンの社会学教授Stefan Svallfors氏は、「この世界を少しでもより良く安全なものにするために英雄的な犠牲をはらった」と述べている。

またSvallfors氏は、「この賞をスノーデン氏に授与することによって同委員会の『不名誉』をつぐなうことにもなるだろう」と示唆した。オバマ氏への授賞という2009年におこなった『気まずい』決定によってこうむった『不名誉』のことである。

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<註> 原文は次のとおりです。
Swedish Professor Nominates Snowden for Nobel Peace Prize
http://www.democracynow.org/2013/7/16/headlines#7162
  National Security Agency whistleblower Edward Snowden has been nominated for the Nobel Peace Prize.
  In a letter to the prize committee, Swedish sociology professor Stefan Svallfors cites Snowden's "heroic effort at great personal cost," saying he has "helped to make the world a little bit better and safer."
  Svallfors also suggests giving the award to Snowden might make up for the "disrepute" incurred by the committee's "ill-conceived" decision to give President Obama the award in 2009.

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上記に引き続き、もう一つの嬉しい知らせがありました。それは、スノーデン氏がドイツで「内部告発賞」“whistleblower prize”を授賞したというニュースです。それをRTは次のように報じています。

NSAの元契約職員だったエドワード・スノーデン氏が、ドイツで隔年に授与される「内部告発賞」(約3900ドル相当)を受賞した。NSAによる盗聴行為を暴露するという「勇気ある行為」を讃えたものだった。

当日の「内部告発賞2013」授賞式の挨拶でスノーデン氏は次のように述べた(ただし氏がロシア亡命中で出席できないため、元CIA職員のJacob Appelbaum氏が代読した)。

「公共の利益のためにおこなおうとした私の内部告発という行為が、このようなかたちで求められるということは大いなる光栄です」

「しかし、秘密機関NSAによる憲法の基本的権利への侵害にたいして、いま力強い変化が起きつつありますが、これをもたらしたのは私ではなく民衆の運動です。」

「権力にたいして真実を告げることは、内部告発者の自由を奪い、家族や国家にとっても大きな苦痛を強いてきましたが、これはひとえにアメリカの法律が国民を十分に保護せず、公益を守ることにかけて欠点があることによるものです」

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<註> 原文は次のとおりです。
Snowden wins whistleblower award in Germany
http://rt.com/news/snowden-prize-whistleblower-germany-255/(31.08.2013)
  Former NSA contractor Edward Snowden has been awarded the biennial “whistleblower prize” in Germany, worth some $3,900, in recognition of his “bold efforts” to expose the monitoring of communications data by his former employer.
  In Snowden's address on the presentation of the 2013 Whistleblower Award - channeled by internet activist and journalist Jacob Appelbaum - the former CIA employee said “it is a great honor to be recognized for the public good created by this act of whistleblowing.”
  However, he acknowledged that “it is not [him], but the public who has affected this powerful change to abrogation of basic constitutional rights by secret agencies.”
  In his statement, he said that “speaking truth to power has caused whistleblowers their freedom, family, or country” in the US due to the country's “weak legal protections” and “bad laws that provide no public interest defense.”

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この「内部告発賞(The whistleblower award )」は、1999年に、「ドイツ科学者協会(the Association of German Scientists)」と「核兵器に反対する法律家協会」(IALANA:the International Association of Lawyers Against Nuclear Arms )」のドイツ支部が共同で始めたものだそうです。

日本でも、このような団体がいま緊急に求められているように思います。なぜなら、いま大きな問題になっているTPPは、アメリカの国会議員でさえ、その内容を十分に知らされることがないまま、秘密裏に審議が進められているかららです。

これがいかに一般民衆の利益を踏みにじり巨大多国籍企業の利益のみを重んじる内容になっているかは、極秘のなかで審議が進められていることそのものに象徴的に表れていると考えるからです。もし公開のなかで審議が進められれば民衆の巨大な反対運動が起きることが分かっているからです。

いまこそ「日本のスノーデン」と、彼らを守る組織・彼らを守る法律が求められています。また、このような人物がいたら原発も今のような事態になっていなかったでしょう。





The whistleblower award was first awarded in 1999 under the auspices of the Association of German Scientists and the German chapter of the International Association of Lawyers Against Nuclear Arms (IALANA).

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