翻訳:オバマ大統領が皆に知られたくない、「イスラム国」に関する26の事実

平和研究、国際教育、アメリカ理解(2015/01/24)
イスラム国領土の急拡大
アメリカの空爆で、シリア領内で「イスラム国」が支配する地域は3倍に拡大
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201501190000/

 イスラム武装集団が、72時間以内に2億ドルを払わなければ拘束している日本人2人を殺害すると予告するメッセージを動画サイトに投稿し、日本中に衝撃波が走りました。
 しかし、この「イスラム国」については不可解なことが多すぎます。突然この集団が大手メディアに登場したとき、私にふたつの疑問が湧きました。
 ひとつは彼らがシリア方面からイラクの首都バクダッドに向かって進撃してきたときの速度があまりにも速かったことです。
 アメリカのブッシュ政権が嘘をついてイラクに侵略を開始したとき、イラク南部のクウェートから上陸を開始したのですが(2003年3月20日)、バクダッドに達する(4月7日)までに要した日数よりも、はるかに短い日数で、バクダッド近くまで侵攻しています。
 世界最大最強の軍隊を誇るアメリカ軍が、イラク戦争でイラク軍と闘いながらバクダッドに達することができたよりも短い日数で、どうして「イスラム国」の武装勢力が、易々とバクダッド近くまで侵攻できたのでしょうか。
 というのは、イラク軍はアメリカの最新兵器で武装されていましたし、裏でアメリカの援助や軍事指導があったのですから、寄せ集めのゲリラ部隊であった「イスラム国」の武装集団と闘って、そんなに簡単に敗走するというのは、考えられないからです。

 もう一つの疑問は、アメリカの情報機関は、「イスラム国」なるのものが突然うまれてきたこと、その武装集団がバクダッドに向かって進撃していたとき、なぜそれを放置してきたのか、という疑問です。
 いまアメリカはシリア領内で「イスラム国」の武装集団を空から爆撃しているわけですが、ニュースの映像を見ていると、「イスラム国」の武装集団がバクダッドに向かって進撃しているとき、たくさんの武装集団を乗せたトラックが旗をなびかせ列をなして砂漠を横切っていく光景が、繰りかえし画面に映し出されました。
 アフガニスタンやパキスタン、さらにはイエメンにおけるアメリカの無人爆撃機を見れば分かるように、米軍は地上を走る車の人物までも空から特定して攻撃できる能力を誇っているのですから、砂漠をある意味では裸同然の状態で走っているトラックを空から攻撃して壊滅させることができたはずなのです。
 それが、ほとんど無傷の状態でバクダッド近くまで侵攻できたのは、実に不可解としか言いようがありません。これが大手メディアに「イスラム国」が登場したときに私の頭に浮かんだ二つ目の疑問でした。

 しかも、最近の映像を見ていると、アメリカによる「イスラム国」への爆撃が進めば進むほど「イスラム国」の領土は広がって行くばかりです。これは、ますます奇怪です。櫻井ジャーナルによると、昨年9月と比較してシリア領内で「イスラム国」が支配する地域は3倍に拡大したそうです。
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/
 もともと「イスラム国」の武装集団は、シリアのアサド政権を倒すために、アメリカやイスラエル、フランスなどのEU諸国、さらにはサウジアラビアなどイスラム原理主義諸国によって訓練や支援を得てシリアに送り込まれた種々雑多な反乱軍の一派に過ぎませんでした。それなのに、いつのまにアメリカや欧米と敵対する勢力になったのでしょうか。
 このように「イスラム国」についての疑問は尽きることがありません。そんな疑問をいだいていたとき、次に紹介するカナダのオタワ大学教授ミシェル・チョスドフスキー氏の「Twenty-six Things About the Islamic State (ISIL)that Obama Does Not Want You to Know About」という論考を目にして、その疑問の一部が解けたような気がしました。
 このたび私の主宰する研究所の研究員からその翻訳が届きましたので以下に紹介します。なるべく早い方がよいと考え訳文を十分に推敲していませんが、チョスドフスキー氏の言いたいことは十分に伝わるものと考えます。


<註1> なお、同じく「イスラム国」に関するもので下記のインタビューも非常に示唆に富むものではないかと思います。これは元FBI職員だったエドモンズ女史(Sibel Edmonds)へのインタビューだけに、非常な迫力と説得力を感じました。英文を読むゆとりのある方はぜひ参照ください。
「アメリカは、テロ戦争産業を維持するために、テロの恐怖を復活させたいのだ」
U.S. wants to revive terror scare in order to keep up the terror war industry - FBI whistleblower

<註2> アメリカの民間軍事会社Black Waterはイラク戦争で悪名を高めましたが、前回のブログで紹介したジェレミー・スケイヒルの著書『Black Water(黒い水=石油)』、これを元にした映画『Dirty Wars=汚い戦争』(ドキュメンタリー賞受賞)で、アメリカの残虐非道ぶりは完膚無きまでに暴露されました。しかし、このBlack Waterが今こっそり名前を変えて、ウクライナその他で相変わらず暗躍しているようです。[それにしても、「黒い水=石油」という会社名がすでにアメリカによるイラク侵略の本質をみごとに表してはいないでしょうか。]

<註3> しかし私が今度の「日本人の人質事件」で驚いたのは、すでに日本にもそのような民間軍事会社が存在し自衛隊と結びつきを深めているということでした。安倍政権がアメリカのプードル犬になって、アラブ諸国の紛争に介入するようになれば、フランスで起きたような事件が日本でも起きる可能性があります(それが、日本を米仏と同じ監視国家にするための、安倍氏の狙いなのかも知れません)。なお、この事件で人質になったふたりの人物の不可解な背景については下記ブログ「世に倦む日々」を御覧ください。
http://critic20.exblog.jp/23360557/


オバマが皆に知られたくない、
「イスラム国」に関する26の事実

Twenty-six Things About the Islamic State (ISIL)
that Obama Does Not Want You to Know About

ミシェル・チョスドフスキー
Michel Chossudovsky
Strategic Culture Foundation 2014.11.19
(原文はGlobal Research 2014.11.19に掲載)


イスラム国に対するアメリカ主導の戦争は、大きなペテンである。

「祖国アメリカを防衛する」ために、「イスラムのテロリスト」を追撃し、世界中で先制攻撃の戦争を仕掛けることは、この軍事計画を正当化するための方便である。

イラクとレバントのイスラム国家(ISIL)は、米国情報機関がつくったものである。イラクとシリアにおけるワシントンの「反テロリズム計画」は、テロリストを支援することにある。 (訳注:レバントは地中海東部沿岸地方)

2014年6月に始まったイスラム国(IS)戦闘団によるイラクへの侵入は、米国やNATOやイスラエルによって秘かに支援され、綿密に計画された軍情報部作戦の一部である。

反テロ指令は作り話である。米国こそが、筆頭「テロ支援国家」である。
イスラム国は、米国やその同盟国によって守られている。もしイスラム国の軍団を壊滅させたかったのならば、6月に、トヨタのピックアップトラックの軍用車隊が、シリアからイラクへ入る砂漠を横断するときに「絨毯爆撃」ができたはずだ。

シリア・アラビア砂漠は遮るものない地域である(下図参照)。ジェット戦闘機(F15, F22 Raptor, CF-18)の技術を持った国だったら、軍事的観点からすれば、短時間で有効な掃討作戦ができたはずだ。

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この記事で、私たちは大きな嘘に反駁する26項目を取り上げる。メディアでは人道的行動だと言っているが、シリアとイラクに向けられた大規模な軍事作戦は、数え切れない市民の死者を出すこととなっている。

反テロ作戦としてオバマの行動を支える、西欧メディアの強固な支持がなかったら、この軍事作戦は不可能だったはずである。


アルカイダの歴史的起源

1.米国は、アルカイダとその関連組織をソ連のアフガン戦争の最盛期からほぼ半世紀にわたって支援してきた。

2.CIAの軍事訓練所がパキスタンに作られていた。1982年から1992年までの10年間に、43カ国のイスラム諸国から約3万5千人のジハード戦士が、アフガニスタン聖戦で戦うためにCIAによって徴募された。
「CIA資金によって支払われた宣伝は、世界中の新聞とニュースレターに掲載され、ジハード参加への勧誘と動機づけがなされた。」

3.レーガン政権以来、ワシントンはイスラムのテロ・ネットワークを支援してきた。
ロナルド・レーガンはテロリストたちを「自由戦士」と呼んだ。米国はイスラム戦闘団に武器を供給した。それはすべて「良い大義」のためであった。つまりソ連と戦って体制転換をし、アフガニスタンの世俗政権を消滅させることにつながるのだ。
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ロナルド・レーガンは、1985年にホワイト・ハウスでアフガンムジャヒデン司令官たちと会見している。(レーガン・アーカイブ)
http://www.reagan.utexas.edu/archives/photographs/atwork.html

4.聖戦士(ジハーディスト)の教科書がネブラスカ大学によって出版された。「米国は数百万ドルを使って、暴力的な絵やイスラム戦闘団の教えに満ちた教科書を、アフガンの生徒たちに与えた。」

5.オサマ・ビン・ラディン(アメリカにとって怖い怪物であり、アルカイダの創設者)は、米国が支援した対アフガニスタン聖戦の初期の1979年に、CIAによって徴募された。彼は当時22歳で、CIAが支援するゲリラ訓練キャンプで訓練を受けた。

アルカイダは9・11攻撃の背後にはいなかった。2001年9月11日の事件は、アフガニスタンに対する戦争を正当化する根拠を与えた。つまりアフガニスタンがテロ支援国家であり、アルカイダを支持しているからという理由である。9・11攻撃は「テロに対するグローバル戦争」を公式化するために役立ったのだ。


イスラム国(ISIL)

6.イスラム国(ISIL)は元々、米国情報機関によって作られたアルカイダ系列の機関だった。それを支援したのは、英国M16、イスラエルのモサド、パキスタンのインター・サービス情報局(ISI)、サウジアラビアの総合情報最高機関(GIP)、つまり国家秘密警察マバーヒスRi’āsat Al-Istikhbārāt Al-’Āmah( رئاسة الاستخبارات العامة‎)であった。

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7.ISIL戦闘団は、アサド政権に向けられた、米国とNATOが支援するシリア反乱軍に参加していた。

8.2011年3月のシリア蜂起の開始から、NATOとトルコ最高司令部は、ISILとアルヌスラ(Al Nusrah)傭兵の徴募をおこなっていた。イスラエル情報筋によると、これは次のようにおこなわれていた:

「シリア反乱軍と共に戦うために、中東諸国やムスリム世界で、何千人というムスリムの志願兵を募集するキャンペーンがあった。トルコ軍はこれらの志願兵に兵舎を提供して、彼らを訓練し、確実にシリアへ侵入させた。(DEBKAfile, NATOが反乱軍に対戦車砲を与える。2011.8.14)」
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「オバマよ、私は、シリアのお前のアルカイダ反乱軍のために兵を配備するつもりはない。民衆よ、目覚めよ。」

9.ISIL軍の中には、西欧の特殊部隊や諜報作戦部員がいる。イギリスの特殊部隊やM16は、シリアの聖戦士(ジハーディスト)反乱軍を訓練することにずっと関わってきた。

10.西欧軍事顧問はペンタゴンと連絡をとって、テロリストたちに化学兵器の使い方を訓練してきた。

「米国といくつかのヨーロッパの同盟者たちは、シリアにおける化学兵器の備蓄方法について、シリア反乱軍を訓練するために、防衛請負会社を使っている」と米国高官と複数の上級外交官が日曜日CNNに話した。(CNNレポート、2012.12.9)

11.ISILの斬首の風習は、米国支援のテロリスト訓練プログラムの一部で、サウジアラビアやカタールで実行されている。
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(旗印のCIAの文字に注意)

12.米国の同盟者によって徴集された大多数のISILの傭兵は、ISILに加わることを条件にサウジの牢獄から解放された、有罪宣告を受けた犯罪者たちである。サウジの死刑囚監房棟の収容者が、テロ戦闘団に加わるように募集されたのだ。

13.イスラエルは、ゴラン高原からISILやアル・ヌスラ軍団を支援してきた。
(訳注:アル=ヌスラ軍団は、シリアで活動するサラフィー・ジハード主義の反政府武装組織。シリア、レバノンにおけるアルカーイダの下部組織である。)

ジハード戦士は、ネタニアフ首相やイスラエルIDF(イスラエル防衛軍)将校とも会っている。IDF高級将校が暗黙のうちに認めているところによると、「シリア内部のグローバル・ジハード要素」(ISILとアル・ヌスラ)は、イスラエルによって支援されている。

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上の写真で「イルラエル首相ベンジャミン・ネタニエフ(手を差し伸べている)と防衛大臣モシュ・ヤアロン(首相の向かって右)が負傷した傭兵を見舞ってしる。シリアとのゴラン高原占領地区国境のイスラエル野戦病院、2014.2.18」


シリアとイラク

14.ISILは西側軍事同盟の歩兵部隊である。彼らが口には出せない指令とは、米国というスポンサーに身代わりになって、シリアやイラクで大混乱や破壊活動を起こすことなのである。

15.アメリカ上院議員ジョン・マケインは、シリアでジハード・テロリスト指導者たちと会っている。(写真を参照)
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16.イスラム国(IS)民兵団は、現在「反テロ」指令の標的とされているが、秘かに米国による支援が続いている。ワシントンとその同盟軍は、イスラム国に軍事援助を与え続けている。

17.米国とその同盟者たちの爆撃は、ISILをねらってはいない。彼らは、イラクやシリアの工場や石油精油所を含む、経済的インフラを爆撃している。

18.ISのカリフ(教主)統治計画は、イラクやシリアを、別々の領土に切り分けるための長期にわたる米国外交政策計画の一部である。つまりスンニ・イスラム・カリフ国とアラブ・シーア共和国とクルド共和国に分けることである。


テロに対するグローバル戦争(GWOT)

19.テロに対するグローバル戦争(GWOT)は、競合する価値と宗教の間の戦争という「文明の衝突」とされているが、現実にはそれは、戦略的・経済的目的によって導かれた、まさに侵略戦争である。

20.米国に支援されたアルカイダ・テロ戦闘団は、(秘かに西欧情報機関に支援されて)マリ共和国、ニジェール、ナイジェリア、中央アフリカ共和国、ソマリア、イエメンに展開してきた。

中東やサハラ以南のアフリカやアジアの、こうした様々なアルカイダ関連組織は、CIAに支援された「情報機関の財産」である。それらは混乱を起こし、内部衝突をつくり出し、主権国家を不安定化するために、ワシントンによって利用されている。
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ミシェル・チョスドフスキーによる著書『米国の「テロ戦争」』

21.ナイジェリアのボコ・ハラム、ソマリアのアル・シャバブ、リビア・イスラム主義戦闘グループ(2011年NATOによって支援されていた)、イスラム主義モグレブのアルカイダ(AQIM)、インドネシアのジェマー・イスラミア(JI)、その他アルカイダ系のグループは、ひそかに西側情報機関によって支援されている。

22.米国はまた、新疆ウィグル自治区のアルカイダ系テロリスト組織を支援している。その主要な目的は中国西部に及ぶ政治的不安定化を引き起こすことである。

中国のジハード主義者たちは、「中国で攻撃をおこなうために」イスラム国家から「テロリストの訓練」を受けていると報告されている。これら中国に基盤を置くジハード主義者組織の公表された目的(それは米国の利益になる)は、中国西部にまで及ぶイスラム・カリフ国を打ち立てることである。(ミシェル・チョスドフスキー、米国のテロ戦争、グローバル・リサーチ、モントリオール、2005年、第2章


自家製のテロリスト

23.テロリストR Us: 米国がイスラム国の暗黙の創設者であるにもかかわらず、オバマの聖なる指令は、ISILの攻撃から米国を守ることである。

24.自家製のテロリストの恐怖というのは、作り話である。それは、欧米政府やメディアによって、市民的自由を廃止して、警察国家を導入しようと目的で宣伝されているものである。ジハード主義者によるテロ攻撃やテロ警告は、いつも仕組まれた出来事である。それらは周囲に恐怖や脅しの雰囲気をつくり出すために用いられる。

一方、「イスラムのテロリスト」を逮捕し、裁判にかけ、宣告を下すことは、祖国米国の安全保障体制と法執行機関の合法性を維持するものであり、それはますます軍国主義化している。

その究極の目的は、何百万人の米国人の心に、敵は現実に存在して、米国政府は市民の命を守ってくれるという考えを植え付けるためである。

25.イスラム国家に対する「反テロリズム」キャンペーンは、イスラム教徒を悪魔化することに貢献した。イスラム教徒は、欧米世論の目には、ますますジハード主義者を連想させるものとなった。

26.「テロリズムに対するグローバル戦争」の正当性にあえて疑問を投げかける人は誰でも、テロリストと烙印を押され、反テロリスト法に問われることになる。

「テロに対するグローバル戦争」の究極の目的は、市民を従わせることであり、全体的に米国の社会生活を非政治化させることであり、人々が考えたり、概念化して事実を分析して、米国を支配している疑わしい社会秩序に、疑問を抱いたりしないようにすることである。

オバマ政権は、国連安保理との共犯的な役割は言うまでもなく、同盟国の支持を得て、邪悪な合意を押しつけた。西側メディアはその合意を喜んで受け入れた。西側メディアは、イスラム国家を独立した存在として、つまり西側世界に恐怖をもたらす外敵として描いた。

大きな嘘が「真実」になった。

「大きな嘘」にノウを突きつけよう。その声を広げよう。真実は、究極的に力強い武器だ。



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フランスにおける「シャルリー・エブド」襲撃事件を考える

国際理解、平和研究、英語教育 (2015/01/17)
風刺漫画ムハンマド
「シャルリー・エブド」紙の品性
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201501150000/

 預言者モハメッドの風刺画を載せたフランスの『シャルリ・エブド』紙への襲撃事件が世界中のメディアを騒がせていますが、これについてローマ教皇でさえ、「言論の自由は他者を侮辱する権利ではない」と言っていることに、先ず注目しておきたいと思います。
http://japanese.ruvr.ru/news/2015_01_16/282132187/

 ところで、この事件で利益を得るものは誰でしょうか。少なくともイスラム教徒ではありません。まず第一に最も利益を得るのは、最近とみに人気が下降していたフランス大統領オランド氏でしょう。
 元アメリカ大統領ブッシュ氏も人気が最も下降していたときに911事件が起きました。そして、この事件を契機にブッシュ氏の人気は急上昇し、同時にアメリカはジョージ・オーウェル『一九八四年』で描かれているような監視国家となりました。
 同じことが今フランスで起ころうとしています。フランス大統領オランド氏はアメリカとNATOの強い要請でロシアへの経済制裁に加担しました。こうしてロシアとの貿易で経済が潤っていたのを自ら潰すことによってフランス経済は急速に悪化し、人気は下降する一方でした。その支持率は昨年末で約15%でした。
 そこでロシアにたいする経済制裁をやめるべきだと発言した直後に、この事件が起きました。そしてパリは、「言論の自由」「テロとの戦い」を宣言するオランド支持のデモ(100万人をこえた)で溢れかえることになりました。世界40カ国の首脳がパリに馳せ参じたと言われています。
 [他方、最近とみに支持率を高めていた右派「国民戦線」のルペン女史はデモの先頭隊列に入れてもらえなかったのに、イスラエルでパレスチナ人弾圧の陣頭指揮をしているネタニヤフ首相が先頭隊列で堂々と行進している風景は異様でした。]


 第2に利益を得るのはイスラエルです。
 イスラエルの度重なるガザ地区への攻撃は目を覆いたくなるほど凄まじいものでしたし、西岸地区のパレスチナ人から土地や住宅を奪い自分たちの入植地を拡大していくようすは世界中に知れ渡ることになりました。
 そこで最近では、パレスチナを国家として正式に認める動きが、EU諸国で顕著になり始めていました。フランス議会もこの流れに乗って、12月2日に、パレスチナを国家として認める決議をしたばかりでした。しかし今回の事件でこの流れに歯止めがかかりそうですから、イスラエルは大喜びでしょう。
 イスラエルのネタニヤフ首相も、今度の事件を利用して「パレスチナはイスラム教徒の国だ」ということを強調する演説をしています。こうして、フランスだけでなくドイツでも北欧でも、イスラム教徒にたいする反感・恐怖が、一気に高まりましたから、イスラエルにとってこんなに好都合なことはありません。
 パリでは、風刺漫画紙『シャルリー・エブド』の編集部事務所とは別に、もうひとつの人質事件が起き、犯人は射殺されましたが、この舞台がユダヤ人地区の食料品店だったことも、イスラエルにとって格好の宣伝材料になりました。
 もう一つネタニヤフ氏にとって好都合なのは、ネタニヤフ氏の支持率も急激に下がり始めていて、近く3月に迫っている選挙で彼が首相の座を降りなければならなくなるかも知れない事態になっているのですが、こんどの事件を利用して再び支持率を上げることができるかも知れないからです。
 だからこそ今度の事件はイスラエルの諜報機関モサドが引きおこした「やらせ」ではないかという噂が出てくるわけです。モサドがすでにパリに出動しているという情報もありますし、事件を担当していた警察署長が執務室で自殺したのも、それと関係しているかもしれないという疑念が出てくる一つの理由になっています。
 <註> かつてイタリア政界を揺るがす事態になったNATO秘密作戦「グラディオ」の再来ではないか、という声も聞こえてきますが、これも上記のような事情を反映しているのでしょう。


 第3に利益を得るのはアメリカでしょう。というのは、アメリカでは警官が丸腰で無抵抗の黒人を些細な容疑で逮捕して絞め殺したり、銃で射殺するなどの事件が相継ぎ、しかも黒人を殺した警官が非公開の大陪審で無罪となることが連続して、アメリカ全土で巨大な抗議運動が広がっていました。
 この抗議運動を鎮圧するために重武装の警官が大量にかり出されただけでなく、ミズーリ州ファーガソンでは2000名以上の州兵までも出動させることを州知事が決定するほどの巨大な抗議運動が、ずっと続いていて収まる気配が見えませんでした。オバマ大統領が大陪審の決定を不当だと言うどころか、逆に黒人にたいして抗議行動の自制を呼びかけましたから、これが一層の怒りをかきたてることになりました。
 ところが今回のフランスの事件が起きたおかげで、全土に広がっていた抗議行動とアメリカ司法の腐敗ぶりが大手メディアから消えてしまい、世界の報道はフランス一色になりましたから、アメリカにとってこれほど好都合なことはありません。
 また、この事件とほぼ同時期にウクライナ東部地区で満員のバスが狙撃され、12名の人命が失われたほか、20人近くが怪我を負っていますが、これも、『シャルリー・エブド』への襲撃事件が新聞やテレビを占領したおかげで、大手メディアではほとんど報道されることはありませんでした。
 パリで殺されたフランス人には世界中の同情(とイスラム教にたいする怒り)が殺到しましたが、ウクライナ東部で殺されたウクライナ人はロシア語を話すという理由で無視されたのです。
 しかも、このバス狙撃事件のおかげで、ウクライナ問題正常化を話し合う独仏露ウクライナの4カ国首脳の会談は無期延期されてしまったのです。ですから、ネオナチを実行部隊としたクーデターによって成立した現在のウクライナ政府と、それを裏で後押しをしたアメリカ政府にとっても、フランス版「911事件」は実に好都合な事件でした。
 この行進には世界40カ国の首脳がパリに馳せ参じたと言われていますが、このなかにオバマ氏の姿はありません。アメリカからは司法長官エリック・ホルダー氏が(彼はすでに辞職を表明しています)パリに行きましたが行進に参加していません。
 元CIA職員ジョン・キリアクー氏など、アメリカの悪事を内部告発したものを次々と牢獄に送り、それを報道しようとしたジャーリストを、「情報源を明らかにしなければ牢屋に送るぞ」と脅迫しているオバマ政権ですから、「言論の自由を守れ」という大行進には恥ずかしくて参加できなかったのでしょう。



 ところで、アメリカでは、先述のとおり、「911事件」を口実にして、ジョージ・オーウェル『一九八四年』で描かれているような監視国家になりました。
 これはロシアに亡命せざるを得なくなったスノーデン氏によって暴露されたとおりです。(詳しくはスノーデン氏にインタビューしたグレン・グリーンワルド氏の著書『暴露、スノーデンが私に託したファイル』新潮社を参照ください。)
 そして今度はフランスが、この事件を口実に、驚いたことに左派政権であるはずの社会党党首の下で、アメリカと同じような厳しい監視国家になろうとしています。
 イギリスでも労働党の党首だったブレア氏が、ブッシュ氏と手をつないで、「大量破壊兵器」という嘘でイラク侵略にのりだしたのですから、左派と言われている政党もあまり信用ならないことがよくわかります。
 が、それでも当時のフランスは保守党政権であったにもかかわらずアメリカのイラク侵略に反対しました。
 ところが社会党党首オランド氏を頭にいただき革新政権であるはずのフランスが、アメリカ=NATOと一緒になってリビアのカダフィ政権転覆にのりだしたのですから、頭を傾げざるを得なくなったのですが、その後ますますアメリカとの連携を深め、ついにシリアのアサド政権転覆やロシアへの経済制裁に加担するようになりました。
 カダイフィ政権のリビアは世俗主義的国家です。アメリカと大の仲良しであるサウジアラビアのようなイスラム原理主義の国家(しかも王制の独裁国家)と違って、リビアは女性でも無料で大学に行けるアフリカでは最も豊かで自由な国だったからです[リビアについては藤永茂氏のブログ「私の闇の奥」に詳しい解説が載っています]。
 同じくアサド政権のシリアも世俗主義的国家であり、アメリカと大の仲良しであるサウジアラビアと違って選挙も実施されています。ですから独裁国家でありイスラム原理主義のであるという理由で攻撃するのであれば、バーレーンやサウジアラビアこそ、まず第一に攻撃の対象となるべきはずでしょう。
 しかし、たとえ独裁国家であっても、主権を無視して、国連決議なしに他国を攻撃することは国際法違反です。ですから、イラクの場合は「大量破壊兵器」が口実になりましたし、シリアの場合は「アサド政権が化学兵器を使って国民を殺している」というのが、反体制運動を支持し、シリア攻撃を攻撃する口実となりました。
 ところがロシアによって「アサド政権が化学兵器を使って国民を殺している」というのが嘘だったということが分かったにもかかわらず、アメリカはシリア爆撃をやめようとしませんでした。そこでプーチン氏が乗り出してアサド政権を説得し、化学兵器の廃棄を決めたのですが、ノーベル賞はプーチンではなく化学兵器を廃棄する団体に行ってしまいました。[これがノーベル平和賞です。]
 それは、ともかくこうしてアサド政権を倒す口実がなくなってしまったのですが、アメリカは政権転覆を諦めず、一貫してシリアの反体制勢力への支持・援助をやめていませんし、フランスもこの動きに同調しています。単に非暴力の反体制運動に援助するだけでなく、今や内戦状態になっている武装勢力に援助しているのです。
 そしてアサド政権がいかにも残虐なふるまいをしているかのようにメディアを通じて大宣伝した結果、ヨーロッパからたくさんのイスラム教徒が義勇軍としてアサド政権打倒の武装闘争に参加することになりました。その数5000人。その彼らが今ヨーロッパに帰り始めています。パリで『シャルリー・エブド』を襲撃したのも、そのような若者たちだと言われています。
 しかもアメリカが起こしたイラク戦争、その後に引き続くリビアやシリアの内戦(これをアメリカとNATO軍が裏で支援した)、さらにはアメリカの無人爆撃機によるイエメンでの相継ぐ暗殺(これには多くの一般市民が巻き込まれている)などで、何千人何万人もの死者を出し、何百万という難民がイラク、リビア、シリア、イエメンなどを逃れて、フランスを初めとするEUに流れ込んでいるのです。
 EUの多くの人々は流れ込んでくる大量のイスラム教徒を毛嫌いしていますが、そのような難民の流入をつくり出したのはEUでありNATO軍であったことを、もっと自覚すべきでしょう。


世界指導者たちがパリの「シャルリー・エブド」デモ行進へ架空参加を暴露する写真
世界の指導者の欺瞞行進
http://japanese.ruvr.ru/news/2015_01_14/282100526/

 ここまで書いてきたら、新しいニュースが飛び込んできました。シャルリ・エブド社の襲撃事件に抗議し、パリに集まった国家元首や高官らが追悼行進に参加した写真は捏造されたものだった、というのです。Voice of Russiaによれば、これを報じたのは、ドイツ経済ニュース(Deutsche Wirtschafts Nachrichten, DWN)だそうですが、記事の続きは次のように書かれています。

 政治家らが行進する姿を捉えた一枚は全世界を駆け巡った。パリでは11日、100万人を越える市民が行進に加わり、テロ事件での犠牲者への連帯を示した。ニュースに踊った文句は、その行進の先頭列には欧州の首脳らが参加し、追悼行進で市民と政治家らが一体感を示したというものだった。
 ところが、実際はこの写真は作られたものであった事が発覚した。政治家らは行進の先頭を歩かず、レオン・ブリュム広場へと続く封鎖された横丁を歩いており、政治家の後に続いていたのは「人民」ではなく、治安維持機関の職員らだった。政治家らの小さな団体の後ろは空白だった。DWNによれば、ル・モンド紙は撮影が行われたのは地下鉄のVoltaire駅付近だと確証づけた。
http://japanese.ruvr.ru/news/2015_01_14/282100526/


 また、「マスコミに載らない海外記事」という翻訳サイトの記事では、この同じ写真がソーシャル・メデイアに投稿されたものであり、シャルリー・エブド事務所襲撃直後、パリで行進を率いたとされる“世界の指導者達”は、実際は壮大なでっち上げの写真撮影に集まっていただけであることが暴露された、と指摘しています。
 以下は、その翻訳の続きです。

 マスコミでは、指導者達は、ほとんど必ず、すぐ後に大群衆が続くかのように見せかけるように写真やビデオで表現されるが、上方から撮影された一枚の写真で、連中が、厳重な警備の輪で行進参加者を封鎖する中、無人の街路で、わずか十列程で密集して並んで立っているのがわかる。
 この国家首脳の集合の反動的な性格と、人間の自由の擁護者を装おうとする連中の企みの詐欺行為を、これ以上、正確に象徴するものはない。
 写真で、参加者の中心には、支持率がここ数カ月、記録的に低く、昨年末には約15パーセントにまで落ちたフランスのフランソワ・オランド大統領がいた。シャルリー・エブド襲撃を取り巻く出来事が、国内、海外で、不人気な政策を推進する中、彼の政権を強化してくれるよう、大統領が願っているのは確実だ。
 [中略]カメラにポーズを取っている(しかも、一枚では、いもしない群衆に向かって、手を振っている)のは、その政権がパレスチナ・メディアを容赦なく弾圧しながら、何千人ものパレスチナ人を虐殺した、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相だ。 [以下略]
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2015/01/post-1148.html


 この記事では、上記に続けて「この行進には他にもヨルダン王や独裁君主制国家サウジアラビアの駐在フランス大使もいた。ヨルダンでは、その君主制を批判した罪で作家を15年間の刑にしているし、サウジでは、国家が支援するイスラム教ワッハブ派学校を侮辱したかどで罪に問われたブロガーに10年間の禁固刑を下している」とも書かれていました。


 フランスで展開された壮大なデモ行進は「壮大な偽善」だという指摘は他にも数多くあります。たとえばチョムスキーはデモ行進の参加者が "I am Charlie" というプラカードを掲げていたのをもじって下記のような題名の論文をZnetに載せています(原文は、Telesur に寄せられたものです)。
「我々はみんな○○だ―この空欄を埋めろ」
"We Are All... – Fill in the Blank"

https://zcomm.org/znetarticle/we-are-all-fill-in-the-blank/
http://www.telesurtv.net/english/opinion/We-Are-All---Fill-in-the-Blank-20150110-0021.html
 チョムスキーの結論は、アメリカやフランスにとっては、「自分たちの敵がおこなった小さなテロは身の毛がよだつほど恐ろしいものだが、自分たちのおこなった大きな国家テロは道徳的なものであり自分たちの記憶から簡単に消えてしまう」"Theirs, which are horrendous; and Ours, which are virtuous and easily dismissed from living memory." というものでした。

 また著書『BlackWater』およびそれをもとにした映画『Dirty War』でアメリカ民間軍事会社の実態を暴露して有名になったジェレミー・スケイヒルも、DemocracyNow!のインタビューで、デモ行進の先頭に立ったとされる世界の首脳たちについて「偽善の大サーカス」だと述べています。
"Circus of Hypocrisy":
Jeremy Scahill on How World Leaders at Paris March Oppose Press Freedom

http://www.democracynow.org/2015/1/12/circus_of_hypocrisy_jeremy_scahill_on
 スケイヒルは、「これはいわば偽善の大騒ぎでした。デモに参加した各国元首や政府代表は、ほとんど一人残らず、ジャーナリストに対する戦争をおこなってきた人々です」と語っています。

 なお、この「シャルリー・エブド」襲撃事件は、アメリカの「911事件」と同じく、事件の捜査を担当した警察署長エルリク・フレドゥ氏が執務室で自殺するなど、極めて不可解な要素を多く含んでいます。
 これらについてはGlobal ResearchやRTでも多くの論考があるのですが以下では日本語で読めるもののみを紹介しておきます。(それにしても「櫻井ジャーナル」や「マスコミに載らない海外記事」の著者の読解力には本当に感心させられます。)

「マスコミに載らない海外記事」 http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/
* 世界指導者連中、パリでポチョムキン村大集合(2015.01.16)
* シャルリー・エブド(2015.01.15)
* 希望を失った人々からのメッセージ(2015.01.14)
* シャルリー・エブド襲撃後の“言論の自由”という偽善(2015.01.11)
* シャルリー・エブドとツァルナーエフ裁判: Cui bono誰の利益になるのか?(2015.01.10)
「櫻井ジャーナル」 http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/
* 「反ユダヤ」の漫画家を解雇したシャルリー・エブドの「反イスラム」漫画が「言論の自由」の象徴(2015.01.15)
* 仏週刊紙を襲撃した事件に抗議するデモに虐殺と破壊を繰り返す国々の首脳も参加するという偽善(2015.01.13)
* デンマーク紙が掲載した漫画を転載した仏紙が襲撃されたが、西側メディアは言論の自由を放棄済み(2015.01.10)
* 仏紙が襲撃された事件の容疑者は、仏政府も武器を提供していたシリアの反政府軍で戦っていたとも(2015.01.09)


<註> 英語で読むゆとりがあるひとは下記にも目を通していただければと思います。しかし最近の英語教育は会話一辺倒ですから日本人の読解力は落ちる一方です。重要な情報を隠しておきたい権力者にとってはこれほど好都合なことはないでしょう。

* Who profits from killing Charlie?(この事件で誰が利益を得るのか)
* Charlie Hebdo: Mystery Surrounding Death of French Policemen(警官の死をめぐる不可思議な事実)
* Police Commissioner Involved in Charlie Hebdo Investigation “Commits Suicide”. Total News Blackout(報道から完全に消えた警察署長の「自殺」)
*Mourning Charlie Hebdo Journalists, While Ignoring that US-NATO State-Sponsored Terrorism is the “Number One Killer” of Journalists(ジャーナリストの最多殺人はUS-NATOスポンサーテロ)


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香港とウクライナ: 世界を破滅に追い込まないために英語教育はどうあるべきか

英語教育、平和研究、アメリカ理解(2015年1月7日)
年賀状2015

 あけましておめでとうございますと言いたいところなのですが、小選挙区制のもとで与党が圧勝し、金持ち大企業は減税で庶民は増税ですから、今年もあまり目出度い年になりそうにありません。唯一の良いニュースは共産党の躍進と沖縄県の与党勢力全滅でしょう。
 ところで世界情勢を見ると、アメリカによる「世界破壊」が深刻化し、解釈改憲で集団的自衛権を認めた現在、その「世界破壊」の片棒を日本も担がされる雰囲気がますます強くなっているようで、非常に怖くなってきます。特定秘密保護法を強行採決した背景には、このような事情もからんでいるのではないでしょうか。
 アメリカがウクライナのクーデターを裏で画策したこと、その実動部隊になったのはネオナチ勢力だったことは、今では周知の事実になってきていますが、香港「オキュパイ・セントラル」の運動も、やはりアメリカが裏で画策した結果であることは、まだまだ一般には認知されているとは言いがたいようです。
 しかしアメリカが「マフイアの原則」(チョムスキーの言、前回のブログ参照)にしたがって行動し、世界を股にかけて今までおこなってきた破壊活動を見れば、中国だけを例外扱いすることは考えられません。まして今や自分の覇権をおびやかす強敵としてロシアよりも手強い相手になりつつある中国を放置したままにすることはあり得ないでしょう。
 それどころか中国が、アメリカによる経済制裁の対象になっているロシアと一緒になって、世銀やIMFに代わる新しい国際的金融機関をつくろうとしている(しかも本部は上海に置く)のですから、これをオバマ氏が手をこまねいて座視していることは考えられません。
 ウクライナでクーデターを起こすとき送り込まれたNGOは50を超える程度でしたが、あの小さな港湾都市に送り込まれたNGOの数は1000を超えると言われているのですから、中国「不安定化工作」の意欲は並みのものではありません。
Operation ‘Occupy Central’

 しかし、このアメリカの試みは成功しませんでした。というのは、この運動を最初に提唱した指導者たち(戴耀廷TAI Benny、香港大学副教授など3人)が今回の運動から撤退すると宣言したとき、この運動は事実上の停止状態になったからです。
Hong Kong Protest Leaders Ask Demonstrators to Pull Bac
 この運動が成功しなかった原因・理由として、「その目標が普通選挙の獲得に焦点が当てられ、香港民衆が願っている貧困問題が十分に取りあげられず彼らの支持を失った」ことなどいろいろ考えられます。
 しかし他の大きな理由のひとつに、この運動が、ウクライナのクーデターと同じように、裏でアメリカによる画策があったということが、ウィキリークスを初めとする独立メディアによって徐々に暴露されたことにあるのではないかと思います。
 これまで私はグローバルリサーチなどの独立メディアを検索し、香港「占拠運動」を翻訳してブログで紹介してきたのですが、調べてみると、月刊『アジア記者クラブ通信』だけでなく「櫻井ジャーナル」「マスコミに載らない海外記事」というサイトで、下記のような分析や翻訳が日本語で読めることを知りました。
‘中国を不安定化する勢力として、占領中環運動に注目するアメリカ’(2014/12/03)
“カラー革命”: 香港の傘(アンブレラ)は “メイド・イン・アメリカ”(2014/10/06)
CIAを背景に持つ抵抗運動で混乱している香港を、英国はアヘン戦争で手に入れて略奪拠点にしてきた(2014/10/09)
香港の抗議行動「佔領中環」の指導部はCIAにつながっていて、中国庶民の不満を体制転覆に利用へ(2014/10/01)
香港で「民主化」を求めている学生は暴力行為で支持を失ったが、警察が催涙弾を撃ち込んで復活(2014/09/30)

 要するに私がここで言いたかったことは、香港「オキュパイ・セントラル」をアメリカが裏で画策していることが、ウィキリークスやグローバルリサーチなどによって暴露され、それが徐々に香港の民衆の気持ちを変えていったのではないかということです。
 しかし、アメリカを筆頭に世界の大手メディアは、香港「オキュパイ・セントラル」を一党独裁の中国政府が民衆を弾圧する典型例として大々的に報道しました。日本の大手メデイアも例外ではありませんでした。
 NHKも、集団的自衛権や特定秘密保護法を必要とする口実として安倍内閣がつくりあげた「反中国宣伝」の流れに乗って、香港「オキュパイ・セントラル」を密着取材した番組をつくり、民主化を求める誠実な学生運動としてこれを報道したようです。
 しかし他方のアメリカでは「警察によって丸腰の黒人が次々と殺害されている」ことにたいして香港とは桁違いの巨大な運動が全米各地で展開されていることについては、NHKも大手メディアも、ほとんど関心を寄せていません。
 香港警察がおこなった弾圧は、アメリカ全土で(大学キャンパスでも)日常茶飯事におこなわれてきたことですが、今度の「丸腰黒人の連続殺害」への抗議行動にたいする弾圧ぶりは桁違いで、軍事的重武装した警察だけでなく州兵が出動するほどの徹底ぶりでした。
 このように、「民主主義の旗手」を標榜するアメリカがやっていることは、「一党独裁」と非難されている中国よりも、はるかにひどいのです。そして、この警察の軍事化を全土で押し進めたのもオバマ氏でした。
 日本では、文科省が「大学の授業までも英語でおこなう」と言い出すほど英語が氾濫しているのに、このようなアメリカの実態は驚くほど知られていません。
 しかし知られては困るからこそ、「英語で授業」「TOEFL受験」「アメリカ留学」が声高に叫ばれているとも考えられます。「英語学習」と「アメリカ崇拝」「アメリカ美化」は、ともすると併行して進行するものだからです。
 言いかえれば、英語教育を通じて、「アメリカの視点で世界を見るようにしつけられている」と言ってよいのかも知れません。
 たとえば日本では、オバマ氏は民主党でありノーベル平和賞受賞者だから共和党のブッシュ氏よりも「鳩派」だという幻想がありますが、国外でも国内でもオバマ氏が現在やっていることはブッシュ氏よりひどいものです。
 CIAの拷問にかかわった元ブッシュ政府高官でさえ「俺たちは確かに拷問をやった。だがオバマ氏は捕まえて拷問する代わりに、疑わしきものはすべて無人機でいきなり暗殺だ」と言っているくらいです。
 「有罪が証明されるまでは無罪」というマグナカルタ以来の民主主義の原則を、いとも簡単に投げ捨てたのがオバマ氏(チョムスキーの言)でした。
 「暗殺リスト」に誰を載せるかは、オバマ氏の一存で決まってしまい、しかも誰もその内容を知ることはできないのです。
 国内でもオバマ氏は、CIAの拷問をおこなった張本人を罰するのではなく、それを内部告発した元CIA職員ジョン・キリアクー氏を牢屋に入れてしまうという恐ろしさです。イラクで多くの民間人をヘリコプターから銃殺した争犯罪を(これは戦争犯罪です)内部告発したマニング上等兵も、牢屋につながれたままです。
 オバマ氏が内部告発者を「スパイ防止法」で告訴した数は、歴代大統領の中でも群を抜いています。
 アメリカのすすめるTPPも本質的には同じです。TPPは、日本の国家主権をアメリカ巨大資本に売り渡す極めて危険な条項を含んでいるだけでなく、その目的のひとつは「中国を除け者にすることによって強力な中国包囲網を築くことにある」と、チョムスキーも指摘しています。

 しかし日本に蔓延している「革新大統領オバマ」「民主主義の旗手アメリカ」「自由貿易を拡大するTPP」という幻想ををつくりあげているのは、大手メディアであると同時に英語教育もその一端を担ってきたのではないかと、私は反省しているのです。
 高校や大学で、CNNやFOXニュース、あるいはTOEFL入試問題などを教材に使っている限り、英語教師は無意識的に上記のような幻想をふりまく手助けをすることになるからです(私の反省の一端は拙著『英語教育原論―英語教師三つの仕事、三つの危険』で書きました)。
 これでは、オバマ政権や安倍内閣が押し進めようとしている「日本の軍事化」「解釈改憲」「九条廃棄」「自衛隊海外派兵」という戦略に、まんまとはまってしまいます。つまり政府・文科省の英語教育政策は、単に日本人の英語力を高めるためにつくられているのではない可能性があるわけです。
 だとすれば、どのような英語教育こそが求められているのか。いま文科省が新しい大学政策、大学入試を提起しているときだけに、今それが真剣に問い直されなければならないときではないかと思うのです。しかし、ここではそれを詳述しているゆとりがありません。次の機会にしたいと思います。


<註1> 上記の年賀状で紹介した私の英語教育に関する論考やインタビューは、下記のサイトで、PDFファイルとして読むことができます。時間と興味のある方は御笑覧いただければ幸いです。
国際教育総合文化研究所「寺島研究室」
<註2> 私は、純粋な気持ちで運動している香港「オキュパイ・セントラル」の学生たちを貶めるつもりはありませんが、貧窮に苦しむ香港民衆を第一に考えずに「普通選挙」だけを優先する闘いは、香港の金融街やウォール街を支配するひとたちにとっては痛くも痒くもないでしょう。中国封じ込めをねらうオバマ氏にとっても実に好都合です。
<註3> 今日は近くの病院へ月一回の定期検査に行く日だったので待合室で中日新聞を読んでいたら、相変わらず中国・ロシア・北朝鮮を敵視または悪魔化する記事に満ちあふれていて驚きました。産経や読売などと比べればまだ中立かと思っていた中日新聞でさえこのような状態なのですから、安倍内閣としては万々歳でしょう。ここでは詳述しませんがソニーピクチャーズを狙ったハッカー攻撃も元従業員による可能性が強いのです。

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