翻訳:チョムスキー「ヨーロッパ福祉国家の解体」、ギリシャから世界の夜明けが始まる!?

ギリシャ、緊縮財政、 チョムスキー(2015/02/20)

‘Dying out of poverty!’ Thousands gather for anti-austerity rally in Athens
「貧困から抜け出したい!」 アテネで新政府を支持し、反「緊縮政策」を求めて大集会
greecedebtrallypeaceful.jpg
http://rt.com/news/229875-greece-debt-rally-peaceful/(February 06, 2015)
 
 欧州ではギリシャに若い指導者ツイプラスを首相とする新しい左派政権が誕生し、それが飛び火してスペインでも左派政権が誕生しそうな状況なので、EU幹部は戦々恐々としています。というのは、この勢いが続けば通貨ユーロから脱退する勢力がEU全体に広がっていく恐れがあるからです。
 またはツイプラス首相は、明確にEUのロシアにたいする経済制裁やウクライナのクーデター政権にたいしてもNOの姿勢をとっていいますから、アメリカの言いなりになって、クーデタによって成立したウクライナのキエフ政権を支えてきたEUやNATOにとっても、これも非常に頭の痛い話です。
 それはともかく、そもそもギリシャにこのような左派政権が誕生したのは、EUがアメリカ流の経済運営を導入し、厳しい緊縮財政(austerity)をギリシャ、スペイン、イタリアなどに強制し、その結果、失業が蔓延し自殺者が相継ぐ状態になったからに他なりません。たとえばギリシャでは「自殺率が35%」も増加、「毎日ひとり」の割合で自殺しています。

Greek austerity has caused more than 500 male suicides – report(April 21, 2014)
Austerity to blame for 35% suicide surge in Greece – research(February 04)


 いま安倍政権は「国家成長戦略」と称して、「英語の授業は英語で!」「大学入試にTOEFLを!」などと、狂ったように英語熱をかきたてています。「日本の停滞は私たちが英語を話せないからだ」というわけです。
 しかし「国民の英語力」と「国家の停滞」は、基本的には何の関係もありません。いまヨーロッパがこのような状態に追い込まれているのは言語政策の結果ではなく、間違った金融政策で国家財政を破綻させ、そのつけを「緊縮政策」というかたちで国民に尻ぬぐいさせた結果でした。
 アメリカに端を発した金融危機が欧州全体を揺り動かしただけでなく、EUによるアメリカ流の経済運営が各国を貧困の極致に追い込んだのです。その結果、南欧の各国はIMFなどからお金を借りる条件として厳しい「緊縮財政」を強いられることになったのですが、この政策は庶民の医療や社会保障を根こそぎ壊滅させています。
 そのことを、チョムスキーは以下のインタビュー「ヨーロッパ福祉国家の解体」で明確に述べています。2012年の論考ですが、いまこそ読み直してみて欲しい論考だと思い、再掲する次第です。

<註> 現在の安倍政権がとっている「量的緩和政策」(quantitative easing)は、表面的には「緊縮財政」(austerity)と違うように見えますが、「庶民増税」「金持ち・大企業減税」→「庶民の医療や社会保障を根こそぎ壊滅させる」という点では、本質的には同じものです。その意味で、ギリシャが、このような政策と闘う若くて力強い新政権を、総選挙で誕生させたことは、私たちに未来への大きな希望をいだかせるものでした。これは同時にウクライナのクーデター政権に未来がないことの証明にもなっているように思います。


ギリシャの新首相ツィプラス       ノーム・チョムスキー
ツィプラス chomsky.jpeg

────────────────────────────────────────
ヨーロッパ福祉国家の解体
Unraveling the Welfare State
ノーム・チョムスキー (December 23, 2012)
https://zcomm.org/znetarticle/unraveling-the-welfare-state-by-noam-chomsky/

<EUROPP編集者による前書き>
スチュアート・A・ブラウンStuart A Brownとクリス・ギルソンChris Gilsonとの2回のインタビューの第1回目である。ノーム・チョムスキーは、ヨーロッパの「専門的技能家による官僚政治」(technocratic governance)がなぜユーロ圏の緊縮経済政策が危機を解決できないのか、ギリシャやフランスのような国々でなぜ極端な右派勢力が台頭するようになったのか、を論じている。


質問:ヨーロッパで少数の専門的技能家集団(テクノクラート)が政治を取り仕切っていることは、欧州民主主義にとって何を意味するのでしょうか?

チョムスキー:その問題点は2つあります。まず第1に、少なくとも民主主義を信じるのであれば、そんなことはあってはならないことです。第2に、彼らが追い求めている政策はヨーロッパをさらにさらに深刻な問題へと追い込むことになるだけです。不景気のさなかに緊縮財政を強いるという考えは、まったく意味をなしません。とくにヨーロッパ南部の諸国では問題がいくつもありますが、とくにギリシャでは、成長を減少させるよう国に強要すれば問題が減るどころか逆効果です。なぜならGDPに比して負債が増加するだけだからです。それが彼らのやってきた政策なのです。
 スペインはまた別のケースです。スペインの財政が崩壊するまでは、政府は実際うまくやってきました。財政は黒字でした。問題は色々ありましたが、財政破綻は政府ではなく銀行が引き起こしたものです。その中にはドイツ銀行もありました。ドイツ銀行はアメリカの銀行と同じスタイル(サブプライム住宅ローンsubprime mortgages)でお金を貸していました。そこで金融制度が崩壊し、その後、緊縮財政がスペインに課されました。それは最悪の政策です。失業を増大させ、成長は減少させます。政府は銀行と投資家を救済していますが、それが中心であっては解決策にはなりません。

ヨーロッパには景気刺激が必要です――IMFさえもその立場に賛同しています――そして景気を刺激する方策はいくらでもあります。ヨーロッパは豊かなところです。ヨーロッパ中央銀行には利用可能な準備金がたくさんあります。しかしドイツ連邦銀行はその準備金を使って景気刺激策をとるのを嫌っています。投資家がそれを好まないからです。銀行はそれを嫌っていますが、それが追求すべき政策なのです。アメリカの経済新聞の書き手たちすら、それに同意しています。ヨーロッパが政策を変更しなければ、さらに深刻な不況に突入するだけです。
 EU委員会は来年の経済予測にかんする報告書を公表したばかりですが、その予測はひどい低成長と失業の増加です。これこそが主要な問題です。それは非常に重大な問題です。失業は一世代の人びとを破壊してしまいます。それは些細な問題ではありません。それはまた経済的な観点から言っても論外です。人々が失業に追い込まれたら、人間的な意味でも非常に重大ですが――個々人にとって大変な災害ですが――経済的観点から言っても極めて有害です。要するに、利用されていない資源が多く残されているのですから、それを経済の成長・発展のために活用すべきだし、それは可能なのです。

いまヨーロッパでとられている政策に何か意味があるとすれば、次のような仮定をするしかありません。つまり、彼らの目的は「福祉国家を弱体化し、あわよくば解体してしまおう」ということにあるという仮定です。しかもそのことを実際に語っているひともいるのです。ヨーロッパ中央銀行頭取マリオ・ドラギMario Draghiはウォールストリートジャーナル紙とのインタビューで言いました。「ヨーロッパの社会契約は死んだ」、と。彼はその方向を支持してそう言ったわけではありませんが、それこそ、その政策が何をもたらすかを示しています。恐らくまだ完全には「死んで」いないでしょう。誇張してそう言ったのでしょう。しかし攻撃に晒(さら)されていることだけは確かです。

質問:ギリシャやフランスのような国々における極端な右翼の台頭(たいとう)は、ユーロ危機が示す別の側面なのでしょうか?

チョムスキー:全くそのとおりです。ギリシャではそれが顕著ですが、フランスでも最近しばらく起きていることです。それは反イスラムの人種差別に基づいています。実際フランスでは、それ以上のレベルに達しています。多くのことが起きているのに(それは私にとっては驚くべきことなんですが)、全く議論もされていません。今日、フランスがユダヤ人を国から追いだし、どこかへ移動させはじめた、と考えてみてください。彼らが攻撃され抑圧され貧困に追いやられて不幸になるような場所へと追い出すのです。そんなことをすれば世界中から非難の声が湧き上がり大騒動になることは想像に難くありません。しかし、まさしくそれが今フランスのやっていることなのです。ユダヤ人に対してではなくロマ人に対してです。ロマ人は、あの当時、ユダヤ人とほとんど同じ扱いを受けました。彼らはホロコーストの犠牲者でした。その彼らがいま、ルーマニアとハンガリーへと強制的に追い出されています。彼らの行く手には惨めな将来が待っています。しかし、これについて公に語られることはほとんどないのです。それは極端な右派勢力のことではなく、フランスの世論全体がそれを良しとしているのです。驚くべき現象ではないでしょうか。

しかし、極右のひろがりはヨーロッパにとっては脅威です。ドイツも似たような現象が現れています。たとえば、ドイツにはネオナチ集団があります。彼らは自分たちのことを「ネオナチ」とは呼びませんが。それはいま組織化を進め、[第2次世界大戦時の連合国による] ドレスデンの爆撃を非難し、25万人が殺されたと主張しています。実際の数字の10倍です。確かにドレスデンの爆撃はほんとうに犯罪でした――大犯罪です――が、ネオナチ集団が言っている意味とは少し違います。
 目をもう少し東に転じて、たとえばハンガリーはどうでしょうか。ちょうど先週、極右のジョッビク党Jobbik partyの議員ゾルト・バラス Zsolt Barathが恥ずべき演説をしました。そのなかで彼はユダヤ人がハンガリーの政策を決める地位についていると非難しました。「われわれは奴らのリストを作り、奴らの人種を判別して、このガンを取り除かねばならない」等々です。ご存じのように、私は老齢ですので、1930年代に起きたことを個人的にも明確に記憶しています。しかし、それが何を意味するのかは皆が知っています。そういうことがヨーロッパの大部分で起こっているのです――たいてい最初は反イスラムの人種差別からきています――そしてそれは恐ろしい現象です。

質問:近い将来、ヨーロッパがその危機を解決するのを、見ることができるでしょうか?

チョムスキー:いま、ユーロ圏はその問題をただ先延ばしにしているだけで、いわゆる "kicking the can down the road" です。問題となる「缶」を、行く道の先に蹴っ飛ばしても、その問題(缶)は消えてなくなるわけではないからです。重大な問題はいくつもあります。ユーロ圏は概して明るい進展があったと思うのですが、その約束された未来の土台を掘り崩すような政策がおこなわれているのです。私が思うに、さらなる政治統合があるべきだということは広く合意されていると思います。しかし加盟国が自国の通貨を統制できないまま緊縮財政だけが課されるという体制は、維持が不可能です。経済危機に陥ったらどの国でもやっているような方策を実施できないときに緊縮財政だけが課されるというのは、まったく有り得ない状況ですから、何らかの対象が必要です。

 ヨーロッパが苦しんでいるのは、ある程度は相対的に人道的だったことからきていることも、認識されるべきです。ヨーロッパと北アメリカを比較してみるならば、北米自由貿易協定NAFTAが設立されたときに、統一通貨は概略のところ[ドルでおこなうこと]で合意されていましたが、それはヨーロッパとはまったく違ったかたちでなされたのです。
 ヨーロッパでは、貧困国がEUに加盟する前に、その国の生活水準を上げるための真剣な努力がなされました。その国を改革したり、補助金を与えたり、その他のいろいろな施策がなされました。その結果、貧困国が加盟しても豊かな国々の雇用や生活水準が打撃を受けることはなかったのです。それが統合に向かうにあたっての比較的人道的な方法なのです。
 アメリカで全く同じようなことを提案したのは、アメリカ労働運動でしたし、また連邦議会調査局でさえ同じ提言をしました。しかしいつのまにか、そのような方策は投げ捨てられました。ヨーロッパのような努力がなされないまま、メキシコはNAFTAによって統合されたのです。それはメキシコ人にとっては大いなる不幸をもたらすものでしたが、同時にアメリカとカナダの労働者にとっても大変な害をもたらすものでした。ヨーロッパはそれと同じこと[新自由主義的経済運営]でいま苦しんでいるのです。


<註> 関連する拙訳として下記のものがあります。New York Timesに載せられた論考です。
Stucler & Basu 20130513 「緊縮政策は殺人行為だ― 医療・福祉への1ドルは、3ドルの経済成長をもたらす」
 このなかで、経済学者デイビッド・スタックラーと医師・疫学研究者サンジェイ・バスは、緊縮財政が何をもたらしたのか、逆に医療・福祉への投資が何をもたらすのかを生々しい具体例を示しながら説明しています。
 たとえば、このたびの緊縮財政の結果、欧州と米国で自殺者が1万人以上、うつ病患者は最大で100万人増加しました。公衆衛生費が40%削減されたギリシアでは、HIVの感染率が200%上昇し、1970年代以来初めてマラリアが発生しています。
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「軍事力を行使せずとも簡単に“イスラム国”の残虐行為をやめさせる方法がある」- ふたりのアメリカ女性専門家

「イスラム国」、Sibel Edmonds、Phyllis Bennis、湯川遥菜・後藤健二、
平和研究、国際教育、アメリカ理解 (2015/02/03)


Sibel Edmonds             Phyllis Bennis
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 イスラム武装集団「イスラム国」ISISが、拘束している日本人2人(湯川遥菜・後藤健二)をふたりとも殺害したニュースで、ふたたび日本中に衝撃波が走りました。
 それに関して、私は前回のブログで、「いわゆるイスラム国ISISについては不可解なことが多すぎます。突然この集団が大手メディアに登場したとき、私にふたつの疑問が湧きました」と述べ、その理由を次のように書きました。

 しかし、この「イスラム国」については不可解なことが多すぎます。突然この集団が大手メディアに登場したとき、私にふたつの疑問が湧きました。
 ひとつは彼らがシリア方面からイラクの首都バクダッドに向かって進撃してきたときの速度があまりにも速かったことです。
 アメリカのブッシュ政権が嘘をついてイラクに侵略を開始したとき、イラク南部のクウェートから上陸を開始したのですが(2003年3月20日)、バクダッドに達する(4月7日)までに要した日数よりも、はるかに短い日数で、バクダッド近くまで侵攻しています。
 世界最大最強の軍隊を誇るアメリカ軍が、イラク戦争でイラク軍と闘いながらバクダッドに達することができたよりも短い日数で、どうして「イスラム国」の武装勢力が、易々とバクダッド近くまで侵攻できたのでしょうか。
 というのは、イラク軍はアメリカの最新兵器で武装されていましたし、裏でアメリカの援助や軍事指導があったのですから、寄せ集めのゲリラ部隊であった「イスラム国」の武装集団と闘って、そんなに簡単に敗走するというのは、考えられないからです。

 もう一つの疑問は、アメリカの情報機関は、「イスラム国」なるのものが突然うまれてきたこと、その武装集団がバクダッドに向かって進撃していたとき、なぜそれを放置してきたのか、という疑問です。
 いまアメリカはシリア領内で「イスラム国」の武装集団を空から爆撃しているわけですが、ニュースの映像を見ていると、「イスラム国」の武装集団がバクダッドに向かって進撃しているとき、たくさんの武装集団を乗せたトラックが旗をなびかせ列をなして砂漠を横切っていく光景が、繰りかえし画面に映し出されました。
 アフガニスタンやパキスタン、さらにはイエメンにおけるアメリカの無人爆撃機を見れば分かるように、米軍は地上を走る車の人物までも空から特定して攻撃できる能力を誇っているのですから、砂漠をある意味では裸同然の状態で走っているトラックを空から攻撃して壊滅させることができたはずなのです。
 それが、ほとんど無傷の状態でバクダッド近くまで侵攻できたのは、実に不可解としか言いようがありません。これが大手メディアに「イスラム国」が登場したときに私の頭に浮かんだ二つ目の疑問でした。


 私が前回のブログをアップしたとき、もうひとつ「大きな疑問」を書き忘れていたことを思い出しました。それは「イスラム国」ISISの資金源はどこから来ているのかという点でした。
 ひとつの説明は「ISISはイラク北部の石油がたっぷり採れる地域を占領しているので、その原油を売ったお金を資金源にしているのだ」というものです。この説明がもし正しいのであれば、その売買をストップさせれば簡単に彼らの残虐行為を制止できるはずです。
 というのは、ウィキリークスの創始者アサンジ氏が、今は牢獄につながれているマニング上等兵からの情報をもとに、アメリカのイラクにおける戦争犯罪行為を暴露したとき、オバマ大統領は、ウィキリークスの資金源を断つために献金ルートをすべて遮断し、その結果、ウィキリークスは苦境に追い込まれたからです。
 またオバマ氏は、「化学兵器を使って自国民を殺している」という口実でシリアを爆撃してアサド政権を倒そうとしたのですが、それが嘘だということをプーチン氏によって暴露されたため、今度は「マレーシア航空機の撃墜はロシアがやった」という口実で、ロシアに経済制裁を加えました。
 (マレーシア航空機の撃墜は、キエフ政府軍の戦闘機によるものであることが確実になりつつあります。)
 その結果、ロシア経済は苦境に追い込まれ、そのことがロシアを中国との貿易強化へと大きく衝き動かすことになりました。
 (この経済制裁はロシアとの貿易に大きく依存していたEU諸国をも同時に苦しめることになりましたが、アメリカにとってはEUそのものがアメリカの競争相手になりつつあったのですから、一石二鳥でした。)
 それはともかく、このように「経済制裁」という手段を使えば、簡単に「イスラム国」ISISの活動を止めたり弱体化させることができるのに、アメリカは一向にそのような手段をとろうとはしません。それが私には不思議でなりませんでした。

 こんな疑問をもっているのは私だけかと思っていたら、DemocracyNow!で同じことを主張している人物がいることを発見しました。
 アメリカのシンクタンク「政策研究所」[Institute for Policy Studies]の研究員フィリス・ベニス(Phyllis Bennis)氏です。
 彼女は、「イスラム国」ISISの資金源はサウジアラビアだと述べています。しかも次のように言っているのです。

王制独裁国家サウジは極めて厳しい統制国家だから、サウジ政府にその気さえあれば、サウジから出ていくお金がサウジの王子からであろうが普通の個人からであろうが、それにストップをかけ、それを封じ込めるとは可能だ。
<原文は以下のとおり>
But this is a very tightly controlled society, where if there was an interest by the government in stopping its own citizens, whether they are Saudi princes or ordinary citizens, who are the source of a huge amount of the money funding these organizations, including ISIS, it could be contained.

http://www.democracynow.org/2014/9/15/is_there_a_diplomatic_solution_to_isil#

 
さらに彼女は、「したがってアメリカがもつ影響力をサウジに行使しさえすれば、イラクやシリアを爆撃して、無実の一般市民を殺す必要もない」として、次のようにも述べています。

 サウジはまた、この2年間で600億ドル相当もの武器をアメリカから購入し、その多くは結局、ISISの手にわたっている。[中略] サウジとアメリカの同盟関係は極めて強力だから、アメリカは新しい戦争(=第3のイラク戦争)で死の商人として儲けている国内の企業やサウジ政府に圧力をかけさえすれば、ISISのような恐ろしい組織にわたる資金や武器に歯止めをかけることができる。
<原文は以下のとおり>
But there is $60 billion worth of arms that they've been engaged in buying from the United States over this last two years. Many of those arms are the ones ending up in the hands of ISIS. It's U.S. arms and it's Saudi arms that are ending up there. (中略)
And the U.S.-Saudi alliance is such that if the U.S. chose to challenge the arms sellers in this country, who are making a killing on this new war, this Iraq War 3.0, we might say—if they were to prepared to challenge those arms suppliers, and thus challenge the Saudi government, there could be a real effort to put a stop to the funding and arming of these terrible organizations like ISIS.
http://www.democracynow.org/2014/9/15/is_there_a_diplomatic_solution_to_isil#


 フィリス・ベニス女史によれば、シリアに送り込まれたアサド政権打倒のための反乱軍には、ISISの他にも、アルヌスラ(the al-Nusra Front)など多くの雑多な組織があるのですが、彼らはサウジだけでなく、カタール、クウェート、アラブ首長国連邦など、他の王制独裁国家からも支援を受けています。
 しかし「デモクラシーナウ」の上記インタビューでベニス女史は、「その中でもサウジが資金援助の中心になっている(but Saudi Arabia is very much at the center of this)」と述べているのです。
 しかも、そのサウジと最も親しい同盟国がアメリカであり、このイスラム原理主義の王制独裁国家は、刑罰として「首を切る」Beheadingなどの酷刑を実行してきました。2014年だけでも87人が、この刑を実行されています。

「アブドゥラ国王の下で『近代化』を進めてきたサウジアラビアの、衝撃的な七つの事実」
Seven shocking facts about Saudi Arabia under ‘modernizing’ reign of King Abdullah

 ところがオバマ氏は、このようなイスラム原理主義=シャリーア法に基づく残酷な鞭打ち、手足の切断、首切り死刑などを実行してきたサウジアラビアとアブドゥラ国王を、「テロ国家」とか「テロリスト」と呼ぶどころか、このたびの訃報の際して、「アラブの啓蒙君主」として讃えました。
 他方でシリアは、世俗主義の国家であり、このような厳しいシャリーア法は採用していませんし、選挙もおこなわれていますが、オバマ大統領は選挙もおこなわないサウジと手を組みながら、「アサド政権の打倒」を叫んできました。
 ですからオバマ氏は、表向きは、ISIS「イスラム国」を残酷なテロ集団と非難し攻撃しながらも、実際は裏で「アサド政権打倒」のためにISISを支援してきたのではないかと疑われてきたのです。
 実際、アメリカによる「イスラム国」への爆撃が進めば進むほど「イスラム国」の領土は広がって行くばかりです。私は前回のブログで、そのことを次のように書きました。

  しかも、最近の映像を見ていると、アメリカによる「イスラム国」への爆撃が進めば進むほど「イスラム国」の領土は広がって行くばかりです。これは、ますます奇怪です。『櫻井ジャーナル』によると、昨年9月と比較してシリア領内で「イスラム国」が支配する地域は3倍に拡大したそうです。
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201501190000/
 もともと「イスラム国」の武装集団は、シリアのアサド政権を倒すために、アメリカやイスラエル、フランスなどのEU諸国、さらにはサウジアラビアなどイスラム原理主義諸国によって訓練や支援を得てシリアに送り込まれた種々雑多な反乱軍の一派に過ぎませんでした。それなのに、いつのまにアメリカや欧米と敵対する勢力になったのでしょうか。
 このように「イスラム国」についての疑問は尽きることがありません。そんな疑問をいだいていたとき、次に紹介するカナダのオタワ大学教授ミシェル・チョスドフスキー氏の次の論考を目にして、その疑問の一部が解けたような気がしました。

「オバマ大統領が皆に知られたくない、「イスラム国」に関する26の事実」
Twenty-six Things About the Islamic State (ISIL) that Obama Does Not Want You to Know About


 このチョスドフスキー教授の意見は、つまるところ「イスラム国」なるものは、かつてアメリカがソ連と闘わせるためにつくりあげた「ムジャヒディーン」(聖戦士)やビンラディンの「アルカイダ」と同じく、アメリカ国民を戦争に賛成させるための道具にすぎない、とするものでした。詳しくは上記の翻訳を御覧ください。
 ところで、これと同じ意見を、元FBI職員だったエドモンズ女史(Sibel Edmonds)がRTへのインタビューで述べていて、驚きました。と同時に元はFBI職員だったひとの意見だけに、非常な迫力と説得力を感じました。英文を読むゆとりのある方はぜひ参照ください。
「アメリカは、テロ戦争産業を維持するために、テロの恐怖を復活させたいのだ」
U.S. wants to revive terror scare in order to keep up the terror war industry - FBI whistleblower


 かつてチョムスキーは「ソ連が崩壊して一番困ったのはアメリカの国防総省やCIAだった」「自分の仕事がなくなって失業するかも知れないからだ」「だから新しい敵をつくりださなければならなかった」と述べたことがあります。
 私はちょうどその頃カリフォルニア州立大学ヘイワード校で1年間、日本語教師をしていたことがあるのですが、そのとき知り合いになった日本人学生(彼女はヘイワード校の学生でした)の夫君が米軍兵士だったのですが、実際に基地や兵士が減らされ、彼女の夫君も職探しに苦労したと言っていました。
 こうしてソ連崩壊後に新しくつくられた敵の第一号が中米パナマのノリエガ将軍であり、この作戦がブッシュ大統領によって成功したことに味をしめて、次の敵に仕立て上げられたのがイラクのフセインでした。「アルカイーダ」という新しい敵がつくられたのも、ほぼ同じ頃です。
 その後ビンラディンが死亡して、また新しい敵が必要になりました。それが「ISIS」だというのが、先述の元FBI職員エドモンズ女史の意見でした。もう「アルカイーダ」の賞味期限がもう切れたからだそうです。言われてみればなるほど、今回のオバマ大統領の一般教書演説から「アルカイーダ」という単語が消え、代わりに何度も登場したのが「イスラム国」でした。
 彼女は情報翻訳官としてFBIに勤めていた頃、ワールドトレードセンターを攻撃する計画があることを知らせる情報をつかんで、それを翻訳して上司に伝えたところ、まったく取りあげてもらえなかった経験から、内部告発者になりました。そしてアメリカの政治史を徹底的に研究した結果たどりついたのが上記のような結論だったそうです。
 彼女によれば、「イスラム国」の賞味期限が切れた頃には、今度は「イスラム教」「イスラム教徒」そのものが次の敵として祭り上げられるだろうから、アメリカは半永久的に戦争を続けることができる。だからアメリカの軍産複合体は今後も武器の製造・販売に困ることはないだろう。これが彼女の意見でした。
 
いまアメリカでは刑務所が民営化されつつあるだけでなく、軍隊までもが民営化されつつあります。民営化刑務所は犯罪者を更生させる施設ではなく儲けの手段になってしまいました。
 (いまアメリカでは、 "School to Prison Pipeline" 「学校から刑務所への直通パイプライン」という用語すら定着しつつあります。学校や裁判所が民営刑務所に空き室が出ないよう、経営に協力しているのです。)
 民営化された軍隊も国民を守る部隊ではなく儲けの手段になり、戦争をつくらなければ破産してしまいます。だからこそ無理やり悪魔化した敵をつくりあげ、国民の恐怖心を煽り立てます。
 かくしてアメリカの民間軍事会社「Black Water」はイラク戦争で悪名を高めましたが、ジェレミー・スケイヒルの著書『Black Water』およびこれを元にしたドキュメンタリー賞受賞の映画『Dirty Wars=汚い戦争』によって、その残虐非道ぶりは完膚無きまでに暴露されました。
 しかし、この民間軍事会社「Black Water」が今こっそり名前を変えて、ウクライナその他で相変わらず暗躍しているようです。それにしても、「黒い水=石油」という会社名がすでにアメリカによるイラク侵略の本質をみごとに表してはいないでしょうか。
 アメリカでは国内の製造業のほとんどが海外に移転し、多くの国民には仕事がないか、あっても安い賃金労働しか残っていません。ですから、国民の購買力は激減して経済は疲弊しています。これを活性化するのが戦争です。
 考えてみればアメリカも二度の大戦を経て世界を支配する大国へと成長しました。ランドルフ・ボーンは、第一次大戦の頃、アメリカの参戦に反対し、「戦争は国家の健康法である」という有名な論文で、このことを見事に喝破しました(ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻、532-539頁)。ボーンは「戦争は国家の行事であって国民の行事ではない」と言うのです。
 だからこそ、第一次大戦に賛成しない国民をむりやり納得させるために開発されたのが、プロパガンダ=宣伝扇動の技術だったとチョムスキーは述べています(『アメリカが本当に望んでいること』現代企画室)。
 
それはともかく、私が今度の「日本人の人質事件」で驚いたのは、すでに日本にもそのような民間軍事会社が存在し自衛隊と結びつきを深めているということでした。
 安倍政権になってから「武器輸出3原則」が大幅に緩められましたから、日本の軍産複合体も本格的に動き始めるでしょう。日本人の貧困化も進んでいますから、国民の購買力は落ちています。だとすれば大企業が儲ける一番手っ取り早い方法は、武器を海外に売ることであり、そのためには紛争や戦争が必要です。
 安倍政権がアメリカのプードル犬になって、アラブ諸国の紛争に介入するようになれば、フランスで起きたような事件が日本でも起きる可能性があります。むしろそれが、日本を米仏と同じ監視国家にするための、安倍氏の狙いなのかも知れません。それは戦争にのりだすための土台になるからです。
 もう一つ、この事件で私が心配していたことがあります。それは安倍内閣は人質になったふたりの人物を救う努力をしないかもしれない、という心配でした。
 というのは、彼らの首が切られた残酷な映像が全国に流れれば、国民の怒りが安倍内閣にたいしてではなく、ISIS「イスラム国」に向かって爆発し、それを口実にして「邦人を救うためには自衛隊を海外に派遣できるようにするための新しい法律が必要だ」という宣伝をすることができるからです。
 しかし、この私の心配は、どうも本当になったようです。

「安倍首相は邦人救助のための海外派兵を検討している」
PM Abe to debate possibility of Japan's military rescuing citizens abroad


<註1> また、メディアがこの人質問題で占領されれば、今まさに正念場を迎えている沖縄・辺野古の闘いが、大手メディアから全く消えてしまう可能性もあります。これもアメリカ政府や安倍内閣にとっては実に好都合な事態です。

<註2> イスラム国 ISISが、サウジなどの王制独裁国家だけでなく、アメリカの強力な同盟国であるパキスタンでも活動している事実が、明らかになりました。イスラム国へ送り込む人材獲得の拠点がパキスタンに存在していたというのです。

「秘められた真実:イスラム国の兵士募集係がアメリカ経由で資金を得ていたことを認めた」
The Forbidden Truth: Islamic State (ISIS) Recruiter Admits Getting Funds from America

<註3> なお、この事件で人質になったふたりの人物の不可解な背景については下記ブログ「世に倦む日々」を御覧ください。この記事を読んでいる限りでは、このふたりは政府の特命で動いていた可能性もあるからです。彼らは政府の道具として使われたのでしょうか。
http://critic20.exblog.jp/23435863/
*後藤健二の神話化と神格化の洪水となった日本のマスコミと世論、2015-02-04
*湯川遥菜と後藤健二の命の尊厳の格差 - 差別に抵抗を感じない世論、2015-02-02
*「英語のできない湯川遥菜が工作員のはずがない」への反論、 2015-01-29
*後藤健二とNHKと外務省の真実 - 「政府関係者」とは誰なのだ、2015-01-27
*人質を見殺しにする安倍晋三の不作為 - 「人命第一」の二重思考、2015-01-22
*後藤健二の疑惑 - マスコミが正確に報道しない湯川遥菜との関係、2015-01-21
*「湯川機関」の謎 - マスコミはなぜ湯川遥菜と田母神俊雄の関係を隠すのか、2014-08-25
*湯川遥菜の正体は何者か - PMCに仕事と資金を与えた黒幕は誰なのか、2014-08-19


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狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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