アムトラック社の脱線事故を考える―アメリカでは半分の州がすでに破産状態だ

規制緩和、新自由主義、「企業社会主義」、東アジア共同体、「ブーメラン効果」、ロシアにたいする経済制裁、アメリカ理解(2015/05/19)

アムトラック事故
http://rt.com/usa/259161-amtrak-train-struck-probe-fbi/

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 先日(2015年5月12日)にフィラデルフィアで起こったアムトラック列車脱線事故の死者はこれまでに8人に上っており、さらに増えると見られています。未だ乗客約10数人が行方不明のままです。負傷者は200人を超え、危篤状態のひとも少なくありません。
 当局によれば、事故を起こした列車が急なカーブに差し掛かったとき、制限速度の約2倍にあたる時速約106マイル(約170キロ)で進んでいました。しかし、このような事故を防ぐための技術(「速度制限装置」positive train control)が導入されていたにもかかわらず、予算不足で装置が作動できるようにはなっていませんでした。
「予算その他の障碍で脱線した列車の安全技術は立ち往生」
Report: Budget, Other Hurdles Stalled Safety Technology on Crashed Train

 私は前回の下記ブログで、アメリカは「道路、空港、橋、鉄道、電力供給網への公共支出はヨーロッパの半分、国家繁栄そのものが危機に瀕している」という翻訳を紹介したばかりでしたから、あまりのタイミングの良さに、こちらのほうが驚いてしまいました。
翻訳:『インディペンデント』紙、「インフラ整備を怠たり、米国経済は危機に瀕している」

 さらに驚いたことには、このような大惨事を起こしているにもかかわらず、事故が起こった数時間後、共和党が多数を占めるアメリカ下院歳出委員会は、「速度制限装置」の導入を加速させる予算(8億2500万ドル)を拒否しただけでなく、アムトラックの予算減額(2億5000万ドル)までも承認するという始末です。
「脱線列車の死者は7名。議会で共和党は2億5千万ドルの予算削除に投票し、アムトラックにたいする安全向上を遅らせる」
As Train Crash Death Toll Reaches 7, GOP Votes to Cut Amtrak Budget by $250M & Delay Safety Upgrades

 新自由主義という経済政策、すなわち「民営化」「規制緩和」「儲け市場主義」がアメリカの大きな流れだとは言え、これほどの人命軽視がアメリカ議会で堂々とおこなわれる光景には、目を覆いがたいものがあります。
 アムトラックは一種の国営事業ですから、そのようなものに援助するのは社会主義国のすることだと考えているのかも知れません。フロリダでも路上生活者に食事を提供したという理由で逮捕された老人がいましたが、それを彷彿とさせる光景でもあります。
 しかし、今では刑務所を民営化するだけでなく、チャーター・スクールというかたちで教育を民営化する、あるいは軍隊すら民営化し傭兵会社を雇って戦場に送り込むのがアメリカの政策ですから、当然と言えば当然なのかも知れません。

 ところで、私がノースカロライナ州立大学で日本語を教えていたとき、当時は車でアメリカを運転する自信がなくて、州都ローリー市に行くため、大学のあるグリーズボロからアムトラックを利用したことがあります。
 グリーズボロには駅らしい駅もなく、乗客も少なくて閑散としていました。車が買える豊かな階層は汽車を利用しないので経営的には悪循環になりますが、車で混雑し穴だらけの道路を走るよりは快適な外出になります。ただし快速や急行がなく鈍行しかないのが玉に瑕(きず)で、それが自家用車や飛行機を広める原因になっていますが、石油会社にとっては、このほうが儲かるので、財界にとっては、この方が良いのです。
 車にたいする燃費規制が弱いアメリカで、汽車は悪臭に満ちた排気ガスを撒き散らさないので環境的にも良いはずですが、高速鉄道がアメリカ全土に広がらない理由がここにあります。財界のトップは自家用飛行機をもっていますから、なおさらアメリカ版の「新幹線」に乗り気ではありません。
 私がカリフォルニア州立大学ヘイワード校で教えていたとき親しくさせていただいたスペイン語教授のエルサ女史は、「自分の妹はワシントン州シアトルで会社を経営していて、私に会いに来るときは自家用飛行機で来る」と言っていました。アメリカ社会の知られざる一面を見せられた気がししました。
 他方、チョムスキーは「自分がボストンからニューヨークやワシントンDCに出かけようと思ったら、アムトラックだと莫大な時間がかかる。だからといって車で空港まで行き、飛行機でボストンやニューヨークに行き、現地の空港から目的地まで行くのも非常に面倒だ。ボストンからワシントンまで日本のような新幹線があると本当に便利だ」と言っています。(『破綻するアメリカ、壊れゆく世界』集英社、2008)
 さらにチョムスキーは「アメリカ全土に高速鉄道網を張りめぐらせば、皆の生活が便利になるだけでなくインフラ整備としても雇用面でも経済効果は抜群だ。NAFTAで企業が海外に出て行ってしまい、いま労働者には仕事がないが、高速鉄道網の敷設がアメリカの労働者に仕事を与えてくれる。アメリカの労働者にはその知識も技術もある。しかしオバマはそれをしない」と嘆いています。

 ちなみに、アメリカが経済社会基盤(インフラ)の基本的要素である鉄道にかけている予算は $1.4 billion(14億ドル)ですが、中国は $124 billion(1240億ドル)です。しかも、事故を起こしたアムトラックは時速60~70マイルであるのにたいして、中国が走らせようとしている超高速鉄道は時速200~300マイルです。これでは将来、経済的に太刀打ちできるはずがありません。
 今回の事故を起こしたアムトラックは時速106マイル(制限速度の2倍弱)で走っていたそうですから、事故を起こさない方が不思議と言うべきでしょう。ところがアメリカは、このようなインフラ整備にお金をかけて経済回復を図ろうとするのではなく、世界中に戦争を起こすことによって経済回復をしようとしているのです。

 アメリカの社会評論家ランドルフ・ボーンは、アメリカが第1次大戦に乗り出そうとするとき「戦争は国家の健康法である」という有名な論文を書き、「国家が経済的危機に陥っているとき、それを乗り切る手段として戦争が持ち出される」と、時のアメリカ政府を鋭く批判しましたが(『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻532-539頁)、それを地で行っているのが今のアメリカです。
 現在のアメリカ政府は海外で戦争熱を煽り、武器をどれだけ生産し輸出しても追いつかないくらい世界中で内乱・内戦が拡大し続けています。オバマ氏の支持母体である軍産複合体にとっては儲かって仕方のない、実に好都合な仕組みですが、国家財政としては破産状態です。というのは軍事産業を支えているのは国民の税金で、しかも大企業・大金持ちには減税一辺倒だからです。これでは税収が増えるはずがありません。チョムスキーの言う「企業社会主義」です。

 もうひとつアメリカの財政状態を悪くしている要因は、石油や天然ガスの値段が大きく落ち込んで、石油による収入が激減していることにあります。オバマ氏はサウジアラビアなどの王制独裁国家を使って石油価格を下落させ、石油や天然ガスの輸出に頼っているロシアやベネズエラを疲弊させようと画策したのですが、その結果は「ブーメラン効果」でした。たしかにロシア経済も混乱したのですが、アメリカも同時に苦しむことになってしまったのです。
 というのは、オバマ氏は「中東の石油に頼らないエネルギー源を確保する」という名目で、国内のいたるところで石油や天然ガスの開発をすすめ、沿岸の海底からも天然ガスを採掘しようとしました。それが大事故を起こして、今でもニューオリンズの近海は使いものにならなくなっています。
 もっと悪いことには、天然ガスの採掘(いわゆる「フラッキング」)は地震の引き金になったり、地下水を汚染しマッチをつければ燃え出すような飲料水を生み出し、近隣の環境を破壊するだけでなく、莫大な費用がかかりますから、石油や天然ガスの値段が下がれば採算が取れなくなります。
 そこで当然、石油や天然ガスの企業収入に頼っていた州財政も大きな打撃を受けることになりました。そのことを詳細に報じているのが下記の記事です。という
「アメリカでは半分の州がすでに明確に破産状態だ」
Almost Half Of US States Are Officially Broke

 この記事では冒頭で「ルイジアナ州が破産状態にあり、大学予算の80%を削減せざるを得なくなっている」と述べています。3万1千人の学生を擁し、アメリカでも最大規模を誇る州立大学が閉鎖の危機にあるのです。
 このような状態は、ルイジアナ州にとどまらず、イリノイ州やカンザス州など、アメリカ全土に広がっています。AP通信の報道によれば、上の地図でお分かりのように、今では少なくとも22州が破産状態です。カンザス州では学期末を待たずに学校を早期に休業にしたり授業を削減するという学校も出てきています。
貧困大国アメリカ DeficitStates
 
 これが現在のアメリカの実態です。ところが安倍内閣は、破産しかけているアメリカを救うために、その戦争政策(=経済政策)に協力して、集団的自衛権などの戦争法規を準備しTPPの早期妥結に邁進しています。TPPは単なる経済施策ではなく、安倍氏がいみじくもアメリカ議会で演説したように、中国封じ込め政策の一貫であり防衛政策(すなわち戦争政策)なのです。
 これは対応を一歩でも間違えば、中国との戦争に踏み込む危険な政策を選んでいることになります。安倍内閣が本当に日本の安全と繁栄を願うのであれば、アメリカの危険な戦争政策に加担するのではなく、元首相の鳩山由紀夫氏らが訴えているような「東アジア共同体」をつくるために、中国やロシアと話し合うための通路を拓くことではないでしょうか。これはアジアに平和をもたらすだけでなく経済的繁栄をもたらすでしょう。
 ところが安倍内閣は、これとは全く逆方向に進路をとり、日本を戦争と貧困に突き落とそうとしているように私には見えます。

 つい先日、中国が自国で超高速鉄道を走らせるだけでなく今度はロシアで 3億9千万ドル($390million)の大金をかけた超高速鉄道の建設を受注した、というニュースが流れました。
「中国の会社が3億9千万ドルの契約を獲得し、ロシアで超高速鉄道の建設にのりだす」
Chinese company wins $390mn contract to develop Russian high-speed railway
 このプロジェクトは、当面はモスクワ→カザン→エカテリブルグを結ぶものとして企画されていますが、この路線が開通すれば今まで14時間もかかっていたモスクワ→カザンの旅程が3時間半に短縮されます。これは今後、モンゴル経由で北京まで通じる予定で、将来の「シルクロード・プロジェクト」という巨大な経済計画の一端を成すものです。
 超高速鉄道(新幹線)は、元々は日本が開発した技術です。ですから、日本政府がアメリカにだけ顔を向けるのではなく、ロシアにも外交の通路を拓いていれば、またとないビジネスチャンスを手にしていたことでしょう。しかし、私たちにとって不幸なことに、安倍内閣が選んだのは、アメリカと一緒になって戦争をする道でした。


<註> 安倍内閣が推進している文教政策は「中高の英語の授業を、英語でおこなう」「TOEFLを大学入試にする」「留学生を倍増し、12万人にする」「大学の一般教育の授業も外国人教員をやとって英語でおこなう」という路線です。しかしTOEFLは、アメリカ留学を目指すひとのための資格試験です。にもかかわらず、指導要領を無視して外国がつくった問題を、日本の大学入試に利用しろと言うのですから、私たちの頭は混乱してしまいます。今まで「指導要領から逸脱するような問題は出題するな」と厳しく指導きたのは文科省だったのではないでしょうか。だとすると、アメリカ議会で英語で演説した安倍氏のことを考えると、いま氏の頭を占拠しているのは、日本の若者をひたすらアメリカ留学に追い込むことだけではないかという疑問がわいてきます。しかし、州レベルでも連邦レベルでも国家経済が危機に瀕している国に、留学生を大量に送り出して、何を学ばせるつもりなのでしょうか。そのうえ、OECDの国際学力調査で最下位を占めるアメリカへ、我が国の若者を大量に送り出そうとするのは、何のためなのでしょうか。ひょっとして、破産しかけている州立大学を、留学生の授業料で財政支援するためなのでしょうか。あるいは、竹中平蔵氏のように、アメリカで新自由主義的価値観をたっぷり学ばせて帰国する留学生を大量につくりだしたいのでしょうか。私の疑問は尽きるところがありません。
TruthSeeker 「アメリカは教育でビリッ尻(ケツ)!」(16歳から24歳までの調査)


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翻訳:『インディペンデント』紙、「インフラ整備を怠たり、米国経済は危機に瀕している」

TPP、企業による「トロイの木馬」、集団的自衛権、米国の「警察犬」、米国のインフラ、アメリカ理解(2015/05/10)

 安倍首相が米国議会で、「TPPは経済問題だけではなく安全保障の問題でもある。だから日本はこの交渉妥結を目指し全力を尽くす」と英語で演説し話題を呼びました。
 国家元首が(しかも靖国神社に参拝し、日本語と日本民族を大切にすると声高に叫んでいる首相が)、英語で演説している姿は、この国は果たして正気の国かと思わせる光景でした。
 しかも「TPPは経済問題だけではなく安全保障の問題でもある」と言うのを聞くと、自民党の古参幹部=山崎元自民副総裁でさえ、時事通信社のインタビューで「解釈改憲=集団的自衛権は、将来に禍根残す」「日本の自衛隊は悪く言えば、米国の「警察犬」になるということだ」と言っていたことを思い出します。
http://www.jiji.com/jc/pol-interview?p=yamasaki_taku02-02
 山崎氏はさらに「オバマ大統領は集団的自衛権行使の検討を歓迎し支持したが、米国の軍事力が弱体化しそれを日本の自衛隊によって埋めようというのが歓迎の意味だ」と述べていますが、米国が弱体化しているのは、軍事力ではなく第一に経済力なのです。それを必死に巻き返そうとするのがTPPでした。
 中国とBRICS諸国が先導する国際銀行やアジア開発投資銀行に、米国の制止を押し切って、EU諸国までもがなだれこむことになったのですから、米国経済の弱体化は誰の目にも明らかでしょう。米国の「プードル犬」だったイギリスでさえ参加したのに、米国の言いつけに従って日本だけが取り残されたかたちになりました。
 その結果、真っ先に犠牲になるのが日本経済であるにもかかわらず、その自国破壊の先頭に立つと安倍氏は米国議会で言明したのですから、これほど悲劇的な(むしろ喜劇と言うべきか)構図は想像できません。毎年のように米国政府から突きつけられた「年次改革要望書」で、日本には貧困が広がる一方でしたが、今度のTPPで息の根を止められることになるでしょう。
 ここで残されている唯一の希望は、米国国内でTPP反対の世論が強まりつつあることです。NAFTA(北米自由貿易協定)で自国の製造業が軒並み国外に流出し、米国経済がボロボロになり、残るのは兵器産業だけになった(だから戦争をやめられない!)ことを多くの労働者が分かり始めたからでしょうか。
「企業による『トロイの木馬』、TPPという秘密協定は民主主義の脅威だとして批判の声が高まる」
"A Corporate Trojan Horse": Critics Decry Secretive TPP Trade Deal as a Threat to Democracy
 いずれにしても米国経済が危機に瀕していることは確実です。それを「インフラ(経済社会基盤)」という観点から分析したのが、以下で紹介するインデペンデント紙の記事です。
 同じようなことは既に、ノーム・チョムスキー『破綻するアメリカ、壊れゆく世界』(集英社、2008)、アリアナ・ハフィトンン『誰が中流を殺すのか、アメリカが第三世界に墜ちる日』(阪急コミュニケーションズ、2011)などで紹介されていますが、それがさらに悪化していることを、この記事は示しています。
 私が米国の州立大学で1年間、教えていたときも「これが大国アメリカか!?」と、大学の教育設備だけでなく道路などインフラの惨めさに驚かされたものですが、25年後の今は、それが一層ひどくなっているのです。そして、この沈没しつつあるドル船=泥舟を、自国民を犠牲にして、必死になって救おうとしているのが安倍内閣なのです。


インフラ整備を怠たり、
米国経済は危機に瀕している

道路、空港、橋、鉄道、電力供給網への公共支出はヨーロッパの半分
国家繁栄そのものが危機に瀕している

The US economy is under threat because of its neglected infrastructure
ルパート・コーンウエル(Rupert Cornwell)、インディペンデント紙、2015年4月10日

ある報告によると、アメリカの最も重要な道路のほぼ三分の一は大規模修繕が必要だという。(石油大富豪ゲティの言葉)

ああ、自由世界の首都ワシントンに春の兆しだ。アザレアとハナミズキの花芽は膨らみ、桜祭りが始まり、新たな野球シーズン到来までちょうど2週間だ。(故郷のナショナルズはワールドシリーズで勝てるだろうか?)あっ、そうだ、道路の穴ぼこのことだった。

この春、道路の穴ぼこは前よりひどくなっている。田舎道だけじゃない。主要ハイウェイでもそうだ。なかには本物のゾウの落とし穴かというものもある。スピードを出しているときにそんなやつのひとつ二つにぶつかると、車は廃車解体業者の工場行きだ。いかにもアメリカらしく、利口な奴なら、穴ぼこが引き起こした損害額を思いつく―2014年には64億ドル(42億ポンド)だ。昨年もアメリカ東部はかなり残酷な冬だった。今年の損害はバカにならない額になることだろう。

道路の穴はワシントンのような気候のところではどうにも避けられない生活の現実だ。凍結と雪解けの連続、暴風雨と吹雪、それに、道路に厚塗りされたどんな化学薬品で、道路の穴が開いたままになるのか。しかし間違いなく、前よりも道路の穴は増えている。そして道路の穴は、もっと深い危機の徴候だ。アメリカの経済的優位性そのものを脅かすと言うひともいるほどだ。

道路の穴をなくす方法、あるいは少なくともその数を減らす方法は、定期的に舗装をしなおして道路を良い状態に保つことだ。しかし、その必要があってもほとんどそれがされないというのが現実だ。そして米国では他のインフラ(経済社会基盤)もみな同じだ。道路だけじゃなく、港湾も空港も橋も鉄道も電力供給網もそうだ。要するに、国を貫通し国を動かしている基盤が、崩壊寸前なのだ。(その話題に関する最近のテレビのドキュメンタリーの題名を信じるなら)米国ははバラバラに崩れつつある。文字どおりに。

ほんの少し前までは、その逆が真実だった。米国は世界の輝く未来であり、米国はすでにその未来に到達していた。最高のテクノロジー、最も現代的な都市、高級車、最新の空港をもっていた。とくに優れているのは、州をつなぐハイウェイだった。アメリカ全体を結びつけるために1950年代と60年代に建設されたものだった。

ああしかし、遅かれ早かれ、若さの美は薄れる。そしてアメリカの基盤整備も同様だ。多くのそうした計画は、第二次世界大戦後の時代にさかのぼり、大恐慌に立ち向かうFDR(フランクリン・D・ルーズベルト大統領)のニューディール政策にまでさかのぼる。半世紀以上たった今、それらはみな徹底的な点検修理か取り替えの必要に迫られている。

調査して簡単に分かるのは、アメリカが相対的に衰退していることだ。世界経済フォーラムの報告は、国をインフラで格付けしているが、アメリカを25位に置いている(イギリスは24位だ。一方、勝者は皆さんの予想どおり、スイスだった)。航空輸送は米国が開拓した分野だが、それでは30位にまで落下している。しかしニューヨークのゴミゴミして薄汚い空港や、ここワシントンDCの殺風景なダレス空港を、かき分けかき分け進む人ならみな、その評価すらほめすぎだと考えるだろう。驚くなかれ、1995年にデンバー国際空港ができて以来、米国ではただの一つも大空港は新設されていないのだ。

また別の報告によれば、アメリカの最重要道路のほぼ三分の一は大規模な修理が必要だ。その一方で、七万の橋(つまり全体の九分の一だ)が「構造上欠陥がある」と判断されている。つまり平易な英語で言えば、安全でない、ということだ。ピッツバーグは橋がすべてという「川の町」だが、欠陥を持つ橋は五分の一だ。このような無味乾燥な数字が、近年では二回も現実の大惨事をひきおこした。ミシシッピ川に架かるミネアポリスの橋(州をつなぐハイウェイI-35がそこを通っている)が、2007年に崩落し、13人の死者を出した。2013年には、太平洋岸の主要なハイウェイである、ワシントン州のI-5で橋が崩落した。

車で中毒になっている国では、鉄道輸送は必然的に単なる添え物にすぎない。しかし、だからといって、世界中を走っている一万四千余マイルの高速鉄道のうち、ほんの一マイルの高速鉄道すら米国にはないのか、その説明にはならない。ワシントン、ニューヨーク、ボストンを結ぶ東海岸北部の重要な交通ルートにさえ高速鉄道がないのだ。その地域は、アメリカの鉄道会社アムトラックが鉄道網を所有しており、高速鉄道による連絡網がありさえすれば、アメリカで最も混み合った空の混雑を解消することにもなるはずだ。もちろん、鉄道駅についてもすべきことはじつに多々ある。ニューヨークのペンシルバニア駅(いわゆるペンステーション)に到着すると、地獄の控え室にでも入った気がする。



海上輸送もしかりで、アメリカは形勢不利になりつつある。大西洋と太平洋の両岸の港湾は、もっと大きなコンテナ船を収容する準備をしている。拡張されたパナマ運河を通過する新しいサイズの船だ。しかしロサンゼルスとすぐ近くのロングビーチの二大港湾は、米国の輸入の40%を処理しているが、既に絶望的なほど混雑していて、大きく後れをとっている。

つまるところ、かなりゾッとする状況だ。1960年代以降、インフラへの公共支出は、GDP比で、ヨーロッパの平均の半分あたりにまで落ち込んだ。そして米国土木学会(ASCE:American Society of Civil Engineers)の計算では、米国が追いつこうとするなら3.6兆ドルが必要だ。それは、金を工面しなければならない連邦政府や州や個人投資家にとっては、巨額の請求だ。しかし米国土木学会が警告するように、それをしなければ、将来の輸出、仕事、個人所得という点から見れば、その損失は、同様の巨額になるだろう。

もちろん、ただちにすべてを直すことはできないが、部分的な解決策は簡単明瞭だ。道路への連邦支出は、ハイウェイ信託基金からでる。これは、1956年の昔に、新しい州間ハイウェイに融資するために設立されたものだ。しかしその基金は財源を連邦ガソリン税から得ている。ガソリン税は1993年以来、1ガロン18セントで立ち往生したままだ。今日、基金は破産寸前だ。

だったら税金を上げればいいじゃないか。今が絶好のときだ。ガソリンの店頭価格は3年で40セント下落した。一方、今日の低燃費の車輌はガソリンをあまり使わない。アメリカが必要としている道路補修のため、誰にも気づかれないように増税をスルリとやってのけるには、今ほど良い時期はないだろう?だがああ、どんな種類であれ増税は、議会を仕切っている共和党には、大いなる嫌われものだ。だからもちろん、ウンザリするほど古ぼけたインフラへの真剣な行動は、オバマケアを廃止するための無駄な投票の半分すらも、共和党の興味を呼ばない。(上院議員56名と浮動票)

しかしながら、すべてが絶望的というわけでもない。国民投票で新しい公共事業について質問されると、投票した四分の三がそれを支持している。自分たちの税金を使ってもよいというのだ。だから道路の穴ぼこについて聞かれれば、賛成票は百%になるだろう。


<註> 堤未果による以下の書籍も、軍事大国アメリカの実像を知るのに役立ちます。
『ルポ貧困大国アメリカⅠ,Ⅱ』(岩波新書、2008.2010)
『沈みゆく大国アメリカ 〈逃げ切れ!日本の医療〉』(集英社新書、2014)
 特に2番目は、医療先進国であるはずのアメリカで本当は何が起きているのか、TPPが妥結すると将来の日本医療・福祉に何が起きるのかを、まざまざと示してくれます
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狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

Author:狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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