辺野古問題 「このままでは、沖縄は日本からの独立を目指さざるを得なくなるだろう」

沖縄・辺野古基金、カタロニアの独立運動、イギリス労働党の新党首ジェレミー・コルビン、アメリカ民主党の大統領候補バーニー・サンダース、国際教育(2015/09/16)


スペインからの独立を求めて、バルセロナ市内を埋め尽くした、140万を超えるカタロニア市民
カタロニアの独立運動
Over 1.4mn Catalans march for independence from Spain

 AP通信によると、2015年9月14日、沖縄県の翁長(おなが)雄志(たけし)知事は同日、米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の名護市辺野古への移設の承認を取り消す方針を表明しました。
 しかし沖縄県の翁長知事がアメリカ軍普天間基地の移設先である名護市辺野古沖の埋め立て承認を取り消す方針を表明したことについて、アメリカ政府は14日、辺野古への移設を進める立場に変わりがないことを改めて強調しました。
 このアメリカ政府の姿勢は、日頃から「人権擁護」「民主主義擁護」を口実に他国への介入・政権転覆を繰りかえしてきたオバマ政権の偽善性を改めて浮き彫りにしたように思います。同時にそれは安倍政権の「民衆蔑視」「対米追従」ぶりを鮮やかに示すことにもなりました。
 というのは、「人権無視」「環境破壊」をもたらす米軍基地移転にたいして沖縄の圧倒的多数が、度重なる選挙を通じて、拒否の姿勢を明確に表明しているからです。もし安倍政権とアメリカ政府がこのような姿勢をとり続けるならば、沖縄は独立を宣言せざるを得なくなるかも知れません。
 世界を見渡すと、各地に独立を目指す動きが活発化しているからです。イギリスでもスコットランドの圧倒的多数が独立を目指して運動していますし、スペインでも140万人を超えるカタロニアの人々が独立をめざす巨大な集会を開き、バルセロナ市内を埋め尽くしました。(時間のある方は下記動画もぜひ御覧ください)
Gateway to Catalan Republic: 1.4 million rally for independence in Barcelona
 他方では、イギリス労働党の党首として党内最左派の人物、「鉄道の再国有化、教育費の無償化、シリアへの内政干渉反対」などを政策として掲げた来たコルビン氏が選ばれました。またアメリカでも、社会主義者を自称するサンダース氏が民主党から大統領選に立候補し、各地の世論調査でヒラリー・クリントンを追い抜く勢いで快進撃を続けています。
 さらに、もう一つの新しい動きは、アメリカ追従の姿勢をとり続けてきたオーストラリアのアボット首相が、党内の党首選で敗北し、辞任に追い込まれたことです。安倍晋三首相を「最高の友人」と呼んで日豪の蜜月関係を築いてきた人物が敗北したのです。このように世界は変わり始めています。
 つまり、いま世界中の民衆が、財界寄りの権力政党・権力政治家にトコトン嫌気がさしているのです。ですから、何度も言いますが、もし安倍政権とアメリカ政府がこのような姿勢をとり続けるならば、沖縄は独立を宣言せざるを得なくなるかも知れません。世界の世論は多分それを支持するでしょう。
 今や沖縄とフクシマは世界中で注目の的になっています。共同通信(2015年8月31日)によれば、映画監督オリーバー・ストーン氏や言語学者ノーム・チョムスキーなど著名人109人が辺野古への米軍基地移設に反対を表明していますから、日米両政府の姿勢が変わらない限り、このような独立への動きは強まることはあっても弱まることはないでしょう。

「沖縄の人々に平手打ちを食らわせるものだ…」
辺野古移設反対で声明 オリバー・ストーン監督ら109人
(共同通信2015/08/31)


「沖縄・意見広告運動ニュース」(2015年8月28日号、4頁)
辺野古 署名 チョムスキー他041



「辺野古基金」とは
以下の説明については下記HPを参考にしました。
http://tamutamu2011.kuronowish.com/sosikikin.htm

 基金創設は作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が琉球新報連載「ウチナー評論」の中で提唱し、安慶田副知事から検討を打診された「沖縄建白書の実現を目指し未来を拓(ひら)く島ぐるみ会議」が辺野古移設反対の民意を国内外に広げることを目的に、基金の設置を検討してきた。
 2015年4月9日の設立発表から約3週間で1億円を超え、1カ月と1週間の5月14日で2億円を超えた。目標は、3億5000万円(約2カ月で突破)。2015年度目標額を新たに7億円に設定。「ゆうちょ銀行」を初めとする基金への送付先は上記HPに載っている。

共同代表(計9人)
沖縄県外=映画監督の宮崎駿氏、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏、元外務相主任分析官で作家の佐藤優氏、俳優の故菅原文太氏の妻・文子氏、報道写真家で県出身の石川文洋氏の5人。
沖縄県内=前嘉手納町長の宮城篤実氏、金秀グループ会長の呉屋守将氏、かりゆしグループ最高経営責任者(CEO)の平良朝敬氏、沖縄ハム総合食品会長の長浜徳松氏の4人。

共同代表のひとり宮崎駿氏について
 スタジオ・ジブリは、2015年5月7日、「辺野古基金」の共同代表に映画監督の宮崎駿氏が就任する意向であることを、琉球新報に明らかにした。
 宮崎氏は、高い功績を残した世界の映画人に贈られる米アカデミー名誉賞を受賞するなど、アニメ映画の監督として世界的に高い評価を受けている。
 氏は2002年に「千と千尋の神隠し」がベルリン国際映画祭でアニメーションとしては史上初の最高賞の金熊賞を受賞したほか、2003年にアカデミー賞長編アニメ賞も獲得した。「ハウルの動く城」「風立ちぬ」でも同賞にノミネートされた。
 2014年には日本人監督として1990年の故黒沢明監督以来2人目となる名誉賞をアカデミー賞主宰の米映画芸術科学アカデミーから贈られている。
 沖縄については2014年11月、オスプレイの撤去と辺野古新基地建設への反対に賛同する著名人の声を集める運動に「沖縄の非武装地域化こそ、東アジアの平和のために必要です」とした直筆の文章を寄せていた。

宮崎駿

 宮崎氏は5月8日、共同代表への就任について、スタジオジブリを通じ「沖縄の人たちがそういう覚悟をするなら、支援するしかないと思いました」とのコメントを発表した。
 事務局に携わる新里米吉(しんざと よねきち)沖縄県議は「宮崎さんは県民、国民をはじめ世界的に有名な方であり、共同代表に就任していただいたことで、基金を全国・世界にアピールできる。非常に意義のあることだ。新基地を造らせない運動にも連動していくと思う」と歓迎している。
 準備委によると、宮崎氏へは4月末に正式に共同代表への就任を依頼。これに対して5月4日、承諾する本人の署名入りの文書が準備委に届いていた。
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「軍事費世界地図」―世界人口の5%で世界の軍事費50%を占める国アメリカ

軍事費世界地図、世界の憲兵(Global Policeman)、悪の枢軸(Axis Of Evil)、人口5%で軍事費50%の国、平和研究(2015/09/14)

軍拡世界地図 Military-Expenditures-World-Wide
http://www.wtcphila.org/uploads/4/9/5/7/49572435/bofaml-transforming-world-atlas-2015-08.pdf


 いま国会は戦争法案をめぐって大揺れに揺れています。なぜ戦争法案が必要かと問われて政府がいつも答弁する内容は、「危急存亡のとき自衛隊が米軍を守らねばならない」というものです。
 しかし、これを聞いていると頭がおかしくなりそうです。というのは、今まで私たちが聞かされてきたのは、米軍が日本を守ってくれるから沖縄その他に米軍基地が必要だというものでした。
 ところが今はこれが全く逆転して「自衛隊が米軍を守ってやる」というのです。しかし米軍が自力で戦ったのでは負けるような敵を相手にして、どうして自衛隊が勝てるのでしょうか。
 冒頭に掲げた「世界の軍事費地図」を見てください。この地図はGlobal Researchから採ったものですが、ご覧のとおり、世界の軍事費の半分はアメリカが占め、中国の軍事費はその約3分の1にすぎません。
 ところで、この地図の出典を調べてみたら、アメリカの大銀行「バンカメ」Bank of Americaの "Transforming World" atlasに載っていることが分かりました。そして、この地図には次のような四つの注釈が付いていました。拙訳で紹介します。

1)アメリカの軍事費は、次位15カ国の軍事予算を全て足したよりも多い。
2)ペンタゴンは、アメリカ50州すべての医療費・教育費・社会保障費を合計した額よりも多い金額を軍事費に使っている。
3)実際、アメリカの人口は世界の人口の5%に過ぎないにもかかわらず、世界全体の軍事費の50%をアメリカが占めている。
4)突出した軍事費と科学技術の優位性がアメリカを世界の超大国にしている。アメリカが強大な地政学的影響力をもち世界の憲兵として果たすべき役割を期待されているのは、このためだ。


 私は最初なぜアメリカの大銀行「バンカメ」がこのような「世界の軍事費地図」を公表しているのか奇異な感じがしましたが、最後の4)を読んで納得しました。このような見解だからこそ、ではないかと思い当たったのです。
 それはともかく、アメリカの軍事費は御覧のとおり突出していて、しかも、その兵器は世界最先端を行くものですから、それと正面から戦って勝てる相手はいないのです。ですから、「自衛隊が米軍を守る」というのは笑止千万で、それを理由に戦争法案を通そうとしても誰も信用しないでしょう。
 ついでに付け加えておくと、上記の「軍事費世界地図」で北朝鮮を探すと、芥子粒(けしつぶ)ほどの大きさです。韓国の軍事費を示す円グラフの頂点にかすかな黒点として存在するにすぎません。ですから、このような国がアメリカや日本にとって脅威であるはずがないのです。しかし戦争するためには相手を悪魔化する必要があります。イラクと並んで北朝鮮が、Axis Of Evil「悪の枢軸」と名指さしされ、悪魔化されたゆえんです。

 だとすれば、天下無敵の米軍がなぜ自衛隊を必要とするのでしょうか。それは嘘をついて始めた戦争が世界に拡大していくことにたいしてアメリカ国民の多くが嫌気をさし、反戦意識が国内で強くなっているからです。また黒人を武装警官が射殺する事件が相次ぎ、国内でも一種の騒乱状態が生まれていることも、その要因になっているでしょう。
 最近はBRICS諸国の存在感が大きくなり、このまま放置しておくと超大国アメリカの地位が崩壊しかねません。ですからその牽引車となっているロシアと中国の勢力を何としても削(そ)がねばなりません。しかし国内では反戦意識が強くなっていますから、米兵を直接の戦闘に差し向けるわけにはいきませんから、代わりの傭兵が必要です。
 そこでロシアにたいしてはNATO軍を使い、中国に対しては自衛隊を使おうというのが、アメリカの戦略です。ただし戦争を仕掛けるためには口実が必要です。そこで最近よく使われるのが「人道的介入」「民主主義擁護」で、ウクライナ領クリミアをロシアが占領したというのが、そのひとつの口実になっています。
 しかし、そもそもウクライナに大金を注ぎ込んでクーデターを起こさせたのはアメリカでした。これは国務次官補ヌーランド女史自身が「米国ウクライナ基金」の大会講演で明らかにしています。それによると、アメリカは1991年からウクライナを支援するために50億ドルを投資したというのです。
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201508110000/
 また中国にたいしては尖閣列島の問題が口実として使われています。中国との間で棚上げになっていた問題を、自民党右派の言動を利用しながら、火を付けようというわけです。これについて詳述しているゆとりがありませんので、時間がある方は下記を参照していただければ有り難いと思います。

John V. Walsh(2013/02/08)「日本に中国との対決をけしかけるアメリカ」
資料: 国際戦略研究所(CSIS)「アーミテージ/ナイ報告」

 いずれにしても、自衛隊がアメリカの傭兵として使われて私たちに利益になることは何一つありません。日本の防衛費が激増し、その分だけ教育や福祉への予算が削られるだけです。それでも軍事費が足りないというので消費税を値上げしたばかりですが、他方で福島のひとたちは放射能汚染にさらされたまま置き去りにされています。
 安倍政権が、沖縄住民の圧倒的意思を無視して、米軍基地の辺野古移転に断固たる意思を示しているのは、上記のようなアメリカの戦略に根ざしていることは疑いようのない事実です。アメリカは他国に干渉するとき「民主主義擁護」を高々と掲げるのですが、ウクライナや沖縄の現状をみれば、それがいかに「大いなる偽善」かはよく分かるはずです。
 「民主主義」というのは「民衆の意思を尊重する」ということのはずです。しかし安倍政権もオバマ政権も、やっていることは「民衆蔑視」そのものです。


<註1> 憲法9条を無視して自衛隊が中国近海どころか中東にまで出かけるようなことになれば、今まで日本に大きな親近感をもっていたアラブの人たちを敵に回すことになるだけでなく、日本国内をEU諸国と同じようなテロ攻撃の舞台として提供することになるでしょう。

<註2> 悪の枢軸(Axis Of Evil)という場合、アメリカが名指したのはイラン、イラク、北朝鮮でした。しかしチョムスキーがしばしば言及する「世界を危険にさらす」「悪の三大国」とは、氏の祖国アメリカ、そしてイスラエル、サウジアラビアの三つでした。これは記憶しておくに値する事実ではないでしょうか。 
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日本食の輸入禁止地図、世界は「フクシマは完全にコントロールされている」という安倍首相の言を信じていない」

汚染水流出、除染土嚢の流出、世界地図「日本食の輸入禁止措置」、福島原発事故(2015/09/13)

世界各国における日本食の輸入禁止措置
http://news.whitefood.co.jp/radioactivitymap/forign-government/3419/2015.5.18
汚染食品輸入規制
赤色:日本食で輸入禁止措置の項目がある国
オレンジ:輸入される日本食に対して放射能検査を要求、あるいは、自国で放射能検査を実施


毎日新聞は9月9日(水)付けで、「福島第1原発:汚染水が外洋流出、7回目」として、その概要を次のように報じました。

東京電力は9日、福島第1原発の排水路から放射性物質を含む雨水が外洋に流出したと発表した。台風18号の雨の影響で、別の排水路に移送するポンプの能力を超えたのが原因という。移送を始めた4月以降、外洋への流出は可能性も含め7回目。


 安倍首相は東京にオリンピックを誘致する際、「フクシマは完全にコントロールされている」と大見得を切りましたが、これが大ウソだったことは上記のニュースでいっそう明らかになりました。
 だからこそ冒頭の地図「世界各国における日本食の輸入禁止措置」でも分かるように、韓国や台湾政府以外の諸外国も、日本の食品に対して輸入禁止措置をとっていたり、放射能検査の実施を要求したり、あるいは自国で放射能検査を実施しているのです。
 ところが安倍首相はこの事実を認めず、世界貿易機関(WTO)に提訴しました。しかし、そんなことをすれば、フクシマにたいする現場検証がますます厳しくなり、余計にウソがばれて、赤恥をかくことになるだけでしょう。
 そう思っていた矢先に、FNNニュースは、9月13日(日)付けで、「福島・飯舘村で、放射性物質に汚染された草を入れた土嚢(どのう)袋の数は240に増え、うち2袋は空になっていた」と報じました。
 流されたのは、福島県飯舘村の、放射性物質に汚染された田んぼを除染した際に出た、草を入れている土のう袋でした。
 環境省は当初、「新井田川が氾濫した影響で、土のう袋が流されていると、飯舘村役場から連絡があり、確認したところ、川に82袋が流されていることがわかり、そのうち37袋を回収した」と言っていました。
 ところが何と!その後の環境省の調べでは、流出した土のう袋の数は240にのぼり、このうち回収できた数は113袋だというのです。しかし流出したのは、これが全てだという保証は何もありません。
 そもそも、「放射性物質に汚染された草を入れた膨大な数の土嚢袋」を、何カ所(何十カ所?)にも及ぶ広大な仮置き場に放置してあったこと、そのものが大問題です。(土嚢袋が放置してあるようすは下記FNNニュースの映像を御覧ください。)
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00302891.html
 また回収したうちの2袋は、汚染された草が外に漏れ出て空になっていたのですから、周辺・川下の飲料水や農産物に(そして海に流れ込んで海産物にも)重大な危険がおよぶ恐れもあります。
 これでどうして「フクシマは完全にコントロールされている」と言えるのでしょうか。
 こんなことを繰りかえしていたら、食料品の輸入規制どころか、東京オリンピックに来ようとする外国人客は激減することになるでしょう。
 大嘘をついて誘致したオリンピックなのですから(しかも、いま競技場建設で莫大な予算を浪費しようとしているのですから)、このオリンピックは即刻、返上すべきではないでしょうか。


<註> 元大統領ブッシュ氏が大嘘をついて始めたイラク戦争は、いまや中東全体を破壊と殺戮の場に変えています。そして大量の難民がEU諸国になだれ込むことになりました。だとすれば、このオリンピックも被害が拡大しないうちに中止・返上すべきではないかと思うのです。


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「英語が話せないのは日本人だけ」という神話、その3

チャータースクール、小中一貫の「義務教育学校」、中高一貫の「中等教育学校」、英語教育の外注(アウトソーシング)・民営化、英語教育(2015/09/08)

目次
1 はじめに
2 EUでも6割のひとが英語を解しない
3 何が英語学習・外国語学習を促すのか
4 教育を破壊する、「ザルみず効果」の英語教育
5 英語の害悪―公教育の民営化・差別化


5 英語の害悪―公教育の民営化・差別化
 先述の調査では、言語学習を阻害する要因として「時間がない」「十分なモチベーションがない」「費用がかかりすぎる」の3つをあげ、他方で言語学習を促進する要因については、「授業が無料であること」「金銭的な補助が受けられること」の2つが常に上位に挙げられていました。
 すでに紹介したように、「授業が無料であること」「金銭的な補助が受けられること」が、「十分なモチベーション」を持つ学習者には極めて効果的であることは、岐阜大学留学生センターの日本語プログラムでみごとに証明されています。彼らには短期集中型のプログラムで「無料」で「十分な学習時間」を与えられていたからです。
 とすると、政府文科省も英語教育に実を上げたいのであれば、全国に英語教育センターを設置し、「動機・目的が明確である学習者」に、留学生センターでおこなわれているのと同じような短期集中型の英語教育プログラムを、「無料」で実施すればよいだけなのです。
 そうすれば小学校英語に莫大な金を費やす必要もありませんし学校教育をゆがめる恐れもなくなります。また莫大な金をかけて外国人教師を輸入し小学校から大学に至るまで、くまなく配置する必要もありません。そこで浮いた予算を英語教師の海外研修に充てるほうが、はるかに英語教育に有益です。
 政府・文科省がこのような政策をとらないのは、そんなことをすると教育産業から強力な抗議や圧力があるからでしょう。公教育で教育効果が上がるのであれば、わざわざ英会話教室に行ったり、高価な英語教材を買う必要がなくなるからです。教育産業が儲かるためには、学校教育が効果を上げてもらっては困るのです。
 民営化できるものはすべて民営化して企業に儲けさせるのが現政府の経済政策ですから、英語教育もできるだけ外注(アウトソーシング)あるいは民営化し、経済活性化の道具として使いたいのでしょう。だからこそ、「大学入試もTOEFLなど民間企業が開発した検定試験を使え」という方針が出てくるわけです。
 もし現行のセンター試験に不備があるのであれば英知を集めてさらに優れた入学試験を開発させればすむ話で、わざわざ莫大な血税を民間の試験に浪費する必要はありません。ましてアメリカ企業が開発したアメリカ留学用のTOEFLに、莫大な血税を無駄遣いする理由は、まったく見当たりません。事実、他の教科はすべて自前の試験で間に合わせています。それとも将来は、他の入試科目もすべて民間会社に外注するつもりなのでしょうか。
 あれほどたくさんのノーベル賞受賞者を生み出している日本の知性が、TOEFLやTOEICに代わる、もっと良い入試問題をつくりだせないはずがないのです。それをしないでアメリカで開発された資格試験を使えというのは、どう考えても無理があります。考えられる国内の理由としては経済活性化策あるいは教育産業による圧力、そして外国の教育産業からの圧力以外に考えられません。もう一つ考えられるとすれば、ALTを無理やり輸入させられたときと同じように、貿易赤字を理由にしたアメリカ政府からの圧力です。
 いずれにしても、政府文科省の英語教育政策は、本当に国民の言語力を高める施策としては、あまりにも稚拙かつ強引すぎるのです。「英語の授業は日本語を使わず英語でおこなう」という方針についても同じです。もし「外国語を教えるときに日本語を使わないほうが教育効果があるのであれば、NHKの外国語講座はずっと以前からそうしていたはずです。しかしいまだに日本人が日本語を使って会話練習をしています。外国人がいても補助役にすぎません。そのほうが無駄がなく能率的だからです。
 このように考えてみると、政府文科省が「英語を話せないのは日本人だけ」という言説を振りまきつつ、学校教育のありかたを根本的に改革(改悪?)していることに、私は大きな危機感を感じています。そのひとつは英語教育の改革(=改悪)を突破口にして、公教育の民営化が将来どんどん進行するのではないかと思うからです。大学入試が民間企業に外注されようとしていることは、TOEFLその他を大学入試に使えという圧力になっていることは先に述べたとおりです。
 このような流れが強くなれば、将来は大学入試そのものを民間企業に任せようという動きが出てくる可能性は十分にあります。私学では入学生を確保するため1年間に何度も試験をするところが少なくないのですから、入試問題の作成や採点の負担から逃れたい教員が、このような動きを支持するかも知れません。今までは文科省と地方自治体が責任をもって全国の学校に配置していたALT(外国語指導助手)も、最近はその採用を民間の派遣業者に委託するところが増えているのですから、このような動きはますます強くなる可能性があります。
 アメリカでは、市民が手作りで立ち上げる学校という名目で「チャータースクール」が広がり、公教育の解体・民営化が着実に進行していますが(同時にこれは公立学校の組合解体と軌を一にしています)、同じことが日本でも広がらないという保証はどこにもありません。すでに国立大学は法人化され、学長権限の強化や大学財源の民間依存など、大学の運営形態も企業経営にますます近くなっています。アメリカは、ずっと以前から医療・保険・教育分野の規制緩和を強く迫ってきていたのですから(医療と保険についてはすでに一部は実現してしまっています)、同じことが大学以下の公教育についても進行するのではないかと私は恐れています。
 ところで、「英語を話せないのは日本人だけ」という言説をひとつの根拠にして進行している、もうひとつの「公教育のゆがみ」は、小中一貫校を制度化する動きです。このたび国会では改正学校教育法が成立し、2016(平成28)年度から小中一貫教育を実施する「義務教育学校」が創設されることになったからです。表向きの理由として、これによって子どものつまずきの大きな原因の一つである「中1ギャップ」が解消できるといったことがあげられていますが、この裏には小学校英語教育の先取り実践が大きく関わっているように思われるのです。
 精神年齢から言うと、中高一貫校をつくるほうがむしろ自然ですし、「高1ギャップ」のほうがもっと大きいのですから、「中1ギャップ」が解消できるという理由で小中一貫校をつくるというのは、あまり納得できる説明とは言えません。むしろ学校統廃合のために安易に利用される危険性のほうが大きいでしょう。
 実際、複数の小学校を統廃合するに当たり保護者や地域住民を説得する理由として小中一貫教育の導入を掲げるケースは少なくありません。これまでは郵便局や小学校の存在が地域を守るかなめになっていたのですが、このような統廃合は過疎地の部落をさらに過疎化させ崩壊させていくでしょう。すでにアメリカの要求で郵政が民営化され、郵便局が廃止された集落も少なくないからです。
 また、過疎化しているから統廃合して小中一貫校をつくるというのは、そもそも教育の原理から言うと間違っているのです。なぜならフィンランドはOECDの学力調査で世界のトップをいく国として有名ですが、国土に比して人口が少ないため過疎地に小学校があり、複式学級が普通になっています。つまり少人数教育が徹底しているから学力世界一になっているとも言えるのです。
 日本もそのような理想的な環境に近づきつつあるときに、それを統廃合して大学級にするというのは、全くばかげた行為としか言いようがありません(日本でも全国学力調査で一位になったのは過疎地の多い秋田県や福井県でした)。これでは、統廃合して小中一貫校をつくるというのは、教育予算を削りその分を軍事予算に回そうとするための工作ではないかと疑われても仕方がないでしょう。
 ですから、統廃合して小中一貫校をつくるというためには、別の理由づけが必要になります。そこで口実として使われるのが、「英語が話せないのは日本人だけ」→「だから英語ができる日本人を育てる」→「そのためには小学校からの英語教育が必要」→「小学校からの英語教育を効果あらしめるためには小中の連携が不可欠」という論理です。
 つまり、市区町村教育委員会が政府文科省の指導で、小中一貫校の「義務教育学校」を進めようとするとき、そのもう一つの口実となっているのが「小学校における英語教育の実を上げる」という言い方なわけです。
 その証拠に、私の住む岐阜県の小中学校をみていても、小学校英語を充実させることを選挙公約に掲げて当選する市長や町長が目立ちます。そこでは、小学校英語を充実させるためと称して中学校の英語教師が小学校に送り込まれたり、小中共同の研究会が頻繁に開かれたりしているからです。
 たとえば多治見市笠原小学校は、笠原中学校と連携して、2008年10月31日(金)に「文部科学省指定・研究開発学校(英語)第2期、笠原小中一貫教育公表会」と銘打って大々的な公開授業をおこない、全国からたくさんの参観者が訪れたそうです。
 しかも最近は、この「小中の連接を踏まえた英語教育の在り方~笠原型コンテント・ベイストの手法を用いて」をテーマとする公開授業が毎年のように開かれ、今年度は中学校英語の公開授業は300人の参観者を収容できる中学校の体育館を使い、小学校英語の公開授業は、そこからバスを何台も仕立てて笠原小学校へ移動するという力の入れようです。
 しかし小学校英語は見かけは華やかなのですが、実態は「ザルみず効果」に終わることが多く、基礎学力を荒廃させる危険性が極めて大きいのですから、時間と予算を浪費する分だけ有害無益であることは、これまで何度も述べてきたので繰りかえしません。ここで私がもっと問題にしたいのは、小学校英語を口実にした中高一貫校は、学校格差をさらに広げてしまうという点です。
 もともと、「初等教育」と「中等教育」を分けたのは、子どもの発達過程を踏まえていたからでした。「思春期」「反抗期」を迎えた若者の教育を「中等教育」としてひとまとめにしたのは、この年齢の指導は「初等教育」とは違った困難さがあり、指導方法も「初等教育」とは違わざるを得なかったからです。ですから一貫教育をすべきだというのであれば、「小中一貫」ではなく「中高一貫」にすべきでしょう。
 小中一貫の「義務教育学校」が問題なのは、この学校が上記のような教育原理を踏みにじっているだけでなく、学校格差と貧富の格差を固定する危険性があるからです。現在でも「中高一貫校」は私立学校が多く、今では東大・京大・慶応・早稲田のような難関大学への進学者の多くは、このような私立の有名な「中高一貫校」で占められています。しかも、このような私立の有名な「中高一貫校」に進学できるのは一部の裕福な家庭の出身者だけです。
 公立・国立の「中高一貫校」もないわけではないのですが、数が限られていて、ここに進学するのも並大抵のことではありません。高倍率・高得点のところが多いのですから、家庭教師をつけてもらえたり学習塾・予備校に通わせてもらえる裕福な師弟が進学できることになります。それに反して、そのようなゆとりがない家庭の師弟は、貧困者が通う小中一貫の「義務教育学校」ということになります。学習塾・予備校が存在しない田舎や過疎地の若者も当然このような公立・国立の「中高一貫校」に進学する機会を奪われます。
 しかも私立の「中高一貫校」では文科省の指導要領による縛りが非常にゆるいので、「英語で授業」をしなくても監視されたり校長に呼び出されて注意されることもありません。有名大学への進学率を上げてくれさえすればよいので、日本語を使って説明しながら文法や読解にもたっぷり時間をさくことができますから、入試でも高得点をとらせることができます。こうして、ますます「小中一貫校」への進学者と「中高一貫校」への進学者との間に格差が広がっていきます。
 これは同時に貧富の格差を拡大再生産します。なぜなら「中高一貫校」への進学者の進学者は有名大学に進学し、大学を卒業したときの就職先も当然ながら高給が得られるところになるからです。他方、公立学校の「小中一貫校」へ進学する圧倒的多数の貧困者や中産階級の若者は、有名大学に進学できませんから、就職先も派遣社員などが多くなり、その大多数が非正規労働者になっていくでしょう。アメリカでは公立学校と言えば、黒人やラテン系アメリカ人など貧困者が通う学校になってしまっていますが、同じ状況が日本にも出現することになるかも知れません。
 そして、このような学校格差を生み出す元凶、貧富の格差の拡大再生産の元凶が、「英語が話せないのは日本人だけ」→「だから英語ができる日本人を育てる」→「そのためには小学校からの英語教育が必要」→「小学校からの英語教育を効果あらしめるためには小中の連携が不可欠」という論理だったとすれば、英語が果たす罪は極めて重いと言わねばなりません。だとすれば、このような悪循環を断ち切る道は、「英語が話せないのは日本人だけ」という神話を打ち砕く以外にはありません。この小論がそのための一助になれば幸いです。(完結)
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「英語が話せないのは日本人だけ」という神話、その2

言語間距離、「ザルみず効果」、英文法の幹・英音法の幹、OECD「国際成人力調査」、記号研方式、英語教育(2015/09/06)

目次
1 はじめに
2 EUでも6割のひとが英語を解しない
3 何が英語学習・外国語学習を促すのか
4 教育を破壊する、「ザルみず効果」の英語教育
5 英語の害悪―公教育の民営化・差別化



3 何が英語学習・外国語学習を促すのか
 話しが少し横道にそれたので本題に戻します。これまではEUの推進する言語政策が「母語プラス2言語」であるにもかかわらず、EUのなかで英語を知らない・話せないひとが6割強もいることをみてきました。
 文字も文法もほとんど同じであり「言語間距離」がきわめて小さい言語を母語とするひとたちが生活している言語空間で、しかも通貨も統一され人間の移動も自由になった政治経済空間なのですから、もっと英語が話せるひとが増えてもよさそうなのに、それが38%にとどまっていることは、やや信じがたい気もします。
 しかしEUのひとたちの6割もが英語を解せないという事実は、もうひとつの数字を見ると納得できないこともないという気になります。それは、この世論調査「ユーロ・バロメーター」の「学習状況」という項目が示す数字です。この先の論文では2005年と2012年の調査結果が載せられています。
 この二つの調査は設問が異なっていて、2005年は、「この2年間に言語学習をおこったか」「来年以降に言語学習を始める予定はあるか」という質問に「はい/いいえ」で回答する形式になっていますが、2012年は選択肢のなかから当てはまるものを選ぶ形式となっています。その結果は次のとおりです。

                   あり  なし   わからない
この2年間の言語学習      18%  81%   1%
来年以降の言語学習の予定  21%  75%   4%

表3 :学習状況(2005年)

この2年間に新しい言語の学習を開始 7%
この2年間に言語学習を継続 14%
最近の言語学習はなし、来年以降開始予定  8%
最近の言語学習はなし、来年以降の開始予定なし 44%
母語以外の言語の言語学習の経験なし     23%
わからない 8%

表4 :学習状況(2012年)


 上の表3(2005)で、まず驚かされるのは、「この2年間の言語学習」で「なし」と答えたひとが81%、「来年以降の言語学習の予定」も「なし」と答えているひとが75%にも上っていることです。
 では、表4(2012)ではどうでしょうか。二つの調査は設問が異なっているため単純に比較することはできませんが、先の表3で「この2年間の言語学習」「なし」に該当するものを、この表4で探すとすれば、次の三つを合計したものになりそうです。

最近の「言語学習はなし」、来年以降開始予定      8%
最近の「言語学習はなし」、来年以降の開始予定なし 44%
母語以外の言語の「言語学習の経験なし」        23%
                               合計 75%


    
 この三つを合計すると75%になり、表3の「この2年間の言語学習」「なし」の81%に近くなります。それでも「言語学習はなし」が81%から75%に減ったのですから、EUが多言語主義を掲げ「母語プラス2言語」という政策を打ち出して旗を振った効果が少しはあったとも言えます。
 しかし2012年の時点でも、「言語学習はなし」が75%にも上っているのですから、やはり「EU人口の6割」は「英語を話せるほどには知ってはいない」というのは本当だったのです。国境を越えて人間の移動が自由なEUでさえこの状態なのですから、日本人が英語を話せないからといって何ら恥じることはありません。
 このことは、表3(2005)と表4(2012)を次のように組み替えて比較してみると、もっと歴然としてきます。

              2005年    2012年
この2年間の言語学習  18%    7%(開始)+14%(継続)=21%
来年以降、開始の予定   21%     8%
            合計  39%    29%



 ご覧のとおり「この2年間の言語学習」「来年以降開始予定」の合計は、2005年度では39%だったのに、2015年には29%にまで減少しているのです。つまりEUが多言語主義を掲げ「母語プラス2言語」という政策を打ち出しても、「笛吹けど踊らず」という状況なのです。
 国境をこえて自由にひとが移動できる環境にあるはずのEUで、なぜ外国語学習が停滞しているのか。その理由を先の論文では次のように分析しています。

いずれの年も「言語を学習している/始める予定である」と回答したのは2割程度にとどまっている。またそれぞれの調査では、年代別、社会階層別の比較も行っているのだが、肯定的な回答の割合が高いのは、前者では最若年層(15-24歳)、後者では学生と管理職である。
 つまり学業を終えた人の大半は言語学習を行わないということである。これは、2005年と2012年の学習方法についての調査(複数選択可)で、「学校の授業」という回答が6~7割であったのに対し、「語学学校に通う」「CDやDVDを使って一人で学習」といった学外での学習については軒並みl割程度に過ぎなかった結果からも明らかになっている。
 このように学校教育のみに依存した言語学習が、先に紹介した各言語のレベルが横ばいであることと各年代の「母語プラス2言語」の割合が上昇していないことのもうひとつの説明要因になっていると考えられる。(前掲論文45-46頁)


 つまりEUでは、学校を卒業すると、ほとんどのひとは言語学習・外国語学習をしていないのです。しかしそれでも言語学習に熱心な国もあります。その事情を先の論文は次のように述べています。

これまで述べてきたように多くの市民が意識レベルでは多言語能力を職業能力や経済性と関連づけているにも関わらず、実際はそれに十分な水準に達していないことが明らかになった。こうした現状を説明するのが、その言語使用が主に高い水準も頻度も求められない余暇に限ったものであることと、言語学習の学校教育に対する極度なまでの依存であったことはこれまでに述べてきた通りである。(中略)
 しかし[意識レベルすなわち「学習目的」にかんする] 2012年の調査結果には、もうひとつ、近年の欧州金融危機に始まる景気の低迷や雇用の不安定といった社会情勢も影響していると考えられる。例えば、EUの財政支援を受けたギリシアと現在支援を検討中のスペインは、2012年の調査で、「国外で仕事をするため」の回答がそれぞれ73%、79%、「自国で良い仕事に就くため」の回答がそれぞれ69%、60%で参加国中の1、2位であった。(48頁)


 要するにEUでは「母語プラス2言語」の旗が大きく振られていたにもかかわらず、多くの人はそれほど言語学習に熱心ではないのです。ただし経済的に大きく落ち込んでいて失業率が極めて高いスペインやギリシアなどでは言語学習にたいする意識が極めて高いことが分かります。
 私が退職する年(2010年)に訪れたギリシアでは経済危機が始まったばかりの頃でしたが、ストライキが頻発し、私がギリシアから帰国しようとしたときもタクシー会社のストとで、一時は空港までたどりつけるか危ぶまれる状態でした。このような状態では、「国外で仕事をするため」あるいは「自国で良い仕事に就くため」の外国語学習が盛んになるのは当然とも言えます。
 現在のギリシア経済は当時よりもさらに深刻ですから、国外脱出への流れはさらに強まっていることでしょう。これを逆に言えば、日本人が英語を話せないのは、危機感がそれほど強くないということであり、それは幸せなことだとも言えるわけです。本当に必要があれば、私がベトナムで出会ったストリート・チルドレンが学校に行けないにもかかわらず英語で観光客に土産物を売っていた状態になっていたでしょうから。
 それどころか彼らは私が日本人だと分かると即座に日本語に切り替えてきました。要するに生活に追い詰められれば学校に行かなくても外国語を話せるようになるのです。

4 教育を破壊する、「ザルみず効果」の英語教育
 私は先に、EUでは、国境をこえて自由に移動できる条件があるにもかかわらず、学校を卒業すると、ほとんどのひとは言語学習・外国語学習をしていないことを紹介しました。それに引き替え、日本の英語学習熱は燃えさかる一方です。
 インターネット上では様々な英会話教材の宣伝であふれていますし(中には50万円以上もするものもあります)、「小学校低学年に英語教育を実施する」を選挙公約の目玉にして市長に当選する人物も出てくる始末です。まさに「英語狂育」であり「英語狂騒曲」とも言うべき状況です。
 このような現象を生み出している第一の元凶は政府文科省にあると言うべきでしょう。なぜなら「英語が話せないのは日本人だけ」という言説を振りまいて、「英語ができないひとは人間ではない」かのように日本人を劣等感や強迫観念で満たしつつ英語学習に駆り立てているからです。このような文教政策は教育産業を儲けさせることに貢献しても、日本人の創造力・研究力を高めることに貢献しません。
 というのは、日本のような言語環境では、学校で(あるいは塾・英会話スクールときには市販教材で)いくら会話学習をしても使い機会がありませんから、憶えてもすぐ忘れてしまいます。私の言う「ザルみず効果」です。ザルに水をどれだけ入れても溜まっていきません。お金と時間と精力の途方もない浪費です。ですから、いま文科省が進めている言語政策は「1億総白痴化」「亡国の文教政策」というべきです。
 ですから日本の学校教育で必要な英語教育とは、いざ必要になったときに役立つ基礎学力、すなわち「英文法の幹」「英音法の幹」を身につけさせることだけです。このようなちからさえ身につけていれば、いざ必要になったとき集中訓練で、すぐに話す力をつけることができます。
 私が勤務していた岐阜大学では、ほとんどの留学生(院生・研究生)は留学生センターで3ヶ月の集中訓練を受けただけで大学の事務職員と日本語で意思疎通ができるようになりました。学習目的が明確で、環境さえ整えば、誰でも生活に必要な程度の会話力は身につけることができるのです。先の論文でも同じことを次のように述べています。

また学校教育で習得した異言語能力の持続性についても、今回の分析結果を見る限り疑問が残る。そこで考えられるのが生涯教育としての成人の言語学習である。学習状況の調査結果からも明らかなように、大半の市民は修学期間以降、言語学習を行っていない。
 ユーロ・バロメーターでは言語学習を阻害する理由と促進する理由についても調査しているが、前者については、「時間がない」「十分なモチベーションがない」「費用がかかりすぎる」の3つが、後者については、「授業が無料であること」「金銭的な補助が受けられること」の2つが常に上位に挙げられている。
 確かに2003年の行動計画には、「生涯を通じた言語教育・学習の推進」が挙げられているが、現状ではそれが十分に実行されているとは言い難い。(48-49頁)


 つまり学校教育だけでは「時間がない」「十分なモチベーションがない」「費用がかかりすぎる」の三つが言語学習の阻害要因となって効果が上がりません。だからこそ学校教育では「英文法の幹」「英音法の幹」を身につけさせてることだけに専念すべきなのです。また、これだけを習得させるのであれば中学・高校の授業だけで十分です。
 これは私の現場体験からも十分に立証することができます。手前味噌になりますが、私たちの研究会が現場で苦闘しながら研究・開発した「記号研方式」「寺島メソッド」で教えれば、英語を小学校から教える必要はありません。英語を読み書きする基礎学力、英語を聴解・発話する基礎学力は、中学・高校だけで教えることができるからです。<註>
 また学校教育に、それ以上のことは必要ありませんし、それ以上のことを学校に期待すると、学校教育がゆがんできます。学校教育は英語教育のためだけに存在しているではないからです。(その証拠にJapan As Number Oneと言われていた頃の企業は、すべて自前で、必要な社員に英語力を身につけさせていました。)
 なぜなら学力の土台をつくる言語力は、国語力(自然言語)と数学力(人工言語)の二つから成っていますが、英語学習に焦点をおいた学校教育・大学教育では、ともすれば暗記力や機械的練習だけに膨大な時間と精力を奪われることになりがちだからです。これは生徒・学生から、国語力・数学力だけでなく、「思考力」「創造力」すなわち「疑問を生み出す力」「批判的に考える力」を奪うことになります。
 何度も言うように、これは「亡国の教育政策」と言うべきです。いま日本はOECDの「国際成人力調査」で、国語力・数学力のいずれにおいても世界一の高学力を誇っていますが、このままでは早晩その地位を他者に明けわたさなければならなくなるでしょう。先述のとおり、ノーベル賞の受賞者数をみても、自然科学分野では世界のトップレベルなのですが、このような英語偏重の文教政策を続けていれば、この地位も危うくなるでしょう。
 繰りかえすようですが、英語が話せなくてもノーベル賞が取れることは益川敏英氏が証明してくれましたし、歴代受賞者のなかでアメリカで学位をとったひとは3人しかいないのです。私が調べた限りでは、受賞者のなかで子供の頃から英語に血道を上げた人はひとりもいません。ですから、むしろ小さいときから英語に血道をあげていたらノーベル賞はとれなかっただろうと考えるべきなのです。
 それどころか、「はじめに」で述べたとおり、ノーベル賞受賞者には、子どもの頃の遊びの重要性、たとえば「子どもの頃に山野をかけめぐったことが見る力・考える力を育ててくれた」(白川英樹)と言っているひとが多いのです。
 すでに日本は世界第二位だった経済力の地位を今や中国に明けわたすようになっているのですが、以上のことを考えれば、このような英語偏重の教育政策をとっていると(それは結果としてアメリカ追随の経済政策をとることにつながるわけですが)、日本の経済力にさらなる転落が待ち受けていることは間違いありません。


註: しかも、この「記号研方式」「寺島メソッド」は暗記力を必要としません。詳しくは拙著『英語教育が亡びるとき』の巻末に載せてある参考文献、あるいは山田昇司『英語教育が甦えるとき-寺島メソッド授業革命』明石書店2014、を参照ください。>

(次号に続く)

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「英語が話せないのは日本人だけ」という神話、その1

世論調査「ユーロ・バロメーター」、OECD「国際成人力調査」、二つの基礎言語力:国語力(自然言語)と数学力(人工言語)、英語教育(2015/09/04)

目次
1 はじめに
2 EUでも6割のひとが英語を解しない
3 何が英語学習・外国語学習を促すのか
4 教育を破壊する、「ザルみず効果」の英語教育
5 英語の害悪―公教育の民営化・差別化



1 はじめに
 自民党の文教政策は「英語が話せないのは日本人だけ」という神話に基づいていて立案されているように思われます。それを最も明瞭に示しているのが小学校から大学に至るまで「英語漬け」にしようとする文科省の方針です。
 しかし、これでは学力の土台をつくる言語力をやせ衰えさせるだけで、悪くすれば「1億総白痴化」になりかねません。
 なぜなら学力の土台をつくる言語力は、国語力(自然言語)と数学力(人工言語)の二つから成っていますが、英語学習に重点をおいた学校教育・大学教育では、暗記力や機械的練習だけに膨大な時間と精力を奪われることになりがちだからです。
 これは生徒・学生から「言語力」だけでなく「思考力」「創造力」すなわち「疑問を生み出す力」「批判的に考える力」を奪うことになります。これは「亡国の教育政策」と言うべきです。
 いま日本は、OECDの「国際成人力調査」で、国語力・数学力のいずれにおいても世界一の高学力を誇っていますが、このままでは早晩その地位を他者にあけ渡さなければならなくなるでしょう。
 またノーベル賞の受賞者数をみても、自然科学分野では世界でトップクラスなのですが、このような英語偏重の文教政策を続けていれば、この地位も危うくなるでしょう。
 というのは英語が話せなくてもノーベル賞が取れることは益川敏英氏が証明してくれましたし、歴代受賞者のなかでアメリカで学位をとったひとは3人しかいないからです。私が調べた限りでは、受賞者のなかで子供の頃から英語に血道を上げた人はひとりもいません。
 ですから、むしろ、小さいときから英語に血道をあげていたらノーベル賞はとれなかっただろうと考えるべきなのです。それどころか子どもの頃の遊びの重要性、たとえば「子どもの頃に山野をかけめぐったことが見る力・考える力を育ててくれた」(白川英樹)と言っているひとが多いのです。
 すでに日本は世界第二位だった経済力の地位を今や中国に明けわたすようになっているのですが、以上のことを考えれば、このような英語偏重の教育政策をとっていると(それは結果としてアメリカ追随の経済政策をとることにつながるわけですが)、日本の経済力にさらなる転落が待ち受けていることは間違いありません。
 そこで以下では「英語が話せないのは日本人だけ」という言説がはたして本当なのか、
教育研究にとって英語が話せることはそれほど重要なことなのかを検証してみたいと思います。いま私たちに必要なのは無用な劣等感から日本人を解放し、自信をもって独自の道を歩む外交政策や文教政策だと思うからです。

2 EUでも6割のひとが英語を解しない
 以上の観点から、ここでは、欧州委員会が2001年と2005年、ならびに2012年に実施した世論調査「ユーロ・バロメーター」の分析を通じて、「英語が話せないのは日本人だけ」という言説がはたして本当なのかを検証したいと思います。
 というのは幸いにも、堀晋也・西山教行「ヨーロッパに多言語主義は浸透しているか:ユーロ・バロメーター2001、2005、2012からの考察」という論文(『日本フランス語教育学会学会紀要』第8巻、第2号:2013:33-50頁)が手元にあるからです。
 この論文を読むと、EU諸国の間でさえ、英語を解しないひとたちが少なくないことが分かります。つまり「英語を話せないのは日本人だけ」というのは全くの神話であることが、この調査から見えてきます。
 興味深いことに、文字も文法もほとんど同じであり「言語間距離」がきわめて小さい言語を母語とするひとたちでさえ(しかも人間の自由な移動が許されているEU域内ですら)必ずしも英語を話せるとは限らないのです。
 そこで以下では、この論文およびそこに示されているデータをもとに、「英語が話せないのは日本人だけ」という言説が全くの嘘にすぎないことを、私なりの分析方法で立証したいと思います。
 というのは、この論文では「ヨーロッパに多言語主義は浸透しているか」という題名が示すとおり、「母語以外に2言語を習得させる」というEUの言語政策「多言語主義」がどのくらい成功したのかを検証するのが論文の主題になっていて、英語にじゅうぶん焦点が当てられているとは言い難いからです。
 さて、この世論調査「ユーロ・バロメーター」は、1973年以降、欧州委員会が施策の参考にすることを目的とし、様々なテーマについてEU加盟各国、約1000名ずつの15歳以上の市民を対象として行っている対面式の世論調査でした。
 この調査はふつう毎年2回、春と秋に行われるのですが、言語教育については、これまで3回(2001、200、52012)実施されました。。調査対象の内訳は次のとおりです。

       2001年     2005年    2012年
参加国数  15ヶ国    29ヶ国     27ヶ国
参加人数 16078名   28694名   26751名

<註> 2005年は当時の加盟25ヶ国に加え、ブルガリア、ルーマニア(ともに2007年加盟)、トルコ、クロアチアも参加している。

 言語教育についての調査内容は、次の四つに大別されます。すなわち(1)言語知識、(2)言語実践、(3)言語学習、(4)多言語主義に対する意識、の四つです。しかし、ここでは「英語が話せないのは日本人だけなのか」を調べてみたいので、そのすべてを紹介することは割愛させていただきます。
 まず第一の「言語知識」ですが、調査では「母語を除いて会話できるほど充分に知っている言語は何か」という質問に対して、知っている言語を最大3言語あげるという回答形式となっています。
 その結果をまとめたのが表1であり、そこで挙げられた数の多い5言語についてEU全体で「知っている」と回答した人の割合を示したのが表2です。

        2001年 2005年   2012年
1言語以上    47%   56%   54%
2言語以上    26%    28%   25%
3言語以上     8%   11%    10%
全くない      53%    44%    46%

表1 知っている異言語の数

     2001年 2005年 2012年
英語    32%   38%   38%
仏語    11%   14%   12%
独語    8%   14%   11%
西語    5%    6%     7%
露語    *     6%      5%

表2 知っている異言語の種類(※ロシア語の2001年のデータは未公表)

 この表を見て、まず驚かされるのが、「知っている異言語は全くない」と回答した市民が半数近くいることです。つまり、EUのように文字も文法もほとんど同じで「言語間距離」がきわめて小さい言語を母語とするひとたちでさえ、必ずしも近隣の言語を話せるとは限らないのです。
 この数字にはイギリス人も入っています。イギリス人やアメリカ人は英語が普遍語だと思っていますから、外国語を学ぶ必要を感じていないひとが少なくありません。ですから英語人が「母語以外は知らない」と回答したとしても不思議はないのですが、イギリス人がEU全体で占める割合はそれほど大きいとは言えないのですから、やはりこの数字は驚くべき数字だと言えるでしょう。
 つまり言い換えれば、この数字は「EUのひとたちでも英語を知らない・話せない人は少なくない」ということを示していると考えられるのです。
 そのことを別のかたちで検証してみましょう。そのさい役立つのが表2です。これは、表1であげられた数の多い5言語について、「知っている」と回答した人の割合を言語別に示したものだからです。
 これを見ると英語の割合が高いことは事実です。しかしそれでも、EU全体で英語を異言語として知っているひとの割合は4割に満たないのです。2001年には32%だったのが2005年には38%に増えたとはいえ、2012年になっても38%のままで増加していません。これを逆に言えば、「EUのひとたちの6割強が英語を話せない」ということです。
 これは「英語を話せないのは日本人だけ」「英語は国際語だから英語さえ知っていれば世界中のひととコミュニケーションができる」という言説が嘘だということをも示しています。たとえ英語が話せる日本人でも、EUでは6割のひとが英語を理解できないのですから、英語で話しかけても通じるはずがありません。
 これは私の体験からも納得できることです。かつて私はベルリンの壁が落ちた直後に、モスクワを起点にして、ワルシャワ→クラコフ→アウシュビッツ(以上ポーランド)→プラハ(チェコスロバキア)→ベルリン(ドイツ)→アムステルダム(オランダ)という行程で、アンネの足跡を訪ねるひとり旅をしたことがあります。
 東欧はロシア語圏だから英語が通じないのは当然としても、ベルリンに着いたとき、「いよいよ英語が通じる世界に来た」と思ってホッとしたのですが、英語が意外に通じないことを知ってショックを受けた記憶があるからです。高級ホテルでは英語が通じないところはないでしょうが、私の旅は安宿を泊まり歩く旅でしたから、ホテルのフロントでは英語が通じず途方に暮れてしまったのでした。
 同じようなことを韓国でも体験しました。韓国の水原(スオン)という市で国際平和学会があったとき、ついでに忠清南道(チュンチョンナムド)天安(チョナン)市にある独立記念館を訪ねようとしたことがあります。韓国は小学校から英語教育をしていることで有名でしたからスオン駅で汽車の切符を買おうとして近くの若者に英語で話しかけてみたのですが、どの若者も「だめだめ」という手振りをして逃げ出してしまったのです。
 政府・文科省は「英語が話せないのは日本人だけ」という言説に根拠に小学校から大学まで全てを英語漬けにしようとしているのですが、このような文教政策は日本人に間違った劣等感を植えつけるだけで、有害無益と言わねばなりません。英語ができないから日本経済が低迷しているのだと言いたいようなのですが、Japan as Number Oneと言わしめた経済力は、読解中心の英語教育を受けた先人たちがつくりあげたものでした。
 ここでは詳述するゆとりがありませんが、現在の低迷は日本人の英語力とは何の関係もありません。それは全く別の要因によるものです。その証拠に日本の成人学力は世界一ですし、私が退職する以前は、「なぜ日本は高校の中途退学者がこんなに少ないのか教えてほしい」と、毎年のようにアメリカから岐阜大学教育学部に視察団が訪れていました。平均寿命も世界一です。マクガバン報告によれば世界で最も健康な食事は和食です。
 他方、アメリカの医療がすぐれているからという理由で、知人のいる私大では、医療経営者を引き連れた調査団をつくりアメリカに調査旅行に行ったひとたちがいるのですが、帰ってきた感想を聞くと「あまりにひどさに驚いた」の一言でした。マイケルムーアの映画『シッコ』を見ていれば、こんなことはすでに分かっていたことですが、英語力=経済力、アメリカ=理想の国という幻想が彼らの眼を曇らせてしまっていたのです。
(以下、次号に続く)
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