革新へと変わる世界、右傾化して変わらない日本

ジェレミー・コービン、バーニー・サンダース、カタロニア独立運動、トンキン湾事件、イスラム国、TPP(Trans-Pacific Partnership)、非親告罪、国際教育(2015/10/25)

イギリス労働党の新党首ジェレミー・コービン  アメリカ大統領候補者バーニー・サンダース
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 前回のブログを書いてから既に1ヶ月が経とうとしています。この1ヶ月は拙著『英語教育が亡びるとき』の続編(仮題『英語で大学が亡びるとき―「英語力=グローバル人材」というイデオロギー』)を校正するのに追われて全くゆとりがなく、体をこわして10日間も寝込んでしまう事態になってしまいました。今やっと気力・体力が少し回復したのでパソコンに向かって、このブログを書き始めています。

 最近の世界情勢に少しずつ新しい風が吹き始めたように思います。というのは、9月27日のスペイン=カタロニア自治州議会選挙で、独立賛成派が勝利しました。これを受けカタルーニャと、英スコットランドの分離・独立運動は新たな局面に入ろうとしているからです。
 私は以前のブログで日本政府が沖縄の民衆が圧倒的多数で米軍基地の辺野古移転を拒否したにもかかわらず(全選挙区で自民党が敗北)、安倍政権が民衆の意向よりもアメリカの意向を優先する政策を続けるかぎり、沖縄にとって残された道は日本からの独立しかなくなる、と書きました。
 上記のようなカタロニアやスコットランドの動きがさらに勢いを増し、実際に独立するようなことになれば、それに勢いを得て、沖縄の独立運動はさらに現実味を帯びてくるでしょう。というのは安倍政権は憲法を踏みにじって戦争法案を強行採決しましたが、その結果まっさきに犠牲になるのは沖縄人と自衛隊員の命だからです。
 というのは、「中国封じ込め」という戦略のなかでアメリカがまず第一に頭に描いている戦場は尖閣列島であったり南沙諸島だからです。そして中国との間で実際に戦争が始まった場合、まっさきに出動基地となるのが沖縄であり、まっさきに出動を命じられるのは米軍ではなく自衛隊だからです。
 私の家は岐阜市内にありますが自衛隊各務原基地が近くにあります。ところが機密保護法案が国会の話題になり始めた頃から、自宅の上空で自衛隊戦闘機の爆音が急に強くなり始め、戦争法案が話題になり始めた頃から、自衛隊戦闘機の大編隊が轟音を立てながら何度も上空を行き来するようになりました。
 これは明らかに戦争が近くなっている証拠であるように思います。さもなければ、このようにひっきりなしの戦闘訓練をする理由がないからです。かつてアメリカは「トンキン湾事件」という謀略事件を起こして本格的にベトナム戦争へと突入しました。日本も中国本土で盧溝橋事件や満州事変などの謀略事件を起こして戦争に入っていきました。このように軍部・為政者にとって戦争はいとも簡単に引き起こせるものなのです。
 そして、いったん戦争がおきてしまえば大手メディアは一斉に敵を悪魔化して戦争賛美へと流れていきます。逆にそれに異を唱える人たちには「非国民」のレッテルを貼りますから、始まってしまった戦争を押しとどめることは極めて困難になります。それは、アメリカ全体が「911事件」のあと一斉にアフガニスタン戦争さらにはイラク戦争へと流れていった経過をみれば、歴然としています。ABC放送もニューヨークタイムズも戦争賛美一色になりました。
 ですから、日本でもアメリカでも尖閣列島や南沙諸島の問題を口実に戦争を起こしたいと思っているひとたちは、どこかで必ず謀略事件を起こすに違いないと私は思っています。
 イラク戦争の場合も、いま起きているシリア内戦の場合も、いったい幾つの嘘がばらまかれてきたでしょうか。今でも欧米のメディアはシリアのアサド大統領が化学兵器を使って自国民を殺しているという嘘をつきながらシリア爆撃の口実にしようとしましたがロシアによってその嘘が暴かれて攻撃の口実を失い、今度は自分たちが育て上げたイスラム原理主義者「イスラム国」の人権問題や古代遺跡の破壊を口実にしながらアサド政権転覆を画策しています。
 しかも、アメリカとNATO諸国による中東地域の破壊は、アフガニスタン→イラク→リビア→シリア→イエメンといったふうに、とどまるところを知りません。2001年から始まったアフガニスタンについても、その国土を破壊し尽くしているのに未だに休戦・停戦の道筋を全く見えていません。これは中東全体についても言えることです。
 このなかで、どれだけの死者と難民が生まれたでしょうか。このような破壊と殺戮の「パンドラの箱」を開けることになった張本人、元イギリス首相ブレア氏と元アメリカ大頭領ブッシュ氏は、戦争犯罪人として裁かれたでしょうか。今もサウジアラビアなどのイスラム原理主義=王制独裁国家を支援しながら戦乱拡大の役割を果たしているオバマ大統領にたいして、戦犯としての告発を、欧米の大手メディアのどこかが、今までに発したことがあるでしょうか。
 というのは、これらの王制独裁国家およびトルコやイスラエルが、アメリカと手をつなぎながら、裏でいわゆる「イスラム国」を支援してきたことは今では歴然としているからです。それが目に見えるかたちではっきりと姿を現したのがイギリスにおける労働党の党首選挙でした。この党首選挙では、労働党の最左派と言われ今まで泡沫候補として誰も相手にしていなかったコービン氏が、圧倒的多数で党首に選ばれることになったからです。
 これはイギリス民衆が、ブレア氏に代表される今までの労働党の路線、規制緩和と民営化を追い求める財界寄りの路線、嘘をついてまでもアメリカの戦争政策に追随する労働党の路線に、いかに嫌気がさしているかを如実に示すものでした。そして今までのブレア路線がいやになって労働党をやめていたひとの多くが、いま労働党に戻り始めているというニュースも入ってきています。(しかし他方でBBCを初めとする大手メディアは、コービン氏を過激派分子であるかのようなレッテルを貼り、新しい「悪魔化」、新しい「コービンたたき」を始めています。)
 このようにイギリス民衆が目覚め始めたのと同じようにカナダでも変化が起きました。カナダの総選挙でも、アメリカの戦争政策に追随してきたスティーブン・ハーパー首相を、有権者が3期ぶりに政権の座から引きずり降ろしたからです。カナダの新しい首相はさっそくカナダ軍戦闘機を中東からひきあげると発表しました。これは二つの意味があるように思います。
 一つは、イスラム原理主義集団「ISイスラム国」と戦うと称してアメリカやイギリスが主権国家シリアの許可なく勝手にシリア領内を爆撃しても「ISイスラム国」の領土は縮小するどころか拡大する一方だったからです。ところが正式に選挙で選ばれたアサド大統領の要請で、ロシアが「ISイスラム国」の軍事拠点を攻撃し始めたら、アメリカやNATO諸国が1年かけても達成できなかった成果を1週間で達成してしまったからです。
 このことは、アメリカが「ISイスラム国」と戦うと言いながら、真の狙いはアサド政権の転覆にあったことを改めて裏付けるものでした。このことはアラブの民衆にとっては自明の事実でしたが、カナダの総選挙は、それがカナダの民衆にも分かり始めたということを示すものでした。しかも(国連決議があるのであれば別ですが)、内戦状態にある主権国家を国家元首の了解や要請なしに他国が勝手に爆撃するなどという行為は国際法を露骨に踏みにじるものであり、これもカナダの民衆にとっては許せないことだったのでしょう。
 同じことは実はアメリカでも起きています。いまアメリカでは新しい大統領を選ぶための予備選が激しさを増しています。ところがここに異変が起きています。というのは社会主義者を自認するサンダース氏が、無所属ではなく民主党の候補者として立候補し、民主党の目玉と目されているヒラリー・クリントン女史と互角の闘いを演じているからです。世論調査ではヒラリー女史を超える支持率を得ている州も少なくありません。
 しかもサンダース氏は財界からの献金は拒否するという姿勢を強固に貫いているにもかかわらず、氏のもとに集まる献金はヒラリー女史が財界から集めた金額に迫る勢いだそうです。これもアメリカの民衆が、ブレア氏と同じような「財界寄りの規制緩和と民営化」を推し進める民主党=ヒラリー女史の路線に、嫌気を感じていることを如実に示すものです。
 サンダース氏とヒラリー女史の動きで、もうひとつ面白い現象が起きています。それはTPPをめぐるものです。
 TPPは巨大企業が国家主権を乗り越えて、国家が国民の生命・健康・生活を守るために企業活動に規制をかける法律を作った場合、それを企業が自分の利益に反する規制をかけたという理由で国家を訴える権利をもつという、恐ろしい条約です。だからこそ、今まで交渉内容をひたすら秘密にしてきたのでした。
 これに真っ向から反対しているのがサンダース氏です。しかも民主党の党員にも、このようなTPPに反対する議員は少なくありませんでした。ですから、TPPについては一括して大統領に任すという法案を通すために、オバマ大統領は、皮肉なことに共和党の議員に頼らざるを得ませんでした。
 ところがウィキリークスなどを通じて、TPPの内容がいかに巨大企業の利益だけを優先し民衆の利益を踏みにじるものであるかが暴露されてきているので、今ではヒラリー女史でさえ、予備選挙でサンダース氏を打ち負かして民主党支持を取り付けるために、TPP反対を言わざるを得ないように追い込まれています。
 さらに、もっと興味深いのは、共和党の大統領候補者として予備選で最先端を走っているトランプ氏までが、最近はTPP反対を言い始めていることです。彼の言い分は「たとえば日本の大企業がアメリカの政府を訴えることができるような貿易協定は許すわけにはいかない」というものです。トランプ氏にとっては、世界の覇者であるアメリカ、覇権国家アメリカが、他国の企業から告訴されることなど許しがたいというわけです。

 いずれにしても、世界はこのように揺れ動いているのですが、肝心の日本は、戦争法案に疑問を呈した朝日新聞や毎日新聞ですら、あたかもTPPは既成事実であるかのような論調です。それどころか「TPPが流れずに何とか妥結して良かった」という論著すら見られます。オバマ氏のアメリカでさえ、まだTPPの行方は流動的なのに、我が日本ではTPP推進論が主流なのですから、言うべきことばを失ってしまいます。
 しかもTPPは安倍晋三氏がアメリカ議会で演説したとき、TPPは単なる経済協定ではなく中国封じ込めのための軍事協定であり、日本はその協定実現のために先頭に立って奮闘すると述べ、満場の拍手を得ているのです。だとすれば、戦争法案に疑問を呈してきた大手メディアは、TPPにたいしても鋭い疑問を提起すべきでしょう。単に農産物の自由化だけを問題にするのではなく、国家主権など論ずべき問題は数多く残されているのですから。
 ところがNHKを初めとしてメディア全体が右傾化しているので、国家主権はもちろんのこと、TPPと中国封じ込めの問題、TPPで日本の医療が崩壊するするかも知れないという問題、「非親告罪」をめぐる言論の自由などは、ほとんど議論になっていません。あれほど戦争法案が話題になり、国会包囲のデモが繰り返しおこなわれたにもかかわらず、与党が平然としていられる背景には、このような事情があるように私には見受けられます。


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翻訳 「暴力、それはアメリカの生活様式だ」

禁酒法、麻薬戦争、先住民ピクォート戦争、南北戦争、ロシア皇帝アレキサンダーⅡ世、農奴解放23万人、スメドレー・バトラー将軍、アメリカ理解(2015/10/07)

Umpqua Community College shooting aftermath Candle-light vigil
オレゴン州公立短大における銃暴力の犠牲者を見送る通夜参加者

オレゴン、銃暴力
https://www.rt.com/in-vision/317404-ucc-shooting-oregon-tragedy/

 さる2015年10月1日、オレゴン州のコミュニティカレッジで銃器で武装した男が9人を射殺後、警察との銃撃戦のなかで自殺しました。
 CNNによると、この銃乱射事件の実行者(クリス・ハーパー・マーサー26歳)は、拳銃3丁、ライフル1丁で武装し、防弾着を着用していました。
 銃乱射によって「4人以上の死傷者を出した事件」を追跡・記録している団体「Mass Shooting Tracker, 」による調査では、この事件は2015年(10月1日現在)に起きた294件目の銃乱射事件であり、学校もしくは大学構内で発生したの銃撃事件としては45件目にあたります。
 この調査では、4人以上の死傷者が出す事件は9ヶ月で294件ですから「1ヶ月で約33件」、すなわち毎日アメリカのどこかで銃乱射事件が起きていることになります。しかも、この数値は「4人以上の死傷者を出した事件」しか記録していませんから、1人以上の死傷者が出た事件は、これよりはるかに多いことになります。
 (その証拠に、以下で紹介する翻訳「暴力、それはアメリカの生活様式だ」では、「殺人はアメリカで毎日平均87回も起きている。戦争のためアフガニスタンに行くほうが、シカゴで暮らすより危険ではない」と述べています。)
 そのうえ、この9ヶ月で「学校もしくは大学構内で発生した銃撃事件としては45件目」ということですから、「1ヶ月に5件」すなわち毎週どこかの学校または大学で銃乱射事件が起き、4人以上の死傷者が出ていることになります。
 他方、オバマ大統領は、この事件を受けて、「銃乱射事件が日常化している。事件報道もいつものこと。この演壇での私の反応も、いつものこと。事件後にかわされる会話もいつも同じ。我々はマヒしてしまっている」と述べ、国民に銃規制を呼びかけました。
 しかし、この呼びかけは中東の一般民衆にとっては、非常に空々しく聞こえるのではないでしょうか。というのは、アメリカが「911事件」を口実に、アフガニスタンを爆撃し、それに引き続き今度は「大量破壊兵器」という嘘を口実にイラクを爆撃し、さらに「独裁者打倒」を口実に戦火はリビアに拡大して、連日の空爆はリビアを瓦礫に変えました。
 これにも懲りずオバマ氏は戦火をシリアやイエメンにまで拡大しましたが、ここで口実は「独裁者打倒」でした。しかも、これらの爆撃・戦闘で毎日どれだけの人が殺され、どれだけの人が難民となったでしょうか。EUになだれ込んだ大量の難民は、その一部にすぎないのです。
 他方、アメリカの盟友であるサウジアラビアなどの「王制独裁国家」「イスラム原理主義国家」と違い、イラクもリビアもシリアも「世俗国家」であり、「独裁者」が支配していたはずの国家は、じつは女性でも自由に無料で大学に行くことができた国でした。このような国をアメリカが戦闘で破壊し、中東に血の雨を降らせ続けてきました。
 いま話題になっている「イスラム国IS」も実は、(詳しい説明は省きますが)アメリカの盟友であるサウジアラビアなどの「王制独裁国家」「イスラム原理主義国家」が裏で資金援助をしながら勢力を拡大して出来あがったものでした。
 チョムスキーが「世界の誰もが知っている、アメリカは世界最強・最悪のテロ国家だ」と言い続けてきたのは、こういう背景があったからです。
チョムスキー「世界の誰もが知っている、アメリカは世界最強・最悪のテロ国家だ」
 そこで以下に、退職した大学教授ジョン・コーズィ氏による小論「暴力、それはアメリカの生活様式だ」を紹介したいと思います。チョムスキーとは違った切り口でアメリカを論じているからです。上記の拙訳によるチョムスキー論文と比較しながら読んでいただければ幸いです。

<註> ジョン・コーズィは哲学・論理学の元教授で、退職した今は社会的・政治的・経済的な諸問題について健筆をふるっている。朝鮮戦争中にアメリカ陸軍に服したあと、州立大学教授として20年間をすごし、退職後の20年間は作家として働いている。形式論理学の教科書を公刊し、学術誌や商業雑誌にも執筆している。また新聞のゲスト論説をたくさん書いてきた。彼の論説は下記サイトで読むことができるし、そのホームページから彼宛にメールを送ることもできる。
http://www.jkozy.com/


人口10万人あたりの銃による殺人、アメリカは断トツの世界一銃暴力 世界ランキング アメリカ USGunViolenceTrends_Chart1
http://everytownresearch.org/us-gun-violence-trends/?source=ggnp_EverytownBrand



暴力、それはアメリカの生活様式だ
Violence: The American Way of Life
By John Kozy、Global Research, November 15, 2013
http://www.globalresearch.ca/violence-the-american-way-of-life/5318698


 アメリカ合州国は暴力によって身ごもり、暴力によって養育された。
 アメリカ人は暴力に手を染めているだけでなく、暴力を楽しんでさえいる。
 殺人はアメリカで毎日平均87回も起きている。戦争のためアフガニスタンに行くほうが、シカゴで暮らすより危険ではない。
 ローマ人は殺人を観劇するためコロシアムに出かけたが、大都市のアメリカ人は窓の外を眺めるだけでいい。かつて野球はアメリカの国技だったが、温和で退屈なスポーツなので、アメカンフットボールのような、選手の脳を破壊するほど獰猛なスポーツに取って代わられてしまった。暴力映画は「アクション映画」と呼ばれ、映画館とテレビを支配している。子どもたちもビデオ殺人ゲームを楽しんでいる。
 だから 銃規制でアメリカを奇跡的に平穏な国へと変えることができるなんて、本当に信じられるかね?銃の製造と使用を非合法化することでアメリカ人を平和愛好者にできるなんて、本当に可能かね?文化は法律では変えられない。変化は何世代にもわたる息の長い努力が必要だ。アメリカ人にそんな仕事が務(つと)まるかい?

 キャリー・アミリア・ムーア・ネイション(Carrie Amelia Moore Nation)は、1846年11月25日に生まれた。後に彼女は禁酒運動の過激な一員となった。彼女は、「主キリストの足元を走りまわり主がお好みにならないものに吠えかかるブルドッグ」と自称し、酒場の破壊を禁酒推進の聖なる儀式だと言い張った。禁酒運動を始めたのは、[1874に28歳で再婚し][1889年に]カンザス州メディスンロッジへ移住したあとのことだった。
 そこで彼女は、女性キリスト教徒禁酒同盟(the Woman's Christian Temperance Union)の地方支部を開設し、酒販売禁止令を実行するようカンザス州に求める運動を始めた。彼女は酒場を破壊するということで悪名をはせようになった。しばしば賛美歌をうたう女性たちと楽器演奏者を伴って酒場まで行進していき、うたいながら祈りを捧げながら酒場の備品や酒の在庫を斧(おの)でたたき割った。
 この「斧による破壊」で彼女は1900年から1910年のあいだに30回ほど逮捕された。彼女は、1911年6月9日に亡くなり、ミズーリ州ベルトンで埋葬された。墓には墓標がなかったので、のちに女性キリスト教徒禁酒同盟は石碑を建て、こう記した。「禁酒法を制定させた篤信者。彼女は自らの為し得ることを為した」。もう8年長生きしていたら彼女は禁酒がアメリカの国法となるのを見たであろう。

 しかし、もちろん長続きはしなかった。禁酒法は1933年12月5日に廃止されたからだ。ほんの14年間つづいただけだった。そして決して社会に有益な影響を与えなかった。それどころか、アメリカに犯罪組織(マフィア)を根づかせる手助けをしただけだった。
 しかしアメリカ人は容易に断念はしない。この知識人なんかいらないとする社会(だから、もっと科学者が必要なんだと言われている国)では、非科学的な慣習がはびこっている。だから、役に立たないと分かっているものが何度も何度もくりかえされる。ニクソン政権が1871年に麻薬戦争を宣言したのも同じ理由だ。
 それから50年後のいま麻薬戦争の塹壕(ざんごう)の壁はまさに崩れはじめている。麻薬禁止というこの長期にわたる努力も、まったく功を奏せず、社会にたいして何の益もなかった。それどころか国内と国外で何千人もの死者をうみだし、数えきれない若者の命を奪うことになった。同時に大量のお金を浪費した。禁酒法がそうであったように、麻薬戦争も、国際的犯罪カルテルの蔓延(まんえん)を助長しただけだった。
 科学的気質をもつ人なら効果がないと放棄するはずのことを、アメリカ人は驚くほどの熱意をもって実行に移してきた。愚劣だと考えるひとが一人くらいはいてもよさそうだが、一人もいない。群衆はふたたび騒ぎたてている。今はその対象が銃だ。

 ただし誤解のないように。私は銃をもっていない。というのは、文明国に住んでいる人に銃が必要だという理由が、私には思いつかないからだ。銃にはただひとつの目的しかない。人殺しだ!文明人には人殺しをする必要も理由もない。もし銃が自己防衛に必要だというなら、その国は国内に平安を保障するという基本的機能において失敗・破綻しているのだ。(合州国憲法を読んでみたまえ!)それさえ提供できない国は完全に失敗国家・破綻国家だ。銃の所持を強固に主張する人がいるという事実が、アメリカ人の性格とアメリカ国家の破綻について、多くを物語っている。銃について論じる以前の問題だ。
 しかし、もう一つの禁止[銃規制]を試みるということがアメリカにおける暴力になんら意味ある効果をもたらさないとしても、何かをしているという気休めにはなるだろう。銃規制法を「気分のいい」法だという人もいた。たぶんそうだろう。「気分の良い」法は「気分の悪い」法よりは良いに決まっている。そして銃規制に反対する充分な理由などないことも分かっている。しかし私が反対しているのは、銃規制さえすればアメリカ社会における暴力が著しく減少するんだという能天気な楽観主義なのだ。銃がアメリカの暴力の原因ではない。アメリカ社会の暴力性が銃偏愛の原因なのだ。

 アメリカ合州国は暴力によって身ごもり、暴力によって養育された。アメリカを植民地にしたヨーロッパ人は寛大だったわけでも文明的だったわけでもない。ヨーロッパ社会の屑だったのだ。そして互いに軽蔑し合っていた。マサチューセッツの、まったく不潔きわまりない(totally impure) 清教徒たち(Puritans) は、ペンシルベニアのクエーカー教徒とメリーランドのカトリック教徒を軽蔑していた。
 ピクォート戦争で英国の入植者たちは、ジョン・メイソンに命令されてミスティック川の大きなピクォート村に夜襲をしかけ、住民を家ごと焼き払い、生き残ったひとたちもすべて殺した。控えめな見積りでも、ヨーロッパ人の植民以前のアメリカの人口は、一千二百万人を超えていた。四百年後には、その数は二三万七千人まで減少させられた。四百年もの間、先住民にたいして絶え間のない暴力がふるわれ、その暴力はいまだに続いている。

 エイブラハム・リンカーンは偉大なる奴隷解放者として崇(あが)められているが、南北戦争で約七五万人のアメリカ人が殺された。戦争以前には耳にしたこともないような暴力によって、奴隷解放がおこなわれた。これとは対照的に、しかも同じ頃、ロシアの専制皇帝アレキサンダーⅡ世は、たった一人も殺さないで、二三万人以上の農奴を解放した。あの忌々しいロシアの専制君主が!
 南北戦争の後、アメリカ人は辺境地をひたすら突き進んで太平洋に至った。それを銃で使ってやったのだ。ウィンチェスターモデル1873自動連発銃とコルト連発ピストル1873「ピースメーカー」(平和をつくる!という名の銃だ!)は、俗に「西部を手に入れた銃」として知られている。西洋からやって来た植民者の手に握られ、圧倒的な役割を果たしたわけだ。こうしてアメリカ人はミシシッピから太平洋まで銃を撃ちまくって西進したのだ。

 アメリカの外交政策は何十年もの間、ほとんどが軍事的火遊びの連続だった。つまり砲弾外交だ。いま銃は、無人爆撃機(Drone)とそれから発射される弾丸、あるいはヘルファイア[地獄の火]ミサイル(=短距離空対地ミサイル)へと代わった。
 アメリカで名誉勲章を二度も受けた将軍はたった二人しかいない。そのうちのひとりがスメドレー・バトラー将軍(1881-1940)だ。その彼が次のように書いている。

「在職のあいだ私は、大企業、ウォール街、銀行などの最高級用心棒として時をすごした。要するに私は、資本主義に奉仕する恐喝者でありギャングの一員だった。
 ・・・1914年に私はメキシコとくにタンピコで、アメリカ石油業界が安全に動けるよう手伝った。ハイチとキューバを、ナショナル・シティバンク行員たちが収奪しやすい場所にするよう手伝った。私はウォール街の利益のために、中央アメリカで六つの共和国の略奪に手を貸した。恐喝の記録は長い。
 私は1909年から1912年にブラウン・ブラザーズという国際的投資銀行のために、ニカラグアの浄化を手伝った。1916年には、アメリカ砂糖会社のために、ドミニカ共和国に焦点を当てた。中国では、スタンダード石油会社が思いどおりにできるように手伝った。」


 もちろん今は、中東と東南アジアを「民主主義のために」「安全な国」にするために銃を使っているが。
 しかしながらアメリカのこのような暴力的試みは、いま功を奏していない。

 暴力はこの国の文化に浸透している。アメリカ人は暴力に手を染めているだけでなく、暴力を楽しんでさえいる。アメリカでは毎日、太陽が昇るよりも頻繁に殺人が起きている。今では毎日の平均が87回だ。アフガニスタンの戦場に行くほうが、シカゴで暮らすより安全だ。
 だからほんとうに信じられるかね? 銃規制でアメリカを奇跡的に平安な国へと変えることができるなんて。ほんとうに信じられるかね? 武器の製造と使用を非合法化することで、アメリカ人を平和愛好者にできるなんて。文化は法律では変えられない。法律の唯一の機能は復讐を正当化することだ。歴史の記録を見るかぎり、何かを減少させるつもりで制定された法律で、それを根絶させた例はない。有史以来、[マグナカルタのような]最も古い[人権]宣言でさえ今や死語とさせられ効力を失ってしまっている。それが現状だ。だから実のところ、法律に基づいた社会とは無法社会のことなのだ。

 アメリカ社会が暴力的なのは、銃のせいではない。アメリカ人の生き方のせいなのだ。ヨーロッパ人が最初に南北アメリカにやって来たとき、新世界を発見したと考えた。しかし彼らが発見した土地には、すでに独自の生き方・生活様式をもった人々が住んでいた。不寛容なキリスト教徒にとって暴力の使用は不可欠だった。ヨーロッパの欲しい地域をローマ人が略奪したのと同じように、移住したヨーロッパ人は南北アメリカを略奪した。暴力は彼らの骨の髄までしみこんでいる。今日のアメリカ人はその遺伝子を受けついでいるのだ。
 全米ライフル協会(NRA)のスポークスマン、ウェイン・ラピエール(Wayne LaPierre)は言った。「銃を持つ悪人を阻止できるのは、銃を持つ善人だけだ」。そう言っている彼こそが銃を持つ悪人なのだということを、誰かが教えてやらねばならない。
 だから、銃の拡散を規制する法をつくるのはたしかに結構だが楽観は禁物だ。そんな法は助けになるかもしれないが当てにはならない。アメリカ人の性格を変えることができないかぎり我々の粗暴さは自らを絶滅させてしまうまで続く。だから**に従って生きよ。おっと、この**が何かは言わずとも知れたこと。文化は極めて変え難い代物(しろもの)だから、それを変えるには何世代にもわたる息の長い努力が必要だ。アメリカ人にそんなことができるのかね?


<註1> ところが安倍政権は、大学入試にTOEFLというアメリカ留学用の外部試験(しかも約2万円という高額の受験料)を用いるよう文科省に強い圧力をかけ、同時に「留学生倍増12万人」計画なる政策を打ち出して、このような危険きわまりない国、毎日87件も殺人事件が起きているアメリカに日本の若者を大量に送り込もうとしているのです。

<註2>  しかも、安倍政権は、世界最大の武器輸出国であり海外でも銃を乱射して病まないアメリカと一緒になって集団的自衛権を行使すべく、強引に「戦争法案」を可決させたのでした。これでは「日本人の命を守る」どころか逆に「危険にさらす」ことになるでしょう。その証拠に、早くもバングラディシュで、「イスラム国IS」による犠牲者が出ました。

<註3> 上記で引用されているバトラー将軍の詳しい陳述は下記の拙訳にあります。参照いただければ幸いです。
 スメドレー・バトラー『戦争はペテンだ』
 『肉声でつづる民衆のアメリカ史』明石書店、2012、上巻、第12章、第4節、

また翻訳「暴力、それはアメリカの生活様式だ」は単独で「寺島研究室、翻訳コーナー」にPDFファイルとして掲載されています。
http://www42.tok2.com/home/ieas/translation_index.html
http://www42.tok2.com/home/ieas/ViolenceTheAmericanWayOfLife.pdf



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Author:狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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