「アサンジ氏に今すぐ自由を!」 国連人権理事会の作業部会WGADが声明を発表
ロンドンのエクアドル大使館から、支援者に感謝のことばをおくるアサンジ氏
さる2016年2月5日、国連人権理事会「恣意的拘留に関する作業部会」(WGAD)は、記者会見で、ウィキリークスの創始者であるジュリアン・アサンジ氏が、スウェーデンおよびイギリスの政府によって不当な勾留・監禁状態にあることを糾弾し、即座に行動の自由を与えるよう要請する「意見書 No. 54/2015 」を公表しました。
この数日前の2月2日には、前回のブログで紹介したとおり、国連人権理事会の「独立専門家」アルフレッド・デ・サヤス氏が、「環太平洋連携協定」TPPについて、署名も批准もしないよう関係各国政府に要請する声明を発表していますから、アメリカにとっては、二重の痛手になったことでしょう。
というのは、アサンジ氏はスウェーデン政府から国際逮捕状が出され、イギリス政府がアサンジ氏を逮捕・拘留したわけですが、これを裏で画策したのはアメリカ政府であることは公然の秘密だったからです。オバマ大統領にとってはウィキリークスを通じてアメリカ政府の悪事を暴露するアサンジ氏の存在は、何としても許すことのできないものでした。
米軍がイラクで一般市民を上空から銃撃して殺戮している映像をウィキリークスに手渡したチェルシー・マニング上等兵は「スパイ防止法」を口実に刑務所に収容されたままですが、それをウィキリークスを通じて全世界に知らせたアサンジ氏はジャーナリストであって犯罪者ではありません。
政府の悪事を暴露したマニング上等兵も「内部告発者」であって「スパイ」ではありません。米軍の悪事を暴いたものが牢屋に送られ、悪事を働いた米兵を殺人者・戦争犯罪人として裁こうとしないアメリカ政府に、正義や民主主義を語り資格があるでしょうか。
しかも、このアメリカ政府の頂点に立っているのが、シカゴ大学で憲法を講じ、ノーベル平和賞まで受賞したオバマ氏なのですから、今やアメリカの威信は地に落ちてしまっている言うべきでしょう。
ところがオバマ氏は、米軍の残虐行為やNSA(アメリカ国家安全保障局)によるEU首脳の盗聴行為などを暴露するアサンジ氏を、何としても逮捕し終身刑に処したいと考え、すでにアサンジ氏を対象とする秘密の大陪審を準備し審理をすすめていると伝えられています。その道具として使われたのがスウェーデンとイギリスの政府でした。
アサンジ氏を逮捕する口実となった「問題ある性行動」なるものも、捜査開始から間もなくして主任検察官は逮捕状を取り下げ、「彼がレイプをはたらいたことを疑う理由があるとは思わない」と語っています。
にもかかわらずスウェーデン政府は、オバマ氏の意向を受けて新しい検察官を任命し、イギリス政府と協力しながら、アサンジ氏を執拗に追いかけることを続けてきました。
しかし、このたび国連人権理事会「恣意的拘留に関する作業部会」による判決で、この事件にようやく決着がつけられ、アサンジ氏とウィキリークスの未来に明るい太陽が輝き始めたことを喜びたいと思います。
以下は、その作業部会による声明を私が翻訳したものです。英語原文は国連人権高等弁務官事務所の下記URLにあります。
http://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=17012&LangID=E
国連人権理事会の「恣意的拘留に関する作業部会」は、
ジュリアン・アサンジ氏の自由剥奪を、
不当で恣意的なものだと判断した
The Working Group on Arbitrary Detention
Deems the deprivation of liberty of Mr. Julian Assange as arbitrary
国連人権理事会「恣意的拘留に関する作業部会」(WGAD:the Working Group on Arbitrary Detention) は、2015 年 12 月 4 日に、「意見書 No. 54/2015 」を採択し、ジュリアン ・アサンジ氏は、スウェーデン及びイギリス(グレートブリテン&北アイルランド連合王国)の政府によって恣意的に拘留・監禁されているとの判断をくだした。その意見によれば、作業部会(the Working Group)は、アサンジ 氏に行動の自由があることを認め、[これまでの拘束・監禁にたいする]補償を受ける権利があるとした。国連人権理事会への訴状は2014年 9月に作業部会へ提出された。「意見書54/2015」は、作業部会の「評議方法」(Methods of Work)にしたがって、2016 年 1 月 22 日にスウェーデンおよびイギリスの政府に送られた。
アサンジ氏と国籍を同じくする作業部会のひとりは、自分がオーストラリア市民であることを考慮して、評議に参加することを自ら辞退した。もうひとりの作業部会員は、多数派の意見に同意せず、アサンジ 氏の置かれている状況は拘留とは言えず、したがって作業部会の管轄外であるとした。
スウェーデンの検察官は2010年中頃、性的問題を理由に、アサンジ氏にたいする調査を開始した。スウェーデン検察官 の要請で出された国際逮捕令状にしたがって、アサンジ 氏は2010 年 12 月 7 日にウォンズワース監獄に10 日間も拘留・隔離された。その後、氏はさらに550日の自宅監禁という刑を受け、このイギリスにおける自宅監禁の間にアサンジ氏は、エクアドル共和国ロンドン大使館にエクアドルへの亡命申請をおこなった。エクアドル共和国はアサンジ氏に亡命許可を与えた。氏がスウェーデンに引渡されたならば、さらにアメリカ政府に引渡され、氏が自由の権利を平和的に行使したことを理由に重大な刑事罰に直面する恐れがあったからである。こうして、2012年8月以来、アサンジ氏はエクアドル大使館から外に出ることができなくなり、イギリス警察による厳重な監視を受けている。
アサンジ氏はさまざまなかたちで自由を剥奪されてきたと作業部会は判断した。最初はウォンズワース監獄に拘留され、次に自宅監禁を受け、今はエクアドル大使館に閉じ込められて外に出ることができない。作業部会はアサンジ氏がこのように一貫して自由が剥奪されてきたと結論づけると同時に、その拘留が何ら法的根拠のない恣意的なものだということも認識するようになった。というのは、拘留の最初の段階で独房に留置されただけでなく、スウェーデン検察官の取り調べも全く誠実さに欠けるものだったからだ。 その結果、アサンジ氏の拘留は極めて長期にわたるものとなった。作業部会は、この拘留が「世界人権宣言」(UDHR:Universal Declaration of Human Rights)の9条, 10条、および「市民的および政治的権利に関する国際規約(いわゆる国際人権B規約)」(ICCPR:International Covenant on Civil and Political Rights)の7条, 9条(1)項, 9条(3)項, 9条(4)項, 10条, 14 条
に違反するものであり、この拘留が作業部会の「審議方法」で定義されている第3種に該当するものと見なした。
したがって作業部会は、スウェーデンおよびイギリスに次のこと、すなわち(1)アサンジ氏の安全および身体の保全を確保するために氏の状況を評価すること、(2)アサンジ氏が自由に行動する権利を行使できるよう適切な手段を講じること、(3)拘留に関する国際的規範で保証された権利をアサンジ氏が十分に享受できるよう保証すること、を要請した。また作業部会は、アサンジ氏の拘留・監禁状態に一刻も早い終止符が打たれるべきであり、同時に、不当な拘留にたいして補償を受ける権利が与えられるべきであると判決した。
2016 年 2 月 5 日
<註1>
2015年12月に採択された作業部会の意見書(No.54/2015)は下記を参照
the Working Group's Opinion on Julian Assange's case (No.54/2015), adopted in December
<註2>
国連人権理事会「恣意的拘留に関する作業部会」による記者会見は下記を参照
press release by the Working Group on Arbitrary Detention
<註3>
「世界人権宣言」については下記を参照
UDHR:The Universal Declaration of Human Rights
「世界人権宣言」(日本語版)
<註4>
「市民的および政治的権利に関する国際規約」(いわゆる国際人権B規約)は下記を参照
ICCPR:International Covenant on Civil and Political Rights
<註5> イギリス在住のジョン・ピルジャー氏は、アサンジ氏と同じオーストラリア国籍を有する世界的に著名なジャーナリストですが、国連人権理事会の上記「作業部会」による判決を歓迎して下記の小論をZNetに発表しています。私には非常に興味深い論考でした。
Freeing Julian Assange: The Last Chapter
By John Pilger
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