書評:矢部宏治『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか』集英社インターナショナル

書評(2016/07/27)、「横田空域」、日米地位協定、六本木ヘリポート、沖縄・高江の米軍ヘリパッド、「第3次アーミテージ/ナイ報告」

「横田空域」と米軍基地
ヘリパッド+六本木050_convert_20160727110752出典:矢部宏治(2014:15頁)


前回のブログから、やがて1ヶ月近く経とうとしているのですが、帯状疱疹が顔面に出て顔の左半分が麻痺状態になっただけでなく左後頭部の片頭痛がひどくて、この間まったく仕事ができませんでした。
 皮膚科でもらったパンフレットでは、「過労・ストレスなどが引き金となってウイルスに対する免疫力が低下すると、身体の中に潜んでいたヘルペス・ウイルスの一種(子どもの頃にかかった「みずぼうそうウイルス」)が再び活動を始め、神経を伝わって皮膚に到達し、帯状癌疹として発症する」とあります。
 上記のパンフレットでは「帯状庖疹後神経痛という、やっかいな後遺症が残ることがある」という説明があり、そのせいか今でも片頭痛の痛みが続いています。しかし何とかしのげる痛さになってきたので、やっとパソコンに向かっている次第です。
 というのは、ブログ「死の商人にならないで!武器輸出反対ネットワークの軍需企業めぐり」(2016/06/18)を読んだ読者から次のようなメールをいただいていたので、これ以上の空白は許されないと思い始めたからです。

・・・先のブログで、「そういうわけで、「日本の医療や病院も『死の商人』の一角を占めているのではないか」という点について書きたいことは山積している」とありました。この問題については、また記事としていただけることを楽しみにしています。自分の親が病院にお世話になった時のことや今の福祉事務所で高齢者を担当している関係で、現実として過去も現在も遭遇している問題なので、切実な問題であるからです。
 とこで、このメールを書いたついでに、全く別のことをひとつ伺います。
 いま私は、『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』(矢部宏治・集英社インターナショナル)、『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(矢部宏治・集英社インターナショナル)を、たまたま見つけ読んでいるところです。
 前者は一通り目を通し、後者はもう少しで目を通し終わるところです。後者は10万部以上売れたベストセラーということだそうです。自分の無知をさらけ出してしまい恥をさらけ出してしまうのでいやなのですが、この本を読んで私は正直、衝撃を受けました。
 例えば、日本には横田空域というのがあって、東京を中心とした首都圏上空で、米軍の管理空域があり、日本の民間機はそこを飛ぶことができない。
 東京から関西に民間飛行機が飛ぶときは、この広大な横田空域を避けて飛行している。そのような空域から米軍基地にやってくるアメリカ人は、本土の米軍基地から自由に日本に入ってくる。
 したがって、日本政府はどれだけのアメリカ人が日本に入ってきているのか把握していない。CIAの諜報員など相当数が自由に出たり入ったりしているわけで、いわば国境というものが成立しておらず、日本はとても主権国家とは言えない。
 あるいは、指揮権密約というのがあって、日本の自衛隊は米軍の指揮権の中にある。日本は、完全にアメリカの属国である。
 そんなことが、日本戦後史をたどりながら述べられていた。日本国憲法より日米密約を優先せざるを得ない日本の状況や現実が語られていた。
 ただ、この著者の主張について、特に日本国憲法について、護憲派と改憲派の双方に著者は批判的で、この著者の主張をどう捉えたらいいのか分からない部分がありました。
 もし、この本を読まれていれば、この著者をどのように評価したらいいのか、教えていただきたいと、ふと思ったので、書いてみました。


 上記のメールでは、<「日本の医療や病院も『死の商人』の一角を占めているのではないか」という問題については、また記事としていただけることを楽しみにしています>とありました。
 しかし、帯状疱疹を経験してみると、「この帯状疱疹の治療も『死の商人』の一角を占めているのではないか」と思うようになりました。そこで、これについては別の機会に十分な時間をかけて取りあげることにして、今回は『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(矢部宏治、集英社インターナショナル)について思うところを述べてみることにします。
 というのは、今度の参議院選挙戦で安倍政権は全選挙区で敗退したにもかかわらず沖縄北部の高江で米軍のヘリパッド(ヘリコプター着陸帯)をつくる工事を強行しようとしているからです。詳しくは下記を御覧ください。
「やんばる東村・高江の現状」
「http://download-takae.tumblr.com/
 自民党の党名である「自由民主党」を字義通り解釈すれば、「自由意思により選挙で表明された民衆の意見(=主権者である民衆の意思)を尊重する政党」のはずですが、安倍政権が尊重するのは、アメリカ政府の意思だけのようです。
 しかし、自民党がアメリカによる傀儡政権であったことは、戦後の政府が占領軍によって獄中から出された戦犯で出来上がっていたことを考えれば、当然のことでした。とはいえ、その実態を『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』ほど赤裸々に暴いた本は今までになかったように思います。
 しかも、その根源を「日米地位協定」にまで掘り下げて鋭く分析していることに本書の価値があるように思いました。
 ただし、今まで何故このような本が政治学者・歴史学者・アメリカ研究者によって書かれなかったのか、それをこそ追求してほしかったとも思いました。私の著書『英語で大学が亡びるとき―「英語力=グローバル人材」というイデオロギー』(明石書店)という本は、そのような疑問に答えるひとつの視点を提供したいと思って執筆されたものだったからです。
 たとえば、私は本書第2章第2節の註(149-150頁)で、日本という国家がアメリカによって「家畜化」されていることについて次のように書きました。

チョムスキーの言う「家畜化」については、拙訳『チョムスキーの「教育論」』を参照。なお「個人の家畜化」 「学校の家畜化」「国家の家畜化」については拙著『英語教育原論』で詳しく論じた。これに関連して、本山美彦『姿なき占領』(ビジネス社)を読んでいたら、この「国家の家畜化」を見事に示す事例として 次のような記述があるのを見つけた。
 <日米投資イニシアティブという会議体は、小泉政権が成立すると同時に設立された。二〇〇一年六月、小泉首相と子ブッシュ大統領の日米両首脳の合意によって「成長のための日米経済パートナーシップ」というシステムの下に置かれ たものだ。この審議内容は、毎年六月ごろに発行される『日米投資イニシアティブ報告書』にまとめられる。二〇〇六 年の報告書には、米国側の対日要求として以下のように書かれていた。
 「① 国境を越えたM&Aの円滑化、② 教育分野および医療サービス分野における投資家にとってビジネスの機会を創 出するような規制緩和、③ 労働法制の見直し、④ 日本法令の外国語訳」
 ここで言う「国境を越えたM&A」とは、米国の法律によって米国内で設立された企業が、日本の法律によって日本国内で設立 された日本の企業を買収してもよいようにすることである。これが米国側の最大の関心事項であり総論であること は確かである。そして、「教育分野が投資家にとってのビジネスになるように、日本の規制を緩和しろ」と明確な文脈で主張されて いる。教育と医療は、これまで「公」の分野に属し、ビジネスとしては拒絶されていたのに、これを「私」の世界に開 放し、ビジネスの対象にしろというのである。
 また「労働法制の見直し」とは、労働者を企業経営者が自由に解雇できるようにしろということである。「日本の法令の外 国語訳」というのも、分かるようで分からないことである。もし日本側が、米国側に米国の法令の日本語訳を作成しろ と言えば、どのような反応が返ってくるだろうか。そんなことは自分たちでやれ、という返事がくるのがオチだろう。>

 これを読むと、アメリカによる「日本の家畜化」が今日まで一歩一歩、着実に進行していることがよく分かる。
 最後の 「日本の法令の外国語訳」も日本が満州国でおこなったような命令だが、京都大学は今回の「国際化」にあたって、命令さ れなくても「会議文書の英語化」を真面目な検討課題としていたことに驚かされる。


 御覧のとおり、京都大学は共通教育の半数だけでなく会議までも英語でおこなう計画をたてていたのです。
 最近では金沢大学が共通教育どころか専門教育・大学院教育までも英語でおこなうという計画を立て、文科省から莫大な援助金を得ることに成功しましたが、これも「学校の家畜化」の典型例と言えるでしょう。
 つまりアメリカは占領当初から、日本の首都・東京の上空をアメリカの領空として自由に使う権利を得ていただけでなく、日本の知的空間も「アメリカの領空」として利用できることを目指して、対日文化工作をすすめていたわけです。
 その大きな道具のひとつとして使われたのが宗教政策であり文教政策(たとえば英語教育、アメリカ研究・アメリカ学会)でした。詳しくは拙著の第2章第3節「対日文化工作としての英語教育」を見ていただきたいのですが、この節の註で私はさらに次のように書きました。

* 戦後、マッカーサーが日本を占領していたとき、天皇をキリスト教徒にする計画があったことは、鬼塚英昭『天皇のロザリオ』(上巻「日本キリスト教国化の策謀」、下巻「皇室に封印された聖書」)を読んで初めて知った。マッカーサーにとっては「健全なアメリカの理念」の極致がキリスト教だったのだろう。
* 一般の研究書ではUSIA、USISは「アメリカ広報文化交流庁」「アメリカ広報文化交流局」という訳語が与えられています。しかし上記は、US Information Agency" "US Information Service" の略語なのですから、「アメリカ情報庁」「アメリカ情報局」と訳すべきでしょう。もともとこの組織・部局はアメリカの情報戦・心理戦略の一環としてつくられたものです。にもかかわらず、Informationを「広報文化交流」と訳すのは、アメリカの真の意図を覆い隠すものであり、このような訳語をあててきたアメリカ研究者の「自己家畜化」を示す一例ではないでしょうか。"Ministry of War" を「戦争省」ではなく「陸軍省」と訳してきた姿勢と似ています。
* 私が本節の原稿を書き終わったすぐあとの2015年7月31日、内部告発サイト「ウィキリークス」は米国の情報機関・国家安全保障局(NSA)が、少なくとも2007年以降、日本政府や日本銀行、日本企業を対象に電話を盗聴していたと発表した。
 しかし安倍政権は「事実なら同盟国として極めて遺憾だ」と述べるだけで、強い抗議の意志を示さなかった。同じく盗聴疑惑が持ち上がった欧州や南米の国々が、オバマ大統領に電話をかけて直接に説明を求めたり首脳訪米を延期したりしたのとは対照的で、アメリカに対する日本の属国ぶりを示すものとなった。
 このような姿勢はTPPにたいする交渉でも歴然としている。国会が騒然となるなかで強行採決された戦争法案もアメリカの意向で推進されたものであることは、山本太郎議員が国会でアメリカ国際戦略研究所CSISが作成した「第3次アーミテージ/ナイ報告」を示しながら鋭く追求したとおり、改めて確認された。
「第3次アーミテージ/ナイ報告(アメリカ国際戦略研究所CSIS)」
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/56226


 上記の註では、<2015年7月31日、内部告発サイト「ウィキリークス」は米国の情報機関・国家安全保障局(NSA)が、少なくとも2007年以降、日本政府や日本銀行、日本企業を対象に電話を盗聴していたと発表した。しかし安倍政権は「事実なら同盟国として極めて遺憾だ」と述べるだけで、強い抗議の意志を示さなかった。同じく盗聴疑惑が持ち上がった欧州や南米の国々が、オバマ大統領に電話をかけて直接に説明を求めたり首脳訪米を延期したりしたのとは対照的で、アメリカに対する日本の属国ぶりを示すものとなった> と書きました。
 しかし考えてみれば、安倍政権がアメリカ政府の言いなりになって機密保護法をつくったり集団的自衛権を行使できるよう閣議決定するのは、ある意味で当然とも言えるわけです。というのは、矢部氏の前掲書(76-78頁)によれば、
 <現在でも米軍や C l A の関係者は直接、横田基地や横須賀基地にやってきて、そこから 都心・青山公圏内の「六本木ヘリポート」にヘリで向かう。さらに六本木ヘリポートから、日米合同委員会の聞かれる米軍専用のホテル兼会議場「ニュ-サンノ-米軍センター」やアメリカ大使館までは、車で五分程度で移動することができる。それでも日本政府はなんの抗議もしない>わけですから、
 矢部氏は前掲書で、さらに続けて次のように述べています。
 <六本木というのは東京の都心中の都心だ。そこに「六本木ヘリポート」というパックドアがあり、C I A の工作員が何人でも自由に入国し、活動することができる。そしてそれら の米軍施設内はすべて治外法権になっており、沖縄や横須賀や岩国と同じく、米軍関係者が施設外で女性をレイプしでも、施設内に逃げこめば基本的に逮捕できない。これはまちがいなく占領状態の延長だ。78-79頁>
 要するに、矢部氏が言うように、「外国軍が駐留している国は独立国ではない」(79頁)のです。
ヘリパッド2047_convert_20160727110837出典:矢部宏治(2014:77頁)


 ところで、一九五一年一月に日本政府と対日講和条件を協議するために東京を訪問した時のダレス国務長官を、松田武『戦後日本におけるアメリカのソフト・パワー:半永久的依存の起源』は、次のように描写しています。

ダレスは公衆の面前では、日本のことを「戦勝国によって指図される国」ではなく、「相談される当事国」と表現し、雅量のある調子で語った。しかし私的な場所では、ダレスは、解決すべき主たる重要な問題は「我々の好きな場所に我々の好きなだけの期間、我々の好きなだけの軍隊を駐留させる権利を手に入れることではないのかね」と側近に語った。ダレスの本音と建前の二重発言に示されるように、アメリカ政府は、実際に日本の領土内に合衆国の基地システムを保持することに成功した。(一二六頁)


 こうしてアメリカは一九五一年に対日講和条約と日米安保条約の二つの条約を結ぶことにより、占領期に日本から獲得した重要な諸権利と特権の大部分を継続的に保持したのでした。それから六〇年以上も経っているのですが、前述のとおり、アメリカの姿勢はいささかも変わっていません。変わっていないどころか、「相談される当事国」という外交的礼節をかなぐり捨て、露骨に権力をふりかざしながら、日本に無理難題を押しつけるようになってきています。
 その間の事情を、私は「寺島の仮説」として、拙著『英語教育が亡びるとき』(296-297頁)で次のように述べました。

私は日本の戦後史について次のような考えをずっと胸にいだき続けてきました。そして私が英語教育学会TESOLに参加するため渡米し、毎年一か月くらい滞在する生活を一〇年くらい続けている間に、この仮説をますます確信するようになりました。
 これはブログ「百々峰だより」で以前にも書いたことですが、もういちど以下に再録させていただきます。いま日本にかけられてきているTPPという攻撃は、本質がまったく同じものだと考えるからです。
1)アジアの国々にたいして日本が侵略戦争にたいする謝罪をせずに済んできたのは、ドイツと違って日本はアジアの隣国と貿易せずとも、アメリカの庇護の下で、基本的にアメリカと貿易するだけで復興してきたからだ。
2)それどころか朝鮮戦争やベトナム戦争などアメリカがおこなってきた戦争の後方部隊をつとめることによって(いわばアジア人の血によって)莫大な経済的利益を得て戦後の復興をなしとげた。こうして、アメリカはアジアにたいする謝罪の機会を日本から奪うことになった。
3)ソ連や中国などの社会主義国が存在し、医療や教育の無償化など国民の生活を安定させる実績をあげている国があるかぎり、その対抗上、資本主義国でも同じことが可能であることを実証せざるを得なかった。アメリカが日本の経済復興を援助したのは、上記のことを証明するためのモデル国家として日本を世界に陳列するためであった。
4)しかしソ連が崩壊し、その結果、社会主義の東欧も姿を消した。こうして社会主義の良さを実践する国は存在しなくなった。中国も名前は「社会主義国」だが、実態はアメリカで学んだ経済エリートが新自由主義的経済運営をおこなう国家独占資本主義国となってしまい、国内では極端な貧富の格差が生まれている。
5)したがってアメリカにとって、社会主義国に対抗するための「モデル国家」として日本を庇護しなければならない理由は消滅した。むしろいま必要なのはアメリカに対抗するまでの経済力を持つにいたった日本を徹底的に叩きのめし、日本がもつ豊かな資産をアメリカに移し替えることである。これがアメリカから毎年のように日本に突きつけられてきた「規制緩和」「年次改革要望書」だった。


 矢部氏の前掲書を読んで、私は自分の仮説が正しかったこと、私の歴史認識が矢部氏とほぼ一致していることに、驚くと同時に大きな喜びを感じました。
 というのは私がまだ岐阜大学に在職していた頃、日本国際理解教育学会の代表団として北京師範大学で開かれた国際シンポジウムに参加したのですが、そのとき私は上記の仮説をパネラーの一員として発表しました。
 この発表は中国の参加者からは大きな賛同を得たのですが、驚いたことに日本からの参加者からは後で「なんという発言をしてくれたのか」と批判めいた感想しか得られなかったからです。ところが矢部氏の前掲書は、この点について次のように述べていたのです。

・・・つまり「冷戦」とよばれる東西対立構造のなか、日本に巨大な米軍を配備しつづけ、「反共の防波堤」とする。そのかわりにさまざまな保護をあたえて経済発展をさせ、「自由主義 陣営のショーケース」とする。そうしたアメリカの世界戦略のパートナーとして日本国内に誕生したのが自民党なわけですから、米軍基地問題について「アメリカ政府と交渉して解決しろ」などと言っても、そもそも無理な話なのです。(20-21頁)


 以上の事実から分かることは、国際理解教育を標榜する学会ですら、「学校の家畜化」「教育の家畜化」の渦に巻き込まれて、自立した思考ができなくなっていたではないかということです。あるいは「反米主義者」というレッテルを貼られるのを恐れて知らず知らずのうちに「自己家畜化」していたと言うべきなのかも知れません。

 拙著『英語で大学が亡びるとき』と重ね合わせながら、矢部氏の著書『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』の書評を書くつもりが、どんどん長くなってしまい、もうひとつの話題である「原発」にまで行かないうちに力尽きてしまいました。
 これ以上、書き続けると治りかけている帯状疱疹が悪化しかねないので、取りあえずここでいったん筆を休めることにしたいと思います。
 しかし、私が最後に述べておきたいことは、矢部氏の本書を未読の方は、ぜひ一度、読んでみてほしいということです。それだけ内容の濃い本だと思うからです。(たとえば、昭和天皇が敗戦に当たって果たした負の役割についても、日本人ならとうぜん知っておくべきでしょう。)
 ただ、どうしても書き残したことがひとつだけあります。それは私のところに届いたメールには次のような要望が述べられていたからです。
 <この著者の主張について、特に日本国憲法について、護憲派と改憲派の双方に著者は批判的で、この著者の主張をどう捉えたらいいのか分からない部分がありました。もし、この本を読まれていれば、この著者をどのように評価したらいいのか、教えていただきたい。>
 その直接の答えになるかどうか分かりませんが、矢部氏の本を読んでいて気になった点は、「日本の為政者はだめだけれどドイツやアメリカの為政者はすぐれている」といった認識が散見されるということです。たとえば小見出しを拾い出しただけでも次のようなものがあります。
    「日本の政治家や官僚にはインテグリティがない」(13頁)
    「事実を公開するアメリカと、隠蔽したまま進んでいく日本」(187頁)
 矢部氏によれば、「インテグリティ」「人格上の統合性・首尾一貫性」というのはアメリカ人が人間を評価する場合の非常に重要な概念で、これが一番欠けているのが日本の政治家や官僚だそうです(13頁)。
 しかし、アメリカ政府の日本や世界への対応を見ていると、アメリカの 政治家や官僚にインテグリティがあるとは、とても思えないというのが、私の率直な感想です。その典型例がオバマ大統領です。これについて説明していると長くなりますので、下記を御覧にいただけるとありがたいと思います。

「オバマとは誰か―アメリカ大統領による史上初の広島訪問を考える」 (05/21)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-261.html
「物理化学者・藤永茂氏いわく『稀代のコン・マン=詐欺師』オバマ大統領」(06/30)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-265.html

 また「事実を公開するアメリカと、隠蔽したまま進んでいく日本」という評価も、私の眼からすると、やはり日本人特有の欧米崇拝が色濃く反映しているように思います。
 というのは、オバマ大統領は「無人爆撃機Droneによる暗殺リストの基準と暗殺された人物のリストを公開しろ」という要求にまったく応えていません。アフガニスタンやイエメンなどで「殺された圧倒的多数が、女性・子どもを含む民間人だ」という地元からの強い告発があるからです。
 これは「911事件」についても同じです。議会の独立調査委員会による「911事件」真相究明報告書が発表されているにもかかわらず、サウジアラビアの高官や財界人に関する28頁について、オバマ大統領はいまだにその公開をしぶっています。
 このように日本の知識人の中には、いまだに「アメリカは進んでいるが日本は遅れている」という意識が濃厚に残っているように思います。しかし今度の大統領選挙で露呈したのは、アメリカ選挙制度のあまりの醜悪さでした。
 これについても、下記で詳しく述べておきましたので参考にしていただければ幸いです。

「世界に恥ずべき、アメリカの選挙制度―これでどうして、民主主義を世界に押し売りすることが出来るのか?」 (03/30)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-262.html
http://www.h5.dion.ne.jp/~chosyu/sekainihazubekiamerikanosenkyoseido.html
「続・世界に恥ずべき、アメリカの選挙制度――これでどうして、民主主義を世界に押し売りすることが出来るのか?」 (04/29)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-263.html
http://www.h5.dion.ne.jp/~chosyu/zokusekainihazubekiamerikanosenkyoseido.html

 チョムスキーは「アメリには真の左翼など無きに等しい」と嘆いていますが、それを赤裸々に示したのが、快進撃を続けていた大統領候補者サンダース氏(自称「社会主義者」)の、土壇場になってからの裏切りでしょう。
 だとすれば、憲法をめぐる日本の左派・右派の違いも、アメリカと同じ程度かも知れないのです。



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狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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