プーチンとは誰か―― 『戦争プロパガンダ10の法則』

国際教育(2016/12/15)): アンヌ・モレリ『戦争プロパガンダ10の法則』、ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』、シャロン・テニソン「素顔のウラジミール・プーチン」


すでにウクライナ東部ルガンスク市だけで250人もの一般市民が殺されているルガンスク市
250 civilians killed in Ukraine's Lugansk during last two months – OSCE


 日本では、ロシアのプーチン大統領が来日するというのでいろいろな意味で大きな話題になっています。アメリカでも、トランプ氏が次期アメリカ大統領に選ばれたにもかかわらず、相変わらず大手メディアもオバマ政権も、「トランプはロシアの操り人形だ」「トランプ氏はロシアからのハッカー攻撃で大統領になることができた」という主張をくずしていません。
 アメリカ金融街・アメリカ特権階級(いわゆる「ネオコン」の勢力)は、あらゆる口実を使って選挙を無効化して、何としてもトランプ氏を大統領の座から引きずり下ろそうとしているのでしょう。
 ロシアとプーチン大統領を悪魔化して、ロシアを戦争に引きずり込みたい勢力にとっては、「ロシアと手をつないでテロリスト=イスラム原理主義勢力を打ちのめすべきだ」と主張するトランプ氏が大統領になってもらったら困るわけです。シリアの大都市アレッポに平和が訪れてもらった困るわけです。
 *Peace in Syria - it's the last thing the US wants
  「シリアにおける平和――アメリカが絶対に望まないこと」
そこで今回のブログは、プーチンの来日を機会に、「プーチンとは誰か」を書こうと考えたのですが、すでに書いた記事を読み直していたら、いま読んでもまったく古くなっていないように思いましたので、以下に再録させていただくことにしました。ご了解いただければ幸いです。

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平和研究(2014/07/21)

 イスラエルによるガザ攻撃が激化する中で、今度は内戦地帯のウクライナ東部上空でマレーシアの民間航空機がミサイルで撃墜され乗客全員が死亡するという事件が起きました。
 イスラエル政府による「民族浄化」は世界中で良識ある人々の反発と抗議の声を呼び起こしましたが、ウクライナ政府による「民族浄化」は今のところ世界の良識ある人々の関心から遠く離れたところにあるようです。
 それどころか、事件直後にオバマ政権は、これはロシアに支援されたウクライナ分離主義者たちの仕業と断定する声明を発表しました。しかもそれを証拠づける盗聴記録まで提出するという手際の良さです。
 しかし、この盗聴記録は幾つかの録音音声をつなぎ合わせただけのずさんなもので、何の証拠にもならないことがすぐに分かりました。その他にもウクライナ政府が答えるべき多くの疑問が出されています。
Unverified tape released by Kiev presented as ‘proof’ E. Ukraine militia downed MH17
Malaysia MH17 crash: 10 questions Russia wants Ukraine to answer(ウクライナ政府が答えるべき10の疑問)

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 そもそもロシアや反キエフ勢力にとって、マレーシアの民間航空機を撃墜して何の利益になるでしょうか。ロシアをウクライナの内戦に引きずり込みたいとねらっているアメリカやNATO軍に、ロシア攻撃への攻撃の口実を与えるだけです。
 他方でアメリカはベトナム戦争のときのトンキン湾事件を見れば分かるように、自分で自分の軍艦を攻撃しておきながらそれを相手のせいにして戦争を始める国であることは、これまでに幾つも実証済みのことです。
 ですから、嘘をついて始めたイラク戦争のとき結局はブッシュ氏が大恥をかいたように、今度もオバマ氏が大恥をかくことになるだろうと私は予測しています(その根拠となる資料は英文のものが多いので、ここでは割愛します)。
 イラクに大量破壊があるという理由で戦争を始めたアメリカ、アサド政権が化学兵器を使ったという口実でシリア爆撃を開始しようとしたアメリカのことですから、今度のことも、オバマ氏の言い分を本気にしたひとはアメリカ人以外にはあまりいなかったかも知れません。
 それでもアメリカの忠実なプードル犬として行動する政府をかかえる国では、大手メディアも政府見解と大同小異のことが多いので、日本人も一般のアメリカ人と同じ感覚で現在の事態を見ているのではないでしょうか。そこで参考のために今のところ日本語で読める記事として「マスコミに載らない海外記事」の下記翻訳をあげておきます。
Paul Craig Roberts「経済制裁と旅客機と」
Tony Cartalucci「“ロシアのウクライナ侵略”を待ち望むNATO」(2014年7月15日)

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戦争プロパガンダ10の法則

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 アンヌ・モレリ『戦争プロパガンダ10の法則』(草思社、2002)という本の中で、戦争したいひとたちは「敵の指導者は悪魔のような人間だ」と相手を悪魔化することが常道だと述べています。
 確かにそのとおりで、イラク戦争のときはフセイン大統領を、リビア爆撃のときはカダフィ大佐を、シリア攻撃ではアサド大統領を悪魔化して、アメリカは戦争を始めたり反乱軍を支援したりしました。
 そして今のウクライナ危機では、すべての原因をプーチン大統領に負わせることがアメリカ政府の戦略であり、大手メディアもこれに同調してきました。
 確かにプーチン氏はオバマ氏に憎まれても仕方のない理由が幾つもあります。
 その第一がエドワード・スノーデンの亡命を一時的であれ認めたことでしょう。アメリカの恥部を暴露し続けるスノーデン氏をかくまい続けているのですから、オバマ氏にとっては腸(はらわた)が煮えくりかえる思いだったに違いありません。
 またロシアがシリアのアサド政権を説得して「化学兵器の引き渡しと廃棄」を約束させたことも、アメリカによるシリア爆撃の口実を完全に失わせることになり、これもオバマ氏のとっては実に屈辱的なことでした。
 さらにオバマ氏を怒らせた最大のものは、最近ブラジルでおこなわれたばかりのBRICSサミットだったかも知れません。ロシアや中国が中心になって、IMFやWB(World Bank)とは別の金融機関を独自に設立すると発表したからです。 
 オバマ氏は、これまでにもロシアにたいする経済制裁を何度も発動してきたのですが、プーチン氏はこのような攻撃にもひたすら耐え続けて、国内では支持率が高まっているのに反して、オバマ氏の国内での支持率は減る一方だからです。
 しかも上記のような世界銀行ができれば、これまでのような経済制裁もあまり効果がなくなります。だからこそ、プーチン氏を悪魔化することはオバマ氏にとっては、緊急かつ必要欠くべからざる作業だったとも言えるでしょう。

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 実を言うと、私は今までプーチン氏をあまり好きではありませんでした。元大統領ブッシュ・シニアはCIA長官だったので、同じようにKGB出身のプーチン氏に好感が持てなかったのです。
 またプーチン氏がチェチェンの独立運動を弾圧するやりかたも、当時、BSドキュメンタリーを見ているかぎりでは、かなり残酷なもので、これも私の印象をかなり悪くしていました。
 しかし、アメリカとNATOがリビアにたいして残酷な攻撃を加えるころになってから私のロシアにたいする見方が少し変わってきました。プーチン氏が、アメリカにたいしてものを言うべきときにはきちんとものを言える人物だと分かったからです。
 私がプーチン氏にたいして決定的に見方を変えるようになったのは、シリアの化学兵器にたいする氏の対応と、アメリカからの反発を覚悟しながらもスノーデン氏を亡命者として受け入れるようになってからです。
 ウクライナ危機についても、オバマ氏がロシアを軍事力や経済制裁で脅迫してもそれを外交力で切り抜けていくプーチン氏の対応は、私の目から見るとなかなか見事だと思えました。ロシア議会が「武力を行使することも選択肢に入れろ」とプーチン氏に要求しても、その議決をとりさげるよう要請したことに、それはよく現れています。シリアの化学兵器にたいするオバマ氏の対応と正反対です。
 またナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』(岩波書店、2011)を読んで、さらに気づいたことがあります。それは、旧ソ連が崩壊して、そこにアメリから乗り込んできた新自由主義(弱肉強食資本主義)がロシア経済をズタズタに引き裂き多くの失業者や自殺者を出したあと、その経済を立て直して現在のレベルまで引き上げたのがプーチンだったということです。

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Sharon Tennison sm
Sharon Tennison 女史
http://www.globalresearch.ca/who-is-vladimir-putin-why-does-the-us-government-hate-him/5381205

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 もう一つ紹介して置きたいのが『アジア記者クラブ通信』2014年6月号です。ここに載っていた次の記事で私は今まで知らなかったプーチン像を発見しました。
「プーチン登場の意義と背景―戦争を仕掛ける米国の闇の権力への果たし状」
(『通信』16-20頁)
 この記事の英語原文は下記にあります。
The Real Vladimir Putin(05/05/2014)
 ただし、調べてみると、このなかで紹介されているシャロン・テニソン女史の小論「素顔のウラジミール・プーチン」は下記からの引用でした。
RUSSIA REPORT: PUTIN
by Sharon Tennison、April 21, 2014
 アメリカ人であるテニソン女史は 、1980年代の初期、冷戦の最中に、米露の緊張関係を少しでも和らげようと起ち上げた市民団体Center for Citizen Initiativesの創立者です。 この記事は30年以上ロシアに在住して活動してきた彼女が、自分の知り得たかぎりでのプーチン像を語ったもので、私には初めて知る事実も少なくありませんでした。
 彼女はソ連が崩壊してから2年後の1992年に、サンクトペテルブルグで市役所の職員だった若きプーチンと初めて出会っています。それから、どのように彼と交流し、どのように彼への見方が変わってきたのかを詳細に述べています。
 「ソ連崩壊後、汚職の臭いのしない初めての大統領」という彼女の記事は、私のプーチン像を大きく変えてくれました。
 さらに調べてみたら、ほぼ上記とほぼ同じものが、「プーチンとは誰か」「なぜアメリカ政府は彼を憎むのか」と題名を変えて下記にも転載されていることが分かりました。
Who is Vladimir Putin? Why Does the US Government Hate Him?
Global Research, May 08, 2014
 この記事を読むと、欧米(そして日本)の大手メディアがいまだに「ロシア=ソ連」「プーチン=スターリン」という既成イメージを土台にして記事を書いていることがよく分かります。アメリカ政府の広報官と何も変わらないのです。

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 しかし私はいまだに、プーチンという人物を「十分に知っている」と言えるほど、知っているわけでもありません。
 とはいえ、映画監督オリバー・ストーンが「羊の皮をかぶった狼」と呼び、消費者運動の旗手ラルフ・ネーダーが「稀代の詐欺師(conman)」と呼んでいるオバマ大統領よりは、プーチン氏のほうがはるかに信頼できる人物であることだけは確かでしょう。
 また前回のブログで紹介したとおり、チョムスキーが「戦争犯罪・超国際犯罪の世界的指導者だ」と呼ぶアメリカよりも、ロシアの方が危険な国家ではないことも、確かだろうと思っています。
America Is the World Leader at Committing ‘Supreme International Crimes’(2014/07/09)
 ですから、チョムスキーが「世界を脱アメリカ化せよ」「世界を "アメリカという脅威" から救え」と呼びかけているのを読むと、「言われれば本当にそのとおりだ」と思うのです。そのほうが、はるかに世界は安全な場所になるからです。
翻訳チョムスキー「世界の脱アメリカ化」(2013/11/05)
翻訳チョムスキー「世界を "アメリカという脅威" から救う」(2014/02/07)

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 ノーベル経済学賞を受けたジョセフ・E・スティグリッツ氏も、最近ブラジルでおこなわれたばかりのBRICSサミットでIMFや世界銀行に代わる新しい金融機関が提案されたことを歓迎すると述べました。これも「世界の脱アメリカ化」のあり方のひとつでしょう。
Nobel Economist Joseph Stiglitz Hails New BRICS Bank Challenging U.S.-Dominated World Bank & IMF
 世界銀行の上級副総裁およびチーフエコノミストでもあった氏が、自分の体験をとおしてドルが支配する世界の悪を知ったからでしょうか。氏の著書『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』(徳間書店、2002)の題名がそれをよく示しています。
 ところが安倍政権は相変わらずアメリカの指し示す方向のみに付き従い、「脱アメリカ化」どころか、「グローバル人材を育成せよ」と叫びながら、大学から英語以外の外国語を駆逐し、共通教育や専門科目まで「英語でおこなう」という「英語一極化」の教育政策を推進しています。
 これでどうして「多極化」「脱アメリカ化」しつつある世界を乗り切っていけるのでしょうか。これでは日本の未来はありません。アメリカが世界中で拡大する紛争・戦争に、Cannon Fodder「砲弾よけの兵士」として使われるだけでしょう。

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<註> 『戦争プロパガンダ10の法則』
(1)我々は戦争をしたくない。
(2)しかし、敵側が一方的に戦争を望んだ。
(3)敵の指導者は悪魔のような人間だ。
(4)我々は領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う。
(5)我々も誤って犠牲を出すことがある。だが、敵はわざと残虐行為におよんでいる。
(6)敵は卑劣な戦略や兵器を用いている
(7)我々の受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大。
(8)芸術家や知識人もこの戦いを支持している。
(9)我々の大義は神聖なものである。
(10)この戦いに疑問を投げかける者は裏切り者である。


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Author:狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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