書評『英語で大学が亡びるとき』に寄せて(その1)――急速に失速しつつある日本の科学力

英語教育(2011/07/27)、Nature Index 2017 Japan、「英語による授業」、「グローパル人材育成」策、「白己家畜化・自己植民地化」、鈴木孝夫「地原理」

NatureIndexjapan2017.jpg 『英語で大学が亡びるとき―「英語力=グローバル人材」というイデオロギー』


 お墓参り(墓掃除)のため石川県に出かけていたり、チョムスキーの新著Requiem for the American Dream:The 10 Principles of Concentration of Wealth & Power(『富と権力を超富裕層に一極集中させる10の原理:アメリカンドリーム葬送曲』)の初校に追われたりしているうちに、もう10日以上も経ってしまいました。
 鹿児島高教組教研集会「外国語部会」での講演を頼まれているため明日には鹿児島に向かわねばならないので、慌ててこのブログを書いています。いま書いておかないと、すぐ8月に入ってしまいますし、翻訳原稿の校正にも追われているので、どんどんブログから遠ざかってしまうことになりかねないからです。
 シリアやウクライナなど中東をめぐる情勢、フィリピンやベネズエラ情勢、中国や北朝鮮をめぐる情勢など、書きたいことは山積しているのですが、江利川春雄先生からいただいた拙著『英語で大学が亡びるとき』にたいする書評(『新英語教育』2017年6月号)の紹介と、それにたいする私のコメントも、早くしないと時期遅れになってしまいます。
 そこで今後しばらくは、「急速に失速・劣化する日本の科学力――書評『英語で大学が亡びるとき』に寄せて」という題名で、江利川先生の書評によって触発された私の想いを連載で書いてみることにしました。
 しかし、いまは鹿児島への出立までに時間もありませんので、今回は江利川先生の書評のみを掲載し、それにたいする私の想いは帰郷してからにしたいと思います。講演の準備に意外と時間を取られ、気がついたらもう時間がなくなっていたからです。どうかお許しいただければ幸いです。
 それにしても、本書に込められた「英語政策にたいする私の怒りや悲しみ」を、これほど的確にすくい取り、それを限られたスペースのなかで見事に表現していただいた書評を、これまでに読んだことがありませんでした。感動の一言でした。ただただ感謝あるのみです。この場を借りて改めて江利川先生に御礼を申し上げたいと思います。



書評『英語で大学が亡びるとき』明石書店、2015
江利川春雄(和歌山大学)


 「日本の科学研究,この10 年で失速」。2017年3 月発売の英国科学誌『ネイチャ-』は,衝撃の特集を組んだ。主要科学誌への投稿論文数は,日本が得意とした理工系でも10年間で10%以上減少。
 要因は,2004 年の国立大法人化による予算削減と研究条件の劣化である。 大学の危機をさらに加速させるのが,「英語による授業」の強要である。そう本書は警告する。
 高度で創造的な思考を支えるのは母語である。日本では明治以来の努力で大学院教育まで日本語で行える。そのおかげで,多くのノーベル賞受賞者を輩出してきた。ところが,政府は「グローパル人材育成」策として大学の授業を英語で行えば補助金を出す「亡国の教育政策」を行っている。背景には「英語力= 研究力=経済力=国際力」という無知と幻想がある(第1章)。
 補助金を目当てに,たとえば京都大学では外国人教員を100人雇い,教養教育の半数を英語で行う。「自己植民地化・白己家畜化」である。その根は深く、米国が戦後実施してきた「対日文化工作j としての英語教育振興策に起因する(第2章)。
 政府は留学生倍増計画を進めるが、第3章を読めば,アメリカの大学が銃と性暴力,学費高騰.教育水準低下に蝕まれている実態に戦慄する。留学で英語に精力を奪われるよりも,日本語で深く思考し 憲法9条のような日本の良さ<地原理>を世界に広める言語教育が大切だ。そのために「日本人の,日本人による,日本人のための英語教育」が必要だと寺島氏は説く。
 氏はすでに,主として小学校英語教育の問題点を論じた『英語教育原論』(2007)、高校の「英語で授業」の危険性を指摘した『英語教育が亡びるとき:「英語で授業」のイデオロギ-』(2009)を世に問うてきた。
 次期学習指導要領で小学校外国語が早期化・教科化され,中学校でも「英語で授業」 が強要されるいま、本書に加えて、前掲書を「寺島三部作」として読み直すならば,氏が日本の英語教育政策の病巣を名医の的確さで診断し処方姿を書いていることに感嘆する。
 「今の文教政策がこのまま進行すれば,日本の大学教育だけでなく,日本の公教育全学体が確実に亡びる」(あとがき)。子どもたちのために,そうさせてはならない。病気を根治させ,「母語を耕し、自分を耕し,自国を耕すための英語教育」を実現するのは.私たちの仕事である。そのための知恵と希望を本書は与えてくれる。必読書である。


書評 『英語で大学が亡びるとき』江利川春雄、『新英語教育』2017年6月号

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英語の教科化で、早期退職に追い込まれる小学校教師

英語教育(2017/07/10) 小学校英語、英語の教科化、訓令式ローマ字、ヘボン式ローマ字、「寺島メソッド」、「センマルセン」、英語アクティブラーニング

『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』 『英語教育原論』

 最近、私が主宰する国際教育総合文化研究所の研究員から下記のようなメールが研究所の掲示板「研究仲間」に届きました。
 なお、ここで「山田先生」とあるのは、『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』の編集者である山田昇司(朝日大学准教授)を指し、このメールの送り主は小学校の校長をされているかたです。

山田先生
 中部地区英語教育学会(長野大会)への参加記を興味深く読ませて頂きました。
 今日、訓令式ローマ字から、ヘボン式ローマ字を、5年・6年の複式学級で教えました。担任がT2として入っています。
 例えば、sa si su se so を私が発音して、日本語の音と違うのはどれですか、と問いました。
 子どもは、si だと言います。「そうです。日本語はシだから、その音を表すのにshiと書きます。それがヘボン式ローマ字です」というように教えると、子どもたちは、大変よく理解します。
 45分でマスターして、自分の名前、住所も書けるようになりました。このクラスには、軽度の知的障害者も2名入っているのですが、一人の子はしっかりと理解していました。
 授業のあと、担任の先生と話したのですが、昨年まで、英語の授業が先生も苦痛、子どもも苦痛。格差は広がるし、子ども自身が何をしているのか、分かっていない。何も身に付いていない。先生も教えるすべも無い。引き出しがないのですから。
 6年の教科書で、例えば、Would you like ~ ? なんて文が、何の脈絡もなく出てきます。これで何の力が付きますか。3単現のSを避けるためだけの構成。
 文科省の小学校英語教科書を見てほしいと思います。この教科書を作った人に問いたい。45分の授業を年間35時間、子どもの知的興味を引き出しながら授業できますか? 英語学力の何を付けたいのですか。
 この教科書で自分が1年間授業してもらいたいと思います。現場の素人の先生の苦悩を知ってもらいたいと思います。
 英語の歌を使ったり自主教材を作成して、「寺島メソッド」で、英語の文字、英音法の「リズム打ち」、英文法の「セン・マル・セン」を、教えようと思っています。
 そうでもしなければ、英語の授業は絶望だけの時間です。中学校へ行く前から英語嫌いを増やすだけです。先生を責められない。どうしようもないのですから。
 来年から、「英語教科化」への移行措置で、5年、6年で年間15時間、増やすそうです。
 今後、ベテランの先生は5年、6年の担任を避けるでしょう。もしくは早期退職する人が出てくるでしょう。今更、英語など勉強できますか。そんな余裕がありますか。
 山田先生の参加記を読んで、近況報告を書きました。参考になれば幸いです。


 校長という職にあるひとは普通は授業をしません。
 しかし、この校長さんは現在の小学校における英語教育の惨状を放置しておくわけにもいかないので、学級担任に代わって自ら教壇に立ち、ローマ字の導入(訓令式からヘボン式への移行)のモデル授業をして見せたわけです。
 その報告が上記のメールでした。
 このメールでは、小学校英語の矛盾が赤裸々に綴られています。と同時に、この矛盾を少しでも解消する手段として「寺島メソッド」を使うことの有効性が述べられています。この校長さんによればその理由は次のとおりでした。

 そうでもしなければ、英語の授業は絶望だけの時間です。中学校へ行く前から英語嫌いを増やすだけです。先生を責められない。どうしようもないのですから。
 今後、ベテランの先生は5年、6年の担任を避けるでしょう。もしくは早期退職する人が出てくるでしょう。(今でも全教科を受け持って日々、疲れ切っている老齢の先生が)今更、英語など勉強できますか。そんな余裕がありますか。


そこでふと思いついたのが、月刊『英語教育』『新英語教育』に載せた「寺島メソッド」ワークショップの案内をこのブログにも掲載し、絶望しかけている小学校教師にも参加を呼びかけるという方法でした。
 このワークショップは中学・高校の英語教師を対象にしているのですが、今回のワークショップで取りあげる「三つの基礎教材」、「リズムよみ」という方法は、中学や高校だけでなく小学校の入門期でも、充分に楽しみながら使うことができます。
 この間ずっと私は小学校英語に反対してきました(『英語教育原論―英語教師、三つの仕事、三つの危険』明石書店2007を参照)。
 ですから、もうかなり前の話ですが、雑誌『プレジデント』からインタビューの依頼があったときも、ある岐阜県の小学校英語実践研究校から「寺島メソッドを小学校でも使いたいので許可と指導をお願いできませんか」という電話がかかってきたときも、お断りせざるを得ませんでした。
 しかし今、研究所の一員である校長さんから上記のようなメールが届き、さすがの私もこのまま放置するわけにはいかないと思うようになりました。そこで英語教育の月刊誌に載せた案内を、このブログにも再掲することにしました。
 この案内を偶然にでも見た読者が、知り合いの小学校教師に知らせてくれるかも知れないと考えたからです。
 絶望しかけている小学校教師、早期退職しようと思っている教師にとって、このワークショップが少しでも希望の星になれば幸いです。

国際教育総合文化研究所主催
『寺島メソッド英語アクティブ・ラーニング』ワークショップの御案内


以下の要項でワークショップをおこないます。ご応募いただければ幸いです

日時:8月8日15時―8月9日12時
場所:岐阜市・長良川ホテルパーク
講座内容: 寺島メソッド「リズムよみ」の指導、「三つの基礎教材」を使って(There's A Hole, The Big Turnip, The House That Jack Built)
講師: 寺島隆吉(国際教育総合文化研究所・所長)、山田昇司(同上級研究員・朝日大学准教授)、寺島美紀子(同上級研究員・朝日大学教授)
応募条件:当日までに『寺島メソッド英語アクティブ・ラーニング』(明石書店)をお読みの上、ご参加ください。
参加費:宿泊費・教材費・講師料を含めて30000円
申込み先・問合せ先
taka03@cameo.plala.or.jp、電話:058-297-1509
申込み締め切り:7月31日



 
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「戦争は国家の健康法である」余話 ― 東京都議選、北朝鮮ミサイル避難訓練、そして「準戦時体制」下にある日本

国際教育(2017/07/05)、クリール委員会、ランドルフ・ボーン、エドワード・バーネイズ、広報会社の聖書となった『プロパガンダ』、安倍昭恵と巨大広報会社「電通」

プロパガンダ教本 プロパガンダ


 先日やっと、チョムスキーの新著『アメリカン・ドリームの鎮魂歌:富と権力を一極集中させる10の原則』(Requiem for the American Dream:The 10 Principles of Concentration of Wealth & Power)の最終稿=訳注を出版社に送付しました。
 それで、いよいよこれで一息つけるかと思っていたら、左の肘から手首まで異常な湿疹が出てきて、全体が赤く膨れあがり腕が棒のようになっただけでなく、痛いやら痒いやらで仕事になりませんでした。
 そいうわけで前回のブログを書いてから早くも2週間が経ってしまったにもかかわらず、今に至ってしまいました。書きたいことは下記のように山積しているのに体が言うことをききません。
<今後の課題>
1 なぜ今、RT(RussiaToday)の視聴が必要なのか
2 鈴木孝夫・平田オリザ『下山の時代を生きる』(平凡社、2017)の書評
3 拙著『英語で大学が亡びるとき』(明石書店、2015)の書評にたいする感想
4 文科省「高校生のための学びの基礎診断(仮称)」にたいする意見・批判
5 ワークショップ2017『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』の案内
 このような症状が出たのは、翻訳の疲れで免疫力が低下していたところへ湿疹の引き金になるようなものに手を出した(たとえば庭の雑草取りで毒虫にふれた)せいかもしれないと思っています。
 それはともかく、今日やっと少し元気が出てきたので、ブログに取りかかろうとしていたところ、東京都議選で安倍自民党が惨敗したというニュースが入ってきました。
 そこで、当初は江利川春雄先生(和歌山大学)から拙著『英語で大学が亡びるとき』にたいする書評(『新英語教育』6月号)をいただいていたので、御礼を兼ねて、その書評にたいする私のコメントを書くつもりでいたのですが、急に予定を変更して、前回のブログ「戦争は国家の健康法である」(その3)の続編を書きたいと思うようになりました。
 というのは、1ヶ月以上も前のことですが、私が主宰する国際教育総合文化研究所の研究員(高校教師)から、「北朝鮮のミサイルにたいする避難訓練について職員会議で校長から説明があった」との便りがあり、それにたいするコメントを、私は研究所掲示板「研究仲間」で次のように書いていたからです。
 

**さん、会費納入ありがとうございました。同封の手紙に次のような文面がありましたので皆さんにも紹介させていただくことにしました。
 <北朝鮮も、かなり心配な状況ですね。茨城県だけではないかと思いますが、県内全校に、「弾道ミサイルが飛んで来たら」の文章がでて、職員会議で説明がありました。といっても、窓から離れろくらいなのですが。>
 北朝鮮が日本を攻撃する場合は、日本国内の米軍基地か、さもなくば日本の国内にくまなく散在している原発基地でしょう。安倍政権がアメリカの言いなりになって北朝鮮への挑発を続けていれば、キム・ジョンウンの堪忍袋の緒が切れて、原発への攻撃ということになるかもしれません。
 しかし米軍基地あるいは原発基地のいずれが攻撃されても、学校での避難訓練はほとんど意味を成しません。ですから政府がこのような通達を教育委員会を通じて全国の学校に配布しているとすれば、北朝鮮を口実に改憲(=壊憲)および日本の軍備を強化する世論づくりに使っているとしか考えられません。
 皆さんの学校でも職員会議でこのような通達・文書が紹介されて話題になっているのでしょうか。研究員・準研究員の皆さんからの情報を、ぜひ寺島または「研究仲間」に送ってほしいと思うようになりました。どうかよろしく御願いします。
<追伸> 
 以前に紹介したブログ(2017/05/14)のタイトルは下記のようになっていますが、実は北朝鮮問題を論じたものです。併せてご覧いただければ幸いです。
* ボブ・ディラン「戦争の親玉」、パティ・スミス「民衆には力がある」:ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』からみた世界
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-293.html


 私は上記で、安倍内閣が文科省を使って、教育委員会経由で、北朝鮮のミサイルにたいする避難訓練の通達を全国の学校に出している理由を次のように書きました。
 「ですから政府がこのような通達を教育委員会を通じて全国の学校に配布しているとすれば、北朝鮮を口実に改憲(=壊憲)および日本の軍備を強化する世論づくりに使っているとしか考えられません。」
 しかし今から思うと、文科省がこのような通達を出したのは、もうひとつの理由があって、それは森友学園や加計学園などの問題で窮地に追い込まれている安倍内閣が、国民の怒りや不満を国外の「仮想敵」へとそらすための戦略として、北朝鮮ミサイルの避難訓練を使っているということです。
 以前のブログでもふれたことですが、アメリカで「911事件」が起きたとき、当時のブッシュ大統領の支持率は史上空前の低さで低迷していました。ところが「911事件」が起きてブッシュ大統領が報復を声高に叫び始めた途端、支持率は急上昇しました。
 同じことは安倍内閣についても言えるように思います。隣の韓国では朴大統領の不正疑惑にたいして韓国民衆の怒りが沸騰して、ついに朴辞任・新大統領誕生に至っています。
 安倍氏の学園問題をめぐる不正疑惑は朴女史の不正疑惑に勝るとも劣らない大きなものですから、韓国の例から考えれば、いまだに安倍内閣が存続していること自体が、本当は奇怪というべきでしょう。
 にもかかわらず安倍内閣が存続してきたのは北朝鮮のおかげであり、ミサイル発射を利用して「準戦時体制」をつくりあげて世論を誘導してきたからだと私は思っています。野党も、まんまとその誘導に載せられ、効果的な反撃ができていませんでした。
 この間の事情をランドルフ・ボーンは(前回のブログでも紹介したように)次のように述べていました。

・・・国家の主要な行事が戦争であるとするなら、防衛と侵略という純粋に不毛な目的のために、国家は、国民から活力の大部分を吸いとらねばならない。国家は、国民の活力をできるだけ多く浪費すること、あるいは消失させることに熱中する。・・・
 戦争は「国家の健康法」である。国家が戦時下にあるときにのみ、近代社会は意見の統一を見る。戦時下でのみ、国家は、単純で無批判な愛国主義的献身と協力的奉仕を得ることができ、うまく機能するのだ。それこそ国家を愛する者がつねづね理想とするものだ。
要するに、国家は、一つの社会集団内部の独裁的・恣意的・強制的・好戦的な暴力のすべてを代表する。近代的で自由な創造的精神つまり生命・自由・幸福の追求を求める気持にとって、それは不快きわまりないすべての複合体である。(『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻538頁)


 ランドルフ・ボーンは上で、「国家が戦時下にあるときにのみ、近代社会は意見の統一を見る。戦時下でのみ、国家は、単純で無批判な愛国主義的献身と協力的奉仕を得ることができ、うまく機能するのだ。それこそ国家を愛する者がつねづね理想とするものだ。」と述べていますが、この「戦時下」こそ、いま安倍内閣が北朝鮮を利用してつくりあげようとしている「準戦時体制」なのです。避難訓練はその格好の道具です。
 私は研究所の掲示板「研究仲間」で、「北朝鮮が日本を攻撃する場合は、日本国内の米軍基地か、さもなくば日本の国内にくまなく散在している原発基地でしょう。・・・しかし米軍基地あるいは原発基地のいずれが攻撃されても、学校での避難訓練はほとんど意味を成しません」と書きました。
 ところが同じことを、最近、長周新聞(2017年6月21日)は、もっと詳細に紹介しました。つまり私の予想どおり、避難訓練は都会地や原発地帯を避け、ミサイルなどで狙われるはずもない片田舎だけでおこなわれていたのでした。

・・・こうして緊張状態がつくり出されるなかで、国内では3月に秋田県が男鹿市で「X国」(北朝鮮)の弾道ミサイル着弾を想定した訓練を実施したのを皮切りに、避難訓練がたけなわとなってきた。4月に内閣官房が都道府県の防災危機管理担当者を集めて訓練を実施するよう号令をかけたのを受けて、5~6月にかけて青森県、山口県、山形県、広島県、新潟県などが実施した。今後、静岡県や長崎県も計画している。
 しかし、実施した自治体を見ると、青森県はむつ市大秦浜町、山形県は酒田市西荒瀬地区、広島県は福山市、新潟県は燕市、福岡県は吉富町と大野城市などで、北朝鮮が「標的にする」といっている在日米軍基地を抱える自治体や原発立地自治体での開催は皆無である。農漁業を基幹産業としている山口県の阿武町にいたっては、北朝鮮なり「X国」が狙うような施設もなければ住民もおらず、まともに考えると攻撃側にとってはミサイルの浪費にしかならない。むしろ戦争になれば都会人の疎開先に選ばれるであろう地域といえる。ところが、現実的な視点や意見が憚られるような勢いで、小さな田舎町において「国民の生命を守るため」の訓練が実施され、物いえぬ雰囲気で住民を動員していく。
 山口県の場合、北朝鮮が名指ししており、もっとも標的になる可能性が高いのは米軍基地のある岩国市だ。朝鮮半島情勢がもっとも緊迫した時期には、岩国市内の行政関係者のなかにも緊張が走っていた。しかし、今月27日に予定されている岩国市での訓練は、午後3時に市全域を対象に防災行政無線で情報伝達訓練をおこなうだけで、住民を動員した避難訓練は予定していない。(後略)


 このように安倍内閣は、「原発や米軍基地があるから標的にされる」という世論が広がることを避けつつ、行政主導で国民を戦時体制に組み込むために、「X国のミサイルが落下した」と想定した住民避難訓練を、田舎の自治体を中心に実施させてきたのです。
 ところが、これに飽き足りない安倍内閣は、なんと驚いたことに、最近は、3億6000万円もの税金をつぎ込んで、全国の民放43局、全国の新聞70紙までも総動員した「準戦時体制」づくり、大がかりな世論工作をおこなうまでになっています。
 この間の事情を長周新聞(2017/06/28)は、「政府のミサイル対応CM」と題したコラム記事「時評」で次のように伝えています。

 内閣官房と消防庁が23日から、全国の民放43局で「弾道ミサイル落下時の行動」の政府公報CMを開始し視聴者を驚かせている。新聞でも70紙の朝刊ヘー斉に「Jアラートで緊急情報が流れたら、慌てずに行動を」と題する四段ぶち抜き広告を掲載した。
 CMも新聞広告も赤や黄色で派手に目立たせ、「国民保護サイレン」が鳴ると「頑丈な建物や地下に避難する」「物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守る」「口と鼻をハンカチで覆う」などと大まじめに呼びかけている。
 そもそもミサイルが着弾すれば、頭を抱えて伏せても身は守れないことはだれでもわかる。しかもどこから飛んできてどこへ着弾するかもわからないため、どこが物陰かも判断のしようがない。いくら「慌てずに行動を」と呼びかけても「国民の生命」が守られる保証はまったく無い。
 ミサイル問題でいえば、内閣官房主導で「X国のミサイルが落下した」と想定した住民避難訓練を田舎の自治体を中心に実施させている。
 これは「原発や米軍基地があるから標的にされる」という世論が広がることを避けつつ、行政主導で国民を戦時体制に組み込むためだった。今回のCMや広告も、メディアあげて「仮想敵国」の脅威を煽り、国民のなかで戦時動員の機運を醸成することが狙いである。
 さらにこのCMや広告に安倍政府は3億6000万円もの税金をつぎ込んだ。内訳はCM制作費と放映費で1億4000万円、新聞広告で1億4000万円、ウェブ広告で8000万円。ばく大な税金を投じメディアを手なずけていく仕掛けも露呈している。


 先に3回にわたって連載したブログ「戦争は国家の健康法である」(1~3)でも紹介したように、アメリカでは戦争を忌避する国民を第一次世界大戦に参加させるため、政府は「クリール委員会」をつくって世論工作をおこないました。
 ところが安倍内閣では、内閣官房と消防庁が合同で一種の「クリール委員会」をつくって世論工作をおこないました。
 また、この裏では巨大広告会社・電通が「影のクリール委員会」を形成していたのではないかと私は邪推しています。なにしろ安倍氏の妻・昭恵氏(父は森永製菓社長松崎昭雄)は、結婚するまでは電通の新聞雑誌局に勤務し、結婚も上司の紹介だったそうですから、この「プロパガンダ」プロ集団を安倍内閣が利用しないはずがないからです。
 アメリカ国民を第一次世界大戦に動員するにあたって、のちに有名な著書『プロパガンダ』を書いたエドワード・バーネイズは、ウッドロウ・ウィルソン大統領のもとで「クリール委員会」に参加し世論工作で大きな成果を上げることに貢献しました。その功績を認められたバーネイズは、1919年に開かれたパリ講和会議にも参加しています。
 そして国内外においていかに多くの大衆が、政府の掲げる「民主主義」というスローガンによって、いとも簡単に揺さぶられたかを自分の目で見たバーネイズは、プロパガンダモデルは平時においても利用できると考えるようになりました。それを理論化したのが著書『プロパガンダ』だったのですが、これは当然、大手広告代理店・電通のバイブルにもなっているはずです。
 それはともかく、北朝鮮のミサイル問題を利用して、安倍内閣が日本を「準戦時体制」にもちこみ、改憲と軍備強化の世論づくりに利用しているだけでなく、加計学園などの問題で窮地に追い込まれている内閣の延命策としても、避難訓練が利用されてきたことだけは確かでしょう。こうすれば国民の怒りや不満を国外の「仮想敵」へとそらすことができるからです。
 しかし都議選を見るかぎり、この安倍内閣の戦略は必ずしも成功しなかったようです。東京都民も隣の韓国民衆の闘いから学んで、安倍内閣に鉄槌を加えることを選んだのでしょうか。もしそうだとすれば、絶望しかけていた日本にも、まだ救いはありそうです。
 私が、3回連載のブログ「戦争は国家の健康法である」の続編(余話)を書きたいと思った所以(ゆえん)です。


<註1> 都議選の結果は、小池百合子氏のプロパガンダ「都民ファースト」に東京都民が騙(だま)された可能性も大いに残されています。というのは「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ氏の、大統領当選後の言動は、選挙運動で掲げていた政策やPCR氏が絶賛した就任演説の内容を、次々と裏切るものになっているからです。

<註2> ランドルフ・ボーンの研究者は日本にいないのかと思っていたのですが、検索してみると次の二人の論文が見つかりました。
*大西哲2010「ランドルフ・ボーンとその時代」流通経済大学『社会学部論叢』20-2::3-20
http://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20170705041510.pdf?id=ART0010568022
*前川玲子2010「戦争と知識人」(ランドルフ・ボーン: 翻訳と解題)『英文学評論』82: 59-91
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/135364/1/ebk00082_059.pdf
*前川玲子2015「偶像の黄昏」(ランドルフ・ボーン: 翻訳と解題)『英文学評論』87: 99-128
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/198495/1/ebk00087_99.pdf


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