書評『英語で大学が亡びるとき』に寄せて(その1)――急速に失速しつつある日本の科学力
英語教育(2011/07/27)、Nature Index 2017 Japan、「英語による授業」、「グローパル人材育成」策、「白己家畜化・自己植民地化」、鈴木孝夫「地救原理」

お墓参り(墓掃除)のため石川県に出かけていたり、チョムスキーの新著Requiem for the American Dream:The 10 Principles of Concentration of Wealth & Power(『富と権力を超富裕層に一極集中させる10の原理:アメリカンドリーム葬送曲』)の初校に追われたりしているうちに、もう10日以上も経ってしまいました。
鹿児島高教組教研集会「外国語部会」での講演を頼まれているため明日には鹿児島に向かわねばならないので、慌ててこのブログを書いています。いま書いておかないと、すぐ8月に入ってしまいますし、翻訳原稿の校正にも追われているので、どんどんブログから遠ざかってしまうことになりかねないからです。
シリアやウクライナなど中東をめぐる情勢、フィリピンやベネズエラ情勢、中国や北朝鮮をめぐる情勢など、書きたいことは山積しているのですが、江利川春雄先生からいただいた拙著『英語で大学が亡びるとき』にたいする書評(『新英語教育』2017年6月号)の紹介と、それにたいする私のコメントも、早くしないと時期遅れになってしまいます。
そこで今後しばらくは、「急速に失速・劣化する日本の科学力――書評『英語で大学が亡びるとき』に寄せて」という題名で、江利川先生の書評によって触発された私の想いを連載で書いてみることにしました。
しかし、いまは鹿児島への出立までに時間もありませんので、今回は江利川先生の書評のみを掲載し、それにたいする私の想いは帰郷してからにしたいと思います。講演の準備に意外と時間を取られ、気がついたらもう時間がなくなっていたからです。どうかお許しいただければ幸いです。
それにしても、本書に込められた「英語政策にたいする私の怒りや悲しみ」を、これほど的確にすくい取り、それを限られたスペースのなかで見事に表現していただいた書評を、これまでに読んだことがありませんでした。感動の一言でした。ただただ感謝あるのみです。この場を借りて改めて江利川先生に御礼を申し上げたいと思います。
書評『英語で大学が亡びるとき』明石書店、2015
江利川春雄(和歌山大学)
「日本の科学研究,この10 年で失速」。2017年3 月発売の英国科学誌『ネイチャ-』は,衝撃の特集を組んだ。主要科学誌への投稿論文数は,日本が得意とした理工系でも10年間で10%以上減少。
要因は,2004 年の国立大法人化による予算削減と研究条件の劣化である。 大学の危機をさらに加速させるのが,「英語による授業」の強要である。そう本書は警告する。
高度で創造的な思考を支えるのは母語である。日本では明治以来の努力で大学院教育まで日本語で行える。そのおかげで,多くのノーベル賞受賞者を輩出してきた。ところが,政府は「グローパル人材育成」策として大学の授業を英語で行えば補助金を出す「亡国の教育政策」を行っている。背景には「英語力= 研究力=経済力=国際力」という無知と幻想がある(第1章)。
補助金を目当てに,たとえば京都大学では外国人教員を100人雇い,教養教育の半数を英語で行う。「自己植民地化・白己家畜化」である。その根は深く、米国が戦後実施してきた「対日文化工作j としての英語教育振興策に起因する(第2章)。
政府は留学生倍増計画を進めるが、第3章を読めば,アメリカの大学が銃と性暴力,学費高騰.教育水準低下に蝕まれている実態に戦慄する。留学で英語に精力を奪われるよりも,日本語で深く思考し 憲法9条のような日本の良さ<地救原理>を世界に広める言語教育が大切だ。そのために「日本人の,日本人による,日本人のための英語教育」が必要だと寺島氏は説く。
氏はすでに,主として小学校英語教育の問題点を論じた『英語教育原論』(2007)、高校の「英語で授業」の危険性を指摘した『英語教育が亡びるとき:「英語で授業」のイデオロギ-』(2009)を世に問うてきた。
次期学習指導要領で小学校外国語が早期化・教科化され,中学校でも「英語で授業」 が強要されるいま、本書に加えて、前掲書を「寺島三部作」として読み直すならば,氏が日本の英語教育政策の病巣を名医の的確さで診断し処方姿を書いていることに感嘆する。
「今の文教政策がこのまま進行すれば,日本の大学教育だけでなく,日本の公教育全学体が確実に亡びる」(あとがき)。子どもたちのために,そうさせてはならない。病気を根治させ,「母語を耕し、自分を耕し,自国を耕すための英語教育」を実現するのは.私たちの仕事である。そのための知恵と希望を本書は与えてくれる。必読書である。



お墓参り(墓掃除)のため石川県に出かけていたり、チョムスキーの新著Requiem for the American Dream:The 10 Principles of Concentration of Wealth & Power(『富と権力を超富裕層に一極集中させる10の原理:アメリカンドリーム葬送曲』)の初校に追われたりしているうちに、もう10日以上も経ってしまいました。
鹿児島高教組教研集会「外国語部会」での講演を頼まれているため明日には鹿児島に向かわねばならないので、慌ててこのブログを書いています。いま書いておかないと、すぐ8月に入ってしまいますし、翻訳原稿の校正にも追われているので、どんどんブログから遠ざかってしまうことになりかねないからです。
シリアやウクライナなど中東をめぐる情勢、フィリピンやベネズエラ情勢、中国や北朝鮮をめぐる情勢など、書きたいことは山積しているのですが、江利川春雄先生からいただいた拙著『英語で大学が亡びるとき』にたいする書評(『新英語教育』2017年6月号)の紹介と、それにたいする私のコメントも、早くしないと時期遅れになってしまいます。
そこで今後しばらくは、「急速に失速・劣化する日本の科学力――書評『英語で大学が亡びるとき』に寄せて」という題名で、江利川先生の書評によって触発された私の想いを連載で書いてみることにしました。
しかし、いまは鹿児島への出立までに時間もありませんので、今回は江利川先生の書評のみを掲載し、それにたいする私の想いは帰郷してからにしたいと思います。講演の準備に意外と時間を取られ、気がついたらもう時間がなくなっていたからです。どうかお許しいただければ幸いです。
それにしても、本書に込められた「英語政策にたいする私の怒りや悲しみ」を、これほど的確にすくい取り、それを限られたスペースのなかで見事に表現していただいた書評を、これまでに読んだことがありませんでした。感動の一言でした。ただただ感謝あるのみです。この場を借りて改めて江利川先生に御礼を申し上げたいと思います。
書評『英語で大学が亡びるとき』明石書店、2015
江利川春雄(和歌山大学)
「日本の科学研究,この10 年で失速」。2017年3 月発売の英国科学誌『ネイチャ-』は,衝撃の特集を組んだ。主要科学誌への投稿論文数は,日本が得意とした理工系でも10年間で10%以上減少。
要因は,2004 年の国立大法人化による予算削減と研究条件の劣化である。 大学の危機をさらに加速させるのが,「英語による授業」の強要である。そう本書は警告する。
高度で創造的な思考を支えるのは母語である。日本では明治以来の努力で大学院教育まで日本語で行える。そのおかげで,多くのノーベル賞受賞者を輩出してきた。ところが,政府は「グローパル人材育成」策として大学の授業を英語で行えば補助金を出す「亡国の教育政策」を行っている。背景には「英語力= 研究力=経済力=国際力」という無知と幻想がある(第1章)。
補助金を目当てに,たとえば京都大学では外国人教員を100人雇い,教養教育の半数を英語で行う。「自己植民地化・白己家畜化」である。その根は深く、米国が戦後実施してきた「対日文化工作j としての英語教育振興策に起因する(第2章)。
政府は留学生倍増計画を進めるが、第3章を読めば,アメリカの大学が銃と性暴力,学費高騰.教育水準低下に蝕まれている実態に戦慄する。留学で英語に精力を奪われるよりも,日本語で深く思考し 憲法9条のような日本の良さ<地救原理>を世界に広める言語教育が大切だ。そのために「日本人の,日本人による,日本人のための英語教育」が必要だと寺島氏は説く。
氏はすでに,主として小学校英語教育の問題点を論じた『英語教育原論』(2007)、高校の「英語で授業」の危険性を指摘した『英語教育が亡びるとき:「英語で授業」のイデオロギ-』(2009)を世に問うてきた。
次期学習指導要領で小学校外国語が早期化・教科化され,中学校でも「英語で授業」 が強要されるいま、本書に加えて、前掲書を「寺島三部作」として読み直すならば,氏が日本の英語教育政策の病巣を名医の的確さで診断し処方姿を書いていることに感嘆する。
「今の文教政策がこのまま進行すれば,日本の大学教育だけでなく,日本の公教育全学体が確実に亡びる」(あとがき)。子どもたちのために,そうさせてはならない。病気を根治させ,「母語を耕し、自分を耕し,自国を耕すための英語教育」を実現するのは.私たちの仕事である。そのための知恵と希望を本書は与えてくれる。必読書である。

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