書評『英語で大学が亡びるとき』に寄せて(その2)――科学誌『Nature』の5つのグラフの衝撃

英語教育(2017/08/07) Nature Index Japan、中学校「英語による授業」、小学校英語「早期化・教科化」、大学入試の「外注」「民営化」、OECD国際成人力調査「国語力」「数学力」

    急速に落下する「世界での地位」、失速・停滞する「日本の論文数」日本の科学力1、TotaloutputScopus_high

  前回のブログでは、私が鹿児島講演に行かねばならないため、拙著『英語で大学が亡びるとき』にたいする江利川春雄先生(和歌山大学)による書評のみを掲載し、次のように書きました。
 「いまは鹿児島への出立までに時間もありませんので、今回は江利川先生の書評のみを掲載し、それにたいする私の想いは帰郷してからにしたいと思います」
 ところが岐阜に戻ってきたら、今度は、チョムスキーの新著Requiem for the American Dream の翻訳初校に追われる毎日でした。
 そして気がついたら、もう明日からの、国際教育総合文化研究所が主宰する「『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』のワークショップ」と「宿泊セミナー」が、目の前に迫ってきています。
 そこで慌てて、「急速に失速・劣化しつつある日本の科学力(その1)」の続編を、いま書き始めています。
 
 さて江利川先生の書評は次のような衝撃的事実の提示で始まっています。

 「日本の科学研究,この10 年で失速」。2017年3 月発売の英国科学誌『ネイチャ-』は,衝撃の特集を組んだ。主要科学誌への投稿論文数は,日本が得意とした理工系でも10年間で10%以上減少。
 要因は,2004 年の国立大法人化による予算削減と研究条件の劣化である。 大学の危機をさらに加速させるのが,「英語による授業」の強要である。そう本書は警告する。


 上記で江利川先生は、「大学の危機をさらに加速させるのが,『英語による授業』の強要である。そう本書は警告する」と書いておられましたが、事実、私は、『英語で大学が亡びるとき―「英語力=グローバル人材」というイデオロギー』の「あとがき」を、次のように結んでいます。

 英国のタイムズ紙の高等教育情報誌THE(Times Higher Education)が一〇月一日に発表した世界大学ランキング二〇一四~二〇一五で、日本の大学がランクを下げて話題になりましたが、調べてみると、低下した一番の理由は在籍する外国人学生の数の少なさによるものであって、研究者の実力とは、ほとんど何の関係もありませんでした。
 現在の日本は、本書第3章でも詳述したように、OECD国際成人力調査の「国語力」でも「数学力」でもトップの位置を占めていますし、ノーベル科学賞の受賞者数も二一世紀以降はアメリカに次いで世界第二位です。
 しかしこれは、これまで積み重ねられてきた現場教員・研究者の血のにじむような努力に支えられて生み出された成果でした。
 いま極めて深刻なのは、文科省が教育改革という名の「改悪」をすればするほど、教員が置かれている教育・研究環境が悪くなり、生徒・学生の学力は低下しているという事実です。文科省自身による最近の調査でも、「高校三年生の英語力は中卒程度」でした(一〇月一日発表)。
 ですから、何度も言うように、このまま事態が進行すれば、OECDにおける日本の地位も、ノーベル賞受賞者数も、確実に転落・減少するでしょう。そんな不安を私はどうしても拭い去ることができません。私が本書を緊急に出版したいと思ったゆえんです。


 この私の予言を裏付けるかのような衝撃的事実が、英国科学誌『ネイチャ-』(2017年3 月発売)の「日本の科学研究,この10 年で失速」という特集記事でした。この特集記事によれば。主要科学誌への投稿論文数は,日本が得意とした理工系でも10年間で10%以上も減少しているというのです。
 そこで早速この衝撃的事実を、英国科学誌『ネイチャ-』(2017年3 月発売)で、確認しようと、書店を訪れたのですが、残念ながら手に入りませんでした。そこで、やむを得ずインターネットで調べてみたところ、Nature Indexは、そのホームページで、次のような記事を公開していることが分かりました。
*The slow decline of Japanese research in 5 charts
http://www.natureindex.com/news-blog/the-slow-decline-of-japanese-research-in-five-charts

 この記事では、上記で示されているとおり、五つの図表(5 charts)を使って「日本の科学力」の「失速・劣化」ぶりを説明しているのですが、しかし今は時間もありませんので、ここでは、その五つの図表のうち、日本の「失速・劣化」ぶりを最も分かりやすく示す二つの図表だけを取りあげることにします。
 その第一番目が、ブログ冒頭に掲げた「論文総数の時間的・年代的変化」です。このグラフは、日本・中国・韓国・イギリス・アメリカという科学先進国5カ国における、2005年から2015年までの論文発表数を示したものです。
 ブログ冒頭で紹介した図表を、もう一度、再掲すると次のようになります。
日本の科学力1、TotaloutputScopus_high
  左のグラフが「科学分野で発表された各国の論文の数の変化」、右のグラフは「全世界の論文発表数のなかで各国の論文発表数がどのくらいの割合を占めているのか」を示しています。
 日本の論文発表数は紫色の線で表されており、2005年から2015年にかけての発表は、数の上では横ばいです。しかし世界全体の発表数は年を追うごとに増加しているので、全体における割合は急激に低下していいます。それを歴然と示しているのが、右側のグラフです。
 なお、このグラフにつけられた解説では、引用文献データベース「Scopus」を元に作成されており、Scopus上の論文総計は2005年から2015年で80%増加しているにも関わらず、日本の論文数は14%の増加にとどまっている」と述べられています。

 (Japan is one of the world’s top research-producing nations. But, over the past decade its scholarly output has not kept pace with the average growth in publications around the world. While the total number of articles in Scopus increased by about 80% between 2005 and 2015, Japan’s output grew by a mere 14%.)
*Five Charts
https://www.natureindex.com/news-blog/the-slow-decline-of-japanese-research-in-five-charts
*Scopus
http://jp.elsevier.com/online-tools/scopus

 さて「日本の科学力」の「劣化・衰退」ぶりを示す、もうひとつのグラフが次のものです。
日本の科学力5、japnvsworld_high
 上記のグラフは、2015年に発表された日本の論文を、学問分野別(14分野)に分類し、縦軸で各分野における「世界の研究と日本の研究の相対的変動」を示したものです。
 グラフの横軸では、左から学問分野別に、薬学・物理学・化学・材料科学・エンジニアリング・生化学&分子生物学・神経科学・薬理学・コンピューター科学・数学・免疫学・植物科学・農学・天文学の順に、科目名が並べられています。
 これを見ると、14分野中11分野で日本は、世界平均のペースから遅れをとっていることが、よく分かります。論文発表数で日本が2005年よりも増加しているのは、薬学・数学・天文学の三つだけなのです。(ただし天文学だけは世界平均よりも良い結果となっています)。
 だとすれば、私が拙著「あとがき」で次のように述べたことが、このNature Index Japanで見事に証明されている、と言ったら言い過ぎでしょうか。

 ですから、何度も言うように、このまま事態が進行すれば、OECDにおける日本の地位も、ノーベル賞受賞者数も、確実に転落・減少するでしょう。そんな不安を私はどうしても拭い去ることができません。私が本書を緊急に出版したいと思ったゆえんです。


 江利川先生は、拙著の書評を、第1章を次のように要約し、また、書評の末尾を次のように結んでおられます。

 高度で創造的な思考を支えるのは母語である。日本では明治以来の努力で大学院教育まで日本語で行える。そのおかげで,多くのノーベル賞受賞者を輩出してきた。ところが,政府は「グローパル人材育成」策として大学の授業を英語で行えば補助金を出す「亡国の教育政策」を行っている。背景には「英語力= 研究力=経済力=国際力」という無知と幻想がある(第1章)。
 ・・・氏はすでに,主として小学校英語教育の問題点を論じた『英語教育原論』(2007)、高校の「英語で授業」の危険性を指摘した『英語教育が亡びるとき:「英語で授業」のイデオロギ-』(2009)を世に問うてきた。
 次期学習指導要領で小学校外国語が早期化・教科化され,中学校でも「英語で授業」 が強要されるいま、本書に加えて、前掲書を「寺島三部作」として読み直すならば,氏が日本の英語教育政策の病巣を名医の的確さで診断し処方姿を書いていることに。
 「今の文教政策がこのまま進行すれば,日本の大学教育だけでなく,日本の公教育全学体が確実に亡びる」(あとがき)。
 子どもたちのために,そうさせてはならない。病気を根治させ,「母語を耕し、自分を耕し,自国を耕すための英語教育」を実現するのは.私たちの仕事である。そのための知恵と希望を本書は与えてくれる。必読書である。


 江利川先生の、「氏が日本の英語教育政策の病巣を名医の的確さで診断し処方姿を書いている」という表現は、私にとっては褒めすぎで、何とも面映(おもは)ゆいものがあります。
 しかし、文科省が小学校英語を早期化・教科化し、中学校でも「英語で授業」を強要しているときだけに、全国の教育現場だけでなく父母や市民の間で、英語教育が議論される際に、拙著が「たたき台」になるのであれば、こんなに嬉しいことはありません。
 まして、いま政府・文科省が、英語の大学入試を民間業者に「外注」し、英語教育を利潤追求の場、教育産業の草刈場にしようとしているのですから、事態は深刻さを増すばかりではないか――私にはそう思えてならないのです。


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