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アメリカの読み方、世界の読み方

アメリカ理解(2018/01/31) NAFTA「北米自由貿易協定」、Deep State「闇の政府」、国防情報局長官マイケル・フリン中将、スメドレィ・バトラー将軍『戦争はペテンだ』


 昨年、長周新聞から「新年号に何か書いてほしい」と何度も依頼があったのですが、「今は疲れていて書けない」と断ってきました。
 しかし度重なる依頼があり、しかたなく「ブログに載せたものを手直ししたものでよければ」と言うと、「是非それをお願いします」ということでした。
 そこで早速、ブログの小論をかなり手直しをして送ったところ、2回にわたって1面トップに連載され、こちらのほうが驚いてしまいました。
 しかも編集部の方から次のような嬉しい便りも届きました。この新聞をjpeg版で、以下で紹介したくなった所以です。
 <寺島先生。読者の反響として、さっそく次のような感想が共通して寄せられています。今後ともよろしくお願いいたします。
 「読みやすく、いっきに読んだ」「引用されている本を読みたくなった」「アマゾン・ブックレビューに乗せられている書評を切り口にしながら、アメリカと世界の見方について全面的に論理を展開している。わかりやすく、さすが寺島先生だと思った」…>
 この小論を既にブログで読まれた方には新しい内容ではないので申し訳ない気もしますが、それでも、どこがどう加筆修正されたのかを検証しながら未読していただければ退屈しないのではないかと勝手に考えました。読者の皆さんのお許しを願うのみです。

s-長周新聞20180115 「アメリカの読み方、世界の読み方」 1-1

s-長周新聞20180115 「アメリカの読み方、世界の読み方」 1-2


s-長周新聞20180117 「アメリカの読み方、世界の読み方」 2-1

s-長周新聞20180117 「アメリカの読み方、世界の読み方」 2-2


<註> 最近になって、2回にわたって連載された拙論が、長周新聞のホームページでは、1回にまとめられたネット版として掲載されているとの連絡を受けました。こちらは写真・書籍がカラーとなって更に迫力が増し、全く別の味わいになっていて驚きました。
https://www.chosyu-journal.jp/kokusai/6612

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シリコンバレーの "ワーキングホームレス" は大学教師

アメリカ理解(2018/01/23) ワーキングホームレス working homeless、闇の政府Deep State、シリコン・バレー(ケイ素siliconの谷間)、サドリー・バレー(悲しくsadly生きる谷間)

自家用車で寝る「ホームレスの大学教師」
ワーキングホームレス
© Adam Holesch / Global Look Press


 前回のブログから早くも2週間が経とうとしています。この間、アメリカは相変わらず混沌としています。共和党と民主党がいがみあっているだけでなくトランプと議会も争っていて、トランプ政権はまともに機能していません。議会が予算を通さないので政府機能も一部、麻痺しています。
 しかし、それとは関わりなくDeep Stateは着実に海外で戦争準備を整えています。その口実として「人権」や「民主主義」が使われるのですが、イスラエルの首都をエルサレムに移し、それと並行してアメリカ大使館もエルサレムに移すという案は何の問題もなく議会を通過します。
 つまりアメリカの特権階級、好戦勢力であるDeep Stateにとっては、パレスチナの「人権」や「民主主義」は、実はどうでもよいのだということが、このエルサレム問題を見ているだけで歴然としてきます。このことは国内の民衆にたいしても同じです。
 たとえば西海岸や東海岸でホームレスが溢れていても、彼らには全く気になりません。それどころか野宿者に食べ物などを与えると犯罪になります。これが『アメリカンドリームの終わり』を通じてチョムスキーが訴えたかったことでした。

*‘An unjust law’: 9 charged with feeding homeless in California
「不正な法律」、カリフォルニアで、野宿者に食べ物をやろうとした9人が逮捕

https://www.rt.com/usa/416041-advocates-arrested-feeding-homeless-california/
*California city is 'criminalizing homelessness' with food-sharing ban
「カリフォルニアの街では野宿者を犯罪として扱い、彼らに食べ物をやることが禁じられている」

https://www.rt.com/usa/416326-homeless-charged-feeding-criminalise/

 そこで今回のブログでは、IT産業のメッカであるシリコンバレーで専任の大学教師でさえ自家用車の中で寝泊まりをしなければならないという実態があることを、翻訳し紹介したいと思います。日本をこんな国にしてはならないと思うからです。



シリコンバレーの‘ワーキングホームレス’は車で眠る
ハイテクの大物(テク・タイタン)たちが王者のごとく暮らしているとき

Silicon Valley 'working homeless' sleep in cars as tech titans live like kings
Published time: 8 Nov, 2017 14:39

https://www.rt.com/usa/409230-silicon-valley-working-homeless/

カリフォルニア州の太平洋岸に位置する、この目映いばかりの先端技術の聖地(メツカ)、そこは世界最富裕の資産家や大企業のいくつかの発祥の地なのだが、その周辺にますます増える‘ワーキングホームレス’の数は、アメリカンドリームの悲しき脚注(裏面の説明)として役立っている。

これは、なんらかの理由で経済から転落して、現在、路上で生活しているアメリカ人たちの話ではない。これは働き者のアメリカ人たちの話である。彼らは職に就いていて、しかも時には同時に2つも3つも職を掛け持ちをしているが、それでもまだ必要最小限の家賃を払う余裕がないのだ。これらの人々がアメリカ人のまったく新しい下位文化(サブカルチャー)を浮かび上がらせる存在となってきている。ほんの数十年前には聞いたことがないもので、‘ワーキングホームレス’というものだ。  

サッドリーバレー(悲しみの盆地)?

ここ数年続いているホームレス問題は、シリコンバレー(半導体の盆地)からまず第一に連想されるものではない。シリコンバレーは先進的研究・開発の中心地のひとつとして世界的な地位を享受しているからだ。

アップル、アルファベット(グーグル)、ヒューレットパッカード、オラクルのような、『フォーブス100』誌の企業のうち数十社を抱えているシリコンバレーは、米国全体の投機的資本投資の3分の1を占めている。

またカリフォルニア州の、よく知られたリベラル(あるいは左派的)な傾向を考えると、少し奇異な感じがするかも知れないが、シリコンバレーのテクノロジー関連株は、共和党のドナルド・トランプがホワイトハウスに入って以来ずっと記録を破り続けている。

だとすれば、小売業で働く人、教師、保守作業員、配管工などの多くの類似のサービス産業労働者たちの、この悲惨な現象をどのように説明すればよいのか。つまり、彼らは家賃を払う給料が充分にないため、駐車場で車やRV車から出て、戸外で寝泊まりしているのだ。とりわけ、アメリカの中でも現金の海で泳いでいるような地域において。

“サンノゼの地下鉄エリアの家賃の中央値は、月3500ドルだ。しかし賃金の中央値は、飲食サービス部門で時給12ドル、医療支援業務では時給19ドルだ。それは住宅費をまかなうことすらできない額だ。”とAP通信は、その問題をとりあげた最近の暴露記事で報じた。 
 
その記事はエレン・タラ・ジェイムズペニー(54歳)の胸の痛むような話を詳しく報じた。彼女はサンノゼ州立大学で教えており、4クラスの英語授業をもち、年収は28000ドルだ。しかし2つ学位を取得した後、現在143000ドルの学生ローン負債を抱えている。

“彼女は試験を採点し、授業の準備をする。愛車ボルボの中で。夜になると、彼女は運転席を後ろに反らし、眠る準備をする。そばに2匹の犬のうちの一匹ハンクをおいて。夫のジムは、車で寝るには背が高すぎるので、野外のテントつきの簡易ベッドで眠る。もう一匹の犬バディと共に。

人口8万人の都市マウンテンビューには、300以上の車が都市の至る所に散在し、個人や家族のための狭苦しい住居地としての役割を果たしている。しかし、ますます増えるホームレスの流入に対処するために、市当局者がますます圧力を受けるようになるにつれ、援助資源は限界点にまで達しつつある。

市の公式ウェブサイトによれば、“マウントビューのホームレスは倍近くになった。2013年の139人から、2015年には276人に”。これらの数は2017年には郡全体でさらに上昇した。マウントビューでは、416人のホームレスがおり、2015年から見ると 51パーセント増である。”

その間、すぐ近くのパロアルトの当局者たちは、市の道路沿いに停められたRV車に72時間制限を課すよう強要された。住民からの苦情が多いからだ。

貧乏人のせいか?

彼らの現在の苦境は、こうした悪戦苦闘している個々人のせいにしたいという誘惑にも駆られる。そもそも、車に荷物を積んで、大金持ち連中の荒い金使いが急激なインフレを起こさせていない所へ、移動しさえすればよいではないか。そういった物言いにもいくらかの真実があるようにも思われる。だが問題はそれほど簡単ではない。問題はシリコンバレーの境界を越えているからだ。

ホームレスは今やアメリカでは珍しくないのだが、とくにカリフォルニア州では顕著だ。米国住宅都市開発省によって最近発表されたばかりの研究では、ホームレス率のトップ10都市のうち4つはカリフォルニア州だった(ロサンゼルス、サンディエゴ、サンフランシスコ、サンノゼ)。ただし首位はニューヨーク市だ。

急上昇している株式市場と息を飲むほど高額の役員報酬という楽天的なニュースの影に隠れているのは、ホームレスの急上昇だ。そしてそれは西海岸沿いの多くの州政府に非常事態を宣言させるまでになっている。そういう宣言は、通常は自然災害のために取っておかれるものなのだが。

“空前のホームレス危機が西海岸を揺るがしつづけている。そして、その犠牲者たちはその地域を特徴づけている成功そのものによって置き去りにされているのだ。急上昇する住宅費、どん底の空室率、そして誰一人待ってはくれない怒濤の経済だ”と、ワシントンポスト紙は報じた。

太平洋岸の北から南に至るまで、すべての州政府は解決策を求め苦闘している。

“わが市は経済的には失業率はゼロ。なおかつ数千人のホームレスの人々がいます。彼らは実際に働いています。ただ住宅費を支払う余裕がないだけです。”シアトル市の市会議員マイク・オブライアンはそうワシントンポスト紙に語った。“これらの人々は行く場所がないのです。我々が新しい駐車場を開いても、すぐいっぱいになります。”

その物語をますます悲劇的にしているのは、裕福な人々がそれなしでは生活できない骨の折れる仕事、つまり配管工事・教育・配膳・掃除をこなしている人々の多くが、富へ突進する背後で取り残されつつある人々だ、という事実なのだ。
“これは失業の危機ではないのです。ふつうは失業が貧困につながるのですが、このシリコンバレーは違うのです。”と、コミュニティ・サービス・エイジェンシー(マウンテンビューに本拠地を置く非営利団体)の執行責任者、トム・マイアースはAP通信に語った。“だって、人々は働いているんですからね。”


<註> 上記で翻訳・紹介した実態を別のかたちで紹介しているAP通信の記事があることを知りました。それが次の記事です。
*「シリコンバレーの影:家賃高騰、仕事のあるホームレスが急増 月11万の車上生活」
https://newsphere.jp/technology/20171123-1/
 この記事を読んでいたら、次のような興味深い一節が眼に飛び込んできました。
「15ドルのアボカドの炭火焼を食べて、1,000ドルのiPhone Xをポンと買える若い資産家がいる一方で、家に住めない家庭は数千世帯にのぼる。ホームレス支援団体や市の職員も、ハイテクブームの影で起こっているこの現象に対して、まったくひどい話だと口をそろえる。ホームレスの多くには定職があり、こうした資産家の下で働く人もいる。その資産家こそが、多くの人が家に住めなくなっている元凶なのだ。」
 これを読むと、「アボカドの炭火焼」を食べるのに15ドルもかけるのですから、アメリカの金持ちは菜食主義に傾いていることが分かります。他方、貧乏な黒人を中心として貧困者は肉食です。アメリカでは本当の金持ちしか和食は食べることができません。和食レストランは貧困者には高嶺の花です。トム・クルーズやマドンナといったセレブと言われるひとたちは概して和食であり菜食主義者が多いのです。
 似たような傾向は日本にも現れ始めています。貧乏なサラリーマンは肉丼といった安い肉料理に走り、どんどん癌になり早死にしますが、本当の金持ちは肉食を減らし、通販で取り寄せた高価な「有機栽培の野菜」を食べます。だから金持ちほど長生きすることになります。こうして、かつて長寿県日本一だった沖縄で、若者がゴーヤを食べずに肉食に変わり、今や親が息子や娘の葬式を出すという「逆さ仏」現象が顕著になってきています。



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チョムスキーは「反米」「反アメリカ的」なのか

アメリカ理解(2018/01/07) アメリカンドリーム、ワーキングホームレス、Deep State(裏国家、闇の政府)、ムジャヒディーン→アルカイダ→ISISへ

年賀状2018 (jpeg)225

 前回のブログを書いてから、もう3週間も経ってしまいました。
 チョムスキー『アメリカンドリームの終わり』を出版したあと、12月26~27日および27~28日に予定されていた国際教育総合文化研究所の「第2回『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』ワークショップ」および「研究所2017冬期宿泊セミナー」の準備に追われていました。年賀状も29日に上の賀状を書き、30日に丸1日をかけて宛名書きをして、慌てて中央郵便局まで車を走らせるという「師走」ぶりでした。
 日頃は比較的ゆとりのある教師・僧侶ですら走り回るほど忙しくなるのが「しはす」「しわす」だそうですから、まさに語源どおりの12月でした(もっとも、文科省の政策=正規教員の大幅減少により、最近の教師は年じゅう「師走」状態ですから、これでは教育が良くなるはずがありません)。
 やっと正月を迎え、ゆっくりできるかと思っていたら、今度は金沢に出かけなければならないことが勃発し、雪空をついて岐阜と石川県を往復しなければならなくなって、今ようやくパソコンに向かう時間が生まれました。
 このような状態では、さすがに73歳になった老体には、「10日に1回」のブログも難しく、新年からは「1か月に1~2回」にせざるを得ないと思い始めています。書きたいことは山積しているのに体が動きません。どうかお許しいただければ幸いです。

 それはともかく、『アメリカンドリームの終わり』のアマゾン・ブックレビューを読んだ知人が、「偏向している感が否めません」と題する書評(投稿者アレックス2017年12月13日)がブックレビューに載っていることを、年末に知らせてくれました。。
 調べてみると、他の書評はすべて星5つで、この書評者だけが星3つでしたから、無視しても全く問題ないと思ってもみたのですが、この書評者が考えているようなことはかなり多くの日本人が共有している感情・考え方ではないかと思ったので、以下で詳しく検討するのも無駄ではないと考えるようになりました。
 そこで、まずその書評の全文を以下に紹介することにします(この投稿者アレックス氏を引用する場合、A氏と略記させてもらいます)。

 確かにアメリカが大格差社会になっているのは事実ですが、今の世界はアメリカだけではありません。中国などもっと酷いでしょう、言論の自由や人権問題など、中国以上に酷い国はありません。
 チョムスキー氏はアメリカについてはとてもよく解説されていますが他国を見ていない気がします。まさかチャイナロビーに騙されているとは思えませんが、アメリカの今の問題は、中国の経済の対等(ママ、台頭?)、軍事拡大など無視はできません。アメリカは今だ経済も世界一であり、軍事でも世界一ですが、今のトランプ政権は、中国、世界から搾取された富を取り返すと言っているだけです。確かにアメリカ第一主義ですが、でも今の世界どこも自国第一主義になっています。日本は既にアメリカと状況は同じであり、韓国などアメリカ以上に大格差社会で悲惨です。
 チョムスキー氏のような世界に影響力を与える素晴らしい学者の意見ですが、おこがましいのですが、この種の問題はアメリカだけでなく世界中でおきていると思えます。
 アメリカに限定しないでこの本を読めば世界がどういう方向に向かっているかわかると思えます。確かにアメリカの状況は危機的なのかもしれませんが、アメリカが駄目なら、他の国々はもっと悲惨だと思います。


 A氏は冒頭で次のように書いています。
 「確かにアメリカが大格差社会になっているのは事実ですが、今の世界はアメリカだけではありません。中国などもっと酷いでしょう、言論の自由や人権問題など、中国以上に酷い国はありません」「チョムスキー氏はアメリカについてはとてもよく解説されていますが他国を見ていない気がします」
 これを読んで真っ先に浮かんできたのは、「A氏は本当にこの本を読んだのだろうか」という疑問でした。というのは、チョムスキーは本書第2章で、中国について次のように述べているからです。

 製造業を国内から国外へ移し、国の生産力をえぐりとってしまうというのは、意識的な決断の結果でした。というのは、国外には安い労働力が待っていて、そこには健康や安全にかんする厳しい基準もないし、環境基準もなかったからです。
 たとえばメキシコ北部、中国、ベトナムなどは、そのような好条件に恵まれていました。製造業には今でもたくさんの利益を得ている人たちもいますが、かれらが生産しているのはアメリカではなく国外なのです。
 これは多国籍企業にとっては全く利益にかなったことでした。とくに多国籍企業の経営者、その幹部や株主にとっては、非常においしい話でした。しかしもちろん、一般民衆にとっては非常に有害なものでした。
 たとえば世界最大の企業のひとつであるアップル社は、台湾人が所有し、中国国内にある工場で、いそいそと生産に励(はげ)むことでしょう。しかしその工場は拷問部屋と呼ばれるものになっているのです。
 こうして中国は世界の組み立て工場になっています。中国南西部にあるフォックスコンという会社は、そこに送り込まれるさまざまな部品を組み立てているのですが、それらの部品は近隣の工業諸国、たとえば日本、シンガポール、台湾、韓国そして合州国から送り込まれたものです。
 このように、アメリカ企業の得た利益の大半は、この組み立て工場から生まれているのです。もちろん、中国でも百万長者や億万長者の階級は生まれてきていますが、それは伝統的な第三世界で一般的な現象です。(80-81頁)


 ご覧のとおり、チョムスキーは中国についてもきちんと言及しています。この『アメリカンドリームの終わり』という本は、私が「あとがき」でも書いたように、従来のチョムスキーには珍しく、アメリカの国内問題に絞って言及した本ですが、それでも随所に海外の事情についてもふれているのです。
 しかも、ここで注意していただきたいのは、中国の工場をチョムスキーは「拷問部屋」と呼んでいることです。さらに注目すべきなのは、「台湾人が所有する中国本土の工場、拷問部屋と呼ばれている工場で、いそいそと生産に励んでいる」のは、他ならぬ「世界最大の企業のひとつであるアップル社」だという事実です。
 A氏は、「まさかチャイナロビーに騙されているとは思えませんが」「言論の自由や人権問題など、中国以上に酷い国はありません」と書いているのですが、一歩譲って「中国が酷い国だということを認めたとしても、そのひどい状況だからこそ、アメリカは製造業の移転先としてメキシコ北部、中国、ベトナムなどを選んだのです。
 なぜなら、「そこには安い労働力が待っていて」「健康や安全にかんする厳しい基準もないし」「環境基準もなかった」からです。つまり中国を酷い国のままにしておくこと、言論の自由を押さえつけ労働者を低賃金で奴隷状態のままにしておくことは、アメリカの要求にかなうことでもあったのです。つまり人権侵害を助長しているのがアメリカだとも言えるわけです。
 また既に紹介したように、格差社会についてもA氏は冒頭で、「確かにアメリカが大格差社会になっているのは事実ですが、今の世界はアメリカだけではありません。中国などもっと酷いでしょう」と書いています。しかし中国の格差社会についても、チョムスキーは本書で次のように書いているのです。

 ところで国際的な「自由貿易協定」と呼ばれているものの実態は、「自由」貿易どころではありません。そのような経済体制は、明らかな意図をもって作り上げられたものだったからです。
 というのは、世界中の労働者がお互いに競争をして、賃金を値下げしなければならないよう追い込むことに、そのねらいがあったからです。その結果、働く人たちの収入は大きく落ち込むことになりました。
 それはとくにアメリカにおいて顕著でしたが、いまや世界中に広まりつつある現象です。そのことは、アメリカの労働者が、搾取され尽くしている中国の労働者と、競争状態にあることを意味しています。
 ちなみに中国では、貧富の格差はかつてないほど大きくなってきています。中国と合州国はこの点で、超格差社会の双璧をなすものとなっているのです。中国でも、この格差を克服するために多くの労働運動があります。
 しかし厳しい国家体制の下では、それはなかなか楽なことではありません。とはいえ、いまや何かが起こりつつあります。それは確かに世界的普遍的な現象でもあります。(82-83頁)


 上で引用した最期の段落でチョムスキーは「しかし厳しい国家体制の下では、それはなかなか楽なことではありません。とはいえ、いまや何かが起こりつつあります。それは確かに世界的普遍的な現象でもあります」と述べています。つまりA氏が指摘する「酷い中国」でも、労働運動は着実に前進し始めているのです。
 しかし中国人労働者が「拷問部屋」から解放され、低賃金の奴隷状態を抜け出したとき、アメリカは次の「低賃金国家」「人権侵害国家」に企業を移転させていくでしょう。ときには、そのためにクーデターを起こすことも厭いません。しかもそれは今もホンジュラスやベネズエラなど中南米その他で実際に起きたこと、今も起きていることです。
 このことをチョムスキーは上記の引用段落に続けて次のように述べています。つまり「言論の自由を侵し人権侵害を助長している」のは、当のアメリカなのです。

 アメリカが国外に輸出しているのは、人間を操作するさまざまな価値観です。たとえば、富を一部の集団に集中させること、働く人びとに税金を課すこと、働く人びとの権利を奪うこと、働く人びとを搾取すること等々です。それこそ、アメリカが現実の世界で輸出しているものなのです。それは、富裕層と特権階級を守るための貿易制度をつくりあげようとした結果、自動的に生まれたものだとも言えます。(83頁)



 このように書いていくと切りがないのですが、A氏はさらに次のように書いているので、これについても最低限の言及は必要だと思うので、あえて取りあげることにします。

まさかチャイナロビーに騙されているとは思えませんが、アメリカの今の問題は、中国の経済の対等(ママ、台頭?)、軍事拡大など無視はできません。アメリカは今だ経済も世界一であり、軍事でも世界一ですが、今のトランプ政権は、中国、世界から搾取された富を取り返すと言っているだけです。


 これを読むと、またもやA氏が本書を読まずに、日本の大手メディアや政府から垂れ流されてくる情報を鵜呑みにして書評を書いていることが露呈されています。トランプ氏がヒラリー女史を相手に選挙戦を闘ったときの公約で、大きな柱は次の諸点でした。
1)NAFTAは企業を海外に移転してアメリカ国内の労働者から仕事を奪ったから、これを見直す。TPPもNAFTAの延長にすぎないから、これには反対する。
2)今までのアメリカは海外で戦争を拡大し、CIAやNATOを使って外国でクーデターを起こすことにいそしんできた。その典型例がシリアで進行している戦争だ。
3)しかし、いまアメリカに必要なのは海外の戦争や政権転覆に精力を集中することではなく、国内の経済を建て直すことだ。
4)したがって今後はCIAの活動を再点検し、必要なら廃止または改組する。NATOも冷戦の産物であり、ソ連が崩壊した現在、NATOは今や時代遅れであり、これに莫大な予算を注ぎ込むのではなく、国内経済の立て直しに財力を注ぐべきだ。
5)だから、いま最も必要なのは、莫大な死者と難民を生み出し、EU諸国にテロが頻発する根本原因を絶つことである。そのために、ロシアと協力しながら、イスラム原理主義を奉じるテロ集団ISISを根絶することが急務である。

 このような政策が民衆に支持されたからこそ、大手メディアに袋だたきにされながらも、トランプ氏はヒラリー女史を打ち破り、地滑り的勝利をおさめたのでした。トランプ氏がどのような層から支持を得たのかも、本書でチョムスキーは詳細に論じているのですが、A氏はそれも読んでいないのか何の言及もありません。
 それはともかく、このようにトランプ氏が掲げた政策は、金融界や軍産複合体の利益を大きく損なうものでした。ですからトランプ当選が奉じられた途端、世界中の株価が大きく下落するという騒ぎにもなりました。また、だからこそ、大手メディアを中心としてトランプ氏に対する攻撃は選挙時よりも激しくなりました。
 他方、ヒラリー女史を先頭とする民主党幹部からのトランプ攻撃も、選挙が終わってからも衰えることはなく、むしろ激しくなったと言えます。ヒラリー女史は「自分が負けたのは、ロシアがハッカー攻撃をして民主党本部からヒラリー叩(たた)きに有利な情報を盗み出したからだ」「トランプはロシアの操り人形だ」という攻撃を始めたからです。
 このようにトランプ氏に対する攻撃が激しくなった結果、氏の政策は徐々に変化を見せ始め、今ではトランプ氏がおこなっている政策は、当初に掲げた政策とは全く違ってしまいました。それどころか金融街・軍産複合体を中心とする「裏国家」「闇の政府」、いわゆるDeep Stateの言うとおりに行動していると言ってよいでしょう。
 何がトランプ氏の姿勢を変えたのでしょう。
 大手メディアからの攻撃、リベラル知識人をも巻き込んだ民主党陣営からの攻撃で、自分が任期を待たずに罷免されるかも知れないという恐れが、氏の政策を変える大きな要因になったことは疑いありません。またケネディ兄弟の暗殺をみれば分かるように、下手をすると自分も暗殺されるかも知れないという恐怖感も、これに加わっていた可能性もあります。
 (その証拠に、公約ではあれほどCIAの海外における政権転覆活動を攻撃していたのに、ホワイトハウス入りをした最初の訪問先がCIAでした。)
 こうした氏の姿勢の変化で、NATO軍は解体されるどころかロシアの国境沿いに兵力を増強し、ロシアといつ戦闘が始まっても不思議はない緊迫した情勢になっています。またアジアでも、北朝鮮の行動を口実にした「アメリカによる韓国と日本の大型軍備の増強」により、中国との緊張関係も高まる一方です。
 アメリカにしてみればヨーロッパやアジアで緊張関係が高まれば、それを口実に目の玉が飛び出るほど高額の軍事兵器を東欧や韓国・日本に売りつけることができるわけですから、こんなに美味しい話はないでしょう。
 また安倍政権にとっても北朝鮮を口実に憲法を改悪し、自衛隊の兵力を一気に強化することができるわけですから、これほど好都合なことはありません。北朝鮮の行動は、うまくいけば日本も核兵器をもつ口実にも使えます。日本が原発をやめるとは言わない真の理由がここにあります
 しかし一般民衆にとっては、軍事費が激増する分だけ福祉や医療や教育への予算が削られ、消費税や所得税が増える一方なのですから、これほど悲惨なことはありません。これはアメリカ国民にとっても同じで、トランプ氏の政策が「国内経済ファースト」から「軍事力増強ファースト」へと大きく逆転することになったのですから、国民の生活が改善することは、ほぼ望み薄になりました。
 このように考えてくると、A氏が次のように書いていたことの荒唐無稽さが、いっそうよく理解できるのではないでしょうか。

まさかチャイナロビーに騙されているとは思えませんが、アメリカの今の問題は、中国の経済の対等(ママ、台頭?)、軍事拡大など無視はできません。アメリカは今だ経済も世界一であり、軍事でも世界一ですが、今のトランプ政権は、中国、世界から搾取された富を取り返すと言っているだけです。


 そもそも、アメリカで巨大な力を振るっている「イスラエルロビー」についてはよく知られていますが、「チャイナロビー」については、ほとんど聞いたことがありません。ですからチョムスキーが「チャイナロビーに騙されている」かも知れないと考えることそのものが荒唐無稽な発想でしょう。
 また中国経済が世界第2位(購買力平価では第1位)になっていること、軍事力も強化されていること、これらは疑いのない事実ですが、これも、「アメリカが中国近海で、日本も巻き込んだ大軍事演習を繰りかえしていることの対抗策ではないか」と考えてみるゆとりが、A氏にはまったくないように見えます。
 これは、中国の海軍や空軍がロシアと一緒に、アメリカ近海で軍事演習を繰りかえしたら、アメリカがどのような行動をとるかと考えてみれば、すぐわかることではないでしょうか。このように考えられないのは、安倍政権や大手メディアの流す中国脅威論に、A氏がそのまま載せられているからではないでしょうか。

 最期に、A氏が「今のトランプ政権は、中国、世界から搾取された富を取り返すと言っているだけです」と言っているのも、実に奇妙なものです。というのは、この文脈からすると、「中国を初めとして世界中がアメリカを搾取している」ということになるからです。
 これほど現実離れした世界認識を読むと一瞬、唖然としてしまいます。なぜなら、かつてのローマ帝国と同じように、世界中に軍隊を派遣して軍事基地をもち、世界中から搾取し続けてきたのが、アメリカの歴史であることは、よく知られた事実だからです。
 国内で先住民(アメリカインディアン)を殲滅したあと、搾取すべき対象を求めて最初に支配したのは中南米でした。が、徐々に太平洋を越えてアジアにも進出し、まずスペインの支配下にあったフィリピンを植民地にしました。その後、ベトナム戦争に乗りだし挫折しましたが、旧ソ連に同じ苦しみを味あわせようと画策されたのが、アフガニスタンにおける戦争でした。
 ソ連軍をアフガニスタンにおびき出し、10年近くもアフガニスタンに縛り付けて、ソ連を疲弊させ解体させる戦略を立て、それをカーター政権におこなわせたのが、大統領顧問のズビグネフ・ブレジンスキーでした。そのとき傭兵として使われたのがイスラム教の戦士で、当時「ムジャヒディーン」(アメリカでは「自由の戦士Freedom Fighters」)と呼ばれていました。
 サウジアラビアを初めとする中東各地から集められた、このイスラム教原理主義のテロリストをかり集める中心人物だったのが、オサマ・ビンラディンだったこともよく知られた事実です。この「ムジャヒディーン」が、後の「アルカイダ」の母体となり、それがアサド政権を転覆させるための傭兵集団「ISIS」となっていったこと、それを裏で支えたのもオバマ政権だったこと、これも今では広く知られるようになった事実です。
 トランプ政権発足当初の顧問だったマイケル・フリンが、すぐにDeep Stateから猛攻撃をうけて辞職せざるを得なくなったのも、フリンがこのような裏の事実を暴露し、ISISと戦うためにロシアと手をつなぐべきだと主張したことが原因だろうと言われています。フリンは、国防情報局長官だった頃、このような事実を調査し報告書としてオバマ大統領に提出していたのですが、オバマ氏はこれを却下してフリンを解任・辞職に追い込んでいます。
 あの有名な911事件のあと、アメリカは「ビンラディンを匿っている」を口実に、再びアフガンに乗りだし、その後すぐに「大量破壊兵器」という嘘でイラク戦争を始めて、今ではアメリカが広げた戦火はリビア→シリア→イエメンと、とどまるところがありません。そのなかで多くの国が瓦礫と化し、何十万という人が殺され、何百万という人が難民となりました。
このような破壊と殺戮が、「人道のため」とか「自由と民主主義を守るため」とかいう口実でおこなわれましたが、その裏に潜む本当の理由は、石油であったり、ガスのパイプラインを引くためであったり、ドルを世界通貨として維持するためでした。その根拠となる事実はここでは詳しく説明するゆとりがないので割愛させていただきますが、つまりアメリカが世界中に武器を売り、世界中から利益を搾取するためでした。
 (スメドレー・バトラーという、当時アメリカで最も尊敬されていた将軍が、退職後、『戦争はペテンだ』という本を著し、「俺はアメリカ大企業の用心棒にすぎなかった」と言ったことは、あまりに有名な話です。『肉声でつづる民衆のアメリカ史』明石書店、上巻442-448頁に、その詳細が転載されていますから、ぜひ読んでいただきたいと思います。)
 そして今また、シリアでISISが決定的に敗北したのを取り戻すため、アメリカは「イランは国民を弾圧している」という口実で、新たな戦争を計画しているように見えます。リビアやシリアで失敗した戦略を、壊れたレコードのように繰りかえすのを、いつまで世界は座視し続けるかと思うと、気が重くなります。
*流血の弾圧を演出、軍事介入へつなげようとするのは米国の常套手段だが、イランでも使われている
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201801050000/

 A氏が「アメリカは今だ経済も世界一であり、軍事でも世界一ですが、今のトランプ政権は、中国、世界から搾取された富を取り返すと言っているだけです」と言っていることの検証を、これで終わりにしたいと思います。
 まだまだ述べたりないことは多いのですが、それを全て述べていると1冊の本になってしまいますから、やむなく断念せざるを得ません。
 それでもこれだけの時間と分量をかけてA氏の主張を検証したのは、このような意見がA氏個人のものではなく、リベラルを自称する知識人も含めて、かなり多くの日本人が共有している感情ではないかと思うからです。
 そのような感情がA氏の書評タイトル「偏向している感が否めません」に見事に表現されているように思いました。この表題を文字通り読むと、「チョムスキーは偏向している」、つまり「チョムスキーは反米的・反アメリカ的だ」とA氏が主張していることなりそうです。
 この「反米的」「反アメリカ的」という用語について、チョムスキー自身が本書で興味深い意見を展開していますので、それを以下に紹介して、やや長くなりすぎた今回のブログを閉じたいと思います。

 このアメリカ社会で使われている「反アメリカ的」という考え方は、きわめて興味あるものです。それはじっさい、全体主義的な考え方で、自由主義社会ではふつうは用いられないものです。というのは、イタリアで誰かがベルルスコーニ大統領やイタリアの政治家の批判をしても、かれらは決して「反イタリア的」とは呼ばれないでしょう。反イタリア的などと言おうものなら、ローマやミラノの路上でそれを聞いた人たちは、腹を抱えて笑いだし卒倒するでしょう。全体主義国家ではそのような言い方が使われてきました。
 たとえば旧ソ連では、反体制的な人びとや政権を批判する人たちは、しばしば「反ソビエト的」と言われてきました。かれらを糾弾することばとしては、それはもっとも厳しいものでした。かつてのブラジルの軍事独裁政権下でも、同じような人たちが「反ブラジル的」と名指しされました。
 つまり、このような考え方は、国家と社会、国家と文化、国家と個人などを、同一視する文化のなかでしか生まれてこないものです。だから、そのような文化では、あなたが国家権力を批判したり、国家権力の集中を批判すると、社会や民衆を批判していることになるわけです。ただしここでわたしの言う国家とは、たんに政府のことだけではなく、企業による国家権力をも意味します。
 このような「反アメリカ的」という用語が、このアメリカで使われていることはきわめて衝撃的な事実です。わたしの知る限り、民主主義国家において、そんな言い方が嘲(あざけ)りの対象になるのは、おそらくアメリカだけでしょう。それは、アメリカのエリート文化のひとつの象徴であり、きわめて醜悪なものです。
 どの社会でも、権力を批判する人たちは中傷されたり虐待されたりすることは事実ですが、さまざまな社会のあり方に応じて、そのあり方はさまざまです。たとえば、一九八〇年代の旧ソ連では、かれらはおそらく投獄されたことでしょう。エルサルバドルでは、それだけではなくて、アメリカが裏で操るテロリスト特殊部隊によって頭が吹き飛ばされたものでした。他の社会では、たんに批判されたり中傷されたりするだけで終わるかもしれませんが。(57-59頁)


 これを読んでいただければ、A氏が本書をほとんど読まないで論評していることが、改めて明らかになるはずです。
 とはいえ、前述したように、私はこのブログをA氏個人を貶(おとし)めるために書いたのではありません。繰り返しになりますが、A氏のような感情・意見は、少なからぬ知識人までもが共有しているものだからです。
 ですから安倍政権のみならず、NHKや大手マスコミは、トランプ大統領が誕生した当時、「株が大暴落する」「TPPが廃止になると日本経済は大変なことになる」と大騒ぎしたのでした。ところが一旦トランプ政権が誕生してしまうと、安倍政権は今までのヒラリー支持の姿勢をかなぐり捨てて、トランプ氏に迎合するようになりました。
 A氏は上記書評で「確かにアメリカ第一主義ですが、でも今の世界どこも自国第一主義になっています」と書いています。しかし今の安倍政権は、とても「自国第一主義」とは思えません。日本の利益をアメリカのために差し出しているのが今の安倍政権であり歴代の政権ではなかったでしょうか。
(唯一の例外は鳩山・小沢政権でしたが、おそらく裏でアメリカの手が伸びていたのでしょう、見事に政権転覆させられて退陣することになってしまいました。)
 これは、米軍が沖縄でどれだけ事故を起こそうが、どれだけ女性をレイプしたり人を殺そうが、事態に改善の兆しが一向に見られないことに、典型的に表れています。それどころか何億円何兆円もする巨額な兵器を買わされているのが実態です。米軍の施設・滞在費を負担しているというのも、世界中にでは日本だけです。
 イラク戦争が終わった後、米軍は日本と同じように半永久的にイラクに駐留したかったのですが、それがかなわなかったのは、アメリカの傀儡政権・あやつり人形だと思われていたイラク政府が、「米軍がイラクの地で犯した犯罪は、イラク政府が犯人を逮捕し、イラク政権が裁判にかける」と主張して譲らなかったからでした。
 ところがなかば占領下にあったイラク政府が主張したことすら、日本政府は主張してこなかったのです。このような姿勢のどこに「自国第一主義」があるのでしょうか。アメリカの指示による郵政民営化も、過疎に喘ぐ農民・住民の唯一の頼りであった郵便局や郵貯を奪い、一層の過疎化を促進することになっています。
 農村を荒廃するに任せ、「種子法」を廃止することは、「食料の自給率」を低め、国家の安全保障という観点からも由々しき事態ですが、安倍政権はアメリカ企業が日本農業に参入する条件づくりをすることに余念がありませんから、ここにも「自国第一主義」を見ることはできません。
 ですから、A氏は「アメリカに限定しないでこの本を読めば世界がどういう方向に向かっているかわかると思えます」と述べ、書評の末尾を次のように結んでいるのですが、だとすれば、なおさら日本の現実をもっと直視してほしいというのが私の切なる願いです。

 チョムスキー氏のような世界に影響力を与える素晴らしい学者の意見ですが、おこがましいのですが、この種の問題はアメリカだけでなく世界中でおきていると思えます。
 アメリカに限定しないでこの本を読めば世界がどういう方向に向かっているかわかると思えます。確かにアメリカの状況は危機的なのかもしれませんが、アメリカが駄目なら、他の国々はもっと悲惨だと思います。



 もうひとつだけ蛇足として付け加えさせていただくならば、A氏は上記末尾を「確かにアメリカの状況は危機的なのかもしれませんが、アメリカが駄目なら、他の国々はもっと悲惨だと思います」と結んでいます。
 これも日本の知識人の一般的思考パターンをよく示しています。日本の裁判制度を批判して有名になった『絶望の裁判所』をあらわした瀬木比呂志氏も、東大法学部を卒業した元裁判官ですが、本書「あとがき」でもふれたように、やはり「日本の裁判所は駄目だがアメリカの司法は素晴らしい」と述べているのです。
 しかし『肉声でつづる民衆のアメリカ史』を読んでいただければ分かっていただけると思うのですが、アメリカの司法制度は特権階級を守るためにあり、民衆はむしろこの司法制度のために苦しめられ、牢獄はそのような人たちであふれていることがよく分かっていただけるはずです。
 「アメリカが駄目なら、他の国々はもっと悲惨だ」という認識は全く間違いです。アメリカの医療を告発した映画『シッコ』が明らかにしたように、ヨーロッパの医療はアメリカとは比べものにならないくらいに良いものでしたが、アメリカが引き起こした中東の紛争で、EU諸国に難民があふれ、このような医療制度も危機に瀕しています。
 日本の医療も教育も、世界中の心ある人が羨むほどの高水準にあります。拙著『英語で大学が亡びるとき』で詳述したように、OECDの成人力調査で日本はトップレベルでしたが、アメリカは最下位あるいは下から2番目です(同書261頁)。264頁にグラフを載せてありますから、ぜひ御覧ください。
 つまり「アメリカが駄目なら、他の国々はもっと悲惨だ」という認識自身が日本を間違った方向へと導いているのです。何度も言うように、このような思考は知識人すらも共有している考え方ですから、A氏が上記のような発想に立つのもやむを得ないのですが、このささやかな論考が、そのような認識を正すのに少しでもお役に立てば、こんなに嬉しいことはありません。

<註> トランプ氏の大統領就任演説は元財務次官だったPCR氏(ポール・グレイグ・ロバーツ)から激賞をうけたほどでした。
*Trump’s Declaration of War「トランプの宣戦布告」
https://www.paulcraigroberts.org/2017/01/20/trumps-declaration-war/(原文2017/01/20)
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/post-96d8.html(邦訳2017/01/23)
 この公約があっという間に大変身を遂げたことは本当に残念なことでした。しかし、今までのトランプ氏の言動を見ていると、そのようなことをトランプ氏に期待することが、そもそもの間違いだったのだかも知れません。

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