世界はいま「大転換」のとき、2 ― 「神によって選ばれた国」「神によって選ばれた民」
エルサレムにあるイスラム教最大の聖地、ムハンマドがこの「岩のドーム」の地から昇天したとされる
この「岩のドーム」を消した偽造写真を贈られて喜ぶ在イスラエルのアメリカ大使
https://on.rt.com/95ux
前回のブログでは、データ・マックス社の経済情報誌『IB: Information Bank』から再び取材依頼があったこと、しかも今度は九州本部の社長から直々のリクエストで、そのテーマが「大転換」だったことを紹介しました。
そこで早速その意向にしたがって「大転換」を考えてみたのですが、『I.B新春特別号』のインタビューで私は次のように結んでいます。
私のメッセージは3つあります。1つ目は「アメリカの現実を知ろう」、2つ目は「世界の流れを知ろう」、3つ目は「日本の良さを知ろう」です。
そいうわけで、前回のブログでは「大転換」の一つ目として、トランプ大統領が誕生したおかげでアメリカ国内におけるDeepState(裏国家、闇の政府)の存在が今や誰の眼にも明らかになったことを紹介しました。
アメリカの大統領選挙なるものは、「DeepStateの選んだ人物を国民に認知させる壮大なお祭り騒ぎにすぎなかったこと」を、トランプ大統領の誕生が世界に見せつけてくれたというわけです。
さて、そこで二つ目の「大転換」です。大国アメリカの「例外主義」とその孤立がこれほど明らかになったことはかつてなかったのではないか、これもトランプ氏の大きな「功績」ではないか――と私は思うようになりました。
アメリカが世界の超大国・覇権国家となったのは、第2次世界大戦が終わって、イギリスが大英帝国の地位から転落したときからでした。こうして大戦後、アメリカは経済的にも軍事的にも世界の帝国となりました。
しかしチョムスキー『アメリカンドリームの終わり』によれば、これは同時に、大戦直後に世界の頂点に立ったアメリカの衰退の始まりでもありました。
とりわけアメリカの経済的衰退ぶりが顕著になったのは、アメリカが金本位制を止めた1970年代からでした。これはアメリカの通貨である「ドルの弱体化」を示すものでもありました。
この「ドルの弱体化」は、アメリカが投資銀行と商業銀行の垣根を取り払い、国内産業の構造が製造業から金融業へと大きく変化していくのと同時進行でした。製造業の多くは安い労働力を求めて海外移転し、国内産業は大きく疲弊したからです。代わって登場したのが金融資本が乱舞する世界でした。
では衰退する経済力をくい止める手段としてアメリカが選んだのはどんな方法だったのでしょうか。それは産業の動力源である石油を支配することを通じて、世界を支配すること、アメリカの覇権を脅かす国が現れればそれを軍事力で叩き潰すことでした。
世界の産業は石油で動いているのですから、これをストップしさえすれば、刃向かう国を屈服させることができます。アメリカが、「民主主義の理念」に反して、イスラム王制独裁国家のサウジアラビを軍事力で支えているのも、OPECの盟主であるサウジを通じて世界の石油の流れをコントロールできるからです。
サウジ王室を軍事力で支えることは同時にアメリカ通貨のドルが弱体化するのを食い止める手段でもありました。というのは、サウジ王室を目下(めした)の家来として使い、石油貿易の決済をドルを使っておこなわせることにより、ドルの弱体化を防ぐことができるからです。
その代わりアメリカは、独裁王制の下で抑圧されているサウジ民衆が王室転覆に決起したとき、それを鎮圧する仕事を引きうけました。警察力・軍事力を強化する武器を王室に購入させ、王室が鎮圧に失敗したときアメリカ軍が出動して王室を支えるという約束をしたわけです。これは同時に高額の武器をサウジに輸出する絶好の口実ともなりました。
アメリカの覇権を脅かす国が現れればアメリカがそれを軍事力で叩き潰してきたことは歴史が数多くの事実を提供してくれます。
その実例として前回のブログではブルム『アメリカの国家犯罪全書』(作品社)を紹介しましたが、それを読めばアメリカが犯してきた戦争犯罪、「拉致」「テロ」「暗殺」「拷問」「毒ガス」「クーデター」などの数々を知ることができます。
もちろんアメリカの覇権を脅かす国が現れても、その為政者を賄賂・買収その他で籠絡できれば、わざわざ「拉致」「テロ」「暗殺」などの手段を使う必要はありませし、ましてや軍隊を派遣して侵略する必要などありません。
その具体的な手口は、ジョン・パーキンス『エコノミック・ヒットマン、途上国を食い物にするアメリカ』(東洋経済新報社 2007)に詳しく述べられています。
この著者パーキンスは、表の顔は一流コンサルティング会社のチーフエコノミストですが、裏の顔・本当の姿は対象国を経済的に収奪するアメリカの工作員でした。
この本は良心の痛みに耐えかねたエコノミック・ヒットマンの内部告発書です。彼は「買収工作が成功しないときは本当のヒットマン(暗殺者)の出番になる」と述べています。飛行機事故に見せかけて国家元首を殺すこともあったと言います、
この本を読むと、アメリカ政府が多国籍企業と一体になっおこなってきた「買収」→「恫喝」→「暗殺」→「戦争」という流れがよくわかります。常に脅しをかけて言うことを聞かせたり、莫大な利益を約束して懐柔したりします。そして言うことを聞けば国家元首としての地位を与えるというわけです。
第2次大戦後の日本政府の場合、戦犯で刑務所に入れられていた人物を為政者に仕立て上げ、国際法廷で戦犯として裁かれる人物を新たな「象徴」として全国巡幸させることによって、みごとな従属国をつくりあげました。
この日本をモデルにしてイラクに乗り込んでいったのがブッシュ氏でした。「大量破壊兵器」を口実に侵略し、「イラクを第2の日本にする」と豪語していました。
しかし、イラクには岸信介や昭和天皇に当たる人物を見つけることができず、この作戦は見事に失敗しました。残されたのは破壊された国土と大量の死者と難民でした。
中南米では、アメリカ軍が経営する軍事学校「School of the Americas」で訓練された軍人が準軍事組織をつくり、クーデターで政権を取った後、腐敗する為政者に抵抗する民衆や活動家を虐殺していきました(チョムスキー『アメリカが本当に望んでいること』現代企画室)。
しかし軍事独政権による民衆の抑圧ぶりがあまりにも残虐・凄惨で、評判が悪かったので、オバマ氏は、ウクライナでも、リビアでも、シリアでも、「民衆蜂起」というかたちで政権転覆をはかることにしました。
ウクライナの政権転覆(2014年2月)は、極右勢力や旧ナチスの残党勢力を傭兵として使ったクーデターであったことは、今となっては歴然としてきています。この間の裏事情を櫻井ジャーナル(2017.01.19 )は次のように述べています。
ソ連が崩壊しロシアを自分の属国だと認識していた時期にもアメリカの好戦派は支配システムを築く努力はしていた。ビクトリア・ヌランド国務次官補は、2013年12月に、米国ウクライナ基金の大会で、「ウクライナの政権転覆を支援するために1991年から50億ドルを投資した」と、発言している。システムの構築にはNGOを利用した。(http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201508110000/)
リビアの政権転覆(2011年10月)の場合も、アメリカは、カダフィ大佐が「民衆蜂起」を弾圧しているという口実で、フランスを初めとするNATO軍を使って国土を破壊しカダフィ大佐を惨殺しました。
このときはイスラム原理主義勢力を傭兵として使いましたが、その詳細は、物理化学者である藤永茂氏が下記のブログで生々しく描写しています。
*リビア挽歌(1)- 私の闇の奥(2011/08/24)
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/af790e16376731460b2a7f5f493b758c
リビア挽歌(2)- 私の闇の奥(2011/08/31)
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/9cd61d906c0c02b82a34d5b70da709f5
シリアの場合も基本的には同じでした。「民衆蜂起」という体裁をとらせながら、サウジなどの王制独裁国家から送り込まれたイスラム原理主義勢力を傭兵として使いました。
アル・カイダ系武装集団やダーイッシュをアメリカやその同盟国が支援してきたことも、次々と明らかになっています。
例えば、2014年9月に米軍のトーマス・マッキナニー中将はアメリカがダーイッシュを作る手助けをしたとテレビで発言し、マーティン・デンプシー統合参謀本部議長(当時)もアラブの主要同盟国がダーイッシュに資金を提供していると議会で発言しています。
また同年10月にはジョー・バイデン米副大統領がハーバーバード大学で中東におけるアメリカの主要な同盟国がダーイッシュの背後にいると語り、2015年にはウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官もアメリカの友好国と同盟国がダーイッシュを作り上げたと述べています。(http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201701190000/ 櫻井ジャーナル2017.01.19 )
このようにアメリカがウクライナで政変を企て、リビアを破壊し、またもやシリアで政変転覆を企ててきたことは、今では世界中の心あるひとにとっては自明のことになっているのですが、大手メディアはそれを報道しませんから、アメリカ国民のほとんどは(そして日本国民も)このような事実を知りません。
それをよいことに「シリアのアサド政権は化学兵器を使って自国民を殺害している」という宣伝を、壊れたレコード盤のように繰りかえしてきたのがオバマ政権でした。
この「アサド政権の化学兵器」という嘘は、そのつどロシア政府や独立ジャーナリストなどによって、嘘であることが暴露されてきています。最近でも「ホワイトヘルメット」を使った同じたぐいの宣伝がなされ、すぐにその嘘がばれてしまいました。
*ピンクフロイドのメンバー、コンサートで「ホワイト・ヘルメット」を批判
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-41.html
有名なイソップ寓話に、「オオカミが来る」と何度も村人をだましてきた少年が、最後には村人から相手にされなくなるという話が出てきますが、この寓話は、そのままアメリカ政府に当てはまりそうです。
今では、アメリカの言動をまともに信じる国は、EU諸国を除けば、世界でも圧倒的少数になりつつあるからです。これは世界の流れを大きく変える「大転換」です。
ところがアメリカを支持するEU諸国でさえ、いまアメリから離れようとする動きをし始めています。というのは、イランとの間に交わした核兵器協定から一方的に離脱しイランと経済交流する国には経済制裁を課すとトランプ氏が宣言をしたからです。
この協定を10年近くもかけてまとめたドイツ、フランスからは強い抗議の声が起き、イギリスもこれに同調せざるを得なくなってきています。
こうして「化学兵器」「大量破壊兵器」などという口実で中東に内紛をつくりだし、「オオカミ少年」として世界から孤立しつつあったアメリカは、このイランをめぐる問題で、さらにEU諸国の信頼さえも失いかねない危機に立たされています。
このアメリカの孤立を、もう一歩さらに強めることになったのが、「エルサレムにアメリカ大使館を移す」というトランプ氏のもうひとつの宣言でした。
これにたいしてもEU諸国は強い抗議の声を上げました。というのは、「エルサレムは国際管理とする」というのが1980年の国連決議だったからです。アメリカの同盟国であるEU諸国でさえ、受け入れることができなかったわけです。
こうしてトランプ氏を大統領にいただくアメリカは、イスラエルと共にますます世界から孤立する道を選んでいるように見えます。
アメリカが大使館をテルアビブからエルサレムに移転させた2018年5月14日は、イスラエルの建国記念日だった一方、15日はパレスチナ人にとっての「ナクバ(大惨事)の日」でした。
「ナクバ」とはアラビア語で「大惨事」を意味することばです。ユダヤ人が1948年5月14日、パレスチナにイスラエルを建国した際、70万人ものパレスチナ人が故郷を追われ難民となりました。
トランプ大統領は、よりによって、このような日を大使館移転の日に選んだのですから、火に油を注ぐようなものです。
予想どおりパレスチナ人の怒りは頂点に達し、6週間に及ぶ抗議行動の間、イスラエルによる銃撃で100人以上の抗議参加者が死亡し、数千人の負傷者が出ています。14日と15日の二日間だけでも「衝突の死者は62人に達した。催涙ガスの吸引により死亡した生後8カ月の女児も含まれる」そうです(毎日新聞2018年5月15日)。
これでは、シリアのアサド政権を転覆することに協力していたサウジなどの王制独裁国家も、同じアラブ人イスラム教徒として、さすがに、このようなアメリカやイスラエルの蛮行に目をつむるわけにはいかないでしょうから、アメリカとイスラエル)の孤立ぶりは一層、際立つことになるでしょう。
考えてみれば、アメリカは「先住民を大虐殺し、その土地を奪いながら建国された国」ですから、パレスチナ人を追放・戮殺し、その土地を奪いながら建国されたイスラエルと波長が合うのも当然かも知れません。
もうひとつアメリカとイスラエルの波長が合う理由があります。
アメリカは先住民を虐殺しながら西海岸まで領土を拡大し、それを「明白なる運命」「神から与えられた明白な使命」と考えてきました(ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』256頁)。
これが、「アメリカは特別な国であり何をしてもかまわない。国際法を踏みにじろうが、それは神から許された行為だから」という、「アメリカ例外主義」の根底を流れる考え方です。
このような考えを土台にして、その後も太平洋を越えてハワイを併合しフィリピンまでも領有するようになりました。
他方、イスラエルも「ユダヤ人は神によって選ばれた民族であり、エルサレムどころか聖書に書かれているとおりの領土を所有する権利がある」と考えているのですから、アメリカと波長が合うのも当然だったわけです。
この間の事情をチョムスキーは次のように書いています。今後の資料としても重要だと思いますので、長くなりますが敢えて引用させていただきます。
英国や米国の「キリスト教シオニズム」は、「ユダヤ教シオニズム」よりも古い歴史を持つ。
ちなみに、「キリスト教シオニズム」は神がアブラハムと結んだ契約に基づき、エルサレムがアブラハムの子孫に永久に与えられたとする教理であり、「ユダヤ教シオニズム」はユダヤ人国家を建設しようとする一九世紀末以来の運動だ。
「キリスト教シオニズム」は英米のエリート層では重大な意義があり、明確な政策も持っていた。ユダヤ民族のパレスチナ帰還を支持するバルフォア宣言もその一つだ。
第一次世界大戦中に英国のエドモンド・アレンビー将軍がエルサレムを征服した。このとき、アレンビー将軍は米国の報道機関からリチャード獅子心王の再来だと大喝采を受けた。なぜなら、十字軍を率いて聖なる地から異教徒たちを追い出したのは、リチャード獅子心王だったからだ。
そこで次なるステップは、選ばれた民たちを、神によって約束された土地に返すことになる。
当時のエリートたちの典型的な見方は、フランクリン・ルーズベルト大統領の内務長官ハロルド・イッキーズの言葉によく示されている。彼はユダヤ人によるパレスチナ植民地化を讃え、「人類の歴史においてこれほどの業績はほかにない」と述べた。
このような態度は、神意主義者(プロヴィデンシャリスト)の教義を信じる人々の間では、ごく普通のことだ。
その教義は「神が世界に計画を持っており、神がすべてを計画済みである」とするもので、米国は聖なる指示に従って前進していると信じている。この教義は米国が建国されたときから大衆とエリートの文化の中で強い力を持っている。
(『誰が世界を支配しているのか』137-138頁、寺島が改訳)
チョムスキーは上記でアメリカにおける「キリスト教シオニズム」「ユダヤ教シオニズム」および「神意主義者(プロヴィデンシャリスト)」について説明しているのですが、アメリカとイスラエルの関係について、ここでもうひとつ重要な指摘をしています。それは「キリスト教福音派」および「終末キリスト教福音派」についてです。
「キリスト教福音派」は米国では主流派だ。さらに極端な教義を持つ「終末キリスト教福音派」も米国では大人気で国民に浸透している。
彼らは一九四八年のイスラエル建国で元気づけられ、一九六七年にパレスチナを征服すると、さらに活気づいた。これらすべては終末の時とキリストの再臨が近づいている予徴だと、彼らは見ているからだ。
これらの宗派の勢力はレーガン時代から強くなりはじめた。(中略)彼らは大きな恐れと憎しみを抱える外人嫌いの国粋主義者で、宗教面でも国際的な基準からみると過激だが、米国内では普通の範曙に入る。
その結果、アメリカで強くなったのは聖書の予言に対する敬意だ。この新しい政治勢力はイスラエルを支持するだけでなく、征服と拡大を喜び、情熱的にイスラエルを愛している。
(『誰が世界を支配しているのか』138頁、寺島が改訳)
この叙述を読むと、なぜ蛮行を重ねるイスラエルを共和党はもちろんのこと民主党すら、支持して止まないのかがよく分かります。これではイスラエルと共にアメリカも世界から孤立していくのは時間の問題とすら思えてきます。
今まで述べてきたように、アメリカの「孤立」「停滞」「凋落」を加速させているのがトランプ大統領の最近の言動でした。
チョムスキーは、冒頭でも紹介したように、『アメリカンドリームの終わり』で大略、次のように述べています。
「アメリカは第2次大戦で世界の頂点に立ったが、その衰退は終戦直後から始まっている。しかし急激な経済的停滞と凋落は1970年代から顕著となった。それでも軍事的優位は揺るがず、それが覇者としてのアメリカを支えてきたし世界的通貨としてのドルを支えてきた。」(下線は寺島)
アメリカのこのような「停滞と凋落」を回復すると称してトランプ氏は大統領選に立候補し、当選しました。しかし彼の主張する「アメリカ・ファースト」は、大統領に就任した早々から DeepState の巻き返しに会い、政策は180度、逆転することになってしまいました。
トランプ氏は選挙戦で、「国内の立て直しに専念する。そのため海外に手を出すことはやめ、ロシアと協力しながらイスラム原理主義勢力を一掃し、海外の米軍を撤退させ、軍事費を国家再建にまわす」ことを公約したのですが、今はオバマ前大統領も顔負けするほどの軍拡に走り出してしまいました。
その後の言動は先述のとおり、アメリカの威信を回復させるどころかますます世界から孤立させるものでした。
しかし考えようによっては、トランプ氏はいまアメリカ大統領として世界に巨大な貢献をなしつつあるとも言えます。
というのは、アメリカが振りかざしている「アメリカ例外主義」「神から与えられた明白な使命(マニフェスト・デスティニー)」が、このようにはっきりと目に見えるかたちで世界に提示されたことは、かつてなかったからです。
これはトランプ氏の登場なしにはあり得なかったでしょう。オバマ氏の偽善的な姿勢が、アメリカの真の姿を覆い隠してきたからです。
まだまだ核戦争の危機が完全に消えたとはとは言えませんが、絶対的帝国として世界に君臨していたアメリカが、これを機会に、その流れを多極主義へと転換することになるとすれば、世界の平和にとってこんなよいことはありません。
トランプ大統領が登場して、「マニフェスト・デスティニー」を露骨なかたちで世界に顕示し、自らを孤立化に追い込んだこと――これを第2の「大転換」として私があげるゆえんです。
<註1>
そもそも、1947年11月29日の国連総会で、エルサレムは国際管理地区ということになっていました。しかし1967年6月の第三次中東戦争でイスラエルがエルサレム全域を押さえた以降は、イスラエルが実効支配し、そのうえ1980年には、イスラエル議会がエルサレムはイスラエルの首都と決議しました。これにたいして、143対1でその決定の無効を決議したのが、1980年の国連総会でした。これをアメリカもイスラエルも踏みにじったのが、今回のアメリカ大使館エルサレム移転です。
<註2>
シリアを初めとする現在の中東問題が理解しにくい理由のひとつは、アメリカが裏でイスラム原理主義勢力を育てながら表向きはそれを叩き攻撃するという高等戦術をとっているからです。
ソ連軍がアフガニスタンに侵攻してきたときは、同じイスラム原理主義勢力を「自由の戦士」と称して裏で軍事訓練をし、武器を供給しながら彼らを支援しました。共産党・共産主義=悪という通年が、アメリカのみならず西側の世界では一般的でしたから、これは非常にわかりやすい構図でした。
ましてソ連軍がアフガニスタンに「侵略」したとなれば、それをたたく絶好の口実になります。しかし、この戦略を考案したブレジンスキーは、後に「実はイスラム勢力を使ってソ連軍をアフガニスタンにおびき出したのは私だ」とインタビューで自慢しているのです。ビンラディンも、このような中で育てられた人物でした。
*ジョン・ピルジャー「タリバンを育てたアメリカ」その1~3
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-271.html
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-272.html
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-273.html
しかしソ連が崩壊した現在、アメリカの軍産複合体を維持するためには新しい敵が必要になります。それで先ず標的なったのがイラクのサダム・フセインでありリビアのカダフィ大佐でした。いずれも「自国民を殺害する残虐な独裁者」というふれこみで、人道主義をふりかざしてイラクやリビアに乗りだし、独裁者を倒すという構図です。
ところが、これらは全て嘘だったことが後で明らかになってきました。イラクやリビアはサウジなどのイスラム原理主義の王制独裁国家と世俗主義の国家であり、選挙もありましたし女性でも大学に行けました。現在、攻撃されているシリアも同じです。シリアが化学兵器を使っているというのも、すぐ嘘だということが暴露されてしまいます。
だとするとシリアを攻撃する口実がなくなります。そこで考え出されたのが、シリアで残虐な行為を繰りかえしているイスラム原理主義勢力を「テロリスト」だとして、これを成敗するという口実でシリア侵略に乗りだすという方法です。昨日の「自由の戦士」が現在は「残虐なテロリスト」として宣伝され、そのためのビデオも施策されました。
このようにアメリカは、自分の侵略を正当化するために新しい高等戦術を次々と編み出してきますから、大手メディアだけを見ていると余りにも理解し難いことが多く、頭が混乱してきます。今では人権NGOという一見すると中立的な団体までつくって敵を悪魔化しますから、ますます混乱させられます。
いま私たちは容易ならざる時代に突入しているのだと言えるでしょう。よほど腹をすえてかからないかぎり真実は見えてこないからです。
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