電脳技術の天才 アーロン・スウォーツ Aaron Swartz の死を考える(1)――インターネット監視法案を廃案に追い込んだ男、クリエイティブ・コモンズCriative Comonnsがめざしたもの

アメリカ理解(2013/01/17)、アーロン・スウォーツ Aaron Swartz、クリエイティブ・コモンズCriative Comonns、インターネット検閲法案SOPA、PIPA、CISPA


Swartz at 2009 Boston Wikipedia Meetup

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前回のブログから既に10日以上がすぎていますが、書きたいことは山積しているのに、相変わらずからだが動きません。

昔は2~3日、徹夜で仕事をしても平気だったのに、今は全く機能不全状態です。まだ『肉声でつづる民衆のアメリカ史』翻訳の疲れが残っているのでしょうか。それとも70歳を目前にすると誰でもこんな状態になるのでしょうか。

しかし考えてみればチョムスキーは84歳です。なのに何という仕事ぶりでしょう!!

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ところでアメリカではオバマ氏が新しいCIA長官、国防長官、財務長官の候補者を発表しましたが、悪名高いブッシュ氏の政策をそのまま受けつぐ人物を任命するつもりのようですから、驚いてしまいます。

たとえば、無人機による爆撃・暗殺や外国への拷問下請けなどの政策を裏で強力に推進してきた人物John Brennanを、CIA長官に指名したことは、その典型例と言えます。

As Brennan Tapped for CIA, Case of Somali Detainees Highlights Obama’s Embrace of Secret Renditions
http://www.democracynow.org/2013/1/9/as_brennan_tapped_for_cia_case

大統領1期目の政策は、2期目の当選をめざすために共和党に妥協したけれども今度はあとがないのだから、もっと大胆に民衆寄りの人事をすすめるのかと思っていたのですが、それが全くの間違いであることが歴然としてきました。まさに「正体見たり!枯れオバマ」です。
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<註> 上記では「正体見たり枯れ尾花」という諺(ことわざ)をもじったつもりですが、この諺を知らなかったり意味が分からなくなっている若者も少なくないと思われます。そのようなひとは下記をごらんください。
http://www.kotowaza.avaloky.com/pv_oth12_02.html

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こんな調子で書いていると世界情勢だけで今回も終わってしまいそうなので、アメリカやシリアについては割愛することにして、英語教育に少しずつ焦点を移していきたいと思っていました。

というのは、「英語で授業」という新高等学校学習指導要領で現場の教師が日々つらい思いをしているのに、いつになったら教育問題、とりわけ英語教育について論じてくれるのかという声が聞こえてくるからです。

また拙著『英語教育が亡びるとき:「英語で授業」のイデオロギー』(明石書店、2009)が既に4刷りになっているということも、私の心を重くしています。

これは私にとっては嬉しいことですが、しかし、このような本が大手のメディアで宣伝もされず月刊『英語教育』などでもほとんど取りあげられていないにもかかわらず増刷を重ねているということは、それだけ現場が追い詰められているからではないかと思うからです。

そう思って原稿を書き終えた頃に突然パソコンに不具合が起こり、今まで書いたものが消えてしまいました。その日は悔しくて、ほとんど眠れませんでした。すべてを書き直す気力もなく、その翌日は漫然と1日を過ごしましたが、すると恐ろしいニュースが飛び込んできました。

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というのは、気を取り直してDemocracyNow!でも視聴しようかとインターネットを起ち上げたところ、著名なコンピューター・プログラマーであり同時にサイバー・アクティビストでもあるAaron Swartzが自殺したというニュースが飛び込んできたからです。

"An Incredible Soul": Larry Lessig Remembers Aaron Swartz After Cyberactivist’s Suicide Before Trial; Parents Blame Prosecutor
http://www.democracynow.org/2013/1/14/an_incredible_soul_lawrence_lessig_remembers

実を言うと私は、26歳で自殺をしたアーロン・スウォーツAaron Swartz という人物をよく知りませんでした。

しかし上記の記事を読み、慌てて他の情報も調べてみると、ウィキリークスで有名になったジュリアン・アサンジや、そのアサンジにイラク市民虐殺の映像を提供したとされる米軍情報分析官ブラッドリー・マニングに勝るとも劣らぬ[サイバーネット界の]重要人物だったことが分かってきました。

それほど重要な人物だったのに今まで私はなぜアーロン・スウォーツという人物を知らなかったのかと考えてみて気づいたことがひとつありました。それはDemocracyNow!が今まで一度もアーロンをゲストとして招いて紹介したことがなかったのではないか、ということです。

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Swartz in 2012 protesting against Stop Online Piracy Act (SOPA)


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彼が自殺したのは2013年1月11日でしたが、それ以前に、一度でも招いてインタビューしたことがあれば、私の記憶に残っていないはずがないと思ったからです。そこで念のために、DemocracyNow! のサイトでAaron Swartzを検索してみました。何と驚いたことに、検索で出てきたのは上記で紹介したものと下記の合計二つだけでした。

Freedom to Connect: Aaron Swartz (1986-2013) on Victory to Save Open Internet, Fight Online Censors
http://www.democracynow.org/2013/1/14/freedom_to_connect_aaron_swartz_1986

やはり私の記憶に間違いはなかったのです。これらの記事を読んだり他を調べて見て分かったことは、次のような事実でした。

 Aaron Swartz は、14歳でインターネットのあり方を劇的に変えた「RSS」フォーマットの開発に携わり、世界で最も人気のあるサイトの1つReddit(レディット)の共同所有者になった。

 また、彼はCreative Commons(クリエイティブ・コモンズ)の設計にも深く関わり、物議をかもした下院のインターネット検閲法案SOPA(オンライン海賊行為防止法案)」や上院のインターネット検閲法案PIPA(知的財産保護法案)に反対する草の根運動の中心役でもあった。

 彼は、SOPA反対運動を積極的に繰り広げた非営利団体Demand Progressの創設者だった。権力者にとって都合の悪いインターネット記事を検閲し削除しようとする悪法は、彼のおかげでついに廃案になった。


私のブログ「百々峰だより」の右枠にプロフィール欄があり、その欄をずっと下にたどっていくとRSS欄にたどりつきます。これを使うとブログの更新を簡単に自分のFacebookにも反映できるそうですが、私はFacebookなるものがどうしても好きになれず最近は覗いてもいません。

ですから、私はRSS(Really Simple Syndication)を生かして使っていませんが、それはともかくとして、この素晴らしいツールRSS1.0の開発にたずさわったのが何と14歳のアーロンだったのです!

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ところでDemocracyNow! のホームページの下枠に必ず下記のようなマークが付いていますが、これは「非営利」で利用するかぎり自由に使ってよいが、そのさい必ず「著作権が誰にあるかを「表示」しなければならない、また内容の「改変は禁止する」ということを意味しています。



このマークの最初にⓒではなく、丸の中にCCが書かれています。が、これがCreative Commons(クリエイティブ・コモンズ)を表す記号です。著作権者が著作物を公表するにあたって、他者がそれを条件付きで利用するのを許すという表示です。

要するに、著作権を金儲けの手段とするのではなく、なるべく皆で共有しながらもっと良い社会をつくっていこうとする国際的プロジェクト 及びその運営主体である国際的非営利団体の名称がCreative Commons(クリエイティブ・コモンズ、CC)なのです。

著作者が自分の著作物の再利用を許すといっても許可のレベル・種類は著作者が指定するわけですが、その色々なレベルを絵文字で示し、念のためにBY(著作権者)、NC(非営利)、ND(改変禁止)などという文字も添えたのが上記のマークです。

私は大学の授業でDemocracyNow!の映像を見せたり、その文字起こしをした英文を学生に配ったりしてきましたが、これは(CC)の表示があるからこそできることです。さもなければ授業で見せる場合にも毎回お金を払わなければならなくなります。

しかし恥ずかしいことに、Creative Commonsの発起人であるローレンス・レッシグ[現在はハーバード大学教授]に協力して、この(CC)の設計に深く関わったのがアーロンだったことを、この事件が起きるまで私は知りませんでした。

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Swartz in 2002 (age 15) with Lawrence Lessig at the launch party for Creative Commons


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それはともかくとして、私がここで言いたかったのは、DemocracyNow!がアーロンのことを自殺する前にもっと取りあげていれば、彼も自殺に追い込まれることはなかっただろうということです。

というのは、オバマ氏によってロンドンのエクアドル大使館へと亡命に追い込まれたジュリアン・アサンジや、狭い独房に拷問状態で閉じこめられてきたブラッドリー・マニングが希望を捨てずに闘い続けているのも、DemocracyNow!などの独立メディアが積極的に彼らを取りあげ、それが彼らにたいする世界的な支援運動へとつながっていったからだ、と私は思っているからです。

その証拠に、アーロンの自殺が報じられて数日もたたないうちに、連邦検察官Carmen Ortiz女史の解任を要求する抗議メールが2万900通もホワイトハウスへ殺到し、[2万5000を超えると何らかの意思表示をしなければいけないことになっているそうですが]、ついに政府は訴追を取り下げると発表せざるをえなくなりました。

Prosecutors Drop Charges Against Late Cyber Activist Aaron Swartz as Tributes Flood the Internet
http://www.democracynow.org/2013/1/15/headlines#11515

上記の記事では、アーロン・スウォーツの弁護士が、「今ごろ訴追を取り下げても何の価値もない。これが先週の今頃だったら歓迎されただろうが」と、ボストン・グローブ紙にメールで語ったとありましたが、DemocracyNow!のエミー・グッドマンにたいしても同じことが言えるかも知れません。

先にも述べたように、オバマ氏みずからが任命した連邦検察官Carmen Ortiz女史によってアーロン・スウォーツが不当で厳しい追及を受けていることを、エミー・グッドマンがもっと以前から報道していれば、DemocracyNow! の評判も今とは違ったものなっていただろうと思うからです。


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私は先週のブログで、最近のDemocracyNow!のリビア報道やシリア報道に疑問を持ち始め『アジア記者クラブ通信』などにも眼を通すようになったことを紹介し、次のように書きました。

・・・しかしアメリカの国内情勢の扱いはともかく、アメリカの国外事件については、DemocracyNow! の報道内容をそのまま鵜呑みにするわけにはいかないと、このときから思い始めたのです。
 それからは、DemocracyNow! だけに偏るのではなく、Russia Today(RT)などと比較してみたり、中東記者として高名なRobert Fiskの記事と読み比べるといった工夫もするようになりました。


しかし、このアーロン・スウォーツの自殺を知ってからは、「アメリカの国外事件」どころか、「アメリカの国内情勢」についても、DemocracyNow! の報道内容をそのまま鵜呑みにするわけにはいかない、とこのときから思い始めました。

「報道されたことの事実関係も大切だが、報道されない事実のほうがもっと重要だ」というチョムスキーがよく言っていたことばを思い出したからです。

そこで念のためにRussian Today(RT)で「アーロン・スウォーツAaron Swartz」を検索にかけてみました。すると驚いたことに、RTは自殺する前でも彼について何度も取りあげていたのです。それは下記のとおりです。

02 Jul 2012、'Black box' is watching you! UK 'Online spy bill' privacy threat
http://rt.com/news/uk-privacy-internet-freedom-186/
27 Apr 2012 [*]、CISPA: Patriot Act for the web’– Internet activist
http://rt.com/usa/news/cispa-patriot-web-swartz-081/
18 Jan 2012、Wikipedia blackout: 24-hour strike against SOPA, PIPA is on
http://rt.com/news/wikipedia-blackout-sopa-pipa-031/
17 Jan 2012 [*]、Not a PIPA from Wikipedia: 24-hour information blackout protests piracy bill
http://rt.com/news/sopa-pipa-protest-internet-029/
19 Dec 2011 [*]、Sense & censor ability: Congress defers SOPA vote
http://rt.com/news/sopa-congress-vote-postponed-113/
17 Dec 2011 [*]、‘SOPA tramples over the way Internet works’
http://rt.com/news/sopa-internet-freedom-speech-031/
12 May 2011 [*]、Privacy vs. security as Patriot Act renewal looms
http://rt.com/usa/news/privacy-patriot-act-renewal-looms/


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Aaron Swartz (Reuters / Noah Berger)

http://rt.com/usa/news/aaron-swartz-funeral-chicago-059/

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上記の報道で、インターネット検閲法案SOPA、PIPA、CISPAに関して彼に直接インタビューしたものを日付の隣りに [*]を付けて示しました。が、DemocracyNow!にはアーロンにたいするインタビューどころかAaron Swartzの名前すら出てこなかったのです。

しかも、このRTによるインタビューのなかで、アーロンは「オバマ大統領やクリントン国務長官は、インターネットを監視し政府に敵対するような言説や情報を阻止したり削除したりしているとして中国やイランを非難しているが、それは天に唾するものだ。恥知らずにも同じことをアメリカ政府もおこなおうとしている」と鋭く批判しています。

このような批判がオバマ氏には我慢がならなかったのでしょう。そこで他の理由を見つけてアーロンをネット界から放逐しようとしたのだと私は推測しています。それが「科学記事や学術論文を保管するJSTORとマサチューセッツ工科大学(MIT)から400万件の文書を盗んだ」としてアーロンを逮捕する事件だったのだと思うのです。

アーロンが逮捕されたのが2011年7月であり、インターネット監視法案にたいする反対運動がどんどん盛り上がりを見せているときだったことを、上記のRTニュースを時系列でたどっていけば、それがよく分かると思います(法案はSOPA、PIPA、CISPAなどと名前を変えて国民の目を誤魔化そうとしましたが、ついに廃案となりました)。

政府は逮捕後、アーロンに対する重罪の罪状数を4件から13件に増やし、有罪となった場合、最大400万ドルの罰金と35年もの禁固刑を科されることになっていました。これを苦にして彼は自殺したのだと一般紙では報じていますが、私は「抗議としての自殺」だったのではないかと疑っています。

いずれにしても、仏教徒の焼身自殺による抗議がベトナム戦争の終結を早め、チュニジアやエジプトでは若者の焼身自殺が「アラブの春」をもたらしたように、アーロンの自殺がアメリカに真の自由と民主主義をもたらすことに貢献するだろう、と私は信じています。

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しかし、このようなかたちで彼を死に追いやったのは [多くの識者が指摘しているように]アメリカ政府ですから、これもオバマ氏が得意とする「暗殺」の一種とも言えるでしょう。

では彼が逮捕された理由として挙げられている「MITやJSTORから文書を不当にダウンロードした」とする事件とは一体どんなものだったのでしょうか。彼は何を目的にダウンロードしたのでしょうか。それは本当に犯罪だったのでしょうか。

ここまで書いたら疲れてきて先に進めません。これについては次回のブログに回したいと思います。どうかお許しください。
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<註> Aaron Swartz という人名を、日本のメディアでは「アーロン・シュワルツ」(最近では「アーロン・スワーツ」)と表記しているものが多いようです。しかし私がDemocracyNow!で繰り返し視聴してみても、ネット上の英語発音辞典FORVOで聴いてみても、「スウォーツ」としか聞こえません。これはWikipedia Japanが「アーロン・シュワルツ」と誤記したのを、そのまま引き写しているのではないでしょうか。なおFORVOのサイトは下記のとおりです。便利ですから時間があったら使ってみてください。私は『肉声でつづる民衆のアメリカ史』を翻訳していて、おおいに助けられました。
http://ja.forvo.com/word/siegfried_sassoon/
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