ベネズエラ大統領チャベスの死を考える――民衆を貧困から救い医療と教育を与えた男が「独裁者?」、情報公開法にもとづいて、"暗殺計画の可能性" に関する文書の提出を請求

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────────────────────────────────────────「3月5日にベネズエラ大統領ウゴ・チャベス(Hugo Chávez)が亡くなった」というニュースが世界中を席巻しました。

というのは、ロシア革命を指導したレーニンや中国革命を指導した毛沢東、さらにキューバ革命を指導したカストロと並んで、「ボリーバル革命」と言われるベネズエラ革命を指導したチャベスは、世界史を変革した人物のひとりとみなされてきたからでしょう。

(「ボリーバル革命」というのは、、南米大陸のアンデス5ヵ国をスペインから独立に導き、統一したコロンビア共和国を打ちたてようとした革命家シモン・ボリーバルにちなんで名づけられた名称です。)

キューバの元首相カストロと同じように、チャベスを「独裁者」だとして攻撃してきたアメリカ政府や保守層は、チャベスの死で「南米に新しい章が始まる」と小躍りしましたが、チャベスのおかげで貧困から脱却しつつあったベネズエラ民衆にとっては、これほど悲しいニュースはなかったでしょう。

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またベネズエラだけでなく、エクアドル、ボリビア、アルゼンチン、ブラジルなどの民衆にとっても、チャベスを失ったことはどれほど大きな衝撃と悲しみであったかは、想像するに余りあります。

というのは、これらの国々は、アメリカに支援された独裁政権、民衆に残忍な拷問と弾圧を繰り広げてきた親米政権を倒して、「参加型民主主義」の新しい歴史を切り拓きつつあったからです。初の先住民大統領を産みだしたボリビア、ジュリアン・アサンジの亡命を認めたエクアドルは、その典型例でしょう。

他方、アメリカに支援されて中南米の民衆に残忍な拷問と弾圧を繰り広げてきた多くの中南米独裁政権のなかでも、、その際だった典型例が、1973年の9.11クーデタで独裁者の地位についたチリのピノチェト将軍でした。

ふつう「911事件」と言えば、2001年のアメリカを襲った911事件を思い浮かべますが、南米の人びとは、チリで民主的に選ばれたアジェンデ大統領を死に追い込んだ1973年のクーデタを、真っ先に思い浮かべます。

このクーデタがCIAとITT(国際電信電話会社)などアメリカ大企業によってどのように仕組まれたかは、アメリカ上院特別調査委員会(いわゆるチャーチ委員会)の下記報告書に、詳細に記されています。

「政府・CIAによるチリでの秘密工作―1963年から1973年」に関する特別委員会報告
(拙訳『肉声でつづる民衆のアメリカ史』下巻、第20章 第7節、315-319頁)

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<註> この20章第8節には、FBIによるスパイ撹乱工作を論じた非常に興味あるチョムスキーの論考「コ・インテル・プロ――大手メディアから『消されたもの』は何だったのか」も収録されていますので、参照していただければ幸いです。
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このように中南米は、アメリカによる暗殺・殺戮・クーデタで充ち満ちているのですが、それを詳細に記したものが『アメリカの国家犯罪全書』(ウィリアム・ブルム、作品社、2003)でした。

ですから、「チャベス死す!」という知らせが届いたとき、私の頭に真っ先に思い浮かんだのは、「ひょっとして毒殺ではなかったのか」「どこかで癌を引きおこす毒物を注入または食べさせられたのではないか」という疑いでした。

というのは、2002年4月11日に、CIAの支援を受けて軍部によるクーデターが発生し、チャベスは軍に監禁され、代わりに元ベネズエラ商工会議所連合会 (Fedecámaras) 議長のペドロ・カルモナが暫定大統領に就任するという事件が、既に起きていたからです。

このクーデターは成功したかに思われましたが、民衆による巨大な抗議運動に励まされて、チャベスを支持する軍の一部と国家警備隊がチャベスを奪還した結果、クーデターはわずか2日間で失敗に終わりました。

この事件の詳細は、偶然そのときにベネズエラを訪れていたカメラマンによって記録され、数々の栄誉あるドキュメンタリー賞を受け、NHKのBSプライムタイム「チャベス政権 クーデターの裏側」 でも紹介されました。

私は、このBSドキュメンタリーで初めてこの事件を知ったのでしたが、この映像を詳細に記録・紹介した木村菜保子氏は、その最後を次のように結んでいます。

 この映像を見終わって、もう一度考えてみる。チャベス政権は、はたして「独裁政権」なのだろうかと。

 憲法があり、大統領は選挙で選ばれ、議会や裁判所があり、オンブズマン制度があっても、そして、かつてなく多くのベネズエラ国民の政治的関心を目覚めさせたとしても、アメリカと特権層の利害に反する政策を採る限り、チャベス政権は「独裁政権」であるとして、その転覆が画策され続けるであろう。


http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:b6lllUYM_B8J:www.jca.apc.org/stopUSwar/Bushwar/venezuela_coup.htm+&cd=1&hl=ja&ct=clnk&gl=jp&client=firefox-a

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首都カラカスを埋め尽くした民衆の葬列


私がチャベスの訃報を聞いたとき、「暗殺ではなかったのか?」と思ったもう一つの理由は、次の二つの事実がすぐに頭に浮かんだからです。

1)アメリカ政府から「独裁者」として非難され続けてきたキューバのフィデル・カストロは、何百回もの暗殺計画を生き抜いてきた
2)パレスチナPLOの議長だったヤセル・アラファトは、不審な死を遂げたが、最近、氏の遺品から放射性ポロニウムが検出された

このような疑いをいだいたのは私だけかと思っていたら、公民権運動団体ANSWER(Act Now to Stop War and End Racism)などが中心になって、「CIAなどのアメリカ政府機関がチャベスの死に関与していないかを調べるための資料」を提出するよう、情報公開法にもとづいて正式に請求していることを知りました。

資料請求の根拠を同団体は次のように述べています。

この請求は、アメリカ政府が―直接または間接を問わず―これまでも外国指導者の暗殺を企てたという広く知られた歴史、したがってそれに関する知識や情報を所有しているという事実に鑑みてなされるものである。

そして「情報公開法に基づいて入手された、これらの広く知られた外国人指導者の暗殺計画には、たとえば次のようなものがある」として三つの具体例をあげています。

フィデル·カストロ(Fidel Castro、キューバ)
ラファエル·トルヒーヨ(Rafael Trujillo、ドミニカ共和国)
ルネ·シュナイダー・シェロー将軍(General René Schneider Chereau、チリ)

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上記であげられている「カストロ暗殺計画」については、Wikipedia.Japanには次のような記事が載せられていました。

2006年に閣僚評議会議長の権限を暫定的にラウルに移譲するまでに暗殺を638回計画されたといわれ、命を狙われた回数が最も多い人物としてギネスブックへの掲載が決まっている。そのうち大半はCIAなどによるフィデル暗殺計画で、147回計画されたといわれる。

革命後にアメリカのマフィアが経営していたカジノを追放したことにより、マイヤー・ランスキーなどのマフィアからも暗殺の標的となる。また1960年にCIAがマフィアに15万ドルでカストロの暗殺を依頼していたことが2007年の文書公開で判った。
http://www.afpbb.com/article/politics/2245367/1726074
http://www.gwu.edu/~nsarchiv/NSAEBB/NSAEBB222/family_jewels_full_ocr.pdf


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上で例としてあげられているドミニカ共和国大統領ラファエル·トルヒーヨは、アメリカが支援していた独裁者でしたが、あまりにも評判が悪いため、CIAによって支援された軍部によって暗殺されてしまいました。

キューバ革命が起きた原因が、当時の大統領フルヘンシオ・バティスタがあまりにも評判の悪い独裁者だったことによるとして、アメリカはドミニカが「第2のキューバ」になることを恐れたのでした。

また上で例としてあげられているルネ·シュナイダー・シェロー将軍は、先に紹介したチリのアジェンデが大統領に当選しそうだったとき、クーデタを起こしてアジェンデを追放するよう圧力がかけられたのですが、それを拒否したため、CIAによって支援された軍部によって暗殺されてしまいました(1970年10月26日)。

その3年後の1973年9月11日にピノチェト将軍による「911事件」が実行されたのです。

こんなふうに解説していると、どんどん長くなっていき、肝心の「情報公開法にもとづく請求書」そのものをいつまでたっても紹介できないことになりますので、ここでやめます。以下が、その文書(ただし、その冒頭部)です。

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ウゴ·チャベスの死を調査せよ

情報公開法(FOIA)にもとづいて「暗殺計画の可能性」に関する文書の提出を請求

Investigating Hugo Chávez's death
FOIA filed demanding information on possible assassination plans
http://www.answercoalition.org/national/index.html
2013年3月5日


ウゴ·チャベス大統領の死の発表から数時間もたたないうちに、アメリカの市民運動団体が、情報公開法(FOIA:Freedom of Information Act)にもとづいて、情報・文書の提出を連邦政府機関に請求した。

それは、ベネズエラ大統領ウゴ·チャベス(Hugo Chávez)の毒殺または他の手段による暗殺に関する情報や計画、それを議論したり言及したり示唆したりする全ての文書の提出を求めるものである。

文書請求の宛先は、次のとおりであり、
中央情報局(CIA: the Central Intelligence Agency)、
国務省(the Department of State)、
国防省情報局(the Defense Intelligence Agency)、

また、この法的請求を提出した市民運動団体は次のとおりである。
the Partnership for Civil Justice Fund
ANSWER(Act Now to Stop War and End Racism)Coalition
Liberation Newspaper

ベネズエラ政府も、NBCニュースと他のメディアの報道に基づいて、チャベス大統領の病気にかかわる状況・疑惑の調査を呼びかけている。とりわけ彼が毒殺または故意に癌を引きおこす要因にさらされた可能性についての調査である。

情報公開法にもとづく請求文書は次のとおりである。

我々は、情報公開法(5 USC§552)に基づき、the Partnership for Civil Justice Fund, ANSWER Coalition (Act Now to Stop War and End Racism), Liberation Newspaper を代表して、次の情報を要求する。

亡くなったばかりのベネズエラ大統領の毒殺または他の手段による暗殺に関する情報や計画、それを議論したり言及したり示唆したりする全ての文書。

それには電子メール、手紙、電信またはその他の通信、メモ、ノート、下書き、写真、オーディオ録音、ビデオ録画、デジタル録音、情報評価、情報交換、議事録またはコレラに関するその他のデータを含む。

この請求は、アメリカ政府が―直接または間接を問わず―これまでも外国指導者の暗殺を企てたという広く知られた歴史、したがってそれに関する知識や情報を所有しているという事実に鑑みてなされるものである。

情報公開法(FOIA))にもとづいて入手された、これらの広く知られた外国人指導者の暗殺対象者には、たとえば次のような人物がいる。

フィデル·カストロ(Fidel Castro、キューバ)
ラファエル·トルヒーヨ(Rafael Trujillo、ドミニカ共和国)
ルネ·シュナイダー・シェロー将軍(General René Schneider Chereau、チリ)

(例えば、1975年1月3日、大統領ジェラルド·フォードとCIA長官ウィリアム・E・コルビーの間の会話の覚書を見よ)。

また、この請求は、パレスチナのリーダーだったヤセル・アラファト(Yassar Arafat)の死が毒殺だったのかどうかを検証するため死体が埋葬地から発掘され、「フランスの核物理学研究所が調べた結果、アラファト氏が身につけていたものから異常なレベルのポロニウム210が発見された」というマスコミ報道なども考慮に入れたうえでなされたものである。

たとえば次の報道を参照されたい。
Yasser Arafat Exhumed and Reburied in Six-Hour Night Mission: Samples Taken From Corpse of Late PLO Leader Will Be Used to Investigate Claims He Was Poisoned With a Radioactive Substance
[Chris McFreal, The Guardian, November 27, 2012]
(ヤセル・アラファト氏の死体が夜中に発掘され、6時間後に埋め戻された。PLO指導者の死体から取り出された検体は、氏が放射性物質で毒殺されたという主張を調査するために用いられる予定),

Arafat's Body is Exhumed for Poison Tests
[New York Times, November 28, 2012.]
(アラファト氏の死体が毒物テストのため発掘された)

さらに、後述するように、ベネズエラの大統領を暗殺するためにおこなわれたすべての活動に関する全情報を、国民は一刻も早く入手したいと切望している。その情報には、アメリカ政府が持つ暗殺計画の全知識、とりわけアメリカ政府が果たした役割に関する全情報が緊急に求められている。

複数のメディアの報道によれば、ベネズエラ政府もチャベス大統領の病気をとりまく状況・疑惑についての調査を呼びかけている。大統領が毒殺またはに癌の原因となる要因に故意にさらされた可能性についての調査である。

上記で述べた「複数のメディアの報道」については、例えば以下の報道を参照されたい。

Venezuela VP: Chávez's cancer was an“attack”by his enemies
[NBC News, March 5, 2013]
(ベネズエラ副大統領:チャベスの癌が彼の敵によって"攻撃"だった)


以下、省略。政府に提出された請求文書の全文は下記を参照。
http://www.justiceonline.org/docs/foia-request-hugo-chavez.pdf

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アメリカによる選挙介入を覚悟しつつ開かれた、巨大な民衆集会

http://www.npr.org/2013/03/12/174057927/in-upcoming-venezuelan-vote-hugo-chavez-looms-large

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チャベス死去にともなっておこなわれるベネズエラの大統領選挙は、4月14日に決まったようですが、今のところ暫定大統領のニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)が優勢だとみられています。

しかし、貧困を激減させ医療と教育にも素晴らしい成果をあげつつあるベネズエラを押しとどめるための、CIAによる内部撹乱工作は必ずや深刻化し、将来いつベネズエラが「第2のリビア」や「第2のシリア」になるか、予断を許さない情勢が続くでしょう。

チョムスキーは「南米だけが世界を覆う暗雲を吹き払ってくれる希望の地だ」と言っていたのですが、その「希望の地」にどんな未来が待っているのか、心配でたまりません。

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<註1> 上記の「合衆国法典(USC: United States Code)タイトル5,セクション552」については、コーネル大学ロースクールの下記サイトを参照
5 USC § 552 --Public information; agency rules, opinions, orders, records, and proceedings
http://www.law.cornell.edu/uscode/text/5/552

<註2>.またGlobal Research というサイトには下記のような記事が載っていました。近いうちに訳出して紹介するつもりです。
CIA and FBI Had Planned to Assassinate Hugo Chávez
http://www.globalresearch.ca/cia-and-fbi-plan-to-assassinate-hugo-ch-vez/1296

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