「英語で授業」を考える(その4)――英語力 は 「貧困力」 その2、緊縮政策は殺人行為だ、医療・福祉への1ドルは 3ドルの経済成長をもたらす

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ギリシア国営放送局の閉鎖に抗議すると同時に、職員のストを支援するために集まったアテネ市民
http://rt.com/news/greece-strike-media-austerity-615/

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私は前回のブログ「 "英語で授業" を考える(その3)」を次のように結びました。

英語を国民の共通語としているアメリカがこの状態なのですから、英語力=経済力でないことは誰の目にも明らかだと思うのですが、ではEUの場合はどうでしょうか。
 EUの統合が広がって行くにつれて、「自分の母語以外に最低二つの外国語を身につけよう」というのが新しいEUの言語政策になりました。
 「すべての言語は対等平等である。少数者の言語も守られねばならない」とするのがEU言語政策の根本理念なのですが、新しい言語政策の「自分の母語以外に最低二つの外国語を身につけよう」の結果、広まったのは英語でした。
 では、その結果、EUは豊かになったのでしょうか。ギリシア、イタリア、スペイン、ポルトガルなどを見れば、結果は明らかでしょう。
 アメリカに端を発した金融危機が欧州全体を揺り動かしただけでなく、アメリカ流の経済運営が各国を貧困の極致に追い込みました。この南欧の各国を席巻した「緊縮財政」の大波は、庶民の医療や社会保障を根こそぎ壊滅させています。
 もともとアメリカには充実した医療政策(国民皆保険)や社会保障政策がなかったことは、マイケル・ムーアの映画『SICKO』で誰の目にも明らかになっていましたが、今やヨーロッパもアメリカ化し始めているのです。
 つまり英語の拡大は貧困の拡大でもあったのです。英語力=経済力どころか、英語力=貧困力だったのです。


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いま安倍政権は「国家成長戦略」と称して、「英語の授業は英語で!」「大学入試にTOEFLを!」などと、狂ったように英語熱をかきたてています。「日本の停滞は私たちが英語を話せないからだ」というわけです。

しかし「国民の英語力」と「国家の停滞」は基本的には何の関係もありません。

いまヨーロッパがこのような状態に追い込まれているのは言語政策の結果ではなく、間違った金融政策で国家財政を破綻させ、そのつけを「緊縮政策」というかたちで国民に尻ぬぐいさせた結果でした。

そのことを、チョムスキーは(前回のブログで紹介したように)インタビュー「ヨーロッパ福祉国家の解体」で明確に述べていました
http://www.zcommunications.org/unraveling-the-welfare-state-by-noam-chomsky

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世界の株式市場指数 MSCI によって「発展途上国」に格下げされたギリシア


Greece ousted from index of 'developed' countries
http://rt.com/business/greece-developed-downgrade-msci-578/


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ところで、経済学者デイビッド・スタックラーと医師・疫学研究者サンジェイ・バスは、同じことを、もっと生々しい具体例を示しながら説明しています。

彼らの膨大な調査・研究(共著『The Body Economic: Why Austerity Kills』)によれば、アメリカ流の経済運営でもたらされた経済危機のあと、各国政府が緊縮政策を導入し始めて以来、多くの悲劇・惨状が現出しました。

たとえば、欧州と米国で自殺者が1万人以上、うつ病患者は最大で100万人増加しました。公衆衛生費が40%削減されたギリシアでは、HIVの感染率が200%上昇し、1970年代以来初めてマラリアが発生しています。

調査・研究の結果、彼らが達した結論は次のとおりです。

「歴史上の経験といまの景気後退を通じて、別の選択肢があることが分かっています。人間とその健康を景気回復の中心に置くことは、経済をより早く回復させ、社会に持続的な利益をもたらすのに役立ちます。」

「公衆衛生プログラムに1ドルを投資することは、経済成長に3ドルを与えるのと同じであるということだ。公衆衛生への投資は景気後退のときに命を救うだけではなく、景気回復に拍車をかけることになる。」

詳しくは、ニューヨークタイムズ(2013/05/13)に掲載された[拙訳による]次の小論を読んでください。

そうすれば、「日本が停滞しているのは国民が英語を話せないからだ」「国家の成長戦略は国民を英語漬けにすることにある」という政策がいかにバカげたものか、いかに税金の無駄づかいかが、よく分かっていただけるのではないかと思います。

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緊縮政策は殺人行為だ
How Austerity Kills
By DAVID STUCKLER and SANJAY BASU
http://www.nytimes.com/2013/05/13/opinion/how-austerity-kills.html?_r=0


今月はじめ、イタリアのチビタノーバ・マルケ(Civitanova Marche)という海辺の町で3人の自殺が報じられた。アンナ・マリア・ソプランジ(Anna Maria Sopranzi、68歳)とロメオ・ディオニシ(Romeo Dionisi、62歳)という夫婦は、妻の年金、月額約500ユーロ(約650ドル)で生きのびようと奮闘しており、家賃の支払いが滞(とどこお)っていた。

イタリヤ政府の緊縮予算で退職年齢が引き上げられたため、ディオニシ氏(元建設作業員)はイタリアで言うesodatiとなった。セイフティネット(社会的安全網)のない貧困者に陥ってしまった老齢労働者のことだ。4月5日、彼と妻は隣人の車に許してくれと置き手紙を残し、家の物置で首つり自殺をした。ソプランジ夫人の兄、ギウセッペ・ソプランジ(Giuseppe Sopranzi、73歳)はこの知らせを聞いて、アドリア海で入水自殺した。

失業と自殺の相関関係は19世紀以来ずっと見られたことだった。職を探している人は職に就いている人の倍も自殺する傾向にある。

アメリカでは、自殺率は2000年以降、徐々に上昇してきていたが、2007~9年の景気後退の期間およびその後、飛躍的に上昇した。新著『いのちの経済学――緊縮政策はなぜ殺人行為なのか』“The Body Economic: Why Austerity Kills”の中で私たちが述べているように、2007年から2010年に4750人の「過剰」自殺が発生した。これまでの傾向から予測できないほどの、大量の自殺者だ。空前の失業を経験した州で、自殺率が著しく増大したのである。自殺による死は2009年には自動車事故による死を超してしまった。

もし自殺が経済的不況の避けられない結果だとすれば、これはまさに世界大不況(the Great Recession)による別の側面と言えるだろう。しかし実際はそうではない。健康保険と社会保険の予算を削減したギリシア、イタリヤ、スペインのような国は、ドイツ、アイスランド、スウェーデンのような国よりも、健康面ではるかに惨状を呈しているからだ。後者の国々は社会の安全網(セイフティネット)を維持し、緊縮政策よりも景気刺激策を選択した国だ。(ただしドイツは緊縮政策の利点を説いて回っている――他国にたいしては。)

国民医療と政治経済学の研究者として、私たちが愕然としているのは、政治家たちが負債と赤字について果てしなく議論し、自分たちの決定がどのような犠牲を生み出すかにほとんど関心が無いということだ。私たちが過去10年間、世界中から膨大な資料を収集して発見したことは、世界大恐慌からソビエト連邦終焉へ、さらにアジア金融危機へ、そして現在の世界不況へ――という経済的打撃が、私たちの健康にいかに影響をおよぼすのか、ということだった。私たちが発見したのは、経済が揺らいだからといって、人々が必ず病気になったり死んだりするわけではないということだ。分かったのは、財政政策が生死に関わっているということだ。

最悪の事例がギリシアだ。ギリシアでは国民医療が破滅の危機に瀕している。国民の健康予算が2008年以来40%も削減されたからだ。これは、いわゆるトロイカ――国際通貨基金IMF、欧州委員会EC、欧州中央銀行ECB――が設定した赤字削減目標を達成しようとした結果であり、2010年の包括的緊縮政策として実行されたものである。こうして約3万5000人の医師、看護師、その他の医療従事者は職を失った。それは病院の待ち時間を長くし医薬品の高騰をもたらし、その結果、ギリシア人は日常的に病院へ行き予防医療を受けることを避けるようになった。こうして重病になってから病院へ行くから、逆に入院費が急増した。幼児死亡率は40%上昇した。また新たにHIV感染したものは2倍以上となった。[失業者が麻薬に手を出し] 静脈注射による麻薬の使用が増えた結果であるが、それは注射針交換プログラムの予算が削減されたこととも大きく関わっていた。そのうえ、防蚊噴霧プログラムが南部ギリシアで削減されてからは、マラリアの症例が1970年代以来はじめて深刻な数が報告された。

他方、2008年に国家経済の規模と比べると空前の金融危機を経験したが、アイスランドは国民の健康危機を回避した。3大商業銀行が破綻したあと、負債総額は急上昇し、失業は9倍に増大し、通貨クローネの価値は暴落した。アイスランドは1976年以来、ヨーロッパのなかでIMFによる救済措置(ベイルアウト)を求めた最初の国となった。しかしIMFが要求するとおりに銀行をベイルアウトしたり予算削減をする代わりに、アイスランドの政治家たちは急進的な措置を講じた。すなわち、緊縮政策の諾否を国民投票にかけたのだ。2010年と2011年の2度の国民投票で、アイスランド人は、一気に完全な緊縮政策を実施するというよりは、外国の債権者に少しずつお金を返していくという方向を、圧倒的多数で選択した。ギリシアが崩壊に向かって揺れ動いている一方で、アイスランドの経済は大いに回復した。誰も医療保険を失わず、輸入医薬品の価格が上がっているときでさえ医療への道を絶たれなかった。自殺の深刻な増加もなかった。昨年、最初の国連「世界幸福度」報告はアイスランドを世界で最も幸福な国のひとつに評価した。

ギリシアとアイスランドの構造的差異を指摘して私たちの意見に疑義を唱えるひともいるだろう。ユーロ圏の一員であるというギリシアの地位が、通貨切り下げを不可能にし、IMFの緊縮政策要求を拒絶する政治的余地をほとんどもたなかったのだと。しかし、その対照的な違いこそ、経済危機は必ずしも国民の医療危機を伴うわけではない、という私たちの主張を立証するものだ。

この両極端の中間にあるのがアメリカである。当初は、2009年の包括的経済刺激策がセイフティネット(社会的安全網)を支えた。しかし、かなり高い自殺率だけでなく、国民の健康状態が悪化していることなど、危険な徴候がいくつかある。抗抑鬱剤の処方が急上昇したし、75万人(とくに失業中の若者)が大酒を飲むように変化していた。500万人のアメリカ人は景気後退の中で健康保険への道を失った。失業か、あるいはコブラ法(the Cobra law)の下で保険に手を伸ばす余裕がなくなったか、あるいはその資格を失ったためだ。こうして人々は重病になる前に医者を訪ねることが減った。その結果、救急治療室に駆け込まざるを得なくなるまで医療にかかるのを遅らせることになったのだ。(オバマ大統領の医療保険法は、補償を拡大しているが、それすら遅々としたものにすぎない。)

<訳註> コブラ法 (COBRA:The Consolidated Omnibus Budget Reconciliation Act of 1985)

2013年3月1日に始まった850億ドルの「歳出削減」 “sequester” は、年末までに概略60万人におよぶ妊婦、新生児、幼児のための栄養摂取用補助金を削減することになっている。公営住宅予算は今年20億ドル近く削減される予定だ。一方で1400件の家が差し押さえを食らってさえいる。疾病(しっぺい)管理予防センターは、昨年の真菌性髄膜炎の勃発といったような伝染病にたいする国の主要防衛機関なのだが、その予算でさえ少なくとも180億ドル削減されつつある。

緊縮政策が致命的であるという私たちの仮説を検証するために、私たちは他の地域と他の時代の資料を分析した。ソビエト連邦が1991年に解体した後、ロシア経済は崩壊した。貧困は急上昇し、生活は予想どおり落下し、とくに若年労働者ではひどかった。しかし、このことは元のソビエト領のすべてで起きたわけではなかった。ロシア、カザフスタン、バルト諸国(エストニア、ラトビア、リトアニア)――ジェフリー・D・サックス(Jeffrey D. Sachs)とローレンス・H・サマーズ(Lawrence H. Summers)のような経済学者たちに唱導された経済的「ショック療法」“shock therapy”を採用した国々――は自殺、心臓発作、飲酒に関わる死において最悪の増加を経験した。

ベラルーシ、ポーランド、スロベニアのような国々は、もっと違った、漸進主義的アプローチをとった。ジョセフ・E・スティグリッツ(Joseph E. Stiglitz)のような経済学者たちや元ソ連の指導者ミハイル・S・ゴルバチョフ(Mikhail S. Gorbachev)に唱導されたやり方だ。これらの国々は統制経済を段階的にゆるやかに民営化して、大規模な民営化と解雇を選択したような近隣諸国よりも健全な結果を見たのだ。大規模民営化と解雇は、深刻な経済的・社会的混乱をひきおこしただけだった。

ソビエト連邦の崩壊と同じく、1997年のアジア金融危機は、格好の研究事例だ。それは実質的に自然の実験室となったからだ。タイとインドネシアは、IMFに強要された厳しい緊縮計画に屈服し、大規模な飢餓と伝染病による大量の死者を生み出した。その一方、マレーシアは、IMFの忠告に抵抗し、国民の健康を維持した。2012年、IMFはアジア金融危機の取り扱いについて正式に謝罪した。IMF勧告で生じた損害は、彼らの見積もりでも、かつて推測したものの3倍だった可能性があるという。

アメリカが世界大恐慌(the Depression)を経験していることも教訓的である。というのは大恐慌のあいだも、[ニューディール政策のおかげで] アメリカの死亡率は約10%下がったからだ。自殺率が急上昇したのは、株式市場が崩壊した1929年から、フランクリン・D・ルーズベルトが大統領に選ばれた1932年までの期間だけだった。しかし、その自殺の増加すら、「疫学的前進」“epidemiological transition” (結核、肺炎、インフルエンザのような伝染病による死亡を減少させた衛生状態の改善)や、致命的交通事故の急激な減少によって相殺され、おつりが来るほどだった(ただし交通事故の減少は、アメリカ人が車を買えなくなったからだ)。アメリカの歴史的なデータを比較検証してみると、ニューディール政策で一人あたり100ドルを支出すると、肺炎で死ぬのが10万人あたり18人減少し、乳児死亡率は正常出産児1000人にあたり18人減少し、自殺率は10万人あたり4人減少する。

私たちの研究が示唆しているのは、公衆衛生プログラムに1ドルを投資することは、経済成長に3ドルを与えるのと同じであるということだ。公衆衛生への投資は景気後退のときに命を救うだけではなく、景気回復に拍車をかけることになる。この発見が示唆していることは、以下の三つの原則が経済危機にたいする対応策として有効だということである。

第1に、国民に被害を与えるな。もし緊縮政策が臨床実験における薬物治療のようにテストされていたならば、もうとっくの昔に中止されていただろうということだ。致命的な副作用があるからだ。どの国も、疫学者と経済学者を擁した無党派の独立した健康責任庁(Office of Health Responsibility)を確立すべきだ。財政金融政策の健康への効果を評価するためだ。

第2に、失業を伝染病のごとく扱え。失業は、鬱病、不安、アル中、自殺志向の主要原因である。フィンランドとスウェーデンの政治家は、「活気ある労働市場の育成事業」に投資することによって、鬱病と自殺を防止するのを助けた。この事業は、最近失業した人々に的を絞り、彼らに素早く職を見つける手助けをするというものだ。それは経済純益をもたらすことにもなった。

最後に、景気の悪いときほど、公衆衛生に投資を拡充せよ。「1オンスの予防は1ポンドの治療に匹敵する」という決まり文句は図らずも真実だ。伝染病を制圧するのは予防する以上に莫大な費用がかかる。ニューヨーク市は[予防費用を惜しんだがゆえに] 1990年代半ば、薬剤耐性結核の勃発を制圧するため10億ドルを費やすことになった。耐性結核菌は、市が低所得の肺結核患者に安価なジェネリック薬品を保証しなかったことから起因したものだった。

緊縮財政で犠牲になるのは人間の命なのだということを認識するのに、経済主義者(an economic ideologue)となる必要はない。私たちは実際そうではない。私たちは過去の貧困な政策決定を無罪放免にしているわけでもないし、万人の債務免除を要求しているわけでもない。財政政策・金融政策の正しい配分を見出すことは、アメリカとヨーロッパの政策立案者の責任なのだ。私たちが見つけ出したのは、緊縮政策――それも社会・医療支出にたいする厳格で即時・無差別な削減――は自滅的であるだけでなく、致命的だ、ということだ。

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<註> この翻訳は単独で下記にも掲載しました。
http://www42.tok2.com/home/ieas/translation_index.html
また、ディビッド・スタックラー(David Stuckler、オックスフォード大学社会学の上級研究指導員)とサンジェイ・バスー(Sanjay Basu、スタンフォード大学医学部の助教授で予防研究センターの疫学者)は『いのちの経済学――緊縮政策は殺人行為だ』の著者です。

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狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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