英語力 は「貧困力」(その4) エジプトに「全科目を英語で教える大学」が存在する!――アメリカ人学生が胸を刺され、カイロ・アメリカン大学教授が首を刺された事件は何を示すか

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アメリカ大使館の国旗を引きずり下ろすカイロ民衆

http://rt.com/news/us-fighter-jets-egypt-930/

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私は前回のブログで、次のような疑問を提示しました。

エジプトのカイロ「タハリール広場」を占拠する若者たちの映像が全世界に流れて注目を集めましたが、その映像やインタビューを視聴していて不思議に思ったのは、インタビューに応じる若者の英語があまりにも流暢だったことでした。

これはリビアやイエメンで蜂起している若者にも共通する現象で、「貧しい生活に追いやられている若者や民衆が、腐敗した政権に抗議して蜂起したにしては不自然なくらいに英語が巧すぎる」というのが、まず頭に浮かんだ印象であり、素朴な疑問でもありました。

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上記の疑問を解く鍵として、私は前回のブログで次のような仮説を提示しました。

「英語が中東に広がっていった」のと「貧困が中東に広まって行った」のが同時進行であり、その結果として高学歴のものでさえ仕事につけない状況が「アラブの春」を生み出したのではないか?

エジプトの民衆蜂起に参加した若者のなかには、イギリスやアメリカで学位を得て帰国したけれども仕事がないひとも少なからずいたのではないでしょうか。英米で学位を得た若者であれば、英語が流暢であっても何の不思議もありません。

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そして、「アラブの春」で独裁者ムバラクが退陣させられ、あらたに登場したモルシ大統領でしたが、エジプトは以前よりも貧困度が増しています。私はこのことを指摘しつつ、前回のブログを次のように結びました。

しかし、このような事態になること[エジプトの更なる貧困]は最初から予想されていたことでした。というのは、モルシ大統領はアメリカ政府からの強い要請で、IMFから巨額の資金援助を受け入れるさい、ギリシアその他の南欧諸国が受け入れたと同じように(庶民への増税や福祉の切り捨てなど)緊縮政策の実行を条件づけられていたからです。

拙訳「緊縮政策は殺人行為だ」(http://www42.tok2.com/home/ieas/HowAusterityKills.html)でも示されているように、庶民への増税や福祉の切り捨てで「庶民の購買力」を奪っておきながら景気回復=経済改革をするというのは不可能です。ものを作っても庶民にはそれを買う力がなくなっているのですから景気は回復するはずがありません。

要するに、エジプトに英語を話せる若者がどれだけ増えようがエジプトの経済力に何の関係もないのです。むしろIMFからの資金援助を口実に「新自由主義」というアメリカ流の経済運営を押しつけられた結果、いっそうの貧困化が進行したと言った方が真実に近いのです。

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さらに私は、「アラブの春」に登場する若者の英語が流暢なのは英米からの留学帰りが多いからではないかと述べつつ、次のようなコメントを最後に付けくわえました。

ところが残念なことに、日本では「大学入試にTOEFLを!」と叫ぶ政権が、またもやアメリカ流の「新自由主義経済政策」を復活させ、それが「アベノミクス」としてもてはやされています。

このままいくと、日本も早晩、エジプトと同じようになるのではないかと考えると恐ろしくなります。

いま話題になっているTPPも、日本の主権と経済的土台を踏みにじり、アメリカ巨大多国籍企業の利益だけを守る内容になっているのですが、ここではそれを詳述しているゆとりがありません。別の機会にしたいと思います。

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しかし、英語の流暢さには、留学帰りだけではなく、もう一つの可能性があることに気づきました。エジプトでは、韓国に勝るとも劣らない「英語熱」が荒れ狂っていたのではないか、と思ったのです。

というのは、「エジプト大統領モルシの退陣を求める史上最大のデモ」を伝える報道のなかで、次のような衝撃的な記事(DemocracyNow!、2013/07/01)を目にしたからです。

エジプトのアレキサンドリア市で金曜日、抗議行動の間に、アメリカ人の学生が、胸を刺されて死んだ。どのような状況だったか分からないが、彼が抗議行動の写真またはビデオを撮っていたことだけは間違いない。

エジプトでは左右を問わず多くの側から反米感情が高まっている。ちょうど2~3ヶ月前にも、カイロ・アメリカン大学(the American University in Cairo)の教授が、アメリカ大使館の外で首を刺された。

つまり、モルシ大統領に抗議する人たちだけでなく、ムスリム同胞団の中からも反米感情が強まっているのだ。

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<註> 原文は次のとおりです。
Millions Protesting Morsi Show Egyptian Revolution Still Going Strong
http://www.democracynow.org/2013/7/1/sharif_abdel_kouddous_millions_protesting_morsi

  And the American student died, was stabbed in the chest on Friday in Alexandria during a protest, unclear why the circumstances exactly surrounding his death. He was apparently stabbed while he was photographing or filming the protests.
  There’s been rising anti-American sentiment from many sides of the political spectrum in Egypt. Just a couple of months ago, an American professor at the American University in Cairo was stabbed in the neck outside the U.S. embassy here.
  So, there’s an increasing anti-American sentiment from the anti-Morsi protesters and from the Muslim Brotherhood, as well.

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反米感情が高まるなかエジプト軍に供与される?F16ジェット戦闘機
US to deliver F16 fighter jets to Egypt as anti-American sentiment grows

http://rt.com/news/army-egypt-roadmap-protest-633/

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アレクサンドリアで胸を刺されて死んだAndrew Pochterは、アラビア語やアラビア文化に興味をもち、AMIDEASTというインターンシップのプログラムでエジプトに来ていた学生で、子どもに英語を教えながら生活していたようです。

US student among dead as riot-ridden Egypt descents into ‘security crisis’
http://rt.com/news/protests-morsi-violence-opposition-366/

ここで私が注目したのは次の二つの事実でした。

(1)エジプトでは、英語の母語話者は、教師の資格をもたなくても、エジプト人に英語を教えながら生活できる。
(2)エジプトの首都カイロには英語ですべての授業を行う大学があり、教授の大部分も英語の母語話者である。

日本や韓国では英語熱が燃えさかっていますが(その炎をかきたてている張本人は文科省であり、それを裏で支えているのが財界・大企業と英語教育産業です)、そのおかげでアメリカ人とくに白人は、手ぶらで日本に来ても食うに困ることは、まずありません。

というのは、全国どこへ行っても英会話教室がありますし、その経営者は講師が白人の母語話者であることを売り物にしていますから、母国アメリカで失業している若者でも、日本に来ればすぐ飯にありつけるわけです。

これは拙著『英語教育が亡びるとき』でも書いたことですが、極端なばあい、英語の母語話者でなくても、顔つきが白人らしくありさえすれば、そして少し英語が話せれば、英会話教室の講師にしてもらえます。

事実、私のところに来ていた院生はイラク人でしたが、英会話教室の講師どころか、会社社長の会話練習につきあってくれと頼まれて、1時間1万円以上の謝礼をもらっていました。岐阜のような田舎町でもこのような状態なのです。

彼は確かに話す英語には苦労していませんでしたが、書いたものは(内容もさることながら)直してやらねばならない文法的間違いが少なくありませんでした。こんな状態で修士論文が書けるのだろうかと心配になるほどでした。

他方、彼よりもはるかに素晴らしい英語を話したり書いたりできる中国人院生には、英会話教室の講師になる道は閉ざされています。彼らがアルバイトで学資を稼ごうにも、スーパーのレジ打ちかレストランの皿洗いぐらいしか仕事はありませんでした。

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私が上で言いたかったことは、岐阜のような田舎の都市でも英語を母語とする白人は食うに困らない、それほど日本では「英語熱」が盛んだということです。

韓国ではこれ以上の「英語熱」が高まっています。「英語村」と称する「英語漬けの施設」が各地にあって(30カ所)、最近では済州島でも公営の「英語村」ができたそうです。しかし、その韓国でさえ、すべてを英語でおこなう大学は聞いたことがありません。

ところがエジプトでは、「カイロ・アメリカン大学」という全てを英語でおこなう大学があるのです。逆にいえば、それほどエジプトでは、韓国の英語熱をはるかに超える「英語の炎」が燃えさかっているのです。

アメリカやイギリスに留学するお金がなくても、地元エジプトでアメリカの大学を出たのと同じ学位が取れるのですから、留学するゆとりのない学生は、こちらを選ぶでしょう。

とはいえ、一般庶民や貧困層にとっては、大学に進学することそのものが困難です。ですから、いくら留学しなくても済むとはいえ、アメリカ人の経営する私立大学に入学することそのものが、経済的上位者にしか許されていないことは、容易に想像できます。

しかし問題はその先なのです。このように「全ての授業を英語だけでおこなう大学」を出て、英語を自由にあやつれるようになったとしても、エジプトでは高学歴の若者にすら、仕事が見つからないのです。

そして、この「英語力=経済力」という神話が見事に崩壊したことを示すのが、カイロ「タハリール広場」で炸裂した民衆運動でした(その先頭に立ったのが、インターネットやFacebook, Twitterなどを駆使する若者だったことは、すでに述べたとおりです),

ちなみに、「カイロ・アメリカン大学」は、1920年に「タハリール広場」の一角に建てられた「タハリール・キャンパス」が出発点でした。皮肉ととしか言いようがありません。

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<註> 英語熱が過熱している韓国の「貧困力」については下記の小論で略述しました。
http://www42.tok2.com/home/ieas/kyotoUniversitySymposium2010.pdf
その詳細については、いずれ当ブログでも紹介するつもりです。

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こういうわけで私は、下記の自分の仮説にますます確信をもつようになりました。つまり英語力=「経済力」ではなく、英語力=「貧困力」だったのです。

「英語が中東に広がっていった」のと「貧困が中東に広まって行った」のが同時進行であり、その結果として高学歴のものでさえ仕事につけない状況が「アラブの春」を生み出したのではないか?


先日RT(RussiaToday、2013/07/10)を読んでいたら、この私の仮説を明確に裏づけるインタビュー記事が見つかり、「やっぱりそうだったんだ!」と小躍りしてしまいました。そこに次のような1節(下線部)を見つけたからです。

I know that even the ‘Tamarod’, the curiously naive, according to some commentators, people that gather in Tahrir square from the upper classes of Egypt, even they are now saying to al-Sisi: “Hang on a minute. We’re against the 6 month or 5 month timetable that has been issued”.

つまり、現大統領モルシの退陣を要求しつつ、エジプト全土であっというまに何百万もの署名を集めた‘Tamarod’(アラビア語で「反乱」)という若者集団は、IT機器を駆使する上層階級の出身者(from the upper classes of Egypt)だったのです。

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<註> 原文は次のとおりです。
It is Saudi-backed military coup in Egypt, Obama just dragging his heels over it
http://rt.com/op-edge/military-coup-egypt-saudi-889/
RT: How is all that cash going to impact the situation in Egypt? Do we know where the money will end up?
AR: I presume that the people of Egypt realize that these $5 billion isn’t going to go to support jobs program, clean water and health care. I know that even the ‘Tamarod,’the curiously naive, according to some commentators, people that gather in Tahrir square from the upper classes of Egypt, even they are now saying to al-Sisi: “Hang on a minute. We’re against the 6 month or 5 month timetable that has been issued. ”As for al-Sisi, he is already threatening the number two party that won at the elections the Islamist Al-Noir party, saying “No political games, you back us or you’ll be in a kind of trouble the Muslim Brotherhood is in”.

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要するに、繰り返しになりますが、このような「IT機器を駆使し」「英語を自由にあやつることができる」高学歴の若者すら、まともな仕事にありつけない、これがエジプトの現状なのです。

このような現状を見れば、「経済活性化のために英語力を!」「そのためには大学入試にTOEFLを使え!」「大学でも英語でおこなう講座をつくれ!」「小学校低学年から英語を教科として教えろ!」という政策が、いかにバカげたものかがよく分かるはずです。

しかも単にバカげたものならあまり害悪はないのですが、こんなバカげたことのために膨大な税金を使われる一方で、消費税は大幅増税され、福祉その他が大幅削減されるのです。今まさに求められているのは、日本の‘Tamarod’ではないでしょうか。

ちなみに、TOEFLの受験料は225USドル(約2万2500円)です。米軍基地の維持費と同じように、国民の税金によって支払われるTOEFL受験料は、アメリカにたいする巨大な「思いやり予算」となるでしょう。

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<註> 軍によるモルシ大統領逮捕は明らかに軍事クーデターですが、オバマ政権はこれを「クーデター」と呼ぶのをためらっています。アメリカにとっては真の民衆革命が実現するよりも、シシ(al-Sisi)将軍をトップとする[ムバラク時代と同じような]軍事政権にもどるほうが望ましいのでしょう。
 というのは、エジプト史上最大の抗議運動によって、軍の出動を待たなくても、モルシ政権は崩壊していたはずだからです。 しかしクーデターはモルシ派に反撃の口実を与えますからエジプトを内乱におとしいれる危険性があります。だからこそ、「内乱をおさえてエジプトを安全で平和な国に!」を口実に、再び軍の出番が回ってくるとも言えるわけです。
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