英語力 は貧困力(その5-2) 世界を破壊する先兵としての英語 (下)――世界を破壊するアメリカ式経済、アメリカが破壊したいイスラム式経済

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アメリカ国旗を燃やす、元大統領モルシ氏の支持者たち

http://rt.com/news/cairo-protest-morsi-scuffles-327/

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話が少し横にそれましたが、モルシ大統領がエジプト軍とアメリカ政府にすり寄った姿勢を示していたにもかかわらず、なぜオバマ政権はモルシ追放・軍事クーデターへと動いたのでしょうか。

それは、モルシ氏の出身母体であるムスリム同胞団がイスラム教を基盤にした国づくりを目指してきたことと深く関わっているように思います。私の仮説を結論的に先に述べてしまうと次のようになります。

(1)たとえモルシ氏が今は軍とアメリカの要求に従っているように見えても、イスラム教を基盤にした国づくりを目指しているから、将来どのように変わるか見通しが立たない。

(2)それにひきかえ独裁者ムバラクは、軍と一体であり、軍はアメリカの支援なしには存在し得ないから、アメリカの意向に沿ってエジプトを動かすことは非常に容易であった。

(3)しかしモルシ氏は曲がりなりにも選挙で選ばれた大統領であるから露骨な軍事クーデターで追い落とすことは難しい。そんなことをすれば軍事政権を倒した「アラブの春」の再来になりかねない。

(4)またアメリカの法律では「軍事クーデターによってできた政権には資金援助してはならない」ことになっているから、その意味でもエジプト軍にクーデターをおこさせることは、シリア情勢から見ても好ましくない。

(5)だから、モルシ政権の政策に不満をもった民衆が自分たちの力でモルシ政権が倒したという形にするのが、いちばん望ましい。しかしモルシ氏を支持する勢力もあなどりがたい力と数をもっているから、今の情勢ではそれも難しい。

(6)そこで次善の策として、治安部隊によってモルシ派を挑発すると同時に、モルシ反対派に資金援助や戦術指導をしてモルシ支持派と激突させるのがよい。そうすればエジプトは内乱状態になり、それを沈めるために軍が出動したという形にすれば、「クーデターによる政権転覆」という非難を受けなくてもよくなる。

(7)ムバラク政権のときは軍人がそのまま大統領になったから「軍事独裁政権」という非難を浴びたが、モルシ氏を追放したあとに軍の傀儡(かいらい)として自由にあやつれる暫定政権をつくれば、今後アメリカはエジプトを非常に管理しやすくなる。

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いわゆる「アラブの春」で追放された独裁者ムバラク氏は元々は軍人です。ですからムバラク政権は表向きは文民政府のように見えますが、実体は軍事独裁政権でした。

それは、アメリカによるエジプトへの巨額援助$1.5 billion(15億円)のほとんど($1.3 billion)が、エジプト軍にまわされていることからも歴然としています。
http://www.globalresearch.ca/us-ships-f-16s-to-egypt-as-junta-intensifies-crackdown/5342497

これを逆に言えば、アメリカの援助なしには軍も独裁者ムバラク氏もまったく無力であり、エジプトそのものがアメリカの属国であり傀儡国家だったということになります。エジプトはイスラエルに次いで世界第2位の巨大被援助国なのです。

ですから、その国で「すべてを英語で講義する大学」が存在するのも、国中に英語が氾濫し若者が英語を流暢に話すのはある意味で当然のことでした。

これは、かつて日本が支配していた台湾や朝鮮に、台北帝国大学や京城帝国大学が存在していて、台湾人や朝鮮人のほとんどが日本語を話していた(「話すように強制されていた」と言うべきか)状況を思い浮かべれば、すぐ納得できることではないでしょうか。傀儡国家「満州国」でも事情は同じでした。

ではエジプトは英語が氾濫する国になって豊かな国へと成長できたのでしょうか。実際はその逆でした。富は一部の特権階級に偏重し、庶民はますます貧困になっていきました。その民衆の悩み・苦しみを受けとめる一つの大きな「受け皿」になったのがムスリム同胞団でした。

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軍事クーデターを糾弾して行進する、ムスリム同胞団のひとたち

http://rt.com/news/cairo-protest-morsi-scuffles-327/
(訴えが英語で書かれていることに注目ください。英語漬けのエジプトです。)

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ムスリム同胞団はイスラム教の教え「喜捨」(「富者は貧者に返礼を期待せずして施しをすべし」という教え)を土台にしながら、医療・福祉・教育などで献身的な社会奉仕活動を展開しました。それが30十年以上にも及ぶ弾圧の嵐をくぐり抜けて現在のような巨大勢力を築きあげる土台になっています。

またイスラム教は「利息をとってはならない」ということを教えの基本的な原則にしています。つまりイスラム世界では、商業による利潤は是とする一方で、「利子」については厳しく禁じられています。彼らのことばを借りるならば次のようになります。

「神は商売はお許しになったが利息取りは禁じたもうた」

ですからイスラム銀行では利息をとりません。ところが不思議なことに、利息を取らないイスラム銀行がどんどん発展をとげているのです。

他方、アメリカ経済は工場が海外に出て行ってしまっていますから国内の製造業は壊滅状態です。ですから、武器製造業・軍事産業を除けば、保険業を含む金融業がアメリカ経済を支える主力産業となっています。

これが、アメリカが世界各地で戦争を継続・拡大する一つの理由でもあるのですが、もう一方の金融業はどうでしょうか。

資本主義経済は、利息を取って事業者に金を貸す「商業銀行」と株や証券を取引する「投資銀行」に大別できますが、いずれにしても、その土台にあるのは「利息」です。

ですから、アメリカなどがイスラム世界に進出するとき、まず破壊しなければならないのが「イスラム銀行的価値観」「神は商売はお許しになったが利息取りは禁じたもうた」という考え方でした。

アメリカがイラクを侵略したときも、まず最初に手をつけたのが「イラク中央銀行」の改革だったそうです(内橋克人『悪夢のサイクル:ネオリベラリズム循環』文藝春秋)。そうしなければ「貪欲資本主義」が大手を振ってイラクを闊歩できないからです。

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このように考えると、エジプトの億万長者やオバマ政権がなぜモルシ大統領とムスリム同胞団の進出を警戒したかがよく理解できます。

彼らがモルシ政権を転覆させ、かつてのムバラク政権下のように、思うままに利益をむさぼることができる体制に戻したいと思ったとしても、何の不思議もありません。

しかし他方でエジプト国民は、生活のすべてがイスラム教の教えで縛られる社会も望んでいません。国民の多くが望んでいるのは、貧しくても生活がきちんと保証される社会、そして信教の自由が保障される社会です。

(日本でも安倍政権は国家神道 [公明党は日蓮の教え] を基本とする社会を目指しているようですが、そんなことが憲法で明記されたら困ると思っている国民が多いのと同じです。)

そのような多くのエジプト市民の声をうまく利用して、モルシ派と反モルシ派を対立させ、内乱状態を作りだして軍の出番を演出する(そして出来れば、内乱を理由に暫定政権=軍事独裁政権を維持する)。これが、エジプトの特権階級とアメリカの作戦ではなかったかと思うのです。

この私の仮説が正しいのかどうかは今後のエジプト情勢が証明してくれることでしょう。しかしいずれにしても、「英語力=経済力」ではなく「英語力=貧困力」であったことだけは、この事件で明らかになったように思います。

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<註> ムスリム同胞団はアメリカでは「イスラム原理主義」というイメージで宣伝されて、アメリカ在住のイスラム教徒も監視され弾圧されています。
 それと同じように、FBIは、60年代にアメリカ全土に広がったブラックパンサー党を「銃で武装した黒人集団」というイメージを振りまいて弾圧の口実にしました。
 しかし実際は、貧困に苦しむ黒人の医療・福祉・教育を援助するための奉仕活動が中心で、銃を持ったのは白人からの暴力から身を守るための自衛手段にすぎませんでした。
 また女性が政党の中枢で活動することは当時では白人社会でも難しいことでしたが、ブラックパンサー党では有能な女性がきら星の如く存在し、生き生きと自分の個性・能力を生かして活動していました。
 詳しくは『肉声でつづる民衆のアメリカ史』下巻262-270頁を参照ください。

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1973年9月11日の軍事クーデターで死に追いやられたチリ大統領サルバドル・アジェンデ


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<参考> 選挙で正式に選ばれたアジェンデ大統領を軍事クーデターで倒し、シカゴ大学教授ミルトン・フリードマンが唱えた「新自由主義」「市場原理主義」を強引に実行したのがピノチェト将軍でした。

このクーデターを裏で工作したのがアメリカCIAとアメリカ企業ITT(国際電信電話会社)であったことは、アメリカ上院調査委員会による下記報告に詳しく記されています。

「政府・CIAによるチリでの秘密工作」(ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』下巻、315-319頁)

またピノチェト将軍がクーデターを起こして大統領になったあと強行された「新自由主義」経済政策は、チリ社会を壊滅させるものでした。その内容および、それと併行して実行された弾圧・拷問・惨殺のようすは下記に生々しく詳述されています。

「もう一人のショック博士――ミルトン・フリードマンと自由放任実験室の探求」(ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン――惨事便乗型資本主義の正体』上巻、第2章、67-99頁)
「ショック状態に投げ込まれた国々――流血の反革命」(同上、第3章、103-136頁)

ですから、このエジプトにおける軍事クーデターも、悪くすると、チリの「二の舞」になるのではないかと不安になります。

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<註1> ちなみにピノチェト将軍による軍事クーデターは1973年9月11日に決行され、アジェンデ大統領は自殺か他殺かいまだに不明です。私がアメリカの「911事件」のニュースを聞いたとき、真っ先に思い浮かべたのがチリのクーデターでした。なおアジェンデの死を覚悟した最後の演説(日本語字幕付) は下記にあります。時間があるときに御覧ください。
アジェンデ最後の演説
http://www.youtube.com/watch?v=SG3f08LVwhE

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<註2> 小泉首相のもとで荒れ狂った「聖域なき構造改革」(「規制緩和」→「民営化」)はミルトン・フリードマン教授が唱えた「新自由主義」と同じもので、貧富の差を拡大して日本社会を破壊する結果に終わりました。「ワーキングプア」ということばが流行りだしたのもこの頃からです。今度、安倍内閣によって、アメリカが狙っているTPPが導入されたら、日本に第2の破局が訪れるでしょう。

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