英語力は貧困力(番外編) 消費税の増税は必要か―月刊『楽しい授業』編集部への手紙(その3)


目次
0 はじめに
1 なぜ月刊『楽しい授業』を?
2 グラフ「日本の税金の変遷」
3 消費税がこれからの税の中心?(以上、前号)
4 社会保障制度は本当に「危機」なのか
5 法人税の引き上げを、そして所得税を累進課税に
6 税収 - 倍増した消費税、半減した法人税・所得税
7 日本の法人税は高すぎるのか(以下、次号に続く)


4 社会保障制度は本当に「危機」なのか
 しかし、言語学者としてだけでなく米国外交政策の厳しい批判者としても世界的に有名なチョムスキーは、米国の社会保障費について次のように述べています。以下は、邦訳『すばらしきアメリカ帝国』( 集英社、2008)を元に、氏の著書『IMPERIAL AMBITIONS』の該当箇所を寺島が改訂翻訳したものです。

 社会保障制度の「危機」について喚き立てている人々は、退職者に対する就労者の比率低下を指摘しています。ますます増える退職者を、いま働いている人々が支えていかなければならない、と。これは事実ですが、重要ではありません。重視すべき数字は、全体的依存人口比率です。これは全人口に対する就労者の割合なのであって、退職者だけに対する割合ではないのです。

 たとえば、有名な団塊の世代を取り上げてみましょう。彼らの引退後を、どうやって支払うかという疑問が出されているわけですが、それでは、彼らが生まれてから二十歳になるまでは誰が支えていたのでしょうか?

 年老いた母親の面倒をみるのと同じく、子どもの面倒だってみる必要があります。この世代が大人になった一九六〇年代を振り返ってみると、学校など子どものための政策に出費が急増しましたが、当時の政府歳入は今よりもずいぶん少なかったのです。

 団塊の世代が子どもだったときには面倒をみられたのに、なぜ六十歳を越えると不可能なのでしょうか?[だから]問題が大きくなったわけではないのです。危機の捏造(でっち上げ)なのです。これは単に財政的な優先順位の問題なのです。実際、米国は一九六〇年代よりずっと裕福な国になっているのですから、六十才以上の人々の面倒をみることなどずっと容易なはずなのです。


 上でチョムスキーは米国のことを述べていますが、この説明はそっくりそのまま日本に当てはめることができるのではないでしょうか。
 つまり、社会保障費危機論は「過剰にイデオロギー的な解釈を表明している。しかし、それは個人的先入観や何らかの別の圧力を反映している可能性があり、この問題とは本質的に何ら関係がない」(チョムスキー)というわけです。
 またチョムスキーは、この文章の直前で「一歩譲って財政上の問題があるとしても」と仮定した上で次のようにも述べています。
 では四十年あるいは五十年後、社会保障制度に財政上の問題が生じると仮定しましょう。どのような手を打てばよいのでしょうか? めったに議論に上がってきませんが簡単な解決法はいくつかあります。

 たとえば、給与における社会保障税は、ひどい逆累進課税方式(所得が多くなればなるほど少なくなる)になっています。およそ九万ドル以上の高額所得には課税されません。つまり金持ちの特権階級はただ乗りをしているのです。

 少数の富裕層がただ乗りをするというのは、道理に適っているのでしょうか? もし完全に課税の上限を取り払ってしまえば、社会保障の財政問題は今後も生じないのです。



5 法人税の引き上げと所得税を累進課税に
 同じようなことを、経済アナリスト森永卓郎氏も、尾木直樹氏との共著『教育格差の真実』(小学館新書、2008、37頁)で次のように述べています。貧乏人のために所得税の基礎控除=課税最低限を引き上げて累進課税にするべきだ(同時に法人税も引き上げて元に戻す)と主張したらマスコミで袋たたきにあったのでした。

尾木: 応援してくれるような人は、評論家の世界ではいないんですか。

森永: いや一、とにかく、いつも一人ぼっちなんですね。事実認識から全く違うんですよ。真っ先に頭ごなしに否定されますね。

 例えば、税制の話をしていて、「日本の課税最低限は先進国で一番低い」と言ったら、もう総攻撃を受けたんですよ。「お前は何を考えているんだ。世界一高いんだよ」などと反論された。

 きちんと勉強していれば、「日本の課税最低限が高い」というのは過去の話であることは明白なのですが、反論する識者のなかには政府税制調査会の委員までいたんです。

 それでもう、あんまり袋叩きになるから、「わかりました。私は嘘を言っているつもりは毛頭ないし、まだ番組は数時間あるので、今すぐスタッフが財務省のホームページにアクセスして、政府税調の資料を見てください。財務省のホームページに出ています。もし私の発言が事実と異なっていたら、番組終了後、私を皇居前広場に連れて行って、公開銃殺刑で構いません」と叫んだら、ようやくみんなが黙った(笑)。


上記のように森永氏は消費税について語った後、法人税および消費税についても、尾木氏の質問に答えて次のように述べています(38-39頁)。

尾木: 昔のどこかの国みたい。一種の情報操作ですよね。

森永: そういうイロハのイも知らないふりをするんですよ。相も変わらず、「日本の法人税負担は高すぎる。企業負担は高い」と主張する。

 二〇〇七年一一月の政府税制調査会の答申では、日本の企業負担は税制調査会がきちんと国際比較した結果、必ずしも高くないという結論を得たと政府の公式文書に書いてあるのに、嘘ばっかり言うんです。世の中の人たちを平気で騙しているんです。

 他によく言うのは、「日本の財政は破綻状態だ」という言葉です。日本の長期債務は、実は二〇〇七年末で、二〇〇六年末に比べて二兆九〇〇〇億円も減っているんですよ。

 国のプライマリー・バランス(国債費などを除いた基礎的財政収支)は、これはまだ正式な統計は出ていないんですけど、地方を合わせたら、もしかしたら二〇〇七年度は黒字だったかもしれない。そのぎりぎりのところなんですよ。破綻なんか何もしていないんです。

 八○○兆円の借金があっても、金融資産は五〇〇兆円あるから、実のネット{[正味]の借金は三〇〇兆円しかないんです。つまり、ヨーロッパ諸国並みなんです。

 ありとあらゆることが嘘なんです。でも、新聞はどこも書かない。消費税率を上げる必要なんて微塵もないんですよ。



6 倍増した消費税、半減した所得税と法人税
 日本が従来の累進課税制度を改悪し金持ちや大企業のために所得税や法人税をどんどん引き下げてきたことについては次の図表(神野直彦・宮本太郎編『脱「格差社会」への戦略』岩波書店、2006、20頁)が良く実態を示しています。



これを見ていただければお分かりの通り、九〇年から二〇〇四年までの間に、国の税収における所得税と法人税の額は、見事に半減しています。その一方で消費税は、四兆六〇〇〇億円から九兆六〇〇〇億円へ倍増しています。
所得税  26兆円      →  13兆8000億円
法人税  18兆円      →   9兆4000億円
消費税  4兆6000億円 →   9兆6000億円


つまり、消費税を上げなくても、税制を元に戻すだけで十分におつりが来るのです。逆に言えば、財源が不足していたから消費税が必要だったのではなく、お金持ちや大企業を減税するために消費税が必要だったのです。これを税率で確認してみると、下図のようになります(同上書21頁)。



ご覧の通り、法人税は八五年の四三・三%をピークに、現在は三〇%にまで引き下げられています。 かつて経済界は「欧米と比べて日本の法人税は高すぎる」と主張していましたが、最近はアジアとの競争を口実にさらなる引き下げを主張しています。


7 日本の法人税は高すぎるのか
 ところで、「欧米と比べて日本の法人税は高すぎる」という点については既に見たとおり森永氏が明快な反論をしていますが、神野・宮本編の前掲書でも次のように述べています。(以下、次号に続く)

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