もう一つの京都大学事件(3)― 「教育と国家の家畜化」「日本の半永久的依存」の起源

英語教育(2013/10/04)
土屋由香66069_mid 松田武 アメリカのソフトパワー
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前回のブログで、松田氏の前掲書『戦後日本におけるアメリカのソフト・パワー: 半永久的依存の起源』が、ロックフェラーの機密報告書の「英語教育プログラム」について次のように解説していることを紹介しました。

 年二回ワシントンに報告されるアメリカ大使館広報・文化交流局の評価報告書は、ロックフェラーの意見に沿う形で、英語教育プログラムのもつ潜在的な可能性を強調した。
     この報告書によれば、英語教育プログラムは、表向きは英語教育法の改善を手助けすることであるが、実際には、健全なアメリカの理念を日本社会に浸透させる道が、このプログラムによって、約束されるというのであった。

 続けて評価報告書は、資格のある英語教育専門家が日本に滞在していれば、教科書の執筆ならびにアメリカ合衆国の選定教材を日本に紹介する際に、折ある度に彼らは影響力を行使することができ、しかも長期にわたって影響を及ぼしつづけることができる、と述べた。


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上記でまず注目されるのは、ロックフェラーの機密報告書が「英語教育プログラムのもつ潜在的な可能性」を強調して次のように述べていることです。

英語教育プログラムは表向きは英語教育法の改善を手助けすることであるが、実際には健全なアメリカの理念を日本社会に浸透させる道がこのプログラムによって約束される。


私の言う「英語力=洗脳力」「国家の家畜化」をこれほど見事に要約して見せている文言は、他にないのではないでしょうか。

そもそもロックフェラー3世がダレス特使の文化問題顧問として日本に派遣されたのは、トルーマン大統領が1951年4月に「心理戦略本部」(PSB:Psychological Strategy Board)を創設したことに由来しています。

ですからロックフェラーの機密報告書「英語教育プログラム」も、日本にたいする心理戦すなわち「いかにして日本を『属国』『半永久的な米国依存の国』にするか」という戦略の一部として提案されたものでした。

しかし、そのような意図をあからさまに表に出しては成功するものも成功しなくなります。教育学で言う「AさせたいならB指示せよ」です。だからこそ「表向きは英語教育法の改善を手助けする」というかたちを取ったのです。

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とはいえ最近では、この「英語教育プログラム」はもうひとつの意味を持ち始めています。というのは、それは、「英語」という商品、「英語母語話者」という商品を日本に輸出するという、経済的価値も持ち始めているからです。

最近のアメリカは製造業のほとんどを海外に移してしまっていますから、今や輸出するものがあまりなくなってきています。ですから、TOEICやTOEFLどころか英語教師までも輸入してくれるという日本の政策は、財政赤字に苦しむアメリカにとって、これほど好都合なことはありません。

TOEFLの受験料が約2万円だということを考えただけでも、このような商品を日本人の全受験生に強制することによって、どれだけの収入がアメリカにもたらされるか、どれだけの血税が湯水のようにアメリカに流れ込むかは、容易に理解できるはずです。これが、財政赤字を口実に消費税を値上げしようとしている、我が日本政府の政策なのです。

この状況は、かつて英語教育の改善を口実に、全国の公立学校にALT(外国語指導助手)を無理やり買わされたときと酷似しています。実をいうと、いまや日本の学校に隈(くま)なく配置されているALTは、教育の論理からうまれたものではなく貿易摩擦を解消するためにアメリカから無理やり輸入させられたものでした。

フィリピンも日本に輸出するものがなく、人間すなわち看護師を買ってもらおうと必死ですが、英語教師の場合、アメリカが必死になって売り込まなくても日本政府は大金をはたいてアメリカから買おうとしているわけです。これについては、すでに拙著『英語教育原論』(137-138頁、227-220頁)で述べたので、これ以上、詳述しません。

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日本は今まで、「年次改革要望書」というかたちで、アメリからさまざまな要求を呑まされてきました。「郵政民営化」はその典型例です。

ですから京都大学の「外国人100名雇用」計画のような、「国立大学における外国人教師の大量輸入」も、裏でアメリカからの強い圧力があったのではないかと疑っています。

しかしそれを実証する材料が今の私にはありません。したがって、「TOEIC、TOEFL、および外国人教師(恐らくそのほとんどはアメリカ人)の輸入」については、私の仮説にとどめておきたいと思います。

しかし次のような事実だけは頭にとどめておく必要があるでしょう。

<事実1> 日本全国に配置されているALTは、教育の論理からうまれたものではなく貿易摩擦を解消するためにアメリカから無理やり輸入させられたものだった。これがALTの輸入に文科省だけでなく外務省・総務省もからんだ理由である。

<事実2> いまアメリカでは国家財政が破綻して、政府機関の一部閉鎖が2013年10月1日から始まり約80万人の職員が自宅待機に入った。この影響は、まず弱者・貧困者の生活を直撃し、これが長引けばいずれ全国民に及ぶことは確実だ。
http://rt.com/usa/us-government-shutdown-effects-550/

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いずれにしても、英語教育を改善するためと称して、いま高校や大学で「英語で授業」「外国人による授業」が叫ばれていますが、ロックフェラー報告書を読めば、その本音が別のところにあるのではないかと強い疑いが出てきます。

つまり安倍内閣の「教育再生実行会議」が提案している「教育改革プログラム」は、アメリカの要求に従ったものであるだけでなく、財界の意見を代弁しているものにすぎないのではないかという強い危惧をおぼえるのです。というのは「第3次提言」は経済同友会が2013年4月にまとめた「提言」に酷似しているからです。

つまり、今まで各企業が必要な社員には自前で英語教育をしていたのに、そのお金が惜しくなったので税金を使って学校教育でやらせようということです。この点については毎日新聞のインタビューでも述べましたので詳述しません。

「論点: 英語の授業どうあるべきか」
http://www42.tok2.com/home/ieas/interview130531english_teaching.pdf

しかし「福祉にあてる財源がなくなってきたから消費税を値上げする」と言いながら、実質的には「それを企業減税にまわそうとしている」今の政府の姿勢を見ているかぎり、私は自分の仮説・危惧の正しさをますます実感しつつあります。

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ところで、ロックフェラー報告書「英語教育プログラム」は、次の段落で、さらに次のように述べています。

資格のある英語教育専門家が日本に滞在していれば、教科書の執筆ならびにアメリカ合衆国の選定教材を日本に紹介する際に、折ある度に彼らは影響力を行使することができ、しかも長期にわたって影響を及ぼしつづけることができる。


これも英語力=洗脳力であることを露骨に述べています。外国人教師が教科書の執筆や教材の選定によって「折ある度に彼らは影響力を行使することができ、しかも長期にわたって影響を及ぼしつづけることができる」と述べているのですから。

たとえば、英語学習の本には元大統領ケネディの演説がよく取りあげられています。しかし、このような教材を使っているかぎり、アメリカの美化と「民主主義の旗手」という神話だけが日本人の頭脳に深く定着していくだけです。

というのは、ピッグス湾事件[キューバにたいしておこなわれた国家テロ]やベトナム戦争の本格介入[化学兵器Agent Orangeなどが使われ500万人の死者を出した] がケネディの承認のもとでおこなわれたことを誰も知らずに、英語学習が進行するからです。

同時にこれは、京都大学の「外国人100名雇用」計画が何をもたらすかを如実に示しています。教材の執筆・選定は彼らの意のままになる可能性があるからです。しかも採用される100名は、外国語科目の英語だけでなく、教養科目のあらゆる分野にわたるわけですから、事態はもっと深刻です。

そのうえ、「2020年までに専門学部でさらに150人規模 (先述の100人とは別)の外国人教職員を雇うことが言われているため、最終的には教養共通科目の半数を超える」と予想されているのですから、「教育の家畜化」という点で、その影響力たるや巨大なものになります。

なぜなら追加される150人規模の外国人教師は、他のところで専門科目を担当しつつ「高等教育院」の教養共通科目も担当するようになるのでしょうから、その影響力は教養科目どころか、専門科目のあらゆる分野におよぶことになります。これは「教育の家畜化」「国家の家畜化」という点で由々しき事態と言うべきでしょう。

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ここで想起しておきたいのは、ロックフェラー報告書が提言した第3の「人物交流計画」について松田氏が述べている次のような事実です(前掲書235頁)。

 アメリカは、将来のアメリカ学会を育てるために、スタンフォード大学など一流の大学から毎年5名ずつの教授を東京大学におけるアメリカ研究セミナーに送り込んだ。
 1950年から1956年までの全ての期間をつうじてロックフェラー財団は20万ドルのお金を注ぎ込み、そこに参加した日本人の学者・研究者は総勢593名にものぼったが、東京大学が出した額は毎年千ドルにすぎなかった。


つまり敗戦当初は、外国人教授の渡日費用・滞在費用のほとんどをアメリカが出していたのに、今度はそのすべてを日本が負担することになるということです。これでは、明治時代に当時の帝国大学が高い費用を払って外国人教師を雇っていた頃に逆行することになってしまいます。

当時の帝国大学には日本語による高等教育の教科書もなく、それを教える日本人教師もいませんでしたから、これは仕方がない処置であったでしょう。しかし夏目漱石がイギリスから帰国して東京帝国大学で教える頃には、すでに日本語による教科書で、日本人が高等教育を担うことができるまでに、日本は大きく変化していました。

にもかかわらず、よりにもよって、次々とノーベル賞受賞者を輩出し、アジアの諸国が驚嘆のまなざしで日本を見つめているときに、なかでも取りわけ多数の受賞者を出している京都大学が今になって発展途上国と同じ行動を取り始めたのですから、何ごとが起きたのかと、愕然としているに違いありません。

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しかも、ここで雇われる外国人教師は、京都大学の計画書を見るかぎり、日本人教師のポストを奪うかたちで輸入されます。「定年退職したあとの空きポストを外国人教師にあてる」と書かれているからです。

いま文科省は大学への交付金を毎年のように削り続けています。ですから、外国人(その多くはアメリカ人)を雇うために、多くの日本人が仕事を失うのです。日本人の税金が大量に使われ、そのお金は外国人教師の懐に入ります。

これでは、今でさえ博士課程を出ても就職口がなくで困っている若い研究者の未来を、さらにいっそう暗くすることに貢献するだけでしょう。

米軍基地のために「思いやり予算」がたっぷりと使われ、他方で財政難という理由で消費税が値上げされ、同時に日本人の医療や福祉などの予算が削られていくのと、その構造が似てはいないでしょうか。

これは「英語を公用語にする」を売り物にしている民間企業にとっても事情は同じです。いま日本は深刻な就職難なのに、採用されるのは「英語の母語話者」または「英語のできる外国人」ばかりということになれば、「これは日本企業なのか!?」ということになるでしょう。

日本人に雇用を提供しない企業など、私たちにとって何の意味があるのでしょうか。これでは安倍氏の言う「日本をとりもどす」どころか、「日本を売り渡す」ことになってしまいます。「日本をとりもどし」「美しい日本」を築くためには「地産地消」であり「日本人の、日本人による、日本人のための企業」であるはずです。
 
他方、「英語ができる」ことを売り物にしているアメリカ帰りの日本人を採用しても、「空気が読めない日本人」では国内の営業を妨害するだけの存在になりかねません。『週刊現代』(2013年4月27日号)に「英語ができて仕事のできない若手社員たち」という特集記事が載ったことがありますが、さもありなんと納得しました。

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<註> ノーベル医学生理学賞の受賞者・山中伸也教授に対する京都大学新聞のインタビューは次のような文言で終わっています。
―最後に京都大学の学生に向けてメッセージをお願いします。
「京都大学は日本人ノーベル賞受賞者を多数輩出し、特に自然科学系ではほとんどと言えるほどです。このような大学で20代前後の若い時間を過ごせることは、自身の今まで努力の結果とも言えますが、幸運なことです。これを最大限生かして、いま京大に在籍している学生の中からたくさんの研究者が出てくることを期待しています。」
http://www.kyoto-up.org/archives/1676 (2012.10.16)

しかし、このブログで以前にも述べたように、京都大学が英語にうつつを抜かすようになれば、ノーベル賞の受賞者が激減するかゼロになってしまうでしょう。その理由については後のブログでゆっくり展開するつもりです。
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