セイモア・ハーシュ氏の爆弾発表:アルカイダの化学兵器攻撃をオバマ大統領が隠蔽――アメリカを「国際標準」とした秘密保護法は国家の安全に役立たない(2)

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「これでいいのか?!TPP、12.8大行動」に2700人が参加!!(日比谷公園野外音楽堂)

http://www.labornetjp.org/news/2013/1208shasin
TPPは「秘密保護法」の先取りだ!!アメリカの国会議員でさえ内容を知らされていない。「損失を被った」という理由で国家を訴える権利を、巨大多国籍企業に与える協定がTPPだからだ。

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 先週12月10日は、新聞やテレビを賑わせた大きな出来事が二つありました。
 ひとつは南アフリカ共和国の黒人差別(アパルトヘイト)と闘って世界的英雄となった元大統領ネルソン・マンデラ氏が死去し、巨大な追悼式が開かれたことです。
 もう一つは、ノーベル平和賞の授賞式がノルウェーの首都オスロの市庁舎で開かれ、化学兵器禁止機関(OPCW、本部オランダ・ハーグ)にメダルと証書が贈られたことです。
 ところが、その数日前に、ピューリツァー賞受賞者セイモア・ハーシュ記者が「アルカイダの化学兵器攻撃をオバマは隠蔽していた」という爆弾発表をしていたにもかかわらず、これを報道した大手メディアはまったくありませんでした。
 他方,日本では「秘密保護法」が参議院で強行採決され、それに抗議した数人が逮捕され、傍聴席から靴を投げて抗議したA氏が、いまだに釈放されていません。
 そこで以下では、マンデラ氏の死去とノーベル平和賞の授賞式が、日本の「秘密保護法」にとってどんな意味をもつのかを考察してみたいと思います。

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<註> 国会内で逮捕された「秘密保護法と闘う男」(Aさん) を助け出そう!と呼びかける「12.6 秘密法国会傍聴者弾圧救援会」のホームページは下記のとおりです。
http://himitsuhokyuen.wordpress.com/

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 ノーベル平和賞の委員会は、1997年の発足以来、「化学兵器廃棄のために幅広い努力をした」ことを評価して、OPCWに平和賞を授与したそうですが、今回シリアが化学兵器を撤去することに大きな貢献をしたのはロシアでした。
 ロシアがアサド大統領と交渉して化学兵器撤去に合意させていなければ、アメリカは今ごろシリア爆撃に踏み切っていたでしょう。というのはオバマ氏は「化学兵器によってシリアでたくさんの人が殺されたのは政府軍によるものだ」と断言してきたからです。
 オバマ氏は「反政府軍には化学兵器を保有し使用する能力も手段もない。その確かな証拠を私は持っている」と言い続けてきました。
 しかし他方で、世界の世論も、これ以上シリアの死者と難民を増やしてはならないという世論は高まる一方でした。アメリカ国内でも、タカ派と言われる共和党員のなかからすら、反対論が出始めていました。
 ですから、このような世論を無視してシリア爆撃に踏み切っていたら、嘘をついてイラク侵略に踏み切ってアメリカの威信を地に落としたブッシュ氏の愚行を、オバマ氏も繰り返すことになり、天下に大恥をかいていたことは間違いありません。
 というのは、「化学兵器を使ったことが明らかになればアメリカは攻撃に踏み切る」と宣言しているのに、しかも国連の査察団がシリア入りしている目と鼻の先で、堂々と化学兵器を使ってみせるバカはどこにいるのでしょうか。

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 このようなオバマ氏の危機を救ったのが、ロシアのプーチン氏でした。もしプーチン氏による仲介がなければ、オバマ氏は今さら自分の公言を取り下げるわけにもいかず、シリア爆撃に追い込まれていたことでしょう。
  ロシアは以前から「反乱軍のなかにはサウジアラビアなど中東から送り込まれたイスラム過激派が群雄割拠しており、そのなかには化学兵器を保有し使用する能力も手段をもっている集団がいる」と主張していました。
 ですから、最後の頼みの綱はアメリカ議会がシリア爆撃を否決してくれることですが、否決されたら否決されたで、「否決されるような戦略・軍事方針をたてた」ということで大きな打撃を受け、恥をかくことは免れません。
 しかし、プーチン氏がアサド大統領を説得して化学兵器の撤去・廃棄に合意させたことによって、オバマ氏はかろうじて面子を保つことができました。世論を押し切ってまで爆撃しなくてもよい口実が見つかったからです。
 しかも「アサド政府軍が化学兵器を使ったから爆撃に踏み切ったのだ」という、ブッシュまがいの嘘をつき続ける苦しみからも解放されたのですから、プーチン氏にどれだけ感謝しても、したりないはずです。
 またシリア民衆も、アメリカの爆撃によって死者や難民が激増することは世界中の識者が予想し指摘していたことですから、今回のアサド氏の合意にどれだけ安堵の胸をなで下ろしたか知れません。
 他方、今回ノーベル平和賞を授賞したOPCWは何をしたのでしょうか。なぜ今回の立役者であったプーチン氏にノーベル平和賞が授与されなかったのでしょうか。OPCWは、プーチン氏が仲介しアサド大統領が合意した「化学兵器の撤去・廃棄」の作業を、単に請け負ったにすぎないのですから。

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 「ノーベル平和賞はほとんど意味のない政治的な見世物だ」というのがチョムスキーの意見です(『現代世界で起きていること』日経BP社、153頁)。オバマ氏が授賞したときもそうでしたが、今度のOPCWの受賞で、改めてそのことを確認できたようにおもいます。
 朝日新聞(12月10日)によれば、OPCWのウズムジュ事務局長は受賞演説で、シリアで8月、多くの市民が化学兵器攻撃の犠牲になったことに触れ、「悲劇を繰り返してはならない。この賞により、化学兵器禁止条約を真に普遍的な規範にしようとする努力に拍車がかかることを熱望する」と述べたそうです。
 しかし、OPCWがシリアにたいしてどんな働きかけをしてきたのか何一つ分かりません。分かったのは、シリアが化学兵器の廃棄に合意したことを受けて、その撤去作業にのりだしたということだけです。
 すぐ隣にイスラエルという国があり、OPCWにもIAEAにも加盟していません。しかも、このイスラエルは反政府軍に加担して、シリアを爆撃すらしています。化学兵器も核兵器もその所有が確実視されているイスラエルにたいして、OPCWは何か行動をしてきたのでしょうか。何か声明を発表したのでしょうか。
 たとえば、ローマ教皇庁すら「巨大強制収容所」と呼んでいるパレスチナ「ガザ地区」に、イスラエルが2008-9年にかけて連日、猛爆撃を加え、400人を超える死者と4000人を超える難民をうみだしたとき、「白燐砲弾」(これは化学兵器です!)も使われたことを、国際人権団体Human Rights Watchは厳しく批判しています。
 この攻撃の際、OPCWは何をしていたのでしょうか。
 他方でシリアに働きかけて化学兵器の放棄を決意させたプーチン氏には何の賞も与えられていません。それどころかプーチン氏はアメリカの悪事を内部告発してどこにも行き場がなくなったスノーデン氏に亡命許可すら与えています。この二つのことを考えただけでも、OPCWよりもプーチン氏のほうが受賞にふさわしいことは明らかでしょう。
 プーチン氏にやりたくないというのであれば、自分の未来を危険にさらしてまでも大国アメリカの悪事を暴露したエドワード・スノーデン氏に授賞すべきだったのではないでしょうか。氏はすでに「廉潔な内部告発者」に贈られる「サム・アダムズ賞」を受賞しているのですから、資格は十分です。
 しかしノーベル平和賞の委員会は、「アメリカの仮想敵国」の反体制人物に授賞することはあっても、大国アメリカの逆鱗にふれるような人事は決してしません。

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調査報道記者セイモア・ハーシュ氏,アメリカ軍によるベトナム「ミライ村」での虐殺
 
http://pierretristam.com/Bobst/library/wf-200.htm
The My Lai Massacre、Seymour M. Hersh/St. Louis Post Dispatch

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 話が少し横にそれたので元にもどします。私がここで指摘したかったことは、元大統領ブッシュ氏と同じように、オバマ氏が嘘をついてまで戦争をしたがっている人物だということです。
 そのことを赤裸々に暴露したのが、ベトナム戦争における「ミライ村での虐殺事件」やイラク戦争における「アブグレイブ刑務所の捕虜虐待事件」などを暴露したことで知られる、有名な調査報道記者セイモア・ハーシュ氏でした。
 書評誌『ロンドン・レビュー・オブ・ブックス』に発表した記事で、ハーシュ氏は、オバマ政権が「情報を意図的に操作した」と非難しつつ、次のように書いています。
 最も重要な点は情報機関がつかんでいたことをオバマ氏が認めなかったことだ。それは、サリンを手にできる者はシリア軍だけではなかったということだ。
 化学兵器攻撃が起きる数か月前、情報機関は一連の高度な極秘報告をおこなっていた。そして、アメリカ軍がそれを元にたてた地上侵攻の作戦計画書には、シリア国内で活動するアルカイダ系イスラム武装組織「アルヌスラ戦線(Al-Nusra Front)」がサリンの製造方法を熟知し、大量に製造する能力を持つという証拠が挙げられていた。
 化学兵器による攻撃が起きた際、アルヌスラ戦線は疑われるべきだったのにオバマ氏は、アサド政権に対する攻撃を正当化するために情報を選別した。また、化学兵器攻撃の後になって入手した証拠をリアルタイムで収集していたように見せかけていた。
"Whose Sarin?" By Seymour Hersh (London Review of Books)
http://www.lrb.co.uk/2013/12/08/seymour-m-hersh/whose-sarin

 要するに、オバマ氏は、シリアを攻撃するするために自分の都合の良い情報だけを「つまみ食い」 していたのです。これはイラク攻撃の際、ブッシュ氏がチェイニー副大統領と一緒になっておこなった行為とそっくりです。

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 ここで注目すべきなのは、ハーシュ氏がこの情報を得たのは、実はオバマ政権の情報機関高官からだということです。氏はDemocracyNow!のインタビューで、「名前は明かせないが」と言いつつも、自分の情報源は情報機関の高官であるとはっきり明言しています。
Seymour Hersh: Obama "Cherry-Picked" Intelligence on Syrian Chemical Attack to Justify U.S. Strike
http://www.democracynow.org/2013/12/9/seymour_hersh_obama_cherry_picked_intelligence

 今ごろオバマ氏はこの情報を漏洩させた人物を血眼になって捜し回っていることでしょう。しかしこれは内部告発者の重要性をあらためて浮き彫りにする記事でした。でなければ、アメリカ国民はずっとだまされ続けていたことでしょう。
 ところが日本の「秘密保護法」は、機密解除を明示する情報公開法もなければ内部告発者を保護する法律もないのです。また調査報道記者は情報源を秘匿する権利をもっていることも法律で明文化されていません。
 アメリカではそのような明文化された法律があるにもかかわらず、マニング氏は牢屋送りになりましたし、スノーデン氏は亡命の受け入れを表明した南米諸国に行くことができずロシアで途中下車せざるをえませんでした。マニング氏の情報をウィキリークスに掲載したアサンジ氏も、ロンドンのエクアドル大使館で缶詰状態のままです。
 だとすると、国民に何の権利も保障していない日本の「秘密保護法」の下では、内部告発者も調査報道記者も、そしてそれに加担したとされる一般市民にも、どんな危害が襲いかかってくるか、そんなことを想像するだけも怖くなります。

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 もっと重要なことは、安倍政権が解釈改憲で追い求めている「集団的自衛権」によって、このようなアメリカの「汚い戦争」「嘘で国民をだましながらおこなう戦争」に、日本が自動的に巻き込まれることになるということです。
 ベトナム戦争の「トンキン湾事件」でも、アメリカは自分が先に攻撃したにもかかわらず時系列をねじまげて北爆開始にふみきりました。日本は憲法9条があったおかげで助かりましたが、この泥沼の戦争に引きづり込まれた韓国軍は多くの戦死者を出しました。
 アメリカが「イラクは大量破壊兵器を所有している」と嘘をついて始めたイラク戦争では、日本も戦後復興の片棒を担がされて自衛隊をイラクに派遣しましたが、あそこで膨大に費やされた私たち国民の税金は、何か価値があったのでしょうか。
 イラクは今も内戦が続いていて、今やイラクは瓦礫と化しつつあるからです。毎日のように自爆テロ事件が起き、大量のひとが殺され続けています。自衛隊が現地でおこなったとされる復興事業は、ほとんど意味をなしませんでした。
 一歩譲ってフセインが独裁者だったとしても、こんなひどい破壊はおこないませんでした。「集団的自衛権」を理由にアメリカがおこなう戦争へと引きずり込まれるということは、このような破壊に手を貸すということなのです。
 それだけでなく、私たちの税金が大量に浪費され、多くの自衛隊員が無駄死にをすることにもなります。
 このたび強行採決された「特定秘密保護法」は、日本版NSCと一体になったものであり、それは日本がアメリカの要求する「集団的自衛権」を行使できるようにするための地均し(じならし)であるというのが、今や常識となりつつあります。
 今度のセイモア・ハーシュ氏の記事は、このような意味でも、極めて重大な問題を投げかけているはずなのに、この衝撃的なスクープを取りあげ、「特定秘密保護法」や「集団的自衛権」と関わらせてきちんと報道する大手メディアが皆無に近かったことは、私には信じがたいことでした。
 私がこのブログで取りあげ、詳しく論じたいと思ったゆえんです。

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 あとひとつだけ書いておきたかったのは、ネルソン・マンデラ氏の追悼式でオバマ大統領がおこなった演説の偽善ぶり、その危険性についてです。が、もう十分に長くなっているので、別の機会に譲りたいと思います。
 しかし、故マンデラ大統領の栄誉をたたえるため集まった数万人の観衆と100人近くの国家元首を前にしたオマバ氏の演説に、次のようなフレーズがあったことだけは、ここに記しておきたいと思います(マディバはマンデラの愛称です)。
「マディバは、囚人だけでなく投獄した側をも解放した」
President Obama: Nelson Mandela "Freed Not Just the Prisoner, But the Jailer As Well"
http://www.democracynow.org/2013/12/10/president_obama_nelson_mandela_freed_not

 拷問で有名なグアンタナモ刑務所に、無実の囚人を大量に収容したまま、こんな演説ができるオバマ氏に私は思わず絶句してしまいました。
 しかもアメリカの情報機関CIAの手引きによって、27年間もの獄中生活をおくることになった人物にたいして、ひと言の謝罪もなく(マンデラ氏は国家反逆罪で「終身刑」を宣告された)、歯の浮くような言辞だけをふりまく大統領がオバマ氏なのです。
 私たちはこんな大統領を頭(かしら)としていただく国家と、「集団的自衛権」というかたちで「無理心中」しようとしていることだけは、忘れたくないものです。


<註> CIAが提供した情報によってマンデラ氏が逮捕され牢獄に送られたことは、Andrew Cockburn (the Washington editor for Harper’s magazine) にたいする下記インタビューで、詳しく述べられています。
"One of Our Greatest Coups": The CIA & the Capture of Nelson Mandela
http://www.democracynow.org/2013/12/13/one_of_our_greatest_coups_the

<参考> 元グアンタナモ被収容者が語る拷問の実態
http://voicejapan2.heteml.jp/janjan/world/0911/0911032649/1.php
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