ウクライナ情勢の読み方(1)、翻訳:チョムスキー 「世界を "アメリカという脅威" から救う」

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 いまウクライナ・クリミア情勢は、少しでも道を踏み間違うと第3次世界大戦になりかねない危険な状態になっています。
 日本の大手メディアを見ていると、まるでプーチンが現在の危機をつくりだしたかのような論調に満ちています。
 しかし次の記事では、アメリカが裏で工作をして実質的なクーデターを起こしていることを、元CIA高官のレイ・マクガバン(Ray McGovern)が暴露しています。

「ウクライナの政情不安を引きおこしているのは誰か」
Who Is Provoking the Unrest in Ukraine? A Debate on Role of Russia, United States in Regional Crisis
((March 03, 2014))
http://www.democracynow.org/2014/3/3/who_is_provoking_the_unrest_in

 もっと恐ろしいのは、単にウクライナをアメリカ寄りの政権にするためにクーデターを起こしただけでなく、ヒトラーの信奉者や極右の人物を新政権の中枢にすえたことです。

「アメリカはネオナチの政府をウクライナに送り込んだ」
The U.S. has Installed a Neo-Nazi Government in Ukraine
(March 02, 2014)
http://www.globalresearch.ca/the-u-s-has-installed-a-neo-nazi-government-in-ukraine/5371554

 このように、アメリカは、「911」以後、アフガニスタン、イラク、シリアを内戦状態に追い込み、国土を瓦礫の状態にしつつあるだけでなく、今やウクライナにまで政情不安をかき立てて親米政権をつくろうとしています。
 (実は同時並行的に、ベネズエラまでも「不安定化工作」の標的にして、混乱の火種を中東どころか南米にまでバラ捲いています。)
 ところで、今からちょうど1ヶ月ほど前に、チョムスキーは「アメリカこそが平和にたいする世界最大の脅威である」という小論を発表しました。今のウクライナ情勢を見ていると、このチョムスキーのことばが改めて胸に響いてきます。
 そこで、ぜひ皆さんに読んでもらおうと思い、一日かけて急遽この論文を翻訳しました。御一読いただければ幸いです。


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世界を「アメリカという脅威」から救う
Keeping the World Safe from America
ノーム・チョムスキー
By Noam Chomsky、February 7, 2014
http://zcomm.org/znetarticle/keeping-the-world-safe-from-america/



 2013年も終わりに近づいた頃、BBCが世論調査機関[WIN/Gallup International]の結果を報道した。その時の質問項目は「いま世界で平和にたいする脅威として最も大きいのはどの国だと思うか」というものだった。
 アメリカはそのなかでダントツの一位だった。パキスタンは第2位だったが、その得票数の三倍もアメリカは獲得したのだ。
 ところが、それとは対照的に、アメリカでは学者やメディアは、イランを封じ込めることができるか、NSA(国家安全保障局)の巨大な監視体制はアメリカの安全を守るために必要か、などといった議論に明け暮れている。
 世論調査を見れば、それよりまともな疑問が出てきてもよさそうなものだ。たとえば「アメリカを封じ込めることができるか」「アメリカの脅威に直面している他の国の安全は守れるのか」といった疑問だ。
 なぜなら世界の平和にとってアメリカをイランよりもはるかに大きな脅威だと思っている地域が世界にはいくらでもある。とりわけ中東がそうだ。その地域の圧倒的多数は、アメリカとその同盟国であるイスラエルが、自分たちの直面する主要な脅威だとみなしている。彼らの脅威はイランではない。アメリカとイスラエルがそう思わせたがってはいるが。

 ラテンアメリカの人々で、キューバの民族的英雄であるホセ・マルティ(José Martí)の判断に疑問をさしはさむ者はいないだろう。彼は1894年に書いた。「アメリカから離れれば離れるほど、ラテンアメリカの人々は、より自由になり、より豊かになる。」
 マルティの判断の正しさは、近年にいたって再び確認された。それは国連の「ラテンアメリカ・カリブ経済委員会」による貧困分析で、先月に発表されたばかりだ。
 その国連報告によれば、ブラジル、ウルグアイ、ベネズエラおよび幾つかの地域では、大規模な社会改革によって貧困が急激に低下した。アメリカの影響力が微弱だったからだ。
 他方、その他の地域では目もあてられないような惨状だ。これらの国は長い間アメリカの支配下にあったからだ。それはグアテマラやホンジュラスを見れば分かる。それと比べれば豊かだと言われているメキシコでさえ、「北米自由貿易協定」(NAFRTA:North American Free Trade Agreement)という縛りの下で、厳しい貧困を強いられている。2013年に貧困者数はさらに100万人も増えた。

 世界のひとたちの懸念がアメリカ人と違っている理由は、時には遠回しに認識されていることもある。前CIA長官マイケル・ヘイドン(Michael Hayden)は、オマバ氏の無人爆撃機(drone)の殺人作戦を擁護しながらも次のように言わざるをえなかった。「今のところ世界中の政府で、この作戦の法的正当性に同意しているのは、アフガニスタンと多分イスラエルだけだろう。」
 普通の国なら、自分が世界でどのように見られているかが気になるはずだ。「世界の世論に正しく敬意をはらう」国であれば、確かにそのとおりであろう。ちなみに、これは建国の父祖(the Founding Fathers)のことばだ。
 しかしアメリカは普通の国ではない。それどころか1世紀ものあいだ世界最強の経済大国であったし、第2次世界大戦以来その世界支配に本気で挑戦する相手はいなかった。最近は少し凋落しつつあるとはいえ、それは挑戦者によるものではなく自分の失敗によるものだ。

 アメリカは「ソフトパワー」の力を知っているから、「開かれた外交」(言いかえれば宣伝扇動・プロパガンダ)という戦術を大々的にもちいて、好ましいアメリカ像をつくりだすことに努めている。それは時には価値ある政策をともない、歓迎されることもあるが、世界の人々は相変わらずアメリカが平和にとって最悪最大の脅威であることを信じて疑わない。このことをアメリカのマスコミは、ほとんど報道しない。
 望ましくない事実を無視する能力は、超大国の特権のひとつだ。それと密接に関わっているのが、歴史を根本的に書きかえる権利だ。
 いま進行している典型例が、スンニ派とシーア派の対立・戦闘にたいする嘆きだ。それは中東をズタズタに引き裂き、国土を瓦礫にしつつある。とくにイラクとシリアに顕著だ。それにたいするアメリカの最も有力な論調は「この内紛は中東から米軍が撤退したことが招いた惨事だ」というものだ。これが「孤立主義」の危険から学ぶべき教訓だというわけだ。
 だが、その逆こそが真実に近い。イスラムにおける内紛の根源は、もっと多様で複雑だ。しかし、イスラムにおける内紛・分裂がアメリカ(およびイギリス)によるイラク侵略によって激化・深刻化されたことは、否定しようもない事実だ。
 しかも侵略が、ニュルンベルグ裁判で「国際法で最高最悪の犯罪」と定義されたことは、どれだけ強調しても足りないくらいだ。侵略は、その後に引き続くあらゆる悪の根源になるという点で、他のどの犯罪と比べても、その重大さが違うのだ。それは、いま起きている惨事をみれば明らかだ。
 このように歴史をすばやく逆転させる、目を見張るような例が、ファルージャでいま起きている惨事へのアメリカ人の反応だ。圧倒的な論調は、ファルージャを解放するために闘い、死んでいったアメリカ軍兵士の犠牲―しかも無駄に終わった犠牲―にたいする苦痛である。
 しかし2004年のアメリカによるファルージャ攻撃の報道を、ちょっと見るだけで、この攻撃が、侵略という戦争犯罪のなかでも、最も悪質で最も恥ずべきものの一つだったことが、すぐ分かるはずだ。

 ネルソン・マンデラの死は、もう一つの機会を与えてくれる。いわゆる「歴史の工作」(historical engineering)というものが―それは権力に奉仕して歴史的事実を造りなおす仕事だが―もたらす驚くべき影響力を考え直す機会である。
 マンデラがついに自由を手にしたとき彼は次のように宣言した。
 「私が獄中にいる間ずっと、キューバは私を鼓舞し続け、フィデル・カストロは私の力の源泉だった。キューバの勝利は、白人の圧制者が無敵であるという神話を打ち壊し、南アフリカの闘う民衆を鼓舞してくれた。
 キューバ革命は、我々の大陸、そして私の国の民衆を、アパルトヘイト(人種隔離)という災危から解放する転換点となった。アフリカにたいしてキューバがおこなってくれたような偉大なる無私無欲を、指し示す記録をもつ国が、ほかにどこにあろうか?」
 アメリカに支援された南アフリカ共和国の侵略からアンゴラを守りながら死んでいったキューバ人の名前は、南アの首都プレトリアの自由公園(Freedom Park)に設置された「名前の壁」“Wall of Names”に刻まれている。彼らは、アンゴラから去れとのアメリカの強い要求をものともせず、闘って死んだ。そして解放されたアンゴラを、援助し支えるために派遣された何千人ものキューバ人のことも、決して忘れられてはいない。

 ところがアメリカで認められている歴史は、これとまったく異なっている。不法に占領していたナミビアから、南アが1988年の撤退に同意したとき―それはアパルトヘイトを終わらせることにつながったのだが―『ウォールストリート・ジャーナル』はそれをアメリカ外交の「大成果」と賞賛した。「レーガン政権の外交政策の、最も重要な成果の一つ」というわけだ。
 マンデラと南ア人たちが、これとはまったく違った歴史像を描いている。この理由については、ピエロ・グレイジェセス(Piero Gleijeses)の優れた学問的探求『自由の展望』"Visions of Freedom: Havana, Washington, Pretoria, and the Struggle for Southern Africa, 1976-1991" という本に詳述されている。
 この本でグレイジェセスが説得力をもって説明しているように、南アのアンゴラにたいする侵略とテロ行為、ナミビアの占領は、キューバ軍の力によって終焉させられた。それは同時に、南ア国内における「黒人の熾烈な抵抗運動」と、ナミビア人ゲリラ兵の勇気によっても支えられていた。
 南ア軍が撤退したあと可能な限り早くおこなわれた公正な選挙で、ナミビア解放軍は容易に勝利を手にすることができた。同じく、アンゴラの選挙でも、キューバが支援していた政権が圧勝した。他方、アメリカは、南ア軍がアンゴラ撤退に追い込まれたあとも、引き続き反政府側の獰猛なテロリストたちを支援し続けていた。
 要するにレーガン支持者たちは、世界中で孤立しつつ、実質的には自分たちだけが、最後の最後まで、アパルトヘイト政権およびその隣国の残虐な暴虐行為を支援し続けたのだ。これらの恥ずべき出来事はアメリカ国内の歴史から消し去られるかもしれないが、他の国の人たちはマンデラのことばを正しく理解するだろう。
 これらの例だけでなく他にも似た例があまりも多すぎるが、超大国は真実から身を守る強力な盾をもっている。― ただし、それもある程度までだ。


<註> この翻訳は単独記事として下記HP「翻訳コーナー」にも載せてあります。
http://www42.tok2.com/home/ieas/
http://www42.tok2.com/home/ieas/translation_index.html
 
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