ウクライナ情勢の読み方(5)- クーデターの主役NGO: CIAに取って代わった、USAID「アメリカ国際開発庁」&NED「アメリカ民主主義基金」

────────────────────────────────────────
前回のブログでは、「Nさんにたいする下記の疑問についても私見を述べる予定でしたが、ここまで書いたら腰痛がまたぶり返してきたので次回にします」と述べました。そこで今回は、この点について私見を述べることにします。
>チョムスキーの論考は大変参考になりますが、ウクライナもクリミアも登場しませんし、現在彼がウクライナについてアメリカの陰謀だと言っているのかどうかも定かではありません。というかそんなことを言っていたらあきれてしまうのですが。
Q: アメリカが中南米その他でクーデター(政権転覆)を起こし続けてきたことは、チョムスキーにとっては自明のことです。ウクライナ情勢は単にその応用問題にすぎないのではないでしょうか。


────────────────────────────────────────

────────────────────────────────────────
 まず第一にアメリカが中南米その他でクーデター(政権転覆)を起こし続けてきたことは、チョムスキーどころか多くの識者には自明のことです。チョムスキーはそれを『アメリカが本当に望んでいること』という小冊子で簡潔明快に説明していますが、さらにそれを事典規模で明らかにしたのが、ウィリアム・ブルム『アメリカの国家犯罪全書』(作品社、2003)でした。著者ブルムについては、訳書の「著者解説」で次のように説明されています。
アメリカの国家犯罪、CIAの謀略を暴きつづけているアメリカ人ジャーナリスト。国務省の外務担当だったが、1967年、ベトナム戦争に反対して辞職。以降、秘密のベールに包まれていたCIAの内部を暴露し、200名以上のCIA職員の名前を明らかにするなど、まさに命がけの告発をつづけている。本書は、米国・ヨーロッパ・南米・中東・アジアなどを股にかけ、長年にわたる調査・取材をもとにアメリカの真実の姿をまとめた一冊である。

 要するにブルムは単なる著作家ではなくアメリカ国務省で働いてきた人物でした。その彼が祖国に幻滅し、その国家犯罪を全面的に研究し暴露しようとしたのが本書でした。本書は三部に分かれていますが、その第三部は次のような章立てになっています。
第三部 「無法国家」対世界
第17章 米国の世界介入小史 一九四五年~現在
第18章 選挙操作
第19章 トロイの木馬:「米国民主主義基金」(NED)
第20章 米国対世界:国連を舞台に
第21章 盗聴:地球上のあらゆる場所で
第22章 拉致と略奪
第23章 CIAがネルソン・マンデラを二八年間の牢獄生活に送りこんだ経緯
第24章 CIAと麻薬:「何が悪い?」

 この第17章が「米国の世界介入小史 一九四五年~現在」となっていることに注目してください。ここにはアメリカが世界を股にかけて政権転覆(クーデター、レジーム・チェンジ)をおこなってきた歴史が簡潔に網羅されています。
 CIAの悪行については既にアメリカ上院「チャーチ委員会」(1975年12月18日)が詳細な報告書をまとめていますが、ブルムはそれをさらに拡大して「1945年~現在(1999」までを調べたのでした。
────────────────────────────────────────
<註> チャーチ委員会については下記も参照していただければ幸いです。これは『肉声でつづる民衆のアメリカ史』の一節を翻訳&解説したものです。
特別報告「チリでの秘密工作1963~73」
http://www42.tok2.com/home/ieas/church_committee.pdf


────────────────────────────────────────
 チャーチ委員会でCIAの悪行が暴露されてからは、アメリカの海外における政権転覆活動は議会によって抑制されたはずでした。しかし議会監視の目を盗んで活動は秘かに続いていました。
 その典型例が「イラン・コントラ事件」でした。これは、1979年のニカラグア革命により、40年以上続いた親米のソモサ王朝独裁政権が崩壊し、そのあと誕生した左派政権を転覆させようとした謀略事件です。
 なにしろイラクをけしかけてイランと戦争させながら、もう一方ではイランに対しても武器を輸出し、それで儲けたお金をニカラグアの反政府勢力(コントラ)に提供していたのですから、常人では考えられない戦略です。
 しかも議会の監視を逃れるため、武器売買はイスラエルにさせていたのですから、壮大かつ巧妙きわまりない謀略ぶりです。
 しかし、裏で秘かに続いていた政権転覆を、なりふり構わず公然化したのは、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領による米軍のパナマ侵攻(1989)でした。さらに、それを上回る露骨な政権転覆が、その息子ブッシュ氏によるアフガン侵攻とイラク侵略であったことは、周知の事実です。
────────────────────────────────────────
 オバマ大統領は黒人でもあり民主党がたてた大統領ですから政権転覆とは無縁のように見えますが、やっていることはブッシュ氏よりも巧妙で悪辣(あくらつ)です。
 たとえば、2009年にはホンジュラスで軍部がクーデターを起こし、中道左派のセラヤ大統領は官邸で拘束のうえコスタリカへ移送されました。これは明らかにクーデターだったにもかかわらず、この結果できた政権をオバマ氏は承認することにしたからです(クーデターで国外追放されたセラヤ大統領を復帰させないまま選挙は強行された)。
 エジプトで民衆革命が起きイスラム同胞団が政権をとりましたが、ここでも軍事クーデターが起きました。しかしオバマ氏はクーデターと認めることを拒否したままエジプトへの援助を続けています。それどころか暫定軍事政権に抗議する民衆を大量に投獄し500人以上もに死刑判決が出されても、オバマ氏は援助を止める気がありません。
 バーレーンでも独裁王制に抗議する運動が起きていて、民主化を要求する多くのひとが投獄され、終身刑をうけているひとも少なくありません。しかし民衆による「民主化運動」を世界中で支援しているはずのオバマ氏は、ここでも沈黙を決め込んでいます。サウジアラビアの独裁王制にたいする民主化運動についても同じです。
 ですからいまアメリカはウクライナの民主化運動を支援していると言われても、ほとんど誰も信用しないのは当然でしょう。これがアメリカによる工作でないと考えるのは、大手メディアの言い分をそのまま信じている日本やアメリカの一般民衆以外は誰もいないと思います。
 最近、CIAどころか、「アメリカ国際開発庁」(USAID: the U.S. Agency for International Development)という、一見すると「人道支援団体」であるかのような政府機関が、裏でキューバ政府の転覆工作をしていたことが、AP通信社によって暴露され、話題を呼んでいます。この一事を見ただけでも、アメリカが本当に望んできたことは歴然としているのではないでしょうか。

「USAIDは新しいCIAか?、反カストロ運動を煽り立てるために密かにツイッターのプログラムをキューバで構築」
Is USAID the New CIA? Agency Secretly Built Cuban Twitter Program to Fuel Anti-Castro Protests
http://www.democracynow.org/2014/4/4/is_usaid_the_new_cia_agency


────────────────────────────────────────
<註> アメリカ第5艦隊の基地があるバーレーンについては、ほとんど日本では報道されていませんが、これも探せばいくらでも情報はあります。
米支援のバーレーン軍、人権団体監視員の米国人平和活動家2人を逮捕・送還
http://democracynow.jp/dailynews/12/02/13/4
「殺戮と勾留の2年間」:バーレーンの民主化運動  蜂起を記念
http://democracynow.jp/dailynews/13/02/14/3
バーレーンの民衆蜂起鎮圧のために侵攻して2年、シリア衝突の激化に加担するサウジアラビア
http://democracynow.jp/dailynews/13/03/15/2


────────────────────────────────────────
 チョムスキーの論考「世界を『アメリカという脅威』から救う」を翻訳して紹介する際、私はすでにその解説で次のように書きました。
 日本の大手メディアを見ていると、まるでプーチンが現在の危機をつくりだしたかのような論調に満ちています。しかし次の記事では、アメリカが裏で工作をして実質的なクーデターを起こしていることを、元CIA高官のレイ・マクガバン(Ray McGovern)が暴露しています。
「ウクライナの政情不安を引きおこしているのは誰か」
Who Is Provoking the Unrest in Ukraine? A Debate on Role of Russia, United States in Regional Crisis
(March 03, 2014))
http://www.democracynow.org/2014/3/3/who_is_provoking_the_unrest_in

 このインタビューでマクガバン氏は、キエフでの「民衆蜂起」なるものは、CIAがかつておこなっていたことを「疑似NGO」にやらせたことだと述べています。氏によれば、ウクライナではCIAの代わりにNED(アメリカ民主主義基金)による莫大な資金でNGOを装った62のプロジェクトが進行していたそうです。
 しかもこれは過去に東欧その他でおこなわれてきたことであってロシア人の被害妄想ではない、とすら言っています。過去に東欧では多くのいわゆる「カラー革命」なるものが展開されたのですが、その正体はこのようなものだったのです。元CIA高官の発言だけに、この主張には非常な重みがあります。

────────────────────────────────────────
<註> マクガバンの発言原文は次のとおりです。
RAY McGOVERN: Well, a couple of things. You know, it really depends more on who seizes control of these uprisings. If you look at Bahrain, you know, if you look at Syria—even Egypt, to an extent—these were initially popular uprisings. The question is: Who took them over? Who spurred them? Who provoked them even more for their own particular strategic interests? And it's very clear what's happened to the Ukraine. It used to be the CIA doing these things. I know that for a fact. OK, now it's the National Endowment for Democracy, a hundred million bucks, 62 projects in the Ukraine. So, again, you don't have to be a paranoid Russian to suggest that, you know, they're really trying to do what they—do in the Ukraine what they've done in the rest of Eastern Europe and elsewhere.

────────────────────────────────────────
 上記の番組で、マクガバン氏の論争相手として登場したティモシー・スナイダー氏は高名なイエール大学の歴史学教授です。自称「レベラル左派」の彼がウクライナの現状を「独裁者に抗して立ち上がった民衆」という単純な図式でしか見れないのは驚くばかりだと、マクガバン氏は軽蔑的口調で反論していました。
 要するに、議会監視の下でCIAが活動がしにくいところでは、CIAの別働隊が活動し、いまや「疑似NGO」までもがその謀略に参加しているのです。キューバではNED(アメリカ民主主義基金)ではなくUSAID(アメリカ国際開発庁)が暗躍していたことは既に紹介したとおりですが、ベネズエラでも同じです。たとえば下記インタビューを御覧ください。
「元CIA協力者が語る:ベネズエラにおけるCIAの計画は予想をはるかに越えるものだった」
Interview with Ex-CIA Collaborator: “The CIA's Plans in Venezuela Are Far Advanced”
http://venezuelanalysis.com/analysis/10533
 
────────────────────────────────────────
 もう一つここで註記しておきたいことは、NED(アメリカ民主主義基金)とは何かということです。
 先にウィリアム・ブルム『アメリカの国家犯罪全書』第三部の目次を紹介しましたが、その第19章に "トロイの木馬:「米国民主主義基金」(NED)" がありました。その書き出しは次のように始まっています。
 米国民主主義基金(National Endowment for Democracy: NED)について 知っているアメリカ人がどれだけいるだろう?
 この組織は、しばしば、その名とちょうど反対のことを行う組織である。
 NEDは、1980年代初頭、レーガン大統領により設立された。 1970年代後半に、CIAに関するまずいことが色々とあばかれたあとのことであった。
 1970年代後半というのは、注目すべき時期だった。 ウォーターゲートに刺激されて、米国上院のチャーチ委員会、下院のパイク委員会、そして大統領により創られたロックフェラー委員会が、CIAの調査に忙しかった。
 ほとんど一日おきに、CIAが長年にわたって行ってきたひどいことや犯罪的行為が発見されたとメディアをにぎわせた。 CIAは悪名を馳せ、権力者たちは困惑した。
 何らかの処置をしなくてはならなかった。ひどいことをやめる、というわけではむろん、ない。 そこで、ひどいことを、新しい、素敵な響きを持った名前の組織にやらせることとなった。 これが米国民主主義基金(NED)である。[以下略]

 本章の詳細は前掲書を御覧ください。またフランスの『ル・モンド・ディプロマティーク』日本語・電子版2007年7月号に下記の論考が載っているので参考になるはずです。
「米国民主基金という名の工作機関」
http://www.diplo.jp/articles07/0707-3.html


────────────────────────────────────────
 ところで、アメリカが裏でウクライナの政権転覆を援助・画策してきたことは、もっと露骨なかたちで暴露されています。政府のトップ担当官二人の会話が録音されていて、オバマ政権が秘密理に反政府側と何かを画策していたことが明らかになったからです。
「新たな冷戦? ウクライナで衝突が激化するなか 米による政変計画を示唆する録音漏洩」
A New Cold War? Ukraine Violence Escalates, Leaked Tape Suggests U.S. Was Plotting Coup
http://www.democracynow.org/2014/2/20/a_new_cold_war_ukraine_violence

 この、ユーチューブに掲載されたヴィクトリア・ヌーランド国務省副長官(欧州およびユーラシア担当)とジェフリー・ピアット駐ウクライナ米国大使の1月28日の電話連絡で、ヌーランド女史は反対勢力のリーダーシップに触れて、大略つぎのように述べています。
 「元ボクシング世界ヘビー級チャンピオンのクリチコ氏やスボボダ(「自由」を意味する名前の極右政党)の党首チャフヌーボック氏は問題があるので、(ティモシェンコに近い)氏にスポットが当たるようにした方がいい、クリチコ氏は政府部内に入らない方がいい」
 そして、このヌーランド女史の指示どおり、ウクライナ暫定首相の座にはヤチェヌークが座りました。これほど露骨な内政干渉・政権転覆はないでしょう。
 また、2013年11月のデモの開始以降、EU各国の政府関係者がキエフを訪れて、デモ隊の中に入り彼らを激励していますし、上記のヌーランド女史は恥ずかしげもなく公然とクッキーをデモ隊に配っています。
 オバマ政権の政策にたいする抗議としてアメリカではさまざまなOccupy Movement(占拠運動)が全米に広がりましたが、もしニューヨークのズコッティ広場にロシアや中国の大使や高官が現れ、占拠している民衆に対して激励の演説をしたり援助物資を配ったりしたら、アメリカはどんな行動をとったでしょうか。
 この一事を見ただけでも、アメリカの傲慢さ・非常識ぶりがよく分かるのではないでしょうか。

────────────────────────────────────────
次回のブログでは、Nさんとの次のやり取りについて考察するつもりです。
>「オバマ政権の偽善は、史上空前の記録をつくる」を拝見しても、ロシアがクリミア併合をしていい理由についてはまったく分かりませんでした。
Q: クリミヤにはウクライナから独立する権利はないということでしょうか。自分たちの帰属を自分たちで決める権利はないということでしょうか。沖縄も 同じでしょうか。また「ロシアによる軍事制圧下による選挙」という根拠はどこにありますか。国際監視団は単なるお飾りだったと言いたいのですか。

関連記事
スポンサーサイト
検索フォーム
プロフィール

狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

Author:狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

リンク
最新記事
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カテゴリ
月別アーカイブ
最新コメント
RSSリンクの表示
QRコード
QR