ウクライナ情勢の読み方(7)-ショック・ドクトリン&エコノミック・ヒットマン: EUとの提携でウクライナの未来は開けるか

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 最近のウクライナ情勢は、ますます緊迫の度合いを強めています。キエフの暫定政権から極右の武装集団を含めた政府軍が東ウクライナに派遣され、すでに死者まで出る事態になっているからです。
 そこで今回のブログでは、そもそもこの紛争は何が発端だったのを調べてきたいと思います。それはNさんが提起した次の問題(それにたいして私が投げかけた次の質問)に答えることにもなると思います。
>そのような厳しい状況の中でウクライナの変革に起ち上がった進歩的民衆の動向がきになるところですが、ロシアによるクリミア併合は、そのような 対立をクリミアでもそしてウクライナでも煽ることになるだけだと思います。
Q: 「ウクライナの変革に起ち上がった進歩的民衆」とありますが、かれらが「進歩的民衆」だという根拠はどこにあるのでしょうか。

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 大手メディアの報道を読んでいる限りでは、今回の問題は「前大統領ヤヌコービッチが、EUとの協定を撤回してロシアとの提携を深めようとした」「そのことにたいする民衆の反乱が起きた」といった論調が主流を占めているように見えます。
 しかし果たしてそうなのでしょうか。このことを検証するためには、ウクライナの経済状態や「民衆反乱」の経過を調べて見る必要があります。というのは、EUと提携すればウクライナ民衆の生活は豊かになれる可能性があったのかという大きな疑問が残っているからです。
 この点でも前回のブログでも紹介した小手川大助氏の論考「ウクライナ問題について、その2」が極めて興味ある論点を提示していますので、それを以下に紹介しつつ私見を述べることにします。

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 さて、ウクライナは1991年にソ連邦が崩壊したあと独立国になったのですが、経済危機をのりこえるためIMFから借金せざるをえず、その交換条件として「規制緩和」「民営化」「社会福祉の水準の引き下げ」「住宅や公共料金に対する補助金の廃止」という要求を呑まざるを得ませんでした。
 それから20年以上も経ったのですが、ウクライナ経済はよくなったのでしょうか。この点について、独立当時と約20年後を比較して小手川氏は次のような数値をあげています。ご覧のとおり結果は惨憺たるものです。
人口12%600万人減 (5,200万→4,600万)、国内居住人口25%減(5,200万→3,900万)
GDP 32%減 (GDPの世界シェア2% → 0.2%)
ひとり当たりGDP 51%減 (世界平均の+11% → 世界平均の-40%)
電力生産35%減 (トラクター95%減、金属工作機械99%減)
国立科学アカデミーの従業員数50%減(科学者総数70%減、産業関連研究所総数90%減)
雇用者総数1,200万人減
対外借入れ245億ドル増(GDP比率80%)
平均寿命71歳 → 68.8歳(男性は62歳)
年金受給年齢55歳 → 60歳
http://www.canon-igs.org/column/network/20140410_2494.html

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 ソ連邦が崩壊してロシアが資本主義経済に移行したとき、やはり深刻な経済危機に陥り、それを立て直すと称して、やはりIMF資金を導入して極端な「規制緩和」「民営化」を強行しました。
 その結果、深刻な生活難がロシア全土に浸透し、大量の路上生活者と自殺者を産みだしました。これはポーランドでも同じでした。このことは、ナオミ・クライン『ショックドクトリン:惨事便乗型資本主義の正体を暴く』で詳しく述べられています。
 つまり元シカゴ大学教授ミルトン・フリードマンの主張する「新自由主義」「市場原理主義」を取り入れた結果、かつての社会主義経済よりもはるかに民衆の生活は悪くなったのです。むき出しの「弱肉強食」経済に入ったのですから当然のことでした。同じことがウクライナでも起きたのでした。
 ウクライナでは2004年にいわゆる「オレンジ革命」が起きたのですが、これは親露派だと目されていたヤヌコーヴィチ大統領を追い落とすための、「アメリカ民主主義基金」が資金を提供し、NGOを隠れ蓑にした一種の政権転覆工作だったことは、以前のブログで紹介しました。
 しかし、この「オレンジ革命」はウクライナ経済を立て直すのに何の効果もありませんでした。そもそも「市場原理主義」で庶民の生活はよくなるはずもなく、その結果として、一度は「革命」によって大統領になり損なったヤヌコーヴィチが、2010年の大統領選挙では大統領に返り咲くという、皮肉な結果になりました。
 ウクライナといえばチェルノブイリ原発事故(1986)が起きたところですから、平均寿命が60歳代に落ち込んだことは、放射能の影響もあるでしょうが、経済危機・生活難が寿命を縮めていることも確かでしょう。
 雇用者総数1,200万人減、対外借入れ245億ドル増、ひとり当たりGDP 51%減、電力生産35%減 (トラクター95%減、金属工作機械99%減)など、上記の統計数値が示すもの。それが「オレンジ革命」「ショック・ドクトリン」の成果だったのです。

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<註> NED(アメリカ民主主義基金)については、詳しくは下記を参照ください。
http://pub.ne.jp/tacktaka/?entry_id=5247034
また次のような記事があることも発見しました。
「アメリカとEUが反乱者に金を与えている」
US and EU Are Paying Ukrainian Rioters and Protesters

http://www.activistpost.com/2014/02/us-and-eu-are-paying-ukrainian-rioters.html#bPqusuc4lqOwlO61.03


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 さて以上のような悲惨な経済状況のもとでヤヌコーヴィチ大統領に提案されたのがEUとの提携協定でした。小手川氏は、「しかしながら、この協定は以下の通り、経済的には悲惨なものとなることが予想されていた」として次の三つを事実を列挙しています。
(1)第1に注意しておくべきことは、ウクライナはEUの正式なメンバーになることを一度も提案されていないということである。将来を考えてもそのような提案がされることは考えにくい。

(2)第2に、提携協定の署名に伴い、ウクライナの製品の72%について、即座に輸入関税が廃止されるということである。この結果、競争力の乏しいウクライナの産業は、最後に残った東ウクライナの国営企業を含め、壊滅的な打撃を受けることが確実である。ウクライナ科学アカデミーはEUの基準に合致するために、ウクライナは1600億ユーロのコストをかける必要があると試算しているが、この額はウクライナの年間予算の4年分に相当する数字である。

(3)第3に、ウクライナの貿易の60%以上はロシアなどの旧ソ連邦諸国であり、特にロシアはウクライナの輸出の26%、輸入の32%(相当部分が天然ガスの輸入)を占める。ウクライナが提携協定に署名すれば、ロシアはウクライナ経由でEUの製品が自国に流れ込んでくることを防ぐため、ウクライナからの輸入に対し関税をかけることが予想され、結果的にウクライナの工業製品は主要な輸出先を失う一方、競争力がないためにEUには輸出できないという事態が予想された。

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 元大蔵官僚、元IMF理事だった小手川氏が、「ウクライナはEUと手をつないでも未来は悲惨だ」と述べつつ、上記のような事実を述べていることに注目してください。いわば体制側の人物でさえ、このようなことをはっ利明言しているのです。
 かつて世界銀行(World Bank)の副総裁でノーベル経済学賞を受けたジョセフ・スティグリッツは、『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』(徳間書店、2002年)のなかでIMFを痛烈に批判しましたが、小手川氏も、自分の体験からIMFの政策に疑問を持ち始めたのでしょうか。
 それはともかく、EUと提携してもウクライナ経済が好転するどころか悪化する恐れさえあることに、ヤヌコービッチは気づいたのでしょう。その結果やはりロシアとの提携も必要ではないかと思い始めたようです。
 その結果、ロシア大統領プーチンとヤヌコービッチ大統領の会見になったわけですが、このかんの経過を小手川氏は、上記「ウクライナについて、その2」で、次のようにまとめています。
昨年秋にプーチン大統領がヤヌコーヴィチ大統領に会った際に、ウクライナがEUとの提携協定を諦めれば、ロシアは年間150億ドルの資金援助と天然ガスの2割引きという恩恵を与えると約束した。これを聞いたヤヌコーヴィチはEUに対し、EUが毎年150億ドルの資金援助を毎年続けてくれれば提携協定に署名するが、そうでなければ提携協定を諦めて、ロシアとの関税同盟を継続すると提案した。経済状況がひっ迫しているEUは資金援助を行えなかった。その結果、ヤヌコーヴィチは提携協定署名の見送りを11月に発表したわけである。

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 大手メディアでは、ヤヌコービッチ大統領が親ロシア派の人物だからEUを裏切ってプーチンの下へ走り、それにたいして民衆が怒りをもって立ち上がったのが今度の政変であったかのように報道されています。
 しかし、元財務相官僚・元IMF理事であった小手川氏が上記のように述べているのですから、いかに大手メディアが嘘をバラ捲いているかがよく分かるのではないでしょうか。
 ヤヌコービッチ大統領はウクライナ経済の壊滅的状況を前にして、最初はEUと手を握ったりEUに加盟できさえすれば経済は好転すると考えたのかも知れません。しかし調べれば調べるほど、それほど事態は甘くないことを知ったはずです。それはEU加盟国の現状を見れば歴然としているからです。
 ギリシャを筆頭に、イタリア、スペイン、ポルトガルなどは、EU加盟国であるにもかかわらず経済危機から一向に脱却できず、高い失業率が続いています。EUやIMFから資金援助があっても「緊縮政策」を押しつけられ、賃金・年金・医療など社会福祉をすべて削ることが前提になっていますから、庶民の暮らしは悪くなる一方です。
 しかし、EUの現状を知らない一般民衆は、ヤヌコービッチ大統領の裏切りで自分たちの明るい未来が破壊されたと思ったのでしょう。
 というよりも、以前のブログでも紹介したように、元CIA高官マクガバン氏によれば、ウクライナではNED(アメリカ民主主義基金)による莫大な資金でNGOを装った62のプロジェクトが進行していたそうですから、それによって民衆が扇動されたと考えた方が正しいでしょう。

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<註> チョムスキーは「IMFはアメリカ政府の別動部隊である」と述べ、このIMFやEUが各国に押しつけている「緊縮財政」の本当の狙いは、「各国財政の立直し」ではなく別のところにあると鋭く指摘しています。下記論考を参照ください。
チョムスキー「ヨーロッパ福祉国家の解体」
http://www42.tok2.com/home/ieas/Chomsky20121223UnravelingWelfareState.PDF

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 こうして、小手川氏の「ウクライナについて、その1」によれば、事態は大略つぎのように推移しました。
2013年
11月21日 ヤヌコーヴィチ大統領がEUとの提携協定への署名を撤回することを表明。これに対する反対運動が開始(当初は平和的)。
11月30日 反対運動が暴力化。キエフ市長官邸が占拠される。
2014年
2月21日 ウクライナ政府と野党、EUの代表(独、仏、ポーランドの外相)が危機解決に関する協定に調印。
2月22日 デモの最中に警官とデモ隊29名が射殺される。その後群衆が国会を占拠。国会がヤヌコーヴィチ大統領の解任を決議。

 上記の記録を見ると、2013年11月30日に時点で、すでに反対運動が暴力化していることが分かります。ニュース映像を見ていても火焔瓶を警官隊に投げ込んでいるようすや警官が滅多打ちにされている映像もあります。

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 リビアのカダフィ政権、シリアのアサド政権にたいする反対運動のときもそうでしたが、最初は平和的なデモだったものが、いつのまにか抗議運動の一角を占めていた過激派グループ(アルカイダやイスラム原理主義)によって主導権を奪われ、ついには武装したグループによる内戦になってしまいました。
 しかも、これらの過激派グループをアメリカやNATOが支援しましたから、カダフィ大佐は惨殺され政権は崩壊しましたし、シリアはいまだに内戦が終わりません。それと同じことが今ウクライナでも起きつつあるわけです。
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 ウクライナの場合は、イスラム過激派ではなく、極右勢力とネオナチ勢力が暴力行為の戦闘に立っています。この勢力については以前のブログで私は次のように註記しました。
ウクライナにおけるファシストたちへの支持は激増している。2006年の選挙では、ファシスト党であるスボボダ(Svoboda)は0.36%の得票だったが、2012年には10.45%の支持を得て、議会450議席のうち37議席を占める、第4政党に成長した。2月の始めにおこなわれた世論調査では、現大統領(Yanukovych)の対抗してチャーニボク(Tyahnybok)が立候補すれば彼に投票すると54%が答えている(この世論調査は、ヤヌコービッチが引きずり下ろされる3週間前におこなわれた)。このウクライナの右傾化をアメリカが裏で促進しているのだ。貧困化が右傾化をさらに促進させる。日本の右傾化も同じだ。

 ヨーロッパでは「緊縮政策」の結果、貧困が蔓延し、それが右派勢力・ネオナチを伸張させる大きな要因になっています。その典型例がフランスです。せんだっての地方選挙でも極右政党「国民戦線」が各地で大きく躍進し、右派勢力の合計は、およそ46%の得票となりました。

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<註> ウクライナの右傾化については下記を参照ください。
翻訳:Dr. Roberts「オバマ政権の偽善は、史上空前の記録をつくる」
http://www42.tok2.com/home/ieas/Obama%27sHypocricy.pdf

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ドキュメント「チャベス政権, クーデターの裏側」

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 さて、こうしてウクライナでは、時間が経てば経つほど、ヤヌコービッチ政権にたいする反対運動は非常に危険な様相を呈してきました。
 そこでウクライナ政府と野党、EUの代表(独、仏、ポーランドの外相)は、2014年2月21日に、危機解決に関する協定に調印しました。これにはロシアの代表も参加しています。
 この調印について小手川氏は、先に紹介した「ウクライナについて、その1」で、次のように簡潔にまとめています。
(1) 2月21日から22日にかけて何が起こったのか。
 2月21日の合意は、上記のようなメンバーで行われたのである(ロシア代表も出席)が、米国の代表は招かれていないことから、この合意が欧州とロシアの間で行われたことが見て取れる。合意の主要な内容は以下の通りであり外交的解決を図ったものであった。
 ① 2015年に予定されていた大統領選挙を前倒しして2014年12月に行う。
 ② 2004年憲法に復帰し、大統領制から議院内閣制にシフトするべく、憲法改正を行う。
 ③ 入獄していたティモシェンコ前首相の釈放。
 ④ 暴力行為の禁止(警官側も、反対デモ側も)。

(2) この合意は12時間と持たなかった。翌朝、独立広場に集まっていた反対派に対して狙撃が始まり数多くの人が殺害された。デモ隊は銃器も含めた暴力を行使したが、警官隊は21日の合意を守って暴力行為を控えたために、議会が反対派に占拠され、上記合意を行った反対派の一人であったクリチコは同意から身を引き、ヤヌコーヴィチは逃亡した。このような議会の群衆による占拠は狙撃に端を発したものであり、そこで、狙撃を誰が行ったかが重要になるのであるが、この点についての情報を与えてくれているのが上記のエストニア外相とアシュトン外相との会話である。

(3) 混乱の中で議会はヤヌコーヴィチ大統領を罷免し、大統領代理を任命するとともに、数日後にはヌーランド局長が電話の中で一番押していたヤチェヌーク氏が選ばれた。これは、国会を大統領制の上に位置付けるものであり、大統領制を規定したウクライナの憲法に反するものである。本来ならば、憲法に規定されている詳細な手続きをとって国の根幹に関する制度の変更が行われるべきものであったが、今回はそのような手続きを経ずに行われた。憲法には大統領弾劾の手続きが決められていたが、今回の罷免の手続きはこれに反したものであった。このほかにも暴力活動や政府の建物の破壊を行ったデモ隊メンバーへの恩赦や、内務省、安全保障省、検察庁の監督者を任命するなどの越権行為を行っている。

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 以下、順番に上記(1)~(3)について私見を述べていきたいと思います。
 まず(1)ですが、これを読んでいると,アメリカがこの交渉に参加していないことが分かります。またもう一つ大切なことは大統領選挙を前倒しして「2014年12月に行う」としていることです。
 恐らくアメリカはこれに激怒したことでしょう。というのはウクライナを「改革」するために50億ドルという大金をはたいて工作してきたにもかかわらず(これは国務副長官ヌーランド女史がナショナル・プレス・クラブでみずから公言している)、選挙がおこなわれれば再び親露派大統領が当選する可能性が十分にあるからです。
 しかしEUにしてみれば、もともと紛争の原因はウクライナがEUと経済協定するかどうかにあったわけですから、いちいちアメリカに相談するいわれはないはずです。
 ましてドイツ首相メルケルを初めてとしてEU首脳がアメリカNSA(国家安全保障局)によって盗聴されていることが暴露されているのですから、アメリカにたいする反発もあったでしょう。
 とはいえ、このままではウクライナを不安定化させて政権転覆にもっていくことはできません。そこへ具合のいことに2月22日の事件がおきました。そして,この狙撃事件のおかげでヤヌコービッチ大統領を放逐することができました。
 
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 そこで問題になるのが、誰がこの狙撃行為をおこなったかということです。
 これについて小手川氏は上記(2)で、「この点についての情報を与えてくれているのが上記のエストニア外相とアシュトン外相との会話である」と述べているのですが、氏のいう「エストニア外相とアシュトン外相との会話」とは次のような事実を指しています。
 盗聴されて3月5日にユーチューブにリークされたキャサリン・アシュトンEU外務大臣とウルマス・パエト エストニア外務大臣の電話でのやりとりである。
 (これは2014年3月17日現在、視聴可能である。エストニア外務省は、本件の漏洩された会話が正確なものであることを確認している。)
 この会話はエストニアの外務大臣がキエフ訪問から帰還した2月26日に行われたものであるが、エストニア外務大臣は22日の射撃について、市民と警官を狙撃したのはヤヌコーヴィチ政権の関係者ではなく、反対運動の側が挑発行動として起こしたものである、ということをアシュトン大臣に告げている。
 パエト大臣は全ての証拠がこれを証明しており、特にキエフの女性の医師は大臣に対し、狙撃に使われた弾丸が同じタイプのものであるということを写真で示したということである。大臣は新政権が、何が本当に起こったのかということについて調査をしようとしていないことは極めて問題であるとしている。
 

(以上は、同じく氏の「ウクライナについて、その1」からの引用です)

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 上記で小手川氏は、狙撃事件は「ヤヌコーヴィチ政権の関係者ではなく、反対運動の側が挑発行動として起こしたものである」としか述べていません。
 しかし、かつて2002年4月11日に、ベネズエラでチャベス大統領を追放するクーデターが起きたときも狙撃事件がきっかけでした。
 今では、この事件は当時のアメリカおよびエル・サルバドールの右翼政権が陰謀を支援したことが、明らかにされています。
 というのは、このチャベス政権クーデターについては、偶然その場に居合わせたアイルランドの映像記者がその一部始終を記録し、数々のドキュメンタリー賞を受けたものがあるからです。
 (これは2003年11月22日のNHK・BSプライムタイム「チャベス政権 クーデターの裏側」で放映されました。今や国営放送と化したNHKではなかなか考えられないことです)。
 そのことを考えると、今回の狙撃事件も同じことが起きた可能性が十分にあります。

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 というのは、『エコノミック・ヒットマン: 途上国を食い物にするアメリカ』(東洋経済新報社、2007)を著したジョン・パーキンスによれば、外交的手段が失敗したら次はジャッカル[狙撃手、スナイパー]の出番だ」とはっきり述べているからです。
 彼は「エコノミック・ヒットマン」を生涯の仕事にしてきた人物です。
 すなわち一流コンサルティング会社のチーフエコノミストとして、「石油をはじめ豊富な資源を持つ途上国の指導者に対して、IMFやWB世界銀行の融資を受けて国家を近代化すれば飛躍的な経済成長を達成できると言葉巧みにもちかけ、その国に巨額の債務を負わせる」ことが彼の仕事でした。
 その彼が、「エコノミック・ヒットマン」として政府指導者の説得・だましに失敗したら「次はジャッカルの出番だ」と言っているのです。
 ウクライナにはアメリカの傭兵集団Blackwater(現在名はGreystone)が入り込んでいるという報道もありますから、彼らがジャッカルの役割を担った可能性もあります。
http://rt.com/news/ukraine-military-mercenaries-buildup-013/

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<註> アメリカの傭兵集団Blackwaterについては、ジェレミー・スケイヒル(Jeremy Schahill)の有名な著書『Blackwater: The Rise of the World's Most Powerful Mercenary Army』があります。残念ながら邦訳はまだ出ていないようです。

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 その真否はともかく、アメリカはヌーランドの描いた筋書きどおりヤチェーヌクをウクライナ暫定政権トップの座にすわらせることに成功しました。では、新政権の誕生で、ウクライナ経済はうまくいくのでしょうか。
 上記『エコノミック・ヒットマン』の「訳者あとがき」には次のようなことが述べられています。
じつのところ[WBやIMFによって] 融資された金は巨大なインフラ建設を受注するベクテルやハリバートンなどの米企業と、現地の利権を握っているほんの一部の富裕なエリート層の懐へと流れる。庶民の暮らしはまったく良くならない。それどころか、債務はとうてい返済できず、貧しい者はさらに貧しくなる。さらに、債務国の政府は負債の罠に絡めとられて、天然資源や国連の議決権を奪われたり、米軍基地の設置を強いられたりすることになる。グローバル化が進む現代では、エコノミック・ヒットマンの活動は質量ともに驚くべき次元に到達しているという。まったく恐ろしいからくりだ。

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 いまヨーロッパでも同じことが起きています。ギリシャではパンテオン神殿があることで有名な国立公園でさえ外国資本に売り渡される可能性がある、という話さえ耳にしました。
 だとすればウクライナがEUやIMFから資金援助を受けたとしても未来が好転する可能性は極めて少ないでしょう。事実、小手川氏も「ウクライナについて、その2」で次のように書いているのです。
 新政権の誕生により、ロシアがウクライナに約束した150億ドルについては、1回目の支払いである30億ドルが行われただけで停止した。
 また天然ガスの2割引きも反故となり、逆に2割増しの価格をロシアはウクライナ新政権に提示している。
 これに対し、EUが新政権に提示した援助額は5億ドルに過ぎない。また米国は10億ドルの支援を下院が決定したが、これは政府保証だけで現金ではない。
 IMFが150億ドルの支援を準備しているが、当然これには、給与や年金削減といった厳しい条件が付いてくるものと思われる。
 このような厳しい状況でウクライナ経済が持つかどうか、また新政権が一般の支持を継続できるかどうか、極めて疑問である。


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 今回のブログ冒頭で私は、「"ウクライナの変革に起ち上がった進歩的民衆" とありますが、かれらが "進歩的民衆" だという根拠はどこにあるのでしょうか」という問を投げかけました。
 しかし、今まで述べてきたことを読んでいただければ、この問いにたいする答えは明らかでしょう。
 その証拠に、新政府の大臣ポストにいわゆる「ネオナチ」として知られていた「スボボダ」などの極右の党の幹部が次々に任命されています。たとえば副首相、農業大臣、環境大臣、教育大臣、スポーツ大臣、国家安全保障及び国防会議議長が極右の人物で占められているのです。
 そのうえ新政府の代表者たちは、2月23日に、「ウクライナ民族社会」の設立を発表し、「ロシア語を使用する者は全て、ウクライナ民族社会の正当な権利を有するメンバーという地位を剥奪され、市民権及び政治上の権利が差別されるべきである」としました。
 これは一種の「民族浄化」政策です。ですから、ウクライナ東部のひとたちが抵抗に立ち上がったのは、ある意味で当然のことだったと私には思えます。
 オバマ政権は、それがロシアの陰謀、プーチンの差し金によるものだと主張していますが、アメリカ民衆はいずれ真実を知ることになるでしょう。
 問題はそのまえに今後どれだけ多くの血が流されることになるのかということです。私にはそのことだけが心配です。
 
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<註> ドキュメンタリー「チャベス政権クーデターの内幕」はYouTubeでもアップされています。また木村奈保子氏による詳しい解説が下記(キャッシュ)にあります。
http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:b6lllUYM_B8J:www.jca.apc.org/stopUSwar/Bushwar/venezuela_coup.htm+&cd=6&hl=ja&ct=clnk&gl=jp

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 私の「ウクライナ情勢の読み方」は、一旦ここで打ち止めにさせていただきたいと思います。
 情勢はますます緊迫していますし、ウクライナが経済的に大きくロシアの援助に依存してきた事実など、まだまだ書き残したことは多いのですが、これを書いているといつまでも腰痛が完治しませんので、どうかお許しください。
 しかし今後のウクライナ情勢を判断するための基礎的事実、基本的視点だけは提示できたのではないかと思っています。ますます激動して行くであろう状況を分析するさいの、参考にしていただければ幸いです。
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狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

Author:狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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