私たちは、どのような国と「集団的自衛権」の条約を結ぼうとしているのか(下)―リビアおよびシリア内戦が私たちに教えてくれたこと


現在の中東地図

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アメリカ=NATOが構想する新しい中東分割地図
すでにイラクが「クルド人国家」「スンナ派国家」「シーア派国家」に3分割!


http://www.globalresearch.ca/the-destruction-and-political-fragmentation-of-iraq-towards-the-creation-of-a-us-sponsored-islamist-caliphate/5386998
*この地図はペンタゴンの公式サイトには出てきませんが、NATO軍の高官が学ぶ防衛大学の訓練プログラムに載せられているものです。つまり内戦は仕掛けられたものだということです。
http://www.globalresearch.ca/plans-for-redrawing-the-middle-east-the-project-for-a-new-middle-east/3882



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 いま日本が「集団的自衛権」の条約を結ぼうとしている相手は、アメリカです。しかしアメリカという国がどういう国であるかを知らなくて、どうして条約を結ぶことができるのでしょうか。
 というのは、いったん「集団的自衛権」の条約を結んでしまえば、そしてアメリカが戦闘行為に入ってしまえば、それに従わなければ条約違反になってしまいます。日本が戦闘行為に入ったらアメリカが守ってくれるという利点よりも、アメリカによって戦争に巻き込まれる危険性の方がはるかに大きいのです。
 なぜならイラク戦争で典型的に示されたように、アメリカは自分の利益を追求するためなら嘘をついてでも平気で戦争を始める国だからです。チョムスキーが自分の国アメリカを「ならず者国家:Rouge State」と呼んだように、アメリカという国はそれほど危険な国なのです。
 このイラク戦争では、一時的に訪れた平和な時期に「復興」という名目で自衛隊はイラクに送られましたが、今度は戦闘行為そのものに参加せざるをえなくなります。 

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 ブッシュ氏がアフガンやイラクで戦争を開始したとき世界の世論は、反戦平和の声を強くし、フランスなどは明確にイラク戦争に反対し、アメリカからは「古いヨーロッパ」と罵倒されたくらいでした。
 ところがオバマ氏になってからは、戦火はイラクを越えてイエメン(アラビア半島)、リビア(アフリカ北部)、さらにシリア、そして今度はウクライナです。アメリカが戦争する地域は拡大する一方なのです。その他にも、ブッシュ氏でさえやろうとしなかった(あるいはやる余裕がなかった?)クーデターにまで、オバマ氏は手を伸ばしました。
 しかし不思議なことに、あれほど激しかったブッシュ批判が、オバマ氏になると急に小さくなり、いわゆる独立メディアからさえ、ほとんど聞こえてこなくなってしまいました。これは非常に危険な徴候です。大手メディアどころか国際的な人権擁護団体すらアメリカの別働隊に成り下がっていることを示しているからです。
 そこで、もう一度、「ならず者国家」のたどってきた軌跡をあとづけるために前回のブログではアフガンやイラクでアメリカがどのような戦争をしてきたのかを述べてきましたが、今回は主としてリビア、シリア、ウクライナに焦点をあてながら、私見を述べたいと思います。

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 リビアのカダフィ大佐は欧米からは独裁者というレッテルを貼られ、リビアの民衆蜂起は「独裁者打倒の闘い」として賞賛されました。ですからアメリカを中心としたNATO軍がリビアを爆撃しても、これに疑問を呈する大手メディアは皆無でした。
 しかしその後のリビアはどうでしょうか。イラクと同じ混乱状態です。アメリカやNATOが主導してリビアを絨毯爆撃してつくりあげた「民主国家」といわれるものの実態がこれなのです。
 イラク戦争の時は「古いヨーロッパ」と罵倒されながらも戦争開始に断固として反対したフランスは、今回は爆撃の先頭に立つ始末でした。今になって考えてみると、フランスがアメリカによるイラク攻撃に反対したのは、すでにフセイン政権とのあいだに油田開発の利権を確立していたからだと思わざるをえません。
 リビアは人口約650万人、人口的には福岡県と佐賀県を合わせたくらいの小国ですが、豊富な油田があり、石油の埋蔵量はアフリカ最大といわれているほどです。カダイフィ大佐は欧米の利権にのみ奉仕してきた石油を自分たちの手にとりもどし、国民の教育や福祉にあててきました。
 だからこそカダフィ政権時代は、一人当たりのGDPはアフリカでは最上位レベルで12000ドルを超えており、先進国クラスでした。そのおかげで、6歳から15歳までの初等教育と前期中等教育は無償の義務教育期間となり、その後3年間の後期中等教育を経て高等教育への道も開けていました。
 義務教育に限らず、国公立の学校の学費は無償でしたから、2003年の15歳以上の人口の識字率は82.6% でした(CIAのWorld Factbook)。ですから女性でも大学に行けました。リビアでは女性の方が、男性よりも、高等教育の奨学金制度を利用していました。社会いたる所に女性のプロフェッショナルを見かけることができました。
 多くのリビア女性が科学者、大学教授、弁護士、医師、政府職員になっていました。カダフィ政権は一貫して女性がその生き方を自由に選べるような政策を取って来たからです。しかし今のリビアから、このような自由は消えてしまいました。これが「自由と民主主義の旗手アメリカ」がやってきたことです。
 このような事実を考えると、「アラブの春」と賞賛されたカダフィ政権打倒は、欧米諸国がかつての利権をとりもどすために、「民衆蜂起」なるものをつくりだし、そのさい、アメリカ自身が「テロリスト」と名づけてきたイスラム原理主義集団の力をも利用しておこなったクーデターと言うことができそうです。
 地上ではまず世俗集団に「民衆蜂起」をおこなわせ、武装闘争になるとイスラム原理主義集団の力を利用するという構図です。今のシリアでも同じ構図が見られますし、かつてアフガニスタンでソ連軍と戦わせられたのも「ムジャヒディーン」と言われるイスラム原理主義集団でした。そのなかで育てられた人物がビンラディンであったことは今では周知の事実となっています。

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 しかし、このような事実を大手メディアはいっさい報道してきませんでした。今では数少ない独立メディアとして世界的に有名になりつつあるDemocracyNow!でさえ、アメリカ主導のNATO軍による爆撃を何の疑問を提起することなく報道し続けていました。
 そして私も最初は「アラブの春」と賞賛されたカダフィ政権打倒をほとんど疑問をもたずに受けとめてきました。しかし、NATO空軍機の出撃回数(sorties)は5ヶ月間に2万回を超え、一日あたり130回の物凄さでおこなわれた爆撃をみているうちに、少しずつ疑問がわいてきました。
 その時に出会ったのが藤永茂氏の「私の闇の奥」というブログでした。これについては、私の下記で紹介しましたが、以下にその一部を再録しておきます。
リビアの都市ベンガジにおけるアメリカ大使館員の殺害事件をめぐって――エマ・ゴールドマンの「愛国主義」(2)
http://pub.ne.jp/tacktaka/?entry_id=4532481(2012/09/18)
 リビアの人口約650万人、人口的には福岡県と佐賀県を合わせた位の小国です。ミサイルの標的が戦車であれ、輸送車 両、船舶であれ、カダフィの住宅であれ、放送局、大学であれ、無人ではない場合が普通でしょうから、多数の人間が殺傷されたに違いありません。
 8月上旬に、NATO空爆による死者2万という報道がちらりと流れたことがありましたが、あり得ない数字ではありません。
 しかも、NATOの反政府軍支援は空爆に限られたわけではありません。大型ヘリコプターなどによる兵器・弾薬・物資の補給も行なわれ、地上でも多数のNATOやCIAの要員が間接的に参戦した模様です。
 しかし、こうしたNATOの活動の具体的報道は殆ど完全な管制下にあります。これだけの規模の軍事暴力が、国際法的には全然合法性のないままで (UNの決議内容をはるかに超えて)、人口数百万の小独立国に襲いかかったのです。
 まことに言語道断の恐るべき前例が確立されました。カダフィと息子たちの今後の命運など、この暴虐行為の歴史的意義に較べれば、三面記事の値打ちしかありません。(藤永茂「リビア挽歌(2)」より引用)

 しかし老齢の物理化学者がこれだけの分析をしているのに日本の大手メディアの記者たちは何をしているのでしょうか。

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 ところで、前回のブログ冒頭で「いま私たちは非常に奇妙な時代に生きています」と書きました。そして次のように付け足しています。
 「民主主義の旗手・世界の指導者を自認する強大国の大統領が平気で嘘をついて戦争を始め、有名な大手メディアもそれに追随する時代だからです。世界的な人権擁護団体Human Rights Watchですらアメリカの別働隊になっている時代です。」

 私がこのように書いたのは、今や「権力に媚びない独立メディア」として世界的に有名になったDemocracyNow! でさえ、リビアについてはほとんど何も報道しないに等しかっただけでなく、世界的な人権擁護団体Human Rights Watchがむしろリビア爆撃を推進する立場だったからです。
 国連の安保理事会でリビアの空域を管理することが決議された背景には、Human Rights Watchがカダフィ政権が女性をふくむ多くの人権侵害を引きおこしていると非難したことが大きな役割を果たしたと言われています。しかし実はそれが真っ赤な嘘だったことが暴露されています。
 というのは、二人のノーベル平和賞受賞者アドルフォ・ペレス・エスキベル Adolfo Pérez Esquivel とマイレッド・マグワイアMairead Maguire、そして100人以上の学者たちで組織されたグループが、2014年5月12日、Human Rights Watchの仕事をきびしく批判する公開書簡を発表したからです。

Open Letter to Human Rights Watch: Close Your Revolving Door to U.S. Government
http://www.alternet.org/world/nobel-peace-laureates-human-rights-watch-close-your-revolving-door-us-government

 この書簡では、HRW(Human Rights Watch) とアメリカ政府の間では回転扉のように人材が入れ替わり、リビアやベネズエラを含む幾つかの国々でのHRWの仕事に重大な影響がでていると批判しました。そして、「アメリカの外交政策の作成や実行に関わった人物をスタッフ、アドバイザー、理事会役員として雇うことを、HRW は禁止するべきだ」と主張しています。
 この公開書簡では、HRWの不正については書簡という体裁のため具体的事例が少ししか挙げられていませんが、この書簡をまとめた活動家のキーン·バットKeane Bhattは、これとは別に、すでに(Feb 5, 2014)、下記のような詳細な論文を発表しています。彼はこの論文を下敷きにしながら公開書簡の原案を書いたのでした。

Keane Bhatt: “The Hypocrisy of Human Rights Watch”(HRWの偽善)
http://www.globalresearch.ca/the-hypocrisy-of-human-rights-watch/5367940

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 オバマ大統領のアメリカは、リビアの次にシリアの体制転覆に乗り出しました。
 ここでも最初は「民衆蜂起」という体裁をとっていた運動が、いつのまにか「武装闘争」というかたちを取り始め、アサド政権を倒そうとする勢力にアメリカやNATO諸国が武器援助をするという、リビアと同じ様相を呈し始めました。
 アメリカはリビアの時と同じように国連安保理事会に諮(はか)ってシリアの制空権を確保しようとしました。しかし、リビアの体制転覆がリビア民衆にとって何の益をもたらさなかったことを知ったロシアや中国は、このような動きに反対しました。
 そこで次にオバマ氏の持ち出したのが、「アサド軍が化学兵器をつかって民衆を殺傷している」という口実でリビアを爆撃するという計画でした。(むしろ化学兵器を使ったのは、反体制軍の一派であるイスラム原理主義集団の可能性が濃厚でした。)
 しかしこれも、「フセインが大量破壊兵器をもっている」という口実と同じく、何の根拠もないことが暴露されました。そこで窮地におちいったオバマ氏は、「シリア爆撃の賛否」をアメリカ議会にかけると言い出しました。
 アメリカ民衆の大多数は戦争拡大政策に嫌気がさしていました。それどころか,この時点で共和党でさえ「シリア爆撃」に反対する方向へと動いていましたから、議会にかければオバマ提案は否決され、面子は丸つぶれになっていたことでしょう。
 しかし、ここに助け船が現れました。それがロシア大統領プーチン氏でした。プーチン氏はシリアのアサド大統領に化学兵器の廃棄を納得させ、それとひきかえにアメリカの「リビア爆撃」を断念・撤回させたのです。おかげでオバマ氏は自分の提案が議会で否決されるという恥辱を免れることができたのでした。
 もしアメリカがシリア爆撃に踏み切っていたら、シリアは今と比べものにならないくらいの凄惨な様相を呈していたことでしょう。イラクやリビアの死者の数・難民の数を考えてみればそれはすぐ分かることだと思います。だからこそ、プーチン氏がノーベル平和賞にノミネートされたのも、ある意味では当然のことであったと思います。
 しかし実際に2013年度のノーベル平和賞を受賞したのは、ほとんど何の実績も持たない「化学兵器禁止機関」(OPCW:Organisation for the Prohibition of Chemical Weapons)でした。まるでオバマ氏にノーベル賞をやったときと同じ授賞のしかたでした。
 いずれにしても、今回の授賞劇は、他のノーベル科学賞と比べてノーベル平和賞というものが、いかに政治的思惑によって決定されているかを如実に示すできごとでした。

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 OPCWに授賞するくらいなら、プーチン氏にこそ授賞すべきだったでしょう。なぜなら、アサド政権に化学兵器の廃棄を決意させたのはプーチン氏だったからです。
 また、亡命先を失って途方にくれていたスノーデン氏に、アメリカの怒りを買うことを承知の上で、一時的であれ安住の地を与えたのですから、その点も評価すべきだったと思います。
 まして、スノーデン氏自身もノーベル平和賞にノミネートされていましたから、これは特筆すべきことではないでしょうか。この意味でも、「OPCWに平和賞を授賞させるくらいなら、なぜプーチンに授賞しないのか」という疑問や怒りが出てきたのも、当然のことでした。
 また、小国で貧困国である南米の発展途上国がスノーデン氏に亡命先を提供しているのに、オバマ氏によって妨害され実現せず、他方で豊かな文明国であるはずの欧州諸国が、アメリカの怒りを恐れて、どこも亡命先を提供しようとしないのですから、これほど奇妙な状況はありません。
 もうひとつ奇妙だったのは、今では世界的独立メディアとして名声を獲得しつつあるDemocracyNow! が今回のシリア問題でも、「独裁者アサド」のイメージを強める役割しか果たさなかったことでした。
 そもそも「ブッシュ氏が911事件をきっかけに、愛国者法案などを通じて、アメリカを全体主義国家にするのではないか」という危機感から、DemocracyNow! という独立メディアを起ち上げたはずだったのに、リビアやシリア問題になると急に腰砕けになってしまいました。
 何度も言いますが、いま私たちは実に奇妙な時代に生きているのです。
 世界的に高名な人権団体HumanRightsWatchや独立メディアDemocracyNow! でさえ、それをそのまま信用できないとなると、私たちは何を信用すればよいのでしょうか。
 研ぎ澄まされた「メディア・リテラシー」(情報を読み解く力)がこれほど要求される時代は、かってなかったのではないでしょうか。

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 それはともかく、オバマ氏が最後に手を出したのがウクライナでした。ここでも最初は平和的な「民衆蜂起」というかたちをとりました。
 しかし、それがいつのまにか武装したネオナチや極右暴力集団による暴力的な政権転覆に移行し、さらにいま内戦にいたっていることは、リビアやシリアの場合とほとんど同じです。
 ここまで書いてきたら力尽きました。しかしウクライナについては「ウクライナ情勢の読み方」(1~7、補足編、番外編)などを通じてかなり書いてきましたので、今回は割愛させていただきます。
 とはいえ今までのブログで、チョムスキーの言う「ならず者国家」アメリカと集団的自衛権を結ぶことがどれだけ恐ろしいことか、その一端だけでも御理解いただけたのではないかと思います。
 (それどころかアメリカと行動を共にすることは、莫大な血税を使って自衛隊に戦争犯罪の手助けをさせるだけでなく、世界中で多くの無実のひとを殺傷したり難民化させることになるでしょう。)

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<註> 今回このブログを書くにあたって、藤永氏の「私の闇の奥」におけるリビア関係のものを検索し読み直してみました。以下がその一覧です。時間がある方はぜひ覗いてみてください。
* 中東/アフリカの女性たちを救う?(1~2) 2011/08/10,17
http://huzi.blog.ocn.ne.jp/darkness/2011/08/post_23b4.html
* リビア挽歌(1~2) 2011/08/24,31
http://huzi.blog.ocn.ne.jp/darkness/2011/08/post_8437.html
* リビアのこと憶えていますか? 2014/06/11
http://huzi.blog.ocn.ne.jp/darkness/2014/06/post_515e.html

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<註2> 最近のニュースで突然、ISISなるイスラム原理主義集団が現れて、イラクの現政権をおびやかしていますが、この正体については下記の論文が見事に暴露しています。

ISIS in Iraq stinks of CIA/NATO ‘dirty war’ op
William Engdahl、June 24, 2014 10:22
http://rt.com/op-edge/168064-isis-terrorism-usa-cia-war/

The Engineered Destruction and Political Fragmentation of Iraq. Towards the Creation of a US Sponsored Islamist Caliphate
―The Islamic State of Iraq and al-Sham: An instrument of the Western Military Alliance

By Prof Michel Chossudovsky、
Global Research、June 14, 2014
http://www.globalresearch.ca/the-destruction-and-political-fragmentation-of-iraq-towards-the-creation-of-a-us-sponsored-islamist-caliphate/5386998
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狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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