進行する二つの「民族浄化」―イスラエルとウクライナで、しかもアメリカの支援で。

平和研究(2014/07/17)
政府軍の爆撃で瓦礫の街と化したウクライナ東部
政府軍の爆撃で瓦礫の街と化したウクライナ東部
https://vk.com/photo-69838054_334295736
ルガンスク市のもっと凄惨なようすは、下記の写真集を御覧ください。ここでは紹介できませんので。
https://vk.com/album-69838054_198072706


 いま二つの「民族浄化」が進行しています。ひとつはイスラエルで、もう一つはウクライナです。
 今まで日本のメディアではイスラエルによる蛮行が大手メディアに登場することはほとんどありませんでした。しかし最近ようやくイスラエルが西岸地区の住民から強制的に土地や家屋を取りあげ抵抗するひとたちを殺したり牢獄に入れることをくりかえしてきたことが、報じられるようになってきました。
 かつてアメリカで白人が先住民の土地を取りあげてきたのと同じやり方ですが、アメリカの場合、先住民の土地を奪うときには、いちおう借用証書らしきものを書きました(ただし返却するつもりは初めから無い)。しかしイスラエルのばあい力尽くで奪うだけです。理由は、旧約聖書に「神からユダヤ人に約束された土地」と書かれてあるから!!


 他方で、パレスチナのガザ地区に閉じこめられたひとたちには出口がありません。チョムスキーはこれを「青天井の牢獄」と呼びました。
アメリカ理解(1)―オバマの偽善、「青天井の牢獄」、「民族浄化」としてのパレスチナ
 ここを実効支配しているのが「ハマス」という集団で、彼らは「テロリスト」とか「イスラム原理主義集団」だと呼ばれてきましたが、彼らは選挙で選ばれた正式なパレスチナの代表者です。
 もう一方の西岸地区を実効支配してきたのが「ファタハ」と呼ばれるひとたちですが、このひとたちをアメリカとイスラエルは裏で支援してきました。この「ファタハ」の幹部が腐敗堕落していて、その不満を感じているひとたちが「ハマス」を支持して、選挙では多数を占めたにもかかわらず、アメリカは「ハマス」による組閣を認めませんでした。
 そして「分裂させて支配する」のが支配者の常道ですから、アメリカとイスラエルは、この「ハマス」と「ファタハ」をお互いに喧嘩させながらパレスチナを管理してきました。。ところが、分裂させてうまくコントロールしてきたつもりなのに、「ハマス」と「ファタハ」は最近、分裂を解消して、連立政権をつくることを発表しました。


 慌てたのはイスラエルです。そこでイスラエルの少年3人を「ハマス」が誘拐して殺害したという口実で、猛烈な攻撃を始めました。
 「ハマス」もこの挑発に乗って反撃しましたが、軍事力の差は歴然としていて、子どもと大人の喧嘩に等しく勝負になりません。死者の8割が民間人と言われる状況になっています。
 「パレスチナ人はイスラエルから出て行け」「イスラエルはユダヤ人の国だから、ユダヤ人以外はここにいる必要はない」「まわりにアラブ人の国があるのだから、そちらに移住すればよいではないか」とイスラエルは主張してきましたから、「民族浄化」は国策でもあったのです。
 爆撃で殺されるのがいやならここから出ていけということを、パレスチナ人に恐怖感(これがテロの原義です)に訴えて、体で教えるためには、むしろ民間人への爆撃は必要不可欠の作戦とも言えるわけです。こうして、いま「民族浄化」「国家テロ」がイスラエルで進行しています。これは明らかに「戦争犯罪」でもあります。
 しかも、このような「国家テロ」「戦争犯罪」を黙認し、裏で支援しているのがアメリカですから、なんという醜悪きわまりない国家なのでしょうか。チョムスキーが次のように嘆くのも無理はありません。
チョムスキー20140207「世界を "アメリカという脅威" から救う」
チョムスキー120903「なぜアメリカとイスラエルは世界平和にとって最大の脅威なのか」


 このイスラエルにおける「民族浄化」と同時進行しているのが、ウクライナにおける「民族浄化」です。しかし、イスラエルと違ってウクライナの「民族浄化」は大手メディアからは黙殺されたままです。
 今まで大手メディアがイスラエルにおける「民族浄化」をこれだけ大きく取りあげたことがなかったのに、ウクライナについてはほとんど沈黙しているのは非常に不可解です。
 というのは、東ウクライナの住民にたいする「民族浄化」ぶりは、パレスチナ人が受けている仕打ちよりも負けず劣らず凄惨なものだからです。たとえばオデッサにおける虐殺ぶりを見てください。
ウクライナ情勢の読み方(補足編)―オデッサの虐殺を繰りかえさせてはならない!


 このウクライナ政府軍の攻撃ぶりを見ていたとき、私のまぶたに自然と浮かんで来たのが韓国・光州市の市街戦でした。
 当時の韓国は独裁政権の朴正煕大統領がKCIA部長によって暗殺され、それを受けて軍保安司令官だった全斗煥が次の独裁政権をつくりあげました(1980年5月)。
 しかし民主化を要求する学生デモが全土に広がり、このなかで最後まで戦闘的に闘ったのが光州市民と学生たちでした。
 光州市は周囲を韓国軍に包囲され、食料も手に入らない状況に追い込まれましたが、市民・学生はこれに屈せず、バスやタクシーを倒してバリケードを築き、角材や鉄パイプ、火炎瓶などで応戦しました。
 5月21日、群集に対する空挺部隊の一斉射撃が始まると、市民は郷土予備軍の武器庫を奪取して武装し、市街戦となりました。
 この軍が包囲する中で市民が武器を取って自衛にたちあがっていく姿、しかし圧倒的な軍事力で制圧され敢えない最後をとげていくようすは、韓国映画『砂時計』でも再現されて大きな話題をよびました。というのは、独裁政権の下で一切が封印されてきたから韓国民すら実態を知らなかったからです。
 それはともかく、この弾圧ぶりはルガンスク市やドネツク市の未来の姿になるに違いないと私は想像していましたが、現在まさに私の予想したとおりになっています。
<註>
 のちに大統領になる金大中も、この騒乱のなかで逮捕され、内乱予備罪・陰謀罪・反共法違反・国家一級保安法違反を理由とする死刑判決をうけています。
また事件の中で、韓国軍の作戦統制権を持っていた在韓米軍のウィッカム司令官が韓国軍部隊の光州投入を承認し、アメリカ政府も秩序維持を理由にこれを黙認したことも忘れてはならない事実です。


 ところで、ウクライナ危機が裏でアメリカが仕組んだクーデターであり、内閣の重要ポストがネオナチや極右勢力で占められていることは、このブログで何度も指摘してきました。
 新しく選挙で大統領になったポロシェンコ氏は「チョコレートキング」と言われているとおり財界大企業を代表する人物で、立候補の演説ではウクライナ東部のひとたちの要求を聞きながら、新しいウクライナをつくっていくと言っていました。
 しかし当選すると今までの主張を投げ捨て、「ロシア人・ロシア語話者はウクライナから出て行け」「ウクライナ人によるウクライナ人のための国をつくる」「いま抵抗しているひとたちはテロリストだから殲滅する」と言い出しました。これではイスラエルの「民族浄化」政策と何ら変わるところがありません。
 事実いまウクライナ東部で進行しているのは紛れもなく「民族浄化」政策です。空爆は民家や学校や病院など、自衛軍のひとたちが拠点にしている場所とは何の関係もないところを爆撃し、市民はもちろんのこと麦などが育っている畑地も爆撃されています。住民が生活するための手段を根こそぎ破壊するためとしか考えられません。
 さらに、現地で取材している記者やカメラマンまでも殺されています。ロシアの報道人だけでなくイタリアからの報道人も含まれています。いかに自分たちのしていることが世界に知られると都合が悪いかをみずから証明しているようなものです。
<註> 
 アメリカ共和党の最右翼ロン・ポール氏が設立したロン・ポール研究所の常任理事のダニエル・マキャダムス氏でさえ、ウクライナ当局は民族浄化を遂行していると語っています。詳しくは「マスコミに載らない海外記事」の下記翻訳を御覧ください。
東ウクライナの出来事は‘民族浄化作戦の開始’(2014.07.09)


 そもそもロシア語話者が今まで公用語だったロシア語を禁止され、「いやならサッサとウクライナを出ていけ」と爆撃され、より強力な自治を要求して連邦制を主張すると、「テロリスト」扱いされて抹殺の対象になる。これは明らかに戦争犯罪です。
 ところが欧米の大手メディアだけでなく、今や独立メディアとして世界的に有名になったDemocracyNow! でさえ、「民族浄化」政策に抵抗して連邦制を主張している人たちを、Separatists「分離主義者」と報道しています。
 「テロリスト」とは呼ばないのは当然としても、少なくともFederalists「連邦主義者」と言うべきでしょう。
 もっと気になることは、DemocracyNow! が、この1週間ずっと、特集記事どころかヘッドラインニュースにおいてすら、ウクライナ情勢を報道していないことです。このところ、連日とりあげているのはイスラエルによるパレスチナへの爆撃だけです。
 以前は、エジプトで軍人上がりの大統領がアルジャジーラの記者を何人も投獄しているようすを報じていたにもかかわらず、ウクライナ東部でロシアやイタリアの記者やカメラマンが殺されていることについては、ひと言の言及もないのです。
 チョムスキーは「報道していることよりも、報道しないことの方が重要だ」と述べたことがありますが、現在のDemocracyNow! は、まさにこのチョムスキーの言を地でいっているような感があります。
 かつて『アジア記者クラブ通信』(2012年8月号)が、「DemocracyNow! が変質しつつある!」という記事を載せたことがありますが、そのことを裏づけるような現状です。Amy Goodman女史が報道している個々の内容は貴重なものが少なくないだけに、これは本当に残念な事態です。
<註> 
 こういうわけで、DemocracyNow! が当てにならなくなったので、ウクライナの現状をリアルタイムで知るための現在ただ一つ残されているメディアは、RT(Russia Today)だけになってしまいました。
 アメリカはRTをロシアのプロパンガンダ機関だと口汚く罵っていますが、私が今までDemocracy Now! と比べながら視聴してきたかぎりでは、これほど公正な報道姿勢は見たことがないくらいです。大本営発表の機関と化したNHKとは大違いです。

 
それはともかく、RTで東ウクライナの惨状を見ていたとき私のまぶたに浮かんで来たもう一つの光景があります。
 それは、インドネシア軍によって東ティモールの町が破壊され住民が惨殺されていく光景です。1999年8月30日に東ティモールで住民投票が行われインドネシアからの独立が決定したとき、インドネシア政府は軍と独立反対派の武装民兵を使って破壊と虐殺をくりひろげました。
 実を言うと、そのとき東ティモールの独立運動を支える組織としてファリンテルと呼ばれる軍事組織があったのですが、この破壊と虐殺が進行していたとき、ファリンテルは山中に身を潜めたままで、住民を守るための出動をしませんでした。
 その結果、町が破壊され住民が一方的に惨殺されていく光景は世界中のメディアに流れました。
 もしファリンテルが出動したとしても、アメリカから供与された高度な重火器をもったインドネシア軍とたたかうのですから、恐らく勝ち目はなかったでしょう。ですから彼らは、むしろインドネシア軍の残虐ぶりを世界に知らしめるという道を選んだのでした。
 こうして、世界的な世論がインドネシア批判へと大きく傾き(それは同時にインドネシアを裏で支えてきたアメリカへの批判でもあります)、その後の制憲議会選挙では東ティモール独立革命戦線(フレティリン)が圧勝することになりました。


 私がなぜこのことを思い出したかというと、以前のブログでも紹介したことですが、世界的に有名な戦争報道記者ジョン・ピルジャーが次のように述べていたからです。
 「アメリカはウクライナ危機を利用してロシアを戦争に引きずり込もうとしている」「そうなればNATO軍とロシア軍との戦争になり、対処を誤れば核戦争になるかもしれない」
On big politics, Western media spews propaganda - war correspondent John Pilger(13.06.2014)
 カーター政権時の国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたズビグネフ・ブレジンスキーの謀略に引っ掛かって、ソ連が10年にも及ぶアフガン戦争に引きずり込まれたことが、ソ連を崩壊させる一因になったことは、今では周知の事実です。
 そのブレジンスキーが今はオバマの外交顧問格であり、オバマ大統領に強い影響力を持っています。ですから、今度もまたロシアをウクライナの内戦に引きずり込んで、ロシアを弱体化あるいは解体させようとしているのではないかとジョン・ピルジャーは疑っているのです。
 ウクライナのポロシェンコ大統領も、そのようなアメリカの意図をじゅうぶん知っているからこそ、自国の兵士に払う給料すらない状態なのに、なりふり構わず「民族浄化」に血道をあげているのです。財政的に破綻してもアメリカからの援助があるからと、自信をもっているからです。


 元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者だったポール・ロバーツ(Paul Craig Roberts)もピルジャーと同じ心配をしています。
  ですが、ロバーツ氏はもう一つの別の心配もしています。それは、ウクライナ東部のロシア語話者が虐殺されているのにロシアが助けに行かないとプーチンにたいする失望がウクライナ東部だけでなくロシア国内でも広がりはしないかという心配です。
 しかしプーチンも馬鹿ではありませんから、そのようなことは百も承知でしょう。私が推測するに、プーチンは、当時の東ティモール独立革命戦線(フレティリン)の指導者と同じ心境なのではないでしょうか。
 「自分の同胞が惨殺されているのは見るに忍びないが、いまロシア軍が出ていくと敵の思う壺だ。ウクライナ東部で切り広げられている惨劇が世界(とりわけアメリカの国民)に知れるようになれば必ず世論は変わる。それまではじっと我慢の子だ!」
 しかし、このプーチンの戦略が成功するかどうかはまだ分かりません。まだまだ多くの血が流されるのかも知れません。
 また、だからこそ私は、Democracy Now! の現状が残念でならないのです。「戦争と平和の報道」を売り物にしてきて今や世界的にも有名になってきている独立メディアがウクライナ報道を自主規制しているようでは、アメリカの世論は変わりようがないからです。
 「もう一つのノーベル平和賞」と呼ばれるRight Livelihood Awardを授賞したはずのAmy Goodmanはどこへ行ってしまったのでしょうか!?
<註> 
 ポール・ロバーツ氏の心配について詳しくは下記を御覧ください。これも「マスコミに載らない海外記事」で紹介されていたものです。
アフリカ・中東から、ウクライナへと広がるワシントンの戦争犯罪(2014.07.05)


 ところで、チョムスキーは下記の論考で「アメリカは戦争犯罪・超国際犯罪の世界的指導者だ」と述べていますが、日本はこのような大国と集団的自衛権の条約を結ぼうとしているのです。

America Is the World Leader at Committing ‘Supreme International Crimes’(2014/07/09)

 イスラエルとウクライナ、この二つの地で、アメリカ支援の下、「民族浄化」の嵐が吹き荒れています。私たちは、何のために誰のために集団的自衛権を行使しようとしているのか、いま改めて考える必要があるのではないでしょうか。



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