「役に立つ英語」とは(2):沖縄問題に寄せて

平成22年3月27日(土)退職記念講演の際には、お世話になり有難うございました。先の投稿に引き続き、研究室ブログを開設して2回目の投稿になります。

講演テーマの一つは「英語読みのアメリカ知らず」「ことばの教師として『メディア・コントロール』にどう抗するか」だったわけですが、最近、韓国軍艦「天安」の沈没事件があり、それが同時に沖縄問題にも波及しつつある状況を考えると、上記の観点はますます重要性を増しているのではないでしょうか。

第1回目の投稿では、その最後に、「この記事に関連して、沖縄問題についても Democarcy Now!に重要なインタビューが載っていましたので、本当は、それも紹介したいと思っていたのですが、最近、体調が悪く、ここで力尽きてしまいました。次回に回したいと思います」と書きました。少し体力気力が回復してきた今、何とか頑張って続きを書きたいと思います。

最近のテレビなどを見ていると非常に不思議なのは、自民党政権の頃は沖縄でどのような集会が開かれていようが、NHKを始め、大手マスコミは全くそれを紹介しようとしなかったのに、民主党政権になった途端に大々的に取りあげられるようになったことです。

沖縄民衆の願いがそれほど大切なものだったら何故これまでも紹介して来なかったのでしょうか。このように考えると、「鳩山首相の公約違反」「民主党の迷走ぶり」をたたく材料としてしか取りあげられていないように思えてなりません。

もっと不思議なのは、沖縄の米軍基地を「県外」または「国外」に移すというのは民主党の公約だったはずなのに、自らはその公約を破りつつ、他方で社民党が自らの公約を守ろうとするとその党首を閣僚から排除することでしょう。

そのうえ更に異様なのは、それに抗議して社民党が連立内閣から離脱しようとすると、大手マスコミが「連立から離脱するのは問題」と言わんばかりの解説・論調が目立つことです。ことばの教師として生徒・学生に「ものごとを論理的に考えること、文章を論理的に書くこと」を教えてきたものとしては、何とも説明のしようがない事態です。

以上の是非については皆さんの判断にお任せすることにして、今回は沖縄問題をネタに、EFL環境の(話す相手としての英米人が周りにほとんどいない)日本で、「役立つ」英語力とは「話す力」ではなく「読む力」であることを示すもう一つの例を、紹介したいと思います。

まず最初に紹介するのは、東アジア研究の大家で、911を予言したとして有名になった書『アメリカ帝国への報復』(Blowback:The Costs and Consequences of American Empire)を著して有名になったチャルマーズ・ジョンソン=元カリフォルニア大学政治学教授が、ロサンゼルス・タイムズ(5月6日)に寄せた提言です。
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-johnson-20100506,0,4706050.story
拙訳:http://www42.tok2.com/home/ieas/chalmersjohnson20100506okinawa.pdf

氏は、この短い提言の中で、日本国内にはすでに十分すぎる米軍基地があり、日本国民は結束して普天間基地の無条件閉鎖を求めるべきだと主張していますが、米国紙に、このような提言が載るようになってきていることが注目されます。

普天間基地問題の決着期限が迫るなか、日本のメディアは鳩山政権批判一色に染まっていますが、不思議なことに、基地の借り賃を一銭も払わずに傲慢さ丸出しで辺野古移転を強要する米国政府に対する怒りや抗議は、鳩山政権からも大手メディアもは聞こえてきません。

ところが上記で紹介したように、同基地の代替施設の不要論は米国内から聞こえてきたのですから、しかもCIAの顧問を務めた経験もある研究者から発せられてきているのですから、これほど驚くべき事態はないのではないでしょうか。

(チャルマーズ・ジョンソン氏は、既にTomDispatch紙2009年7月2日号で次のような記事を書き、もっと詳しく沖縄問題を論じています。時間のある方は、これも参照してみてください。)
How to Deal with America's Empire of Bases:A Modest Proposal for Garrisoned Lands
http://www.tomdispatch.com/post/175091/chalmers_johnson_baseless_expenditures
TUPによる翻訳:http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/862

何度も述べているように、「チョムスキーの言う『メディア・コントロール』に抗する力、いわゆる『メディア・リテラシー』を生徒にどう育てるか」が「ことばの教師」の大きな任務の一つだと思うのですが、自分の英語教育研究団体JAASETの教師と接している限りでは、このような論文や記事・インタビューを「読む力」が教師自身にあるようには見えないのです。これでは「メディア・コントロールに抗する力」を育てることは不可能に近いのではないでしょうか。

ところで、もう一つ沖縄問題で是非とも紹介したいのが、Democracy Now!2010年5月24日の下記インタビューです。
http://www.democracynow.org/shows/2010/5/24

From Japan to Guam to Hawai'i, Activists Resist Expansion of US Military Presence in the Pacific
 In Japan, Prime Minister Yukio Hatoyama sparked outrage this weekend when he announced he has decided to keep an American air base on the island of Okinawa. Before last year's historic election victory, Hatoyama had vowed to move the base off of Okinawa or even out of Japan. On Sunday, he said he had decided to relocate the base to the north side of the island, as originally agreed upon with the US. Hatoyama's decision was met with anger on Okinawa, where 90,000 residents rallied last month to oppose the base. A number of activists opposed to US military bases were recently here in New York for the International Conference for a Nuclear-Free, Peaceful, Just and Sustainable World. Anjali Kamat and I spoke to three activists from Japan, Guam and Hawai'i.

このインタビューがおこなわれたとき、「非核、平和、正義、持続可能な世界を求める国際会議」に出席するため、米軍基地反対の活動家ら多数がニューヨークを訪問していました。そこで、Democracy Now!のアンカーウーマンである Amy Goodmanが、若い女性助手アンジャリ・カマトとともに、日本、グアム、そしてハワイ出身の3人の活動家に話を聞いたものが、このインタビューです。

Kyle Kajihiro, Program Director for the American Friends Service Committee in Hawai'i. He helps to coordinate the DMZ-Hawai'i / Aloha 'Aina network that opposes military expansion in Hawai'i.
Kozue Akibayashi, professor and activist in Japan and with the Women's International League of Peace and Freedom and the Women's International Network Against Militarism.
Melvin Won Pat-Borja, educator and poet from Guam and part of the We Are Guahan network opposed to the military base buildup in Guam.

沖縄もハワイもグアムも、米国がアジアに勢力を拡大する過程でいかに悲惨な歴史を歩まされてきたか、米軍基地のために今どのような被害を被っているか、これらの島にある軍事基地が平和に貢献するどころかイラク・アフガニスタン・パキスタンでおこなわれている戦争にいかに「貢献」しているか、アジア太平洋地域を「非核地帯」するためには何が必要か、などが熱く語られています。上記3人の活動家のうち2人が日本人または日系人であることも興味深い事実でした。

この Democracy Now!2010年5月24日のインタビューでは、そのインタビューの全てを紹介するには時間が足りず、フルバージョンは下記で紹介されていますが、これには「文字起こしtranscript」が付いていません。transcriptがあるのは前半部だけです。
http://www.democracynow.org/blog/2010/5/24/full_interview_with_activists_resisting_us_military_bases_from_japan_guam_and_hawaii
Full Interview With Activists Resisting U.S. Military Bases From Japan, Guam and Hawai'i
 Watch the full version of our interview with activists from Japan, Guam and Hawai'i who are resisting the expansion of US military bases in the Pacific.

拙著『英語教育が亡びるとき』では、フィンランドにおける大学入試が、「話す力」よりも「読む力」、リスニングテストの場合でも「日常会話」ではなく「講義」や「インタビュー」を重視しているにもかかわらず、TOEFLで高得点を取っていることを紹介しましたが、Democracy Now!2010年5月24日のインタビューを視聴していると、「話す力」よりも「聞く力」、「書く力」よりも「読む力」がいかに大切がを痛切に認識させられます。

にもかかわらず、JAASET(略称「記号研」)の教師と接している限りでは、このような論文や記事・インタビューを「聴く力」どころか、それを「読む力」が教師自身にあまりないことを、上記で紹介しました。しかし念のために断っておきたいのは、このことは教師の責任ではなく、Democracy Now!などを読んだり視聴したりするには現場が余りにも忙しすぎるということです。

教師が自分の英語力を高めようと思っても、生徒指導や部活動に追われて教材研究をする時間さえゆっくり取れないのが現場の偽らざる実態です。にもかかわらず日本の英語教育が前進しないのは教師が無能だからと言わんばかりの姿勢を取り続けてきたのが文科省であり、新高等学校学習指導要領ではなかったか。そのような思いを込めて一気に書き上げたのが『英語教育が亡びるとき』でした。

ですから、英語教師が「ことばの教師」として、「批判的に読み、論理的に書く力」「メディア・コントロールに抗する力」を自分の中に蓄え、そのような力を生徒にも伝授するためにまず必要なのは、もっと自己研修ができる豊かな労働環境でしょう。そのような世論が大きくなることに拙著が少しでも貢献できればというのが、私のささやかなる願いです。


<追記> 

上記の Democracy Now!2010年5月24日のインタビューで取りあげられているのは、沖縄・グアム・ハワイの3島でしたが、基地問題でもうひとつどうしても欠かしてならないのはフィリピンです。

19年前、当時アジア最大の米軍基地があったフィリピンでしたが、初めは少数派であった撤退派が、国民の草の根運動を通して多数派となり、見事に基地撤退を実現させています。

米国に支援された独裁者マルコスを追い出しただけでなく、国民の力で「基地撤退」を勝ち取ったフィリピンの人たちは、どのような闘いの中でそれを実現したのでしょうか。今の日本の動きをどう思っているのでしょうか?

それを取材したのが、下記の番組です。15分程度のものですから是非ご覧ください(日本の Democracy Now! を目指して頑張っている若者たちの活動 OurPlanet-TV をぜひ励ましたいものです)。
     「米軍基地は必要か~フィリピンの選択」 http://www.ourplanet-tv.org 

それにしても、貧困な小国フィリピンが出来たことをなぜ経済大国の日本ができないのか、不思議です。 (2010/05/30、記)
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