香港「オキュパイ・セントラル」、別名「雨傘革命」を考える(続)

平和研究、アメリカ理解、国際教育 (2014/11/17)

 10月8日のレイバーネットTVで、「いま香港で何が起きているのか?―香港で起こっている民主化運動の世代交代」と題する番組が放映されました。
 この直前に「証拠で示す“慰安婦問題”の真実」と題する番組があり、そこには渡辺美奈さん(Wam:女たちの戦争と平和資料館事務局長)が実名で登場しているのに、これだけは「雨傘太郎」なる匿名人物が出てきて香港情勢を解説していました。
 なぜ素性を明らかにして実名で解説できないのか不審に思っていたら、内容的にもアメリカが世界で展開している現在の惨状をあまりにも知らない一方的な解説で、このままでは、ウクライナだけでなく香港が発火点になって、ユーラシア大陸全体が不安定化し内乱や戦争がいっそう進行するような危険性を感じました。
 そこで、目の前に急を要する仕事が山積しているだけでなく体調が相変わらずおもわしくないのですが、このまま放置しておくわけにはいかず、思い切って体力の続く限り私が日ごろ考えてきたこと、香港について慌てて調べたことを綴ったのが、前回のブログでした。今回は、その後に分かったこと思ったことを若干だけ追加/補足することにします。


 まず最初に前回のブログの末尾に「追記」したものを以下に再録しておきます。というのは、上記のレイバーネットTVで雨傘太郎氏は、アメリカが展開している世界戦略のなかで「オキュパイ・セントラル」がどのような意味をもっているのかについて一言も言及していないからです。
 <香港の問題は、香港だけを見ていても理解できない複雑さを抱えています。アメリカの国家戦略は世界的規模で進行していますから。
 その一例は「イラン・コントラ事件」です。アメリカはフセイン大統領をけしかけてイランと戦争させると同時に、イスラエルを通じてイランに武器を売却し、その資金で中米のニカラグア左派政権をつぶすべく反共ゲリラ「コントラ」に武器を供与していました。
 しかもフセインが「イラン・イラク戦争」で使ったとされる化学兵器もアメリカがイラクに与えたものでした。つまり「事実は小説よりも奇なり」なのです。このような地球を一周するような作戦は凡人の理解を超えています。
 それはともかく、香港の問題は、「イラン・コントラ事件」と同じように、地球を半周したウクライナ情勢と深く連動しています。ですからウクライナ危機を理解していないと、香港問題の本質は見えてきません。
 だとすればウクライナ問題についても詳しく解説しなければならないのですが、すでに体力が尽きています。とはいえ、ウクライナ危機については、すでにこのブログで何度も論じているので、そちらを参照していただければ幸いです。>


 上記のレイバーネットTV(2014/10/08)における雨傘太郎氏の解説を聞いていて、これでは「木を見て森を見ない」解説ではないか、これでは反中国感情に乗っかった大手メディアの報道ぶりと、ほとんど変わらないのではないか、と思ったのでした。
 というのは、「イラン・コントラ事件」にさかのぼるまでもなく、最近のウクライナ危機、いま惨状を呈しているシリア情勢、その直前に展開された「アラブの春」をたどってみれば、それがすべて一本の糸でつながっていることが分かるはずなのです。
 エジプトで「アラブの春」が展開されているとき、最初はその本質がよく分かりませんでした。しかしアメリカに主導されたNATO軍が国連決議に違反してリビアを空爆し始めてたとき何かこれはおかしいと思い始めました。
 リビアは隣国のどこをも侵略していないし、サウジアラビアのような王制独裁国家でもありません。それどころかリビアでは医療も無料でしたし、イスラム国家でありながら政教分離の世俗国家で、女性でさえ無料で大学に行くことができましたから、そこで軍事独裁国家のエジプトと同じ民衆反乱が起きるはずがないからです。
[藤永茂「リビア挽歌1~2]
 これはシリアについても同じで、アサド大統領は「独裁者」だとして攻撃されているのですが、それなら、なぜアメリカやEUは、シリアではなく、サウジラビアやバーレーンなどの王制独裁国家で展開されている「民主化運動」を支援しないのでしょうか。少なくともシリアは政教分離の世俗国家で選挙もおこなわれていました。
 そのうえ最近あきらかになってきた情報では、サウジラビアやバーレーンなどの王制独裁国家(かつイスラム原理主義国家)はシリアの反体制運動に武器や資金を供給し、それが現在のISIS=「イスラム国家」を産みだしました。皮肉なことに、それを裏でアメリカやEUが支援していたのです。


 このシリア内戦が終わらないうちにウクライナ危機が起きました。アメリカやEU、そしてNATOの言い分では、ロシアが領土的野心をもってウクライナ危機を引きおこしたというのですが、当時のロシアは「冬季オリンピック」を成功させるのに精一杯で、そんなことに精力を注いでいるゆとりはありませんでした。
 この詳しい経過は、ウクライナ情勢の読み方(1~7)その他で詳しく書きましたから、再論しません。ただ、「アラブの春」から「ウクライナ危機」までをつなげている「一本の糸」とは何か、それはRegime Change「政権転覆」すなわち「クーデター」というキーワードです。
 今のウクライナで成立したポロシェンコ政権は、アメリカが裏で画策し、ネオナチが実行部隊となったクーデター政権であったことは、小手川大助氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、元IMF日本代表理事)ですら認めていることです。
 詳しくはブログ[2014/04/22]で紹介しましたので割愛しますが、アメリカの名門プリンストン大学のステファン・コーエン教授も同じ意見です。
Stephen Cohen: A New Cold War? Ukraine Violence Escalates, Leaked Tape Suggests U.S. Was Plotting Coup
 さらにコーエン氏は「アメリカがEUとNATOを焚きつけて、このままロシアを追い詰めれば、核戦争になりかねない」「今や核戦争5分前だ」と警鐘を鳴らしています。
Stephen Cohen: NATO's games with Ukraine bring world to 5 minutes before nuclear midnight


 同じことをチョムスキー氏も言い始めました。「NATO軍は、アメリカが裏であやつる干渉戦争=政権転覆のための軍隊だ」というのです。
Chomsky: NATO is a U.S.-run intervention force(November 07, 2014)
 またチョムスキー氏は「レーガン大統領は当時、ゴルバチョフにたいして『NATOは東欧には1インチたりとも進出しない』と約束した。それを踏みにじってNATO軍はロシア国境直前にまで迫っている。今や核戦争寸前だ」とも言っています。
Chomsky: World ominously close to nuclear war(November 7, 2014 )
 アメリカがリビアに爆撃を加えようとしたとき、ロシアと中国は「国連決議違反だ」と強く反対しましたし、シリアを「化学兵器を使った」という理由で爆撃しようとしたときも、それが嘘だということを暴露して攻撃をやめさせました。
 また、ロシアが中国やBRICS諸国と一緒になりWB世界銀行やIMF国際通貨基金に代わる新しい国際金融機関をつくろとしていることも、スノーデンをかくまっていることも我慢がならないことでした。これらのことがすべて今回のウクライナ危機の背景にあることです。
 ですから、ウクライナ危機を理由にロシアに経済制裁を加え、口実さえ見つかれば戦争に持ち込んでロシアを叩きつぶしたいというのが、オバマ大統領の本音でした。というのは通常兵器でNATO軍(=アメリカ軍)にまさる軍備をもつ国は世界に存在しないから、戦えば勝てると思っているのです。
 となると、ロシアが降伏したくなければ残るのは核兵器のみで、だからコーエン氏やチョムスキー氏の言う「核戦争5分前」ということになるわけです。


 チョムスキー氏は「TPPというのは、アメリカ多国籍企業の利益だけでなく、中国封じ込めの一貫でもある」と述べていますが、このような情勢を考えれば、ロシアの次に中国が標的になるのは時間の問題でした。
 ブッシュ大統領のときは、戦争をするといっても、手を出した国はアフガニスタンとイラクだけでした。またイラクとアフガンに手を取られていたせいか、他国にクーデターを仕掛けることもありませんでした。
 ところがオバマ氏になると、アフガニスタンとイラクだけでなく、リビア、シリア、イエメンなど手当たり次第に戦争を拡大し、次々と政権転覆の画策を始めました。中南米でもホンジュラスやベネズエラで不安定化工作が進行しました。
 あまり知られていませんが、中米のホンジュラスではクーデターが成功しました。中道左派の政治家として知られていたセラヤ大統領が、2009年に、とつぜん軍隊によって拘束され、空軍基地に連行されたのちコスタリカのサンホセに追放されたのです。このように、オバマ大統領になってからは世界中に内乱内戦・政権転覆が広がる一方でした。
 ですから、ウクライナ情勢を見ていて、私は次の標的は中国に決まっているが、オマバ氏は中国のどこに、いつ火をつけるのだろうか、と思っていました。私の予想でいちばん可能性が高いのは新疆ウイグル地区でした。イスラム教徒が多いところなので、反乱を起こさせるのは容易ですから。
 ところが予想に反して、火がついたのは香港でした。しかし、これは私の勉強不足でした。香港への工作はずっと以前から始まっていたのです。
 ウクライナの場合もヌーランド女史(米国務次官補)の言によれば10年も前から50億ドルものおかねをかけて準備してきたと言っているのですから、香港の場合もかなり前から準備されていたと考えるべきでしょう。
 ベネズエラでチャベス追い落としのクーデターが失敗した後も、アメリカは政権転覆のために実に綿密な計画を立てて、反政府勢力を支援しました。その詳細は今では機密解除されて文献で明らかになっています。時間があれば下記の研究をぜひ熟読していただきたいと思います。
ベネズエラに対する米国の介入の仕組み
3部構成の第1部:いくつかの歴史上の前例
第2部:政府の計画を偽装する米国民間企業体系の利用
第3部:ベネズエラにおける共和・民主両党基金とのUSAIDの4つの契約書の分析
第1部~第3部の単一HTMLファイル


 そもそも東欧で「色の革命、カラー・レボリューション」で一連のいわゆる民主化運動が起きましたが、これもいま考えてみればNED(アメリカ民主主義基金)その他が裏で資金援助と戦術指導をしたものであることが分かっています。
 CIAの元高官レイ・マクガバンも、「旧ソ連にたいする反感・不満を利用して民衆を扇動し、その成果を自分たちがもらう」というのが、一連の「カラー・レボリューション」だと言っています。
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-178.html
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-182.html
 過去をさらにさかのぼれば、ポーランドでワレサが独立労組「連帯」を率いていわゆる民主革命を成し遂げましたが、これもよく調べてみると、アメリカの「二正面作戦」が裏で進行していたことが分かりました。
 それについては前回のブログで紹介しましたので詳細は割愛しますが、CIAが裏で支援していたポーランド独立労組「連帯」が現在のウクライナのクーデターと、どのようにつながっているのか、「連帯」議長だったワレサ氏は、いま何をしているのか、それを教えてくれる情報を見つけましたので、以下に紹介しておきます。

 <ところで、アメリカが東ヨーロッパへの揺さぶりを本格化させるのは1970年代のこと。1979年にハンガリー生まれの投機家、ジョージ・ソロスは「オープン・ソサエティ基金」を開始、84年にはハンガリーでも基金を創設した。
 1979年にはポーランド生まれのズビグネフ・ブレジンスキー米大統領補佐官がソ連軍をアフガニスタンへ誘き出すための秘密工作を始め、エルサレムではアメリカとイスラエルの情報機関に関係する人びとが「国際テロリズム」に関する会議を開き、「ソ連がテロの黒幕」だというキャンペーンを開始している。
 そして1980年には「連帯」が設立されるが、この反コミュニスト労組は「西側」から支援を受けていて、活動資金のほか、当時のポーランドでは入手が困難だったファクシミリ、印刷機械、送信機、電話、短波ラジオ、ビデオ・カメラ、コピー機、テレックス、コンピュータ、ワープロなどが数トン、ポーランドへアメリカ側から密輸されたと言われている。「連帯」の指導者だったレフ・ワレサも自伝の中で、戒厳令布告後に「書籍・新聞の自立出版所のネットワークが一気に拡大」したと認めている。(レフ・ワレサ著、筑紫哲也、水谷驍訳『ワレサ自伝』社会思想社、1988年)>
 いま、キエフのクーデターにポーランド政府が協力していたとポーランドで報道されている。ウクライナのネオ・ナチは2004年以降、バルト3国にあるNATOの訓練施設でメンバーを軍事訓練していると言われているが、ポーランド外務省は2013年9月にクーデター派の86人を大学の交換学生を装って招待、ワルシャワ郊外にある警察の訓練センターで4週間にわたり、暴動の訓練をしたという。
 訓練の内容には、追跡技術、群集操縦、ターゲットの特定、戦術、指揮、緊張した状況における行動制御、警察のガス弾に対する防御、バリケードの建設、そして銃撃のクラスにも参加して狙撃も学んだという。そうした訓練をキエフで生かしたわけだ。
 このように、CIAの秘密刑務所が設置された国のひとつであるポーランドは現在、アメリカの手先として活動している。そのポーランドをアメリカが支配する突破口を作った「連帯」。その労組で議長を務めたワレサはポーランド大統領を経て2002年にアメリカのソフトウェア会社の重役に就任、資本主義社会の「成功者」になったと言えるだろうが、大多数のポーランド人やウクライナ人には縁のない話だ。>
 
出典「櫻井ジャーナル」(2014/04/18)


 以上のような事実を考えれば、現在の香港をアメリカが指をくわえて黙ってみていたということは、まず考えられません。中東・中南米・ウクライナの「不安定化工作」をみれば分かるように、オバマ氏は、前大統領ブッシュ氏よりもはるかに「タカ派」ですから、香港にたいして何もしていないと考える方がおかしいのです。
 にもかかわらず、このことを指摘する学者・研究者がほとんどいないのが非常に不思議でした。NHKや大手メディアが「反中国感情」を煽り立てる流れに乗って「雨傘革命」を賛美するのは当然としても、日ごろ大手メディアを批判している側までもが、この運動を手放しで褒めそやすのでは、少し待て!と言いたくなるのです。
 そう思っていたときに前回のブログを読んだ知人が「こんな記事を見つけましたが」と言って、堤未果「香港デモの真相-民主化の先にあるのは『明るい未来』なのか」と題するコラム記事(『週刊現代』10月25日号)をもってきました。その一部を以下に引用します。
 <アメリカでは80年代以降,急速に拡大し政府へへの影響カを得た多国籍企業の意向で、世界各地の市場開放政策がとられている。アメリカ国務省から資金を受けるNED(全米民主主義基金)は世界中の反政府・民主化デモを後押しし、資金や戦略指導などを行ってきた。政権倒壊後に開かれた市場は、例外なく彼らのビジネスチャンスになっている。
 今回の香港の民主化デモも同様だ。14年4月、NED傘下のNDI(全米民主国際研究所)にて、オキュバイらセントラル主宰者の一人であるマーティンー・リーは、香港には中国本土を、香港と同じ欧米式統治に変える役目があると述べている。香港での影響力を維持したい米系多国籍企業や投資家たちにとっても、今回のテモは重要な意味を持っているのだ。>



 日本のジャーナリストでも、このような発言をしているひとがいることを知って、少しホッとしました。しかし10月8日のレイバーネットTVの番組では、上記のような分析はまったくありませんでした。
 その後レイバーネットで紹介されている香港情勢を読んでいても、「左翼21」というグループの声明その他が紹介されていますが、アメリカが世界的に展開してきた「色の革命、カラー・レボリューション」についての分析は読んだことがありません。
 香港の若者たちが真摯な気持ちで運動していることは疑うつもりはありませんが、「オキュパイ・セントラル」には多くの分派があり、それらのいくつかが、NEDその他のNGOによって操作されている可能性は十分あるわけですから、それにたいする分析がほとんどないのは実に奇妙です。
 それはともかく、アメリカの裏の援助によって、たとえ自分たちの闘いが勝利し、中国が崩壊したとしても、その後の未来はロシアやポーランドを見れば分かります。ソ連崩壊後のロシア、ワレサのポーランドは、アメリカ流「市場原理主義」が跋扈して貧困がいっそう拡大し、自殺者が続出する社会でした。
 前回のブログでも述べたことですが、ネルソン・マンデラが牢獄から解放され、マンデラ氏が大統領になった選挙は、まさに「普通選挙」でしたが、その後の南ア共和国は、悲惨の一語でした。黒人の生活は「アパルトヘイト」の時代よりも悪くなったのです(ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』)。ですから、「普通選挙」だけを求める闘いをしているかぎり、それは貧困にあえぐ香港民衆に何ももたらさないでしょう。
 とすれば、香港での闘いは「経済民主主義」を求める闘いを最優先すべきではないでしょうか。そうすれば、今は「オキュパイ・セントラル」に反対している貧困層も、学生の運動が誠実なものであるかぎり、それを支持する側に回る可能性があるからです。高い家賃と低賃金に苦しむひとびとの5人に一人は貧困ライン以下の生活をしているのですから。


 ですから私は、香港では、「政治民主主義」→「経済民主主義」ではなく、「経済民主主義」→「政治民主主義」という方向の運動をすべきだとおもうのです。アメリカは「2大政党制」で「普通選挙」をしているはずなのに、貧困の広がりは目を覆うばかりです。すでに「発展途上国」になりつつあるとチョムスキーは言っています。大学を卒業しても多くの学生にとってはファスト・フード店ぐらいしか働き口がないからです。
 今度の中間選挙ではオバマの民主党は惨敗し、オバマ氏自身も「今やlame duck(役立たず)の大統領」と揶揄されている始末です。これもチョムスキーの言うように「胴体がひとつで頭がふたつ」の怪物が「二大政党制」の正体だということを、アメリカ民衆が見破ってしまったたからでしょう。アメリカもその実態は、ウォール街が支配する一党独裁の国だということを、民衆はやっと気づき始めたというわけです。
 ですから、香港の「オキュパイ・セントラル」を口火にして中国本土を不安定化させ、あわよくば中国政府を転覆させたいと思っているアメリカにとっては、「普通選挙」だけを求める闘いをしてもらったほうが都合がよいわけです。
 なぜなら、これは「零か百か」の闘いであり妥協点がないわけですから(しかも闘いの矛先が香港やアメリカの金融街に向かわないわけですから)不安定化工作を半ば永遠化させる戦術としては、抜群の戦術と言ってよいでしょう。
 アメリカに留学したトップエリートが「市場原理主義」「規制緩和」「民営化」のアメリカ流経営を学んだとはいえ、中国が世界一の経済大国になったからこそ、アメリカは、これをそのまま放置しておくわけにはいかないのです。
 中国の実態は資本主義ですが、名前は「社会主義国」ですから、「経済民主主義」という民衆の要求が強くなれば、いつ社会主義に回帰するかも知れません。だから、一刻も早くつぶさねばなりません。
 しかも、ロシアと一緒になり、今やアメリカの覇権に挑戦する最大の敵になりつつあるのですから、アメリカにとっては、いっそう危険です。だから新しい「2正面作戦」(東と西で、中国とロシアを包囲する作戦)が必要だというわけです。


 なお念のために申し添えておきますが、私は現在の中国が良いと言っているのではありません。堤未果氏は上記に引用したコラムで、さらに次のように言っていました。
 <香港の活動家たちは、この抗議デモが目指すものを「資本家による国民の抑圧構造との闘い」だという。だが、共産主義下の新自由主義から、多国籍企業が率いる米国コーポラ一ティズムに移行するならば、待っているのは同じ未来だろう。>
 ここで堤氏の言う「待っているのは同じ未来」というのは、氏が前段で述べていた「政権倒壊後に開かれた市場は、例外なくアメリカ多国籍企業のビジネスチャンスになっている」「そして更なる貧富の拡大」という事実を指しています。
 ただし、中国は「共産主義」の国でも「社会主義」の国でもありません。マルクスの定義によれば、「能力に応じて働き、必要に応じて与えられる」のが「共産主義」で、「能力に応じて働き、労働に応じて受け取る」のが「社会主義」なのですから、弱肉強食の「新自由主義」が跋扈する現在の中国が「共産主義」の国であるはずがありません。
 ですから現在の中国は「新自由主義」を経済運営の基本にしている、れっきとした「資本主義」の国です。しかし世界中に大量の死を撒き散らしつつある現在のアメリカ、世界を核戦争に導きかねないアメリカと比べれば、まだマシではないかと言いたいのです。先にも述べたとおり、今や「核戦争5分前」なのです。
 しかも、このような「ならず者国家」(Rouge State)、「世界最大最悪のテロ国家」(a Leading Terrorist State=いずれもチョムスキーの言)に鈴をつけることができるのは、いまのところロシアと中国しかいないのです。
Chomsky, "Official: The US is a Leading Terrorist State"
 だとすれば、今の中国をアメリカの望みどおりに政権転覆させても、世界に平和は訪れません。むしろ巨大な面積をようする中国が、イラク、リビア、シリア、ウクライナのような内乱状態に陥り、世界の破壊はさらに深刻化していくだけでしょう。チョムスキーが言うように「一党独裁」はアメリカも同じです。ただし派閥がふたつあるだけです。
 ですから非常に複雑で長い闘いになるでしょうが、以上のような巨視的な視野にたった闘いを構築していく以外に、中国の民衆にとっても世界の平和にとっても、未来は開けてこないのではないでしょうか。「木を見て森を見ない闘い」「お釈迦様の手のひらで踊る孫悟空」であってはならないと思うからです。


<註1> 関連情報として『アジア記者クラブ通信』2014年11月号に下記の翻訳記事が載っています。必読文献だと思います。
* 米英の対中工作の不可欠な砦、香港「民主化」運動の真相・深層 (サラ・フウラウンダーズ)
* 中国は米国支援の「カラー革命」を封殺できるのか (フリッツ・モルゲン)
*“起爆剤”は中国の"金保有"急増と人民元の国際化、香港騒動の経済的要因 (シェドローバ)
 なお『アジア記者クラブ通信』の申込先は次のとおりです。http://apc.cup.com/


<註2> また私が読んだ最新記事に下記のものがあります。ここにはアメリカのどこからお金をもらっているか、誰がもらっているのか、その金額まで書いてありました。
“Hong Kong Occupy Central's” Dirty Money, Leaders engaged in Unethical “Shadow Funding”
 今の私には、これを訳出するゆとりがありません。「レイバーネット日本」には、せっかく「国際部」があるわけですから、ぜひ翻訳してほしいと思いました。
 これに関連して、「レイバーネット日本」を読んでいて不思議に思ったことがあります。それは、ときどきアメリカやイギリスの情報が紹介されることがあるのですが、どういうわけか、韓国語や中国語に翻訳されたものを、日本語に再翻訳しているということです。なぜ直接、英語の原文から翻訳された情報が出てこないのでしょうか。
 これだけ声高に「読めるけど話せない日本人」ということが言われ、安倍内閣の「英語で授業」という馬鹿げた教育政策が出てくる根拠にされているのですから、国際部には「英語が読める」人材はいくらでもいるはずです。にもかかわらず、「伝言リレー」のような翻訳になる意味が私には理解できないのです。
 ただし「英語で授業」「読めるけど話せない」「英語が話せないのは日本人だけ」という言説については、下記に反論を書いておきましたので、時間がある方は御笑覧ください。
http://www42.tok2.com/home/ieas/EnglishClassInEnglishMakesJapaneseIdiots.pdf


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