モスクワにおけるネムツォフ暗殺事件―アメリカは事件を起こすためには味方をも殺す?

プーチンの悪魔化、マイダン広場の狙撃手、チャベス政権転覆、ディボドーの虐殺事件 (2015/03/05)

アメリカは建国以来その歴史のうち93% が戦争
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http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2015/02/93---1776239222.html



 プーチンの政敵だとされている人物ボリス・ネムツォフが、よりにもよってモスクワのクレムリン近くで射殺されました。翌日にプーチン反対集会をひかえていた矢先のことでした。
 このニュースを聞いて私の頭に真っ先に浮かんだことは、そんなことまでしてロシアを戦争に引きずり込みたいのだろうか、そこまでしないとアメリカはプーチンのロシアを戦争に引きずり込めなくなっているのだろうか、ということでした。
 というのは、アメリカがウクライナでクーデターを起こして親米政権をつくりあげたとき、その騒乱の大きな引き金になったのが、キエフのマイダン広場に集まっていた人たちを何者かが射殺した事件でした。
 このクーデターの実働部隊はネオナチと極右勢力でしたから、この射殺事件もクーデターを起こしたいと思っていた勢力の側によって計画されたものであることは、充分に考えられることでしたが、その直後におこなわれた調査でもこのことが報告されています。
「エストニアのウルマス・パエト外相がEUに報告」
 このクーデターで出来た親米政権が東ウクライナの住民から公用語としてロシア語を話す権利を奪う法律をつくろうとしたので、それに対する激しい抵抗運動が起きました。それを弾圧する口実として使われたのが、マレーシア航空機の撃墜事件でした。
 この撃墜も最初は「ロシアから供給された地対空ミサイルだ」とされ、アメリカもNATOもそれをロシア攻撃の口実として使おうとしましたが、調べれば調べるほど、どうも実行犯はクーデター政府の側(空軍戦闘機2機)であることが濃厚になってきたので、この話題は今やマスコミから消えてしまいました。
 代わりに出てきたのが、「ロシア軍がウクライナ領に侵入してきて東ウクライナの反政府勢力を支援している」という口実でした。アメリカとNATOに支援されたキエフの政府軍が東ウクライナの民兵と闘って負けるはずがないのに劣勢なのは、ロシア正規軍が戦車に乗って国境を越え、民兵を支援しているからに違いないというわけです。
 しかしアメリカは超高解像度のスパイ衛星を持ち、「アラビア砂漠を走る車内のテロリスト幹部の顔までも識別して、無人機による正確な暗殺ができること」を自慢にしているのですから、ウクライナ国境を越えるロシア正規軍や戦車を識別しその証拠写真を世界にバラ捲くことも出来たはずなのに、それもできずに地団駄を踏んでいます。
 それどころかEUの中でもウクライナの内紛がロシアにたいする経済制裁をもたらし、それがEU経済の混乱に拍車をかけています。それだけでなく、アメリカとNATOが主導する戦争政策にのせられていては、再びヨーロッパ全体が戦乱の渦に巻き込まれかねないという雰囲気が出てきました。
 そこでロシア、ドイツ、フランス、ウクライナの首脳がベラルーシの首都ミンスクに集まり、アメリカ抜きの徹夜の交渉で、やっとウクライナの停戦協定がまとまりました。
 しかし、かつてソ連をアフガニスタンの戦争に引きずり込み崩壊させたのと同じ道を、ロシアに歩ませようとしているアメリカやNATOにとって、これは非常に困った事態です。そこで次の事件を起こさなくてはなりません。そこで企画されたのがモスクワにおけるネムツォフ氏の暗殺事件だったのではないか。
 これが暗殺ニュースを聞いたときに私の頭に真っ先に浮かんだことでした。
 というのは自分の政敵が集会を開こうとしているときに、その人物を暗殺して得るところはプーチン氏にとって何もないからです。しかも自分の支持率が85%で最高であるときに、支持率が5%しかないネムツォフ氏を殺して、何の意味があるでしょうか。相手を殉教者として英雄化する口実を与えるだけです。
 ところがアメリカのニューヨークタイムズ、ドイツのシュピーゲルを初めとする欧米のいわゆる一流メディアは、これまでもプーチン氏を悪魔化する記事を書いてきていましたが、今度の事件でも、あたかもこの暗殺の裏にプーチンがいると言わんばかりの記事を書き連ね、これを日本のメディアも受けついでいます。
 一流紙の新聞記者と言えば一流大学を出た秀才の集まる場所であるはずなのに、なぜ私が上記で書いてきたような疑問が頭に浮かばないのでしょうか。浮かんでも自己規制して書かないのでしょうか。書いてもボツにされてしまうのでしょうか。
 化学兵器によってシリアの一般市民が虐殺されている写真やニュースが全世界に流されたときも同じ現象がおきました。
 国連の化学兵器監視団がシリアに到着したときアサド大統領がわざわざ化学兵器を使って自国民を殺してみせることは常識では考えられないのに、大手メデイアはアサドの仕業だとして、アメリカや欧米諸国による「反乱軍支援」を正当化しました。
 ところが、この化学兵器の使用者こそ、アサド政権にたいする反乱軍だったことを暴いて見せたのも、実はプーチンでした。
 アメリカやNATO諸国は、リビアのカダフィ政権を転覆したあと、次の政権転覆の目標として狙っていたのがシリアのアサド政権でしたから、プーチンは自分たちの行く手を阻むどうしようもない人物であり、何とかして処理しなければならない人物として眼に映ったことでしょう。
(しかし、このアサド政権にたいする「反乱軍」こそ、イスラム原理主義に支配された勢力、「イスラム国」の土台になった勢力でした。)
 
 ところで私が以上のように述べてきたからといっても、ネムツォフ暗殺がCIAによるものだと断定しているわけではありません。その可能性があると言っているだけです。
 そのような疑いをいだかせるものが、アメリカの歴史には多すぎるのに、その検証なしに、一方的にプーチンを悪魔化するのはやめるべきだと言っているにすぎません。
 ベネズエラで2002年4月11日にCIAの支援を受けた軍部によるクーデターが発生し、チャベス大統領は軍に監禁されましたが、このきっかけになったのも何者かが群集を見下ろす位置から身を隠して発砲し、犠牲者はすべて頭を狙い撃ちされた、という事件でした。
 このクーデター時、RCTVを含む民間テレビ4局は、チャベス派の狙撃兵による反チャベス派への銃撃事件を捏造し、繰り返し報道したのですが、あとになってRCTVのグラニエル最高責任者はクーデター派のこの陰謀に直接加担していた事が判明しています。この事件について詳しくは下記を御覧ください。
「チャベス政権~クーデタの裏側」
 このように権力者が何かの事件を起こしたいときに味方をも殺して引き金にするということは、アメリカ史では珍しくありません。
 アメリカ国内での例をあげさせていただければ、ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』(明石書店)に、有名な「ディボドーの虐殺事件」についての記録があります。以下にその一部を引用します。

 ルイジアナの黒人と白人の砂糖労働者は、1886年に労働騎士団の支部を結成しはじめた。しかし彼らが組織したストライキのいくつかは、スト破りの導入と暴力で破られた。
 1887年に黒人が大半を占める一万人の労働者が、砂糖大農園主に1日当り1ドル25セントの賃金要求を提出したが、それを蹴られたので、砂糖大農園の労働を放棄した。
 (中略)そのような事態に直面した農園主は、殺してでも黒人を服従させようとした。そこで州兵を撤退させて暗殺部隊を導入する計画をたてた。州兵が宿営地にむけて出発するや否や、黒人殺害の準備が始まった。
 … 黒人がいつもどおり静かで、挑発に乗らないことが分かったので、虐殺の口実を捏造(ねつぞう)しようとした。…
 その時がきた。火曜の夜、パトロール隊が仲間の隊員二人、ゴーマンとモーレイソンを撃ち殺して、「戦闘、戦闘準備だ!黒人が白人を殺しているぞ!」と叫び声を発した。これだけで十分だった。
 あとでシュリーヴポート市のゲリラだと判明した男たちは、ルイジアナ州北西部の町ウォシタとレッドリバーの「黒ん坊」殺害計画についても熟知した連中だった。最古かつ最精説のラフルシュ軍の支援をうけ、前進しながら家々や教会に繰り返し一斉射撃をくわえた。また見つけ次第、黒人を狙(ねら)った。
 日刊紙は「七人を殺害、六人が負傷」と報じたが、ことの成り行き全体を目撃した者の話では、三五人を下らない黒人が即死だったという。足の不自由な男性と盲目の女性までもが撃たれ、子供と白髪の老人すら急襲された!
 黒人は抵抗しなかった。彼らは殺害が思いも寄らないことだったので抵抗できなかったのだ。(同書386-387頁)


 以上で、ロシアで起きたネムツォフ暗殺事件のニュースを聞いて、私の頭に浮かんだことの記述を終わります。本当は下記のチョムスキー論考についても翻訳して紹介したかったのですが、ここで力が尽きました。

(a) アメリカのテロリズム、長く恥ずべき歴史
The Long, Shameful History of American Terrorism
(b) ウクライナを強引にEUや NATOに引きずり込まないことが平和への道
After Dangerous Proxy War, Keeping Ukraine Neutral Offers Path to Peace with Russia

 上記(a)でチョムスキーは、キューバにたいする残酷なテロ行為から最近の「イスラム国」に至るまで、アメリカのおこなったテロの数々が紹介されています。また(b)ではアメリカが強引に押し進めているウクライナ内戦が一歩まちがうと核戦争・第3次世界大戦になる危険性を秘めていることを、キューバ危機と比較しながら論じています。
 チョムスキーによれば、アメリカの科学誌「原子力科学者会報」(the Bulletin of the Atomic Scientists)の有名な「世界終末時計」(Doomsday clock)では、アメリカのウクライナにたいする対応は終末時計の針を「世界の終末3分前」にまで進めてしまったそうです。ところが安倍政権はこのような危険な国と集団的自衛権の条約を結び、アメリカと行動を共にしようとしているのです。

 最後になりましたが、最近のプーチンおよびロシア情勢に関する情報を以下に集めておきました。参考になれば幸いです。それにつけても<櫻井ジャーナル>や<メディアに載らない海外記事>を書いている両氏の読解力・情報収集力には感心させられます。

<櫻井ジャーナル>
* 米国の手先だと知られたネムツォフは、露国で影響力はなく、プーチンに命を狙われる理由もない(2015.03.04)
* ネムツォフ殺害でもロシア国内は混乱せず、米国に対して抱いていた幻想が消えかかっている可能性(2015.03.01)
「ロシア政府がウクライナへ軍事介入している証拠」を持っていたら、ネムツォフは殺されなかった(2015.02.28)
* 駐露米大使館へ大使として赴任したマクフォールに、挨拶に行ったひとりが、射殺されたネムツォフ(2015.02.28)
* 西の傀儡だったエリツィン時代に副首相を務めた親米政治家がモスクワで射殺されて利益を得る西側(2015.02.28)
<マスコミに載らない海外記事>
Paul Craig Roberts * ワシントンがロシアに対し暗殺戦術を使うだろうと予測していたプーチン大統領 (2015年3月1日)
Stephen Lendman * ネムツォフ暗殺: 反プーチン偽装作戦 (2015年2月28日)
Eric Zuesse * “残忍な悪魔、ウラジーミル・プーチン” アメリカ によるエセ戦争プロパガンダ“大成功” (February 26, 2015)
Finian CUNNINGHAM * キエフに武器を与える「アラブという裏口」を見いだしたNATO (25.02.2015 )
WashingtonsBlog * アメリカは、その歴史のうち93% が戦争。1776年以来の239年のうち222年間 (2015年2月23日)


<註1> 沖縄・辺野古の緊迫した情勢については、『イデオロギーとしての英会話』の著者として有名な元津田塾大学教授ダグラス・ラミス氏(Douglas Lummis)の下記報告を御覧ください。
* 緊急事態の沖縄 (Okinawa: State of Emergency)
氏は津田塾大学を退職後、沖縄に移住して平和運動に専念しています。

<註2> 安倍内閣の日本人を「英語漬け」にする政策については下記の拙論を参照していただければ幸いです。
*「英語で授業」が進行させる「一億総白痴化」 (『新潮45』2014年9月号:47-51)
ただし集団的自衛権のもとでは、いま英語が最も求められているのは自衛隊員かも知れません。自衛隊は「米軍の弾除けCannonFodder」としてアメリカ軍の指揮下に入るので、指揮・命令はすべて英語でおこなわれるからです。


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