英語の学力低下は、誰がもたらしたのか―文科省が初調査「高3英語力は中卒程度」(上)

"ざる水" 効果、英語で授業、高3英語力調査、英語教育 (2015/04/18)

  前回のブログでは、『英語教育が亡びるとき:「英語で授業」のイデオロギー』にたいする長周新聞の書評を紹介しましたが、今度は同紙(2015年4月13日号)が、拙論「誰が英語の学力低下をもたらしたのか―文科省が初調査『高3英語力は中卒程度』」を2回に分けて掲載してくれましたので、その前編を以下に転載させていただきます。


文科省が初調査「高3英語力は中卒程度」
英語の学力低下は、誰がもたらしたのか(上)


 日本経済新聞夕刊(二〇一五年三月一七日)は、「高3英語力 “中卒程度”、文科省が初調査 “書く・話す ”苦手」という大見出しで、高校生の英語力が極めて貧弱であることを報じました。さらに大見出しの横に記事の要約があり、それは次のようになっていました。

文部科学省は一七日、高校三年生を対象に初めて実施した英語力調査の結果を公表した。民間の資格検定試験と同様に「読む・聞く・書く・話す」という英語の四技能について調べた。平均的な生徒の英語力は、実用英語技能検定(英検)に換算して、中学校卒業程度の三級以下と判定された。


 この記事でまず不思議なのは、「英検三級を中学卒業程度の英語力」としていることです。文意が不明なのですが、これを文章のとおりに理解するとすれば、次の二つに解釈できます。
(a) 日本の中学三年生の平均的英語力は英検三級程度。
(b) 日本の中学生は、ほぼ全員が英検三級程度の英語力を身につけて卒業する。
 いずれにしても、この記事を信じるとすれば、今回の調査では高校三年生の平均的英語力は中卒程度だったということですから、上記の(a)(b)を踏まえると、この記事は次の二つに解釈できます。
(a) 中学を卒業したとき平均的英語力が英検三級だったのだから、高校に入学してからの英語学習に何の効果もなく、英語力は英検三級の水準のまま推移した。
(b) 中学を卒業したとき全員が英検三級のレベルだったが、高校に入学してから学力が落ちる生徒もいて、平均すると高校三年生の学力は英検三級となった。
 しかし、(a)(b)いずれの解釈に立とうとも、現在の高校生の英語力が「停滞」または「低下」していることは、今回の調査で歴然と示されたと言えるでしょう。
 とはいえ、このことは初めから分かっていたことでした。というのは私は拙著『英語教育が亡びるとき―「英語で授業」のイデオロギー』(明石書店、二〇〇九)で、すでに次のように指摘していたからです。

 先述のとおり、会話中心の現行中学教科書は、語彙数が貧弱で、あまりにも内容が乏しく、中学生の精神年齢にふさわしいものとはとても言えませんでした。そのことが逆に学習意欲と英語学力の低下を強める要因にもなっていました。同じ現象が今度は高校教科書で起きてくるでしょう。
 高校教師の中から「教科書が会話一辺倒になる以前の中学生の方が、まだ高校へ進学した時点での英語学力は高かった」という声が聞こえてくるのは、このような理由によるのではないかと思われます。(一九〇頁)
 しかしコミュニケーション(会話)をメインにした中学校教科書では、教師に余程の力量がない限り、学力低下はさけられないだろう、というのは初めから予想されていたことでした。同時通訳の神様と言われた國弘正雄氏も、以前から「会話文では会話の基礎は育たない」と繰り返し主張されていましたが、そのとおりになっていると言うべきです。ところが、新高等学校学習指導要領では、この同じ愚を繰り返そうとしているのです。(一九二頁)


 私が上記の最後で、「ところが、新高等学校学習指導要領では、この同じ愚を繰り返そうとしているのです」と述べたのは、中学校学習指導要領が平成元年(一九八九)に「会話・コミュニケーション中心」へと変えられた結果、著しい学力低下が見られたからです。斉田智里氏の研究による次の図表(前掲書一九一頁)がそれをよく示しています。

斉田智里 「学力の推移」図表

 私は前掲書からの引用で、「同じ現象が今度は高校教科書で起きてくるでしょう」とも述べていますが、今度の文科省による英語学力調査は、まさにこの予言が的中したことを示すものではないかと思うのです。
 新高等学校学習指導要領が告知されたのが二〇〇九年三月で、正式に新課程に移行したのが二〇一三年度入学生からでした。しかし新指導要領が示す「英語で授業」「コミュニケーション重視」の方針を、二〇一三年以前から先行実施している学校も少なくありません。
 ですから、二〇一四年七~九月に実施された今回の学力調査で対象となった高校三年生(入学は二〇一二年四月)も、その影響を色濃く受けついでいることは間違いないでしょう。だとすれば、中学校と同じような学力低下があらわれても、何の不思議もありません。むしろ当然と言うべきでしょう。
 斉田智里氏の研究が示しているように、中学校学習指導要領が「会話・コミュニケーション中心」へと変えられた結果、高校入学時の英語能力は下がる一方なのですから、新高等学校学習指導要領の影響も加わり、高校生はダブルパンチを喰らっていると言ってよいのかも知れません。
 ところが、日経新聞によると、この調査結果を受けた文科省は、下記のように述べるのみで、問題の根本原因がどこにあるのかが全く見えていないようです。

「文科省は国際社会で活躍するグローバル人材の育成に向け、次期学習指導要領で英語教育を高度化する方針。高校では英検二級~準一級程度の英語力を身に付けることを目標とする見通しだが、現状との差は大きく、達成は容易でなさそうだ。」


 というのは、文科省が上記で述べている「次期学習指導要領で英語教育を高度化する方針」とは、今までの流れからすると、ますますコミュニケーション中心の教科書を使い、さらに「英語で授業」を徹底すること以外に考えられないからです。
 今でさえ「会話・コミュニケーション中心」になっている中学校に、さらに「英語で授業」を強制する新しい方針が出されていることも、私の主張を裏づける傍証となるはずです。
 しかしこれでは、英語学力の荒廃がますます進行し、生徒の英語嫌いは増えることはあっても減ることはないでしょう。
(つづく)

<註> 日常会話文を暗記する学習法は、それを日常的に使う機会がないのですから、覚えてもすぐ忘れてしまいます。これを私は「"ざる水" 効果」と名づけています。笊(ざる)にどれだけ水を入れても、水は溜まらないからです。「会話文では会話の基礎は育たない」と言われるゆえんです。詳しくは以下に載せてある私の英語教育論を御覧ください。
http://www42.tok2.com/home/ieas/englishteaching.html



長周新聞文科省の批判118
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