翻訳:『インディペンデント』紙、「インフラ整備を怠たり、米国経済は危機に瀕している」

TPP、企業による「トロイの木馬」、集団的自衛権、米国の「警察犬」、米国のインフラ、アメリカ理解(2015/05/10)

 安倍首相が米国議会で、「TPPは経済問題だけではなく安全保障の問題でもある。だから日本はこの交渉妥結を目指し全力を尽くす」と英語で演説し話題を呼びました。
 国家元首が(しかも靖国神社に参拝し、日本語と日本民族を大切にすると声高に叫んでいる首相が)、英語で演説している姿は、この国は果たして正気の国かと思わせる光景でした。
 しかも「TPPは経済問題だけではなく安全保障の問題でもある」と言うのを聞くと、自民党の古参幹部=山崎元自民副総裁でさえ、時事通信社のインタビューで「解釈改憲=集団的自衛権は、将来に禍根残す」「日本の自衛隊は悪く言えば、米国の「警察犬」になるということだ」と言っていたことを思い出します。
http://www.jiji.com/jc/pol-interview?p=yamasaki_taku02-02
 山崎氏はさらに「オバマ大統領は集団的自衛権行使の検討を歓迎し支持したが、米国の軍事力が弱体化しそれを日本の自衛隊によって埋めようというのが歓迎の意味だ」と述べていますが、米国が弱体化しているのは、軍事力ではなく第一に経済力なのです。それを必死に巻き返そうとするのがTPPでした。
 中国とBRICS諸国が先導する国際銀行やアジア開発投資銀行に、米国の制止を押し切って、EU諸国までもがなだれこむことになったのですから、米国経済の弱体化は誰の目にも明らかでしょう。米国の「プードル犬」だったイギリスでさえ参加したのに、米国の言いつけに従って日本だけが取り残されたかたちになりました。
 その結果、真っ先に犠牲になるのが日本経済であるにもかかわらず、その自国破壊の先頭に立つと安倍氏は米国議会で言明したのですから、これほど悲劇的な(むしろ喜劇と言うべきか)構図は想像できません。毎年のように米国政府から突きつけられた「年次改革要望書」で、日本には貧困が広がる一方でしたが、今度のTPPで息の根を止められることになるでしょう。
 ここで残されている唯一の希望は、米国国内でTPP反対の世論が強まりつつあることです。NAFTA(北米自由貿易協定)で自国の製造業が軒並み国外に流出し、米国経済がボロボロになり、残るのは兵器産業だけになった(だから戦争をやめられない!)ことを多くの労働者が分かり始めたからでしょうか。
「企業による『トロイの木馬』、TPPという秘密協定は民主主義の脅威だとして批判の声が高まる」
"A Corporate Trojan Horse": Critics Decry Secretive TPP Trade Deal as a Threat to Democracy
 いずれにしても米国経済が危機に瀕していることは確実です。それを「インフラ(経済社会基盤)」という観点から分析したのが、以下で紹介するインデペンデント紙の記事です。
 同じようなことは既に、ノーム・チョムスキー『破綻するアメリカ、壊れゆく世界』(集英社、2008)、アリアナ・ハフィトンン『誰が中流を殺すのか、アメリカが第三世界に墜ちる日』(阪急コミュニケーションズ、2011)などで紹介されていますが、それがさらに悪化していることを、この記事は示しています。
 私が米国の州立大学で1年間、教えていたときも「これが大国アメリカか!?」と、大学の教育設備だけでなく道路などインフラの惨めさに驚かされたものですが、25年後の今は、それが一層ひどくなっているのです。そして、この沈没しつつあるドル船=泥舟を、自国民を犠牲にして、必死になって救おうとしているのが安倍内閣なのです。


インフラ整備を怠たり、
米国経済は危機に瀕している

道路、空港、橋、鉄道、電力供給網への公共支出はヨーロッパの半分
国家繁栄そのものが危機に瀕している

The US economy is under threat because of its neglected infrastructure
ルパート・コーンウエル(Rupert Cornwell)、インディペンデント紙、2015年4月10日

ある報告によると、アメリカの最も重要な道路のほぼ三分の一は大規模修繕が必要だという。(石油大富豪ゲティの言葉)

ああ、自由世界の首都ワシントンに春の兆しだ。アザレアとハナミズキの花芽は膨らみ、桜祭りが始まり、新たな野球シーズン到来までちょうど2週間だ。(故郷のナショナルズはワールドシリーズで勝てるだろうか?)あっ、そうだ、道路の穴ぼこのことだった。

この春、道路の穴ぼこは前よりひどくなっている。田舎道だけじゃない。主要ハイウェイでもそうだ。なかには本物のゾウの落とし穴かというものもある。スピードを出しているときにそんなやつのひとつ二つにぶつかると、車は廃車解体業者の工場行きだ。いかにもアメリカらしく、利口な奴なら、穴ぼこが引き起こした損害額を思いつく―2014年には64億ドル(42億ポンド)だ。昨年もアメリカ東部はかなり残酷な冬だった。今年の損害はバカにならない額になることだろう。

道路の穴はワシントンのような気候のところではどうにも避けられない生活の現実だ。凍結と雪解けの連続、暴風雨と吹雪、それに、道路に厚塗りされたどんな化学薬品で、道路の穴が開いたままになるのか。しかし間違いなく、前よりも道路の穴は増えている。そして道路の穴は、もっと深い危機の徴候だ。アメリカの経済的優位性そのものを脅かすと言うひともいるほどだ。

道路の穴をなくす方法、あるいは少なくともその数を減らす方法は、定期的に舗装をしなおして道路を良い状態に保つことだ。しかし、その必要があってもほとんどそれがされないというのが現実だ。そして米国では他のインフラ(経済社会基盤)もみな同じだ。道路だけじゃなく、港湾も空港も橋も鉄道も電力供給網もそうだ。要するに、国を貫通し国を動かしている基盤が、崩壊寸前なのだ。(その話題に関する最近のテレビのドキュメンタリーの題名を信じるなら)米国ははバラバラに崩れつつある。文字どおりに。

ほんの少し前までは、その逆が真実だった。米国は世界の輝く未来であり、米国はすでにその未来に到達していた。最高のテクノロジー、最も現代的な都市、高級車、最新の空港をもっていた。とくに優れているのは、州をつなぐハイウェイだった。アメリカ全体を結びつけるために1950年代と60年代に建設されたものだった。

ああしかし、遅かれ早かれ、若さの美は薄れる。そしてアメリカの基盤整備も同様だ。多くのそうした計画は、第二次世界大戦後の時代にさかのぼり、大恐慌に立ち向かうFDR(フランクリン・D・ルーズベルト大統領)のニューディール政策にまでさかのぼる。半世紀以上たった今、それらはみな徹底的な点検修理か取り替えの必要に迫られている。

調査して簡単に分かるのは、アメリカが相対的に衰退していることだ。世界経済フォーラムの報告は、国をインフラで格付けしているが、アメリカを25位に置いている(イギリスは24位だ。一方、勝者は皆さんの予想どおり、スイスだった)。航空輸送は米国が開拓した分野だが、それでは30位にまで落下している。しかしニューヨークのゴミゴミして薄汚い空港や、ここワシントンDCの殺風景なダレス空港を、かき分けかき分け進む人ならみな、その評価すらほめすぎだと考えるだろう。驚くなかれ、1995年にデンバー国際空港ができて以来、米国ではただの一つも大空港は新設されていないのだ。

また別の報告によれば、アメリカの最重要道路のほぼ三分の一は大規模な修理が必要だ。その一方で、七万の橋(つまり全体の九分の一だ)が「構造上欠陥がある」と判断されている。つまり平易な英語で言えば、安全でない、ということだ。ピッツバーグは橋がすべてという「川の町」だが、欠陥を持つ橋は五分の一だ。このような無味乾燥な数字が、近年では二回も現実の大惨事をひきおこした。ミシシッピ川に架かるミネアポリスの橋(州をつなぐハイウェイI-35がそこを通っている)が、2007年に崩落し、13人の死者を出した。2013年には、太平洋岸の主要なハイウェイである、ワシントン州のI-5で橋が崩落した。

車で中毒になっている国では、鉄道輸送は必然的に単なる添え物にすぎない。しかし、だからといって、世界中を走っている一万四千余マイルの高速鉄道のうち、ほんの一マイルの高速鉄道すら米国にはないのか、その説明にはならない。ワシントン、ニューヨーク、ボストンを結ぶ東海岸北部の重要な交通ルートにさえ高速鉄道がないのだ。その地域は、アメリカの鉄道会社アムトラックが鉄道網を所有しており、高速鉄道による連絡網がありさえすれば、アメリカで最も混み合った空の混雑を解消することにもなるはずだ。もちろん、鉄道駅についてもすべきことはじつに多々ある。ニューヨークのペンシルバニア駅(いわゆるペンステーション)に到着すると、地獄の控え室にでも入った気がする。



海上輸送もしかりで、アメリカは形勢不利になりつつある。大西洋と太平洋の両岸の港湾は、もっと大きなコンテナ船を収容する準備をしている。拡張されたパナマ運河を通過する新しいサイズの船だ。しかしロサンゼルスとすぐ近くのロングビーチの二大港湾は、米国の輸入の40%を処理しているが、既に絶望的なほど混雑していて、大きく後れをとっている。

つまるところ、かなりゾッとする状況だ。1960年代以降、インフラへの公共支出は、GDP比で、ヨーロッパの平均の半分あたりにまで落ち込んだ。そして米国土木学会(ASCE:American Society of Civil Engineers)の計算では、米国が追いつこうとするなら3.6兆ドルが必要だ。それは、金を工面しなければならない連邦政府や州や個人投資家にとっては、巨額の請求だ。しかし米国土木学会が警告するように、それをしなければ、将来の輸出、仕事、個人所得という点から見れば、その損失は、同様の巨額になるだろう。

もちろん、ただちにすべてを直すことはできないが、部分的な解決策は簡単明瞭だ。道路への連邦支出は、ハイウェイ信託基金からでる。これは、1956年の昔に、新しい州間ハイウェイに融資するために設立されたものだ。しかしその基金は財源を連邦ガソリン税から得ている。ガソリン税は1993年以来、1ガロン18セントで立ち往生したままだ。今日、基金は破産寸前だ。

だったら税金を上げればいいじゃないか。今が絶好のときだ。ガソリンの店頭価格は3年で40セント下落した。一方、今日の低燃費の車輌はガソリンをあまり使わない。アメリカが必要としている道路補修のため、誰にも気づかれないように増税をスルリとやってのけるには、今ほど良い時期はないだろう?だがああ、どんな種類であれ増税は、議会を仕切っている共和党には、大いなる嫌われものだ。だからもちろん、ウンザリするほど古ぼけたインフラへの真剣な行動は、オバマケアを廃止するための無駄な投票の半分すらも、共和党の興味を呼ばない。(上院議員56名と浮動票)

しかしながら、すべてが絶望的というわけでもない。国民投票で新しい公共事業について質問されると、投票した四分の三がそれを支持している。自分たちの税金を使ってもよいというのだ。だから道路の穴ぼこについて聞かれれば、賛成票は百%になるだろう。


<註> 堤未果による以下の書籍も、軍事大国アメリカの実像を知るのに役立ちます。
『ルポ貧困大国アメリカⅠ,Ⅱ』(岩波新書、2008.2010)
『沈みゆく大国アメリカ 〈逃げ切れ!日本の医療〉』(集英社新書、2014)
 特に2番目は、医療先進国であるはずのアメリカで本当は何が起きているのか、TPPが妥結すると将来の日本医療・福祉に何が起きるのかを、まざまざと示してくれます
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狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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