黒人教会の殺害事件ーアメリカに吹き荒れる銃暴力、広がるネオナチ・右翼過激派

銃暴力(Gun Violence)、南部最古の黒人教会、「テロリスト」の定義、ネオナチ・極右過激派、アメリカ理解(2015/06/28)
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アメリカにおける銃暴力による死傷者
*死傷者(毎年平均、全年齢) 10万8476人、うち死者32,514人
*死傷者(毎年平均、0ー19歳) 1万7499人 、うち死者2,677人
*死傷者(毎日平均、全年齢) 297 人、うち死者89人
*死傷者(毎日平均、0ー19歳) 48人、うち死者7人
出典:Key Gun Violence Statistics
http://www.bradycampaign.org/key-gun-violence-statistics
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アメリカで広がるネオナチ・極右勢力の暴力
犯罪大国アメリカ 銃暴力 ネオナチや極右勢力
http://rt.com/usa/270142-white-americans-terror-threat/

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 さる2015年6月17日午後9時過ぎに、白人至上主義の若者ディラン・ルーフが、サウスカロライナ州チャールストンの歴史的黒人教会内で銃を乱射し9人を殺害し、複数を負傷させました。
 事件が起きたとき被害者たちは「エマニュエルAME(アフリカン・メソジスト監督派)教会」で聖書勉強会に出席していました。被害者には、同教会の牧師で同州上院議員を務めるクレメンタ・ピンクニー師、およびその姉妹も含まれます。
 6月20日に見つかった「最後のローデシア人」(The Last Rhodesian)というウェブサイトには、南部連合〔南北戦争で敗北した南部諸州の同盟〕の史跡で撮られたルーフの写真と、彼が書いたと思 われる約2500 字の決起の理由を説明した犯行声明文が掲載されています。
 その場で犯行をやめさせようとして生き延びた目撃者の話では、ディラン・ルーフは「この教会が黒人にとって歴史的にも由緒ある教会だから攻撃場所として選んだのだ。ニューヨークの黒人街ハーレムで黒人をたくさん殺しても意味がない。黒人は白人女をレイプしている。このままではアメリカは黒人に乗っ取られてしまう」という意味のことを言ったそうです。
 「マザー・エマニュエル」として知られる同教会は、ボルティモア以南の黒人教会としては最も古い歴史をもっています。この教会は19世紀はじめにその基礎が築かれ、その設立にはデンマーク・ヴィーシーという名の、後に奴隷蜂起を組織したとして処刑された解放奴隷も関わりました。同教会は1820年の奴隷蜂起の際に焼き落とされ、1872年に現在の場所に再建されました。
 ところが、アメリカの大手メディアも、この事件を報道するのに「テロリスト」ということばをいっさい使っていません。
 アメリカ政府が自ら掲げている「テロ」の定義からすれば、白人至上主義の若者ディラン・ルーフの行為は明らかに「テロ」そのものですが、不思議なことにFBI長官もこの事件の犯人を「テロリスト」と呼ぶことを拒否しています。<註1、2>
 黒人やイスラム教徒が何かをすれば必ず「テロリスト」と呼ばれるのに、白人が大量殺戮をしても「心に病をもった若者」といった表現が使われるだけだと、ペンシルバニア大学のアンシア・バトラー助教授(宗教学・アフリカ学)は『ワシントンポスト』紙の下記論文で憤っています。<註3>
 要するにアメリカ政府に抗議したり敵対する人々は「テロリスト」と呼ばれるわけです。自然環境保護運動の活動家すら、FBIによって監視され、「環境テロ活動」「環境テロリスト」と呼ばれるアメリカですから、当然のことかもしれません。(ところがネオナチや極右勢力は、どうも愛国者として扱われるようです。)

ところで、この銃乱射事件を受け、オバマ大統領は 次のように銃規制への行動を国民に呼びかけました。<註4>

これまでにも同じようなことを何度も言わねばなりませんでした。アメリカでは今までにも、このような町で、このような悲劇をあまりにも多く体験してきました。この事件の全容はまだ分かりませんが、分かっていることがひとつあります。それはまたもや無実の人たちが殺されたということです。このようなことが起きるひとうの原因は、ひとを傷つけたいと思っているひとに銃が簡単に手に入るということです。今は喪に服すときですが明らかにしておかねばならないのは、このような大量殺戮がほかの先進国では決して起きていないということです。ほかの先進国では、こんなに頻繁に、このような事件は起きていないのです。

  しかし、この演説を聴いて私はオバマ氏の厚顔ぶりにやや唖然としました。イラク、アフガニスタン、リビア、シリア、イエメン、ウクライナ(とくに東ウクライナ)などにすむ民衆には、このオバマ氏の演説はどのように響いたでしょうか。
 オバマ氏は上の演説で、「この事件の全容はまだ分かりませんが、分かっていることがひとつあります。それはまたもや無実の人たちが殺されたということです」と言いました。
 中東や東ウクライナなどでは、大統領命令によって、無実のひとが無人爆撃機で大量に殺されているのですが、どうもオバマ氏の目には、そのような大量殺戮は存在しないかのようです。
 オバマ氏も司法長官だったエリック・ホルダー氏も「暗殺リストおよびその証拠を出す必要はない」「テロリストでないという証拠は、殺されなかったという事実だけだ」「無人機で殺された人はテロリストだったからだ」という驚くべき発言をしています。
 チョムスキーは「無実の人をひとり暗殺すればテロリストは10人増える」という趣旨の発言をしていますが、オバマ氏はこのような事実を無視して(あるいは放置して)国民に銃規制を呼びかけているのです。しかも自分は外国に大量の爆撃機や重火器を売りまくっているのですから、信じがたい言動と言わねばなりません。
 さらにオバマ氏は上記の演説で、「このようなことが起きる一つの原因は、ひとを傷つけたいと思っている人間に銃が簡単に手に入るということです」と言っています。
 しかし、いま大きな話題にのぼっているIS[イスラム国]の残虐行為を裏で支援しているのはイスラエルやサウジアラビアなどの王政独裁国家ですが、その国に武器を売りまくっているのはどの国なのでしょうか。
 イスラエルがパレスチナのガザ地区を何度も猛爆撃して大量殺戮をおこない、病院や学校までも破壊して広い地域を瓦礫に変えました。アメリカ寄りの国連でさえ戦争犯罪と言い始めました。が、この爆撃機や重火器を提供しているのはアメリカです。
 最近でもサウジアラビアがイエメンを猛爆して同じような大量殺戮をおこないましたが、サウジに最新鋭の爆撃機を提供したり空中給油をしているのもオバマ政権です。オバマ氏は、イエメンにアメリカ国籍のひとが多く取り残されているにもかかわらず、彼らを脱出させるのではなく、サウジの攻撃を支援し続けました。
 ウクライナのクーデターを裏で支援し、ウクライナ政府軍のネオナチや極右勢力が東ウクライナで殺戮を繰り返していても、オバマ政権はそれを知らないふりをして米軍特殊部隊を大量に送り込んでウクライナ政府軍の訓練を続けました。

 このような事実を書き連ねるときりがないので、このへんで止めたいと思いますが、サウスカロライナ州チャールストンの黒人教会における殺戮事件にかかわって、ここで一つだけ書いておきたいことがあります。
 それは、オバマ氏やFBI長官が犯人を「テロリスト」と呼ばなかっただけでなく、国内のネオナチや極右勢力を放置してきたという事実です。これはオバマ氏がウクライナにおけるネオナチや極右勢力を放置してきた事実とぴったり符合するものです。
 オバマ政権はイスラム教徒だけに焦点をあてて監視していますが、「ニュー・アメリカ研究センター」の新たな研究によれば、2001年9月11日以降の非イスラム教徒によるテロ事件は19件なのに対し、イスラム教徒によるものはわずか7件でした。極右・白人至上主義者による殺害者数は、イスラム過激派によるそれを大幅に上回っているのです。<註5>
 それどころか、元FBI国内対テロ専門捜査官のマイク・ジャーマン氏(ニューヨーク大学法科大学院ブレンナン司法センターのフェロー)は、アメリカ国内のネオナチや極右勢力を長年にわたって調査してきたが、その報告はすべて握りつぶされただけでなく、結局はFBIを辞めざるを得ないように追い込まれたと言っています。<註6>
 考えてみれば、第二次大戦が終わった後、アメリカ政府は多くのナチ信奉者をアメリカに移住させて利用してきましたから、今さら驚くことはないのかもしれません。アメリカは、戦後の日本でも、戦犯として巣鴨刑務所に収監させられていた人物を牢獄から引っ張り出して首相の座につけ、傀儡政権をつくり戦後の占領政策に協力させました。今はその孫が首相になっています。<註7>

 オバマ氏は先にも紹介したように、チャールストンの黒人教会における殺戮事件にかかわって「今は喪に服すときですが明らかにしておかねばならないのは、このような大量殺戮がほかの先進国では決して起きていないということです。ほかの先進国では、こんなに頻繁に、このような事件は起きていないのです」とも述べています。
 オバマ氏が「ほかの先進国では、このような大量殺戮が、こんなに頻繁に起きていない」というのは、まさにその通りです。元大学教授で今は退職して講演や執筆活動で忙しいジョン・コーズィ氏は下記の論文<註8>で次のように述べています。

アメリカ合州国は暴力によって身ごもり、暴力によって養育された。アメリカ人は暴力に手を染めているだけでなく、暴力を楽しんでさえいる。
 殺人はアメリカで毎日平均87回も起きている。戦争のためアフガニスタンに行くほうが、シカゴで暮らすより危険ではない。 ローマ人は殺人を観劇するためコロシアムに出かけたが、大都市のアメリカ人は窓の外を眺めるだけでいい。 かつて野球はアメリカの国技だったが、温和で退屈なスポーツなので、アメカンフットボールのような、選手の脳を破壊するほど獰猛なスポーツに取って代わられてしまった。
 暴力映画は「アクション映画」と呼ばれ、映画館とテレビを支配している。子どもたちもビデオ殺人ゲームを楽しんでいる。

  コーズィ氏は上で「殺人はアメリカで毎日平均87回も起きている」と述べているのですが、「銃暴力予防のためのブレイディ・キャンペーン」という組織による最新の調査では、銃暴力による死傷者は毎年平均108,000人以上(正確には108,476人)で、そのうち死者32,514人ですから、確かに、このような先進国は世界のどこを探してもアメリカ以外には見つからないでしょう。<註9>
 しかし、「ほかの先進国では、このような大量殺戮が、こんなに頻繁に起きていない」というオバマ氏のことばを聞いて私の頭に浮かんだもうひとつのことがあります。それは、このオバマ氏のこのことばを次のように言い換えて、それをそのままオバマ氏に献上したらどうかということです。
    世界中でどこを探しても、「ほかの先進国で、このような大量殺戮を、こんなに頻繁におこなっている国はない」
 それは、次のように質問してみれば「アメリカが世界を破壊と殺戮の場に変える主役」だったことが一目瞭然となるからです。
Q1:アメリカが「大量破壊兵器」という嘘を根拠にイラク戦争を始めなかったら、今の中東の混乱・破壊・殺戮は生まれなかったでしょう。
Q2:アフリカで最も豊かな世俗主義国家であったリビアを爆撃し、リビアを破壊しなかったらなかったら、いまヨーロッパに大量に流れ込んでいる難民はいなかったでしょう。
Q3:アメリカが、世俗国家シリアの反政府軍(イスラム過激派)を支援しなかったら、「イスラム国」などという超過激なイスラム原理主義国家は誕生していなかったでしょう。
Q4:アメリカがイスラエルの蛮行を軍事面でも財政面でも支援していなければ、パレスチナ「ガザ地区」で起きているような惨劇・戦争犯罪は起きていなかったでしょう。
Q5:アメリカが裏で仕組んだウクライナのクーデターを起こさなかったら、パレスチナのガザ地区に匹敵するような惨劇は東ウクライナで起きなかったでしょう。

 アメリカが(ときにはクーデターすら起こして)支援する中南米の独裁国家からの難民が、大量にアメリカへなだれ込んできているを見れば分かるように、このような問いは半ば無限に続けることができます。
 チョムスキーが次のような諸論文で、アメリカが「世界平和にとって由々しき脅威」であることを、何度も繰りかえし論じている理由も、これらのことからも明らかでしょう(以下はすべて拙訳です)。

チョムスキー20141103 「アメリカのテロリズム、長く恥ずべき歴史」
チョムスキー20141020 「世界の誰もが知っている:アメリカは世界最強=最悪のテロ国家だ」
チョムスキー20130104 「世界平和への由々しき脅威:アラブの民衆が最も恐れているのは誰か」
チョムスキー20130503 「ボストンマラソン爆破事件とテロ国家アメリカの過去・現在・未来」
チョムスキー20120903 「なぜアメリカとイスラエルは世界平和にとって最大の脅威なのか」

  ところがいまアメリカは、ヨーロッパでは「ウクライナ問題」を口実にしてロシアを相手に、そしてアジアでは「尖閣列島や南沙諸島」を口実にして中国を相手に、新しい戦争を始めようとしています。
 しかもこれらの戦争でロシアを相手に戦う兵士はNATO軍であってアメリカ兵ではありませんし、中国を相手に戦うのは自衛隊であってアメリカ兵ではありません。こうして第2次世界大戦のときと同じように、アメリカは、ほぼ無傷で世界の大国として生き残るつもりです。
 チョムスキーはこれらの事態を指して「今や『終末時計』の針は3分前にまで迫った」と言っています。にもかかわらず我が国の首相は、アメリカに協力するために「戦争放棄」の憲法を捨て、着々と「戦争法規」を整備しています。沖縄における米軍の辺野古基地移転は、そのために「粛々」と実行されているのです。


NOTES(註)
1 「典型的なテロ事件」、ルーフをテロリストと呼ばないFBIは、白人による暴力を無視するのか?
"A Classic Case of Terrorism": Is FBI Ignoring White Violence by Refusing to Call Roof a Terrorist?
http://www.democracynow.org/2015/6/22/a_classic_case_of_terrorism_is
2  FBI長官JAMES COMEが、ルーフを「テロリスト」と呼ばない理由および「テロ」の定義は次の通りです。しかし、この定義からするとルーフは明らかにテロリストです。
"I wouldn't say so, because of the way we define terrorism under the law. Terrorism is an act of violence done or threatened to—in order to try to influence a public body or the citizenry, so it's more of a political act. And again, based on what I know so far, I don't see it as a political act."
http://www.democracynow.org/2015/6/22/a_classic_case_of_terrorism_is
3 「黒人や褐色人は『テロリスト』『凶漢、ごろつき』と呼ばれるが、白人は『心の病』と呼ばれるだけ?」
Shooters of color are called ‘terrorists' and ‘thugs.' Why are white shooters called ‘mentally ill'?
http://www.washingtonpost.com/posteverything/wp/2015/06/18/call-the-charleston-church-shooting-what-it-is-terrorism/
4 「繰り返される大量虐殺に世論は銃規制へ動くか?」
"It is in Our Power to Do Something": After Another Massacre, Will Public Mobilize for Gun Control?
http://www.democracynow.org/2015/6/19/it_is_in_our_power_to 
5 「911以降の、右翼過激派による暗殺者数の統計」
Deadly Attacks Since 9/11
http://securitydata.newamerica.net/extremists/deadly-attacks.html
この統計によれば、極右・白人至上主義者による殺害者数は、イスラム過激派によるそれを大幅に上回り、約2倍の48名にものぼっています。毎年4名の勘定になります。
6 「米国は右派テロを無視?9.11以降イスラム聖戦士よりも白人過激派に殺害された犠牲者の方が多い」
Does U.S. Ignore Right-Wing Terror? More Killed by White Extremists Than Jihadists Since 9/11
http://www.democracynow.org/2015/6/25/does_us_ignore_right_wing_terror
7 「隣に住んでいるナチス、いかにしてCIAとFBIはナチ戦犯に隠れ家を提供したか」
The Nazis Next Door: Eric Lichtblau on How the CIA & FBI Secretly Sheltered Nazi War Criminals
http://www.democracynow.org/2014/10/31/the_nazis_next_door_eric_lichtblau
「隣に住んでいるナチス、いかにしてアメリカはヒトラーの部下にとって安全な避難所となったか」>
Part 2: Eric Lichtblau on "The Nazis Next Door: How America Became a Safe Haven for Hitler's Men"
http://www.democracynow.org/blog/2014/10/31/part_2_eric_lichtblau_on_the
8 「暴力、それはアメリカの生活様式だ」(Violence: The American Way of Life)
http://www42.tok2.com/home/ieas/ViolenceTheAmericanWayOfLife.pdf
9 BradyCampaign「銃暴力の統計」
Key Gun Violence Statistics
http://www.bradycampaign.org/key-gun-violence-statistics
この統計によれば、アメリカで銃によって殺されている人は、コーズィ氏の言う87人ではなく、毎日89人に増えています。



<追記> いまアメリカで激増しているのは、ネオナチや極右勢力の銃暴力と同時に、白人警官による丸腰の黒人を銃で殺す事件です。そのなかには、公園で12歳の男の子が玩具の銃で遊んでいたら、そこに車で乗り付けてきた警官が車から降りて2秒も経たないうちに銃で撃ち殺す(しかもそばにいた姉の女の子が救いに駆けつけたら、その姉も逮捕されてしまった)という事件など、言語を絶する事例があまりにも多く、まるで時計が1960年代の公民権運動以前に巻き戻されたような感があります。しかし、これらの事例について詳しくふれるゆとりが今はありません。ただ一言だけ言っておきたいのは、このような事件が「黒人大統領」の下で激増していることです。これは「悲劇」と言うべきなのでしょうか「喜劇」と言うべきなのでしょうか。


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狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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