ギリシャの選択、アイスランド金融危機から何を学ぶべきか(2)―IMFへの支援要請と「アイスセーブ」問題

ネット預金「アイスセーブ」、民間銀行「ランズバンキ」、トロイカ [EU、IMF、ECB]、緊縮政策Austerity、国際教育(2015/07/20)
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ティプラス首相の裏切りに抗議するギリシャ民衆
Greek, Athens
http://www.rt.com/news/310515-greece-bailout-protest-vote/
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連載予定
第一回:アイスランドが隆盛から凋落へといたる過程
第二回:IMFへの支援要請と「アイスセーブ」問題
第三回:国民が投票で政策を選択した
第四回:アイスランドから学ぶべきこと
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<註> ネット預金「アイスセーブ」は、アイスランドの民間銀行「ランズバンキ」が始めたネット預金で、6%を超える高金利を掲げていた。イギリスBBCがこれを「今最も有利な預金先」と報じたことも手伝って、ランズバンキの海外支店に申し込みが殺到した。これが問題の始まりだった。―これについては連載の第1回を読み直していただければ幸いです。
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第二回:IMFへの支援要請と「アイスセーブ」問題

 苦境に立たされたアイスランド政府は、二〇〇八年一〇月一四日にIMFに正式に支援を要請した。西欧の国がIMFに救済を求めるのは一九七六年のイギリス以来久しぶりのことだった。そしていつものように、IMFからは融資と財政緊縮策がセットになった支援プログラムが提示された。IMFは二一億ドルの融資の条件としてGDPの一五パーセント相当の歳出削減を要求してきた。
 一方、アイスセーブの国外預金者への返済については〔国内預金者に対しては、アイスランド政府がすでに全額保護を宣言していた〕、その後イギリスとオランダの政府が自国の預金者への補償を肩代わりし、アイスランドに対してその分の返済を迫っていた。EU諸国もこれを後押しし、速やかな返済がIMF支援の前提条件になるとの圧力をかけた。アイスセーブは民間銀行だったランズバンキ〔金融危機後の一〇月に国有化〕が運営していたものだが、それが今や国家の問題となり、アイスランドは税金を投じて返済を急ぐように求められたわけである。こうなると、IMFが求める緊縮策も、アイスランドにとっては経済回復のためというよりイギリス・オランダの預金者への返済のためという色合いが濃くなる。その後イギリス・オランダとの交渉でまとめられた返済計画は、二〇一六年から二〇二三年の七年間でアイスランドのGDPのおよそ半分に当たる額〔二〇〇九年べース。利息を含む〕を返済するというものだった。
 こうして、アイスランド国民は難しい問題を突きつけられた。一部のビジネスエリートが手を染めたギャンブルまがいの投資は、果たしてその国が、国民が、責任を負うべきものなのか。民間銀行のお粗末な投資判断は、果たして国民全体で尻拭いすべきものなのか。すでに述べたように、この国には一部の富裕層とその他大勢の国民との間に大きな格差が生まれていた。それだけに、これは深刻な問題だった。贅沢三昧に暮らしてきた富裕層が作った借金を、なぜその他大勢の国民が負担しなければならないのか。この国は一八万二〇〇〇世帯からなるが、そのうちおよそ一〇万世帯はリスクの高い投資とは無縁で、大きな負債もなかった。残りの世帯には何らかの負債があったが、たとえば一〇〇万ドルを超える規模の負債となると、該当するのはわずか二四四世帯である。つまりほんの一握りの人々が莫大な金額を動かしていたわけで、それにもかかわらず、国民全体がその結果に苦しむことになり、しかも負債まで背負わなければならないというのである。
 それだけではない。IMFは保健医療関連の予算を三〇パーセント削減せよと求めていた。IMFの予算削減の考えは、経済回復の鍵となる分野に優先的に予算を配分し、それ以外の分野を思い切って削るというものである。それ自体はいいのだが、問題は何が重要かという判断である。驚くべきことに、IMFのエコノミストたちは医療を"贅沢品"と見なしていた。もともとアイスランドは他のヨーロッパ諸国に比べて医療費支出の割合が高かったため、この分野は大幅に削れる、また削ることによって医療の民営化を促すこともできるとIMFは考えた。
 これに対し、二〇〇九年九月末、アイスランドの保健・社会保障大臣が、アイスセーブの返済優先の予算削減という大枠の考え方と、保健医療部門の削減幅が他の部門〔たとえば教育や軍事〕の倍以上であったことへの抗議を表明して辞任した。
 ちょうどその二〇〇九年九月に、オーストリアのバート・ガスタインで欧州ヘルスフォーラム〔欧州の保健政策会議〕が開催された。そのとき、わたしたちがよく知る研究者で、アイスランドの次期保健局長宜候補だったグジョン・マグナッソンはこんな冗談を言った。「IMFと吸血鬼の違いは何だと思う? 相手が死んだら血を吸うのをやめるかどうかってところだよ」

(『経済政策でひとは死ぬか― 公衆衛生学から見た不況対策』草思社2014、pp.119-121)

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<註> 時間がある方は、下記の翻訳も併せて読んでいただければ理解が深まると思います。最初のものは、『BODY ECONOMIC』の著者がニューヨークタイムズに寄せた論考です。
(1) 「緊縮政策は殺人行為だ― 医療・福祉への1ドルは、3ドルの経済成長をもたらす」
(2) チョムスキー「ヨーロッパ福祉国家の解体」


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