ギリシャの選択、アイスランド金融危機から何を学ぶべきか(4)―救うべきなのは国民であって大銀行や投資家ではない

国民投票Referendum、「大きすぎて潰せない」Too Big to Fail、トロイカ [EU、IMF)、欧ECB]、緊縮政策Austerity、国際教育(2015/07/30)
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 カナダ・オタワ大学の教授 Michel Chossudovskyは、ギリシャ情勢について、Global Research(2015年7月21日)で次のように論評しています。
 「ギリシャ議会による承諾は、国民投票におけるNOを覆した政府がギリシャ国民の意思に反して債務交渉をまとめる法的拘束力をもつのだろうか。ギリシャ憲法の下では議会も政府も2015年7月5日のギリシャ国民の投票を撤回することはできない。民主主義の下では、政府には、そもそもシリザ政権が提案した国民投票におけるNO投票を実施する責任がある。もしギリシャ国民の要求に答えるつもりがないのであれば辞職すべきだ。最高特別裁判所(AED)が国民投票の実施を承認していたことは注目に値する。だとすれば今はギリシャ国民が議会決定の合法性を問うことが重要だ。」
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2015/07/no-8af1.html
 上でチョスドフスキー教授は「ギリシャ国民の要求に答えるつもりがないのであれば辞職すべきだ」と言っているのですが、ツィプラス首相は辞職を選ぶのではなく自分に反対する閣僚をすべて首にしてしまいました。
 以下で紹介するように、ギリシャがアイスランドの教訓から学べば経済の再生も可能ですが、このままではギリシャの資産はすべて外国の企業や投資家に略奪され、国民は大量の難民となってヨーロッパに流れ込むことになるでしょう。日本でもTPPが通れば、程度の違いはあれ、似たようなことが起きます。しかし大手メディアはTPPの利益を言うことはあっても、決してその危険性をきちんと伝えようとしていません。
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連載
第一回:アイスランドが隆盛から凋落へといたる過程
第二回:IMFへの支援要請とネット預金「アイスセーブ」問題
第三回:国民が投票で政策を選択した
第四回:アイスランドから学ぶべきこと
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<註> ネット預金「アイスセーブ」は、アイスランドの民間銀行「ランズバンキ」が始めたネット預金で、6%を超える高金利を掲げていた。イギリスBBCがこれを「今最も有利な預金先」と報じたことも手伝って、ランズバンキの海外支店に申し込みが殺到した。これが問題の始まりだった。―これについては連載の第1回を読み直していただければ幸いです。
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第四回:アイスランドから学ぶべきこと

 アイスランドが金融危機に陥った最大の原因は、一九九〇年代と二〇〇〇年代初頭の急激な「金融化」にあった。当時の好調な経済は高リスクの投資に基づいたバブルであって、本当に役立つ商品・サービス・新技術を生み出すものではなかった。だがアイスランド人はだだ危機にのみ込まれるのではなく、それを賢く乗り切ることによって、危機を学びの場に変えた。
 そして今、本来の価値へ、実体経済へと舵を切ることで国を立て直そうとしている。二〇一二年、イギリス経済が保守派の緊縮政策の下で停滞を続けるなか、アイスランド経済は三パーセントの伸びを達成し、失業率も五パーセントを切った。そして同年六月には、予定よりも早く、IMFなどから借り入れた資金の返済も始まった。二〇〇八年以降に引き下げられた格付けも、二〇一二年二月には「異例の危機対応」が評価されて投資適格等級に引き上げられた。
 アイスランド政府のユニークな対応が「思いもよらぬ」経済回復につながったことは、IMFでさえのちに認めざるをえなかった(もっともIMFの場合、改革案が出されても、結局はまた以前のやり方に戻ってしまうという繰り返しなのだが)。アイスランドから得られた最大の教訓は、IMFの事後評価レポートの次の個所に示されている。
 「アイスランド政府は危機後も福祉国家としての根幹を守るという目標を掲げ、そのために福祉を堅持した。それをいかにして財政再建と両立させたかというと、まず歳出削減においては福祉を損なわないように配慮し、また歳入増加においては富裕層への増税を柱とした」。
 表現が硬いものの、要するに、福利のためにも景気回復のためにも社会保護制度が欠かせないと認めた内容で、これはIMFとしては画期的なレポートだった。
 もちろん、アイスランドのやり方を誰もが認めたわけではない。イギリスとオランダはアイスセーブの補償金の支払いを求め、歳出を削減してその分を支払いに回すようさまざまな圧力をかけつづけた。
 だがアイスランド国民は、二〇〇九年三月に続き、二〇一一年四月の二回目の国民投票でもこの支払いを拒否した。アイスセーブの海外預金者への返済に関する法案はその後何度も練り直されていたが、結局この二回目の国民投票でも六〇パーセントの国民が反対し、法案は通らなかった。
 英フィナンシャル・タイムズ紙が報じたように、アイスランドの人々は「銀行より国民を優先した」のである。その考え方はアイスセーブ返済問題のみならず、銀行の責任者の追及という形でも表れた。たとえば、グリトニル銀行の元CEOラルス・ウェルディングは違法ローンを提供した罪で起訴され、有罪になった。グリムソン大統領も、「アイスランド政府は国民を救済し、今回の金融崩壊の原因を作った銀行幹部を刑務所に送りました。つまり、アメリカや他のヨーロッパ諸国とは逆のことをしたのです」と述べている。
 欧米の大手銀行と同じように、アイスランドの主要銀行も「大きすぎて潰せない」と見なされていたが、アイスランド政府は潰れるに任せた。その決断が正しかったかどうかは、結果を見れば明らかである。多くのヨーロッパ諸国が苦しみつづけるなか、アイスランドは景気回復に成功したのだから。

図4-1 金融危機後のアイスランドとギリシャの歩み
緊縮政策、ギリシャとアイスランド160

 本書執筆中に、アイスセーブ問題はとうとう国際調停に持ち込まれることになった。二度目の国民投票の結果を受け、イギリスとオランダが欧州自由貿易連合(EFTA)の調停に委ねたのである。それでもアイスランド政府は態度を変えず、極端な緊縮策を退け、社会保護制度を維持することによって国民の命と健康を守りつづけた。
 アイスランド国民は銀行が無謀な投資に走るのを手をこまねいて見ていたわけだが、その投資が招いた事態の収拾に当たっては傍観することなく、国民全員が参加して方法を決めた。それを受けて政府も賢い選択をし、それ以上の被害が及ばないように国民を守りつつ、経済を立て直していった。〔二〇一三年三月に、EFTAはアイスランドに費用負担の義務はないとの判決を下した〕
 しかもそれだけでは終わらなかった。アイスランドは今回の経済崩壊から教訓を得て、再び国家破綻の危機を招くことがないように先手を打ち、憲法を改正した。改正案は二〇一一年七月に作成されたが、その方法もユニークだった。一般市民のなかから立候補して選ばれた二五人の代表が、インターネットを利用して広く国民の意見を取り入れて(クラウドソーシング)まとめたのである。
 主眼に置かれたのは、天然資源の管理強化と、政治家と銀行の癒着の解消だった。そしてこの改正案は、これまたインターネット上で二〇一二年一〇月に国民投票にかけられた。ソーシャルメディアのアプリケーションを利用して、改正案に関する六つの質問に答えるという方法で、国民の三分の二が草案を新憲法の土台とすることに賛成した。
 アイスランドが福祉を維持できたのは、政府が民主主義を第一とし、かつ国民が社会保護維持の意思を明確にしたからだった。その結果、アイスランドはよりいっそう強い社会になった。この章の冒頭で紹介した二〇〇八年一〇月六日のテレビ演説で、ホルデ首相は、「皆さん、最悪の場合、わが国の経済は銀行とともに混乱の渦に巻き込まれ、同家破綻という結果になるかもしれません」に続けてこう言っていた。
 「しかしながら、責任ある政府は、たとえ銀行制度が崩壊の危機に瀕しようとも、国民の未来を危険にさらすようなことはいたしません」。
 そのために、アイスランドは厳しい緊縮政策の道を歩まず、住宅支援や再就職支援、医療保険といった主要な制度を支えつづけた。
 わたしたち二人[註1] の助言が聞き入れられた成果だと言いたいところだが、そうではない。国民の命と健康を守るために必要なデータを見て、必要な措置を講じたのは、アイスランド国民自身だった。アイスランドを救ったのは神ではなく、アイスランド国民である。
 これとは対照的なのがギリシャで、その違いは図4-1にも表れている。次章ではそのギリシャで何が起きたのかを見ていく。ギリシャはECB(欧州中央銀行)とIMF(国際通貨基金)から厳しい緊縮策を課せられ、一時的に民主主義が犠牲にされ、その結果アイスランドとはまったく異なる道を歩むことになった。

(スタックラー&バスー『経済政策でひとは死ぬか― 公衆衛生学から見た不況対策』、pp.136-140)

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<註1> 原書『BODY ECONOMIC: Why Austerity Kills 』(邦訳名『経済政策でひとは死ぬか―公衆衛生学から見た不況対策』草思社2014)。共著者のひとりであるディビッド・スタックラー(David Stuckler)は、オックスフォード大学社会学の上級研究指導員、もうひとりの著者サンジェイ・バスー(Sanjay Basu)は、スタンフォード大学医学部の助教授で予防研究センターの疫学者。

<註2> 時間がある方は、下記の翻訳も併せて読んでいただければ理解が深まると思います。最初のものは、『BODY ECONOMIC: Why Austerity Kills』(『いのちの経済学―緊縮政策は殺人行為だ』2013)の著者がニューヨークタイムズに寄せた論考です。
「緊縮政策は殺人行為だ― 医療・福祉への1ドルは、3ドルの経済成長をもたらす」
チョムスキー「ヨーロッパ福祉国家の解体」



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