翻訳:ポール・クレイグ・ロバーツ「騒音と憤怒が多くを物語るギリシャ」

アレクシス・ツィプラス、「左翼政党」シリザ、ナイジェル・ファラージ、イギリス独立党、マリーン・ルペン、フランス国民戦線、TPP、ウィキリークス、ラルフ・ネーダー、「コンマン(詐欺師)オバマ」、国際教育(2015/08/05)


 嬉しいニュースが二つありました。ひとつはハワイのTPP会合が最終合意に至らなかったことです。
 そもそも交渉内容を国民に公開できないようなものが国民の利益になることはあり得ません。それをあたかも国民の利益であるかのように言い、それを批判するウォーレン上院議員などを「抵抗勢力」として罵倒するやり方は、かつての小泉首相と同じです。米国「パブリック・シチズン」の創設者ラルフ・ネーダーがオバマ氏を「コンマン(詐欺師)」と呼ぶゆえんです。関連記事は下記にあります。
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2015/08/tpp---a476.html
 もうひとつはウィキリークスが「アメリカの巨大スパイ機関NSAが日本の政府や企業から大量に盗み出していた」ことを暴露したことです。
 ソ連が崩壊したあと、CIAやNSAは、失職するのを恐れ、てスパイの対象を「仮想敵国」ではなく経済的な競争相手に変え、世界第二位になった経済大国=日本も、そのターゲットになっていました。このことは、すでに『CIA秘録』(文藝春秋)で明らかになっていましたが、こんどのウィキリークスは、さらにそれを詳しく部署・個人名・企業名まで明らかにしました。
 ところが安倍内閣は、アメリカのこのような侮辱にたいしてきちんと抗議する意思はなさそうです。TPPは大企業・多国籍企業が他国の環境規制・食品規制・医療規制などを乗り越え踏みにじって一人勝ちできるようにする協定ですから、アメリカの言いなりになっていると、日本も次のギリシャになってしまうでしょう。詳しくは下記をご覧ください。
http://www.labornetjp.org/news/2015/0802wiki
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201508010000/
 ギリシャ情勢に関しては、私の主宰する研究所の研究員から翻訳「騒音と憤怒が多くを物語るギリシャ」が届きましたので、以下に紹介させていただきます。この小論の執筆者であるPaul Craig Roberts氏は、レーガン政権のときの経済政策担当の財務次官補でした。
 氏は経済学博士号をもち、『ウォール・ストリート・ジャーナル』の元共同編集者でもありました。『ビジネス・ウィーク』『スクリプト・ハワード・ニューズ・サービス』『クリエーターズ・シンジケート』のコラムニストとしても活躍してきました。『グローバル・リサーチ』の常連寄稿者でもあり多数の大学で教えたこともあります。
 このような経歴の持ち主が、ギリシャ情勢を以下のように分析していることは、きわめて興味あることです。(彼のサイトはhttp://paulcraigroberts.org



騒音と憤怒が多くを物語るギリシャ
Greece: Sound and Fury Signifying Much
ポール・クレイグ・ロバーツ博士
Global Research, July 15, 2015
http://www.globalresearch.ca/greece-sound-and-fury-signifying-much/5462623


全ヨーロッパと、ギリシャに無頓着だったアメリカ人とカナダ人も、左翼政党シリザが「1%」の代理人に降伏したことを知らされた。シリザの降伏は、西欧全体で社会保障システムが解体されるということだ。

ギリシャ首相アレクシス・ツィプラスは、第二次世界大戦後のギリシャが20世紀に達成した社会福祉を、「1%」の富裕層がギリシャ国民から略奪することに同意したのだ。年金と高齢者医療は消滅しかけている。「1%」はお金が必要なのだ。

国家に保護されてきたギリシャの島々、港、水道会社、空港など、ありとあらゆる国有財産が、「1%」に売られるということだ。もちろん安値で。しかしその後の水道代は安値ではないだろう。

これはギリシャに課された第3の緊縮財政だが、ギリシャ政府自身にも片棒を担げと命令する緊縮財政だ。緊縮財政にたいする政府の合意は、文字通りギリシャ人からあらゆる物を略奪する行為の隠れ蓑として機能する。IMFは、緊縮財政を押しつけるトロイカのメンバーだ。ところが、そのIMFのエコノミストたちが緊縮財政は誤りだったと述べているのだ。つまりギリシャ経済は緊縮財政によって落ち込み、その結果、ギリシャの負債は増加して、さらなる重荷となっているのだ。緊縮財政が行われる度に負債は増え、ますます返済を不可能にしている。

しかし「1%」が略奪するとき、彼らは事実に全く関心がない。IMFのエコノミストたちがそれを正当化できないと言っているにもかかわらず、緊縮財政という略奪は粛々と実行されてきた。

かくして、ギリシャの民主主義は無力であることが証明された。なぜなら、ギリシャ国民が1週間前に圧倒的な反対投票をしたにもかかわらず、略奪が進行しているからだ。だからアレクシス・ツィプラスからわかることは、選挙で選ばれた首相はギリシャ国民を代表しておらず、「1%」を代表しているということだ。

世界中から「1%」の安堵のため息が聞こえてきた。最後のヨーロッパ左翼政党、あるいは左翼として通ってきたものが、ついに屈服したのだ。ちょうどイギリス労働党やフランス社会党やその他すべてが辿(たど)ってきたのと同じ道だ。

左翼を支えるイデオロギーがなくなって、ヨーロッパ左翼は死んだのだ。ちょうどアメリカの民主党と同様に。これらの政党が死んだことによって、人々は自分たちの代弁者を失った。国民の声を聞く耳を持たない政府は、民主主義ではない。このことを我々はギリシャではっきり見ることが出来る。ギリシャ国民が、国民投票で決定的な意思表示をした1週間後、政府は国民を無視しして「1%」に従ったのだ。

アメリカの民主党は、雇用の海外移転にともなって死んだ。それは民主党を支える財政的基盤だった工場労働者の組合を破壊したからだ。他方、ヨーロッパ左翼はソ連崩壊と共に死んだ。

ソ連は、資本主義に変わる社会主義者のシンボルだった。ソ連崩壊と「歴史の終焉」は、左翼から経済政策を奪った。そして左翼に残されたのは、少なくともアメリカでは、堕胎や同性愛婚や性の平等や人種問題のような「社会問題」だけだった。それら「社会問題」は左翼の伝統的な土台だった労働者階級を弱体化させた。階級闘争は、異性愛と同性愛の闘い、黒人と白人の闘い、男性と女性の闘いの中で姿を消した。

今日、欧米人は再び奴隷化に直面している。そしてアメリカのネオコンが「アメリカは、世界覇権の資格がある、歴史に選ばれた人々である」と主張し、その結果、世界を核戦争に直面させているというのに、アメリカ左翼がいま大きな関心を払っているのは、南軍旗を南部諸州の庁舎から引き下ろすことだけだ。

ヨーロッパ最後の左翼政党シリザの崩壊は、さらに断固とした政党がポルトガルやスペインやイタリアに出てこないかぎり、バトンを右派政党の手に引き渡すことになる。つまり、ナイジェル・ファラージが率いるイギリス独立党やマリーン・ルペンが率いるフランス国民戦線など、EUにおける国家主権の廃棄に反対し民族主義を支持する右派政党に国民は流れていく。

シリザは、EUの断固たる攻撃に対抗してギリシャ銀行を国有化しようとしたが、それに失敗した時点で敗北は見えていた。ギリシャの「1%」が銀行やメディアを所有していたからだ。しかもギリシャ軍は国民と共に立つ気配がない。ここに見られるのは、平和的変革が不可能であるということである。カール・マルクスやレーニンが説いていたように。

革命と根本的改革は、生きのびた「1%」によって挫折させられ、ひっくり返される。マルクスは、1848年の革命に敗北して挫折し、史的唯物論に導かれて(レーニンや毛沢東やポル・ポトと同じように)、旧体制の人間を生かしておくと反革命につながったり民衆が農奴に逆戻りすることになると考えた。ラテン・アメリカの改革派政府は、米国財界勢力による政権転覆策動に対して非常に脆弱だ。米国財界は地元のスペイン系財界エリートと結託して行動するからだ。知ってのとおり、ベネズェラやエクアドルで現在この過程が進行中だ。

マルクスの教えを守って、レーニンや毛沢東は旧体制を排除した。階級闘争のホロコーストはナチの人種ホロコーストでユダヤ人が経験したことより、何倍も大きかった。しかしその記念碑は残っていない。

今日にいたるまで欧米人はなぜポル・ポトがカンボジアの都市部を空っぽにしたのか理解していない。欧米はポル・ポトを精神病者とか大量殺害者とか精神医学的事件として片づける。しかしポル・ポトは、もし彼が旧体制の代表者を許したら、彼の革命は転覆されると考えて行動したに過ぎない。ジョージ・W・ブッシュ体制が奉じた法概念(すなわち「先制攻撃は正しい」)を使えば、ポル・ポトは前もって行動することによって反革命を防ぎ、反革命の傾向がある階級を排除したことになる。

イギリス保守党のエドマンド・バークは、進歩の過程は改革であり革命ではないと言った。イギリスの支配層は、(左翼勢力がそれなりに強かったから)しぶしぶながら、革命の代わりに改革を受け入れた。おかげでバークは自分の主張の正当性を守ることができた。しかし今日、左翼が全体的に敗北していて、「1%」は改革に同意する必要がない。だから権力に従うことだけが、残された唯一の選択肢だ。

ギリシャは始まりに過ぎない。経済や社会保障制度の崩壊、失業率の並はずれた増加によって自国から追い出されるギリシャ人は、彼らの貧困を他のEU諸国に持ち込むだろう。EUメンバーは国境に縛られず自由に移住できる。ギリシャにおける福祉制度の崩壊は、ギリシャ人を他のEU諸国の福祉制度へと追いやられることにことになるが、そうした福祉制度も、「1%」の連中が民営化することによって、廃止されることになるだろう。

21世紀の「囲い込み」「エンクロージャー Enclosure」が始まった。


<註> 囲い込み
近世初期のヨーロッパ,特にイギリスで,領主・大地主が牧羊業や集約農業を営むため,共同用益権を排して私的所有を主張し,示談や議会立法によって,開放耕地や共同放牧場などを囲い込んだこと。これにより中小の農民は没落し,農業労働者あるいは工業労働者となっていった。[大辞林 第三版]
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