続「時代は変わる」(その2)――グアテマラ民衆運動の巨大な勝利、アメリカ支援の「残虐な戦争」と元軍幹部18人の逮捕

国際教育(2016/01/17)、調査記者アラン・ネイアン、元大統領リオス・モント&ペレス・モリーナ、元アメリカ国務次官補エリオット・エイブラムス、サルバドール・オプション、スクール・オブ・ジ・アメリカズ(米州軍事学校)
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元グアテマラ大統領ペレス・モリーナ
GUATEMALA, Perez Molina
https://www.rt.com/news/319649-perez-molina-guatemala-president-us/
「アメリカは俺が不要で邪魔になってきたから民衆をたきつけて逮捕に追い込んだのだ」と述べるモリーナ


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 最後に、あとひとつだけ「時代は変わる」の例として紹介したいことがあります。それは中米ニカラグアの動きです。
 というのは、アメリカが裏で支援してきた軍事独裁政権の下で約25万人が犠牲となった大量虐殺・強制失踪などを命令した元グアテマラ軍の幹部18人が逮捕されたというニュースが飛び込んできたからです。
 それをDemocracyNow!(2016/01/08)は、番組の冒頭に「グアテマラの元軍幹部18人逮捕 アメリカ支援の「汚い戦争」の人道に対する罪で」という見出しを掲げ、次のように述べています。

18 Guatemalan Ex-Military Leaders Arrested for Crimes Against Humanity During U.S.-Backed Dirty War
グアテマラ警察は、数十年におよぶアメリカ支援の「汚い戦争」の中でグアテマラ先住民の集落を攻撃し人道に対する罪を働いた容疑で、元軍幹部18人を逮捕した。この紛争時に約25万人が犠牲となったとされる大量虐殺・強制失踪を命令した疑いがかけられている。逮捕された元軍幹部の多くはアメリカの支持を受けていた。たとえば、マニュエル・ベネディクト・ルーカス・ガルシアは、米軍将校と密接に協力して、グアテマラ先住民マヤ人の集落がある高原地帯を攻撃するシステムを構築した。そこでは住民を斬首したり磔(はりつけ)にしたりするような手法が用いられた。本日はゲストとして調査報道記者で活動家のアラン・ネアンを迎えて話をきく。
http://www.democracynow.org/2016/1/8/18_ex_military_guatemalan_leaders_arrested


 上記では「米軍将校と密接に協力して」「そこでは住民を斬首したり磔(はりつけ)にしたりするような手法が用いられた」と述べられています。その当時、グアテマラに調査に入り、作戦を指揮した将軍ペレス・モリーナに現場でインタビューしたアラン・ネイアン(Allan Nairn)は、これについて次のように述べています)。

 いまISIS(イスラム国)が話題になっているが、グアテマラ軍がやったことは、まさにISISがやったのと同じ行為だ。そのような戦術・作戦があることを世界はISISのビデオを通じて、ようやく理解し始めている。
 首を切ったり、ひとを磔(はりつけ)にしたり、奴隷にしたり、集団レイプ(強姦)したり、市民を大量虐殺したり、といった残虐行為をISISは公然と誇示・自慢したりしている。
 他方、グアテマラ軍も彼らを訓練した米軍将校も、そのような残虐行為の遂行を隠し続けてきた。しかし実は彼らも、グアテマラで[主として先住民の部落で]ISISと同じ作戦を使ったのだ。
http://www.democracynow.org/2016/1/8/18_ex_military_guatemalan_leaders_arrested


 アラン・ネイアン氏には当時の取材を元にした『CIAと暗殺部隊』"C.I.A. and Death Squad"という著書があります。そのネイアン氏によれば、上記のような作戦は「サルバドール・オプション」 "Salvador Option" と呼ばれ、ブッシュ大統領がイラク侵略を開始したときに、イラクにも持ち込まれたそうです。
 このような残虐な作戦は、グアテマラだけでなくエル・サルバドルやニカラグアでも用いられ、とりわけエル・サルバドルの残虐行為は凄惨を極めたので、「サルバドール・オプション」と呼ばれるようになったのです。
 ところが驚いたことに、ネイアン氏によれば、「これはアメリカが世界中いたるところで用いている作戦」というのです。それをネイアン氏は上記の番組で次のように述べています。

彼らはそれを「サルバドール・オプション」 "Salvador Option." と呼んだ。これは世界中いたるところで応用されている政策だ。だがアメリカは未だにグアテマラほどには文明化されていないので、レーガン政権の高官エリオット・エイブラムスのような人物は被告席に座っていない。しかし彼は、グアテマラで今朝、囚人として判事の前に引き出された連中と同類なのだ。グアテマラの惨事を裏で計画していた人物こそエイブラムスだったからだ。
http://www.democracynow.org/2016/1/8/18_ex_military_guatemalan_leaders_arrested


 ネイアン氏はここでエリオット・エイブラムスという人物をとりあげています。グアテマラで、このような残虐行為がおこなわれたのは、レーガン大統領の頃でした。そのときの国務次官補がエリオット・エイブラムスでした。凡人には考えられないことですが、この「人権と人道問題」担当の国務次官補エイブラムスが、中米のグアテマラやエル・サルバドルで殺戮がおこなわれていたときの中心人物だったのです。
 だからこそネイアン氏は、「だがアメリカは未だにグアテマラほどには文明化されていないので」「エリオット・エイブラムスのような人物は被告席に座っていない」と述べたのでした。
 ところがネイアン氏によれば、このエイブラムスが、さらに驚いたことに、ブッシュ大統領の「中東問題最高顧問」となり嘘で塗り固められたイラク侵略にも荷担していたのです。こうして中東でも暗殺部隊を使って、ニカラグアやエル・サルバドルなど中米でおこなったのと同じ作戦を開始したのでした。
 しかし、グアテマラでは、そのような残虐行為をした人たちが今ようやく公の場で裁かれようとしているのです。ここまで到達するのに、30年以上もの歳月と、拷問・暗殺の恐怖を乗り越えて闘い続けてきた粘り強い民衆運動が必要でした。それをネイアン氏は同番組で次のように述べています。

これは民衆蜂起によってのみ政治的に可能だった。何十万もの人々が街頭に繰り出し、虐殺の指揮者ペレス・モリーナ将軍を大統領の座から引きずり下ろし、それが次の段階に進む情勢をつくり出した。だからこそ検察側もあえて元軍幹部18人までも起訴する気になったのだ。


 ネイアン氏の言葉でも分かるように、「何十万もの人々が街頭に繰り出す」ことになった民衆の巨大な闘いは、2015年9月、大統領の不逮捕特権を剥奪するよう議会に圧力をかけ、ついにペレス・モリーナは大統領を辞任せざるを得なくなったのでした。
  モリーナ大統領は、大虐殺がおこなわれていた当時(1980年代のなかば)、現場で指揮をとっていた軍の最高幹部の1人であり、そのときの大統領は軍事独裁者のリオス・モントでした。ではエフライン・リオス・モントとは、どんな人物だったのでしょうか。
 グアテマラでは1950年代に民主化改革が進みましたが、ハコボ・アルベンス大統領の土地改革がアメリカのユナイテッド・フルーツ社(現チキータ社)の資産に及ぶとアメリカが内政干渉に乗り出しました。そして1954年には軍上層部と組んでアルベンス政権を転覆させ親米独裁政権を建てました。その結果グアテマラは60年代から内乱状態に陥り、36年にわたりゲリラ戦争の時代が続きました。
 ここで登場するのがリオス・モントです。モントは1982年にアメリカの支援を受けてクーデターで権力を掌握すると、レーガン政権と密接な協力関係を結び、軍や民間自警団を動員して反体制派の撲滅に乗り出 しました。さらに共産ゲリラをかくまっているとしてマヤ系先住民の村々も襲撃し大規模な虐殺を引き起こしました。こうしてグアテマラ内戦の死者や行方不明者は25万人を超えると推定されています が、その多くがリオス・モント政権の18カ月に集中しているのです。
 しかし、そのリオス・モントに対し、グアテマラの裁判所は、ついに2013年5月、ジェノサイドと人道に対する罪で80年の刑を宣告したのです。
 ここに至るまでの長い道のりには活動家の地道な努力と国際的な支援がありました。とりわけ注目されるのは強い信念と並々ならぬ勇気を発揮した3人の女性の行動です。なにしろ、この国では軍や特権的財閥に立てつく者はたちまち惨殺されてきた歴史があるのですから。
 その3人とは、先住民活動家リゴベルタ・メンチュウ[ノーベル平和賞1992]、検事総長クラウディア・パス・イ・パス、判事[裁判長を務めた]ヤスミン・バリオスなのですが、民衆運動の巨大なうねりは彼女らを支え励まし、アメリカの妨害をもはねのけ、ついに独裁者に有罪判決を出させるに至ったのでした。
 それが今度は、リオス・モントおよびペレス・モリーナに引き続き、元軍幹部18人までが逮捕されるに至ったのですから、裏で虐殺を指導し手引きしたアメリカも狼狽し青ざめているに違いありません。
 この逮捕の意義について、アラン・ネイアン記者は次のように述べています。

 これはグアテマラにとって、ニュルンベルグ型裁判の始まりを示すものだ。
 ニュルンベルグ裁判は戦勝国の占領者が敗者を裁くものだったが、人道に対する罪を裁いたという点では同じだ。しかし違いは、今回の裁判は占領者による裁判ではなく、主権者が国内の司法制度に則っておこなわるという点だ。
 これは、声をあげて前進した虐殺生存者の英雄的行為がもたらしたものだ。同時に、埋められていた大量の虐殺死体とその遺骨を分析した法医学人類学者および弁護士や検察官たちの勇気ある行為がもたらしたものでもある。
 というのは両者とも、自分の命を危険にさらしながら、この虐殺事件を公の場に引きずり出し、その結果として、この国で最悪の殺人者たちを逮捕にまで追い込んだからだ。


 中南米はもちろん世界中を見渡しても、元国家元首が自国の裁判所で民族浄化(ジェノサイド)と人道の罪で裁かれるなどということは前代未聞で、しかも有罪判決が出たのは驚くべきことです。 [日本でもアジア太平洋戦争の戦犯者に死刑判決が下されたが、この裁判も戦勝国が敗者を裁くもので、国内の日本人主権者による有罪判決ではなかった。]
 このように巨大な軍事力をもつアメリカに支援され、莫大な金力・権力・武力に支えられた政権でも、30年以上も怯(ひる)まずに闘い続ける民衆の、圧倒的な非暴力抵抗運動を前にしては、ついに自分たちの仲間をかばい続けることができなくなったのです。次に裁かれるのはアメリカの番です。
 沖縄の民衆も、国内および国際的支援を受けながら、グアテマラ民衆のように闘い続ければ、、必ずや米軍基地撤去・辺野古移転阻止の闘いに勝利するものと信じています。情勢によっては、「残された道は独立という選択肢だけ」へと追い込まれるかも知れませんが、それでも最終的には必ず勝利するでしょう。今や「時代は変わり」つつあるのです。

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グアテマラimages グアテマラ  images
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<追記> グアテマラが民政に復帰したあと、2000年に軍を退役し愛国党をたちあげ、2011年に大統領となったペレス・モリーナは、スクール・オブ・ジ・アメリカズ(School Of the Americas米州軍事学校、別名“School of Assassin”(暗殺学校))の卒業生です。
 この学校は米軍がラテン・アメリカ諸国の軍隊に対して、拷問や殺害の技術を訓練する悪名高い施設です。ジョージア州のフォートベニングにあり、現在は「国際協力のための西半球研究所」と改名していますが、実際は、アメリカとその利権を守るための拷問・暗殺学校のようなものです。
 このような過去を持つモリーナが、軍事独裁者リオス・モントの政権下で、反体制運動撲滅を、軍幹部として現場で指揮したのですから、グアテマラがチョムスキーの言う「虐殺の荒野」となったのも当然のことでした。(いま同じ作戦で中東が「殺戮と難民の荒野」となりつつあります。)
 しかしモリーナが大統領の不逮捕特権を剥奪され辞任せざるを得なくなったのは、汚職事件であって民族浄化と人道に対する罪ではありませんでした。人道問題で起訴した場合、モリーナがグアテマラ軍の幹部として虐殺の指揮をとった人物だけに、アメリカ政府高官にまで司法の手が伸びる恐れがあったからではないでしょうか。
 RTニュース・スペイン語局の記者が、収監されたモリーナに刑務所で面談したとき、「アメリカは、俺が不要で邪魔になってきたから民衆をたきつけて逮捕に追い込んだのだ」と彼が述べた(*)のは、多分このような事情を反映しているのでしょう。
(*https://www.rt.com/news/319649-perez-molina-guatemala-president-us/


<註> グアテマラの闘いの歴史を簡単に知るための文献や動画(字幕付き)を次に紹介しておきます。時間があれば参照していただければ幸いです。
文献
チョムスキー『アメリカが本当に望んでいること』現代企画室
第2章第2節「磔にされたエルサルバドル」
第2章第4節「虐殺の荒野グアテマラ」
動画
グアテマラ次期大統領オットー・ペレス・モリーナの過去
2011/9/15(木)、再生9.5分
映画『グラニート』が描くグアテマラ集団虐殺に裁きを求める闘い
2011/9/15(木)、再生16.5分
グアテマラの元独裁者リオス・モントに歴史的判決下る
2013/5/13(月)、再生31分


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狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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