大学ランキング 「格付けに振り回されて学問荒廃」
教育原理(2016年2月7日)、中学英語「全国学力テスト」、世界大学ランキング、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)、日本版大学ランキング
前回のブログでは、北國新聞の連載記事「知の拠点はいま(9)―金沢大学➄英語狂騒曲」(北國新聞20160113)を紹介しながら、私は次のように述べました。
これに関連するニュースとして、文科省が先日(2月2日)英語の「聞く・話す・読む・書く」の4技能をみるため中学3年生を対象に初めて行った英語力調査の結果を発表したことを知りました。これについて日本経済新聞電子版(2012/02/02)は次のように報じています。
文科省は「中学卒業段階で実用英語技能検定(英検)の英語力を持つ生徒の割合を2017年度までに50%以上にする」という目標をかかげたそうです。
上記の調査では「3級程度以上を50%」にするどころか「4技能それぞれの平均点は英検4級以下と低水準だった」というのですから、日経新聞の大見出し「中3英語力、国の目標[はるかに]遠く」がまさにぴったりという現実です。
今の教科書は会話中心で、しかも来年度からは中学校でも「英語の授業は英語で」という方針を強行するようですから、拙著『英語教育が亡びるとき』(明石書店、2009)で論じたように、ますます英語力は低下していくでしょう。
また文科省はこれと並行して、「グローバル人材の育成に向け、19年度から中3全員を対象に英語の学力テストを新設する」計画だそうですが、こんなことをすれば試験対策のための英語学習が横行し、ますます学力が低下するでしょう。
幸いなことに、この「中3全員を対象にした英語の学力テスト」は、今のところは学校毎に公表されないようですが、 もし公表されでもしたら、試験対策のための英語学習が横行し、全国の中学校はランキング競争の嵐に巻き込まれ、英語教育どころか公教育全体が荒廃していくことは間違いありません。
(それはすでにアメリカの学力テストで実証されています。)
ところが眼を大学教育に向けると、事態はもっと深刻な様相を呈しつつあります。というのは文科省自身が、「世界大学ランキング上位を目指せ」と言って大学に圧力をかけて高等教育に競争と混乱を持ち込み、共通教育どころか学部教育・大学院教育の「質的転落」の拍車をかけようとしているからです。
その典型例が、前回のブログで紹介した金沢大学であり、拙著『英語で大学が亡びるとき』で批判した京都大学でした。「英語力=グローバル人材」というイデオロギーにふりまわされて、極端な「英語化」をすすめているからです。
ところが日経新聞(1月12日)によると、「世界大学ランキング」を発表している調査機関THEが、今度は日本に乗りだしてきて、ベネッセグループの協力を得て「日本版大学ランキング」を策定しようとしているというのです。
こんな風潮がまかり通っていけば、中等教育どころか高等教育までもが、ますます競争の泥沼におとしいれられ、「21世紀に入ってからノーベル賞受賞者の数がアメリカに次いで世界第2位を誇る日本の地位」も、早晩、転落の道をたどることになるでしょう。
このようなTHE&ベネッセの動きにたいして、長周新聞「文化欄」(2016/01/25)では鋭い批判が展開されていましたので、以下に紹介させていただきます。拙著『英語で大学が亡びるとき』からの引用もありました。感謝感謝です。
<註> 拙著『英語で大学が亡びるとき』でも指摘したことですが、THE(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)の発表する世界大学ランキングは、もともと英語を公用語とする国に有利になるようにつくられています。ベネッセグループの担当者は、このような批判も踏まえて、「日本の大学の現状に即したランキングを目指す」と言っているようですが、そもそも大学ランキングという仕組みそのものが意味をなさないものです。この点についても拙著で詳しく指摘したので、ここでは詳論しません。
なお次に掲げるJPEG版が読みづらいというかたは下記のPDF版を御覧ください。
http://www42.tok2.com/home/ieas/UniversityRankingTsinbun20160125.pdf

前回のブログでは、北國新聞の連載記事「知の拠点はいま(9)―金沢大学➄英語狂騒曲」(北國新聞20160113)を紹介しながら、私は次のように述べました。
金沢大学がスーパーグローバル大学に採択されたことは知っていましたが、「2023年度までに学部講義の50%、大学院講義の100%を英語で行うとの目標を掲げた」ことまでは知りませんでした。
これでは私が『英語で大学が亡びるとき』で批判した京都大学の計画よりも、もっと「英語化」が極端に進んでいますから、驚くと同時に不安にもなりました。というのは、拙著でも詳しく述べたように、こんなことをしていたら金沢大学の学生の学力低下は5年も経たないうちに顕在化するのではないかと思われたからです。
これに関連するニュースとして、文科省が先日(2月2日)英語の「聞く・話す・読む・書く」の4技能をみるため中学3年生を対象に初めて行った英語力調査の結果を発表したことを知りました。これについて日本経済新聞電子版(2012/02/02)は次のように報じています。
中学卒業段階で英検3級程度以上の英語力を持つ生徒の割合を2017年度までに50%以上にするという政府目標に対し、4技能とも20~40%にとどまった。意識調査では40%以上が「英語が好きではない」と答えた。
調査は昨年6~7月、無作為に抽出した全国の国公立約600校の約6万人を対象に行った。結果は英検4級(中学中級)以下、3級(中卒程度)、準2級(高校中級)に分けて示された。
その結果、英検3級以上の力があるとされた生徒は「聞く」20.2%、「話す」32.6%、「読む」26.1%となった。「書く」は43.2%だったが、無回答も12.6%おり、成績にばらつきが目立った。4技能それぞれの平均点は英検4級以下と低水準だった。
文科省は「中学卒業段階で実用英語技能検定(英検)の英語力を持つ生徒の割合を2017年度までに50%以上にする」という目標をかかげたそうです。
上記の調査では「3級程度以上を50%」にするどころか「4技能それぞれの平均点は英検4級以下と低水準だった」というのですから、日経新聞の大見出し「中3英語力、国の目標[はるかに]遠く」がまさにぴったりという現実です。
今の教科書は会話中心で、しかも来年度からは中学校でも「英語の授業は英語で」という方針を強行するようですから、拙著『英語教育が亡びるとき』(明石書店、2009)で論じたように、ますます英語力は低下していくでしょう。
また文科省はこれと並行して、「グローバル人材の育成に向け、19年度から中3全員を対象に英語の学力テストを新設する」計画だそうですが、こんなことをすれば試験対策のための英語学習が横行し、ますます学力が低下するでしょう。
幸いなことに、この「中3全員を対象にした英語の学力テスト」は、今のところは学校毎に公表されないようですが、 もし公表されでもしたら、試験対策のための英語学習が横行し、全国の中学校はランキング競争の嵐に巻き込まれ、英語教育どころか公教育全体が荒廃していくことは間違いありません。
(それはすでにアメリカの学力テストで実証されています。)
ところが眼を大学教育に向けると、事態はもっと深刻な様相を呈しつつあります。というのは文科省自身が、「世界大学ランキング上位を目指せ」と言って大学に圧力をかけて高等教育に競争と混乱を持ち込み、共通教育どころか学部教育・大学院教育の「質的転落」の拍車をかけようとしているからです。
その典型例が、前回のブログで紹介した金沢大学であり、拙著『英語で大学が亡びるとき』で批判した京都大学でした。「英語力=グローバル人材」というイデオロギーにふりまわされて、極端な「英語化」をすすめているからです。
ところが日経新聞(1月12日)によると、「世界大学ランキング」を発表している調査機関THEが、今度は日本に乗りだしてきて、ベネッセグループの協力を得て「日本版大学ランキング」を策定しようとしているというのです。
こんな風潮がまかり通っていけば、中等教育どころか高等教育までもが、ますます競争の泥沼におとしいれられ、「21世紀に入ってからノーベル賞受賞者の数がアメリカに次いで世界第2位を誇る日本の地位」も、早晩、転落の道をたどることになるでしょう。
このようなTHE&ベネッセの動きにたいして、長周新聞「文化欄」(2016/01/25)では鋭い批判が展開されていましたので、以下に紹介させていただきます。拙著『英語で大学が亡びるとき』からの引用もありました。感謝感謝です。
<註> 拙著『英語で大学が亡びるとき』でも指摘したことですが、THE(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)の発表する世界大学ランキングは、もともと英語を公用語とする国に有利になるようにつくられています。ベネッセグループの担当者は、このような批判も踏まえて、「日本の大学の現状に即したランキングを目指す」と言っているようですが、そもそも大学ランキングという仕組みそのものが意味をなさないものです。この点についても拙著で詳しく指摘したので、ここでは詳論しません。
なお次に掲げるJPEG版が読みづらいというかたは下記のPDF版を御覧ください。
http://www42.tok2.com/home/ieas/UniversityRankingTsinbun20160125.pdf

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