署名も批准もするな! TPP署名式の直前に国連が各国政府にたいして異例の呼びかけ

国際教育(2016/01/24) 国連人権理事会「独立専門家」、アルフレッド・デ・サヤス、ISDS条項、国際人権規約ICCPR、「規制恐怖」‘regulatory chill’

国連人権理事会「独立専門家」アルフレッド・デ・サヤス氏
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 国連人権理事会の「独立専門家(Independent Expert)」であるアルフレッド・デ・サヤス氏(Alfred de Zayas)は、TPPの署名式が直前に迫っている2016年2月2日に、関係各国政府に署名も批准も拒否するよう要請しました。
 国連機関がこのような「署名拒否」「批准拒否」の要請をおこうなうことは極めて異例のことであり、TPP「環太平洋連携協定」と呼ばれている貿易協定が、いかに人権と国家主権を踏みにじるものであるかを如実に示すものとなりました。
 しかも、この協定の正文は英語・スペイン語・フランス語のみで作成され、5000頁をこえるものなのに、日本語で正文が作成されていません。ですから、与党の国会議員どころが日本政府の閣僚も、ほとんど内容を知らないのです。にもかかわらず、彼らはこれに賛成し、署名と批准に狂奔・邁進しています。
 カナダはTPP協定書として英語だけでなく仏語のものも正文として作成するよう要求しました。これはケベック州が英語だけでなく仏語を公用語としているからです。ところが日本はアメリカに次ぐ巨大な経済力をもち、日本が脱退すればTPP協定が成立しないにもかかわらず、日本語による正文作成を要求しませんでした。
 安倍政権は選挙スローガンとして「美しい日本をとりもどす」と叫んでいましたが、日本語による正文なしの交渉では国益を守れるはずはありません。「豊かな日本を売り渡す」ことになるだけです。このような姿勢は、大学院博士課程までも日本語で教育できるにもかかわらず大学を「英語化」しようと狂奔している文教政策と瓜二つです。
 それはともかく、以下は、人権・健康・環境に巨大な悪影響をおよぼす危険性があるとしてTPPの「署名拒否」「批准拒否」を呼びかける、国連人権理事会「独立専門家」アルフレッド・デ・サヤス氏の声明文を、私が翻訳したものです。英語原文は下記URL(国連人権高等弁務官事務所)にあります。
http://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=17005&LangID=E

国連人権理事会「独立専門家」デ・サヤス氏の
TPP 「環太平洋連携協定」に関する声明


Statement by the Independent Expert
on the promotion of a democratic and equitable international order, Alfred de Zayas,
on the upcoming signing the Trans-Pacific Partnership

貿易はそれ自体が目的ではなく国際的な人権体制の文脈で見られる必要がある。なぜなら、それは各国に拘束的な法的義務を課すものだからだ。貿易協定は、「孤立的な」法制度ではなく、透明性と説明責任を含む国際法の基本原則と合致しなければならない。それらは、人権条約の履行義務を遅らせたり回避したり弱体化させたり実行不能にさせたりするものであってはならない。

私は、世界中の市民社会が圧倒的に反対しているにもかかわらず、TPPに参加予定の12カ国が、条約に署名しようとしていることを憂慮している。なぜなら、それが多様な利害関係者と民主的な協議をすることなしに、秘密裏の交渉でつくりあげられた産物だからだ。したがってTPP(Trans-Pacific Partnership、「環太平洋連携協定」)は根本的な欠陥があり、署名または批准すべきではない。今のところ条項には各国による規制や修正の余地がないからだ。

議会は、 TPP署名の事前と事後に、人権・健康・環境への影響評価が確実におこなわれるようにするうえで重要な役割を担っている。またTPPから脱退しても「国家として生き残る」ことができる条項が条約の中に組み込まれていることを保障させるという点でも議会の役割は極めて重要だ。

国連「人権理事会」にたいする私の2015年報告書(A/HRC/44/30)は、貿易協定のこの時代遅れのモデルの主要な法的問題を説明し、21世紀にふさわしい総合的な貿易協定をつくりだすよう要請した。それは人権と発展を条項のなかに組み込んだ新しい型の貿易協定だ。また報告書には具体的な「行動計画」も含まれており、人権と発展を犠牲にすることなく貿易を発展させる戦略も提起されている。またその「行動計画」は、そのような貿易が持続可能となるような指針も定式化している。

国連総会にたいする私の2015年の報告(A/285/70)では、「投資家ー国家紛争解決(ISDS:Investor-State Dispute Settlement )仲裁条項」は根本的に不均衡かつ不正・不当なものだととして、その廃止を呼びかけた。なぜなら、この条項によれば、この特別法廷では、投資家は政府を訴えることができるのにたいし、政府は投資家を訴えることができないからだ。貿易と投資の紛争は、国家の司法権および国家対国家の司法体制にもとづきながら、法の支配の下で解決することができる。

ISDSをめぐる最近30年間の憂慮すべき経験は、投資家と国家の間に重大な非対称性があったことを示している。これは将来の貿易協定で繰り返されてはならないことだ。いま残されている選択肢は、 市民社会が要求しているように、現状のままではTPPに署名しないか、署名しても批准しないことだ。それが民主的に選出された議会の責任である。

もしTPPが発効すべきものであるならば、それが国際法に合致しているかどうかは国際司法裁判所(ICJ:the International Court of Justice)で争われる必要がある。ICJに要請すれば、ICJは今すぐにでも勧告的意見を出すことができるだろう。というのは、貿易協定と国連憲章との間に矛盾がある場合(これには国家の主権、人権、開発にかかわる条項が含まれている)国連憲章が優先させるべきだとICJは宣言しているからだ。

世界中の監視団はTPPに反対している。なぜなら、それは出発したときから国際人権規約ICCPR(the International Covenant on Civil and Political Rights「市民的および政治的権利に関する国際規約」)の19条および25条にたいする明確な違反であり、それがもたらす「規制恐怖」‘regulatory chill’のゆえに、国家が不当な企業活動を規制できなくなるからだ。にもかかわらず、今や企業のロビー活動家たちはTPPを署名のテーブルにまで持ち込むことに成功している。

もし全ての関係12カ国でTPPの賛否を決める国民投票が実施されれば満場一致で拒否されることは確実だ。

各国の貿易大臣が、2016年2月4日、難問山積のTPPに署名する目的でニュージーランドのオークランドへ集まってきたが、署名式を前にして私は、TPPの当事国政府にたいして、「人権条約を遵守する義務」および「持続可能な開発目標(the Sustainable Development Goals)を達成するという当事国の最近の公約」を再確認しそれを公に表明することを、ここに強く要請するものである。

<註1> 
アルフレッド・デ・サヤス氏(米国)は、国連の「民主的で公正な国際秩序を推進」に関する最初の「独立専門家」として、国連人権理事会によって任命され、2012年5月に仕事を開始した。氏は現在、ジュネーブ外交大学院の国際法教授である。詳しくは下記を参照。
http://www.ohchr.org/EN/Issues/IntOrder/Pages/IEInternationalorderIndex.aspx
<註2>
前述の通りTPPの協定文には日本語による正文がありません。しかも5000頁をこえる大部のものです。そこで山田正彦氏(元農林水産大臣、TPP交渉差止・違憲訴訟の会幹事長)や内田聖子氏(アジア太平洋資料センター事務局長)などが中心となって「TPPテキスト分析チーム」が起ち上げられました。この集団によるTPP協定文の詳しい分析は下記にあります。
アジア太平洋資料センターに掲載されている【TPP協定文分析レポート】



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