フクシマの悪夢は、いま始まったばかりだ

福島原発事故(2016/03/15)、クリストファー・バズビー、ICRP(国際放射線防護委員会)、IAEA(国際原子力機関)、市民団体「欧州放射線リスク委員会」


フクシマ原発事故から5年が経ちました。政府は復興費用として26兆円もの予算を投じてきましたが、被災者の生活はいっこうに改善されていません。それどころか、住宅の周囲に積み重ねられた除染廃棄物の袋から出てくる放射能で、被曝しながらの毎日をおくっていると言ってもよい状態です。政府が復興費用として投じた26兆円は、一人あたりに換算すると6800万円に相当するはずなのですが、その大半は「除染」という大手ゼネコンだけを丸儲けさせることに費やされ、被災者の生活再建にまわされたお金は、わずか1%でした。政府は今後5年の費用を含め、32兆円を復興費用として投ずる予定だそうですが、賽の河原に石を積むような無駄な除染作業を続けるくらいなら、住民の被曝を防ぐために、ロシアがやったような住民移住に費用を投ずるべきでしょう(被災者一軒あたり3000万円をかけたとしても、32兆円の半額にも満たないのです)。さもないと、いまフクシマでは続々と甲状腺癌が発見されていますが、これをくい止めることはできなくなります。以下で拙訳し紹介するバズビー教授の論考は、日本のメデイアが伝えないフクシマの実態を、まざまざと示しています。



フクシマの悪夢は終わったって?
いや、それどころではない、
いま始まったばかりだ

Is Fukushima's nuclear nightmare over? Don’t count on it
https://www.rt.com/op-edge/335362-fukushima-nuclear-japan-bbc/
Christopher Busby 、12 Mar, 2016

バズビー chrisbusby2
クリストファー・バズビー氏は電離[イオン化]放射線の健康効果に関する専門家。彼はロンドン大学とケント大学で化学物理学の学位を得て、ウェルカム・ファンデーションで生きている細胞の分子物理化学の研究をしてきた。バズビー教授はブリュッセルに拠点を置く市民団体「欧州放射線リスク委員会」の科学担当委員。1998年に創立されてから、その出版物の多くを編集した。彼は多くの大学で名誉教授の地位にあり、そのひとつがアルスター大学健康学部(北アイルランド)の客員教授である。バズビー氏は、現在はリガ(ラトビア)に住んでいる。下記も参照されたし。

http://www.chrisbusbyexposed
http://www.greenaudit.org
http://www.llrc.org



フクシマの大災害が起きて5年目を迎えた日に、原子力産業の新しい宣伝スターとして有名なジェラルディーン・トーマス教授(Geraldine Thomas)は、BBCの記者ルパート・ウィングフィールド=ヘイズ(Rupert Wingfield-Hayes)と、福島立入禁止区域内の放棄された大熊町を歩いた。

トーマス女史は「放射線の健康効果に関する第一人者のひとり」と評されてきた。彼女の意見では、この「禁止区域」でも危険はなく、日本の難民は戻って来ることができるし、そこで生活できるという[1] 。彼女の主要な関心は、いかに街が汚いかだけのようだった。「廃墟のままです」と彼女は悲しげに不平を言った。
[1] Has Fukushima's radiation threat been exaggerated?(10 March 2016)

街のある場所でルパートは彼のガイガーカウンターを取り出して放射線量を計った。1時間につき3マイクロシーベルトだった。「この数値だと戻って来た人々は1年にどれくらいの被曝をしますか」と彼は尋ねた。トーマス女史は答えた。「およそ1ミリシーベルトの放射線を余分にあびるだけです。自然界から1年につき2ミリシーベルトの放射線をあびていることを考えれば大した量ではありません」。

「健康への長期影響は、全くないに等しいものですよ」

計算機をもっていれば誰でも簡単に掛け算ができる。答えは、3マイクロシーベルト(3×10⁻6シーベルト)×24時間×365日=26mSv(0.026Sv)であって、「およそ1mSv」ではない。ところが、これが「放射線の健康効果に関する第一人者」の報告なのだ。

こうなると、ジェラルディーン・トーマス女史が信頼できる専門家であるかどうかを調べてみる必要が出てくる。ところが彼女の研究業績を調べてみても、発表されたものでまともなものはなにひとつない。だとすれば、どうしてBBCは彼女の言説をまじめに受け取っているのかと尋ねなければならない。

それで思い出したのが、2011年に最初の原子炉が爆発した日のことだ。そのとき私はロンドンにいた。BBCは私にスタジオに来てコメントするよう依頼してきた。そこには原子力産業の擁護者であるイアン・フェルズ博士もいた。ジェラルディーン・トーマス女史と同じく、彼も放射線による被曝には無関心なようだった。彼にとって主要な問題は地震でエレベーターが動かないということらしかった。だから人々は階段を昇らなければならないというのだ。

その事故最初の日に私は、これはチェルノブイリのような大事故だと言った。ところが彼も、その後の発言者すべてが、それは大した事故ではないと視聴者に解説していた。チェルノブイリ事故とは全く違うというのだ。

数か月後に、それを振り返ってみて、私があらゆる点で正しかったことは明らかだった。だが私がBBCに招待されることはその後、二度となかった。

私が日本を訪問したとき精巧な測定機器を持参し、車とその空気浄化フィルターを手に入れた。それを使って放射能による汚染状況を調べようと思ったのだ。そして日本の友人にはストロンチウム90による被曝を防ぐためにカルシウムの錠剤を飲むように勧めた。

車の空気浄化フィルターによる計測は、日本の北東部が広域にわたって― 東京を含んでいる ―深刻に汚染されていることを明確に示していた。これは原子力産業には大変な痛手だった。私の信憑性を破壊しようとする原発賛成派のジョージ・モンビオ(George Monbiot)から、ガーディアン紙で手ひどい攻撃を受けた。そしてもうひとりの攻撃者が、ジェラルディーン・トーマス女史だった。そのとき彼女が言った内容は、彼女がいま言っているものと同じくらいに、ひどく誤っていた。しかし、ガーディアンは私に反論の機会を決して与えようとはしなかった。

最近のBBC映像における私にとって重要な証拠は、ルパートのガイガーカウンターで示された測定値、毎時3マイクロシーベルトだ。私は現地で測ったから知っているが、日本の通常の背景放射線量は約0.1マイクロシーベルトだ。とすると外界の放射線に関しては、ルパートの測定値は通常の背景放射線量の30倍だったということになる。

これは人間の健康にとって問題ではないのか?そうだ、まさに重大な問題だ。しかし誰も尋ねなかった問いは、何が過剰な放射線量を引き起こしているかということだ。答えは簡単だ。それは放射能に汚染されているからであり、主にセシウム137がもたらしたものだ。よく知られた物理学の関係式に基づけば、地上1mの3マイクロシーベルトは、1平方メートルにつき900,000ベクレルの表面積汚染を意味する。つまり、地表面積1平方メートルで毎秒900,000回のセシウム崩壊があるということだ。しかも注目すべきなのは、ルパートとジェラルディン女史が立っていたのは、見るからにきれいな舗装道路上だったということだ。そして、これは爆発後5年の数値なのだ。このセシウムは至る所にある。そして、粉塵粒子として存在しているから、容易に肺に吸入される。それは目に見えないくらいに小さな粉塵だから絶えず空中を浮遊し計測器でも捕捉しがたい。

地上に存在するのはセシウム137だけではない。半減期の長い放射能、たとえばストロンチウム90、プルトニウム239、ウラン235、ウラン238、ラジウム226、ポロニウム210、鉛210、トリチウム、ロジウムの同位元素、ルテニウム、ヨウ素、セリウム、コバルト60などがあり、列挙すると長いリストができる。

国連の定義による「放射能に汚染された土地」とは、3万7000ベクレル/平方メートルだ。とすると、BBCの記者によってなされた測定値に基づけば、フクシマの大熊町は(他の至るところでも同じだと想定されるが)、事件5年後の今でも、国連が介入するであろうし実際にソ連ではそうしたのだが、住民の移動を命令することになる放射線濃度の20倍以上だということになる。

しかし、日本政府は、人々をそこに送り返すことを望んでいるのだ。札束と住宅援助という餌で、住民をつり上げようとしている。トーマス女史と同じく、それは危険ではないと言うわけだ。そしてBBCは結果として、この間違った政府の指示に信用性を与えることになっている。議論の根拠になっているのは、国際放射線防護委員会(ICRP)の現在の放射線危険モデルに基づいている。

先月、私のドイツの同僚と私は、査読ジャーナル『環境衛生と毒物学』 (Environmental Health and Toxicology)で学術論文[2]を発表した。それは、フクシマ原発から放出されたと同じ物質で被曝したひとたちの実環境データを使って、ICRPモデルが1000倍以上も間違っていることを示したものだ。これは画期的な研究だ。しかし、我々はBBCや他のメディアのどこかからお呼びがかかっただろうか。全くゼロだった。では我々の発見や計算によって、原発が爆発してからこの5年間で、何が起き将来どうなるのだろうか。2011年以降に起きたことを見てみよう。
[2] Genetic Radiation Risks-A Neglected Topic in the Low Dose Dabate.
Busby C, Schmitz-Feuerhake I, Pflugbeil S

原子炉は、爆発して5年も経つのに、いまだに制御できず環境に放射性物質を発散し続けている。これを防ぐすべての試みが失敗しているのだ。溶けた燃料棒は、状態も所在も不明だ。はっきり分かっているのは、それが格納容器から出て地中にあるということだけだ。

一方、ロボットは発見された高濃度の放射線で故障し、建屋を通って流れる地上の水は汚染されるので処理するためポンプでくみ上げられて貯蔵タンクに入れられる。高濃度の放射線と瓦礫が、1~3号機の原子炉建屋から使用済み燃料の撤去を遅らせてきた。東電は3号機の原子炉建屋から瓦礫を除去する予定だが、この作業は始まったばかりだ。また彼らは2020年までに原子炉1~2号機から燃料棒を撤去したいと思っているようだが、これらの2つの原子炉から瓦礫を除去する作業は、まだ始ってもいない。

放射能の多くは海に入る。そして海岸を数百km.も北上したり南下したりして海洋生物を絶滅させ、潮間帯堆積物を汚染する。放射性核種は微細な粒子の堆積物と結合して、東京湾のような入り江や潮流の滞留域に集中する。ここで放射性物質の粒子は海岸沿いに浮遊したり滞留したりして、海岸1km以内に住んでいるひとたちに吸入される。

アイルランド政府から依頼されて、私のグループが汚染されたアイルランド海を調べた結果、このような被曝によって、沿岸の住民のガン発症率がおよそ30パーセントも上昇することが分かった。

膨大な努力・思索・行動にもかかわらず放射能の放出を止めらることはできなかった。海水を汚染処理しても、高濃度の放射性が残り、完全に除去できないのだ。

それは、フクシマの現場では本当の難問だ。巨大な三つの燃料プールは、いまだに使用済み燃料棒でいっぱいで、その大部分が近づくことさえできないからだ。もし建屋が倒壊すれば、冷却剤が消失し、火事になったり爆発さえ起きるかも知れない。そうなれば膨大な量の放射能を放出することになる。これは最悪のシナリオで「フクシマの息子」とも言うべきものだ。海岸沿いの堅牢な氷土壁は水の流れを遅くしたかもしれないが、別の問題をつくりだす。それは水の流れを変えて地下水圧に問題を引き起こす可能性があるだけでなく、地盤沈下の原因ともなりかねないからだ。また放射能汚染水を保存するためのスペースは尽きようとしているから、結局、これを太平洋に放出せざるを得なくなるだろう。

今のところフクシマのわずか10パーセントしか除染されていない。現場では常時8000人の労働者が主として汚染水の処理にあたっているが、これがフクシマの実態だ。風雨になれば、山から流出する水は川を下り、より多くの汚染をもたらす。

さらに言えば、放射性瓦礫や他の廃棄物でいっぱいの、1トン詰め袋が何百万もある。フクシマ原発の敷地外で除染作業をした結果として出てきた廃棄物だ。これらの袋の多くは数年も経たないうちに劣化して、そのなかみがあふれ出てくるだろう。そして台風は、この非常に汚染された廃棄物を、遠くに、そして広範囲に拡散させるだろう。

さいきん公表された唯ひとつの健康に関する生データを見てみよう。それを見れば、事故当初の私の予測が正しかったのかどうか分かるからだ。半径200kmの圏内で40万人のガン患者が出てくるだろうというのが私の当初の見積りだった。岡山大学の津田敏秀教授によによって発表された査読誌論文によれば、過去3年間で116人の甲状腺ガンを確認している。これは0-18才の青少年38万人を超音波スキャンによって調べたものだ。

甲状腺癌の背景率は、1年につき10万人あたり約0.3人だ。だから通常であれば、フクシマの場合、3年で3.42人の甲状腺ガンを予想することができる。ところが見つかったのは116人で、およそ112人もケース過剰になっている。ジェラルディーン女史は、見つかったものは、「癌らしき」ものも含めているから、このような総数になったのだと言う。しかし津田論文によれば、長崎での(放射線にさらされていない被験者)の超音波検査では甲状腺癌は見つかっていないし、初期の超音波検査でも甲状腺癌は見つかっていない。
だから彼女は間違っているのだ。津田論文では、甲状腺の放射線量は、およそ10mSvだった。ICRPモデルに基づけば、それはおよそ2000倍の誤差ということになる。

我々の新しい遺伝学論文の結果から、我々は自信をもって「半径200kmの圏内に住むひとたちの、先天性奇形の増加」を100パーセント予測することができる。

日本のような先進的技術をもつ国では、これら先天性奇形は超音波によって早く発見され、妊娠中絶することができるので、たとえ信頼できるデータがあったとしても、我々は先天性奇形の誕生を実際には見ることができないだろう。見ることができるのは、出生率の減少と死亡率の増加だけということになる。胎内で何が起きているのか、これから何が起きるのか我々には分かるからだ。我々は以前、それをチェルノブイリで見てきた。そして、まさにチェルノブイリのときと同じように、西側の政府は、原子力ムラ(the nuclear industry)に支配されたり、原子力ムラから指導を受けたりすることになる。ここで言う「原子力ムラ」とは、ICRP(国際放射線防護委員会)とIAEA(国際原子力機関)のことだ。IAEAは1959年以降、放射線と健康にかんする権限をWHO(世界保健機構)から奪ってしまったのだ。(恐ろしいことに本当にそうなのだ!)

彼らは、ジェラルディン・トーマス女史のような間違った情報をもつ人物を利用して真実にフタをし続ける。ブレア首相が率いていた「ニュー・レイバー」(New Labour新労働党)との類似で言えば、「新しいBBC」によって真実にフタをし続ける。そして、ますます「ニュー・ブリテン」という呼び名で真実にフタをし続けることができるようになるだろう。これは、私が子どものころ誇りに思った国、BBCにも信頼を寄せることができた国、「グレート・ブリテン」に敵対するものだ。ルパートのような記者が、そのような誤った情報を提供しながら生きている自分と、どのように折り合いをつけていけるのか不思議に思う。

フクシマは終わったどころか、フクシマにおける死は、いま始まったばかりなのだ。


<訳注> NHKを初めとして日本の大手メディアは、安倍政権の逆鱗にふれるのを恐れてか、フクシマの真実をなかなか伝えようとしません。以下の外国メディアによる報道は、そのことをよく示しています。
* 4 biggest lies about the Fukushima disaster
「フクシマの惨事をめぐる四つの最も大きな嘘」
https://www.rt.com/news/335294-4-biggest-lies-fukushima/(11 Mar 2016)
* Higher Levels of Fukushima Cesium Detected Offshore
「高濃度のセシウムがアメリカ東海岸で見つかる」
https://www.whoi.edu/news-release/fukushima-higher-levels-offshore (3 Dec 2015)
* Fukushima: Tokyo was on the brink of nuclear catastrophe, admits former prime minister
「元首相・管氏が語るフクシマ、東京は大惨事になる瀬戸際だった」
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/asia/japan/12184114/Fukushima-Tokyo-was-on-the-brink-of-nuclear-catastrophe-admits-former-prime-minister.html (04 Mar 2016)



 
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